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明細書 :糖リン酸化剤及び糖リン酸化方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4798521号 (P4798521)
公開番号 特開2007-097517 (P2007-097517A)
登録日 平成23年8月12日(2011.8.12)
発行日 平成23年10月19日(2011.10.19)
公開日 平成19年4月19日(2007.4.19)
発明の名称または考案の名称 糖リン酸化剤及び糖リン酸化方法
国際特許分類 C12P  19/44        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12N   9/12        (2006.01)
A23L   1/30        (2006.01)
A61K  47/26        (2006.01)
FI C12P 19/44
C12N 15/00 ZNAA
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/00 101
C12N 9/12
A23L 1/30 Z
A61K 47/26
請求項の数または発明の数 6
全頁数 13
出願番号 特願2005-293690 (P2005-293690)
出願日 平成17年10月6日(2005.10.6)
審査請求日 平成20年8月21日(2008.8.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】西本 完
【氏名】北岡 本光
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
審査官 【審査官】光本 美奈子
参考文献・文献 Database GenPept, Accession No.NP_696793 31-May-2005 uploaded,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/23466190?sat=OLD06&satkey=3410350
Proc Natl Acad Sci USA, vol.99, p.14422-14427 (2002)
丸尾文治他監修,酵素ハンドブック,朝倉書店,1995年10月10日,第352~353頁
Biosci Biotechnol Biochem, vol.71, p.2101-2104 (2007)
調査した分野 C12N 15/09
SwissProt/PIR/GeneSeq
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)~()の少なくとも1つを含むことを特徴とする糖リン酸化剤であって、糖が、グルコース、マンノース、タロース、Nアセチルグルコサミン、Nアセチルガラクトサミン、Nアセチルマンノサミン、及び2-デオキシグルコースからなる群より選択される少なくとも1つである、上記糖リン酸化剤
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、糖リン酸化活性を有するタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする核酸、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、糖リン酸化活性を有するタンパク質をコードする核酸
)上記(b)の核酸を含む組換えベクター
)上記()の組換えベクターで形質転換された形質転換体
【請求項2】
糖リン酸化活性がNアセチルヘキソサミンキナーゼ活性である、請求項に記載の糖リン酸化剤。
【請求項3】
(a)のタンパク質、又は(b)の核酸がビフィドバクテリウム・ロンガム由来である、請求項1又は2に記載の糖リン酸化剤。
【請求項4】
さらにATP及び/又はマグネシウムを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の糖リン酸化剤。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の糖リン酸化剤の存在下にて、グルコース、マンノース、タロース、Nアセチルグルコサミン、Nアセチルガラクトサミン、Nアセチルマンノサミン、及び2-デオキシグルコースからなる群より選択される少なくとも1つの糖とATPとを反応させてα-糖1リン酸を生成することを特徴とするα-糖1リン酸の製造方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の糖リン酸化剤の存在下にて、グルコース、マンノース、タロース、Nアセチルグルコサミン、Nアセチルガラクトサミン、Nアセチルマンノサミン、及び2-デオキシグルコースからなる群より選択される少なくとも1つの糖とATPとを反応させ、生成されたα-糖1リン酸を製剤化することを特徴とするα-糖1リン酸を含有する食品添加物又は医薬品添加物の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な糖リン酸化活性を有するタンパク質、該タンパク質をコードする核酸、該核酸を含む組換えベクター、及び該組換えベクターで形質転換された形質転換体に関する。また本発明は、上記タンパク質、核酸、組換えベクター及び形質転換体を用いた、糖リン酸化剤及び糖リン酸化方法に関する。さらに本発明は、上記糖リン酸化剤を用いたα-糖1リン酸を含有する食品添加物又は医薬品添加物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キナーゼはATPのリン酸を転移する反応を触媒する酵素の総称であり、糖リン酸エステルの製造に有用な酵素が含まれる。従来、糖1リン酸エステルを合成するキナーゼはガラクトキナーゼのみが知られていた(例えば、特許文献1参照)。この酵素はガラクトース及びATPを基質としαガラクトース1リン酸及びADPを生成するが、その基質特異性は比較的厳密でありガラクトース以外の糖をリン酸化する活性は示さない。ヒト由来のガラクトキナーゼがガラクトースのみならずNアセチルガラクトサミンを基質にすることが報告されているが、Nアセチルグルコサミンなど他の糖は全くリン酸化できない。従来、Nアセチルグルコサミンから直接Nアセチルグルコサミン1リン酸への変換を触媒する酵素は発見されておらず、その合成は化学合成あるいは多段階の酵素反応を用いざるをえなかった。
【0003】
また、糖1リン酸エステルは、食品用素材及び医薬品用素材などとして、今後の開発が期待されている有用な物質である(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
そのため、幅広い基質特異性を示し、かつ糖リン酸化反応を高効率で触媒する酵素の開発が望まれていた。
【0005】

【特許文献1】特表平10-506529号公報
【特許文献2】特開平5-95765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、糖リン酸化活性を有する新規な酵素を見出し、またこれを利用して糖を効率的にリン酸化し、糖1リン酸エステルを製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ビフィドバクテリウム属細菌の機能未同定遺伝子BL1642(配列番号1)の配列情報に基づいて単離された核酸によりコードされるタンパク質が、糖リン酸化活性、すなわち糖の1位の炭素原子にATPのリン酸基を転移し、α-糖1リン酸及びADPを生成する反応を触媒する活性を有することを見出し、この活性を糖リン酸化に利用することができるという知見を得、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の(a)又は(b)のタンパク質である:
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、又は
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、糖リン酸化活性を有するタンパク質であって、但し配列番号8に示されるアミノ酸配列を有するものではない、上記タンパク質。
【0009】
また本発明は、以下の(a)又は(b)の核酸である:
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする核酸、又は
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、糖リン酸化活性を有するタンパク質であって、但し配列番号8に示されるアミノ酸配列を有するものではない、上記タンパク質をコードする核酸。
【0010】
さらに本発明は、以下の(a)又は(b)の核酸である:
(a)配列番号1に示される塩基配列からなる核酸、又は
(b)配列番号1に示される塩基配列に相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、糖リン酸化活性を有するタンパク質をコードする核酸であって、但し配列番号7に示される塩基配列を有するものではない、上記核酸。
【0011】
本発明はまた、上記いずれかの核酸を含む組換えベクターである。
本発明は、上記組換えベクターで形質転換された形質転換体である。
本発明はさらに、上記形質転換体を培養し、得られる培養物からタンパク質を採取することを特徴とする、糖リン酸化活性を有するタンパク質の製造方法である。
【0012】
またさらに本発明は、以下の(a)~(e)の少なくとも1つを含むことを特徴とする糖リン酸化剤である:
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、糖リン酸化活性を有するタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする核酸、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、糖リン酸化活性を有するタンパク質をコードする核酸
(c)配列番号1に示される塩基配列からなる核酸、又は配列番号1に示される塩基配列に相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、糖リン酸化活性を有するタンパク質をコードする核酸
(d)上記(b)又は(c)の核酸を含む組換えベクター
(e)上記(d)の組換えベクターで形質転換された形質転換体。
【0013】
上記糖リン酸化剤において、糖としては、限定されるものではないが、ヘキソース、Nアセチルヘキソサミン、及びデオキシヘキソースからなる群より選択される少なくとも1つである。より具体的には、糖は、例えばグルコース、ガラクトース、マンノース、タロース、Nアセチルグルコサミン、Nアセチルガラクトサミン、Nアセチルマンノサミン、及び2-デオキシグルコースからなる群より選択される少なくとも1つである。また、糖リン酸化活性は、例えばNアセチルヘキソサミンキナーゼ活性である。
【0014】
上記糖リン酸化剤に含まれる(a)のタンパク質、又は(b)若しくは(c)の核酸は、好ましくはビフィドバクテリウム・ロンガム由来でありうる。
上記糖リン酸化剤は、さらにATP及び/又はマグネシウムを含んでもよい。
【0015】
本発明はまた、上記いずれかの糖リン酸化剤の存在下にて糖とATPとを反応させてα-糖1リン酸を生成することを特徴とするα-糖1リン酸の製造方法である。
上記方法において、使用する糖は、限定されるものではないが、ヘキソース、Nアセチルヘキソサミン、及びデオキシヘキソースからなる群より選択される少なくとも1つである。具体的には、使用する糖は、例えばグルコース、ガラクトース、マンノース、タロース、Nアセチルグルコサミン、Nアセチルガラクトサミン、Nアセチルマンノサミン、及び2-デオキシグルコースからなる群より選択される少なくとも1つである。
【0016】
さらに本発明は、上記いずれかの糖リン酸化剤の存在下にて糖とATPとを反応させ、生成されたα-糖1リン酸を製剤化することを特徴とするα-糖1リン酸を含有する食品添加物又は医薬品添加物の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、糖リン酸化剤及び糖リン酸化方法が提供される。本発明において使用するタンパク質などは、糖のリン酸化反応を効率的に触媒するものであり、かつ糖基質特異性が低いため、あらゆる種類の糖をリン酸化することが可能である。かかる糖リン酸化剤及び糖リン酸化方法は、例えば、食品加工及び医薬品工業の分野において有用な各種α-糖1リン酸を効率よく製造するために有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明は、ビフィドバクテリウム属細菌の機能未同定遺伝子BL1642(配列番号1)の配列情報に基づいて、ビフィドバクテリウム・ロンガムJCM 1217株より単離された核酸によりコードされるタンパク質が、糖リン酸化活性を有するという知見に基づくものである。従って、本発明に係る糖リン酸化剤及び糖リン酸化方法においては、以下の(a)~(d)の少なくとも1つを使用する:
(a)糖リン酸化活性を有するタンパク質
(b)糖リン酸化活性を有するタンパク質をコードする核酸
(c)上記(b)の核酸を含む組換えベクター
(d)上記(b)の核酸又は上記(c)の組換えベクターを含有する形質転換体。
【0020】
本発明において「糖リン酸化活性」とは、糖とATPを基質として、糖をリン酸化する(糖リン酸を生成する)反応を触媒する活性を意味する。より具体的には、糖リン酸化活性とは、糖の1位の炭素原子にATPのリン酸基を転移し、α-糖1リン酸及びADPを生成する反応を触媒する活性を意味する。このような活性を有するタンパク質は、これまでに報告例がなく、従って本発明に係るタンパク質は新規な活性を有する酵素である。
【0021】
ここで、糖リン酸化反応における糖としては、限定されるものではないが、ヘキソース(六炭糖)、例えばD-及びL-ガラクトース、D-グルコース、D-マンノース及びD-タロース等;ヘキソサミン(ヘキソースのヒドロキシル基がアミノ基で置換された化合物9、例えばD-グルコサミン、D-ガラクトサミン及びD-マンノサミン、並びにそれらのN-アセチル体(Nアセチルグルコサミン、Nアセチルガラクトサミン、Nアセチルマンノサミン)等;ヘキソシラミン(ヘキソースのヘミアセタールヒドロキシル基がアミノ基で置換された化合物);デオキシヘキソース、例えば2-デオキシグルコース等が挙げられる。
【0022】
本発明に係るタンパク質をコードする核酸の塩基配列を配列番号1に、該タンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に例示する。ここで、配列番号1の541番目~1620番目の塩基配列がタンパク質をコードする領域である。
【0023】
また、上述したビフィドバクテリウム・ロンガムJCM 1217株由来のタンパク質と同等又はそれ以上の糖リン酸化活性を保持するタンパク質を、ビフィドバクテリウム・ロンガムの他の細菌株、ビフィドバクテリウム属に属する他の細菌及びその他の属に属する細菌、並びにこれらの細菌の変異株から単離することができるが、このようなタンパク質は配列番号2に示されるアミノ酸配列とは若干異なるアミノ酸配列を有することが予想される。さらに、当技術分野においては、アミノ酸配列において若干のアミノ酸変異を有していても、その活性又は機能を保持するタンパク質の存在が知られている。
【0024】
従って、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質は、糖リン酸化活性を有する限り、当該アミノ酸配列において複数個、好ましくは1若しくは数個のアミノ酸に置換、欠失、挿入、付加、逆位等の変異が生じてもよい。糖リン酸化活性は、変異を有するタンパク質の存在下にて、基質となる糖とATPとを反応させ、生成されるα-糖1リン酸の量を当技術分野で公知の方法(例えば高速液体クロマトグラフィー、高速イオン交換クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーなど)により測定することによって確認することができる。本発明において使用可能なタンパク質は、それらの配列から公知の方法に従って化学合成又は組換え手法により作製することができるし、あるいは公知の手法に従って細菌から単離してもよい。
【0025】
例えば、配列番号2に示されるアミノ酸配列の1~10個、好ましくは1~5個のアミノ酸が欠失してもよく、配列番号2に示されるアミノ酸配列に1~10個、好ましくは1~5個のアミノ酸が付加してもよく、あるいは、配列番号2に示されるアミノ酸配列の1~10個、好ましくは1~5個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したものも、本発明において用いることができる。
【0026】
本発明に係るタンパク質の活性により、糖の1位にリン酸基が付加されたα-糖1リン酸が生成される。
【0027】
本発明において使用可能な核酸は、細菌から調製したDNA又はそのcDNAライブラリーを用いて、配列番号1に示される塩基配列に基づいて設計したプライマーを用いてPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を行うことにより調製することができる。例えば、配列番号3及び4に示される塩基配列を含むプライマーセット、又は配列番号5及び6に示される塩基配列を含むプライマーセットを用いて、目的の核酸を単離することができる。ここで、核酸を単離するための供与源となる細菌は、ビフィドバクテリウム属に属する細菌、例えばビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ブレベ、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス等が挙げられるが、特に限定されるものではない。好ましくはビフィドバクテリウム属に属する細菌を供与源として、特に好ましくはビフィドバクテリウム・ロンガムJCM 1217株を供与源として使用する。
【0028】
また、部位特異的突然変異誘発法等によって本発明に係る核酸の変異型であって上記機能又は活性を有するものを合成することもできる。なお、核酸に変異を導入するには、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した市販の変異導入用キットなどを用いて変異の導入が行われる。また、エラー導入PCRやDNAシャッフリング等の手法により、核酸への変異導入やキメラ遺伝子の構築も可能である。エラー導入PCR及びDNAシャッフリング手法は、当技術分野で公知の手法であり、例えばエラー導入PCRについてはChen K, and Arnold FH. 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 90: 5618-5622を、またDNAシャッフリングについてはStemmer, W. P. 1994, Nature, 370:389-391及びStemmer W. P., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 91: 10747-10751を参照されたい。
【0029】
変異を有する核酸により作製される組換えタンパク質が目的の機能(すなわち糖リン酸化活性)を有するか否かは、変異核酸を形質転換体において発現させ、得られる組換えタンパク質の糖リン酸化活性を、上述したように当技術分野で公知の方法により測定することにより確認することができる。
【0030】
さらに、上記塩基配列からなる核酸の全部又は一部の配列に相補的な配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、糖リン酸化活性を有するタンパク質をコードする核酸も本発明において用いることができる。ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、高い相同性(相同性が60%以上、好ましくは80%以上)を有するDNAがハイブリダイズする条件をいう。このようなハイブリダイゼーション条件は当技術分野で公知であり、例えばSambrook et al, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989などに記載されている。
【0031】
本発明において使用する組換えベクターは、適当なベクターに上記核酸を連結(挿入)することにより得ることができる。本発明で使用するベクターとしては、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されない。例えば、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどが挙げられ、直鎖状であっても環状であってもよい。
【0032】
プラスミドDNAとしては、放線菌由来のプラスミド(例えばpK4、pRK401、pRF31等)、大腸菌由来のプラスミド(例えばpET、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YEp24、YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。
【0033】
ベクターに核酸を挿入するには、まず、精製された核酸を適当な制限酵素で切断し、適当なベクターの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
【0034】
核酸は、目的のタンパク質が発現されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、本発明において使用するベクターには、プロモーター、核酸のほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などを連結することができる。
【0035】
本発明においては、上記組換えベクターで形質転換された形質転換体を使用することができる。形質転換体は、上記組換えベクターを、目的とするタンパク質が発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。ここで、宿主としては、特に限定されるものではなく、例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガム等のビフィドバクテリウム属、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属に属する細菌、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母、その他動物細胞又は昆虫細胞が挙げられる。
【0036】
大腸菌等の細菌を宿主とする場合は、組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、上記核酸、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。プロモーターは、大腸菌等の宿主中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。細菌への組換えベクターの導入方法は、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法(Cohen, S.N.et al.:Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 69:2110-2114 (1972))、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
【0037】
酵母を宿主とする場合は、プロモーターとしては酵母中で発現できるものであれば特に限定されるものではない。酵母への組換えベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばエレクトロポレーション法(Becker, D.M. et al., Methods. Enzymol. 194,182-187(1990))、スフェロプラスト法(Hinnen, A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 75,1929-1933 (1978))、酢酸リチウム法(Itoh, H. J. Bacteriol., 153,163-168 (1983))等が挙げられる。
【0038】
動物細胞を宿主とする場合は、サル細胞COS-7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3、PC12若しくはNG108-15細胞、又はヒトFL、HEK293、HeLa若しくはJurkat細胞などが用いられる。プロモーターとしてSRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、β-アクチンプロモーター等が用いられ、また、ヒトサイトメガロウイルスの初期遺伝子プロモーター等を用いてもよい。動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。昆虫細胞を宿主とする場合は、Sf9細胞、Sf21細胞などが用いられる。昆虫細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などが用いられる。
【0039】
以上のようにして得られる形質転換体は、糖リン酸化活性を有するタンパク質を生成するものであるため、かかるタンパク質の製造や、それ自体を糖リン酸化において使用することができる。
【0040】
本発明において用いることができるタンパク質は、前記形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養上清、培養細胞若しくは培養菌体又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。形質転換体を培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
【0041】
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地は、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、グルコース、フルクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が挙げられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー等が挙げられる。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0042】
培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、36~37℃で10~48時間、好ましくは1日間行う。
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地、DMEM培地又はこれらの培地に牛胎児血清等を添加した培地等が挙げられる。培養は、通常、5%CO存在下、37℃で40~48時間行う。
【0043】
培養後、目的のタンパク質が菌体内又は細胞内に生産される場合には、超音波処理、凍結融解の繰り返し、ホモジナイザー処理などを施して菌体又は細胞を破砕することにより上記タンパク質を採取する。また、当該タンパク質が菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中から本発明のタンパク質を単離精製することができる。
【0044】
本発明に係る糖リン酸化剤及び糖リン酸化方法においては、上述したタンパク質、核酸、組換えベクター及び形質転換体のいずれをも用いることができる。また、例えば1種のタンパク質を単独で使用してもよいし、複数種のタンパク質を使用してもよく、核酸、組換えベクター及び形質転換体についても同様である。
【0045】
なお、本発明に係る糖リン酸化剤の形態は特に限定されず、タンパク質、核酸若しくは組換えベクターをそのまま、あるいはこれらを適当な溶媒中に溶解若しくは懸濁することにより液剤として、又はこれらを粉剤若しくは錠剤として調製することも可能であるし、さらには凍結乾燥物として調製することも可能である。また、形質転換体は、培養物から単離された形質転換体、培養物そのもの、培養物の希釈液、培養物の破砕物、及び培養上清などであってもよい。
【0046】
本発明に係る糖リン酸化剤及び糖リン酸化方法により、リン酸化される糖としては、ヘキソース(六炭糖)、例えばD-及びL-ガラクトース、D-グルコース、D-マンノース及びD-タロース等;ヘキソサミン(ヘキソースのヒドロキシル基がアミノ基で置換された化合物9、例えばD-グルコサミン、D-ガラクトサミン及びD-マンノサミン、並びにそれらのN-アセチル体(Nアセチルグルコサミン、Nアセチルガラクトサミン、Nアセチルマンノサミン)等;ヘキソシラミン(ヘキソースのヘミアセタールヒドロキシル基がアミノ基で置換された化合物);デオキシヘキソース、例えば2-デオキシグルコース等が挙げられる。また、上記例示した糖の誘導体又は類似体、及びこれらの糖の混合物をリン酸化することも可能である。
【0047】
糖リン酸化は、上述した糖リン酸化剤の存在下にて、糖とATP(又はGTP、ITPでもよい)とを反応させることにより行うことができる。糖リン酸化反応により、糖がα-糖1リン酸に変換される。
【0048】
使用する糖リン酸化剤の量、反応時間及び反応条件などは、使用する糖リン酸化剤の種類、基質となる糖の存在量、ATPの存在量などを考慮して、望ましい結果が得られるように決定しうる。リン酸化される糖の濃度は特に限定されるものではないが0.01mM以上4M以下、好ましくは1mM以上3M以下である。ATPの量は特に限定されるものではないが、リン酸化される糖の2当量以下、好ましくは1.2当量以下である。
【0049】
さらに、糖リン酸化反応をさらに効率的に行うために、本発明に係る糖リン酸化剤及び糖リン酸化反応においては、追加成分を使用してもよい。そのような追加成分としては、限定されるものではないが、マグネシウム及び/又はコバルトなどが挙げられる。このような追加成分の量は当業者であれば容易に決定することができる。例えば、マグネシウムの濃度は、好ましくは0.001mM以上1M以下、より好ましくは0.01mM以上10mM以下、更に好ましくは0.1mM以上5mM以下である。
【0050】
以上のように、本発明に係る糖リン酸化剤の存在下で糖とATPとを反応させることによって、糖を効率的にリン酸化し、α-糖1リン酸を生成することができる。
【0051】
α-糖1リン酸は、味質改善のため又はカルシウム保持剤として用いることができるため、食品添加物又は医薬品添加物に配合することが好ましい。従って、上述のように生成されたα-糖1リン酸を、添加物として製剤化することによって、α-糖1リン酸を含有する食品添加物又は医薬品添加物を製造することが可能である。製剤化は、当技術分野で公知の添加剤、保存剤、賦形剤などと共に、当技術分野で公知の製剤化方法に従って容易に行うことができる。また、α-糖1リン酸は種々のオリゴ糖の酵素合成の出発原料として用いることが可能である。
【0052】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0053】
ビフィドバクテリウム・ロンガムのゲノム情報(機能未同定遺伝子BL1642)を基に、目的のORFに隣接する以下に示すフォーワードプライマー及びリバースプライマーをそれぞれ作製した:
フォーワードプライマー:GTGGTGCCGGACCACTTCATCACC(配列番号3)
リバースプライマー:GAAGAGGGCGAAGATTTGGTTGCGGGTCCA(配列番号4)。
【0054】
上記プライマーを組み合わせて使用し、インスタジーン(バイオラッド社製)を用いて調製したビフィドバクテリウム・ロンガムJCM 1217株のゲノムDNAを鋳型とし、PCR反応により増幅させた。その結果、約1790bpの明瞭なバンドが得られた。
【0055】
得られたバンドをクローニングし、DNAシークエンサーで分析したところ、配列番号1に示されるDNA塩基配列が得られた。このDNA塩基配列をアミノ酸に翻訳したところ、ビフィドバクテリウム・ロンガム由来遺伝子と相同な1080bpのオープンリーディングフレーム(ORF)(配列番号2)が認められた。
【0056】
次に、これらのORFによりコードされるタンパク質の活性を確認するために、大腸菌による遺伝子の発現系を構築した。具体的には、ORFの5’末端及び3’末端で作製したプライマー(以下参照)を用いて、ビフィドバクテリウム・ロンガムJCM 1217株のゲノムDNAを鋳型としてORF全長をPCRにより増幅した:
フォーワードプライマー:AACGGACCCCATATGACCGAAAGCAATGAAGTTTTATTC(配列番号5)
リバースプライマー:GCTGACCTCGAGCCTGGCAGCCTCCATGATGTCGGCTAC(配列番号6)。
【0057】
PCR産物を制限酵素NcoI及びXhoIで消化後、同様に処理した市販の遺伝子発現用プラスミドpET(ノバジェン社製)にDNAライゲーションキット(宝酒造株式会社製)を用いて連結した。さらに、これらのプラスミドを用いてSambrook,J.,Fritsch, E. F. and Maniatis, T. "Molecular Cloning, A Laboratory Manual 第2版”1.74章 Vo1. 1 (1989)に記載された方法に従い、大腸菌を形質転換した。
【0058】
以上のようにして得た形質転換体を用い、常法に従って該遺伝子の発現及び組換えタンパク質の生産を行った。得られた組換えタンパク質はNi-NTAアガロース(キアゲン社製)を用いたカラムクロマトグラフィーにより精製酵素標品を得た。
【実施例2】
【0059】
実施例1において得られた精製酵素標品を用い、以下に示す方法によってNアセチルヘキソサミンキナーゼ活性を確認した。
【0060】
0.1Mトリス緩衝液(pH8.5)、1mM Nアセチルグルコサミン、1mM ATP、1mM塩化マグネシウム及び適宜希釈した酵素溶液からなる標準反応溶液を30℃で30分間反応後、100℃で30分間加熱することで反応を停止し、生成したα-Nアセチルグルコサミン1リン酸を陰イオン交換カラムで分離した後、パルスドアンペロメトリ型検出器(ダイオネクス社製)を用いて測定した。
【0061】
その結果、組換えNアセチルヘキソサミンキナーゼはNアセチルグルコサミン及びATPを基質としたときα-Nアセチルグルコサミン1リン酸の生成が確認され、クローニングした遺伝子がNアセチルヘキソサミンキナーゼ遺伝子であることが確認された。また、このときのKm値は0.12mM、k0値は1.85sec-1であった。
【0062】
単離されたタンパク質のNアセチルヘキソサミンキナーゼ活性に関して、至適pHは8.5であり(図1)、pH安定性は30℃30分処理においてpH5から9.5までであり(図2)、反応至適温度は40℃であり(図3)、温度安定性は30分処理で30℃までである(図4)。また、触媒反応にマグネシウムイオンを必要とし、コバルトイオンでも20%の活性がある。また、ドナー基質としてATPに対する活性を100%としたとき、GTP及びITPは44%及び32%の活性を有する。
【0063】
さらに、アクセプター側の基質としてはNアセチルグルコサミンに対する活性を100%としたとき、Nアセチルガラクトサミン、Nアセチルマンノサミン、タロース、マンノース、2デオキシグルコース、グルコース、ガラクトースに対してそれぞれ60、15、3、1.5、0.5、0.1、0.01%の活性を有しており、各基質のα-糖1リン酸の生成が確認できた。
【0064】
以上の結果より、幅広い糖基質特異性を示す糖リン酸化活性を有するタンパク質を見出した。また、ビフィドバクテリウム・ロンガムJCM 1217株においては、配列番号1に示される塩基配列における541番目以降1620番目までの間にタンパク質をコードする領域が存在することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明により、糖リン酸化剤及び糖リン酸化方法が提供される。本発明において使用するタンパク質などは、糖のリン酸化反応を効率的に触媒するものであり、かつ糖基質特異性が低いため、あらゆる種類の糖をリン酸化することが可能である。かかる糖リン酸化剤及び糖リン酸化方法は、例えば、食品加工及び医薬品工業の分野において有用な各種α-糖1リン酸を効率よく製造するために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】酵素の至適pHを示すグラフである。
【図2】酵素のpH安定性を示すグラフである。
【図3】酵素の至適温度を示すグラフである。
【図4】酵素の温度安定性を示すグラフである。

【配列表フリ-テキスト】
【0067】
配列番号3~6:合成オリゴヌクレオチド
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3