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明細書 :レーザ加工装置及びレーザ加工方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5002808号 (P5002808)
公開番号 特開2007-237221 (P2007-237221A)
登録日 平成24年6月1日(2012.6.1)
発行日 平成24年8月15日(2012.8.15)
公開日 平成19年9月20日(2007.9.20)
発明の名称または考案の名称 レーザ加工装置及びレーザ加工方法
国際特許分類 B23K  26/36        (2006.01)
B23K  26/40        (2006.01)
B23K  26/00        (2006.01)
B23K  26/03        (2006.01)
H01S   3/00        (2006.01)
FI B23K 26/36
B23K 26/40
B23K 26/00 N
B23K 26/03
H01S 3/00 B
請求項の数または発明の数 9
全頁数 21
出願番号 特願2006-061912 (P2006-061912)
出願日 平成18年3月7日(2006.3.7)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 第66回応用物理学会学術講演会(社団法人応用物理学会2005年9月7日~11日開催)
審査請求日 平成21年1月15日(2009.1.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
発明者または考案者 【氏名】三澤 弘明
【氏名】サウリウス ヨードカシス
【氏名】坪井 泰之
個別代理人の代理人 【識別番号】100105050、【弁理士】、【氏名又は名称】鷲田 公一
審査官 【審査官】青木 正博
参考文献・文献 特開2003-340588(JP,A)
特開2003-340579(JP,A)
特開平08-118055(JP,A)
特開2005-293736(JP,A)
国際公開第2005/068163(WO,A1)
特開2002-343087(JP,A)
調査した分野 B23K 26/00-26/42
H01S 3/00
特許請求の範囲 【請求項1】
フェムト秒パルスレーザを発生するパルスレーザ発生手段と、
前記フェムト秒パルスレーザを加工対象材料の内部に集光照射する光学系と、を有し、
前記フェムト秒パルスレーザの集光照射位置に中空領域を形成する、レーザ加工装置であって、
前記光学系は、
前記フェムト秒パルスレーザのパルスエネルギを制御するパルスエネルギ制御手段と、
パルスエネルギが制御された前記フェムト秒パルスレーザから単一パルスレーザを切出す単一パルスレーザ切出手段と、
前記単一パルスレーザを集光して前記加工対象材料の内部の集光照射位置に焦点像を形成する対物レンズと、を有する、
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記加工対象材料の内部の撮像情報を取得する撮像情報取得手段をさらに有し、
前記単一パルスレーザの集光照射位置は、前記撮像情報に基づいて決定される、
ことを特徴とする請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記パルスレーザ発生手段は、波長が500nm~1300nm、かつ、パルス幅が50fs~500fsのフェムト秒パルスレーザを発生し、
前記パルスエネルギ制御手段は、前記フェムト秒パルスレーザのパルスエネルギが50nJ~500nJとなる制御を行う、
ことを特徴とする請求項記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記対物レンズの開口数は、1.0~1.4である、ことを特徴とする請求項記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
フェムト秒パルスレーザを発生するステップと、
前記フェムト秒パルスレーザのパルスエネルギを制御するステップと、
パルスエネルギが制御された前記フェムト秒パルスレーザから単一パルスレーザを切出すステップと、
前記単一パルスレーザを加工対象材料の内部に集光照射するステップと、を有し、
前記フェムト秒パルスレーザの集光照射位置に中空領域を形成する、
ことを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項6】
前記フェムト秒パルスレーザのパルス幅は、50fs~500fsであり、
前記単一パルスレーザのパルスエネルギは、50nJ~500nJである、
ことを特徴とする請求項記載のレーザ加工方法。
【請求項7】
フェムト秒パルスレーザを発生するステップと、
前記フェムト秒パルスレーザのパルスエネルギを制御するステップと、
パルスエネルギが制御された前記フェムト秒パルスレーザから単一パルスレーザを切出すステップと、
前記単一パルスレーザを加工対象材料の内部に集光照射するステップと、を有し、
前記フェムト秒パルスレーザの集光照射位置に中空領域を形成する、
ことを特徴とする光導波路の製造方法。
【請求項8】
フェムト秒パルスレーザを発生するステップと、
前記フェムト秒パルスレーザのパルスエネルギを制御するステップと、
パルスエネルギが制御された前記フェムト秒パルスレーザから単一パルスレーザを切出すステップと、
前記単一パルスレーザを加工対象材料の内部に集光照射するステップと、を有し、
前記フェムト秒パルスレーザの集光照射位置に中空領域を形成する、
ことを特徴とする回折格子の製造方法。
【請求項9】
フェムト秒パルスレーザを発生するステップと、
前記フェムト秒パルスレーザのパルスエネルギを制御するステップと、
パルスエネルギが制御された前記フェムト秒パルスレーザから単一パルスレーザを切出すステップと、
前記単一パルスレーザを加工対象材料の内部に集光照射するステップと、を有し、
前記フェムト秒パルスレーザの集光照射位置に中空領域を形成する、
ことを特徴とする光メモリ素子の記憶領域の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置及びレーザ加工方法に関し、3次元光メモリ素子の大容量化や光導波路、回折格子、材料の内部への切断・割断の起点となる損傷の形成に適用する中空領域を形成するレーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ微細加工技術の重要性は、ナノテクノロジの方法論として疑いようのないものとなっている。中でも、極めて高いピーク出力の光を短時間に集中して得ることができるフェムト秒パルスレーザは、加工分解能が優れており、熱的損傷が少ないことから大きな注目を集めている。
【0003】
また、フェムト秒パルスレーザは、多光子吸収を効率よく生起することができるので、透明誘電体材料の加工や材料の内部加工への応用が盛んに検討されている。フェムト秒パルスレーザを用いれば、石英やアルカリハライドなどの透明誘電体材料、及びシリコンなどの半導体材料に対して自由度の高い微細加工が可能である。
【0004】
また、近年、透明誘電体材料として、サファイア(Al:酸化アルミニウム結晶)が大きく注目されている。サファイアには、代表的な透明誘電体材料(石英やガラス)と比較して以下のような性質がある。
(1)結晶性が極めて高い。
(2)硬質で難加工性である。
(3)耐薬品性に優れている(例えば、フッ酸でも浸食されない)。
【0005】
上記の性質により、サファイアに対するフェムト秒レーザの微細加工の自由度には一定の限界があった。特に、加工形状及びサイズを精密に制御した微細加工は困難であった。
【0006】
一方、3次元光メモリ素子の大容量化や光導波路、回折格子などのニーズから、サファイアの内部に微細な中空領域(ボイド)を形成する微細加工技術が要望されており、サファイアに対する微細加工が検討されている。
【0007】
フェムト秒パルスレーザを用いてサファイアの内部に中空領域を形成するレーザ加工技術として、例えば、特許文献1に記載されたものがある。
【0008】
特許文献1には、サファイアの内部にフェムト秒パルスレーザを集光照射して改質領域(アモルファス相)を形成し、改質領域をフッ酸で処理(化学エッチング)することにより、中空領域を形成する技術が開示されている。すなわち、サファイアの内部に形成された改質領域のみをフッ酸により選択的にエッチングすることにより、中空領域を形成している。

【特許文献1】特開2005-293736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1記載のレーザ加工技術にあっては、ウェットプロセスであるフッ酸処理を必要とするため、以下のような問題がある。
【0010】
第1に、改質領域へフッ酸を導入するためには、サファイアの表面からサファイアの内部へのフッ酸の導入路を形成しなければならないという問題がある。すなわち、形成された中空領域は、サファイアの表面からの微細な導入路(チャンネル状の開いた中空領域)と接続されており、厳密には完全に閉じた構造ではないという問題がある。
【0011】
第2に、フッ酸処理は化学処理であり、改質領域のみを選択的にエッチングするので、中空領域の壁面は、必ずしも鮮明な形状にはならないという問題がある。すなわち、中空領域と結晶領域との輪郭が明確でなく、加工部位の壁面が乱れた形状となってしまうという問題がある。
【0012】
したがって、特許文献1記載のレーザ加工技術を、メモリを担う加工痕の形状がドット状であることが好ましい光メモリ素子に適用すると、全て線状の加工痕でメモリを担うため、ドット(点)状の加工痕でメモリを担う場合に比べると、メモリ密度・容量が大幅に低下するという問題が生じる。また、特許文献1記載のレーザ加工技術を光導波路に適用すると、加工部位の壁面が乱れた形状であるため、壁面での光散乱による伝播導波光の損失という深刻な問題が生じる。散乱は伝播導波効率の低下を招くだけでなく、同時に導波路以外の方向に光が逃げ出すことを意味している。光通信の場合では、これは即ち情報の漏洩や盗聴の危険性が著しく増大するという問題につながる。また、特許文献1記載のレーザ加工技術を回折格子に適用すると、加工部位の壁面が乱れた形状であるため、回折効率の低下や回折波長の分解能の低下という問題が生じる。このような回折格子を光デバイスとして種々の装置に組み込んで使用した場合、これらの装置の性能を大幅に低下させてしまう恐れがある。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、サファイアやダイアモンドなどの硬質結晶性難加工材料の内部に、完全に閉じた構造であり、かつ輪郭が明確な中空領域を簡単な工程で形成することができるレーザ加工装置及びレーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のレーザ加工装置は、フェムト秒パルスレーザを発生するパルスレーザ発生手段と、前記フェムト秒パルスレーザを加工対象材料の内部に集光照射する光学系と、を有し、前記フェムト秒パルスレーザの集光照射位置に中空領域を形成する構成を採る。
【0015】
本発明のレーザ加工方法は、フェムト秒パルスレーザを発生するステップと、前記フェムト秒パルスレーザから単一パルスレーザを切出すステップと、前記単一パルスレーザを加工対象材料の内部に集光照射するステップと、を有し、前記フェムト秒パルスレーザの集光照射位置に中空領域を形成するようにした。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、サファイアやダイアモンドなどの硬質結晶性難加工材料の内部に、化学処理を用いることなく完全にドライなプロセスで、完全に閉じた構造の中空領域を形成することができる。また、極めて微細(100nm~500nm)なオーダで、輪郭が明確で加工部位の壁面が美しい中空領域を形成することができる。また、中空領域を略真球状にすることができる。
【0017】
本発明によれば、上記した特徴を有する中空領域が形成された加工対象材料を種々の技術に応用することにより、適用した技術に特有の効果を得ることができ、その性能を大幅に向上することができる。
【0018】
例えば、このような中空領域が形成されたサファイアを光メモリ素子に応用すれば、略同一形状の中空領域を規則正しく配列させることができるので、ビットの定義を明確にすることができる。また、完全に閉じた構造の中空領域なので、書き込み後の消去が極めて難しい安全性の高い光メモリ素子を実現することができる。すなわち、誤作動や誤操作などにより加工対象材料に書き込んだ情報が消去されてしまうことを防止可能な光メモリ素子を実現することができる。
【0019】
本発明のレーザ加工技術は、加工対象材料に、情報の書き込みおよび消去を行う技術でないことが好ましい。すなわち、本発明のレーザ加工技術は、加工対象材料(例えば、サファイア)の内部に形成された中空領域に情報を書き込んだ後は、情報の書き込み/消去の繰り返しを行わずに半永久的に情報を保持する光メモリ素子に適用することが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(原理説明)
まず、本発明の基本原理を説明する。
【0021】
本発明のレーザ加工技術は、フェムト秒パルスレーザを発生するステップと、このフェムト秒パルスレーザから単一パルスレーザを切出すステップと、この単一パルスレーザを加工対象材料の内部に集光照射するステップとを含む。
【0022】
フェムト秒パルスレーザは、励起用光源を、フェムト秒レーザ(例えば、チタンサファイア(Ti:Sapphire)フェムト秒レーザ)で増幅することにより発生されうる。フェムト秒パルスレーザの波長は、可視域から可視域に近い近赤外領域の500nm~1300nmであることが好ましい。また、フェムト秒パルスレーザのパルス幅は、50fs~500fsであることが好ましく、100fs~200fsであることがより好ましい。
【0023】
加工対象材料としては、サファイアやダイアモンドなどの硬質結晶性難加工材料が用いられる。これらの材料は、単結晶性、高強度、高耐熱性、高耐食性、及び絶縁性という性質を有するため、加工形状や加工サイズを精密に制御した微細加工が困難な材料である。
【0024】
本発明のレーザ加工技術は、より具体的には、加工対象材料の内部に集光照射する単一パルスレーザのパルスエネルギと、この単一パルスレーザの集光特性とをそれぞれ最適化することにより、加工対象材料の内部に、完全に閉じた構造であり、かつ輪郭が明確な中空領域を形成するものである。
【0025】
加工対象材料の内部に集光照射する単一パルスレーザのパルスエネルギは、例えば、フェムト秒パルスレーザを可変ND(Neutral Density)フィルタに透過させることにより制御されうる。
【0026】
本発明者は、鋭意研究の結果、上記ステップにより加工対象材料の内部に中空領域を形成するレーザ加工技術においては、単一パルスレーザのパルスエネルギが50nJ~500nJであることが好ましく、100nJ~400nJであることがより好ましいことを見出した。これは、単一パルスレーザのパルスエネルギが50nJより小さい場合にはボイドが形成されない恐れがあり、一方、単一パルスレーザのパルスエネルギが500nJを超える場合には加工対象材料の内部にクラックが発生する恐れがあるという知見に基づいて導出した値である。
【0027】
また、加工対象材料の内部に集光照射する単一パルスレーザの集光特性は、例えば、単一パルスレーザを集光する対物レンズの開口数NAを可変することにより制御されうる。
【0028】
本発明者は、パルスエネルギが上記の範囲内の値に制御された単一パルスレーザを集光する対物レンズの開口数NAが1.0~1.4であることが好ましく、1.3~1.4であることがより好ましいことを見出した。
【0029】
以上まとめると、本発明者は、フェムト秒パルスレーザのパルス幅、単一パルスレーザのパルスエネルギ、及び単一パルスレーザを集光する対物レンズの開口数NAのそれぞれを、上記した最適条件に適合させることにより、単一パルスレーザを集光照射するという1工程のみで、加工対象材料の内部に略真球状の微細で形状が整った中空領域を、完全に閉じた構造で形成することができることを見出した。
【0030】
このような中空領域をサファイアの内部に形成するために、フェムト秒パルスレーザのパルス幅、単一パルスレーザのパルスエネルギ、及び単一パルスレーザを集光する対物レンズの開口数NAのそれぞれを最適化するという特徴は、本発明者が想到した新しい知見である。
【0031】
次に、単一パルスレーザを集光照射した加工対象材料の内部に誘起される変化について説明する。
【0032】
波長が800nm、パルス幅が200fs、パルスエネルギが100nJのフェムト秒パルスレーザを、開口数NAが1.35の油浸対物レンズを用いてサファイアの内部に集光照射した場合、集光焦点領域の体積は0.3μmと見積もられるので、集光焦点領域の光エネルギ密度は、10J/cmにも達する。この値は、1立方メートル中で20キロトンの原子爆弾が爆発した場合のエネルギ密度に匹敵する。また、集光焦点領域のピークパワは0.5MWであり、自己収束効果を誘起するには至らない(サファイアの内部で自己収束効果を誘起する光エネルギ密度のしきい値は数MW)。自己収束効果は、集光焦点領域光軸方向に伸張させその体積を増大させる働き、つまり、光エネルギ密度を低下させる働きがあり、ボイド形成には好ましくない。
【0033】
このような条件において、パルスエネルギを20nJ~100nJ程度に変化させた場合、集光焦点領域の光エネルギ面積密度は、1013W/cm~1014W/cmと見積もられる。一方、サファイアなどの誘電体材料における光学的絶縁破壊のしきい値は、光波長が500nm~1000nmの場合、5×1012W/cm~1013W/cmである。したがって、この単一パルスレーザの集光照射条件は、光学的絶縁破壊を誘起するには十分な強度である。
【0034】
ところで、単一パルスレーザの集光焦点領域では、サファイアは瞬時にイオン化される。すなわち、アルミニウム原子、及び酸素原子から4個~5個の電子が放出される(イオン化)と考えられる。また、このサファイアの内部のイオン化の初期過程は、電子衝突か多光子イオン化によるものと考えられ、単一パルスレーザの集光焦点領域では高密度なプラズマが生成すると考えられる。
【0035】
プラズマ中の電子と陽イオンとは、極めて迅速に(例えば、30フェムト秒)で再結合を開始する。すなわち、パルス幅が200fsの単一パルスレーザの前半の数フェムト秒でプラズマが発生し、続いて電子と陽イオンとの再結合も起こり始める。これにより、集光焦点領域のサファイアの吸収係数は、プラズマ自身の吸収により60%程度上昇する。その結果、単一パルスレーザ光の後半部分が吸収される体積は一日しく小さくなり(例えば、吸収長が60nm以下)、極めて小さな領域内で閉じ込められたプラズマの効果のため、温度は10Kまで、圧力は6TPas(単一パルスレーザのパルスエネルギが50nJの場合)にまで上昇する。このようなプロセスが、単一パルスレーザを集光照射する時間内に誘起されるのである。
【0036】
ここで、上記の6TPasという圧力は、サファイアのヤング率での歪み応力(P0=0.4TPas)よりはるかに大きいので、サファイアは発生した圧力を吸収緩和することができない。したがって、集光焦点領域からは強力な衝撃波が発生し、この衝撃波は、集光焦点領域の周囲に高い圧力を印加しながら伝搬する。この際、この衝撃波は、集光焦点領域を「押しのける」、又は「押し広げる」効果を有していると考えられる。
【0037】
以上まとめると、単一パルスレーザの集光照射により、1)集光焦点領域のイオン化、及びプラズマの発生、2)吸収係数の増大、3)プラズマの閉じ込め、4)衝撃波の発生、5)衝撃波の押しのけ効果によるプラズマ気体の膨張、6)電子と陽イオンとの再結合によるプラズマの冷却というプロセスが行われる。その結果として、単一パルスレーザの集光照射領域に極めて微細なボイドが形成されると考えられる。また、ボイドの周囲は、熱伝導や衝撃波伝播により、構造が乱れた改質領域(アモルファス領域)が形成されると考えられる。
【0038】
波長が800nm、パルス幅が200fs、パルスエネルギが100nJのフェムト秒パルスレーザを、開口数NAが1.35の油浸対物レンズを用いてサファイアの内部に集光照射した場合に形成されるボイドの径を、上記1)~6)のプロセスに基づき、流体力学計算(code Chivas)したところ、200nmと算出された。
【0039】
本発明者は、以上の考察に基づき、サファイアの内部にボイドを形成する本発明を着想するに至ったのである。
【0040】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0041】
本明細書では、フェムト秒パルスレーザのパルス幅、単一パルスレーザのパルスエネルギ、及び単一パルスレーザを集光する対物レンズの開口数NAを最適化して形成した中空領域のことを、特に、「ボイド」と表現する。すなわち、ボイドは、加工対象材料の内部に完全に閉じた構造で形成され、略真球状の微細で形状が整った中空領域を意味する。
【0042】
図1は、本発明の一実施の形態に係るレーザ加工装置の構成を示すブロック図である。
【0043】
図1において、レーザ加工装置100は、レーザ光源110、可変NDフィルタ120、電磁シャッタ130、レンズペア140、及び倒立顕微鏡150を備えている。また、レーザ加工装置100は、電磁シャッタ130及び後述する倒立顕微鏡150の3次元ピエゾステージ220を制御するドライバ160、及びコンピュータ170を備えている。
【0044】
倒立顕微鏡150は、ダイクロイックミラ200、油浸対物レンズ210、3次元ピエゾステージ220、照明光源230、コンデンサレンズ240、CCD(Charge-Coupled Devices)カメラ250、及びモニタ260を備えている。
【0045】
レーザ光源110は、加工用のフェムト秒パルスレーザを発生する。具体的には、レーザ光源110は、励起用光源を、フェムト秒レーザ(例えば、チタンサファイア(Ti:Sapphire)フェムト秒レーザ)で増幅することにより、高強度のフェムト秒パルスレーザを発生する。フェムト秒パルスレーザの波長は、可視域から可視域に近い近赤外領域の500nm~1300nmであることが好ましい。また、フェムト秒パルスレーザのパルス幅は、50fs~500fsであることが好ましく、100fs~200fsであることがより好ましい。
【0046】
フェムト秒パルスレーザの波長が紫外域(例えば、350nm以下)になると、レンズなどの光学素子をすべて石英製にする必要があり、装置全体が高価になってしまう。また、高い光子エネルギによる光学素子の損傷が発生する恐れがある。さらに、1光子励起又は2光子励起による加工が行われる可能性が高くなり、所望集光位置より手前(加工を所望する位置以外)にボイドが形成されてしまう。一方、比較的長波長の近赤外光(例えば、1500nm以上)を用いた場合、光学素子自身が光を吸収してしまうという問題、及び集光領域のサイズが増大してしまうという問題が発生してしまう。特に、集光領域のサイズの増大は、ナノメートルスケールの微細加工においては致命的な問題である。したがって、レーザ光源110で発生するフェムト秒パルスレーザの波長は、可視域から可視域に近い近赤外領域である範囲内(500nm~1300nm)に設定する。
【0047】
可変NDフィルタ120は、レーザ光源110で発生したフェムト秒パルスレーザの一部を透過し、その他の部分を反射又は吸収する。可変NDフィルタ120は、例えば、ガラスの表面にクロムをコーティングして構成され、このクロムの膜厚を調整することにより、可変NDフィルタ120の透過率を可変させることができる。これにより、レーザ光源110で発生したフェムト秒パルスレーザのパルスエネルギを所望の値に調整することができる。フェムト秒パルスレーザのパルスエネルギは、50nJ~500nJであることが好ましく、100nJ~400nJであることがより好ましい。
【0048】
電磁シャッタ130は、可変NDフィルタ120によりパルスエネルギを調整されたフェムト秒パルスレーザから単一パルスを切出す。これにより、加工対象材料Sの内部に照射する単一パルスレーザが生成される。電磁シャッタ130は、ドライバ160及びコンピュータ170により、任意のタイミングで単一パルスレーザを切出すように精密に制御されている。
【0049】
レンズペア140は、電磁シャッタ130で切出された単一パルスレーザの口径を、例えば、1~10倍に拡大する。単一パルスレーザの口径を拡大することにより、加工対象材料Sの中の光エネルギ密度を最適化し、ボイドの形状、及びサイズを制御することができる。
【0050】
ダイクロイックミラ200は、レンズペア140で口径を拡大した単一パルスレーザを、そのエネルギを損失することなく上方に反射して油浸対物レンズ210に入射させる。ダイクロイックミラ200における単一レーザパルスの反射率は、例えば、85%である。
【0051】
油浸対物レンズ210は、ダイクロイックミラ200で反射された単一パルスレーザを集光して加工対象材料Sの内部の集光位置に焦点像を形成する。単一パルスレーザの集光特性は、油浸対物レンズ210の開口数NA(Numerical Aperture)により変化しうる。例えば、油浸対物レンズ210の開口数NAを大きくすると、単一パルスレーザの集光部位のエネルギ密度が高くなり、自己収束効果による単一パルスレーザの集光部位の伸張が回避され、単一パルスレーザの集光部位が小さくなる(加工分解能の向上)。
【0052】
油浸対物レンズ210の開口数NAは、1.0~1.4であることが好ましく、1.3~1.4であることがより好ましい。これにより、加工対象材料Sの内部に数百ナノメートルオーダの略真円状のボイドを形成することができる。
【0053】
油浸対物レンズ210の開口数NAが1.0より小さい場合、単一パルスレーザの集光部位が伸張し、数百ナノメートルのオーダのボイドを形成することが困難になってしまう。また、単一パルスレーザの集光部位のエネルギ密度が低すぎるため、ボイドの壁面の凹凸が大きくなってしまう。さらに、油浸対物レンズ210の開口数NAが1.0より小さい場合、レーザービームの自己収束効果が誘起されやすくなる。自己収束効果が誘起されると、光軸方向に所望しない複数のボイドが形成されたり、ボイドの形状が光軸方向に伸張されたりするので、本発明のボイド形成技術には好まくはない。
【0054】
3次元ピエゾステージ220は、加工対象材料Sを載置し、加工対象材料Sの内部への単一パルスレーザの照射位置を変化させるように、XYZ軸に沿って平行移動する。また、3次元ピエゾステージ220は、XYZ軸のいずれかを軸として回転する。すなわち、3次元ピエゾステージ220は、XYZ軸座標を駆動することにより、加工対象材料Sに対する単一パルスレーザの集光位置を、任意の加工予定位置又は加工予定ラインに沿って走査させる。これにより、3次元ピエゾステージ220に載置された加工対象材料Sの内部の所望の位置に単一パルスレーザを集光照射することができる。
【0055】
3次元ピエゾステージ220は、図示しない高分解能のセンサ(例えば、キャパシタンスセンサ)を内蔵しており、例えば、数ナノメートル~数十ナノメートルの駆動分解能を有している。3次元ピエゾステージ220の駆動は、ドライバ160を介してコンピュータ170により精密に制御されている。例えば、コンピュータ170に加工対象材料Sの内部への加工予定位置又は加工予定ラインを示す情報を格納しておき、この情報に基づいて3次元ピエゾステージ220を走査駆動させることにより、加工対象材料Sの内部の所望の位置に単一パルスレーザを集光照射することができる。
【0056】
また、3次元ピエゾステージ220と電磁シャッタ130とを同期制御操作することにより、加工対象材料Sの内部の異なる位置に連続的かつ高速にボイド列を形成することができる。すなわち、加工対象材料Sの内部に、均一の間隔で単一パルスレーザを連続的に照射し、均一の間隔でボイド列を形成することができる。
【0057】
照明光源230は、3次元ピエゾステージ220の上方に配置され、3次元ピエゾステージ220に載置された加工対象材料Sの内部の単一パルスレーザの照射位置に対して照明光を発生させる。
【0058】
コンデンサレンズ240は、照明光源230からの照明光の光度を増強させるとともに、この照明光の照射電流の値を最適化する。
【0059】
CCDカメラ250は、照明光源230から照射され加工対象材料Sを透過した照明光を取り込んで、加工対象材料Sの内部の単一パルスレーザの照射位置を撮像する。また、CCDカメラ250は、撮像したデータをモニタ260に出力する。
【0060】
モニタ260は、CCDカメラ250からの撮像データを表示する。
【0061】
照明光源230、コンデンサレンズ240、CCDカメラ250、及びモニタ260により、加工対象材料Sの内部にボイドが形成される様子をリアルタイムで観察することができる。また、加工対象材料Sの内部の撮像データを基にして、加工予定位置や加工予定ラインを決定することができる。
【0062】
以下、上述のように構成されたレーザ加工装置100の動作について詳細に説明する。
【0063】
まず、レーザ光源110は、加工用のフェムト秒パルスレーザを発生する。このフェムト秒パルスレーザの波長は、500nm~1300nmであり、パルス幅は、50fs~500fs(好ましくは、100fs~200fs)である。
【0064】
次いで、可変NDフィルタ120は、レーザ光源110で発生したフェムト秒パルスレーザを透過させることにより、フェムト秒パルスレーザのパルスエネルギを50nJ~500nJ(好ましくは、100nJ~400nJ)に調整する。
【0065】
次いで、電磁シャッタ130は、可変NDフィルタ120を透過したフェムト秒パルスレーザから単一パルスを切出す。切出された単一パルスレーザは、レンズペア140で口径が拡大され、倒立顕微鏡150のダイクロイックミラ200でエネルギを損失することなく反射され、油浸対物レンズ210に入射する。
【0066】
次いで、油浸対物レンズ210は、ダイクロイックミラ200から入射する単一パルスレーザを集光して3次元ピエゾステージ220に載置された加工対象材料Sの内部の集光位置に焦点像を形成する。3次元ピエゾステージ220は、数ナノメートル~数十ナノメートルの駆動分解能を有しており、3次元ピエゾステージ220がXYZ軸座標を駆動することにより、加工対象材料Sの内部の任意の加工予定位置又は加工予定ラインに沿って単一パルスレーザを集光することができる。すなわち、隣接する単一パルスレーザの集光位置の間隔を設定することにより、単一パルスレーザの集光照射により形成されるボイドとボイドとの間隔を任意の値に制御することができる。
【0067】
例えば、加工対象材料Sの内部に、XYZ軸座標のそれぞれについて、一定の間隔で単一パルスレーザを集光照射して格子状のボイドを形成することができる。また、XY軸座標平面については、互いに隣接するボイドの間隔が小さい(高密度)格子状のボイドを形成し、Z軸座標方向については、互いに隣接するボイドの間隔が大きくなるようなボイドを形成することもできる。
【0068】
すなわち、XYZ軸座標を高い駆動分解能で移動可能な3次元ピエゾステージ220と本発明のボイド形成技術とを組み合わせることにより、加工対象物質Sの内部に、完全に閉じた構造のボイドを高分解能で所望の配列でドット状に形成することができる。加工対象材料Sの内部に完全に閉じた構造のボイドを高分解能で規則正しく配列させる技術は、例えば、この加工対象材料Sを光メモリ素子として用いた場合に、ビットの定義を明確にする観点、及び書き込み後の消去を防止する観点からも非常に有用性が高い。
【0069】
また、加工対象材料Sの内部に、単一パルスレーザを非常に短いピッチで連続的に集光照射することにより、ボイドがつながったチャネル状の光導波路を形成することもできる。
【0070】
さらに、加工対象材料Sの内部に単一パルスレーザを非常に短いピッチで連続的に集光照射することにより形成したボイドがつながったチャネルを、一定の密な間隔(例えば、100nm~数μm)で2次元的に整列させることにより、回折格子を形成することもできる。
【0071】
なお、本実施の形態では、単一パルスレーザの集光照射により形成されるボイドは略真球状であるものとして説明したが、ボイドの形状はこれに限定されず、例えば、楕円球が形成される場合もある。すなわち、完全に閉じた構造で、加工部位の壁面が美しい種々の形状のボイドが形成されうる。
【0072】
このように、本実施の形態によれば、フェムト秒パルスレーザのパルス幅、単一パルスレーザのパルスエネルギ、及び単一パルスレーザを集光する対物レンズの開口数NAを、それぞれ最適条件に適合させるので、サファイアやダイアモンドなどの硬質結晶性難加工材料の内部に、完全に閉じた構造のボイドを、化学処理を用いることなく形成することができる。
【0073】
また、本実施の形態では、フェムト秒パルスレーザのパルス幅、単一パルスレーザのパルスエネルギ、及び単一パルスレーザを集光する対物レンズの開口数NAは、レーザ光源110、可変NDフィルタ120、及び油浸対物レンズ210の設定を変更するだけで制御可能である。これにより、既存のフェムト秒パルスレーザ加工装置の構成を大きく変更することなく実施することができ、容易に導入が可能であり、汎用性に優れるという利点がある。
【実施例】
【0074】
以下において、本発明のより具体的な実施の形態(実施例)について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0075】
本実施例で用いた各実験器具及び実験条件は、以下の通りである。
<レーザ光源>
再生増幅器付チタンサファイアレーザ「Harricane」(Spectra-Physics製、波長:800nm、パルス幅:140fs、繰り返し周波数:20Hz)
<電磁シャッタ>
LS6ZM2(UNBLITZ製)
<倒立型システム顕微鏡>
IX-71(オリンパス製)
<ドライバ>
VMM-T1(UNBLITZ製)
<100倍油浸対物レンズ>
UplanApo100(オリンパス製、開口数NA:1.35)
<3次元ピエゾステージのコントローラ>
E-710. 4CL(Physic Instrument製)
<CCDカメラ>
SSC-M370(ソニー製)
【0076】
本実施例では、図1に示す光学系を用いて、サファイアの内部に単一パルスレーザを照射してボイドの形成を行った。特に、フェムト秒パルスレーザのパルスエネルギを10nJ~500nJにそれぞれ変化させて、ボイドの形成を行った。そして、サファイアの内部に形成されたボイドの径及びボイドを取り囲んで形成された改質領域の径と、単一パルスレーザのパルスエネルギとの依存性を調べた。
【0077】
なお、改質領域の径、及びボイドの径は、それぞれ、ボイドを割断または収束イオンビームによって露出させ、そのボイド露出部位を電子顕微鏡により観察することにより測定した。
【0078】
図2は、フェムト秒パルスレーザのパルスエネルギと改質領域の径及びボイドの径との関係を示す図である。図2は、フェムト秒パルスレーザのパルスエネルギを60nJ、80nJ、100nJ、200nJ、300nJ、400nJとそれぞれ変化させて、サファイアの内部にボイドの形成を行った場合の例を示している。
【0079】
図2より、パルスエネルギが70nJ~400nJの範囲内で、ボイドの径は100nm~400nmまで変化し、フェムト秒パルスレーザのパルスエネルギが大きくなるにつれて、改質領域の径、及びボイドの径も大きくなっていることが分かる。また、各パルスエネルギにおいて、ボイドの径は、改質領域の径の1/2程度の大きさとなっていることが分かる。
【0080】
フェムト秒パルスレーザのパルスエネルギが60nJである場合には、改質領域の内部にボイドの存在を確認することができなかった。一方、フェムト秒パルスレーザのパルスエネルギが500nJ以上である場合には、単一パルスレーザの集光照射位置には、乱れたクラック状の痕跡が観察され、シャープな境界に取り囲まれた真球形状のボイドは形成されなかった。すなわち、本実施例におけるボイドの形成は、波長が800nm、パルス幅140fsのフェムト秒パルスレーザを用いた場合、パルスエネルギが60nJ~500nJの範囲内で達成されることが分かる。
【0081】
また、本実施例では、サファイア内部に形成されたボイドの様子を、光学顕微鏡及び電子顕微鏡を用いて評価した。
【0082】
図3は、内部にフェムト秒パルスレーザを5μm間隔で集光照射したサファイアの光学顕微鏡写真である。集光照射したフェムト秒パルスレーザのパルスエネルギは、400nJである。
【0083】
図3より、球状のボイドが規則正しく形成されていることが分かる。また、図3の顕微鏡写真で用いた光学顕微鏡の観察分解能は最大でもおよそ500nmであり、各ボイドの径のオーダよりも大きいので、各ボイドの輪郭が不明瞭となっている。
【0084】
そこで、サファイアの内部に形成されたボイドの形状をさらに精密に観測するために、電子顕微鏡による観察を行った。その際、レーザ光軸に平行な方向から見たボイドの断面形状、及びレーザ光軸に垂直な方向から見たボイドの断面形状の観察を行った。
【0085】
図4(A)~図4(C)は、レーザ光軸に平行な方向から見たボイドの断面形状、及びレーザ光源に垂直な方向から見たボイドの断面形状の観察方法を示す図である。
【0086】
(レーザ光軸に平行な方向)
レーザ光軸に平行な方向から見たボイドの断面形状の観察について説明する。サファイアの内部にフェムト秒パルスレーザを1パルス集光照射してボイドを形成した後(図4(A))、断面がレーザ光軸に平行となり、かつ断面がボイドを横切るようにサファイアを割断し(図4(B))、露出したサファイアの断面(ボイドの断面)を電子顕微鏡で観察した。
【0087】
図5(A)、(B)は、レーザ光軸に平行な方向から見たボイドの断面の電子顕微鏡写真である。
【0088】
図5(A)より、略同形状かつ同サイズのボイドが規則正しく形成されていることを確認することができる。また、図5(B)より、改質領域の中央付近に、改質領域との輪郭が明確なボイドが形成されていることを確認することができる。
【0089】
(レーザ光軸に垂直な方向)
レーザ光軸に垂直な方向から見たボイドの断面形状の観察について説明する。サファイアの内部にフェムト秒パルスレーザを1パルス集光照射してボイドを形成した後(図4(A))、ガリウム(Ga)をイオン源としたFIB(収束イオンビーム:Focused Ion Beam)を用いて、サファイアの表面をレーザ光軸に垂直な方向に削り取り(図4(C))、露出したサファイアの断面(ボイドの断面)を電子顕微鏡で観察した。
【0090】
図6(A)は、レーザ光軸に垂直な方向から見たボイドの断面の電子顕微鏡写真であり、図6(B)は、図6(A)の枠Pを拡大した電子顕微鏡写真である。
【0091】
図6(A)、(B)より、レーザ光軸に垂直な方向から見たボイドの断面は、略真円状であり、結晶領域との境界がシャープで乱れのない形状であることが分かる。
【0092】
ボイドを取り囲む改質領域の特性を理解することは、本発明の有効性を示す上で重要である。そこで、本実施例では、形成したボイドを取り囲む改質領域の特性を調べるために、さらに実験を行った。
【0093】
上記のように、サファイアは、完全結晶性の代表的な難加工性材料であるため、薬品により浸食されることはない。しかし、アモルファス相のサファイアは、フッ酸により浸食され、溶解することが知られている。そこで、図5及び図6のサファイアの加工断面に対して、10%のフッ酸を用いた30分間の化学処理を行うことにより、形成したボイドを取り囲む改質領域について調べた。
【0094】
図7(A)は、レーザ光軸に平行な方向から見たボイドの断面の電子顕微鏡写真であり、図7(B)は、図7(A)のサファイアの加工断面にフッ酸による化学処理を行った後の電子顕微鏡写真である。
【0095】
図7(A)、(B)より、フッ酸処理により、ボイドを取り囲む改質領域が選択的に除去(エッチング)されているのが分かる。したがって、サファイアの内部に形成されたボイドの周辺の改質領域は、サファイアのアモルファス相であることが分かる。すなわち、本発明により形成されるボイドは、アモルファス相である改質領域に取り囲まれた状態で形成される。
【0096】
図8(A)は、レーザ光軸に垂直な方向から見たボイドの断面の電子顕微鏡写真であり、図8(B)は、図8(A)のサファイアの加工断面にフッ酸による化学処理を行った後の電子顕微鏡写真であり、図8(C)は、図8(B)の枠Qを拡大した電子顕微鏡写真である。
【0097】
図8(A)~図8(C)より、レーザ光軸に垂直な方向から見ても、ボイドの周辺には改質領域(サファイアのアモルファス相)が形成されていることが分かる。
【0098】
このように、レーザ光軸に平行な方向から見たボイドの断面は楕円状であり、レーザ光軸に垂直な方向から見たボイドの断面は略真円状であった。すなわち、本実施例で形成したボイドは、略真球状であり、改質領域との輪郭が明確(境界面がシャープで乱れがない)であり、かつ、内部が完全なボイドとなっていることが分かる。したがって、本実施例では、所定のパルスエネルギを有する単一パルスレーザを照射するという1工程のみで、微細で形状が整った中空領域であるボイドを形成することができた。
【0099】
以上、本実施例により、本発明のレーザ加工技術は、代表的な難加工性誘電体材料であるサファイアの内部に、境界面に乱れのない略真球状の微細なボイドを形成することができる有効な技術であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明に係るレーザ加工装置及びレーザ加工方法は、サファイアやダイアモンドなどの硬質結晶性難加工材料の内部に、完全に閉じた構造であり、かつ輪郭が明確な中空領域を簡単な工程で形成することができる効果を有し、3次元光メモリ素子の大容量化や光導波路、回折格子に適用する中空領域を形成するレーザ加工装置及びレーザ加工方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の一実施の形態に係るレーザ加工装置の構成を示すブロック図
【図2】フェムト秒パルスレーザのパルスエネルギと改質領域の径及びボイドの径との関係を示す図
【図3】内部にフェムト秒パルスレーザを5μm間隔で集光照射したサファイアの光学顕微鏡写真
【図4】(A)サファイアの内部に形成されたボイドを示す概略図、(B)レーザ光軸に平行な方向から見たボイドの断面形状の露出を示す図、(C)レーザ光軸に垂直な方向から見たボイドの断面形状の露出を示す図
【図5】(A)レーザ光軸に平行な方向から見たボイドの断面の電子顕微鏡写真、(B)図5(A)を拡大した電子顕微鏡写真
【図6】(A)レーザ光軸に垂直な方向から見たボイドの断面の電子顕微鏡写真、(B)図6(A)の枠Pを拡大した電子顕微鏡写真
【図7】(A)レーザ光軸に平行な方向から見たボイドの断面の電子顕微鏡写真、(B)図7(A)のサファイアの加工断面にフッ酸による化学処理を行った後の電子顕微鏡写真
【図8】(A)レーザ光軸に平行な方向から見たボイドの断面の電子顕微鏡写真、(B)図8(A)のサファイアの加工断面にフッ酸による化学処理を行った後の電子顕微鏡写真、(C)図8(B)の枠Qを拡大した電子顕微鏡写真
【符号の説明】
【0102】
100 レーザ加工装置
110 レーザ光源
120 可変NDフィルタ
130 電磁シャッタ
140 レンズペア
150 倒立顕微鏡
160 ドライバ
170 コンピュータ
200 ダイクロイックミラ
210 油浸対物レンズ
220 3次元ピエゾステージ
230 照明光源
240 コンデンサレンズ
250 CCDカメラ
260 モニタ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図4】
2
【図3】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7