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明細書 :ホウ素ドープ2層カーボンナノチューブ、連結2層カーボンナノチューブおよびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4724828号 (P4724828)
公開番号 特開2006-282408 (P2006-282408A)
登録日 平成23年4月22日(2011.4.22)
発行日 平成23年7月13日(2011.7.13)
公開日 平成18年10月19日(2006.10.19)
発明の名称または考案の名称 ホウ素ドープ2層カーボンナノチューブ、連結2層カーボンナノチューブおよびその製造方法
国際特許分類 C01B  31/02        (2006.01)
B82B   1/00        (2006.01)
B82B   3/00        (2006.01)
FI C01B 31/02 101F
B82B 1/00
B82B 3/00
請求項の数または発明の数 6
全頁数 19
出願番号 特願2005-100864 (P2005-100864)
出願日 平成17年3月31日(2005.3.31)
審査請求日 平成20年2月15日(2008.2.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
発明者または考案者 【氏名】遠藤 守信
【氏名】金 隆岩
【氏名】林 卓哉
【氏名】村松 寛之
個別代理人の代理人 【識別番号】100077621、【弁理士】、【氏名又は名称】綿貫 隆夫
【識別番号】100092819、【弁理士】、【氏名又は名称】堀米 和春
審査官 【審査官】小野 久子
参考文献・文献 国際公開第2004/112163(WO,A1)
特開2003-146630(JP,A)
特開2002-266170(JP,A)
特開2000-281323(JP,A)
特開2003-095626(JP,A)
調査した分野 C01B 31/00-31/36
B82B 1/00
B82B 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
2層カーボンナノチューブにおいて、六員環炭素原子へのホウ素原子置換がなされることによって、隣接する2層カーボンナノチューブが融合されて径大な2層のチューブ構造をなすことを特徴とするホウ素ドープ2層カーボンナノチューブ。
【請求項2】
2層カーボンナノチューブにおいて、隣接する2層カーボンナノチューブの外層同士がホウ素原子を含むチエーンを介して共有結合し、連結チューブ構造をなすことを特徴とする連結2層カーボンナノチューブ。
【請求項3】
2層カーボンナノチューブとホウ素元素を混合し、該混合物を不活性ガス雰囲気の加熱炉中で熱処理を行い、2層カーボンナノチューブの六員環炭素原子をホウ素原子に置換するとともに隣接する2層カーボンナノチューブを融合させて径大な2層チューブ構造に形成することを特徴とするホウ素ドープ2層カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
2層カーボンナノチューブとホウ素元素を混合し、該混合物を不活性ガス雰囲気の加熱炉中で熱処理を行い、隣接する2層カーボンナノチューブの外層同士をホウ素原子を含むチエーンを介して共有結合させて、連結したチューブ構造に形成することを特徴とする連結2層カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項5】
ホウ素元素をホウ素換算で0.01~0.1wt%混合することを特徴とする請求項3のホウ素ドープ2層カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項6】
1400~1600℃の温度範囲で熱処理を行うことを特徴とする請求項3記載のホウ素ドープ2層カーボンナノチューブの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素ドープ2層カーボンナノチューブ、連結2層カーボンナノチューブおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
六員環炭素原子へのホウ素原子の置換は、それらの物理化学特性を変化させることとして知られており、ホウ素ドープしたカーボンナノチューブの研究は実験的にも理論的にも行われている。ホウ素原子は電子アクセプターとして機能しカーボンレイヤー間のπ電子の再配分を起こさせ、結果としてフェルミレベルを減少させる。そのためカーボンナノチューブへのホウ素ドーピングは電子特性の制御のために非常に興味深い。発明者等は触媒化学気相成長法(CCVD法)により2層カーボンナノチューブ(DWNT)を生成し最適な精製処理を施すことにより高純度DWNTを合成した。それらのチューブは熱的また構造的に安定であり、単層カーボンナノチューブ(SWNT)と比べ優れている。またそれらを用いて新規なナノ構造を形成することが可能であり、2100℃という熱処理においては近接した2本のDWNTの外層同士が融合したBi-Cable(バイ ケーブル)が創製できる(特願2004-164065)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、この2層カーボンナノチューブ(DWNT)のサイズコントロール、形状コントロールをさらに低温で行え、種々の用途に用いることができるホウ素ドープ2層カーボンナノチューブ、連結2層カーボンナノチューブおよびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係るホウ素ドープ2層カーボンナノチューブは、2層カーボンナノチューブにおいて、六員環炭素原子へのホウ素原子置換がなされることによって、隣接する2層カーボンナノチューブが融合されて径大な2層のチューブ構造をなすことを特徴とする。
【0005】
また本発明に係る連結2層カーボンナノチューブは、2層カーボンナノチューブにおいて、隣接する2層カーボンナノチューブの外層同士がホウ素原子を含むチエーンを介して共有結合し、連結チューブ構造をなすことを特徴とする。
【0006】
また、本発明に係るホウ素ドープ2層カーボンナノチューブの製造方法は、2層カーボンナノチューブとホウ素元素を混合し、該混合物を不活性ガス雰囲気の加熱炉中で熱処理を行い、2層カーボンナノチューブの六員環炭素原子をホウ素原子に置換するとともに隣接する2層カーボンナノチューブを融合させて径大な2層チューブ構造に形成することを特徴とする。
【0007】
また本発明に係る連結2層カーボンナノチューブの製造方法は、2層カーボンナノチューブとホウ素元素を混合し、該混合物を不活性ガス雰囲気の加熱炉中で熱処理を行い、隣接する2層カーボンナノチューブの外層同士をホウ素原子を含むチエーンを介して共有結合させて、連結したチューブ構造に形成することを特徴とする。
【0008】
また、ホウ素元素をホウ素換算で0.01~0.1wt%混合することを特徴とする。
また、ホウ素ドープ2層カーボンナノチューブの製造は1400~1600℃の温度範囲で熱処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、2層カーボンナノチューブ(DWNT)のサイズコントロール、形状コントロールを低温で行えるから、製造が容易となり、また種々の用途に用いることができるホウ素ドープ2層カーボンナノチューブ、連結2層カーボンナノチューブを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
2層カーボンナノチューブ(DWNT)へ低濃度ホウ素ドーピングをすると、隣接するDWNT同士の融合を促進する特異な現象を起こすことが見出された。DWNTは2000℃以上まで安定であるが、DWNTとホウ素を共に熱処理することにより大きな構造変化が起こる。例えば1400~1500℃までのドーピング熱処理温度では直径が大きく変化し、1600℃では歪んだ断面構造を有する多層カーボンナノチューブ(MWNT)に構造変化する。それらの融合現象はDWNTバンドル中で、近接したチューブ同士で部分的に起こる。それは同心円状カーボンレイヤー中にホウ素置換(C-C結合距離よりやや長い)したことにより構造が不安定となり、融合過程を通して曲率の小さいエネルギー的に安定な構造に変化するからと考えられる。これらのカーボンナノチューブへの低濃度ホウ素置換はチューブの電子構造の制御や、新規なナノ構造を形成するのに有用となる。
以下では、DWNTでのホウ素原子が融合促進原子として特異な機能をすることを高分解能電子顕微鏡とラマン分光分析法を用いて説明する。この結果は新規ナノ構造体創製の制御方法、そして従来の炭素材料でのホウ素の黒鉛化促進として働く機構の解明への手がかりとなるものである。
【0011】
高純度DWNTはConditioning Catalyst(コンディショニング触媒)を用いたCCVD法により生成したチューブをさらに精製することにより得ることができる。
以下では、まず、高純度DWNTを作製する方法について説明する。
【0012】
図1は、合成装置(水平電気炉)10の説明図である。
12は反応管で、周辺に電熱ヒータ14配置がされ、反応管12内が加熱されるようになっている。
反応管12内に、主触媒として鉄塩を含む基板16を、副触媒としてモリブデン酸塩を含む基板18を配置する。
【0013】
主触媒としての鉄塩は、これに限定されるものではないが、クエン酸鉄アンモニウム水溶液(3wt%)中に酸化マグネシウムを浸漬して、この酸化マグネシウムにクエン酸鉄アンモニウムを担持したものを用いた。クエン酸鉄アンモニウムは食品添加物としても認められているもので、環境にもやさしいので好適である。
【0014】
副触媒(コンディショニング触媒)としてのモリブデン酸塩は、これに限定されるものではないが、ナノサイズの酸化アルミニウムパウダーにモリブデン酸アンモニウムを担持したものを用いた。副触媒にモリブデン酸塩を用いることによって、DWNTが95%以上の収量となる、DWNTリッチのCNTを得ることができる。
【0015】
上記の反応管12内に、炭素源を不活性ガス(キャリアガス)と共に流して、所要温度で反応させて、カーボンナノチューブ(CNT)を気相成長させるのである。
炭素源は特に限定されるものではないが、メタンガスを好適に用いることができる。不活性ガスはアルゴンガスが好適である。
【0016】
実施例では、上記両触媒を配置した反応管12内をアルゴンガスでパージした後、反応管12内の温度を上げていき、ターゲットの温度に達した後、反応管12内に、アルゴンガスで希釈したメタンガス(容積比1:1)を、毎分200ml程度の流量で流し、10~15分間、875~1100℃の温度で反応させてCNTを気相成長させた。
【0017】
それぞれのCNTをラマン分光分析により解析をした結果を図2に示す。ここからわかるように、生成温度が950℃以上ではSWNTやDWNTの直径に依存するRBM(Radial Breathing Mode)が大きく変化している。これはTEM観察で確認したとおり、存在するDWNTの直径や結晶性が大きく変わり、さらに直径が大きいDWNTが多くを占めているということを示している。また、1100℃ではRBMが確認できなかった。これはSWNTや直径の細いDWNTが存在しなくなったことを意味すると考えられる。
【0018】
上記のように、主触媒として鉄塩を、副触媒としてモリブデン酸塩を用い、炭素源を不活性ガス雰囲気下875~1100℃の温度で熱分解し、気相成長させることで、DWNTが95%以上含むCNTの合成が行えた。
【0019】
次に、上記のようにして生成したCNTを酸化性雰囲気中で約500℃の温度で酸化処理してSWNTを分解し、DWNTのさらにリッチなCNTに精製した。
具体的には、まず、上記のように生成したCNTを、FeとMgOを除去するために、35%塩酸中に9時間浸漬した。次いで、500℃で20分間、空気中で酸化処理した。
【0020】
SWNTはDWNTやMWCNTに比較して酸素に対するより高い化学的反応性を示すので、500℃での酸化処理によりSWNTが分解され、SWNTの割合が減少する。したがって、DWNTがより高い割合で含むように精製されるのである。また、この500℃での酸化処理により、CNT表面のアモルファス層も熱分解し、炭素六角網層の表面が露出するので、より活性の高いCNTとなる。
【0021】
図3は、この精製されたDWNTの状態を示すHR-TEMイメージを示し、多数本のDWNTがバンドル(束)状態に集合した状態となっている。このDWNTのアウター層の直径は約1.6nmであり、インナー層の直径は約0.9nmであった。
上記のように、高純度に精製されたDWNTが得られる(多少のMWCNTを含む)。このDWNTは、同軸構造に由来するユニークな物理的、化学的性質を有することから、種々の複合材料として好適に用い得る。
【0022】
次に、上記のように精製したDWNTをさらに高温で熱処理することによって、より熱的安定性に優れたDWNTを得ることができる。
この熱処理は、高純度の不活性ガス(アルゴンガス)雰囲気中で、1500~2800℃の種々の温度で、約30分間行った。
【0023】
図4は、1500~2800℃の種々の温度で熱処理したDWNTのラマンスペクトルを示す。なお、サンプルは、上記のように反応温度875℃で反応させて得たCNTを、さらに500℃の温度で空気中で酸化処理したものを用い、これを上記種々の温度で熱処理したものである。
【0024】
図4から明らかなように、ラマンスペクトルの312cm-1におけるピークが、1500℃の熱処理のものでかなり低下し、2000℃の熱処理でほぼ完全に消失している。この312cm-1におけるピークはSWNTの存在によるものと考えられ、したがって、高温での熱処理によりSWNTが分解されるのであり、2000℃での熱処理でSWNTはほぼ完全に分解されて消失し、よりDWNTがリッチなCNTに精製されることがわかる。実際に、HR-TEMによる観察で、2000℃までの処理温度で、DWNTが多く存在することが確認されている。
【0025】
2100℃での熱処理では、興味のある変化が見られた(図5)。
むろん、図4からも明らかなように、2100℃の熱処理でSWNTは消失している。
図5は、2100℃で熱処理したDWNTのHR—TEMイメージである。このイメージは、DWNTのシーケンシャルな変化プロセスを示している。
【0026】
図5中の(I)区では、隣接する2つのDWNTのアウタ層が、合併、再結合し、1つの、断面が長円状をなすアウター層に変形(融合)しはじめている。図5の(II)区では、隣接する2つのDWNTのアウター層が、完全に1つの断面長円状のアウター層に融合し、この長円状の1つのアウター層内に、アウター層の長軸方向に隣接して2つのインナー層が位置する変形CNTが形成されている。この変形CNTは、長円状のアウター層内の長軸方向両サイドにインナー層が位置し、1つの安定した状態を形成している。この変形CNTは、2100℃近辺のかなりクリティカルな(幅の狭い温度範囲)熱処理温度範囲で、DWNTから変形CNTに移行すると考えられる。この変形CNTは、構造上の違いから、他の構造のCNTとは、その物理的、化学的に異なる特性を有するものと考えられ、その有効な新規な用途開発が期待される。
図5の(III)区では、(II)区における閉じられたスペース内の2つのインナー層が分解し、アウター層の内壁に沿って展開して1つのシングルインナー層を形成し初めている。すなわち、より大きな径の1つのDWNTに再編されようとしている。このことは熱処理温度が高く(2200℃以上)なるにつれ、より大きな径のDWNTに再編されることを示唆している。
【0027】
次に、上記のようにして得た高純度のDWNTのホウ素ドーピングについて説明する。
ホウ素成分として、アモルファスホウ素元素(Wako Chemical:和光化学社製)をドーパントとして用いた。ホウ素ドーピングプロセスは高純度DWNTに0.05wt%のホウ素元素を混合し、グラファイト抵抗炉により高純度アルゴンガス(99.999%)の雰囲気中で1000-2000℃で熱処理を施すことにより行った。そこでのターゲット温度における保持時間は30分とした。
【0028】
そして得られたホウ素ドープDWNT、そして比較するためのホウ素ドープをしていないDWNTをHR-TEM(JEOL JEM-2010FEF instrument equipped with an in-column Ω-type energy-filter)、FE-SEM(FEOL JSM-6335Fs)、ラマン分光分析(Kaiser HoloLab 5000 system, excitation wavelength: 532nm, laser power less than 5mW)により構造解析を行った。
【0029】
高分解能TEM観察によると(図6(a))、生成されたDWNT(ホウ素ドープをしていないDWNT)はバンドル状で形成されており(図6(a)にFE-SEM像を示した)、そのバンドルのサイズは10-50nmである。またバンドル中のDWNTは六角形状にパッキングされている(図6(b))。また1500℃、2000℃と熱処理を加えても、6角形状にパッキングされたDWNTはほとんど変化せず(図6(c)(d)(e)(f))、2000℃まで安定であることが分かる。
【0030】
さらにTEM観察による観察の確証を得るためにラマン分光分析を行った。ラマン分光分析はナノチューブのカイラリティーや直径変化に敏感に対応するため非常に有用な手法である。低周波数域のラマンスペクトル(RBM:radial breathing mode)を図7(a)に、高周波数領域(tangential mode)を図7(b)に示した。
【0031】
RBMはチューブの直径に対して反比例することは既に知られている。ホウ素ドープしていない未処理のDWNTでは、RBMが225cm-1以上のスペクトルはDWNTの内層、逆に225cm-1以下のスペクトルは外層に起因する。ωRBM=234/dt+10(dt:チューブ径(nm),ωRBM :RBM周波数)の式を利用すると、DWNTの径に起因する各2つの組み合わせが定まる(内径:外径=0.77nm:1.46nm、0.9nm:1.62nm)。2000℃以上の熱処理では高曲率を有する内径0.77nmのDWNTが不安定化を起こすために、それに対応するRBMが消える。すくなくとも内径0.9nm、外径1.62nmからなるDWNTは2000℃以上の熱処理でも安定であり、それらのチューブは応用の観点から、高電流密度を有する電界放出源の応用に適しているだろう。
【0032】
一方、ホウ素ドープをしたDWNTは図8に示したように構造変化がおきていることが分かる。FE-SEM像(図8(a)、図9(c)、図10(e)、図11(g)、図12(i)、図13(k))からは大きな変化が見られず、ある種の反応がバンドル内で起きていることを指している。1300℃でホウ素ドープしたDWNT(図8(a)(b))はマクロ形状またはバンドルにおける六角形状パッキングは変化していない。
【0033】
1400℃でドープした場合はマクロ形状(図9(c))は変化が見られないが、TEMによるチューブの断面観察の結果によると、バンドル間でDWNTの直径が大きくなっていることが分かる。融合現象はzipping(ジッピング)のようにDWNTの外層そして内層の順に起こることは確かである。しかしホウ素を用いない場合2100℃以上の加熱により融合現象が起こることが確かめられている。よってホウ素のドープによりDWNT間の融合温度を約600℃下げたことになる。
【0034】
図10(f)のHR-TEM像は非常に興味深く、2から3本のDWNTが融合過程により比較的大きなDWNTを形成している一方、全く影響受けていないチューブもある。このまったく影響を受けていないチューブはホウ素が置換されていない可能性がある。しかしながら直径が増大し断面構造が歪んだDWNTからのホウ素を検出する分析技術が現在のところない。ともかくこの結果は、ホウ素原子を選択的にカーボンナノチューブ中に導入できたなら、チューブ基としたナノ構造を制御し形成する方法になりうるだろう。なぜならホウ素原子はナノチューブ間での構造欠陥のような融合起点として働くからである。
【0035】
1600℃そして1700℃のドーピング温度ではDWNTバンドルは柔軟性が失われる(図11(g)、図12(i)のHR-TEM像による低倍観察による)。その現象はバンドル中に歪んだMWNTが形成されたことに起因する。この段階では多少のDWNTを除き、ほとんどのDWNTがドープの影響を受ける。またDWNTの硬さが三層または四層のナノチューブと比較して遥かに低いことが予期される。ドーピングの際の熱処理温度を上げるにつれ、歪んだ断面構造を有する増大したDWNTはより安定な構造に変化し、それが三層ナノチューブへと変化する(図12(j))。
【0036】
ドーピング温度が2000℃の際は、バンドルは滑らかな形態からでこぼこしたものに大きく変化する(図13(k))。そのことはバンドル中に構造変化が起きたチューブと起きなかったチューブの一体化によるフレーク状の炭素やMWNTが形成したことに起因する。しかし注意すべき点はマクロ的な形態変化は殆ど観察されなかったことである(FE-SEM図参照)。
【0037】
ラマン分光分析技術ホウ素ドープしたDWNTに応用できる。なぜなら一般的に炭素レイヤーにホウ素が置換した場合にラマン線がそれを欠陥として検知されると考えられているからである(D-band(欠陥モード)の強度が増加する);ホウ素が炭素レイヤーに組み込まれた場合C-C結合距離に比べてやや長いためにレイヤーが膨らむ。
【0038】
各B-DWNTのRBMを図14(a)に示す。1400℃までは変化が見られなかったが、1500℃そして1600℃となるにつれてRBMの強度(157cm-1、270cm-1)が減少した。これはTEM観察から見られるようにDWNTの量が減少したことと良く一致する(図10(f)、図12(j))。
【0039】
1700から2000℃の間ではRBMが観測されず、増大したDWNTと歪んだ断面構造を有するMWNTに完全に構造変化したことによる。1592cm-1と1570cm-1はグラファイトのE2g2モード(Gバンド)と一致する。1500℃におけるGバンドのダウンシフトはDWNTの直径増大(図10(f)におけるチューブの増大および歪み)と密接な関係にある。言い換えるならカーボンナノチューブの対称性の崩壊である。
【0040】
1400℃そして1500℃におけるDバンド(2重共鳴ラマン散乱法における欠陥に起因する)の出現は、2本から3本のDWNT同士が融合し始める温度と良く一致する。ドーピング温度を1500℃から2000℃に上げるにつれ、Dピークのアップシフト及び強度増大そしてR値の増大(GバンドとDバンドの比:D/G)はチューブの高曲率から低曲率へと、融合現象を介し大きく構造変化したことを示す。
【0041】
上記のように、ホウ素原子の効果におけるDWNTの構造変化の解析を高分解能TEMおよびラマン分光分析により詳細に行った。ホウ素が炭素レイヤーに導入された場合の結合ボンドの長さは1.48ÅでありC-C結合距離(1.41Å)と比べるとやや長く、炭素レイヤーは膨張する。言い換えるなら炭素6員環レイヤーにホウ素が置換した場合、ラマン散乱では欠陥として認識される。それ故、円筒状に丸まった炭素6員環レイヤー(カーボンナノチューブ)にホウ素原子が導入されることはエネルギー的に不安定になることを意味する。そしてより安定な構造(曲率が少ない)である直径が増大したDWNTまたはMWNTに構造変化する。逆に言うとホウ素の補助効果により融合開始温度が約600℃下がる。よってホウ素原子はDWNTの融合の開始物や促進物となる可能性があり、これはホウ素の拡散が炭素に比べ早いことによるだろう。ここでもしホウ素原子を選択的に導入できたなら、自由にDWNTの電気特性を制御できるだろう。
【0042】
上記のように、隣接したDWNTが融合して径大化しDWNTは、チューブ内に多くの原子、イオンを取り込むことができるので、リチウム電池の電極材や、各種触媒の担体等として使用が期待される。
【0043】
次に、六員環炭素へのホウ素原子の置換が生じる前の前駆体として、隣接するDWNTがホウ素を含むチエーンにより共有結合して連結された、連結DWNTが得られることがわかった。
図15は、上記共有結合が進展する状況を示したモデル図である。図15のaの状態は、DWNT間に、ホウ素原子、もともと存在する炭素(粉)が進入した状態のモデルであり、図15のbは、隣接するDWNT間でBxCyHzの構造を有すると推定されるチエーンができて共有結合が開始された状態のモデルであり、図15のcは、両DWNT間の共有結合が完結された状態のモデルを示す。図15のdは、さらに熱処理が進むことにより、六員環炭素原子へのホウ素の置換が開始された状態のモデルであり、両DWNTの融合が始まっている。
【0044】
上記のように、直ちにホウ素置換が開始されるのでなく、一旦チエーンによる共有結合が起こり、前駆体としての連結DWNTが形成され、この共有結合が起爆剤となって、さらに安定なDWNTの融合体への生成が進行するものと考えられる。
したがって、DWNTの熱処理の温度、時間等を制御することによって、六員環炭素原子のホウ素原子による置換が開始される前の、隣接するDWNT同士が共有結合によって連結された、連結DWNTを取り出すことができる。このように、DWNTが共有結合によって連結されることによって、DWNT間のスリップ現象を抑制でき、DWNTの機械的強度を向上させることができる。なお、このDWNTの結合は、DWNTが交差している場合に、この交差部分でも生じると考えられる。
【0045】
図16は、種々の温度で熱処理されたDWNTのラマンスペクトル図を示す。1300~1500℃で熱処理されたDWNTは、1850cm-1付近に共有結合によると見られるピークが現れる。このピークは、隣接する2層カーボンナノチューブの外層の接触部分が共有結合をし、部分部分がチエーン(B-C-H)を介して連結した、連結チューブ構造が形成されたことを示唆している。
なお、1600℃以上の熱処理では、1850cm-1付近のピークが消失している。この1600℃以上の熱処理を行うと、ホウ素ドープ(置換)が急速に進展するからと考えられる。
図17は、共有結合によって連結された状態のDWNTのFE-TEM写真を示す。同図dの矢印で示される部位が結合状態にあると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】合成装置の説明図である。
【図2】それぞれの反応温度で得たCNTのラマンスペクトルである。
【図3】精製されたDWNTのHR-TEMイメージである。
【図4】1500~2800℃の種々の温度で熱処理したDWNTのラマンスペクトルである。
【図5】2100℃で熱処理したDWNTのHR-TEMイメージである。
【図6】図6(a)は、未処理DWNTの低倍率観察による高分解能TEM像(FE-SEM像を挿入した)である。図6(b)は、それらの断面の高分解能TEM像である。図6(c)は、1500℃で熱処理された低倍率観察による高分解能TEM像である。図6(d)は、それらの断面の高分解能TEM像である。図6(e)は、2000℃により熱処理されたDWNTの低倍率観察による高分解能TEM像である。図6(f)は、それらの断面の高分解能TEM像である。
【図7】図7(a)は、低周波数域、図7(b)は、高周波数域における2000℃まで熱処理されたDWNTラマンスペクトルである。
【図8】図8(a)は、1300℃で熱処理したB-DWNTの低倍率観察によるHR-TEM像であり、同図(b)は、その断面の高倍率観察によるHR-TEM像である。
【図9】図9(c)は、1400℃で熱処理したB-DWNTの低倍率観察によるHR-TEM像であり、同図(d)は、その断面の高倍率観察によるHR-TEM像である。
【図10】図10(e)は、1500℃で熱処理したB-DWNTの低倍率観察によるHR-TEM像であり、同図(f)は、その断面の高倍率観察によるHR-TEM像である。
【図11】図11(g)は、1600℃で熱処理したB-DWNTの低倍率観察によるHR-TEM像であり、同図(h)は、その断面の高倍率観察によるHR-TEM像である。
【図12】図12(i)は、1700℃で熱処理したB-DWNTの低倍率観察によるHR-TEM像であり、同図(j)は、その断面の高倍率観察によるHR-TEM像である。
【図13】図13図(k)は、2000℃で熱処理したB-DWNTの低倍率観察によるHR-TEM像であり(それらに一致するFE-SEM像を挿入した)、同図(l)は、その断面の高倍率観察によるHR-TEM像である。
【図14】図14(a)は、低周波数領域における、(b)は高周波数領域における、各々ホウ素置換温度を1300℃から2000℃まで変化させたB-DWNTのラマンスペクトルである。
【図15】共有結合が進展する状況を示したモデル図である。
【図16】共有結合が生じたDWNTのラマンスペクトル図である。
【図17】共有結合によって連結された状態のDWNTのFE-TEM写真である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図7】
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【図14】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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