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明細書 :マダニのロイシンアミノペプチダーゼ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4710001号 (P4710001)
公開番号 特開2006-246747 (P2006-246747A)
登録日 平成23年4月1日(2011.4.1)
発行日 平成23年6月29日(2011.6.29)
公開日 平成18年9月21日(2006.9.21)
発明の名称または考案の名称 マダニのロイシンアミノペプチダーゼ
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   9/64        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C07K  16/40        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12Q   1/37        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 9/64 Z
C12N 5/00 101
C07K 16/40
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12Q 1/37
請求項の数または発明の数 7
全頁数 16
出願番号 特願2005-065550 (P2005-065550)
出願日 平成17年3月9日(2005.3.9)
審査請求日 平成20年2月18日(2008.2.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人帯広畜産大学
発明者または考案者 【氏名】藤崎 幸蔵
【氏名】玄 学南
【氏名】八田 岳士
【氏名】辻 尚利
個別代理人の代理人 【識別番号】100090251、【弁理士】、【氏名又は名称】森田 憲一
審査官 【審査官】松原 寛子
参考文献・文献 特表平10-507455(JP,A)
日本獣医学会学術集会講演要旨集,2005年 3月 1日,Vol.139th,p.209
調査した分野 C12N 15/00
C07K 16/40
C12N 9/64
CA/BIOSIS/MEDLINE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
SwissProt/PIR/GeneSeq

特許請求の範囲 【請求項1】
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、ロイシンアミノペプチダーゼ活性を有するポリペプチド;
(3)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも、ロイシンアミノペプチダーゼ活性を示すポリペプチド;又は
(4)配列番号2で表されるアミノ酸配列との同一性90%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、ロイシンアミノペプチダーゼ活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項2に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項4】
請求項2に記載のポリヌクレオチド、又は、請求項3に記載のベクターによって形質転換されている形質転換体。
【請求項5】
請求項4に記載の形質転換体を培養する工程を含む、請求項1に記載のポリペプチドを製造する方法。
【請求項6】
請求項1に記載のポリペプチドに対する抗体又はその抗原結合断片。
【請求項7】
請求項1に記載のポリペプチドと試験物質とを接触させる工程、及び前記ポリペプチドのロイシンアミノペプチダーゼ活性を分析する工程を含む、前記ポリペプチドのロイシンアミノペプチダーゼ活性を修飾する物質のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、マダニのロイシンアミノペプチダーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
マダニ類によって動物又は人に直接又は間接的に甚大な被害がもたらされている。前者の直接的被害には、咬着と吸血による掻痒や失血、あるいは、吸血時の分泌唾液や腸内容の嘔吐によるアレルギー疾患やダニ麻痺の招来が知られている。後者の間接的被害には、ウイルス、リケッチア、細菌、スピロヘータ、原虫、又は線虫などによる様々な家畜でのその関連疾病を挙げることができ、その損害は、国内はもとより海外でも莫大な金額にのぼる。また、最近は、マダニ類によるいわゆる新興又は再興の人獣共通感染症の脅威が大きな社会問題になりつつある。
【0003】
そのため、各国でマダニ駆除を目的とした各種制圧方法がとられており、その中心をなしているのが、有機リン、カーバメイト、ピレスロイド系、又はマクロライド系抗生物質などの薬剤の利用である。しかしながら、薬剤の連続的使用又は大量使用による、いわゆる薬剤耐性がいずれの薬剤に対しても確立され、殺マダニ効果の消失するものも少なくない。更に、薬剤の使用には常に動物への副作用を考えなくてはならず、同時に、食と環境の安全性を脅かす薬物残留問題があり、消費者から敬遠される傾向にある。その上、薬剤の使用には有効性や適用範囲に加えて、膨大な開発コストの面からも限界が生じつつあり、21世紀における人畜のマダニ寄生と媒介疾病の被害を薬剤使用によって防ぐことは非常に難しい状況にある。
【0004】
マダニを含む吸血性節足動物でも、ウイルスや細菌感染症に見られるような宿主の再感染防御能の獲得が知られており、古くから実験室段階で実証されている(非特許文献1)。近年の遺伝子組換え技術の発達によって、その感染防御抗原、あるいは、吸血性節足動物に特有な変態関連酵素などをコードする遺伝子クローニングが各国で精力的に進められ、安全なワクチンタンパク質や化学療法剤の製造が試みられている。
【0005】
しかしながら、実用化に至っているのは、Willadesenら(非特許文献2)によって開発された1宿主性のマダニ(Boophilus microplus)に対してのみであって、日本を含めたアジア諸国やユーラシア大陸に広く分布し、ピロプラズマ症、Q熱、又はウイルス性脳炎などの人獣共通感染症の媒介者となっているフタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)に対しては、ワクチン候補の探索段階であり、早急なワクチン開発とその実用化が強く望まれている。

【非特許文献1】「ナショナル・インスティチュート・オブ・アニマルヘルス・クオータリー(トウキョウ)(National Institute of Animal Health Quarterly, Tokyo)」 1978年,18巻,27-38頁
【非特許文献2】「プラシトロジー・トゥデー(Prasitology Today)」,(オランダ),1999年,15巻,258-262頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、マダニワクチンとして有用な新規ロイシンアミノペプチダーゼ及びそれをコードするポリヌクレオチドを提供することにある。また、マダニ駆除及びマダニ感染から動物を守るための物質のスクリーニング方法を提供し、様々な人獣共通感染症のマダニ媒介性疾病の防除法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、本発明による、
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、ロイシンアミノペプチダーゼ活性を有するポリペプチド;
(3)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも、ロイシンアミノペプチダーゼ活性を示すポリペプチド;又は
(4)配列番号2で表されるアミノ酸配列との相同性が60%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、ロイシンアミノペプチダーゼ活性を有するポリペプチド
により解決することができる。
【0008】
また、本発明は、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関する。
また、本発明は、前記ポリヌクレオチドを含むベクターに関する。
また、本発明は、前記ポリヌクレオチドを含む形質転換体に関する。
また、本発明は、前記形質転換体を培養する工程を含む、前記ポリペプチドを製造する方法に関する。
【0009】
また、本発明は、前記ポリペプチド若しくはその断片、前記ポリヌクレオチド、又は前記ベクターを有効成分として含む、医薬に関する。本発明の医薬の好ましい態様によれば、マダニに対するワクチンである。
また、本発明は、前記ポリペプチド若しくはその断片、前記ポリヌクレオチド、又は前記ベクターと、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる担体又は希釈剤とを含む、医薬組成物に関する。
また、本発明は、前記ポリペプチド若しくはその断片、前記ポリヌクレオチド、又は前記ベクターを、マダニ駆除の必要な対象に、有効量で投与することを含む、マダニ駆除方法に関する。
また、本発明は、前記ポリペプチド若しくはその断片、前記ポリヌクレオチド、又は前記ベクターを、マダニ媒介性感染症の治療又は予防の必要な対象に、有効量で投与することを含む、マダニ媒介性感染症の治療又は予防方法に関する。
【0010】
また、本発明は、前記ポリペプチドに対する抗体又はその断片に関する。
また、本発明は、前記ポリペプチドと試験物質とを接触させる工程、及び前記ポリペプチドのロイシンアミノペプチダーゼ活性を分析する工程を含む、前記ポリペプチドのロイシンアミノペプチダーゼ活性を修飾する物質のスクリーニング方法に関する。
また、本発明は、ロイシンアミノペプチダーゼ阻害剤、又は前記抗体若しくはその断片を有効成分として含む、マダニ駆除剤に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター、形質転換体、及び抗体によれば、本発明の医薬、特にはマダニワクチンを提供することができる。また、本発明の医薬、特にはマダニワクチンによれば、例えば、マダニ駆除、又はマダニ媒介性感染症(例えば、ピロプラズマ症、Q熱、又はウイルス性脳炎など)の治療若しくは予防が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[1]本発明のポリペプチド
本発明のポリペプチドには、
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、ロイシンアミノペプチダーゼ活性を有するポリペプチド;
(3)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも、ロイシンアミノペプチダーゼ活性を有するポリペプチド(以下、機能的等価改変体と称する);及び
(4)配列番号2で表されるアミノ酸配列との相同性が60%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、ロイシンアミノペプチダーゼ活性を有するポリペプチド(以下、相同ポリペプチドと称する)
が含まれる。
【0013】
本明細書において「ロイシンアミノペプチダーゼ活性」とは、N末端アミノ酸がロイシンであるポリペプチド又はオリゴペプチド(ジペプチドを含む)のN末端アミド結合を分解し、アミノ酸を遊離させる酵素活性を意味する。なお、ロイシンアミノペプチダーゼは、比較的広い基質特異性を有することが知られており、N末端アミノ酸がロイシンである場合に高い分解活性を示すが、ロイシン以外のアミノ酸がN末端アミノ酸であっても分解活性を示す場合がある。従って、本明細書における「ロイシンアミノペプチダーゼ活性」は、少なくとも、N末端アミノ酸がロイシンであるポリペプチド又はオリゴペプチドに対する分解活性を示す限り、特に限定されるものではなく、例えば、N末端アミノ酸がロイシン以外のアミノ酸(例えば、メチオニン、フェニルアラニン)である場合にも分解活性を示すものや、N末端アミノ酸がロイシンである場合だけに分解活性を示すものも含まれる。
【0014】
或るポリペプチドがロイシンアミノペプチダーゼ活性を有するか否かを判定するためには、例えば、試験ポリペプチドとロイシンアミノペプチダーゼ基質とを接触させ、前記基質の分解の有無及び/又は程度を分析することにより判定することができる。より具体的には、公知のロイシンアミノペプチダーゼ活性測定法、例えば、ローリーとジェニファーの方法[RoryとJennifer、JBC. 277 (29), 26057-26065 (2002)]又はその改変法により判定することができ、特に限定されるものではないが、後述の実施例7に記載の方法により判定することが好ましい。
【0015】
実施例7に記載の方法では、ロイシンアミノペプチダーゼの適当な基質(例えば、ロイシンにアミド結合した蛍光標識物質であるL-ロイシン-7-アミノ-4-メチルクマリン)を含有する反応緩衝液中に試験ポリペプチドを添加し、所定時間(例えば、37℃で10分間)インキュベートすることによってアミノ酸(ロイシン)と蛍光色素(7-アミノ-4-メチルクマリン)とに分解させ、蛍光色素に由来する蛍光シグナルを適当な波長[例えば、励起波長λex = 390 nm(あるいは380 nm又は355 nm)、蛍光波長λem = 460 nm]にて検出する。ロイシンアミノペプチダーゼ活性によって基質(L-ロイシン-7-アミノ-4-メチルクマリン)のアミド結合が分解された場合、ロイシンと結合していた蛍光色素は遊離し、増加するので検出される蛍光強度が増加する。この場合には、前記試験ポリペプチドがロイシンアミノペプチダーゼ活性を有すると判定することができる。ロイシンアミノペプチダーゼ反応がない場合には、蛍光色素は遊離しないため、蛍光が検出されない。この場合には、前記試験ポリペプチドがロイシンアミノペプチダーゼ活性を有しないと判定することができる。
【0016】
本発明のポリペプチドである「配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、しかも、ロイシンアミノペプチダーゼ活性を有するポリペプチド」としては、例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのN末端及び/又はC末端に、適当なマーカー配列等が付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、ロイシンアミノペプチダーゼ活性を有する融合ポリペプチド;あるいは、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと、融合用パートナーとの融合ポリペプチドであって、しかも、ロイシンアミノペプチダーゼ活性を有する融合ポリペプチドを挙げることができる。
【0017】
前記マーカー配列としては、例えば、ポリペプチドの発現の確認、細胞内局在の確認、あるいは、精製等を容易に行なうための配列を用いることができ、例えば、FLAGタグ、ヘキサ-ヒスチジン・タグ、ヘマグルチニン・タグ、又はmycエピトープなどを用いることができる。
【0018】
また、前記融合用パートナーとしては、例えば、精製用ポリペプチド[例えば、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)の全部又は一部]、検出用ポリペプチド[例えば、ヘムアグルチニン又はβ-ガラクトシダーゼαペプチド(LacZ α)の全部又は一部]、又は発現用ポリペプチド(例えば、シグナル配列)などを用いることができる。
【0019】
更に、前記融合ポリペプチドにおいては、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと前記マーカー配列又は融合用パートナーとの間に、限定分解するタンパク質分解酵素(例えば、トロンビン又はファクターXa)で切断することができるアミノ酸配列を適宜導入することもできる。
【0020】
本発明の機能的等価改変体は、配列番号2で表されるアミノ酸配列の1又は複数の箇所において、全体として1又は数個(好ましくは1~10個、より好ましくは1~7個、更に好ましくは1~5個)のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも、ロイシンアミノペプチダーゼ活性を有するポリペプチドである限り、特に限定されるものではなく、その起源もフタトゲチマダニに限定されない。
【0021】
例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのフタトゲチマダニにおける変異体が含まれるだけでなく、フタトゲチマダニ以外の生物(例えば、その他のマダニ類、又はヒメダニ類)由来の機能的等価改変体が含まれる。更には、それらの天然ポリペプチド(すなわち、フタトゲチマダニ由来の変異体、あるいは、フタトゲチマダニ以外の生物由来の機能的等価改変体)をコードするポリヌクレオチドを元にして、あるいは、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを元にして、遺伝子工学的に、コードするアミノ酸配列を人為的に改変したポリヌクレオチドを用いて製造したポリペプチドなどが含まれる。なお、本明細書において「変異体」(variation)とは、同一種内の同一ポリペプチドにみられる個体差、あるいは、数種間の相同ポリペプチドにみられる差異を意味する。
【0022】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのフタトゲチマダニにおける変異体、あるいは、フタトゲチマダニ以外の生物由来の機能的等価改変体は、当業者であれば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列(例えば、配列番号1で表される塩基配列における第115番~第1698番の塩基からなる配列)の情報を基にして、取得することができる。なお、遺伝子組換え技術については、特に断りがない場合、公知の方法(例えば、Sambrookら,“Molecular Cloning,A Laboratory Manual”,Cold Spring Harber Laboratory Press,1989)に従って実施することが可能である。
【0023】
例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列の情報を基にして適当なプライマー又はプローブを設計し、前記プライマー又はプローブと、目的とする生物(例えば、その他のマダニ類、又はヒメダニ類)由来の試料(例えば、全RNA若しくはmRNA画分、cDNAライブラリー、又はファージライブラリー)とを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法(Saiki,R.K.ら,Science,239,487-491,1988)又はハイブリダイゼーション法を実施することにより、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを取得し、そのポリヌクレオチドを適当な発現系を用いて発現させ、発現したポリペプチドが、例えば、実施例7に記載の方法により、ロイシンアミノペプチダーゼ活性を有することを確認することにより、所望のポリペプチドを取得することができる。
【0024】
また、前記の遺伝子工学的に人為的に改変したポリペプチドは、常法、例えば、部位特異的突然変異誘発法(site-specific mutagenesis;Mark,D.F.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81,5662-5666,1984)により、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを取得し、そのポリヌクレオチドを適当な発現系を用いて発現させ、発現したポリペプチドが、例えば、実施例7に記載の方法により、ロイシンアミノペプチダーゼ活性を有することを確認することにより、所望のポリペプチドを取得することができる。
【0025】
本発明の相同ポリペプチドは、配列番号2で表されるアミノ酸配列との相同性が60%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、ロイシンアミノペプチダーゼ活性を有するポリペプチドである限り、特に限定されるものではない。本発明の相同ポリペプチドとしては、配列番号2で表されるアミノ酸配列に関して、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなることができる。なお、本明細書における前記「相同性」とは、Clustal program(Higgins及びSharp,Gene,73,237-244,1988;並びにThompsonら,Nucleic Acid Res.,22,4673-4680,1994)により、デフォルトで用意されているパラメータを用いて得られた値を意味する。
【0026】
これらの本発明の新規ポリペプチドは、種々の公知の方法によって製造することができ、例えば、本発明の前記ポリペプチドをコードする本発明のポリヌクレオチドを用いて公知の遺伝子工学的手法により調製することができる。より具体的には、後述する本発明の形質転換体(すなわち、本発明のポリヌクレオチドを含む形質転換体)を、本発明による新規ポリペプチドの発現が可能な条件下で培養し、ポリペプチドの分離及び精製に一般的に用いられる方法により、その培養物から目的ポリペプチドを分離及び精製することにより調製することができる。前記の分離及び精製方法としては、例えば、硫安塩析、イオン交換セルロースを用いるイオン交換カラムクロマトグラフィー、分子篩ゲルを用いる分子篩カラムクロマトグラフィー、プロテインA結合多糖類を用いる親和性カラムクロマトグラフィー、透析、又は凍結乾燥等を挙げることができる。
【0027】
また、本発明には、本発明によるポリペプチドの断片も含まれる。本発明による前記断片は、本発明による医薬の有効成分として、あるいは、本発明の抗体を調製するための抗原として有用である。
【0028】
[2]本発明のポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである限り、特に限定されるものではなく、例えば、配列番号1で表される塩基配列における第115番~第1698番の塩基からなる配列からなるポリヌクレオチドを挙げることができる。なお、本明細書における用語「ポリヌクレオチド」には、DNA及びRNAの両方が含まれる。
【0029】
また、本発明には、本発明のポリヌクレオチドにハイブリダイズ可能な塩基配列を含むポリヌクレオチド、好ましくは本発明のポリヌクレオチドにハイブリダイズ可能な塩基配列からなるポリヌクレオチドが含まれる。本発明のポリヌクレオチドにハイブリダイズ可能な塩基配列としては、本発明のポリヌクレオチドの塩基配列又はその部分配列に、相捕的な塩基配列であることが好ましく、配列番号1で表される塩基配列における第115番~第1698番の塩基からなる配列又はその部分配列に、相捕的な塩基配列であることがより好ましい。
【0030】
[3]本発明のベクター及び形質転換体
本発明のベクターは、本発明による前記ポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば、用いる宿主細胞に応じて適宜選択した公知の発現ベクターに、本発明による前記ポリヌクレオチドを挿入することにより得られるベクターを挙げることができる。
【0031】
また、本発明の形質転換体も、本発明による前記ポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば、本発明による前記ポリヌクレオチドが、宿主細胞の染色体に組み込まれた形質転換体であることもできるし、あるいは、本発明による前記ポリヌクレオチドを含むベクターの形で含有する形質転換体であることもできる。また、本発明によるポリペプチドを発現している形質転換体であることもできるし、あるいは、本発明によるポリペプチドを発現していない形質転換体であることもできる。本発明の形質転換体は、例えば、本発明による前記ベクターにより、あるいは、本発明による前記ポリヌクレオチドそれ自体により、所望の宿主細胞を形質転換することにより得ることができる。
【0032】
前記宿主細胞としては、例えば、通常使用される公知の微生物、例えば、大腸菌又は酵母(Saccharomyces cerevisiae)、あるいは、公知の培養細胞、例えば、動物細胞(例えば、CHO細胞、HEK-293細胞、又はCOS細胞)又は昆虫細胞(例えば、BmN4細胞)を挙げることができる。
【0033】
また、公知の前記発現ベクターとしては、例えば、大腸菌に対しては、pUC、pTV、pGEX、pKK、又はpTrcHisを;酵母に対しては、pEMBLY又はpYES2を;CHO細胞に対してはpcDNA3又はpMAMneoを;HEK-293細胞に対してはpcDNA3を;COS細胞に対してはpcDNA3を;BmN4細胞に対しては、カイコ核多角体ウイルス(BmNPV)のポリヘドリンプロモーターを有するベクター(例えば、pBK283)を挙げることができる。更に、公知の発現ベクターとしては、遺伝子治療用のベクターとして使用することのできるウイルスベクター、例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、又はセンダイウイルス等を挙げることができる。
【0034】
[4]本発明の医薬
本発明の医薬(好ましくはマダニに対するワクチン)は、有効成分として、本発明のポリペプチド若しくはその断片、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のベクターを含む。すなわち、本発明においては、本発明のポリペプチド若しくはその断片、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のベクターを、それ単独で、又は好ましくは薬剤学的若しくは獣医学的に許容することのできる通常の担体又は希釈剤と共に、マダニ駆除の必要な動物、好ましくは哺乳動物(特には、ヒト)に経口的に又は非経口的に投与することができる。
【0035】
本発明の医薬における前記有効成分である、本発明のポリペプチド若しくはその断片、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のベクターをマダニワクチンとして投与すると、抗体産生を誘導することができ、宿主の再感染防御能を介してマダニを駆除することができる。また、その結果として、マダニ媒介性感染症(例えば、ピロプラズマ症、Q熱、又はウイルス性脳炎など)の治療又は予防が可能である。
【0036】
すなわち、本発明の医薬組成物(好ましくは、マダニ駆除用医薬組成物、あるいは、マダニ媒介性感染症の治療又は予防用医薬組成物)は、有効成分としての本発明のポリペプチド若しくはその断片、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のベクターと、薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる担体又は希釈剤とを含む。本発明における有効成分である、本発明のポリペプチド若しくはその断片、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のベクターは、前記医薬(好ましくは、マダニ駆除用医薬、あるいは、マダニ媒介性感染症の治療又は予防用医薬)を製造するために使用することができる。
【0037】
本発明の医薬をマダニワクチンとして使用する場合、本発明のポリペプチドの断片としては、投与対象に投与した場合に、前記断片に対して免疫を誘導するのに充分な断片である限り、特に限定されるものではなく、当業者であれば適宜選択することができる。
【0038】
本発明の医薬(特にはマダニワクチン)では、例えば、本発明のポリペプチドをアジュバント等と混合して、マダニに対するワクチンとして、適当な間隔で動物(例えば、家畜等)に接種することができる。あるいは、本発明のポリペプチドを直接、適当な溶媒に溶解又は懸濁して使用することもできるし、リポソーム中に封入したり、適当なベクターに組み込んだ形にして使用することもできる。また、必要に応じて、本発明のポリペプチドに薬学的に許容し得る担体を添加し、例えば、注射剤、錠剤、カプセル剤、点眼剤、クリーム剤、坐剤、噴霧剤、又はパップ剤等の適当な剤型にして使用することができる。
【0039】
薬学的に許容し得る担体には、当業者には周知の溶媒、基剤、安定化剤、防腐剤、溶解剤、賦形剤、及び緩衝剤等が含まれる。本発明の医薬に含有される本発明のポリペプチドは、このような剤型とした場合、例えば、投与対象の年齢、性別、疾患の種類、又は程度等に応じて、その投与方法及び投与量を適宜設定して使用することができる。
【0040】
経口投与には舌下投与を含む。非経口投与としては、例えば、吸入、経皮投与、点眼、膣内投与、関節内投与、直腸投与、動脈内投与、静脈内投与、局所投与、筋肉内投与、皮下投与、及び腹腔内投与等から適当な方法を選んで投与することができる。
【0041】
[5]本発明の抗体又はその断片
本発明のポリペプチドに反応する抗体(例えば、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体)は、各種動物に、本発明のポリペプチド、又はその断片を直接投与することで得ることができる。また、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを導入したプラスミドを用いて、DNAワクチン法(Raz,E.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91,9519-9523,1994;又はDonnelly,J.J.ら,J.Infect.Dis.,173,314-320,1996)によっても得ることができる。
【0042】
ポリクローナル抗体は、例えば、本発明のポリペプチド又はその断片を適当なアジュバント(例えば、フロイント完全アジュバントなど)に乳濁した乳濁液を、腹腔、皮下、又は静脈等に免疫して感作した動物(例えば、ウサギ、ラット、ヤギ、又はニワトリ等)の血清又は卵から製造することができる。このように製造された血清又は卵から、常法のポリペプチド単離精製法によりポリクローナル抗体を分離精製することができる。そのような分離精製方法としては、例えば、遠心分離、透析、硫酸アンモニウムによる塩析、又はDEAE-セルロース、ハイドロキシアパタイト、若しくはプロテインAアガロース等によるクロマトグラフィー法を挙げることができる。
【0043】
モノクローナル抗体は、例えば、ケーラーとミルスタインの細胞融合法(Kohler,G.及びMilstein,C.,Nature,256,495-497,1975)により、当業者が容易に製造することが可能である。すなわち、本発明のポリペプチド又はその断片を適当なアジュバント(例えば、フロイント完全アジュバントなど)に乳濁した乳濁液を、数週間おきにマウスの腹腔、皮下、又は静脈に数回繰り返し接種することにより免疫する。最終免疫後、脾臓細胞を取り出し、ミエローマ細胞と融合してハイブリドーマを作製する。
【0044】
ハイブリドーマを得るためのミエローマ細胞としては、例えば、ヒポキサンチン-グアニン-ホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損又はチミジンキナーゼ欠損のようなマーカーを有するミエローマ細胞(例えば、マウスミエローマ細胞株P3X63Ag8.U1)を利用することができる。また、融合剤としては、例えば、ポリエチレングリコールを利用することができる。更には、ハイブリドーマ作製における培地として、例えば、イーグル氏最小必須培地、ダルベッコ氏変法最小必須培地、又はRPMI-1640などの通常よく用いられている培地に、10~30%のウシ胎仔血清を適宜加えて用いることができる。融合株は、HAT選択法により選択することができる。ハイブリドーマのスクリーニングは培養上清を用い、ELISA法又は免疫組織染色法などの周知の方法により行ない、目的の抗体を分泌しているハイブリドーマのクローンを選択することができる。また、限界希釈法によってサブクローニングを繰り返すことにより、ハイブリドーマの単クローン性を保証することができる。このようにして得られるハイブリドーマは、培地中で2~4日間、あるいは、プリスタンで前処理したBALB/c系マウスの腹腔内で10~20日間培養することで、精製可能な量の抗体を産生することができる。
【0045】
このように製造されたモノクローナル抗体は、培養上清又は腹水から常法のポリペプチド単離精製法により分離精製することができる。そのような分離精製方法としては、例えば、遠心分離、透析、硫酸アンモニウムによる塩析、又はDEAE-セルロース、ハイドロキシアパタイト、若しくはプロテインAアガロース等によるクロマトグラフィー法を挙げることができる。
【0046】
また、モノクローナル抗体又はその一部分を含む抗体断片は、前記モノクローナル抗体をコードする遺伝子の全部又は一部を発現ベクターに組み込み、適当な宿主細胞(例えば、大腸菌、酵母、又は動物細胞)に導入して生産させることもできる。
【0047】
以上のように分離精製された抗体(ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を含む)について、常法により、ポリペプチド分解酵素(例えば、ペプシン又はパパイン等)によって消化を行ない、引き続き、常法のポリペプチド単離精製法により分離精製することで、活性のある抗体の一部分を含む抗体断片、例えば、F(ab’)、Fab、Fab’、又はFvを得ることができる。
【0048】
更には、本発明のポリペプチドに反応する抗体を、クラクソンらの方法又はゼベデらの方法(Clackson,T.ら,Nature,352,624-628,1991;又はZebedee,S.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89,3175-3179,1992)により、一本鎖(single chain)Fv又はFabとして得ることも可能である。また、マウスの抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子に置き換えたトランスジェニックマウス(Lonberg,N.ら,Nature,368,856-859,1994)に免疫することで、ヒト抗体を得ることも可能である。
【0049】
[6]本発明のスクリーニング方法
本発明のポリペプチドを用いると、試験物質が、本発明のポリペプチドのロイシンアミノペプチダーゼ活性を修飾(例えば、抑制又は促進)するか否かをスクリーニングすることができる。本発明には、本発明のポリペプチドを含むスクリーニングキットが含まれる。
【0050】
本発明のスクリーニング方法にかけることのできる試験物質としては、特に限定されるものではないが、例えば、ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術(Terrett,N.K.ら,Tetrahedron,51,8135-8137,1995)又は通常の合成技術によって得られた化合物群、あるいは、ファージ・ディスプレイ法(Felici,F.ら,J.Mol.Biol.,222,301-310,1991)などを応用して作成されたランダム・ペプチド群を用いることができる。また、微生物の培養上清、植物若しくは海洋生物由来の天然成分、又は動物組織抽出物などもスクリーニングの試験物質として用いることができる。更には、本発明のスクリーニング方法により選択された化合物(ペプチドを含む)を、化学的又は生物学的に修飾した化合物(ペプチドを含む)を用いることができる。
【0051】
本発明のスクリーニング方法においては、試験ポリペプチドとロイシンアミノペプチダーゼ基質とを接触させる代わりに、本発明のポリペプチドとロイシンアミノペプチダーゼ基質と試験物質とを接触させること以外は、先述のロイシンアミノペプチダーゼ活性の判定方法と同様にして実施することができる。
【0052】
すなわち、本発明のスクリーニング方法では、本発明のポリペプチドとロイシンアミノペプチダーゼ基質と試験物質とを接触させ、前記試験物質の存在下において、前記ロイシンアミノペプチダーゼ基質が、本発明のポリペプチドのロイシンアミノペプチダーゼ活性に基づいて分解されたか否か(あるいは、その分解の程度)を分析することにより、前記試験物質が、本発明のポリペプチドのロイシンアミノペプチダーゼ活性を修飾するか否かを判断する。ロイシンアミノペプチダーゼ基質が、本発明のポリペプチドのロイシンアミノペプチダーゼ活性に基づいて分解されないか、あるいは、前記分解の程度が減少する場合には、前記試験物質が、本発明のポリペプチドのロイシンアミノペプチダーゼ活性を抑制すると判断することができる。一方、本発明のポリペプチドのロイシンアミノペプチダーゼ活性に基づくロイシンアミノペプチダーゼ基質の分解の程度が上昇する場合には、前記試験物質が、本発明のポリペプチドのロイシンアミノペプチダーゼ活性を促進すると判断することができる。
【0053】
ロイシンアミノペプチダーゼ活性を抑制する物質(すなわち、ロイシンアミノペプチダーゼ阻害剤)は、ダニ駆除剤の有用な候補物質であり、例えば、マダニ駆除、又はマダニ媒介性感染症(例えば、ピロプラズマ症、Q熱、又はウイルス性脳炎など)の治療若しくは予防に用いることができる。公知のロイシンアミノペプチダーゼ阻害剤としては、例えば、ベスタチン(Bestatin)又はアマスタチン(Amastatin)を挙げることができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、以下の実施例においては、各種分子生物学、ダニ学、節足動物学、免疫学、及び生化学的な技術を用いた。これらの技術は、Sambrook et al., 1989, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harber Laboratory Pressやその関連書を参考にした。また、DNA解析ソフトとしては、MacVectorTM(Oxford Molecular社)を使用した。
【0055】
《実施例1:マダニ・ロイシンアミノペプチダーゼをコードする遺伝子の単離及び塩基配列決定》
フタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)岡山株[Fujisaki et al., Natl Inst Anim Health Q (Tokyo) 16, 122-128, (1976)]の卵から、アシッドグアニジニウム(Acid Guanidinium)-フェノール-クロロホルム法[Chomczynski et al., Anal Biochem 162: 156-159 (1987)]により、全RNAを抽出した。得られた全RNAから、mRNA単離キット(Oligotex-dT30;Takara社)を用いて、前記キットに添付のプロトコールに従い、ポリARNAを精製した。
【0056】
以下に述べるcDNAライブラリーの構築、イムノスクリーニング、及びcDNAクローンのプラスミド化(in vivo Excision)は、全て、市販の試薬キット(Stratagen社)を用い、キットに添付のプロトコールに従って実施した。ダニmRNA5μgを鋳型とし、cDNA合成キット(ZAP-cDNA Synthesis Kit; Stratagen社)を用いてcDNAを合成した。得られたcDNAをセファロースCL-2Bゲルカラムにてサイズ分画した後、ベクター(Uni-ZAP XR Vector arms; Stratagen社)に挿入し、パッケージング試薬(GigapackIII Gold packaging extract; Stratagen社)にてパッケージングを行なった。パッケージング産物を大腸菌(E.coli XL1-Blue MRF’株)に感染させ、約50万個のcDNAクローンを含むライブラリーを得た。約10万個のcDNAクローンからDNAを抽出し、ロイシンアミノペプチダーゼ遺伝子を増幅するためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の鋳型として用いた。
【0057】
一方、フタトゲチマダニ岡山株の成ダニライセートから、マダニ免疫血清が認識する主要抗原25kDaをドデシル硫酸ナトリウム(SDS)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)ゲルから分離し、リジルエンドペプチダーゼ処理と逆相高速液体クロマトグラフィーから得られた4断片の内部アミノ酸配列をエドマン法により決定した。
【0058】
その内の2つより縮合(degenerateプライマー)[Hl25P1:GGA CNG ART AYG GNY TNA CNT TYA CNG G(配列番号3)及びHl25P2:TGG CAN GAR TAY GGN YTN AC(配列番号4)]を作成し、前記cDNAクローンを鋳型としてPCR産物を得た。塩基配列決定後、更に、前記25kDa抗原をコードするcDNAの5’端を得るために、PCR産物の塩基配列をもとに設計したプライマー[Hl25P14:CCG GAT GGA AGG CCC AGC AAT GTC(配列番号5)とM13リバースプライマーを用いて上記鋳型をもとにPCRを実施し、約700bpのPCR産物を得た。塩基配列解析及びBlastX解析の結果、このPCR産物は、これまでに報告されている他の生物のロイシンアミノペプチダーゼと高い相同性を有しており、フタトゲチマダニロイシンアミノペプチダーゼのN末端をコードするcDNAであることが判明した。
【0059】
C末端のコード領域を得るために、前記cDNA断片よりPCRプライマー[HlLAPP1:TGA CGG GTG ACC GTG CGT GGC(配列番号6)]を設計し、M13フォワードプライマーと共に前記鋳型を使用し、PCRを実施した。得られたPCR産物は、塩基配列解析及びBlastX解析の結果から、フタトゲチマダニロイシンアミノペプチダーゼのC末端とポリAテイルを含むことが確認された。2つのPCR産物(プライマーHl25P14とM13リバースプライマーとの組合せ、及びHlLAPP1プライマーとM13フォワードプライマーとの組合せ)から得られたcDNAの全長は1816bpであり、1584bpのORF(Open Reading Frame)を有していることが確認された(配列番号1)。推測されるタンパク質は527残基のアミノ酸からなり、推定分子量は54kDaであった(配列番号2)。予想されるアミノ酸配列をBLAST法(Basic local alingment search tool; National Center for Biotechnology Information)にて相同性検索を行ったところ、これまでに報告されている他の生物のロイシンアミノペプチダーゼタンパク質に高い相同性を有することが確認された。例えば、ハマダラカ(Anopheles gambiae)との相同性は47%であった
【0060】
《実施例2:マダニ・ロイシンアミノペプチダーゼ融合タンパク質の発現用ベクターの構築》
マダニロイシンアミノペプチダーゼ遺伝子のORF領域をクローニングするために、実施例1で得られたcDNAクローンを鋳型とし、センスプライマー(5'-ACgaatccAATGCTACTGCGCTCGATCG-3';小文字はEcoRIサイトを示す;配列番号7)とアンチセンスプライマー(5'-ACgaatccTTCTGCACCTTGGCAA-3';小文字はEcoRIサイト;配列番号8)とを用いたPCRにて増幅した。PCRは、反応液[鋳型DNA 1μg, 0.1μmol/Lプライマー, 10 mmol/L Tris-HCl (pH8.3), 50 mmol/L KCl, 1.5 mmol/L MgCl2, 2.5U Taq Gold DNA polymerase (Perkin Elmer社)]50μLを、94℃にて1分間、50℃にて1分間、72℃にて2分間の条件で、反応を40サイクル繰り返すことにより実施した。
【0061】
PCR産物をフェノール/クロロホルム処理した後に、エタノール沈澱法にて回収し、蒸留水中に溶解した。得られたDNA液を制限酵素EcoRIで消化した後に、電気泳動にて分離し、DNA精製キット(Biotechnologies社)にて精製し、蒸留水中に回収した。一方、大腸菌発現用ベクターpGEX-4T3(Pharmacia Biotech社)を制限酵素EcoRIで消化した後に、アルカリホスファターゼにて脱リン酸化処理し、その後、PCR産物と同様な方法にて精製した。
【0062】
精製したPCR産物とベクターとを、DNAライゲーションキット(Takara社)を用いて、キットに添付のプロトコールに従って反応させた。大腸菌DH5α株をライゲーション反応産物にて形質転換させ、ロイシンアミノペプチダーゼ遺伝子ORF断片がベクターのグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)と同一方向に挿入された組換えクローンを選択した。プラスミド精製キット(Qiagen社)にて組換えプラスミドを精製した。
【0063】
《実施例3:マダニ・ロイシンアミノペプチダーゼ組換えタンパク質の大腸菌による発現》
実施例2で得られた組換えプラスミドにて、大腸菌DH5α株を形質転換させた後、37℃でアンピシリン含有LB培地で培養した。培養液のOD600nmが0.3~0.5に達した時点で、イソプロピルチオガラクトシド(IPTG)を最終濃度が0.5mmol/Lになるように添加し、更に37℃で4時間培養を続けた。組換えタンパク質の発現は、10%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)-ポリアクリルアミドゲルで電気泳動[Laemmli et al., Nature, 227, 680-685(1970)]を実施した後、クーマシー染色で確認した。その結果、約80kDaの組換えタンパク質の発現が認められ、GSTリーダータンパク質(26kDa)とダニロイシンアミノペプチダーゼタンパク質(54kDa)の融合タンパク質であることが確認された。
【0064】
《実施例4:マダニ・ロイシンアミノペプチダーゼ組換えタンパク質の精製及び抗血清の調製》
実施例3で述べた方法により、大腸菌で発現させた組換えロイシンアミノペプチダーゼ融合タンパク質を、市販のキット(Pharmacia Biotech社)に添付のプロトコールに従って精製した。精製後の組換えロイシンアミノペプチダーゼ融合タンパク質の電気泳動像を図1に示す。図1において、レーン1は、分子量マーカーの泳動結果であり、レーン2は、精製した組換えロイシンアミノペプチダーゼ融合タンパク質の泳動結果であり、レーン3は、精製したGSTタンパク質の泳動結果である。
【0065】
精製した組換えロイシンアミノペプチダーゼ融合タンパク質100μgを含む溶液200μLと、フロイント完全アジュバント(Adjuvant Complete Freund; Difco社)200μLとを混合した後に、BALB/cマウス(8週齢,雌)に腹腔内接種した。腹腔内接種から2週間及び4週間経過後に、それぞれ、組換えロイシンアミノペプチダーゼ融合タンパク質100μgをフロイント不完全アジュバント(Difco社)と混合し、追加接種を行なった。最終接種後から2週目に採血し、得られた血清を-20℃に保存した。
【0066】
《実施例5:イムノブロット法によるネイティブ(天然型)ロイシンアミノペプチダーゼの同定》
実施例4で得られた抗組換えロイシンアミノペプチダーゼ融合タンパク質マウス血清を用い、イムノブロット法[Towbin et al., Proc Natl Acad Sci USA 76: 4350-4354 (1979)]にて天然型ロイシンアミノペプチダーゼタンパク質の同定を行なった。なお、試料として、成ダニライセートを使用した。結果を図2に示す。図2において、レーン1は、分子量マーカーの泳動結果であり、レーン2は、抗組換えロイシンアミノペプチダーゼ融合タンパク質免疫血清を用いた場合の結果であり、レーン3は、抗GSTタンパク質免疫血清(陰性対象)を用いた場合の結果である。図2に示すように、成ダニライセートにおいて54kDaの特異的バンドが検出された。天然型ロイシンアミノペプチダーゼタンパク質の分子量が推定理論値(54kDa)と一致すると考えられた。
【0067】
《実施例6:ロイシンアミノペプチダーゼ組換え体タンパク質に対する免疫血清の反応性の確認》
イムノブロット法を用いて組換えロイシンアミノペプチダーゼタンパク質に対するウサギ免疫血清との反応性を検討した。その結果、組換えロイシンアミノペプチダーゼタンパク質は、ウサギで作製したダニ免疫血清と強く反応することが確認された。このことから、組換えロイシンアミノペプチダーゼタンパク質はダニワクチン候補分子の一つであることが示された。なお、免疫前のウサギ血清と組換えロイシンアミノペプチダーゼタンパク質との反応は認められなかった。
【0068】
《実施例7:マダニ・ロイシンアミノペプチダーゼ組換え体タンパク質のロイシンアミノペプチダーゼ活性の測定》
実施例4で述べた方法により精製した組換えロイシンアミノペプチダーゼ融合タンパク質を用い、ローリーとジェニファーの方法[RoryとJennifer、JBC. 277 (29), 26057-26065 (2002)]を改変してロイシンアミノペプチダーゼ活性の測定を行った。基質には6種類の蛍光性合成ペプチドであるL-ロイシン-7-アミノ-4-メチルクマリン、L-メチオニン-7-アミノ-4-メチルクマリン、L-アラニン-7-アミノ-4-メチルクマリン、L-フェニルアラニン-7-アミノ-4-メチルクマリン、L-リジン-7-アミノ-4-メチルクマリン、及びL-アルギニン-7-アミノ-4-メチルクマリン(ペプチド研究所、大阪)を用いた。
【0069】
蛍光測定用96穴マルチプレート(Thermo Electron)の1穴ごとに反応液(50 mmol/L Tris-HCl, 1 mmol/L MnCl2, pH 8.0)160μLを入れ、精製組換えロイシンアミノペプチダーゼ融合タンパク質(5 μg/mL)20μLを添加し、37℃にて5分間プレインキュベートした。その後1穴ごとに前記の各種基質溶液(1 mmol/L)20μLを添加し、蛍光測定用マルチプレートリーダー(フルオロスキャンアセント, Thermo Electron)を用いて、蛍光シグナル(励起波長λex = 355 nm、蛍光波長λem = 460 nm)を測定した。基質添加1分後から1分間隔で計10回蛍光強度を測定し、蛍光強度が直線増加していることを確認した。
【0070】
ロイシンアミノペプチダーゼ活性は蛍光強度の時間に対する増加率として以下の式:
[(10回目蛍光強度)-(1回目蛍光強度)]/ 9
により算出した。
結果を図3に示す。図3に示すように、基質にL-ロイシン-7-アミノ-4-メチルクマリン又はL-メチオニン-7-アミノ-4-メチルクマリンを用いた場合に強い活性が検出され、L-フェニルアラニン-7-アミノ-4-メチルクマリン又はL-アルギニン-7-アミノ-4-メチルクマリンでは中等度の活性が検出され、その他の基質(L-アラニン-7-アミノ-4-メチルクマリン又はL-リジン-7-アミノ-4-メチルクマリン)では活性が低かった。なお、陰性対象として用いたGSTについては、ロイシンアミノペプチダーゼ活性は検出されなかった。以上により、組換えロイシンアミノペプチダーゼ融合タンパク質がロイシンアミノペプチダーゼ活性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、又はベクターは、例えば、マダニ媒介性感染症の治療又は予防、特にマダニワクチンの用途に適用することができる。
【配列表フリ-テキスト】
【0072】
配列番号1の配列で表される塩基配列において、第1124、1176、及び1357番目の塩基「n」は、任意の塩基を意味する。配列番号2の配列で表されるアミノ酸配列において、第337番目のアミノ酸「Xaa」はGln, Arg, Pro, 又はLeuを意味し、第354番目のアミノ酸「Xaa」はGlu又はAspを意味し、第415番目のアミノ酸「Xaa」はSer, Gly, Arg, 又はCysを意味する。配列番号3~8の配列で表される各塩基配列はプライマー配列である。配列番号3の配列で表される塩基配列において、第5、14、17、20、及び26番目の塩基「n」は、任意の塩基を意味する。配列番号4の配列で表される塩基配列において、第6、15、及び18番目の塩基「n」は、任意の塩基を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】組換えマダニロイシンアミノペプチダーゼ融合タンパク質の電気泳動の結果を示す、図面に代わる写真である。
【図2】組換えロイシンアミノペプチダーゼ融合タンパク質免疫血清による天然型マダニロイシンアミノペプチダーゼタンパク質の検出試験における電気泳動の結果を示す、図面に代わる写真である。
【図3】組換えロイシンアミノペプチダーゼ融合タンパク質のロイシンアミノペプチダーゼ活性の測定結果を示すグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2