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明細書 :抗原抗体反応の検出方法と抗原抗体反応検出用キット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4742342号 (P4742342)
公開番号 特開2007-139681 (P2007-139681A)
登録日 平成23年5月20日(2011.5.20)
発行日 平成23年8月10日(2011.8.10)
公開日 平成19年6月7日(2007.6.7)
発明の名称または考案の名称 抗原抗体反応の検出方法と抗原抗体反応検出用キット
国際特許分類 G01N  33/543       (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01Q  60/24        (2010.01)
FI G01N 33/543 593
G01N 33/53 Q
G01N 33/53 T
G01N 13/16 A
請求項の数または発明の数 9
全頁数 13
出願番号 特願2005-336594 (P2005-336594)
出願日 平成17年11月22日(2005.11.22)
審査請求日 平成20年7月28日(2008.7.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】杉山 滋
【氏名】若山 純一
【氏名】関口 博史
【氏名】佐宗 めぐみ
【氏名】大谷 敏郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
審査官 【審査官】赤坂 祐樹
参考文献・文献 特開平07-181191(JP,A)
特表2003-517153(JP,A)
特開平09-288109(JP,A)
特開平11-160334(JP,A)
調査した分野 G01N 33/53-33/543
特許請求の範囲 【請求項1】
原子間力顕微鏡を用いて抗原抗体反応を検出する方法において、測定に用いる溶液として、タンパク質及び糖鎖またはそれらの酵素,熱,酸による分解物、ペプチド、長鎖炭化水素化合物から選ばれた少なくとも1種の物質と界面活性剤とを含有する溶液を用い、原子間力顕微鏡における探針及び基板の一方に抗体を、他方に抗原をそれぞれ固定し、前記溶液中で前記探針と前記基板とを一旦接触させた後、0.5μm/s以上、500μm/s以下の速度で前記探針を徐々に前記基板から引き離すときに要する力を計測して、抗原抗体反応を検出することを特徴とする、抗原抗体反応の検出方法。
【請求項2】
測定に用いる溶液中における前記分解物の含有量が、0.01重量体積%以上、30重量体積%以下である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗原が、人又は動物にアレルギーを誘起する物質である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体として、アレルギーを有する人又は動物から採取した血清に含まれるイムノグロブリンEを使用し、前記抗原として、複数の既知のアレルゲン物質又はアレルゲンである可能性を有する物質を使用し、前記イムノグロブリンEと前記複数の物質との間の相互作用力を計測することにより、前記人又は動物がアレルギー反応を呈する物質を特定することを特徴する請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記抗体及び/又は抗原を、直鎖高分子鎖を介して探針及び基板に固定する請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記抗体又は抗原を固定するための探針及び/又は基板が、シリコン、酸化シリコン、窒化シリコン、ガラス、マイカ、表面に水酸基を有する物質、金或いは金の薄膜を表面に形成した物質からなるものである請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記探針及び/又は基板として、その表面がアミノ基、チオール基、カルボキシル基、アルデヒド基、エポキシ基の少なくとも一つを有するシラン化合物により改質されているものを用いる請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
探針及び/又は基板表面のシラン化合物による改質が、シラン化合物蒸気と、探針及び/又は基板表面とを、シラン化合物量が反応容器容積の0.000001%以上、1%以下、反応温度が4℃以上、120℃以下、反応時間が1時間以上、1週間以下の条件で接触させることにより行われる請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記探針が、先端に平坦面を有する原子間力顕微鏡用カンチレバーであって、前記平坦面の面積が500nm以上、100μm以下である請求項1乃至8のいずれかに記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原抗体反応の検出方法と抗原抗体反応検出用キットに関し、詳しくは原子間力顕微鏡を用いて抗原抗体間に働く相互作用を検出する方法と、これを検出するのに用いる抗原抗体反応検出用キットに関する。本発明によれば、免疫反応にかかわるアレルゲンなどの物質を検出することができる。
【背景技術】
【0002】
現在、抗原抗体反応の検出には、蛍光標識した抗体を対象試料に作用させて試料に結合した蛍光強度から抗原を検出する蛍光免疫法(例えば、特許文献1参照)や酵素を結合した抗体を使用して酵素活性(主に呈色反応)により検出するELISA法(Enzyme linked immuno sorbent assay, 酵素免疫測定法)などが広く用いられている。
【0003】
一方、食品や環境などに由来するアレルゲンの検出には、やはり前記蛍光免疫法やELISA法が主に用いられるが、生体由来アレルゲンに限っては、その他に前記アレルゲンが由来する生物種に特異的なプライマーを使用し、PCR法によるDNA増幅の有無により検出する方法も用いられている。
【0004】
最近になって上記方法に加えて、原子間力顕微鏡を使用し、探針に抗体を、基板に抗原をそれぞれ固定し、探針と基板を一旦接触させた後、引き離すのに要する力を計測して、その力の程度から抗原の有無を検出する方法も研究されている。
【0005】
蛍光免疫法やELISA法による抗原抗体反応及びアレルゲンの検出、又はPCR法によるアレルゲンの検出には、いずれの場合も最低3時間程度の時間が必要であった。
また、蛍光や呈色反応の検出、或いはDNAの抽出のためには、ある程度の量の試料が必要であり、マイクログラム単位の極微量の試料への対応は困難であった。
【0006】
これに対して、原子間力顕微鏡などの微弱力検出装置を使用する場合は、原理的には一分子対一分子の検出が可能であり、マイクログラム単位の極微量試料への対応も可能な上、計測にかかる時間も数分~数十分以内へ短縮が可能である。
【0007】
しかしながら、図5に示すように、このような原子間力顕微鏡を使用する手法では、抗体固定探針と抗原固定基板の間に働く力の大きさと抗体固定探針と非抗原(参照試料)固定基板の間に働く力との差がごく僅かであり、抗原抗体反応の明確な検出手法としては確立されていなかった。
即ち、これまでは、抗体-抗原相互作用に由来する特異的な相互作用と、物理吸着などの非特異的な相互作用を明確に区別することが困難であった。
【0008】

【特許文献1】特開2004-205286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来の問題点を解消し、原子間力顕微鏡を使用しながらも、抗原抗体反応(その有無や強弱)を明確に検出することのできる方法を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、抗原抗体反応を明確に検出することのできる抗原抗体反応検出用キットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記従来の問題点を解消すべく鋭意検討を重ねた。その結果、従来の原子間力顕微鏡による検出は、抗体固定探針と抗原固定基板の間の相互作用力の検出を純水、生理食塩水、緩衝液中などで行っていたが、これに代えて、タンパク質及び糖鎖またはそれらの酵素、熱、酸による分解物、ペプチド、長鎖炭化水素化合物から選ばれた少なくとも1種の物質、さらに必要に応じて界面活性剤を含有する溶液中で行うことにより、目的を達成しうることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、請求項1に係る本発明は、原子間力顕微鏡を用いて抗原抗体反応を検出する方法において、測定に用いる溶液として、タンパク質及び糖鎖またはそれらの酵素,熱,酸による分解物、ペプチド、長鎖炭化水素化合物から選ばれた少なくとも1種の物質と界面活性剤とを含有する溶液を用い、原子間力顕微鏡における探針及び基板の一方に抗体を、他方に抗原をそれぞれ固定し、前記溶液中で前記探針と前記基板とを一旦接触させた後、0.5μm/s以上、500μm/s以下の速度で前記探針を徐々に前記基板から引き離すときに要する力を計測して、抗原抗体反応を検出することを特徴とする、抗原抗体反応の検出方法を提供するものである。
請求項2に係る本発明は、測定に用いる溶液中における前記分解物の含有量が、0.01重量体積%以上、30重量体積%以下である請求項1に記載の方法を提供するものである。
請求項3に係る本発明は、前記抗原が、人又は動物にアレルギーを誘起する物質である請求項1又は2に記載の方法を提供するものである。
請求項4に係る本発明は、前記抗体として、アレルギーを有する人又は動物から採取した血清に含まれるイムノグロブリンEを使用し、前記抗原として、複数の既知のアレルゲン物質又はアレルゲンである可能性を有する物質を使用し、前記イムノグロブリンEと前記複数の物質との間の相互作用力を計測することにより、前記人又は動物がアレルギー反応を呈する物質を特定することを特徴する請求項1乃至3のいずれかに記載の方法を提供するものである。
請求項5に係る本発明は、前記抗体及び/又は抗原を、直鎖高分子鎖を介して探針及び基板に固定する請求項1乃至4のいずれかに記載の方法を提供するものである。
請求項6に係る本発明は、前記抗体又は抗原を固定するための探針及び/又は基板が、シリコン、酸化シリコン、窒化シリコン、ガラス、マイカ、表面に水酸基を有する物質、金或いは金の薄膜を表面に形成した物質からなるものである請求項1乃至5のいずれかに記載の方法を提供するものである。
請求項7に係る本発明は、前記探針及び/又は基板として、その表面がアミノ基、チオール基、カルボキシル基、アルデヒド基、エポキシ基の少なくとも一つを有するシラン化合物により改質されているものを用いる請求項1乃至6のいずれかに記載の方法を提供するものである。
請求項8に係る本発明は、探針及び/又は基板表面のシラン化合物による改質が、シラン化合物蒸気と、探針及び/又は基板表面とを、シラン化合物量が反応容器容積の0.000001%以上、1%以下、反応温度が4℃以上、120℃以下、反応時間が1時間以上、1週間以下の条件で接触させることにより行われる請求項7記載の方法を提供するものである。
請求項9に係る本発明は、前記探針が、先端に平坦面を有する原子間力顕微鏡用カンチレバーであって、前記平坦面の面積が500nm以上、100μm以下である請求項1乃至8のいずれかに記載の方法を提供するものである。

【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、原子間力顕微鏡を使用しながらも、抗原抗体反応を計測する際に、非特異的な相互作用を減少させることができ、抗原抗体反応(その有無や程度)を明確に検出することのできる方法が提供される。
また、本発明によれば、抗原抗体反応を計測する際に、非特異的な相互作用を減少させることができ、抗原抗体反応を明確に検出することのできる抗原抗体反応検出用キットが提供される。
本発明によれば、免疫反応にかかわるアレルゲンなどの物質を検出し、特定することができる。
従って、本発明によれば、抗体と抗原の相互作用やアレルゲンの有無を短時間で明確に検出することが可能になり、食品中の微量成分の検出や同定、医療診断に応用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
請求項1に係る本発明は、抗原抗体反応の検出方法に関し、原子間力顕微鏡を用いて抗原抗体反応を検出する方法において、測定に用いる溶液として、タンパク質及び糖鎖またはそれらの酵素,熱,酸による分解物、ペプチド、長鎖炭化水素化合物から選ばれた少なくとも1種の物質を含有する溶液を用いることを特徴とするものである。
請求項1に係る本発明は、原子間力顕微鏡における探針及び基板の一方に抗体を、他方に抗原をそれぞれ固定し、抗原抗体反応を検出する方法に関するものである。
請求項1に係る本発明は、原子間力顕微鏡を使用し、探針及び基板の一方に抗体を、他方に抗原をそれぞれ固定し、抗原抗体反応の有無を明確に検出する手法を提供するものである。
【0014】
ここで原子間力顕微鏡を用いて抗原抗体反応を検出する方法としては、1つには請求項2に記載したように、原子間力顕微鏡における探針及び基板の一方に抗体を、他方に抗原をそれぞれ固定し、溶液中で前記探針と前記基板とを一旦接触させた後、前記探針を徐々に前記基板から引き離すときに要する力を計測して、抗原抗体反応を検出する方法が挙げられる。
また、原子間力顕微鏡を用いて抗原抗体反応を検出する方法としては、請求項3に記載したように、原子間力顕微鏡における探針に抗体又は抗原のいずれかを固定し、測定溶液中で探針を振動させて探針の共振周波数を測定した後、前記溶液中に前記抗体又は抗原に対応する抗原又は抗体を懸濁させ、再度前記探針を振動させて共振周波数を測定したときの共振周波数の変化から、抗原抗体反応を検出する方法が挙げられる。
【0015】
このように原子間力顕微鏡を用いて、抗原抗体反応(その有無や程度)を明確に検出するが、請求項1に係る本発明は、測定に用いる溶液として、タンパク質及び糖鎖またはそれらの酵素,熱,酸による分解物、ペプチド、長鎖炭化水素化合物から選ばれた少なくとも1種の物質を含有する溶液を用いることを特徴とするものである。
但し、含有する物質は、検出の対象とする特定の抗体及び抗原以外のものとする。
なお、該溶液中に含有する物質としては、後述するように、合計量が0.01w/v%以上、30 w/v %以下のものであれば、1種類に限定されず、2種類以上の混合物であってもよい。
【0016】
ここでタンパク質として具体的には、カゼイン,血清アルブミン,コラーゲン,フィブロイン等が挙げられ、糖鎖としては、アミロース,セルロース,アガロース,ペクチンを挙げることができる。タンパク質の分解物としては、例えば前記タンパク質のトリプシン,ペプシン,キモトリプシン,パパイン,プロテイナーゼKなどによる酵素分解物、糖鎖の分解物としては、例えばアミロースのアミラーゼ分解物、アガラーゼによるアガロース分解物等を挙げることができる。また、タンパク質や糖鎖を、熱,酸により分解しても良い。さらに、親水基を有する長鎖炭化水素化合物としては、例えばポリエチレングリコール,デキストラン及びそれらの誘導体等を挙げることができる。
【0017】
請求項1に係る本発明では、探針及び基板に固定した抗原と抗体の間に働く相互作用力を検出するために、測定に用いる溶液中に、上記したようなタンパク質及び糖鎖またはそれらの酵素,熱,酸による分解物、ペプチド、長鎖炭化水素化合物から選ばれた少なくとも1種の物質を添加する手法を用いている。このような物質の存在により、通常の測定条件では、従来法では無視しえないほど大きく観察されていた、抗原と抗体の間以外に働く非特異的吸着力(基板そのものと探針そのものの間の物理的吸着、抗体又は抗原と探針そのもの、或いは基板そのものの間の物理的、疎水的、静電的吸着など)が、大幅に低減され、抗原と抗体の間に働く相互作用力(抗原抗体反応)を明確に検出することが可能となった。
【0018】
測定に用いる溶液中における前記物質の含有量としては、請求項4に記載したように、0.01重量体積%(以下、w/v%という。)以上、30w/v %以下であることが好ましく、特に1w/v %以上、10w/v %以下であることがより好ましい。
ここで測定に用いる溶液中における前記物質の含有量が0.01 w/v %未満であると、抗原抗体反応を明確に検出するができない。一方、測定に用いる溶液中における前記分解物の含有量が30 w/v %を超えると、測定溶液の粘性が大きくなるなどして計測感度が低下することがあるため、好ましくない。
なお、前記物質を含有させる溶液としては、原子間力顕微鏡による抗原抗体反応の検出に一般に用いられている純水、生理食塩水、リン酸緩衝液、トリス緩衝液などを用いることができる。
【0019】
また、本発明では、請求項5に記載したように、測定に用いる溶液として、タンパク質及び糖鎖またはそれらの酵素,熱,酸による分解物、ペプチド、長鎖炭化水素化合物から選ばれた少なくとも1種の物質に加えて界面活性剤を含有する溶液を用いることもできる。
ここで界面活性剤としては、特に制限はないが、具体的には例えば、Tween-20(ICI Americas, Inc.社の登録商標)やTriton X100(Union Carbide Chemical and Plastics, Inc.社の登録商標)などを挙げることができる。
このような界面活性剤を前記物質と併用した溶液を用いることにより、疎水的な非特異的吸着のさらなる低減を図ることができる。
【0020】
なお、抗原抗体相互作用の検出時に、探針を基板から引き離す速度(探針の引き上げ速度)が低速な場合には、前記物質及び界面活性剤の存在下でも、抗原抗体相互作用力に比べて非特異的な吸着力が大きく計測され、両者の区別が困難となる。
このため、請求項6に記載したように、前記探針を徐々に前記基板から引き離す速度を0.1μm/s以上、1mm/s以下とすることが好ましく、0.5μm/s以上、500μm/s以下とすることがより好ましく、特に10μm/s以上、200μm/s以下とすることが最も好ましい。このような速度で前記探針を前記基板から引き離すことにより、抗原抗体反応を明確に検出することが可能となる。
【0021】
請求項1に係る本発明では、以上のように原子間力顕微鏡における探針及び基板の一方に抗体を、他方に抗原をそれぞれ固定し、抗原抗体反応(その有無や強弱)を検出するが、その測定を複数回行うことにより、より信頼性高く、抗原抗体反応を検出することができる。
例えば、請求項2に係る本発明では、原子間力顕微鏡における探針及び基板の一方に抗体を、他方に抗原をそれぞれ固定し、溶液中で前記探針と前記基板とを一旦接触させた後、前記探針を徐々に前記基板から引き離すときに要する力、換言すると探針及び基板に固定した抗原と抗体の間に働く相互作用力を計測して、抗原抗体反応(その有無や強弱)を検出するが、このような計測を同一の基板及び探針を用いて10回以上、1000回以下の回数行い、さらに抗原の代わりに非抗原(参照試料)を探針及び基板の一方に固定し、前記抗体固定探針又は基板と組み合わせを用いて前記力の計測を10回以上、1000回以下の回数行い、両者の計測された力の大きさの分布を比較して、より信頼性高く、抗原抗体反応を検出することができる。
【0022】
さらに、本発明では、抗原が、人又は動物にアレルギーを誘起する物質である場合には、アレルゲンの検出方法として使用することが可能である。
即ち、請求項7に係る本発明は、前記抗原が、人又は動物にアレルギーを誘起する物質である請求項1乃至6のいずれかに記載の方法(抗原抗体反応の検出方法)を提供するものであるが、これによれば、アレルゲンを検出することができる。
【0023】
また、本発明では、抗体としてアレルギーを有する人又は動物から採取した血清に含まれるイムノグロブリンEを使用し、抗原として、複数の既知のアレルゲン物質又はアレルゲンである可能性を有する物質を使用し、前記イムノグロブリンEと複数の物質の間の相互作用力を順次計測することにより、人又は動物がアレルギー反応を呈する物質、即ち、アレルゲンの種類を特定することができる。
即ち、請求項8に係る本発明は、前記抗体として、アレルギーを有する人又は動物から採取した血清に含まれるイムノグロブリンEを使用し、前記抗原として、複数の既知のアレルゲン物質又はアレルゲンである可能性を有する物質を使用し、前記イムノグロブリンEと前記複数の物質との間の相互作用力を計測することにより、前記人又は動物がアレルギー反応を呈する物質を特定することを特徴する請求項1乃至7のいずれかに記載の方法を提供するものであるが、これによれば、アレルゲンの種類を特定することができる。
【0024】
上記したように、本発明では、前記抗原を人又は動物にアレルギーを誘起する物質とすることにより、食品、飼料等に含まれるアレルゲンを検出する方法としても利用可能であり、さらに、抗体としてアレルギーを有する人又は動物から採取した血清に含まれるイムノグロブリンEを使用し、抗原として複数の既知のアレルゲン物質又はアレルゲンである可能性を有する物質を使用して、両者の相互作用の有無を検出することによって、前記人又は動物がアレルギー反応を呈する物質を特定し、アレルギーの診断、治療に必要な情報を得ることもできる。
【0025】
本発明では、請求項9に記載したように、抗体及び抗原、又はそのいずれかを、直鎖高分子鎖を介して探針及び基板に固定しても良い。ここで直鎖高分子鎖としては、例えばポリエチレングリコール、セルロース、メチルセルロースなどを挙げることができる。
このように、抗体又は抗原と、探針又は基板との結合を直接ではなく、直鎖高分子鎖を介して固定することにより、抗体又は抗原分子が直接基板又は探針の表面に吸着されて変性することを避けることができる。さらに、直鎖高分子鎖に複数の抗体又は抗原分子を固定した場合には、探針を基板に接触させた時点で直鎖高分子上の複数の抗体又は抗原分子が、相互作用の相手である基板又は探針に固定された抗原又は抗体分子と結合する。その後、力を計測しつつ探針を徐々に引き離すとき、直鎖高分子の延伸につれて、抗原抗体分子間の結合が順次破断される。このことにより、抗原抗体間の相互作用力を1分子ずつ計測することが可能となり、測定溶液中にタンパク質及び糖鎖またはそれらの酵素,熱,酸による分解物、ペプチド、長鎖炭化水素化合物から選ばれた少なくとも1種の物質を含有することと併せて抗原抗体反応の高感度検出を行うことができる。
【0026】
前記抗体又は抗原を固定するための探針及び/又は基板、つまり前記抗体又は抗原を固定するための探針と基板、又はそのいずれかは、請求項10に記載したように、シリコン、酸化シリコン、窒化シリコン、ガラス、マイカ、表面に水酸基を有する物質、金或いは金の薄膜を表面に形成した物質から構成することが好ましい。
即ち、本発明に用いる探針及び/又は基板の材質は、シリコン、酸化シリコン、窒化シリコン、ガラス、マイカなどが適しているが、オゾン存在下での紫外線処理を施したポリスチレン、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルメタクリレート等の樹脂;ポリビニルアルコールやポリビニルブチラール薄膜被覆基板などの表面に水酸基を有する物質であっても良い。また、金、或いはスパッタリング、メッキなどにより、金の薄膜を表面に形成した物質でも良い。
【0027】
本発明においては、探針及び/又は基板の表面は、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、アルデヒド基、エポキシ基の少なくとも一つを有するシラン化合物により改質されていても良い。
即ち、請求項11に記載したように、前記探針及び/又は基板として、その表面がアミノ基、チオール基、カルボキシル基、アルデヒド基、エポキシ基の少なくとも一つを有するシラン化合物により改質されているものを用いることができる。
本発明の実施においては、探針又は基板上に、抗体又は抗原を固定する必要がある。そのため、探針又は基板が、シリコン、酸化シリコン、窒化シリコン、ガラス、マイカ及び表面に水酸基を有する物質である場合には、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、アルデヒド基、エポキシ基の少なくとも一つを有するシラン化合物により改質し、抗体表面のアミノ基乃至カルボキシル基と直接、又はスクシイミド基、カルボジイミド基、アルデヒド基等を有する市販のクロスリンカーを介して結合させ、抗体又は抗原を固定する。
一方、探針又は基板が、金、或いはスパッタリング、メッキなどにより金の薄膜を表面に形成した物質である場合には、金-チオール反応を利用し、抗原又は抗体のSH基と直接結合させるか、或いはアミノ基、カルボキシル基などの官能基を有するアルカンチオールと市販のリンカー化合物を利用して、抗体表面の官能基と共有結合を形成させ、抗体乃至抗原固定探針及び基板を作成する。
【0028】
この表面改質は、シラン化合物の蒸気を、基板及び/又は探針表面に接触させて行うことが望ましく、特に窒素雰囲気下で行うことが望ましい。このときの反応条件としては、シラン化合物量が反応容器容積の0.000001%以上、1%以下、反応温度4℃以上、120℃以下、反応時間1時間以上、1週間以下が適切である。
即ち、上記したような探針及び/又は基板表面のシラン化合物による改質は、請求項12に記載したように、シラン化合物蒸気と、探針及び/又は基板表面とを、シラン化合物量が反応容器容積の0.000001%以上、1%以下、反応温度が4℃以上、120℃以下、反応時間が1時間以上、1週間以下、の条件で接触させることにより改質することが望ましい。より好ましくは、シラン化合物量が反応容器容積の0.000001%以上、0.001%以下、反応時間が1時間以上、2日以下、の条件で接触させることにより改質することが望ましい。
これにより、基板表面の平坦性を損なうことなくシラン化合物による表面改質を行うことができる。
【0029】
本発明において、先端に平坦面を有する原子間力顕微鏡用カンチレバーを探針として使用する場合には、請求項13に記載したように、平坦面の面積が500nm以上、100μm以下であることが望ましく、特に平坦面の面積が2500nm以上、1μm以下であることがより望ましい。
本発明の実施は、探針として原子間力顕微鏡用のカンチレバー、探針を基板から引き離す操作とその時の力の測定用の装置として原子間力顕微鏡が用いられる。通常、カンチレバーの先端は先鋭化されており、その先端の曲率半径は10nm以下であることが多い。しかしながら、抗原抗体反応の検出においては、より多くの抗原及び抗体分子の相互作用力を同時に計測することが有利となる。そのため、抗原抗体反応の検出感度・精度を向上するために、先端に平坦面を設けたカンチレバーを使用し、基板面と接触する面積を増加させても良い。このとき平坦面の面積は、前記したように500nm以上、100μm以下であることが適当である。
【0030】
さらに、本発明は、請求項14に記載したように、表面がシラン化合物により改質されている原子間力顕微鏡用カンチレバーと、表面がシラン化合物により改質されている基板と、タンパク質及び糖鎖またはそれらの酵素,熱,酸による分解物、ペプチド、長鎖炭化水素化合物から選ばれた少なくとも1種の物質を含有し、さらに必要に応じて界面活性剤を含有する溶液と、を組み合わせてなる、原子間力顕微鏡での使用に供する抗原抗体反応検出用キットをも提供するものである。
請求項14に係る本発明では、探針として原子間力顕微鏡用カンチレバーを使用している。この原子間力顕微鏡用カンチレバーとしては、表面がシラン化合物により改質されているものを用いている。シラン化合物による改質法としては、前記したとおりである。
このような原子間力顕微鏡用カンチレバーとしては、先端に平坦面を有するものが好ましい。従って、原子間力顕微鏡用カンチレバーとしては、表面がシラン化合物により改質されており、しかも先端に平坦面を有するものが最も好ましい。
【0031】
また、請求項14に係る本発明では、表面がシラン化合物により改質されている基板を用いている。シラン化合物による改質法としては、前記したとおりである。
さらに、請求項14に係る本発明では、表面がシラン化合物により改質されている原子間力顕微鏡用カンチレバーと、表面がシラン化合物により改質されている基板と共に、タンパク質及び糖鎖またはそれらの酵素,熱,酸による分解物、ペプチド、長鎖炭化水素化合物から選ばれた少なくとも1種の物質を含有する溶液を組み合わせて用いている。
但し、該溶液中に含有する物質は、カンチレバー及び基板に固定した、検出の対象とする特定の抗体及び抗原以外のものとする。
このタンパク質及び糖鎖またはそれらの酵素,熱,酸による分解物、ペプチド、長鎖炭化水素化合物から選ばれた少なくとも1種の物質としては、前記したものが挙げられ、特にカゼイン酵素分解物やアルブミンタンパク質などが好適に用いられる。
前記溶液中における前記物質の含有量としては、前記したように、0.01w/v%以上、30 w/v %以下であることが好ましく、特に1w/v %以上、10w/v %以下であることがより好ましい。
【0032】
なお、請求項14に係る本発明では、タンパク質及び糖鎖またはそれらの酵素,熱,酸による分解物、ペプチド、長鎖炭化水素化合物から選ばれた少なくとも1種の物質と共に、界面活性剤を含有する溶液を用いることもできる。界面活性剤としては、前記したものを用いることができる。
【0033】
このようなキットは、原子間力顕微鏡での抗原抗体反応検出用途又はアレルゲン検出用途に供することができる。
【0034】
以下、本発明を図面に基づいて詳しく説明する。
図1は、本発明による抗原抗体反応の検出の手順を示したフローチャートである。
図1では、例として、原子間力顕微鏡用カンチレバーを探針に用い、シラン化合物により表面改質して官能基を導入したマイカ(雲母)を基板として使用した場合を示す。また、抗体を探針に、抗原を基板に固定したものとするが、その逆であっても良い。探針と基板の間に働く力の計測装置は、1pN以上、1nN以下の精度で液中で探針により微弱力を測定可能な液中計測用容器を備えた原子間力顕微鏡装置を使用した。
【0035】
工程1で、原子間力顕微鏡用カンチレバー表面に抗体を結合させる。
金被覆カンチレバーを用いる場合には、金-チオール反応を利用してカルボキシル基を有するアルカンチオールなどを結合させ、さらにスクシイミド基、カルボジイミド基、アルデヒド基等を有する市販のクロスリンカーを作用させて表面を活性化した後、抗体懸濁液に浸漬し、抗体表面のアミノ基と共有結合を形成させることにより抗体を固定する。
一方、シリコン、酸化シリコン及び表面に水酸基を有する樹脂などの物質からなるカンチレバーを使用する場合は、探針表面にアミノ基、チオール基、カルボキシル基、アルデヒド基、エポキシ基などを有するシラン化合物を作用させた後、抗体表面のアミノ基乃至カルボキシル基と直接、又は前記クロスリンカーを介して結合させ、抗体固定探針を作成する。
【0036】
次に、工程2で基板上に抗原を固定する。
抗原の固定は物理的な吸着によっても良いが、より強固な共有結合を形成するため、シラン化合物による基板の表面改質を行う。改質は、劈開したマイカ基板と前記シラン化合物(容器容積の0.000001%量)を、窒素を充填した容器に封入し、25℃にて2日間反応させて行った。
【0037】
図2は、3-アミノプロピルシランによって表面改質を行ったマイカ基板表面の原子間力顕微鏡(AFM)観察像図である。また、図3は、3-アミノプロピルシランによって表面改質を行ったマイカ基板表面の断面図である。
基板表面に一様な凹凸が観察されるが、その高さは0.2~3nm程度であった。この表面粗さは、計測対象である抗原、抗体のサイズ(数nm)に比べて無視しえる程度であり、抗原抗体反応検出の障害にはならない。作成した表面改質マイカ基板に前記クロスリンカーを作用させ、表面を活性化した後、抗原溶液を基板に滴下し、クロスリンカーと反応させて抗原を基板に固定する。或いは、クロスリンカーを作用させずに前記シラン化合物により導入された基板表面の官能基の電荷と抗原の持つ電荷との静電相互用により抗原を固定しても良い。
【0038】
工程3で、抗体を固定したカンチレバーを原子間力顕微鏡のカンチレバーホルダに取り付け、抗原を固定した基板(試料)を液中計測用容器内に取り付け、タンパク質及び糖鎖またはそれらの酵素,熱,酸による分解物、ペプチド、長鎖炭化水素化合物から選ばれた少なくとも1種の物質を含有する溶液で前記容器を満たす。但し、該溶液中に含有する物質は、カンチレバー及び基板に固定した、検出の対象とする特定の抗体及び抗原以外のものとする。
なお、該溶液中に含有する物質としては、合計量が0.01w/v%以上、30 w/v %以下であれば、1種類に限定されず、2種類以上の混合物であってもよい。
さらに、場合によっては、この溶液にさらに界面活性剤を添加する。
【0039】
工程4で、抗体を固定したカンチレバーを徐々に基板に接近させ、最終的に基板に接触させる。
【0040】
その後、工程5で、基板と探針の間に働く力を測定しつつ、カンチレバーを徐々に引き上げる。計測対象試料(抗原固定基板)が複数ある場合は、試料を取り換えて、工程4、5を繰り返し行う。
【0041】
工程6で、抗原固定基板を参照試料(非抗原)を固定した基板と取り換え、抗原抗体反応以外に起因する非特異的相互作用の大きさ(非特異的な吸着力)を計測する。
【0042】
工程7で、前記工程5で得られた測定値が、前記工程6で得られた測定値より有意に大きいことを確認し、計測対象試料における抗原抗体反応の有無を検出する。
【0043】
前記工程4~6では、一つの基板上に一種類の抗原試料が固定されているものとして説明したが、一つの基板を複数の領域に分け、各領域毎に異なる抗原の固定し、さらに参照試料固定領域も合わせて設け、基板の交換をすることなく同一基板上で探針位置又は基板位置を移動して、全ての力計測を行っても良い。
探針と基板の間に働く力は、実際の抗原抗体間の相互作用力に熱揺動に起因する力が加算されて計測されるが、このような微弱な力の計測においては熱揺動に起因する力の寄与が無視できないほど大きくなる。
従って、前記フローチャートにおける抗原抗体反応の検出において、それぞれの抗原試料及び参照試料における基板と探針の間に働く力の計測を一回のみでなく複数回行い、力の大きさの分布を比較することによって、より信頼性の高い検出が可能になる。
【実施例】
【0044】
次に、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【0045】
実施例1
本実施例1では、金薄膜を被覆した原子間力顕微鏡用カンチレバーを探針に用い、3-アミノプロピルシランにより表面改質してアミノ基を導入したマイカ(雲母)を基板として使用した。
抗原としてフェリチン、抗体としてウサギ由来抗フェリチン抗体、参照試料として牛血清アルブミン(BSA)を用いた。
探針にはカルボキシル基を有するアルカンチオール(ここでは7-Carboxy-1-heptanethiol)を結合させ、さらに、N-Hydroxysulfosuccinimide及び1-Ethyl-3-[3-dimethylamino]propyl)carbodiimide hydrochlorideを作用させて表面を活性化し、抗体表面のアミノ基と共有結合を形成させることにより抗体(フェリチン)を固定した。表面改質基板には0.5%グルタールアルデヒドを作用させた後、フェリチン溶液(1mg/ml)を滴下し、フェリチン表面のアミノ基と共有結合を形成させて固定した。力計測は、5%カゼイン酵素分解物及び0.5%界面活性剤(Tween 20)を含むPBS緩衝液中で、原子間力顕微鏡(JPK社製)を用いて行った。探針の引き上げ速度は0.9μm/sとし、測定した相互作用力の大きさをヒストグラムにより表した。
【0046】
図4に、抗体と抗原及び抗体と参照試料の間に働く力の計測結果を示す。また、図6に従来法として、5%カゼイン酵素分解物及び0.5%界面活性剤(Tween 20)を含むPBS緩衝液ではなく、リン酸緩衝液を用いて行った力計測結果を示す。
【0047】
図4によれば、従来法(図6)に比べて、抗原試料と参照試料(非抗原)で計測された力の分布のピークに有意な差が検出されていることが分かる。
【0048】
図5は、同様な力の計測を探針の引き上げ速度17.5μm/sで行った結果である。
抗体固定探針と抗原との間には、約0.3nNの位置にピークを持つ力の分布が計測されたが、参照試料との間には、大きな相互作用力は計測されず、力のピークも観察されなかった。従って、探針により抗体抗原相互作用を明確に検出することができた。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明による抗原抗体反応の検出方法のフローチャートである。
【図2】3-アミノプロピルシランによって表面改質を行ったマイカ基板表面の原子間力顕微鏡(AFM)観察像図である。
【図3】3-アミノプロピルシランによって表面改質を行ったマイカ基板表面の断面図である。
【図4】本発明による、抗体と抗原及び抗体と非抗原(参照試料)の間に働く力の計測結果を示すグラフである(探針引き上げ速度0.9μm/s)。
【図5】本発明による、抗体と抗原及び抗体と非抗原(参照試料)の間に働く力の計測結果を示すグラフである(探針引き上げ速度17.5μm/s)。
【図6】従来の方法による、抗体と抗原及び抗体と非抗原(参照試料)の間に働く力の計測結果を示すグラフである(リン酸緩衝液中)。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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