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明細書 :耐熱複合グリース

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2006-241277 (P2006-241277A)
公開日 平成18年9月14日(2006.9.14)
発明の名称または考案の名称 耐熱複合グリース
国際特許分類 C10M 169/02        (2006.01)
C10M 125/02        (2006.01)
C10M 125/22        (2006.01)
C10M 169/06        (2006.01)
C10N  10/12        (2006.01)
C10N  20/06        (2006.01)
C10N  30/06        (2006.01)
C10N  30/08        (2006.01)
C10N  50/10        (2006.01)
FI C10M 169/02
C10M 125/02
C10M 125/22
C10M 169/06
C10N 10:12
C10N 20:06 B
C10N 30:06
C10N 30:08
C10N 50:10
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 9
出願番号 特願2005-057756 (P2005-057756)
出願日 平成17年3月2日(2005.3.2)
発明者または考案者 【氏名】榎本 祐嗣
【氏名】遠藤 守信
出願人 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000121、【氏名又は名称】アイアット国際特許業務法人
審査請求 未請求
テーマコード 4H104
Fターム 4H104AA04C
4H104AA19C
4H104EA10C
4H104FA06
4H104LA03
4H104LA04
4H104QA18
要約 【課題】 熱伝導性と潤滑性を兼ね備えた耐熱複合グリースを提供する。
【解決手段】 炭素繊維と二硫化モリブデンとを混合してなる耐熱複合グリースとする。炭素繊維としては例えば繊維径が1ミクロン末端のカーボンナノチューブを用い、炭素繊維と二硫化モリブデンとは体積換算で実質的に同量含むようにする。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
炭素繊維と二硫化モリブデンとを混合してなることを特徴とする耐熱複合グリース。
【請求項2】
前記炭素繊維の混合率がグリース全体に対して5~20体積%であることを特徴とする請求項1に記載の耐熱複合グリース。
【請求項3】
前記炭素繊維と前記二硫化モリブデンとは、体積換算で実質的に同量含まれていることを特徴とする請求項1または2に記載の耐熱複合グリース。
【請求項4】
前記炭素繊維は、繊維径が1ミクロン未満のカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の耐熱複合グリース。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材に使用されるグリースに関する。
【背景技術】
【0002】
半固体潤滑剤であるグリースは、少量で長期間補給せずに潤滑できる、シール性があり外部からの異物の混入による潤滑不良を防止できるなど、他種潤滑剤に比べて優れた特徴を有する。このため、グリースは、メンテナンス・フリーが要求される場所で多用されている。
【0003】
しかし、近年、グリースが多用されている機械システム(例えば自動車の電装部品、OA機器など)では小型高性能化が進み、すべり軸受などの摺動部品の摩擦面がより高面圧化および高速化している。面圧および速度が上昇すると、摩擦熱が大きくなり、グリースが軟化あるいは分解劣化し、その結果、グリースの潤滑性能が低下するという問題が生じる。したがって、グリースの上記特徴を活かしながら、その放熱性を改善する必要がある。放熱性を改善する手法としては、例えば、熱伝導性に優れる炭素繊維をグリースに混合する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。

【特許文献1】特開2002-332490号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の従来技術には、次のような問題がある。炭素繊維の持つ優れた熱伝導性を利用すべく、炭素繊維をグリースに混合すると、確かにグリースの熱伝導性が高くなり放熱性が良くなる。しかし、炭素繊維を混合したグリースは、潤滑性が悪く、グリースの優れた特徴を活かすことができなくなるという問題が生じる。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、熱伝導性と潤滑性を兼ね備えた耐熱複合グリースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、炭素繊維と二硫化モリブデンとを混合してなる耐熱複合グリースとするようにしている。このため、熱伝導性と潤滑性の両機能に優れたグリースとすることができる。グリースは、ウレア系グリース、ファイバグリース、グラファイトグリース等を使用できる。中でも、自動車の電装部品、OA機器等に多く用いられるウレア系グリースが好ましい。
【0007】
また、別の本発明は、先の発明における炭素繊維の混合率がグリース全体に対して5~20体積%である耐熱複合グリースとしている。特に、炭素繊維の混合率を5~20体積%の範囲とすることにより、潤滑性の低下をより小さくし、熱伝導性を向上させることができる。具体的には、炭素繊維の混合率が5体積%以上では熱伝導性の改善がより大きくなり、20体積%以下では潤滑性の低下をほとんど招かないようにすることができる。
【0008】
また、別の本発明は、先の発明における炭素繊維と二硫化モリブデンとは、体積換算で実質的に同量含まれる耐熱複合グリースとしている。このため、熱伝導性と潤滑性のバランスにより優れたグリースとすることができる。本来、炭素繊維と二硫化モリブデンの混合量は必ずしも同一でなくても良く、熱伝導性と潤滑性のバランスを見て、用途に応じて各混合比を決定するのが望ましい。ただし、多くの用途においては、できるだけ熱伝導性が高く、かつ潤滑性もできるだけ良好であることが望まれるので、各混合比を実質的に同量とするのが望ましい。ここで、「実質的に同量」とは、両混合比がプラスマイナス2体積%以内であることを意味するものとする。
【0009】
また、別の本発明は、先の発明における炭素繊維は、その繊維径が1ミクロン未満のカーボンナノチューブである耐熱複合グリースとしている。特に、炭素繊維として、繊維径の細いカーボンナノチューブを採用することによって、潤滑性を低下せずに、熱伝導性を向上させることができる。さらに、少量の混合により熱伝導性の大幅な向上を図ることができる。ここで、カーボンナノチューブは、グラフェンという炭素六角網面がナノレベルの直径を持つ円筒に丸めた中空状のチューブであり、一枚のグラフェンからなる単層カーボンナノチューブ(Single-Walled Carbon Nano Tube: SWCNT)と、複数枚のグラフェンを丸めた径の異なる筒を入れ子状の構造とした多層カーボンナノチューブ(Multi-Walled Carbon Nano Tube: MWCNT)に大別される。本発明では、SWCNTおよびMWCNTのいずれを使用しても良い。さらには、両方の混合物を使用しても良い。また、カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、プラズマ合成法、化学気相析出(Chemical Vapor Deposition: CVD)法等のいずれの製法により製造されたものでも採用可能である。ただし、量産に有利なCVD法により製造されたカーボンナノチューブの方が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱伝導性と潤滑性を兼ね備えた耐熱複合グリースとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明に係る耐熱複合グリースの実施例について説明する。
【0012】
【表1】
JP2006241277A_000002t.gif

【0013】
(1)試料
表1に示すように、グリースに混合する炭素繊維と二硫化モリブデンの混合比率を変化させた5種類の試料を用意して、性能を比較評価した。表1の数値欄において、かっこ外の数値は体積%を、かっこ内の数値は重量%を、それぞれ示す。
【0014】
グリースには、ウレア系グリース(出光興産株式会社製のダフリーポリレックスアルファグリース)を用いた。ウレア系グリースは、炭化水素とウレア結合からなり、その構成元素に基油の酸化・劣化の触媒となる金属分あるいは灰分を含まない有機化合物である。ウレア系グリースは、耐熱性 耐酸化安定性、長寿命性、耐漏洩性、磨耗防止性、付着性に優れており、製鉄機械、自動車等の輸送機械、建設機械、OA機器等に広範囲に使用されている。また、炭素繊維には、繊維径約150nmで繊維長10~20μmの気相合成法にて製造したカーボンナノファイバ(Vapor Growth Carbon Fiber: VGCF)(昭和電工株式会社製)を用いた。二硫化モリブデンには、住鉱潤滑剤株式会社製のものを用いた。グリースへの炭素繊維および/または二硫化モリブデンの混合は、既存の混合法を適用できる。
【0015】
(2)装置および評価条件
(2.a)熱伝導特性評価
図1は、表1に示す5種類の試料の熱伝導特性を評価するための装置の概略側面図である。
【0016】
この装置の構成は、ホットプレート1の上に、真ん中をくりぬいた厚さ約1mmのアクリル樹脂性のリング2をおき、真ん中の穴3に試料(図1の斜線で示す部分)を充填して、上から厚さ約0.2mmの銅板4をのせた構成である。銅板4には、放熱性を良くするためにフィン5が設けられている。フィン5の間には、銅板4に接するように温度計6を備え、間接的に試料の温度変化を測定するようにした。ホットプレート1の温度は68℃で一定に保持しながら、各試料の温度の経時変化を調べた。
【0017】
(2.b)潤滑性評価
図2は、表1に示す5種類の試料の潤滑性を評価するための摩擦試験機の概略斜視図である。
【0018】
潤滑性の評価には、図2に示すボールオンディスク型の摩擦試験機(レスカ株式会社製;FPR-2000)を用いた。この摩擦試験機は、回転できる可動台10と、可動台10上の非中央部分に固定した試験片11の上に接触させるボール12と、そのボール12を固定するロッド13と、ロッド13にかける荷重を変えるためのリング形状のおもり14と、おもり14を通す軸15と、軸15と垂直方向に伸び、ロッド13のフリクション動作を可能に支持する支持プレート16とから、主に構成されている。
【0019】
潤滑性の評価において、5種類の各試料は、試験片11の上表面に塗られ、ボール12と試験片11との間に介在する。おもり14に応じた所定荷重を試験片11にかけながら可動台10を回転させると(図2中の黒矢印のように)、試料の潤滑性によって支持プレート16にかかる負荷が変わる。本実施例では、試験時間に対して上記負荷を測定することによって、各試料の潤滑性を評価した。
【0020】
試験片11は、25mmφ×5mmtの円板形状を有すると共に、黄銅またはステンレス(SUS304)の2種類の各材料からなる。試験片11は、予め#100のサンドペーパでランダムなテキスチャリングを施した後、#1500のサンドペーパで表面の突起部分を平坦化した。かかる処理によって、試料が摩擦面の凹部に滞留しやすくした。ボール12には、10mmφのステンレス(SUS304)球を用いた。試験時間は4時間とした。荷重は、0.49N若しくは4.9Nとした。試験片11とボール12との接点と、可動台10の回転中心との間の距離(回転半径)は、9mmとした。評価のサンプリング時間は、0.1秒ごととした。また、試験中の室内は、気温22(プラスマイナス2)℃、相対湿度45(プラスマイナス5)%に保たれた。
【0021】
(3)評価結果および考察
(3.a)熱伝導特性評価
図3は、グリースのみ(表1の試料No.1)およびグリースにVGCFのみを混合した2種類の試料(表1の試料No.2および試料No.4)の時間による温度変化を示すグラフである。また、図4は、グリースのみ(表1の試料No.1)、グリースにVGCFのみを混合した試料(表1の試料No.2のみ)、グリースに二硫化モリブデンのみを混合した試料(表1の試料No.3)およびグリースにVGCFと二硫化モリブデンを混合した試料(表1の試料No.5)の時間による温度変化を示すグラフである。なお、図4では、50℃に達する時間が短い順に、試料No.2(グリース95+CNT5)、試料No.5(グリース90+CNT5+MoS25)、試料No.3(グリース95+MoS25)、試料No.1(グリース100)となっている。また、図3および図4において、「CNT」および「MoS2」は、それぞれVGCFおよび二硫化モリブデンを意味する。
【0022】
図3に示すように、試料No.1、試料No.2および試料No.4の順に、飽和温度に達するまでの時間が短くなることがわかった。また、図4に示すように、VGCFのみを5体積%混合した試料No.2と、VGCFおよび二硫化モリブデンをそれぞれ5体積%混合した試料No.5とを比較すると、ほとんど変わらない温度変化を示すことがわかった。また、二硫化モリブデンのみを5体積%混合した試料No.3は、200秒までは、温度上昇率が試料No.2およびNo.5のそれらよりも低かった。この結果は、VGCFを混合することによって、温度上昇速度を改善することができ、かつ二硫化モリブデンをさらに混合しても温度上昇速度を低下させないことを意味する。
【0023】
表2に、各試料の熱伝導度(α)を示す。各熱伝導度は、図3および図4の測定結果と下記の数式とを利用して求めた。
【0024】
【表2】
JP2006241277A_000003t.gif

【0025】
【数1】
JP2006241277A_000004t.gif

【0026】
【数2】
JP2006241277A_000005t.gif

【0027】
ここで、数式1は一次非定常熱伝導の式から導かれる熱伝導度の式である。式中、tは平衡温度、tはある時間経過後の温度、Tは無次元温度である。数式1中の無限級数は、παθ/(4L)>0.5、すなわち、ある程度以上時間が経過してからは急に収束して第2項以下が無視できるようになり、数式2に近似できる。数式2より、αは、log(4T/π)とθの傾きに表すことができる。αは、ごく初期および平衡温度付近を除いたデータに対して計算された。
【0028】
表2の結果から明らかなように、αは、VGCFの混合率が高くなるほど大きくなった。例えば、VGCF20体積%を混合した試料(試料No.4)のαは、グリースのみ(試料No.1)のαの約2倍であった。一方、VGCFと二硫化モリブデンを両方混合した試料(試料No.5)のαは、VGCFのみを混合した試料(試料No.2)のαとほぼ同じ値となった。この結果は、図4に示す結果と同じである。このことから、VGCFの混合によって熱伝導度を大きくすることができ、かつそこに二硫化モリブデンを混合しても熱伝導度を低下させないものと考えられる。
【0029】
(3.b)潤滑性評価
図5は、グリースのみ(試料No.1:(A))、グリースにVGCFのみを混合した試料(試料No.2のみ:(B))、グリースに二硫化モリブデンのみを混合した試料(試料No.3:(C))およびグリースにVGCFと二硫化モリブデンを混合した試料(試料No.5:(D))の、試験片11に黄銅を用いて0.49Nの荷重を加えたときの摩擦係数の経時変化を示すグラフである。
【0030】
図5の各グラフに示すように、グリースのみの場合、摩擦係数は0.2から0.4に推移し、摩擦変動も時間が経つにつれて増大した。また、グリースに5体積%のVGCFを混合した場合には、グリースのみの場合における摩擦係数の平均値と同程度であり、変動幅も大きかった。これに対して、グリースに5体積%の二硫化モリブデンのみを混合した場合には、摩擦係数を0.1以下に下げることができ、かつ変動幅も小さくすることができた。また、グリースに5体積%のVGCFと5体積%の二硫化モリブデンとを混合した場合には、摩擦係数を0.2以下に下げることができ、かつ変動幅も小さくすることができた。
【0031】
また、試験片11に黄銅を用いて4.9Nの荷重を加えた場合も同様の傾向が見られた。さらに、試験片11にステンレス(SUS304)を用いて、荷重を0.49N若しくは4.9Nに設定して潤滑性を評価しても、同様の傾向が確認された。また、VGCFの混合率を20体積%に増やした場合でも(二硫化モリブデンを混合する際には、VGCF20体積%、二硫化モリブデン20体積%)、VGCFの混合率を5体積%とした上述の場合(二硫化モリブデンを混合する際には、VGCF5体積%、二硫化モリブデン5体積%)と同様の傾向が確認された。
【0032】
このような結果から、グリースに二硫化モリブデンを混合、あるいは二硫化モリブデンとVGCFを混合することにより、潤滑特性を大幅に改善できると考えられる。先に述べた熱伝導度の結果を併せると、グリースに二硫化モリブデンとVGCFを混合することによって、熱伝導性および潤滑性にすぐれたグリースができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、自動車の電装部品、OA機器の他、宇宙環境で使用される機器あるいは原子力関連機器の摺動部材において実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の形態にかかる耐熱複合グリースの熱伝導特性を評価するための装置の概略側面図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかる耐熱複合グリースの潤滑性を評価するための摩擦試験機の概略斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態にかかる耐熱複合グリースの時間による温度変化を示すグラフである。
【図4】図3と一部異なる試料群の時間による温度変化を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態にかかる耐熱複合グリースを使用し、試験片に黄銅を用いて0.49Nの荷重を加えたときの摩擦係数の経時変化を示すグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4