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明細書 :pHスタットおよびpH変化測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4370406号 (P4370406)
公開番号 特開2007-240324 (P2007-240324A)
登録日 平成21年9月11日(2009.9.11)
発行日 平成21年11月25日(2009.11.25)
公開日 平成19年9月20日(2007.9.20)
発明の名称または考案の名称 pHスタットおよびpH変化測定方法
国際特許分類 G01N  27/28        (2006.01)
G01N  27/416       (2006.01)
G01N  27/42        (2006.01)
FI G01N 27/28 301Z
G01N 27/46 353
G01N 27/42 G
請求項の数または発明の数 8
全頁数 11
出願番号 特願2006-063052 (P2006-063052)
出願日 平成18年3月8日(2006.3.8)
審査請求日 平成19年3月2日(2007.3.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
発明者または考案者 【氏名】鈴木 博章
【氏名】森本 克也
個別代理人の代理人 【識別番号】100137752、【弁理士】、【氏名又は名称】亀井 岳行
審査官 【審査官】黒田 浩一
参考文献・文献 特開昭50-115597(JP,A)
特開昭61-204556(JP,A)
特開昭62-134550(JP,A)
特開昭63-273050(JP,A)
特開2002-202284(JP,A)
森本克也、鈴木博章,サンプリング機構を備えたpHおよびプロテアーゼ活性測定システムの構築,平成17年電気学会全国大会講演論文集,日本,2005年 3月17日,P.259
調査した分野 G01N 27/26-27/49
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
試料が収容される反応槽と、
前記反応槽と電気的に接続された作用極収容槽と、
前記反応槽内に配置されたpH応答性の参照極と、
前記反応槽内に配置された対極と、
前記作用極収容槽に配置された作用極と、
前記作用極と前記参照極との間に予め設定された電位差を印加する電位差印加装置と、
前記参照極に電流を流さず且つ前記作用極と前記対極との間で電流を流す電流制御装置と、
を備えたことを特徴とするpHスタット。
【請求項2】
前記作用極と前記対極との間で流れた電流の電気量を計測する電気量計測装置、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のpHスタット。
【請求項3】
前記反応槽および前記作用極収容槽が形成された1枚の槽形成基板と、
前記対極および前記作用極が形成され、前記槽形成基板に固定された1枚の電極形成基板と、
を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のpHスタット。
【請求項4】
前記試料が収容される前の初期状態での前記作用極と前記参照極との間の初期電位差を、前記予め設定された電位差として測定する電位差測定装置、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のpHスタット。
【請求項5】
前記反応槽内の前記参照極の電位基準となる基準極、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のpHスタット。
【請求項6】
銀-塩化銀電極により構成された非分極性の前記作用極、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のpHスタット。
【請求項7】
酸化イリジウムにより構成された前記参照極、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のpHスタット。
【請求項8】
試料が収容される反応槽内に配置されたpH応答性の参照極と前記反応槽に電気的に接続された作用極収容槽に配置された作用極との間の電位差を予め設定された電位差に設定し、前記作用極と前記反応槽内に配置された対極との間で流れた電流値を積算することによりpHの変化を測定することを特徴とするpH変化測定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、pHの変化を検出可能なpHスタットおよびpHの変化を測定するpH変化測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、中和滴定や加水分解反応を伴う酵素活性の測定などでは、試料が収容される反応槽中のpH(水素イオン濃度指数)を一定に維持する機能を有するpHスタットが広く応用されている。従来のpHスタットは、ガラス電極pHメータにより溶液のpHを測定し、その値が予め設定したpHとは異なる時に、自動的に酸またはアルカリ溶液を入れたビュレットを駆動して、pHを設定値に戻すように構成されている。そして、前記pHスタットでのpHの変動を記録して、pHの変化を測定していた。このようなpHスタットは、例えば、特許文献1(特開平7-301614号公報)に記載されている。
このほかにも、非特許文献1には、pH測定用トランジスタ(ISFET:イオンセンシティブ電界効果トランジスタ)の検出部の近くに電気分解を引き起こす電極を配置し、検出されたpHに応じて、電気分解を発生させpHを設定値に戻す技術が報告されている。
【0003】

【特許文献1】特開平7-301614号公報(「0003」~「0004」)
【非特許文献1】B.van der Schoot, et al.(著者名), An ISFET-based Microlitre Titrator : Integration of a Chemical Sensor-Actuator System(論文名), Sensors and Actuators(刊行物名),オランダ(発行国),Elsevier B.V.(発行所), 1985年(発行年),8巻(巻数),1号(号数),11ページ-22ページ(ページ数)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
(従来技術の問題点)
前記従来のpHスタットでは、反応槽内の変化後のpHを測定した後で、pHの変化量に応じて、酸またはアルカリ溶液を投入したり電気分解を発生させていた。しかし、反応槽内で使用される溶液には、水素イオン濃度の変化を小さくする緩衝能があるため、緩衝能によって、測定されるpH(水素イオン濃度の指数)の変化量が変わるという問題がある。特に、加水分解酵素等の活性測定では、酵素反応の結果生じたプロトン(水素イオン)の生成量を精確(精密且つ正確)に測定する必要があり、誤差が含まれる従来のpHスタットでは限界があった。
また、近年、微小化学分析システム(μTAS:Micro Total Analysis System)の研究が活発に進められており、酵素活性の測定が可能なマイクロシステムが求められているが、従来のpHスタットではビューレット等が必要であり、小型のシステムは実現が困難であるという問題がある。特に、微小なチップ上でpH変化が指標となる酵素活性の測定が可能なシステムは現在実現されていない。
【0005】
本発明は、前述の事情に鑑み、緩衝能による誤差が少なく、pHの変化を精確に測定することを第1の技術的課題とする。
また、本発明は、pHスタットを小型化することを第2の技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(第1発明)
前記技術的課題を解決するために第1発明のpHスタットは、
試料が収容される反応槽と、
前記反応槽と電気的に接続された作用極収容槽と、
前記反応槽内に配置されたpH応答性の参照極と、
前記反応槽内に配置された対極と、
前記作用極収容槽に配置された作用極と、
前記作用極と前記参照極との間に予め設定された電位差を印加する電位差印加装置と、
前記参照極に電流を流さず且つ前記作用極と前記対極との間で電流を流す電流制御装置と、
を備えたことを特徴とする。
【0007】
(第1発明の作用)
前記構成要件を備えた第1発明のpHスタットでは、反応槽には、試料が収容され、作用極収容槽は、前記反応槽と電気的に接続されている。前記反応槽内には、pH応答性の参照極と、対極とが配置されている。前記作用極収容槽には作用極が配置されている。電位差印加装置は、前記作用極と前記参照極との間に予め設定された電位差を印加する。電流制御装置は、前記参照極に電流を流さず且つ前記作用極と前記対極との間で電流を流す。
したがって、第1発明のpHスタットでは、反応槽内に収容された試料のpHが変化すると、参照極の電極電位が変化し、参照極との電位差が予め設定されている作用極に過電圧が印加される。これに伴い、作用極と対極との間で電流が流れ、対極でpHの変化を元の状態に戻す方向の電気分解が自動的に発生する。この結果、反応槽内のpHを一定に維持できる。また、第1発明のpHスタットは、3つの電極でpHを一定に維持でき、従来のように酸とアルカリを滴下するビューレット等を必要としないので、全体を小型化でき、微小なチップ上にも形成することができる。
【0008】
(第1発明の形態1)
第1発明の形態1のpHスタットは、前記第1発明において、
前記作用極と前記対極との間で流れた電流の電気量を計測する電気量計測装置、
を備えたことを特徴とする。
(第1発明の形態1の作用)
前記構成要件を備えた第1発明の形態1のpHスタットでは、電気量計測装置は、前記作用極と前記対極との間で流れた電流の電気量を計測する。したがって、電気量を計測することで、反応槽で生成または消費された水素イオンの量を検出できる。このとき、pHスタットの反応槽内のpHが一定に維持されるので、変化後のpHを検出する従来のpH変化測定型センサに比べ、緩衝能やpH変化による応答への悪影響を受けにくく、pHの変化を精確に検出することができる。
【0009】
(第1発明の形態2)
第1発明の形態2のpHスタットは、前記第1発明または第1発明の形態1において、
前記反応槽および前記作用極収容槽が形成された1枚の槽形成基板と、
前記対極および前記作用極が形成され、前記槽形成基板に固定された1枚の電極形成基板と、
を備えたことを特徴とする。
(第1発明の形態2の作用)
前記構成要件を備えた第1発明の形態2のpHスタットでは、1枚の槽形成基板には、前記反応槽、作用極収容槽が形成されている。1枚の電極形成基板には、前記対極および前記作用極が形成され、前記槽形成基板に固定されている。したがって、pHスタットを、槽形成基板と電極形成基板とにより作製することができ、微小チップ上でpHスタットを実現することができる。
【0010】
(第1発明の形態3)
第1発明の形態3のpHスタットは、前記第1発明および第1発明の形態1、2のいずれかにおいて、
前記試料が収容される前の初期状態での前記作用極と前記参照極との間の初期電位差を、前記予め設定された電位差として測定する電位差測定装置、
を備えたことを特徴とする。
(第1発明の形態3の作用)
前記構成要件を備えた第1発明の形態3のpHスタットでは、電位差測定装置は、前記試料が収容される前の初期状態での前記作用極と前記参照極との間の初期電位差を、前記予め設定された電位差として測定する。したがって、平衡状態である初期状態の初期電位差を検出することができる。
【0011】
(第1発明の形態4)
第1発明の形態4のpHスタットは、前記第1発明および第1発明の形態1~3のいずれかにおいて、
前記反応槽内の前記参照極の電位基準となる基準極、
を備えたことを特徴とする。
(第1発明の形態4の作用)
前記構成要件を備えた第1発明の形態4のpHスタットでは、基準極により、前記反応槽内の前記参照極の電位基準を定めることができる。
【0012】
(第1発明の形態5)
第1発明の形態5のpHスタットは、前記第1発明および第1発明の形態1~4のいずれかにおいて、
銀-塩化銀電極により構成された非分極性の前記作用極、
を備えたことを特徴とする。
(第1発明の形態5の作用)
前記構成要件を備えた第1発明の形態5のpHスタットでは、前記作用極は、銀-塩化銀の非分極性の電極により構成されているので、作用極に過電圧が印加された時に大きな電流が流れる。したがって、反応槽のpHがわずかに変化しても、電流が流れ、pHを一定に維持することができる。この結果、精度を高めることができる。
【0013】
(第1発明の形態6)
第1発明の形態6のpHスタットは、前記第1発明および第1発明の形態1~5のいずれかにおいて、
酸化イリジウムにより構成された前記参照極、
を備えたことを特徴とする。
(第1発明の形態6の作用)
前記構成要件を備えた第1発明の形態6のpHスタットでは、前記参照極は、酸化イリジウムにより構成されたpH応答性の電極により構成されているので、pH変化により電極電位が変化し、pHの変化を検出できる。
【0014】
(第2発明)
前記技術的課題を解決するために、第2発明のpH変化測定方法では、
試料が収容される反応槽内に配置されたpH応答性の参照極と前記反応槽に電気的に接続された作用極収容槽に配置された作用極との間の電位差を予め設定された電位差に設定し、前記作用極と前記反応槽内に配置された対極との間で流れた電流値を積算することによりpHの変化を測定することを特徴とする。
【0015】
(第2発明の作用)
前記構成要件を備えた第2発明のpH変化測定方法では、試料が収容される反応槽内に配置されたpH応答性の参照極と前記反応槽に電気的に接続された作用極収容槽に配置された作用極との間の電位差を予め設定された電位差に設定し、前記作用極と前記反応槽内に配置された対極との間で流れた電流値を積算することによりpHの変化を測定する。
したがって、第2発明のpH変化測定方法では、反応槽内に収容された試料のpHが変化すると、参照極の電極電位が変化し、参照極との電位差が予め設定されている作用極に過電圧が印加される。これに伴い、作用極と対極との間で電流が流れ、対極でpHの変化を元の状態に戻す方向の電気分解が自動的に発生する。この結果、反応槽内のpHが一定に維持される。また、第2発明のpH変化測定方法では、3つの電極でpHを一定に維持でき、従来のように酸とアルカリを滴下するビューレット等を必要としないので、小型のシステムでpHの変化を測定できる。
【発明の効果】
【0016】
前述の本発明は、緩衝能による誤差が少なく、pHの変化を精確に測定することができる。
また、本発明は、微小なチップでpHの変化を精確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
なお、以後の説明の理解を容易にするために、図面において、前後方向をX軸方向、左右方向をY軸方向、上下方向をZ軸方向とし、矢印X,-X,Y,-Y,Z,-Zで示す方向または示す側をそれぞれ、前方、後方、右方、左方、上方、下方、または、前側、後側、右側、左側、上側、下側とする。
また、図中、「○」の中に「・」が記載されたものは紙面の裏から表に向かう矢印を意味し、「○」の中に「×」が記載されたものは紙面の表から裏に向かう矢印を意味するものとする。
【0018】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1のpHスタットの斜視説明図であり、図1Aは全体説明図、図1Bは分解説明図である。
図2は本発明の実施の形態1のpHスタットの説明図であり、図2Aは上面図、図2Bは図2Aの要部拡大説明図である。
図1、図2において、実施の形態1のpHスタットSは、槽形成基板S1と、槽形成基板S1に貼り合わされた電極形成基板S2とを有する。前記槽形成基板S1には、中央部に円孔状の反応槽形成口1が形成されている。前記反応槽形成口1の右側には円孔状の作用極収容槽形成口2が形成され、前記反応槽形成口1の左側には円孔状の基準極収容槽形成口3が形成されている。前記各収容槽形成口2,3と反応槽形成口1は、液絡路2a、3aにより接続されている。なお、実施の形態1の槽形成基板S1は、15mm×20mmのPDMS(Poly DiMethyl Siloxane、シリコンポリマー)により構成されている。
【0019】
前記電極形成基板S2はガラス基板6を有し、前記ガラス基板6の中央部には円形薄膜状の対極7が形成されている。前記対極7には、中心部から後方に延びる帯状の切り欠き部7a(図2参照)が形成されており、切り欠き部7a内部には細帯状のpH指示電極(参照極)8が形成されている。前記対極7の左側には四角形状の基準極9が形成され、対極7の右側には作用極11が形成されている。前記各電極7,8,9,11は、ガラス基板6の後端部に形成された対極用接続端子7b、参照極用接続端子8b、基準極用接続端子9b、作用極用接続端子11bにそれぞれ接続されている。
図1Bにおいて、前記各電極7,8,9,11の上面には、絶縁層12が形成されている。前記絶縁層12には、対極7を露出させるための対極用開口12aと、参照極8の先端部8c(図2B参照)のみを露出させ且つその他の部分を絶縁するための参照極絶縁部12bと、作用極11を露出させるための作用極用開口12cとが形成されている。
【0020】
なお、実施の形態1では、対極7は、直径4.5mmの略円板状に形成されたイリジウム(Ir)の電極により構成されている。前記参照極8は、従来技術では周囲の変化に影響されない非分極性電極を使用するが、実施の形態1では、pH応答性(pH依存性、pH感応性)のある酸化イリジウム(IrO)の電極で構成されている。なお、参照極8の先端部8cの大きさは、100μm×100μmに設定されており、参照極8と対極7との間の隙間は150μmに設定されている。前記基準極9および作用極11は、従来技術と異なり非分極性の銀-塩化銀(Ag-AgCl)電極を使用しており、大きさは2.5mm×2.5mmに設定されている。
【0021】
したがって、前記構成の槽形成基板S1と電極形成基板S2が貼り合わせて作成されたpHスタットSは、中央部に対極7および参照極8の先端部が露出する反応槽21を有し、右側には作用極11が露出する作用極収容槽22、左側には基準極収容槽23を有する。
実施の形態1のpHスタット1では、前記作用極収容槽22、基準極収容槽23および液絡路2a、3aには、0.1M(=mol/l)の塩化カリウム(KCl、電解液)を含むPVA-SbQ(スチルバゾリウム化ポリビニルアルコール、感光性樹脂)のゲルが充填される。したがって、ゲルにより反応槽21は円形凹部状に仕切られるとともに、反応槽21に充填した溶液と各電極収容槽(電解槽)22,23とがゲルにより液絡される(電気的に接続される)。
【0022】
前記反応槽21のpHを検出する場合には、前記参照極用接続端子8bと基準極用接続端子9bとの間にはエレクトロメータ(電位計、電位差測定装置)が接続され、参照極8の電極電位(参照極8と基準極9との電位差)が検出されて、検出された電位差に基づいてpHを検出できる。
pHスタットSが使用される場合、初期状態(平衡状態)に設定された反応槽21に対して、参照極用接続端子8bと作用極用接続端子11bとの間にエレクトロメータを接続して、初期状態での電位差(初期電位差、平衡電極電位の電位差)を検出する。次に、前記参照極用接続端子8bと作用極用接続端子11bとの間に、初期電位差印加装置(電圧源)により前記エレクトロメータで検出された電位差が印加される。なお、前記参照極8と作用極11との間には電圧のみが印加され、電流は流れないように構成されている。前記対極用接続端子7bと作用極用接続端子11bとの間には、電流供給装置により電流が供給可能となっている。また、前記対極用接続端子7bと作用極用接続端子11bとの間には、クーロンメータ(電気量計測装置)が接続されており、流れた電気量が積算されて検出される。
なお、実施の形態1では、前記端子7b、8b、11bは、前記エレクトロメータ、クーロンメータ、基準電位差印加装置および電流供給装置の機能を備えた従来公知のポテンショスタット(電流制御装置)に接続されている。すなわち、実施の形態1のpHスタット1はポテンショスタットにより制御される。
【0023】
したがって、例えば、反応槽21に初期状態で加水分解酵素を滴下しておき、ポテンショスタットを作動させて、分解される試料を反応槽21に滴下すると、酵素反応により反応槽21のpHが変化する。反応槽21のpHが変化すると平衡状態が崩れ、pH指示電極である参照極8の電極電位が変化する。参照極8の電位が変化すると、参照極8との電位差が初期電位差に設定されている作用極11に過電圧が印加される。なお、実施の形態1では、反応槽21内が酸性側に変化すると参照極8の電極電位が(+)側に変化し、アルカリ性側に変化すると参照極8の電極電位が(-)側に変化する。
これにより、過電圧が印加された作用極11と対極7との間では、印加された過電圧の正負に応じた方向の電流が流れる。特に、実施の形態1では、作用極11として、非分極性の銀-塩化銀電極が使用されているので、わずかな過電圧の変化でも大電流が流れる。前記作用極11と対極7との間で電流が流れると、対極7で水が電気分解される。前記電気分解は、流れる電流の方向により、参照極8の電極電位が元に戻る方向の電気分解が発生するので、過電圧が減少し、自動的に負のフィードバックがかかる。この結果、対極7上での水素イオン(プロトン)の生成量または消費量は、対極7と作用極11との間で流れた電気量を積分することで検出でき、pHの変動量を検出できる。
【0024】
(実験例1)
図3は本発明の実施の形態1の実験例1の実験結果のグラフであり、横軸に時間、縦軸に参照極の電極電位を取ったグラフである。
実験例1では、前記実施の形態1のpHスタットSを使用して、酢酸を反応槽21に滴下した時の応答特性の実験を室温で行った。
実験例1では、反応槽21に0.1Mの硫化ナトリウム(pH=6.9、25℃)を支持電解質(supporting electrolyte)として収容した初期状態から、10mMの酢酸(試料)を滴下した時の参照極(pH指示電極)8の電位の時間変化を測定した。その結果を図3に示す。
図3には、pHスタットSを作動させた場合(図3の「pH-stat mode」参照)、すなわち、ポテンショスタットによる制御を実行した場合の時間変化と、pHスタットSを作動させなかった場合(図3の「off」参照)の時間変化とを示す。
【0025】
図3の実験結果から、pHスタットSが機能している場合には、pH変化をうち消すようにフィードバックがかかり、参照極8の電極電位はほぼ酢酸滴下前の電位に復帰することが確認された。一方、pHスタットSが機能していない場合には、参照極8の電極電位は元の電位に戻らないことが確認された。
【0026】
(実験例2)
図4は実験例2の実験結果のグラフであり、横軸に濃度、縦軸に電気量を取ったグラフである。
実験例2では、実験例1と同様の初期状態から、反応槽21内での濃度が20μM、40μM、60μM、80μM、100μMとなるように10mMの酢酸およびアンモニア(試料)の滴下量を調整して反応槽21に滴下した場合に、クーロンメータで検出される電気量を測定した。その結果を図4に示す。なお、濃度0μMは、初期状態を示している。
図4において、電気量と、酢酸濃度(図4の実線参照)およびアンモニア濃度(図4の破線参照)との間には、共に直線的な関係が認められた。したがって、実施の形態1のpHスタットを使用して電気量を測定することで、滴下された酢酸やアンモニアの量を検出できる。
【0027】
(実験例3)
図5は実験例3の実験結果のグラフであり、横軸に尿素の濃度、縦軸に電気量を取ったグラフである。
実験例3では、反応槽21に尿素の加水分解酵素であるウレアーゼを含む1mMのTris-HCl緩衝液(pH=7.2、25℃)を10μl収容した初期状態に、尿素の濃度が0mM、0.1mM、0.2mM、0.4mM、0.6mM、0.8mM、1.0mMの尿素サンプル(試料)を0.5μl滴下し、尿素の定量分析を行った。
なお、尿素(CO(NH)は、ウレアーゼの触媒によって、下記式(1)のように加水分解され、アンモニアを生じ、その結果pHが上昇する。
CO(NH+3HO → HCO+2NH+OH …(1)
図5に示す実験例3の実験結果では、電気量と尿素の濃度との間で直線的な関係が認められた。
【0028】
(実施の形態1の作用)
したがって、前記構成を備えた実施の形態1のpHスタットSでは、反応槽21のpHが変化すると、初期状態のpHに戻すように電気分解が自動的に発生する。この結果、反応槽21のpHを所定のpHに維持することができると共に、電気量を検出することで、生成または消費された水素イオンの量を精確に検出することができる。特に、実施の形態1では、作用極として銀-塩化銀電極を使用しているので、わずかなpH変化でも電流が流れるため、精度良くpHの変化を検出することができる。したがって、高い精度で酸、アルカリの検出を行うことができ、酵素活性の測定やpH変化を伴う生化学反応の分析を高精度で行うことができる。
また、実施の形態1のpHスタットSでは、実験例2、3の実験結果から、濃度と電気量が直線的な関係が認められるので、緩衝能の悪影響をほとんど受けていない。したがって、従来の変化後のpHを検出するpH変化測定型センサで問題となる緩衝能の影響も受けにくいことが確認された。
【0029】
さらに、ISFET型等のpH変化を測定する従来のポテンショメトリックバイオセンサでは、酵素反応の進行に伴ってpHが変化し、応答(酵素の反応や測定結果)に少なからず影響を与えることが予想される。しかし、実施の形態1のpHスタットSでは、反応槽21のpHが初期状態のpHに保持されるので、常に酵素の至適pH(酵素が作用を発揮する最適のpH)において測定が可能となる。この結果、pHの変化に伴う悪影響も受けにくく、精度の高い測定ができる。
また、実施の形態1のpHスタットSは、槽形成基板S1と電極形成基板S2とを貼り合わせて作成でき、pHの変化を検出する参照極8と電気分解を発生させる作用極11および対極7等でpHを一定に維持できる。したがって、従来のように酸とアルカリを滴下するビューレット等を必要としないので、全体を小型化できる。この結果、従来困難であった微小チップ上でpHスタットを実現でき、微小化学分析システム(μTAS)を実現できる。
【0030】
(変更例)
以上、本発明の実施の形態を詳述したが、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。
例えば、前記実施の形態において、pHスタットSの基板S1,S2のサイズや構成材料、ゲルや電極の材料は、例示したサイズや材料に限定されず、設計や用途、使用する試料の種類や量等に応じて変更可能である。例えば、対極7としてイリジウム(Ir)に換えて、金(Au)や白金(Pt)を使用することも可能である。また、基準極9、作用極11として銀-塩化銀電極を使用することが望ましいが、例えば、鉛-塩化鉛電極や銅-硫酸銅電極、その他Pt-Fe2+/Fe3+の電極等を使用することも不可能ではない。
また、前記実施の形態において、反応槽21のpHを一定に維持する機能のみが必要な場合、基準極9や基準極収容室23を省略することができ、基板S1,S2を更に小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は本発明の実施の形態1のpHスタットの斜視説明図であり、図1Aは全体説明図、図1Bは分解説明図である。
【図2】図2は本発明の実施の形態1のpHスタットの説明図であり、図2Aは上面図、図2Bは図2Aの要部拡大説明図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態1の実験例1の実験結果のグラフであり、横軸に時間、縦軸に参照極の電極電位を取ったグラフである。
【図4】図4は実験例2の実験結果のグラフであり、横軸に濃度、縦軸に電気量を取ったグラフである。
【図5】図5は実験例3の実験結果のグラフであり、横軸に尿素の濃度、縦軸に電気量を取ったグラフである。
【符号の説明】
【0032】
1…反応槽形成口
2…作用極収容槽形成口
2a,3a…液絡路
3…基準極収容槽形成口
6…ガラス基板
7…対極
7a…切り欠き部
7b…対極用接続端子
8…参照極
8b…参照極用接続端子
8c…先端部
9…基準極
9b…基準極用接続端子
11…作用極
11b…作用極用接続端子
12…絶縁層
12a…対極用開口
12b…参照極絶縁部
12c…作用極用開口
21…反応槽
22…作用極収容槽
23…基準極収容室
23…基準極収容槽
S…スタット
S1…槽形成基板
S2…電極形成基板
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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