TOP > 国内特許検索 > 果物の加工法および該方法により製造された加工食品 > 明細書

明細書 :果物の加工法および該方法により製造された加工食品

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4565190号 (P4565190)
公開番号 特開2007-105000 (P2007-105000A)
登録日 平成22年8月13日(2010.8.13)
発行日 平成22年10月20日(2010.10.20)
公開日 平成19年4月26日(2007.4.26)
発明の名称または考案の名称 果物の加工法および該方法により製造された加工食品
国際特許分類 A23L   1/212       (2006.01)
A23L   1/30        (2006.01)
FI A23L 1/212 A
A23L 1/30 B
請求項の数または発明の数 7
全頁数 12
出願番号 特願2005-301180 (P2005-301180)
出願日 平成17年10月17日(2005.10.17)
審査請求日 平成20年8月14日(2008.8.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】徳安 健
【氏名】松木 順子
個別代理人の代理人 【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
審査官 【審査官】冨士 良宏
参考文献・文献 特開昭57-022663(JP,A)
特開昭57-079847(JP,A)
特開平06-261680(JP,A)
特開2002-291415(JP,A)
特開2003-284522(JP,A)
特開昭63-049055(JP,A)
特開平03-087159(JP,A)
特開昭63-237735(JP,A)
特開平02-084129(JP,A)
特開平08-242799(JP,A)
特開昭59-210863(JP,A)
特開平01-285173(JP,A)
特開2000-069928(JP,A)
調査した分野 A23L 1/212-218
A23L 1/27-308
特許請求の範囲 【請求項1】
緩慢凍結を伴う凍結融解処理を行い、;その後、水洗浄を行って果物の細胞内に存在する消化性糖質および/またはカリウムイオンを除去した後、;以下(a)で示すゲル化・増粘化糖質素材を用いて食感を付与すること、並びに、食味、風味、栄養成分および機能性成分うち少なくとも一つの特性を付与すること、;を特徴とする果物の加工法。
(a):澱粉、澱粉誘導体、アガロース、カードラン、ゲランガム、キサンタンガム、アルギン酸塩、カラゲナン、トラガカントガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、グアーガム、ゼラチン、ペクチン、キトサン、もしくはヒアルロン酸塩のいずれか1以上。
【請求項2】
前記緩慢凍結を伴う凍結融解処理を行った後、加圧処理もしくは加熱処理を行ってから、前記水洗浄を行うことを特徴とする請求項1に記載の果物の加工法。
【請求項3】
前記特性の付与が、以下(b)で示す低カロリーまたは無カロリーの甘味物質を用いた甘味付与を含むものであることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の果物の加工法。
(b):フラクトオリゴ糖、ラクトスクロース、ガラクトオリゴ糖、ラクチュロース、ゲンチオオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ラフィノース、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マニトール、ラクチトール、マルチトール、パラチニット、アスパルテーム、ステビア抽出物、カンゾウ抽出物、もしくはN-アセチルグルコサミンのいずれか1以上。
【請求項4】
前記特性の付与が、カリウムイオンを含まない物質を用いて行われることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の果物の加工法。
【請求項5】
前記果物がリンゴ、梨、柿、モモ、スモモ、サクランボ、イチゴ、スイカ、メロン、キウイフルーツ、びわ、もしくはパイナップルのいずれかであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の加工法。
【請求項6】
前記果物がリンゴ、梨、もしくはパイナップルのいずれかであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の加工法。
【請求項7】
請求項5又は6のいずれかにに記載の果物の加工法により製造された加工食品。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、果物の加工法および該方法により製造された加工食品に関し、詳しくは糖尿病患者、腎臓病患者などのように特定の栄養物質の摂取を制限されている人々に対して有用な果物の加工法および該方法により製造された加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
生鮮食品の組織を改変して付加価値を増した加工食品を製造するための研究開発については、例えば、凍結・融解等による生鮮食品素材の組織構造の破壊・改変について、スライスリンゴ等の果実への糖液の浸透を目的とした技術(特許文献1)や、果実類等の色調や形状を保持した状態での内部へのチョコレート等の浸透や菓子製造を目的とした技術(特許文献2)、あるいは、植物食品素材内部に酵素を急速に含浸させて、その形状や食味を改善することを目的とした技術(特許文献3)などが知られている。
【0003】

【特許文献1】特開平6-261680号公報
【特許文献2】特開2002-291415号公報
【特許文献3】特開2003-284522号公報 しかしながら、これらは、もとの果物等のもつ食味や香りを可能な限り残しつつ加工を行うという考え方に基づいていた。それに対して、本発明は、例えば果物から糖質を除去するために適用する場合には、果物の食味のうち、最も特徴的な甘みを意図的に除去することにより糖質の摂取を抑えるという考え方に基づいている。
【0004】
果物には消化性の高い糖質を多く含むものがあり、糖尿病患者、糖尿病の疑いが持たれる者、血糖値が気になる者、体重の管理に注意をする者、あるいは摂取エネルギーの管理に注意をする者等にとっては注意や制限が必要となる。また、腎不全等、腎臓病患者はカリウムイオン摂取量を抑える必要があり、カリウムイオンを豊富に含む果物の摂取は強く制限されている。
これらの者に対する食事制限は、これまで摂取してきた食品を摂取したいという欲求に繋がり、食生活上のストレスにつながることが予想される。このことから、もしも、果物のもつ新鮮な食感が味わえるならば、上記の者のQOL(生活の質)を高めることができると期待される。
制限が必要な糖質やカリウムイオンの摂取を抑制しつつ、天然素材である果物の有する食感や味質を楽しむことを実現するための技術開発が望まれていたが、糖質やカリウムイオンを除去しつつ、生の状態の食感で食される果物の複雑な食感を再現するという考え方は存在しなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意努力を重ねた結果、果物の細胞内に存在する糖質やカリウムイオンを除去したのち、適宜、カロリーを抑えた甘味料、カリウムイオンを含まない成分、増粘剤、ゲル化剤等を添加することにより、果物本来の味質や食感等を再現し、さらに高付加価値化することを特徴とした果物の加工方法を開発し、生の状態で食される果物の複雑な構造特性をできるだけ崩さずに、加工食品等として再現する方法を開発することに成功し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に示すものである。
請求項1: 緩慢凍結を伴う凍結融解処理を行い、;その後、水洗浄を行って果物の細胞内に存在する消化性糖質および/またはカリウムイオンを除去した後、;以下(a)で示すゲル化・増粘化糖質素材を用いて食感を付与すること、並びに、食味、風味、栄養成分および機能性成分うち少なくとも一つの特性を付与すること、;を特徴とする果物の加工法。
(a):澱粉、澱粉誘導体、アガロース、カードラン、ゲランガム、キサンタンガム、アルギン酸塩、カラゲナン、トラガカントガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、グアーガム、ゼラチン、ペクチン、キトサン、もしくはヒアルロン酸塩のいずれか1以上。
請求項2: 前記緩慢凍結を伴う凍結融解処理を行った後、加圧処理もしくは加熱処理を行ってから、前記水洗浄を行うことを特徴とする請求項1に記載の果物の加工法。
請求項前記特性の付与が、以下(b)で示す低カロリーまたは無カロリーの甘味物質を用いた甘味付与を含むものであることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の果物の加工法。
(b):フラクトオリゴ糖、ラクトスクロース、ガラクトオリゴ糖、ラクチュロース、ゲンチオオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ラフィノース、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マニトール、ラクチトール、マルチトール、パラチニット、アスパルテーム、ステビア抽出物、カンゾウ抽出物、もしくはN-アセチルグルコサミンのいずれか1以上。
請求項4: 前記特性の付与が、カリウムイオンを含まない物質を用いて行われることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の果物の加工法。
請求項5: 前記果物がリンゴ、梨、柿、モモ、スモモ、サクランボ、イチゴ、スイカ、メロン、キウイフルーツ、びわ、もしくはパイナップルのいずれかであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の加工法。
請求項6: 前記果物がリンゴ、梨、もしくはパイナップルのいずれかであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の加工法。
請求項: 請求項5又は6のいずれかに記載の果物の加工法により製造された加工食品。

【発明の効果】
【0007】
本発明により、果物から糖質やカリウムイオンなどを意図的に除去し、これらの摂取を抑制しつつ、天然素材である果物の有する食感を堪能できるような加工食品とその製造法が提供される。
そのため、本発明は特定の疾患を有するために、食生活を十分に楽しめなかった特定の者に対するQOL向上に繋がることが挙げられる。
また、果物の形状をもつ新機能性食品の開発が可能となることにより、消費者が親しみやすい健康管理の実現に資する。
これらのことにより、食品開発が活性化するとともに、落果、未熟果、開発品種等の有効利用を踏まえた農業生産現場における新産業創出の原動力となることが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下において、本発明を説明する。
本発明の対象とされる果物には制限はなく、落果、未熟品などの未利用果物や未登録品種なども含まれる他、加工品であってもよい。本発明では、これら果物から糖質および/またはカリウムなどの無機イオンを意図的に除去した後、新たに食味、栄養成分等の所定の特性を付与する。
【0009】
ショ糖、グルコースや果糖のような糖質やカリウムイオンの大部分は、果物の細胞質内に存在していると考えられる。これらを細胞内から取り出す際の流出挙動は様々な果物において共通性が高いものと考えられることから、本発明に係る加工技術には共通点が多い。
例えば、果物の組織から糖質やカリウムイオンを最大限に除去した加工品を製造する場合、構成する細胞質の大部分を破壊する必要がある。しかしながら、一日の食事から得られる糖質やカリウムイオンの摂取をゼロに抑える必要はなく、また、他の食品を含む食事から多少は摂取してしまうと考えられることから、本発明の目的を考えた場合、消化性糖質やカリウムイオンを全く含まない食品を作る必要性は小さく、ある程度の量をカットすることによって、これらの物質の摂取に関して量的な管理を行うことにより管理効果が得られることは明白である。
従って、均一性や再現性の高い加工法を用いて、特定成分の含有率が計算できる加工食品を製造できれば、糖質やカリウムイオンなどを必ずしも100%除去せずとも、一定量減らしただけでも加工によるメリットは十分に発揮できるものと期待される。
【0010】
糖質摂取量やカロリーの管理を必要とする者等にとって、果物から除去すべき糖質は消化性糖質であり、高分子物質である澱粉等の他、低分子物質であるショ糖、ブドウ糖、果糖等が対象となる。一般に、果物にはショ糖、ブドウ糖、果糖、マルトース、澱粉等が含まれる。これらの物質の多くはアミロプラスト、液胞など細胞内部に蓄積される。細胞間層では低分子物質は流動性が高いが、高分子である澱粉等の流動性は低下することから、適宜、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼ等の分解酵素により澱粉等の低分子化処理を行うことにより、その除去効率が向上する。
【0011】
ところで、細胞質の破壊に際しては、QOL向上に貢献する加工食品を作るため、果物のもつ食感を可能な限り維持または再現できるような方法を採用する必要がある。そのため、細胞質の破壊過程には注意が必要である。破壊により張りがなくなり、一時的に組織が柔らかくなることがあっても、果物の組織構造をできるだけ変えずに再現できるような破壊法を用いることが望ましい。
また、部分的に組織の張りのある構造が残存している方が、元の食感等を再現しやすくなり、逆に、全体の組織を潰すとパルプ状になり、元に戻すのが極めて困難になる。先述したとおり、100%の糖質などを除去する必要がないということは、良質な食品として果物のイメージを再現する上では重要な考え方である。
【0012】
組織の破壊を防ぐためには、細胞壁の物理的破壊を必要最低限に抑えるのみならず、細胞間を接着する役割を果たすと考えられているペクチン質等の細胞壁間成分の軟化・漏出を可能な限り抑えるべきである。ペクチンが分離・溶出することにより、細胞壁はバラバラに分離してしまい、組織の再構築は不可能となる。ペクチン質は、未熟果では水不溶のプロトペクチンとして存在しているが、成熟果では水可溶性のペクチンに変化する。一方、過熟果では加水分解されてペクチン酸となり、再び水不溶性を示すことが知られている。
自己の細胞壁溶解酵素による軟化を防ぐためには、果実の短時間の加熱などによる酵素の失活処理等が有効である。しかしながら、ペクチンの構造を維持するカルシウム等の無機イオンとの結合を熱水処理やキレート剤処理により切断すると、ペクチンが軟化して溶出することが知られていることから、注意が必要である。
【0013】
果物のもつ食感を支える最大の要素は、細胞質の存在による張りである。野菜を水に浸すと膨圧が上がり、シャキシャキした食感が増すことが知られている。細胞質を破壊すると膨圧を維持できなくなることから、組織の構造も弱くなり、食感も大きく変化する。例えば、リンゴでは、凍結処理および洗浄によって糖質等をほぼ完全に除くと、組織はパルプ状またはスポンジ状に潰れ、元の生の状態とは大きく異なった素材になってしまう。
細胞質の破壊後に生鮮食品の食感を再現するためには、細胞質が存在していた空間に気体、液体、ゲルまたは固体である何らかの物質を入れる必要がある。細胞質の破壊処理が細胞質のみに作用して、組織構造がほぼ完全な状態で残っている場合、組織部分の物質の通導性は低く、低分子の糖質、無機イオンや低分子有機酸や香気成分等の低分子物質のみが移動すると考えられる。
細胞質同士を繋ぐ原形質連絡部分についても、本来、分子量数百程度の物質しか通過させないことが知られている。このような場合、細胞質が存在していた空間へ増粘多糖などの高分子物質を浸透させるのは困難である。一方、細胞質の破壊に伴って組織構造の一部が物理的に破壊されたか、あるいは注射針などの管状物を刺す等の方法により人為的に組織構造を破壊した場合、外部からの高分子物質の導入は容易になる。組織の再生に大きく影響しない程度に、部分的に組織構造を破壊することは、ゲル等の高分子を内部に導入する際には有効である。しかしながら、破壊されている部分を中心に物質は導入されることから、拡散ムラの存在が食感に及ぼす影響を考慮する必要が生じる。
【0014】
細胞質の破壊を効率的に行うために、必要に応じて、工程の適切な段階において、剥皮、種子や芯の除去、細分化、浸透圧処理、加熱処理、圧力処理等の一次処理を行い、加工適性や組織の特性を向上させることが考えられる。つまり、本発明の内容は、丸ごとの果物の中の直接的な組織改変のみならず、簡単な加工を施された果物の細胞質を破壊する工程を含む。また、外皮を一部分、またはほぼ完全に残したまま、細胞質の破壊を行うことにより、残った組織の形状が安定化することがある。サクランボやブドウなどについては、一次加工を行わずに食卓に並ぶ物であることから、外皮の大部分を残したまま加工することにより、食品としてのイメージを残すことが可能となる。
【0015】
細胞質の破壊法については、様々な方法が存在するが、実用性の高さや処理効率から絞り込むと、加圧処理による破壊法、凍結・融解による破壊法、加熱処理(電子レンジ等の電子線処理を含む。)による破壊法のうち、単独あるいは複数の方法を利用した破壊法をとることが望ましい。例えば、加圧による方法については、気体を導入する方法や組織を機械的に押し潰す方法等が考えられる。シリンジの針をリンゴ組織内部に突き刺し、空気を導入して加圧破壊する方法では、高い抵抗を受けた後に、組織の一部分が破裂して空気が浸透する。
また、凍結・融解処理については、細胞質を破壊する程度に氷晶を大きくするために緩慢凍結を行い、最大氷結晶生成帯とよばれる-0.5~-5℃近辺の範囲をゆっくりと通過させることが望ましい。生鮮食品の低温貯蔵法の開発の際には、逆に、凍結による細胞質の破壊に伴う浸出液(ドリップ)の生成が問題となり、生鮮食品ごとに、ドリップの生成と温度管理条件との関係が調べられてきている。その条件は、各々の食品や大きさ等によって大きく異なる。本発明では、ドリップを多く出しつつ、組織全体を破壊しない条件に氷晶を成長させて処理することが望ましい。また、凍結により褐変するバナナや、異臭を発生するイチゴのように、凍結に伴う特異的な品質変化には注意が必要である。
【0016】
電子レンジによる加熱処理は、短時間で内部まで熱が伝達しやすい点で望ましい処理方法であり、この方法によれば、短時間でドリップの浸出も観察されるが、長時間の加熱を行うと、ペクチン質による結合が解離し、ほぐれやすくなってしまうことがあるほか、水分の蒸発の際に糖質が組織内に残存することに対する注意が必要である。細胞質成分を十分に除去する等の目的で条件を検討する場合には、加熱しすぎず、冷却をしながら複数回の処理を行う等の工夫をすることが望ましい。
【0017】
糖質やカリウムイオンを効率的に除去するためには、さらに洗浄を行って組織内に残存するものを外に出す作業を行うことが望ましい。低分子の糖質やカリウムイオンは水に溶けやすい性質をもつことから、洗浄工程においては、水中あるいは適宜、アスコルビン酸塩、カルシウム塩等を安定化剤として加えた溶液中に細胞質破壊処理後の果物を浸漬し、撹拌や加圧処理等を行うことにより糖質を染み出させる方法、細胞質破壊処理後の果物の表面から高圧で上記の水や上記の溶液を吹き付けて洗い流す方法、管状物を細胞質破壊処理後の果物の内部に刺し、そこから上記の水や溶液を流して除く方法などを用いることができる。
【0018】
果物の細胞質から糖質を除去した後に、元の果物の特性を回復させるためには、適宜、甘味等を再現することが望ましい。甘味については、フラクトオリゴ糖、ラクトスクロース、ガラクトオリゴ糖、ラクチュロース、ゲンチオオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ラフィノース、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マニトール、ラクチトール、マルチトール、パラチニット、アスパルテーム、ステビア抽出物、カンゾウ抽出物、N-アセチルグルコサミン等の低カロリー・無カロリー甘味料等を用いることにより、その食品から摂取するカロリーや血糖値上昇への寄与を抑制することが可能となる。
その他にも、適宜、本来の果物が有していた揮発性成分や有機酸、エステル類、ビタミン類などの成分を添加することや、果汁から糖質のみを除去した後に新たな甘味成分と共に添加することなどにより、本発明に係る加工食品の風味や味質を元の果物のものに近づけることができるほか、栄養機能の強化等の付加価値が上昇するものと考えられる。
【0019】
果物の色については、リンゴなどの場合は、ポリフェノールの酸化等による褐色化や変色などが起こることが知られている。これを防止するため、食塩水に浸漬したり、アスコルビン酸塩等の抗酸化剤を加えたりするなど、公知の方法を用いて本発明に係る加工食品の色を維持・向上させることが可能である。
その他、軽い加熱処理(ブランチング)を行った後に凍結することにより、果物中の酵素が失活し、分解酵素の活性や色素、抗酸化成分等の化学変化が抑制される。また、適宜、食用色素等を用いて着色することも考えられる。
【0020】
果物由来の加工食品を製造する際に、機能性をもつ成分を添加することにより、その加工食品に新たな特性を付与することが可能となる。例えば、変形関節炎患者に対して一定の効果が認められることが報告されている機能性成分であるN-アセチルグルコサミンや、抗酸化成分や血糖値低下成分等として知られる種々の機能性成分、特定保健用食品に用いられる「関与する成分」としての食品成分等の添加により、果物のイメージを持たせた新食品の開発が可能となり、健康管理がスムースに行われるものと期待される。
【0021】
細胞質成分を除去した果物に対して食感などの特性を付与するためには、当該果物の組織内部に目的とする特性の付与に適合する物質を導入して、立体的な組織構造を再生させる必要がある。なお、本発明において果物に特性を付与するにあたり、当該果物に対し必要に応じて形状の再現を同時に行うことを包含する。
果物の組織内部への物質の注入・置換に関しては、液体やゲル化物質等の溶液や分散液等に浸漬する方法や、それを減圧下で吸収させる方法などの他、適宜、注射針等の管状物を刺して、加圧により液体や気体等を注入する方法などの方法が考えられる。また、減圧下で液体を吸収させるためには、前処理として気体により組織内部を置換することが望ましい。
【0022】
弾力を中心とした食感の再現・改変については、澱粉やその誘導体、アガロース、カードラン、ゲランガム、キサンタンガム、アルギン酸塩、カラゲナン、トラガカントガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、グアーガム、ゼラチン、ペクチン、キトサン、ヒアルロン酸塩等のゲル化・増粘化する糖質素材・タンパク質を単独あるいは複合的に利用したり、ゲル化に係るカルシウム等の無機イオンを加えたりする方法が考えられるほか、気泡や炭酸ガスの泡などの気体の導入が有効である。
ゲル化する素材を組織内に導入する際には、均一に分散または溶解している状態で行う必要がある。カードラン、ゲランガム、アガロース、ゼラチン、キサンタンガムなどのように、加熱により素材が均一に分散し、温度を下げると、ゲル化するものについては、果物由来の組織の温度も同様に上昇させて高温での導入を行うことが望ましい。
【0023】
次に、本発明において用いるカリウムイオンを含まない物質について、以下に説明する。
急性腎炎、腎不全等、腎臓病に係る症状が発現した患者は、必要に応じてカリウムの摂取を制限した食生活を営む必要があるが、一般に、果物はカリウムイオンを多量に含むことが知られている。本発明の成果を活用すれば、果物内部に含まれるカリウムイオンを除去した後に、カリウムイオンを含まないように注意して選んだ物質によって甘味、酸味、食感等の特性を整えた調整物を用いて置換することができる。
また、陽イオン交換樹脂処理等によって果汁等の混合物からカリウムイオンを除去して、この品質を必要に応じて調整した後、前処理した果物組織内部に導入することができる。「カリウムイオンを含まない」あるいは「カリウムイオン量を十分に抑えた」という特性を付与した加工食品は、上記諸症状が発現した患者が摂取することができる点において、QOL向上に貢献する新食品となりうると考えられる。

【0024】
一方、果物の堅さ・脆さなどについては、アルギン酸塩、ゲランガム等の食感の改変に関与するいくつかのゲルがエタノール等による脱水処理により硬化して、シャリシャリした食感を付与することが知られている。アガロース、カードラン、ゲランガム等については、ゲル濃度を高くすることにより、脆くシャリシャリしたゲルを形成することが知られており、ゲル化による物性の付与は公知の食品ゲル形成方法や物性改変方法を用いて行うことが可能である。凍結処理により、ゲルの構造を破壊して脆くすることもできる。また、堅いゲル内部に気泡等の柔らかい成分を導入して、咀嚼時の脆さを表現することができる。
【0025】
果物の組織の堅さ・脆さを制御するために、水分量を調節することも重要である。一般的な脱水・乾燥を行うと、組織内部に存在する水が移動する結果、組織内部の空間が不可逆的に狭くなると考えられる。例えば、60℃程度、常圧でリンゴを数時間乾燥させた場合、組織は大幅に収縮し、水分を加えても元のサイズには戻らない。それに対して、凍結乾燥を行えば、内部の水分を凍結させたまま昇華させることができ、細胞壁組織の収縮が抑制される。
細胞質を破壊して組織内に内容物を導入して形状を安定化させた後に、凍結乾燥により水分を除き、さらに水分を加えることによって組織構造の状態を制御する方法が考えられる。
【0026】
果物の水分量は、堅さ・脆さにも影響を及ぼす一方で、果物の咀嚼特性に影響する因子としても重要である。みずみずしさやジューシー感等の食感を与えたり、柔らかい質感を維持したりするためには、ヒアルロン酸、グリセロール、トレハロース、水溶性キチン等の保水性の高い物質を用いる他、ゲルの内部に人工的に液体や柔らかいゲルを入れ込むなどの方法によって咀嚼時に水分が漏れ出すように設計すべきである。
さらに、高濃度のトレハロース水溶液等の結晶化しやすい物性をもつ成分を含ませておき、これを組織内で結晶化させることにより、独特のサクサクした質感を表現することは既知であり、本発明に適用することができる。
【0027】
本発明において用いられる前処理、細胞質の破壊、糖質やカリウムイオンの除去(洗浄を含む)、形状再生、特性付与等の操作、あるいはその一部を自動化するための装置、に関しては、市販のものを利用できるし、必要に応じて既存の装置に適宜改良を加えることによって、本発明の加工食品を効率的に製造することができる。
特に、糖質量やカリウムイオンに関する製品管理や衛生管理を厳密にすべき果物加工製品を作る場合、凍結融解条件、熱処理条件、洗浄条件、しばしばゲルが固化しないような温度条件などの管理が必要となるようなゲル化剤処理条件を一定にすることが必要となるほか、衛生的な工程を用意する必要がある。
このように、本発明における果実の加工法によって良質な製品を製造するために、公知の技術を活用した装置を組み立てることが望ましい。
【0028】
果物のうち、低分子の糖質やカリウムイオンが豊富なリンゴ、梨、柿、モモ、スモモ、サクランボ、イチゴ、スイカ、メロン、キウイフルーツ、びわ、パイナップルなどについては本発明の効果が大きいと考えられる。また、本発明が糖質やカリウムイオンを除去しつつ食感などを残すことを特徴としていることから、落果した未熟リンゴのような未利用果実や、味質が低くても組織の食感が際だつような未登録品種などについても対象を拡げ、利用可能性を考慮することができる。さらに、栽培時から意図的に食感のみに注目した新食品素材の開発を行うことが可能である。
本発明により得られる加工食品は特定保健用食品や病者用食品としての利用も包含される。


【実施例】
【0029】
本発明についてさらに具体例を挙げて説明するが、かかる説明によって本発明が何ら限定されるものではないことは勿論のことである。
(実施例1)
リンゴ(サンつがる)果肉を1辺6ミリメートル程度の立方体(約2グラム)に切り、その切片を-20℃に5日間保存した。その後、これを取り出し、室温に放置して解凍したのちに、イオン交換水で洗浄を行い、細胞質成分をドリップとして除去した。
洗浄液(合計1リットル)の中に含まれる糖質(ショ糖、果糖およびグルコース)量をイオンクロマトグラフィーによって測定した。また、同じ大きさの切片を20ミリリットルのイオン交換水中に浸けて、Aceホモジナイザー(AM-2型、池本理化工業株式会社)を用いて5,000rpmで10分間砕いた後、破砕液を遠心分離(20,600×g、3分間)して得た上澄みを用いて、イオンクロマトグラフィーを行うことにより、未処理のリンゴ果肉中の全糖量を計算した。測定条件は以下の通りである。
【0030】
装置:イオンクロマトグラフ(DX-500、日本ダイオネクス株式会社)
カラム:Carbopac PA1guardcolumn(4 x 50 mm)およびCarbopac PA1(4 x 250 mm)(日本ダイオネクス社)
検出装置:パルスドアンペロメトリー検出器
データ解析ソフト:PeakNet(日本ダイオネクス株式会社)
溶離液:38 mM水酸化ナトリウム水溶液
流速:1 ml/分
サンプル注入量:10.0 μl
【0031】
その結果、全糖量(11.4%)のうち76.6%の糖質がドリップとして除去されたことが明らかとなった。
【0032】
(実施例2)
実施例1の操作において、凍結融解処理を行った後にイオン交換水で洗う段階で、スパーテルを用いて加圧して組織を軽く潰しながら、実施例1の方法よりも厳しい方法で細胞質成分を洗浄除去した。その結果、遊離した糖質は11.3%となり、全糖量のうち99.0%の糖質がドリップとして除去されたことが明らかとなった。
【0033】
(実施例3)
実施例1の方法で糖質をドリップとして除去したリンゴ切片に対して、ニードルつき1 mlプラスチックシリンジ((株)テルモ)を用いて空気を注入する操作を立方体の各面、計30カ所程度について行うことにより、加圧により組織を破壊しつつ、全体の形状を整えた。
その結果、リンゴ切片は、10 mm程度の直方体に近い形に再生された。染色・ゲル化液(1%食用色素赤(共立食品株式会社)を溶解した2%アガロース水溶液)を60℃に保温し、その0.4 mlを同じシリンジを用いて当該リンゴ切片の中心部から注入した。その際、液の一部はシリンジの穴から漏出した。
この切片を室温で10分静置した後、ほぼ同じ体積の直方体になるように二つに切って、断面の染色を確認した結果、色素は中央部から細部に同心円状に濃く分布し、その直径は7.0 mmであることが明らかとなった。また、その外側の部分についても薄赤色に着色していた。同様の方法で1.0 mlの染色・ゲル化液を注入した場合、リンゴ切片の断面全域が濃い赤色に染色された。
【0034】
(実施例4)
実施例1の方法で凍結したリンゴ切片を電子レンジ(ER-VS11(WT)、(株)東芝)を用いて30秒間加熱した後、直ちに冷水で洗いドリップとして出てきた糖質を除去した。この電子レンジ・洗浄処理をもう一回繰り返した。
続いて、この切片を実施例3と同様にニードルつき1 mlプラスチックシリンジを用いた加圧により組織を破壊しつつ、全体の形状を整えた。得られた切片を、斜めに寝かせた25ml容プラスチックシリンジ((株)テルモ)内部に入れて、60℃に暖めておいた2%ゲランガム水溶液を5 ml加え、先端の口から空気を出しつつプランジャーを押し入れることにより内部の空気を殆ど全て出した。
その後、先端の口を指で塞ぎ、プランジャーを1秒間のうちに5 ml分引っ張り、引っ張った位置に30秒間維持することにより、減圧状態を保ち、切片内部の空気を抜くと共に、ゲランガム溶液で置換した。処理終了後、シリンジから切片を取り出し、直ちに4℃で30分間置いてゲル化を促した。ドリップを洗浄した後の段階での切片と比較して、減圧処理によってゲルを導入した切片については、ややシャキシャキした食感が新たに付与された。
【0035】
(実施例5)
ナシ(幸水)果肉を1辺6ミリメートル程度の立方体(約2グラム)に切り、実施例1と同様の方法で糖質量を測定・比較した。その結果、全糖量(9.80%)の68.5%の糖質がドリップとして除去されたことが明らかとなった。
【0036】
(実施例6)
実施例5のナシ切片について、凍結融解処理を行った後にイオン交換水で洗う段階で、実施例2の方法と同様に、スパーテルを用いて加圧して組織を軽く潰しながら、実施例5の方法よりも厳しい方法で細胞質成分を洗浄除去した。
その結果、全糖量のうち95.7%の糖質がドリップとして除去されたことが明らかとなった。
【0037】
(実施例7)
実施例5の方法で糖質をドリップとして除去したナシ切片に、ニードルつき1 mlプラスチックシリンジを用いて空気を注入する操作を立方体の各面、計30カ所程度について行うことにより、形状を整えた。4%ゲランガム(大日本製薬株式会社)を加熱溶解させた後、10%になるようにエリスリトール(低カロリー糖質系甘味料)を加えて溶解させて60℃に維持したもの1 ml程度を素早く同じシリンジに取り、直ちに切片内部に注入した。切片外に出たゲルをふき取った後、室温で10分間静置しゲランガムをゲル化させた。
実施例5のドリップ除去後のナシ切片は、高さが7 mm程度の殆ど無味なスポンジ様の繊維であったが、処理後の切片は、高さが10 mm程度に膨れ、弾力のある立方体の形状と良質の甘みやシャキシャキした歯触りを有していた。
【0038】
(実施例8)
ナシ(幸水)をヘタを上にして台に置き、上から見て放射状になるように、外皮が残ったままほぼ8等分して、内側上下中央部のへた部分をくの字に切り取った。この切片を外皮が下になるように置いて、-20℃で24時間静置した後、冷蔵庫で1晩解凍させた。
ドリップを流水で洗い流した後、しぼんだ切片に対して、実施例7の方法にならい、1 mlプラスチックシリンジの先の針を刺し、50カ所に空気を入れて形を整えた。その後、同じシリンジを用いて、予め70℃に暖めた3%ゲランガム水溶液を10 ml果肉全体に注入した。これを冷蔵庫に入れて30分間静置してゲランガムをゲル化させた。空気注入およびゲランガム処理をせずに、他の操作を同様に行った切片は、ナシのざらざら感があるものの、張りのない食感であったが、ゲランガムを注入したものは弾力があり、シャキシャキした歯触りを有していた。
【0039】
(実施例9)
実施例4にならい、パイナップルの角錐台の切片(上底15 mm、上幅20 mm、下底30 mm、下幅20 mm、高さ30 mm、下底側が果実の外方向に位置)を電子レンジ加熱した後に洗浄する工程を3回繰り返した。
その後、シリンジの針を切片の底部から刺し、内部の20%N-アセチルグルコサミンの溶解した10%ゼラチンを1ミリリットルずつ、10カ所から導入した。これを4℃で1時間保存した。
シリンジによる注入処理前のパイナップル切片は甘みが弱く、質感もパサパサしていたが、シリンジによる注入処理を行った切片は、組織内あるいは組織周辺に浸透したゲルによる重量感とN-アセチルグルコサミン由来の甘みを有していた。
【0040】
(実施例10)
実施例8の方法で凍結融解してドリップを出した外皮付きナシ切片(39.7 g)について、切片の表面についたドリップを軽く水で洗浄し、洗浄液を浸出したドリップと合わせて水で100 mlにメスアップした。この液体のカリウムイオン濃度を、イオン・pHメータ(IM-55G、東亜ディーケーケー株式会社、カリウム電極(K-2031、東亜ディーケーケー株式会社)を用いて測定した結果、凍結融解工程のみの細胞破壊によってドリップとして切片から外部に除かれたカリウムイオン量は9.4 mgとなった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明により、糖質やカリウムイオンなどを除去した果物に、食味、風味、栄養成分、機能性成分、食感などの特性を付与した果物加工品が提供される。
この加工品を、特定の疾患を有するために、食生活を十分に楽しめなかった特定の者に提供して、QOL向上に資することができる。さらに、果物の形状をもつ新機能性食品の開発が可能となり、消費者が親しみやすい健康管理の実現に資する。
さらには、落果、未熟果、開発品種等の有効利用を踏まえた農業生産現場における新産業創出の原動力となることが期待される。