TOP > 国内特許検索 > 中空の殻内部に含フッ素アルキル基を有する中空遷移金属錯体、及びその製造方法 > 明細書

明細書 :中空の殻内部に含フッ素アルキル基を有する中空遷移金属錯体、及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007-238519 (P2007-238519A)
公開日 平成19年9月20日(2007.9.20)
発明の名称または考案の名称 中空の殻内部に含フッ素アルキル基を有する中空遷移金属錯体、及びその製造方法
国際特許分類 C07D 213/30        (2006.01)
C07F  15/00        (2006.01)
FI C07D 213/30 CSP
C07F 15/00 C
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 30
出願番号 特願2006-064326 (P2006-064326)
出願日 平成18年3月9日(2006.3.9)
発明者または考案者 【氏名】藤田 誠
【氏名】佐藤 宗太
【氏名】飯田 淳也
【氏名】鈴木 康介
出願人 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
個別代理人の代理人 【識別番号】100108419、【弁理士】、【氏名又は名称】大石 治仁
審査請求 未請求
テーマコード 4C055
4H050
Fターム 4C055AA01
4C055BA01
4C055CA01
4C055DA30
4C055DB17
4C055EA01
4C055GA02
4H050AA01
4H050AA02
4H050BB22
4H050WB14
4H050WB22
要約 【課題】
n1個(n1は6~60の整数を表す。)の遷移金属原子と、2(n1)個の、置換基を有する二座有機配位子とから形成されてなる中空の殻を有する遷移金属錯体であって、前記置換基が少なくとも末端に含フッ素アルキル基を有し、前記中空の殻内部に配向するように形成されている中空遷移金属錯体、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】
中空の殻を有する中空遷移金属錯体であって、前記中空の殻が、n1個(n1は、6~60の整数を表す。)の遷移金属原子と、2(n1)個の二座有機配位子とから形成されてなり、前記二座有機配位子が、末端に含フッ素アルキル基部分をもつ置換基を有するものであり、かつ、前記置換基が中空の殻内部に配向するように形成されていることを特徴とする中空遷移金属錯体、及びその製造方法。
【選択図】 なし。
特許請求の範囲 【請求項1】
中空の殻を有する中空遷移金属錯体であって、前記中空の殻が、n1個(n1は、6~60の整数を表す。)の遷移金属原子と、2(n1)個の二座有機配位子とから形成されてなり、前記二座有機配位子が、末端に含フッ素アルキル基部分をもつ置換基を有するものであり、かつ、前記置換基が中空の殻内部に配向するように形成されていることを特徴とする中空遷移金属錯体。
【請求項2】
中空の殻を有する中空遷移金属錯体であって、前記中空の殻が、n2個(n2は、6、12、24、30または60である。)の遷移金属原子と、2(n2)個の二座有機配位子とから形成されてなり、前記二座有機配位子が、末端に含フッ素アルキル基部分をもつ置換基を有するものであり、かつ、前記置換基が中空の殻内部に配向するように形成されていることを特徴とする中空遷移金属錯体。
【請求項3】
遷移金属化合物(M)と、末端に含フッ素アルキル基部分をもつ置換基を有する二座有機配位子(L)とから、前記置換基が中空の殻内部に配向するように自己組織的に形成されてなる、式:Mn12(n1)(n1は、6~60の整数であり、M同士、L同士は、それぞれ同一であっても、相異なっていても良い。)で表される請求項1に記載の中空遷移金属錯体。
【請求項4】
遷移金属化合物(M)と、末端に含フッ素アルキル基部分をもつ置換基を有する二座有機配位子(L)とから、前記置換基が中空の殻内部に配向するように自己組織的に形成されてなる、式:Mn22(n2)(n2は、6、12、24、30または60であり、M同士、L同士は、それぞれ同一であっても、相異なっていても良い。)で表される請求項2に記載の中空遷移金属錯体。
【請求項5】
前記含フッ素アルキル基部分が、パーフルオロアルキル基であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の中空遷移金属錯体。
【請求項6】
前記遷移金属錯体を構成する遷移金属原子が、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Cd、Os、Ir及びPtからなる群から選ばれる一種であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の中空遷移金属錯体。
【請求項7】
前記二座有機配位子が、式(I)
【化1】
JP2007238519A_000017t.gif
{式中、R、Rはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、置換されていても良いアルキル基、置換されていても良いアルコキシル基、シアノ基またはニトロ基を表す。
m1、m2はそれぞれ独立して、0~4の整数を表す。m1、m2が2以上のとき、R同士、R同士はそれぞれ同一であっても、相異なっていても良い。
Aは、下記式(a-1)~(a-4)
【化2】
JP2007238519A_000018t.gif
〔Rは末端に含フッ素アルキル基を有する基を表す。
は、ハロゲン原子、置換されていても良いアルキル基、置換されていても良いアルコキシル基、シアノ基またはニトロ基を表す。
m3は0~3の整数を表し、m4は0~2の整数を表す。m3が2以上、m4が2のとき、複数個のRは同一であっても、相異なっていても良い。
Qは、-Nr1-(r1は水素原子、アルキル基、アリール基若しくはアシル基を表す。)、-O-、-C(=O)-、-S-、または-SO-を表す。〕で表される基を示す。}で示される化合物であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の中空遷移金属錯体。
【請求項8】
前記Rが、式:-D-Rfで表される基〔Dは、式:-(O-CH)s-で表される連結基(sは1~20の整数を表す)、式:-(CH)t-で表される連結基(tは1~20の整数を表す)、又はこれらの組み合わせからなる連結基を表し、Rfはパーフルオロアルキル基を表す。〕であることを特徴とする請求項7に記載の中空遷移金属錯体。
【請求項9】
前記二座有機配位子が、式(I-1)
【化3】
JP2007238519A_000019t.gif
(式中、D及びRfは前記と同じ意味を表す。)で示される化合物であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の中空遷移金属錯体。
【請求項10】
遷移金属化合物(M)と、末端に含フッ素アルキル基部分をもつ置換基を有する二座有機配位子(L)とを、遷移金属化合物(M)1モルに対し、二座有機配位子(L)を1~5モルの割合で反応させることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の中空遷移金属錯体の製造方法。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属原子と、末端に含フッ素アルキル基部分をもつ置換基を有する二座有機配位子とから形成される中空の殻を有し、二座有機配位子の置換基が中空の殻内部に配向してなる中空遷移金属錯体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
厳密に制御されたナノサイズの中空構造体は、表面、内面、孤立内部空間の3つの領域に分類することができる。これまで、その表面や内部空間については盛んに研究が行われてきたが、人工系において内面を利用した研究例はほとんど報告されていない。
【0003】
近年、フェリチン等の球状タンパク質や球状ウイルスCCMVなど、自然界のナノスケール構造体の内面を利用した研究が行われている。これらの構造体は人工的な刺激により分解されても、再び自己組織化によって元の構造に復元する。球殻構造(中空の殻を有する球状構造)の内面に向くようにサブユニットに対し官能基修飾を行い、自己組織化によって再び球殻構造を形成させることで、球状の内面へ官能基を精密に配置することができる(非特許文献1、2)。
【0004】
本発明者らも、有機配位子と遷移金属イオンとの配位結合を利用した自己組織化を検討している。配位結合は適度な結合力があり方向性が明確に規定されているため、精密に構造が制御された分子集合体を自発的かつ定量的に構築することが可能である。また、金属の種類や酸化数に応じて配位数や結合角を制御することができるため、多様な配位結合性の構造体を得ることができる(非特許文献3~5)。
【0005】
例えば、平面四配位性のPd(II)イオンを用いた場合には配位結合の方向を90度に規定できる。特に、シス位がエチレンジアミン(en)で保護されたパラジウムエチレンジアミン硝酸錯体[(en)Pd(NO](M)と、パネル状の有機配位子(L)からは、配位子に応じた様々な中空構造が最も安定な状態として自己集合する(非特許文献6~11)。
【0006】
また、多成分からなるM1224組成の立方八面体型の球状錯体の自己集合も見出されている(非特許文献12)。得られる錯体は、中心がフランやベンゼンである約120度の折れ曲がり型二座有機配位子24個とPd(II)イオン12個が自己集合し、8枚の正三角形と6枚の正方形の計14枚の面から構成されている。この場合、頂点の数は12、辺の数は24で各々金属イオンと配位子の数に相当する。
【0007】
この構造は、X線結晶構造解析により明らかになっており、直径約3.5nm、内部空間容積約22nmであり、巨大な三次元中空構造が構築されている。また、配位子の長さを変化させた二座有機配位子からも同様にM1224組成の球状錯体が構築されることがわかっており、直径5nmの球状錯体が自己集合する。これらの錯体は、球状という内部の空間が最も広くなる構造をとっており、このサイズであると生体分子のタンパク質や核酸などが包接できる大きさである。
【0008】
上記M1224組成の球状錯体では配位子の所定位置に官能基を導入することによって、自己集合反応を経て球状カプセルのナノ表面に24個の官能基を一挙にかつ精密に配置できることが明らかとなっている。例えば、ポルフィリンやフラーレンを表面に精密に配置した錯体が報告されており(非特許文献12)、球状構造のナノ表面を利用した生理活性や光物性などへの応用が期待されている。
【0009】
また、カチオン性のトリメチルアンモニウム基を導入することで、表面に48の電荷を持つカチオンボールが構築され、タンパク質の変成作用を著しく増大させるといったナノ表面特有の機能が見出されている(非特許文献13)。
【0010】

【非特許文献1】R.M.Kramer,C.Li,D.C.Carter,M.O.Stone,R.R.Naik,J.Am.Chem.Soc.,2004,126,13283
【非特許文献2】T.Douglas,E.Strable,D.Willits,A.Aitouchen,M.Libera,M.Young,Adv.Mater.,2002,14,415
【非特許文献3】P.J.Stang,B.Olenyuk,Acc.Chem.Res.1997,30,507
【非特許文献4】M.Fujita,Chem.Soc.Rev.,1998,27,417
【非特許文献5】B.Olenyuk,A.Fechtenkotter,P.J.Stang,J.Chem.Soc.Dalton Trans.1998,1707
【非特許文献6】M.Fujita,K.Umemoto,M.Yoshizawa,N.Fujita,T.Kusukawa,K.Biradha,Chem.Commun.,2001,509
【非特許文献7】M.Fujita,D.Oguro,M.Miyazawa,H.Oka,K.yamaguchi,K.Ogura,Nature,1995,378,469
【非特許文献8】N.Takeda,K.Umemoto,K.Yamaguchi,M.Fujita,Nature,1999,398,794
【非特許文献9】K.Umemoto,H.Tsukui,T.Kusukawa,K.Biradha,M.Fujita,Angew.Chem.Int.Ed.,2001,40,2620
【非特許文献10】M.Aoyagi,S.Tashiro,M.Tominaga,K.Biradha,M.Fujita,Chem.Commun.,2002,2036
【非特許文献11】T.Yamaguchi,S.Tashiro,M.Tominaga,M.Kawano,T.Ozeki,M.Fujita,J.Am.Chem.Soc.,2004,10818
【非特許文献12】M.Tominaga,K.Suzuki,M.Kawano,T.Kusukawa,T.Ozeki,S.Sakamoto,K.Yamaguchi,M.Fujita,Angew.Chem.Int.Ed.,2004,43,5621
【非特許文献13】矢倉健一郎、卒業論文、東京大学
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような本発明者らの研究開発の一環としてなされたものであり、n1個(n1は6~60の整数を表す。)の遷移金属原子と、2(n1)個の二座有機配位子とから形成されてなる中空の殻を有する遷移金属錯体であって、前記二座有機配位子が、末端に含フッ素アルキル基部分を有するものであり、前記置換基が中空の殻内部に配向するように形成されている中空遷移金属錯体、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは1,3-ビス(4-ピリジルエチニル)ベンゼンの2位に、末端に含フッ素アルキル基部分を有する置換基を導入した化合物を合成し、このものを二座有機配位子として用いて、遷移金属化合物との自己組織的な中空遷移金属錯体の形成を試みた。そして、末端に含フッ素アルキル基部分を有する置換基が錯体の中空の殻内部に配置された中空遷移金属錯体を効率よく得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
かくして本発明の第1によれば、下記(1)~(9)のいずれかに記載の中空遷移金属錯体が提供される。
(1)中空の殻を有する中空遷移金属錯体であって、前記中空の殻が、n1個(n1は、6~60の整数を表す。)の遷移金属原子と、2(n1)個の二座有機配位子とから形成されてなり、前記二座有機配位子が、末端に含フッ素アルキル基部分をもつ置換基を有するものであり、かつ、前記置換基が中空の殻内部に配向するように形成されていることを特徴とする中空遷移金属錯体。
【0014】
(2)中空の殻を有する中空遷移金属錯体であって、前記中空の殻が、n2個(n2は、6、12、24、30または60である。)の遷移金属原子と、2(n2)個の二座有機配位子とから形成されてなり、前記二座有機配位子が、末端に含フッ素アルキル基部分をもつ置換基を有するものであり、かつ、前記置換基が中空の殻内部に配向するように形成されていることを特徴とする中空遷移金属錯体。
【0015】
(3)遷移金属化合物(M)と、末端に含フッ素アルキル基部分をもつ置換基を有する二座有機配位子(L)とから、前記置換基が中空の殻内部に配向するように自己組織的に形成されてなる、式:Mn12(n1)(n1は、6~60の整数であり、M同士、L同士は、それぞれ同一であっても、相異なっていても良い。)で表される(1)に記載の中空遷移金属錯体。
【0016】
(4)遷移金属化合物(M)と、末端に含フッ素アルキル基部分をもつ置換基を有する二座有機配位子(L)とから、前記置換基が中空の殻内部に配向するように自己組織的に形成されてなる、式:Mn22(n2)(n2は、6、12、24、30または60であり、M同士、L同士は、それぞれ同一であっても、相異なっていても良い。)で表される(2)に記載の中空遷移金属錯体。
【0017】
(5)前記含フッ素アルキル基部分が、パーフルオロアルキル基であることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の中空遷移金属錯体。
(6)前記遷移金属錯体を構成する遷移金属原子が、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Cd、Os、Ir及びPtからなる群から選ばれる一種であることを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載の中空遷移金属錯体。
(7)前記二座有機配位子が、式(I)
【0018】
【化1】
JP2007238519A_000002t.gif

【0019】
{式中、R、Rはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、置換されていても良いアルキル基、置換されていても良いアルコキシル基、シアノ基またはニトロ基を表す。
m1、m2はそれぞれ独立して、0~4の整数を表す。m1、m2が2以上のとき、R同士、R同士はそれぞれ同一であっても、相異なっていても良い。
Aは、下記式(a-1)~(a-4)
【0020】
【化2】
JP2007238519A_000003t.gif

【0021】
〔Rは末端に含フッ素アルキル基を有する基を表す。
は、ハロゲン原子、置換されていても良いアルキル基、置換されていても良いアルコキシル基、シアノ基またはニトロ基を表す。
m3は0~3の整数を表し、m4は0~2の整数を表す。m3が2以上、m4が2のとき、複数個のRは同一であっても、相異なっていても良い。
Qは、-Nr1-(r1は水素原子、アルキル基、アリール基若しくはアシル基を表す。)、-O-、-C(=O)-、-S-、または-SO-を表す。〕で表される基を示す。}で示される化合物であることを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載の中空遷移金属錯体。
【0022】
(8)前記Rが、式:-D-Rfで表される基〔Dは、式:-(O-CH)s-で表される連結基(sは1~20の整数を表す)、式:-(CH)t-で表される連結基(tは1~20の整数を表す)、又はこれらの組み合わせからなる連結基を表し、Rfはパーフルオロアルキル基を表す。〕であることを特徴とする(7)に記載の中空遷移金属錯体。
(9)前記二座有機配位子が、式(I-1)
【0023】
【化3】
JP2007238519A_000004t.gif

【0024】
(式中、D及びRfは前記と同じ意味を表す。)で示される化合物であることを特徴とする(1)~(6)のいずれかに記載の中空遷移金属錯体。
【0025】
本発明の第2によれば、下記(10)の本発明の中空遷移金属錯体の製造方法が提供される。
(10)遷移金属化合物(M)と、末端に含フッ素アルキル基部分をもつ置換基を有する二座有機配位子(L)とを、遷移金属化合物(M)1モルに対し、二座有機配位子(L)を1~5モルの割合で反応させることを特徴とする(1)~(9)のいずれかに記載の中空遷移金属錯体の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の第1によれば、精密に制御された大きさの中空の殻を有し、前記二座有機配位子の、末端に含フッ素アルキル基部分をもつ置換基が前記中空の殻内部に配向した特殊な構造を有する中空遷移金属錯体が提供される。
本発明の中空遷移金属錯体によれば、錯体の中空の殻内部をフッ素原子に富んだ環境とすることができるため、フッ素を含む他の分子やイオンをゲストとして選択的に取り込むことが可能となる。また、前記置換基の含フッ素アルキル基の種類等を選択して用いることで、取り込むゲストの種類や数の制御を行うことも可能となる。
【0027】
本発明の第2によれば、複雑なステップを要することなく、球状構造内部に含フッ素アルキル基を有するナノメートルスケールの中空遷移金属錯体(本発明の中空遷移金属錯体)を効率よく製造できる中空遷移金属錯体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を、1)中空遷移金属錯体、及び、2)中空遷移金属錯体の製造方法に項分けして詳細に説明する。
【0029】
1)中空遷移金属錯体
本発明の中空遷移金属錯体は、中空の殻を有する中空遷移金属錯体であって、前記中空の殻が、n1個の遷移金属原子と、2(n1)個の二座有機配位子とから形成されてなり、前記二座有機配位子が、末端に含フッ素アルキル基部分をもつ置換基を有するものであり、かつ、前記置換基が中空の殻内部に配向するように形成されていることを特徴とする。
ここで、n1は6~60の整数である。
本発明の中空遷移金属錯体においては、自己組織化が容易に進行することから、前記n1がn2であるのが好ましい。n2は、6、12、24、30または60、好ましくは6または12、特に好ましくは12である。
【0030】
本発明の中空遷移金属錯体は、遷移金属イオンと、末端に含フッ素アルキル基部分をもつ置換基を有する二座有機配位子との配位結合を利用した自己組織化により形成されるものである。配位結合は適度な結合力があり方向性が明確に規定されているため、精密に構造が制御された分子集合体を自発的かつ定量的に構築することが可能である。また、金属の種類や酸化数に応じて配位数や結合角を制御することができるため、多様な配位結合性の構造体とすることができる。
【0031】
本発明の中空遷移金属錯体としては、遷移金属化合物(M)と、末端が含フッ素アルキル基部分である置換基を有する二座有機配位子(L)(以下、単に「二座有機配位子(L)」ということがある。)とから、前記置換基が中空の殻内部に配向するように自己組織的に形成されてなる、式:Mn12(n1)(n1は前記と同じ意味を表す。)で示されるものが好ましく、遷移金属化合物(M)と二座有機配位子(L)とから、前記置換基が中空の殻内部に配向するように自己組織的に形成されてなる、式:Mn22(n2)(n2は前記と同じ意味を表す。)で示されるものがより好ましい。ここで、M同士、L同士は、それぞれ同一であっても相異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0032】
本発明の中空遷移金属錯体の中空の殻の大きさは、特に制限されないが、直径が3~15nmであるのが好ましい。
【0033】
(1)遷移金属原子
本発明の中空遷移金属錯体を構成する遷移金属原子としては、特に制限されないが、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Cd、Os、Ir及びPtからなる群から選ばれる一種であることが好ましく、平面4配位の錯体を容易に形成し得ることから、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt等の白金族原子が好ましく、Ru、Pd、Ptがより好ましく、Pdが特に好ましい。
遷移金属原子の価数は、通常0~4価、好ましくは2価であり、配位数は、通常4~6、好ましくは4である。
【0034】
(2)二座有機配位子(L)
本発明の中空遷移金属錯体を形成する二座有機配位子(L)は、末端に含フッ素アルキル基部分をもつ置換基を有し、かつ、この置換基が、中空の殻内部に配向するように遷移金属原子と自己組織的に中空遷移金属錯体を形成できるものであれば特に制限されないが、下記に示す式(I)で表される化合物が好ましい。式(I)で表される化合物は、ピリジル基の隣にブリッジ部としてアセチレン基を有し、平面性を保ちつつ、両端のピリジル基の間に広い空間をもった構造を有する。
【0035】
【化4】
JP2007238519A_000005t.gif

【0036】
式中、R、Rはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、置換されていても良いアルキル基、置換されていても良いアルコキシル基、シアノ基またはニトロ基を表す。
m1、m2はそれぞれ独立して、0~4の整数を表す。m1、m2が2以上のとき、R同士、R同士はそれぞれ同一であっても、相異なっていても良い。
Aは、下記式(a-1)~(a-4)で表される化合物の一種を表す。
【0037】
【化5】
JP2007238519A_000006t.gif

【0038】
式中、Rは末端に含フッ素アルキル基を有する基を表し、式:-D-Rfで表される基であるのが好ましい。式中、Dは、式:-(O-CH)s-で表される連結基、式:-(CH)t-で表される連結基、又はこれらの組み合わせからなる連結基を表す。式中、s、tはそれぞれ独立して、1~20の整数を表す。
【0039】
Rfはパーフルオロアルキル基を表す。パーフルオロアルキル基の炭素数としては、特に制約はないが、通常1~20、好ましくは3~10である。また、パーフルオロアルキル基としては、鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0040】
は、ハロゲン原子、置換されていても良いアルキル基、置換されていても良いアルコキシル基、シアノ基またはニトロ基を表す。
m3は0~3の整数を表し、m4は0~2の整数を表す。m3が2以上、m4が2のとき、複数個のRは同一であっても、相異なっていても良い。
【0041】
前記R、R、Rのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。
、R、Rの置換されていても良いアルキル基のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の炭素数1~20のアルキル基が挙げられる。
また、R、R、Rの置換されていても良いアルキル基の置換基としては、ハロゲン原子、アルコキシル基、置換基を有していても良いフェニル基などが挙げられる。
【0042】
、R、Rの置換されていても良いアルコキシル基のアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等の炭素数1~20のアルコキシル基が挙げられる。また、R、R、Rの置換されていても良いアルコキシル基の置換基としては、ハロゲン原子、置換基を有していても良いフェニル基などが挙げられる。
【0043】
Qは、-Nr1-(r1は、水素原子、アルキル基、アリール基、若しくはアシル基を表す。)、-O-、-C(=O)-、-S-、または-SO-を表す。
前記r1のアルキル基としては、メチル基、エチル基などが、アリール基としては、フェニル基、p-メチルフェニル基などが、アシル基としては、アセチル基、ベンゾイル基などがそれぞれ挙げられる。
【0044】
本発明に用いる二座有機配位子(L)としては、下記式(I-1)で表される化合物であるのが特に好ましい。
【0045】
【化6】
JP2007238519A_000007t.gif

【0046】
式中、D及びRfは前記と同じ意味を表す。
二座有機配位子(L)は、公知の合成法を適用することにより製造することができる。
例えば、前記式(I)で表される化合物のうち、下記式(I-2)で表される化合物は、以下に示すように、文献公知の方法(K.Sonogashira,Y.Tohda,N.Hagihara,Tetrahedron Lett.,1975,4467;J.F.Nguefack,V.Bolitt,D.Sinou,Tetrahedron Lett.,1996,31,5527)に従い、製造することができる。
【0047】
【化7】
JP2007238519A_000008t.gif

【0048】
式中、A、R及びm1は前記と同じ意味を表す。
(A-1)は、式:X-A-Xで表される化合物を表す。
Xは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子を表す。
【0049】
すなわち、式(I-2)で表される化合物は、適当な溶媒中、塩基、Pd(PhCN)Cl/P(t-Bu)、Pd(PPh等のパラジウム触媒、及びヨウ化第1銅等の銅塩の存在下に、式(II)で示される4-エチニルピリジン類(又はその塩)と、式(III)で表される化合物(A-1)とを反応させることにより得ることができる。
【0050】
なお、上記反応は、2つの4-エチニルピリジン類(またはその塩)を一挙に反応させて、同じピリジニルエチニル基を2つ有する化合物を製造する例である。相異なる置換ピリジルエチニル基を有する化合物は、対応する4-エチニルピリジン類(またはその塩)を、同様な反応条件で、段階的に反応させることにより得ることができる。
【0051】
ここで用いる塩基としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等のアミン類が挙げられる。
【0052】
用いる溶媒としては、1,4-ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3-ジメトキシエタン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;アセトニトリル等のニトリル類;等が挙げられる。
反応温度は、通常、0℃から用いる溶媒の沸点までの温度範囲、好ましくは10℃~70℃であり、反応時間は、反応規模等にもよるが、通常、数分から数十時間である。
【0053】
4-エチニルピリジン(又はその塩)は、公知の方法で製造することができるが、市販品をそのまま用いることもできる。
【0054】
また、式(III)で表される化合物は、公知の方法で製造することができる。
例えば、前記式(I-1)で表される化合物の製造に用いられる下記式(III-1)で表される化合物は、下記の製造法1又は2により製造することができる。
(製造法1)
【0055】
【化8】
JP2007238519A_000009t.gif

【0056】
(式中、X及びRfは前記と同じ意味を表し、Lは脱離基を表し、基:-O-D’は、前記Dに相当する。)
すなわち、式(IV)で表される化合物と式(V)で表される化合物とを、不活性ガス雰囲気下で、塩基存在下に反応させることにより、式(III-1)で表される化合物を得ることができる。
【0057】
用いる塩基としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水素化ナトリウム等の無機塩基類;トリエチルアミン、ピリジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)等のアミン類;カリウムt-ブトキシド、ナトリウムメトキシド等の金属アルコキシド類;等が挙げられる。
【0058】
この反応は、溶媒中で行うのが好ましい。用いる溶媒としては、反応に不活性な溶媒であれば、特に限定されない。例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;アセトニトリル等のニトリル類;ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類;ピリジン等の芳香族アミン類;等が挙げられる。
【0059】
この反応は、0℃から用いる溶媒の沸点までの温度範囲で円滑に進行する。反応時間は反応規模等にもよるが、数分から48時間である。
(製造法2)
【0060】
【化9】
JP2007238519A_000010t.gif

【0061】
(式中、X、Rf、及びD’は前記と同じ意味を表す。)
すなわち、式(IV)で表される化合物と式(VI)で表される化合物とを、不活性ガス雰囲気下、脱水剤存在下に反応させることにより、式(III-1)で表される化合物を得ることができる。
【0062】
用いる脱水剤としては、特に制限されず、1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルアゾジカルボキシレート(DIAD)等が挙げられる。
この反応は、溶媒中で行うのが好ましい。用いる溶媒としては、反応に不活性な溶媒であれば、特に限定されず、製造法1で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0063】
この反応は、0℃から用いる溶媒の沸点までの温度範囲で円滑に進行する。反応時間は反応規模等にもよるが、数分から48時間である。
【0064】
いずれの反応においても、反応終了後は、通常の後処理操作を行い、及び所望により公知の精製操作を行うことにより、目的物を単離することができる。
得られる化合物の構造は、元素分析、IR、NMR及びMSスペクトル等を測定することにより、同定・確認することができる。
【0065】
本発明の中空遷移金属錯体の一例を図1に示す。図1に示す中空遷移金属錯体は、12個の遷移金属化合物(M)と、24個の二座有機配位子(L)とから構成されている。
図1に示す中空遷移金属錯体は、金属イオン12個と折れ曲がった二座有機配位子(L)24個が自己集合することにより構築され、その内部に広い空間を持つ。また、二座有機配位子(L)は末端に含フッ素アルキル基部分をもつ置換基Rを有し、置換基Rは、中空の殻の内部に精密に配列されている。
【0066】
2)中空遷移金属錯体の製造方法
本発明の中空遷移金属錯体の製造方法は、遷移金属化合物(M)と二座有機配位子(L)とを、遷移金属化合物(M)1モルに対し、二座有機配位子(L)を1~5モル、好ましくは2~3モルの割合で反応させることを特徴とする。
【0067】
本発明に用いる遷移金属化合物(M)は、二座有機配位子(L)と自己組織的に中空遷移金属錯体を形成できるものであれば特に制限されないが、二価の遷移金属化合物が好ましい。
【0068】
遷移金属化合物(M)を構成する遷移金属原子としては、例えば、Ti、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Cd、Os、Ir又はPt等の遷移金属原子が挙げられる。なかでも、平面4配位の錯体を容易に形成し得ることから、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt等の白金族原子が好ましく、Ru、Pd、Ptがより好ましく、Pdが特に好ましい。
【0069】
遷移金属化合物(M)として具体的には、遷移金属の、ハロゲン化物、硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩などが挙げられる。これらの中でも、効率よく、目的とする中空遷移金属錯体が得られることから、遷移金属の、硝酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩が好ましい。
【0070】
遷移金属化合物(M)と二座有機配位子(L)との使用割合は、目的とする中空遷移金属錯体の組成などに応じて適宜設定することができる。例えば、前述した、式:M1224の組成をもつ遷移金属錯体を得たい場合には、遷移金属化合物(M)1モルに対し、二座有機配位子(L)を2~3モルの割合で反応させればよい。
【0071】
遷移金属化合物(M)と二座有機配位子(L)との反応は、適当な溶媒中で行うことができる。
用いる溶媒としては、アセトニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類;N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチルセロソルブ等のセロソルブ類;水等が挙げられる。これらの溶媒は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0072】
遷移金属化合物(M)と二座有機配位子(L)との反応は、0℃から用いる溶媒の沸点までの温度範囲で円滑に進行する。
反応時間は、数分から数日間である。
反応終了後は、有機合成化学における通常の後処理操作を行い、所望によりイオン交換樹脂等によるカラム精製、蒸留、再結晶等の公知の分離精製手段により精製を行うことによって、目的とする中空遷移金属錯体を単離することができる。
【0073】
なお、得られる中空遷移金属錯体の対イオンは、通常、用いる遷移金属化合物(M)の陰イオンであるが、結晶性を向上させたり、中空遷移金属錯体の安定性を向上させる目的で対イオンを交換してもよい。かかる対イオンとしては、PF、ClO、SbF、AsF、BF、SiF2-等が挙げられる。
【0074】
得られた中空遷移金属錯体の構造は、H-NMR、13C-NMR、IRスペクトル、マススペクトル、可視光線吸収スペクトル、UV吸収スペクトル、反射スペクトル、X線結晶構造解析、元素分析等の公知の分析手段により確認することができる。
【0075】
以上のようにして、極めて簡便な操作により、本発明の中空遷移金属錯体を効率よく製造することができる。そのため、グラムスケールでの大量合成も可能である。
【0076】
本発明の中空遷移金属錯体は、ナノメートルスケールの一定の大きさを有し、二座有機配位子(L)の、末端に含フッ素アルキル基を有する置換基Rが錯体の球状構造の内部に配向した、精密に制御された特殊な構造を有する。
【0077】
このように、本発明の中空遷移金属錯体は、二座有機配位子(L)の含フッ素アルキル基が錯体の中空の殻内部に集積しており、殻内部をフッ素原子に富んだ特殊な環境を有している。そのため、本発明の中空遷移金属錯体はその殻内部に含フッ素化合物を選択的に包接することができる。
【0078】
本発明の中空遷移金属錯体の殻内部に包接する含フッ素化合物の数は、殻の大きさ(容積)と含フッ素化合物の大きさに依存する。一般的には、殻が大きいほど多くの含フッ素化合物を包接でき、含フッ素化合物が大きいほど包接される含フッ素化合物の数は少なくなる。その一方、中空遷移金属錯体の殻が小さく、殻内部に存在するフッ素原子間の距離が短くなるほど、よりフッ素原子に富んだ特殊な環境を形成でき、含フッ素化合物を選択的に殻内部に取りこむ能力は高くなると考えられる。
【0079】
本発明の中空遷移金属錯体の殻内部に含フッ素化合物を包接させるには、本発明の中空遷移金属錯体の溶液に含フッ素化合物を添加して、全容を撹拌すればよい。
【0080】
ここで、含フッ素化合物としては、例えば、含フッ素アルカン、含フッ素アルケン等が挙げられる。含フッ素化合物の炭素原子数は、本発明の中空遷移金属錯体が有する殻の大きさに依存するが、通常3~20である。
【0081】
用いる溶媒としては、特に制約はないが、前記遷移金属化合物(M)と二座有機配位子(L)との反応に用いる溶媒として列挙したのと同様のものが挙げられる。また、含フッ素化合物が溶解しない溶媒中であっても、該溶媒中で、本発明の中空遷移金属錯体と含フッ素化合物とを混合することにより、均一な溶液が得られ、含フッ素化合物が中空遷移金属錯体の有する殻内部に取りこまれたことが推測できる。
【0082】
含フッ素化合物と混合・撹拌するときの温度は、特に制限されないが、通常0~50℃、好ましくは10~30℃である。
混合・撹拌時間は、用いる化合物の種類等にもよるが、通常0.5~10時間である。
【0083】
本発明の中空遷移金属錯体の殻内部中に含フッ素化合物が取り込まれたことは、19F-NMRスペクトル、19F-NOESYスペクトル、19F-COSYスペクトル、19F-DOSYスペクトル等を測定し、そのシグナルが変化することで確認することができる。
【実施例】
【0084】
次に、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、実施例により何ら限定されるものではない。
(機器類)
(1)H-NMRスペクトルの測定
H-NMRスペクトルは、Bruker DRX 500(500MHz)NMR spectrometer、及びJEOL JNM-AL 300(300MHz)NMR spectrometerにより測定した。測定温度は27℃である。
溶媒として、CDCl、DMSOを用いた場合は、テトラメチルシラン(TMS)を内部標準とした。
化学シフトはδ値で表示し、次の省略形を用いた。s(一重線)、d(二重線)、t(三重線)、br(ブロード)。
【0085】
(2)13C-NMRスペクトル、及び各種二次元NMRスペクトルの測定
13C-NMRスペクトル及び19F-NMRスペクトルは、Bruker DRX 500(13C:125MHz,19F:470MHz)NMR spectrometerを用いて測定した。測定温度はいずれも27℃である。なお、19F-NMRの測定時には、トリフルオロ酢酸(TFA)を各溶媒に溶かした溶液をガラスキャピラリーに封管したものを外部標準とした。
【0086】
(3)マススペクトルの測定
GC-MSは、Agilent 5973 inertを用いて測定した。
コールドスプレーイオン化質量分析(CSI-MS)は、JEOL JMS-700Cにより測定した。
【0087】
(試薬類)
カラムクロマトグラフィーによる生成物の分離には、ワコーシルC-300(和光純薬)を用いた。
反応溶媒は、和光純薬工業株式会社及び関東化学株式会社で市販されている有機合成用脱水溶媒(水分0.005%以下)をそのまま使用した。
試薬類は、特に精製することなく、市販品をそのまま使用した。
【0088】
(実施例1~4)
下記に示す中空遷移金属錯体(2a)~(2d)を製造した。
【0089】
【化10】
JP2007238519A_000011t.gif

【0090】
(実施例1)中空遷移金属錯体(2a)の製造
【0091】
【化11】
JP2007238519A_000012t.gif

【0092】
(1)1,3-ジブロモ-2-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチロキシ)ベンゼン(4a)の合成
2,6-ジブロモフェノール(1.0g,4.0mmol)と、トリフェニルホスフィン(1.0g,4.0mmol)との混合物に、ジイソプロピルアゾジカルボキシレート(DIAD,0.78mL,4.0mmol)及びテトラヒドロフラン(THF)(10mL)を加え、全容をアルゴン雰囲気下、室温で30分撹拌した後、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロ-1-オクタノール(0.88mL,4.0mmol)を加え、同条件下でさらに12時間撹拌した。
反応混合物を減圧濃縮し、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン)で精製することにより、化合物(4a)(1.8g,3.1mmol)を透明オイルとして得た(収率77%)。
【0093】
(物性データ)
H-NMR(500MHz,CDCl,δppm);7.52(d,J=8.0Hz,2H),6.90(t,J=8.0Hz,1H),4.31(t,J=7.3Hz,2H),2.77(m,2H)
【0094】
GC-MS calcd for C14Br13O([M]);598,found 598
【0095】
(2)1,3-ビス(4-ピリジルエチニル)-2-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチロキシ)ベンゼン(1a)の合成
上記で得た化合物(4a)(1.5g,2.5mmol)、4-エチニルピリジン塩酸塩(0.98g,7.0mmol)、Pd(PhCN)Cl(58mg,0.15mmol)、及びCuI(19mg,0.10mmol)のジオキサン(6mL)溶液に、トリt-ブチルホスフィン(0.77mL,0.31mmol;10%ヘキサン溶液)とジイソプロピルアミン(1.8mL,13mmol)を加え、全容を、アルゴン雰囲気下、50℃で22時間撹拌した。反応混合物に酢酸エチル(10mL)を加えて濾過し、濾液に水(150mL)を加え、エチレンジアミン(1mL)で洗浄後、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮して得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=100:1(v/v))により精製して、配位子(1a)(1.1g,1.7mmol)を白色固体として得た(収率67%)。
【0096】
(物性データ)
融点:65-66℃
H-NMR(500MHz,CDCl,δppm);8.64(d,J=6.0Hz,4H),7.57(d,J=7.5Hz,2H),7.37(d,J=6.5Hz,4H),7.18(t,J=7.5Hz,1H),4.61(t,J=6.5Hz,2H),2.78(m,2H)
【0097】
13C-NMR(125MHz,DMSO-d,δppm);160.2(C),149.9(C),135.0(CH),129.8(C),125.1(CH),124.9(CH),116.0(C),δ91.3(C),88.7(C),78.9(C),66.2(CH),31.1(CH
【0098】
19F-NMR(470Hz,DMSO-d,δppm);-82.0(CF),-113.8(CF),-123.2(CF),-124.2(CF),-124.6(CF),-127.3(CF
【0099】
GC-MS calcd for C281513O([M]);642,found 642
元素分析:Calcd for C281513O:C,52.35;H,2.35;N,4.36、Found:C,52.40;H,2.53;N,4.32
【0100】
(3)中空遷移金属錯体(2a)の製造
上記で得た配位子(1a)(7.0mg,10.9μmol)、及びPd(NO(2.1mg,9.lμmol)を、ジメチルスルホキシド(0.70ml)中、70℃で3時間撹拌した。
反応混合物にジエチルエーテルを加えたところ、白色固体が析出した。遠心分離して上澄みを取り除き、真空乾燥することで目的物(4.6mg)を得た(収率51%)。
【0101】
得られた中空遷移金属錯体(2a)の物性データは、以下の通りである。
H-NMR(500MHz,DMSO-d,δppm);9.23(br,96H),7.74(br,144H),7.33(br,24H),4.55(br,48H),2.88(br,48H)
【0102】
19F-NMR(470Hz,DMSO-d,δppm);-82.9(72F),-114.1(48F),-123.5(48F),-124.7(48F),-125.1(48F),-128.0(48F)
【0103】
CSI-MSは、錯体(2a)のDMSO溶液にCFSONaを添加して、カウンターアニオンをCFSOに交換した後に測定を行った。
【0104】
CSI-MS(CFSO塩、CHCN:DMSO=19:1):m/z;2385.6[M-8(CFSO)]8+,2103.9[M-9(CFSO)]9+,1878.7[M-10(CFSO)]10+,1694.3[M-11(CFSO)]11+,1547.1[M-12(CFSO)+(DMSO)]12+,1540.6[M-12(CFSO)]12+,1416.7[M-13(CFSO)+(DMSO)]13+,1410.7[M-13(CFSO)]13+,1310.342[M-14(CFSO)+2(DMSO)]14+,1304.8[M-14(CFSO)+(DMSO)]14+,1299.2[M-14(CFSO)]14+
【0105】
(実施例2)中空遷移金属錯体(2b)の製造
【0106】
【化12】
JP2007238519A_000013t.gif

【0107】
(1)1,3-ジブロモ-2-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロデシロキシ)ベンゼン(4b)の合成
2,6-ジブロモフェノール(400mg,1.6mmol)と、トリフェニルホスフィン(420mg,1.6mmol)の混合物に、DIAD(0.31mL,1.6mmol)及びTHF(5mL)を加え、反応混合物をアルゴン雰囲気下、室温で30分撹拌した後、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロ-1-デカノール(740mg,1.6mmol、5mLのTHF溶液)を加え、同条件下でさらに12時間撹拌した。
反応混合物を減圧濃縮し、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン)で精製することにより、化合物(4b)(768mg,1.1mmol)を透明オイルとして得た(収率70%)。
【0108】
(物性データ)
GC-MS calcd for C16Br17O([M]);698、found 698
【0109】
(2)1,3-ビス(4-ピリジルエチニル)-2-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロデシロキシ)ベンゼン(1b)の合成
得られた化合物(4b)(700mg,1.0mmol)、4-エチニルピリジン塩酸塩(390g,2.8mmol)、Pd(PhCN)Cl(23mg,0.060mmol)、及びCuI(7.6mg,0.040mmol)のジオキサン(5mL)溶液中に、トリt-ブチルホスフィン(0.31mL,0.12mmol;10%ヘキサン溶液)とジイソプロピルアミン(0.72mL,5.2mmol)を加えた。
【0110】
反応混合物を、アルゴン雰囲気下、50℃で17時間撹拌した。反応混合物に酢酸エチル(10mL)を加え濾過し、濾液に水(150mL)を加え、エチレンジアミン(1mL)で洗浄後、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮して得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=100:1(v/v))により精製して、配位子(1a)(180mg,0.24mmol)を白色固体得た(収率24%)。
【0111】
(物性データ)
融点:67-69℃
H-NMR(500MHz,CDCl,δppm);8.64(d,J=6.0Hz,4H),7.57(d,J=8.0Hz,2H),7.37(d,J=6.5Hz,4H),7.18(t,J=7.5Hz,1H),4.61(t,J=6.5Hz,2H),2.78(m,2H)
【0112】
13C-NMR(125MHz,DMSO-d,δppm);160.2(C),149.9(CH),135.0(CH),129.8(C),δ125.1(CH),124.9(CH),115.9(C),91.3(C),88.7(C),66.2(CH),31.3(CH
【0113】
19F-NMR(470Hz,DMSO-d,δppm);-81.8(CF),-113.8(CF),-123.0(CF),-123.3(CF),-124.0(CF),-124.6(CF),-127.3(CF
【0114】
元素分析:Calcd for C301515O:C,48.53;H,2.04;N,3.77、Found:C,48.77;H,2.30;N,4.06
【0115】
(3)中空遷移金属錯体(2b)の製造
得られた配位子(1b)(8.1mg,10.9μmol)、及びPd(NO(2.1mg,9.lμmol)を、ジメチルスルホキシド(0.70ml)中、70℃で3時間撹拌した。
反応混合物にジエチルエーテルを加えたところ、白色固体が析出した。遠心分離して上澄みを取り除き、真空乾燥することで目的物(5.7mg)を得た(収率56%)。
【0116】
得られた中空遷移金属錯体(2b)の物性データは以下の通りである。
H-NMR(500MHz,DMSO-d,δppm);9.20(br,96H),7.72(br,144H),7.35(br,24H),4.51(br,48H),2.97(br,48H)
【0117】
19F-NMR(470Hz,DMSO-d,δppm);-84.7(72F),-114.4(48F),-123.4(48F),-124.3(96F),-125.2(48F),-125.5(48F),-129.3(48F)
【0118】
CSI-MSは、錯体(2b)のDMSO溶液にCFSONaを添加して、カウンターアニオンをCFSOに交換した後に測定を行った。
【0119】
CSI-MS(CFSO塩,CHCN):m/z;2829.4[M-6(CFSO)]6+,2403.8[M-7(CFSO)]7+,2084.7[M-8(CFSO)]8+,1836.5[M-9(CFSO)]9+,1637.9[M-10(CFSO)]10+,1475.4[M-11(CFSO)]11+,1340.0[M-12(CFSO)]12
【0120】
(実施例3)中空遷移金属錯体(2c)の製造
【0121】
【化13】
JP2007238519A_000014t.gif

【0122】
(1)1,3-ジブロモ-2-(9-トリフルオロメチル-3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,10,10,10-トリデカフルオロデシロキシ)ベンゼン(4c)の合成
2,6-ジブロモフェノール(600mg,2.4mmol)、炭酸セシウム(1.6g,4.8mmol)、及び9-トリフルオロメチル-3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,10,10,10-ヘキサデカフルオロ-1-ヨードノナン(4.1g,7.1mmol)を、アセトニトリル(15mL)中、アルゴン雰囲気下、80℃で17時間撹拌した。
反応混合物を減圧濃縮し、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン)で精製することにより、化合物(4c)(420mg,0.56mmol)を透明オイルとして得た(収率24%)。
【0123】
(物性データ)
H-NMR(300MHz,CDCl,δppm);7.52(d,J=8.1Hz,2H),6.90(t,J=8.1Hz,1H),4.30(t,J=7.1Hz,2H),2.77(m,2H)
GC-MS:calcd for C17Br19O([M]);748、found 748
【0124】
(2)1,3-ビス(4-ピリジルエチニル)-2-(9-トリフルオロメチル-
3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,10,10,10-トリデカフルオロデシロキシ)ベンゼン(1c)の合成
上記で得た化合物(4c)(410mg,0.55mmol)、4-エチニルピリジン塩酸塩(210g,1.5mmol)、Pd(PhCN)Cl(18mg,0.034mmol)、及びCuI(4.2mg,0.022mmol)のジオキサン(1mL)溶液に、トリt-ブチルホスフィン(0.14mL,0.066mmol;10%ヘキサン溶液)とジイソプロピルアミン(0.40mL,2.8mmol)を加え、全容を、アルゴン雰囲気下、50℃で17時間撹拌した。反応混合物に酢酸エチル(5mL)を加えて濾過し、濾液に水(100mL)を加え、エチレンジアミン(1mL)で洗浄後、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮して得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=100:1(v/v))により精製して、配位子(1a)(320mg,0.40mmol)を白色固体として得た(収率86%)。
【0125】
(物性データ)
融点:73-75℃
GC-MS:calcd for C311519O([M]);792、found 792
H-NMR(500MHz,CDCl,δppm);8.63(d,J=6.0Hz,4H),7.57(d,J=8.0Hz,2H),7.37(d,J=8.0Hz,4H),7.18(t,J=7.5Hz,1H),4.61(t,J=6.5Hz,2H),2.76(m,2H)
【0126】
IR(KBr,cm-1);160.2(C),149.8(CH),135.0(CH),129.7(C),125.1(CH),124.8(CH),115.9(C),91.2(C),88.6(C),66.1(CH),31.1(CH
【0127】
19F-NMR(470Hz,DMSO-d,δppm);-72.9(CF),-113.8(CF),-116.4(CF),-122.1(CF),-122.8(CF),-123.0(CF),-124.6(CF),-187.3(CF)
【0128】
(3)中空遷移金属錯体(2c)の製造
上記で得た配位子(1c)(8.6mg,10.9μmol)、及びPd(NO(2.1mg,9.lμmol)を、ジメチルスルホキシド(0.70ml)中、70℃で3時間撹拌した。
反応混合物にジエチルエーテルを加えたところ、白色固体が析出した。遠心分離して上澄みを取り除き、真空乾燥することで目的物(5.7mg)を得た(収率56%)。
【0129】
得られた中空遷移金属錯体(2c)の物性データは下記の通りである。
H-NMR(500MHz,DMSO-d,δppm);9.19(br,96H),7.72(br,144H),7.34(br,24H),4.51(br,48H),2.95(br,48H)
【0130】
19F-NMR(470Hz,DMSO-d,δppm);-72.9(144F),-113.8(48F),-116.4(48F),-122.1(48F),-122.8(48F),-123.0(48F),-124.6(48F),-187.3(24F)
【0131】
CSI-MSは、錯体(2c)のDMSO溶液にCFSONaを添加して、カウンターアニオンをCFSOに交換した後に測定を行った。
【0132】
CSI-MS(CFSO塩,CHCN):m/z;3630.4[M-6(CFSO)]6+,3090.4[M-7(CFSO)]7+,2685.4[M-8(CFSO)]8+,2370.4[M-9(CFSO)]9+,2118.4[M-10(CFSO)]10+,1926.5[M-11(CFSO)+2(DMSO)]11+,1919.5[M-11(CFSO)+(DMSO)]11+,1912.3[M-11(CFSO)]11+,1760.1[M-12(CFSO)+3(DMSO)]12+,1753.58[M-12(CFSO)+2(DMSO)]12+,1747.0[M-12(CFSO)+(DMSO)]12+,1740.5[M-12(CFSO)]12+
【0133】
(実施例4)中空遷移金属錯体(2d)の製造
【0134】
【化14】
JP2007238519A_000015t.gif

【0135】
(1)1,3-ジブロモ-2-(3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシロキシ)ベンゼン(4d)の合成
2,6-ジブロモフェノール(850mg,3.4mmol)と、トリフェニルホスフィン(880mg,3.4mmol)との混合物に、ジイソプロピルアゾジカルボキシレート(0.66mL,3.4mmol)及びTHF(10mL)を加え、全容をアルゴン雰囲気下、室温で30分撹拌した。さらに、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキサノール(1.1mL,6.8mmol)を加え、同条件下で12時間撹拌した。
反応混合物を減圧濃縮し、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン)で精製することにより、化合物(4b)(1.1g,2.2mmol)を透明オイルとして得た(収率67%)。
【0136】
(物性データ)
H-NMR(500MHz,DMSO-d,δppm);7.52(d,J=8.2Hz,2H),6.90(t,J=8.0Hz,1H),4.31(t,J=7.0Hz,2H),2.77(m,2H)
【0137】
(2)1,3-ビス(4-ピリジルエチニル)-2-(3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシロキシ)ベンゼン(1d)の合成
得られた化合物(4d)(1.3g,2.6mmol)、4-エチニルピリジン塩酸塩(1.0g,7.4mmol)、Pd(PhCN)Cl(61mg,0.16mmol)、及びCuI(20mg,0.11mmol)のジオキサン(6mL)溶液に、トリt-ブチルホスフィン(0.82mL,0.33mmol;10%ヘキサン溶液)とジイソプロピルアミン(1.9mL,14mmol)を加え、全容を、アルゴン雰囲気下、50℃で17時間撹拌した。反応混合物に酢酸エチル(10mL)を加えて濾過し、濾液に水(150mL)を加え、エチレンジアミン(1mL)で洗浄後、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮して得られた濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=100:1(v/v))により精製して、配位子(1a)(874mg,1.6mmol)を黒色固体として得た(収率61%)。
【0138】
(物性データ)
融点:61-63℃
H-NMR(500MHz,CDCl,δppm);8.64(d,J=6.0Hz,4H),7.57(d,J=8.0Hz,2H),7.37(d,J=6.0Hz,4H),7.18(t,J=7.0Hz,1H),4.61(t,J=6.5Hz,2H),2.75(m,2H)
【0139】
13C-NMR(125MHz,DMSO-d,δppm);160.2(C),150.0(CH),135.0(CH),129.8(C),125.1(CH),124.9(CH),115.9(C),91.3(C),88.7(C),66.2(CH),31.0(CH
【0140】
19F-NMR(470Hz,DMSO-d,δppm);-82.2(CF),-114.2(CF),-125.5(CF),-127.3(CF
【0141】
元素分析:Calcd for C2615O:C,57.57;H,2.79;N,5.16、Found:C,57.77;H,3.00;N,4.93
【0142】
(3)中空遷移金属錯体(2d)の製造
得られた配位子(1d)(5.9mg,10.9μmol)、及びPd(NO(2.1mg,9.lμmol)を、ジメチルスルホキシド(0.70ml)中、70℃で3時間撹拌した。
反応混合物にジエチルエーテルを加えたところ、白色固体が析出した。遠心分離して上澄みを取り除き、真空乾燥することで目的物(5.7mg)を得た(収率56%)。
【0143】
得られた中空遷移金属錯体(2d)の物性データは以下の通りである。
H-NMR(500MHz,DMSO-d,δppm);9.27(br,96H),7.78(br,96H),7.72(br,48H),7.31(br,24H),4.54(br,48H),2.81(br,48H)
【0144】
19F-NMR(470Hz,DMSO-d,δppm);-82.5(72F),-114.4(48F),-125.8(48F),-127.6(48F)
【0145】
CSI-MSは、錯体(2d)のDMSO溶液にCFSONaを添加して、カウンターアニオンをCFSOに交換した後に測定を行った。
【0146】
CSI-MS(CFSO塩,CHCN):m/z;3261.4[M-7(CFSO)]7+,2835.0[M-8(CFSO)]8+,2503.4[M-9(CFSO)]9+,2238.1[M-10(CFSO)]10+,2021.22[M-11(CFSO)]11+,1840.2[M-12(CFSO)]12+
【0147】
(参考例)上記で得た中空遷移金属錯体(2a)~(2d)は、内側に直径約5nmの空間を持つ。この内部空間は、24個集積されたパーフルオロアルキル鎖の持つ親フッ素性相互作用により、直径約5nmのフルオラス相として振る舞うことが期待される。そこで、この空間を用いて、親フッ素性相互作用によるフルオラス小分子の包接を検討した。
【0148】
包接の観測は、19F-NMRによって行った。この方法は、ホストおよびゲストの両方に含まれる19F核に着目したもので、高感度に定量分析を行うことができる。ゲスト分子を包接するとシグナルの化学シフト値が変化することを利用した解析を行った。
さらに、1次元スペクトルによる解析だけでなく、各種2次元スペクトルによる詳細な解析も行った。本研究では、19F-NOESYおよび19F-COSYスペクトルにより19F-NMRスペクトルの帰属を行い、包接に寄与している部位の特定を検討した。さらに、19F-DOSYスペクトルにより、ゲスト分子が確かにホスト分子に包接されていることも確認した。実験の詳細は以下の通りである。
【0149】
(1)中空遷移金属錯体(2a)によるパーフルオロオクタンの包接
中空遷移金属錯体(2a)を用いて、パーフルオロオクタン(3,C18)の包接を検討した。錯体(2a)のDMSO-d溶液(0.43mM)とパーフルオロオクタン(3,液体)を常温で2時間撹拌した。撹拌終了後、静置すると、錯体(2a)の溶液とパーフルオロオクタン(3)は、有機層(上層)とフルオラス層(下層)の2相に分離した。過剰のパーフルオロオクタン(3)を遠心分離により取り除き、19F-NMR測定を行った。
【0150】
包接検討前後の19F-NMRスペクトルを図2に示す。図2(a)に示した錯体(2a)のみの19F-NMRスペクトルでは、6種類の19F核に由来する6本のシグナルがそれぞれ独立に観測された。これを、図2(b)に示した包接検討後のスペクトルと比較すると、パーフルオロオクタン(3)に由来する新たなシグナル(図2(b):○)が生じたことから、溶液中へのパーフルオロオクタン(3)の溶解を確認した。また、錯体(2a)に由来するシグナル(図2(b):●)に高磁場シフトが観測された。特に、錯体内に導入したフルオロアルキル鎖の先端部分、すなわち、球状構造の中心部に近い部分に位置する19F核に由来するシグナルについて高磁場シフトが大きく(Fd-f:Δδ=0.4-1.3ppm,Fa-c:cf.Δδ=0.0-0.1ppm)、この部分の親フッ素性相互作用が、パーフルオロオクタン(3)の溶解に特に強く関与していることが示唆された。
【0151】
次に、観測されたパーフルオロオクタン(3)の溶解に、錯体(2a)の内部空間へのフルオロアルキル鎖の集積が関与していることを裏付けるため、DMSO-dへのパーフルオロオクタン(3)単独での溶解、および、配位子(1a)のDMSO-d溶液(8.9mM)へのパーフルオロオクタン(3)の溶解を検討した。錯体(2a)の溶液と同様に、DMSO-dおよび配位子(1a)の溶液と、パーフルオロオクタン(3)を常温で2時間それぞれ撹拌したのち、過剰のパーフルオロオクタン(3)を遠心分離により取り除き、19F-NMRによる測定を行った。
【0152】
図3(a)にパーフルオロオクタン(3)とDMSO-dを混合した場合の19F-NMRスペクトルを示した。このスペクトルにおいて、外部標準であるトリフルオロ酢酸に由来するシグナル以外は観測されなかったことから、パーフルオロオクタン(3)単独ではDMSO-dに溶解しないことがわかった。図3(b)に配位子(1a)の19F-NMRスペクトルを、図3(c)に配位子(1a)とパーフルオロオクタン(3)を混合した場合の19F-NMRスペクトルをそれぞれ示した。
【0153】
このスペクトルにおいて、パーフルオロオクタン(3)に由来する新たなシグナルや配位子(1a)に由来するシグナルの高磁場シフトは観測されず、混合前後で同一のスペクトルが得られた。このことから、配位子(1a)が存在する場合でも、パーフルオロオクタン(3)はDMSO-dに溶解しないことが示唆された。
以上の結果から、錯体(2a)のDMSO-d溶液へのパーフルオロオクタン(3)の溶解が、錯体(2a)内面にフルオロアルキル鎖を集積した効果によるものであることが明らかになった。
【0154】
続いて、パーフルオロオクタン(3)の溶解が、錯体(2a)の内部空間への包接によって起こっていることを示すため、19F-DOSY測定を行った。図4に示した通り、錯体(2a)及びパーフルオロオクタン(3)に由来する各シグナルが全て同一の拡散速度を持つことがわかった。この拡散係数の値D=0.32×10-10-1(logD=-10.5)は、H-DOSYにより測定した錯体(2a)単独の拡散係数の値と同程度であった。これより、ホスト分子(錯体(2a))がゲスト分子(パーフルオロオクタン(3))を包接していることを明らかにできた。
【0155】
さらに、錯体(2a)の濃度とパーフルオロオクタン(3)包接挙動の相関について調べた。濃度の異なる3種類の錯体(2a)溶液([2a]=0.18,0.37,0.54mM)を、それぞれ常温で3と混合した後、過剰のパーフルオロオクタン(3)を遠心分離により取り除き、19F-NMR測定を行った。測定結果を図5に示す。各シグナルの積分比からホスト1分子あたりのゲスト分子の包接数を見積った。その結果、[2a]=0.18,0.37,0.54mMのいずれの場合においても、錯体(2a)1分子あたり約5.8分子のパーフルオロオクタン((3)が包接されていることがわかった。言い換えれば、溶液中に存在するゲスト分子(3)の濃度は、ホスト分子(2a)の濃度に比例するということである。これは、ゲスト分子(3)はDMSO-d中に存在するホスト分子(2a)内部のフルオラス空間にのみ存在するためであると考えられる。
【0156】
前述の通り、DMSO中で錯体(2a)が約5.8分子のパーフルオロオクタン(3)を包接することがわかった。フルオロ鎖の異なる錯体(2b)~(2d)についても、同様にパーフルオロオクタン(3)の包接を検討した。錯体(2a)~(2d)は、内部に持つフルオロアルキル鎖の占める体積の違いにより、内部の有効容積の大小がそれぞれ異なる。また、錯体の持つフッ素原子数の違いにより、親フッ素性相互作用の強さに差があると考えられる。
【0157】
まず、錯体(2a)より長いフルオロアルキル鎖を持つ錯体(2b)によるパーフルオロオクタン(3)の包接を検討した。包接検討前後の19F-NMRスペクトルを図6に示す。シグナルの積分比から錯体(2b)1分子あたりの包接数を見積もると、約2.5分子のパーフルオロオクタン(3)が包接されていることがわかった。錯体(2b)は錯体(2a)より長いフルオロアルキル鎖を持ち、錯体の内部空間に対してフルオロアルキル鎖の占める体積の割合が大きい。分子力学計算によると、錯体(2a)では内部空間容積の19%がフルオロアルキル鎖によって占められているのに対し、錯体(2b)では23%が占められている。そのため内部の有効容積が小さく、包接できるゲストの数が少ないのだと考えられる。
【0158】
続いて、錯体(2b)よりさらに長く、分枝のあるフルオロアルキル鎖を持つ錯体(2c)によるパーフルオロオクタン(3)の包接を検討した。包接検討前後の19F-NMRスペクトルを図7に示す。シグナルの積分比から錯体(2c)1分子あたりの包接数を見積もると、約2.0分子のパーフルオロオクタン(3)が包接されていることがわかった。錯体(2c)のゲスト包接数が錯体(2a)、(2b)と比較して少ないことは、先に述べた錯体(2a)と(2b)の比較と同様に、錯体内部の有効容積の差をもとに議論することができる。分子力学計算によると、錯体(2c)の内部空間に対してフルオロアルキル鎖の占める体積の割合は25%であり、ゲスト包接数が錯体(2a)、(2b)と比較して少ないことは妥当な結果であると言える。
【0159】
最後に、錯体(2a)より短いフルオロアルキル鎖を持つ錯体(2d)によるパーフルオロオクタン(3)の包接を検討した。包接検討前後の19F-NMRスペクトルを図8に示す。錯体(2d)の場合、ゲスト分子(3)との撹拌後に得られたスペクトルは、撹拌前のスペクトルと同一であり、錯体(2d)に由来するシグナルの化学シフト値の変化や、パーフルオロオクタン(3)に由来する新しいシグナルは観測されなかった。このことから、錯体(2d)の場合はパーフルオロオクタン(3)の包接が起こらなかったことが示唆される。錯体(2d)は錯体(2a)より短いフルオロアルキル鎖を持つため、内部のフッ素原子が少ない。そのため、ゲストの包接に十分な親フッ素性相互作用を生じず、包接が起こらなかったのだと考えられる。分子力学計算によるフルオロアルキル鎖の占有体積比率は14%であった。
第1表に以上の結果をまとめた。
【0160】
【表1】
JP2007238519A_000016t.gif

【0161】
中空遷移金属錯体(2a)~(2d)によるパーフルオロオクタン(3)の包接には長いフッ素鎖による親フッ素性相互作用が必要であり、かつ、ゲスト分子が存在する内部空間が必要であることが明らかになった。この、相互作用と有効容積という2つの要素は、内面に配置するフルオロアルキル鎖の長さにより精密に制御可能であり、配位子合成の段階において自在に設計することができる。すなわち、比較的単純な単位構造を設計することにより、錯体内部のフルオラス空間の性質を容易に、かつ正確に変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】12個の遷移金属化合物(M)と、24個の二座有機配位子(L)とから構成される本発明の中空遷移金属錯体の立体構造を示す図である。
【図2】中空遷移金属錯体(2a)によるパーフルオロオクタン(3)の包接検討前後の19F-NMRスペクトル図である。
【図3】配位子(1a)、パーフルオロオクタン(3)、及び、配位子(1a)とパーフルオロオクタン(3)を混合した場合の19F-NMRスペクトル図である。(a)が配位子(1a)の場合、(b)がパーフルオロオクタン(3)の場合、(c)が配位子(1a)とパーフルオロオクタン(3)を混合した場合である。
【図4】中空遷移金属錯体(2a)によるパーフルオロオクタン(3)の包接検討後の19F-DOCYスペクトル図である。
【図5】濃度の異なる種類の錯体(2a)の溶液(0.18、0.37、054mM)と、パーフルオロオクタン(3)とを混合後、過剰のパーフルオロオクタン(3)を取り除いた後の19F-NMRスペクトル図である。(a)が濃度0.18mMの場合、(b)が濃度0.37mMの場合、(c)が濃度0.54mMの場合である。
【図6】中空遷移金属錯体(2b)によるパーフルオロオクタン(3)の包接検討前後の19F-NMRスペクトル図である。
【図7】中空遷移金属錯体(2c)によるパーフルオロオクタン(3)の包接検討前後の19F-NMRスペクトル図である。(a)は、錯体(2c)の-60ppmから-200ppmのスペクトル図であり、(b)は、錯体(2c)とパーフルオロオクタン(3)を混合した後の、-60ppmから-200ppmのスペクトル図であり、(c)は、錯体(2c)の-70ppmから-85ppm(左側)、-110ppmから-130ppmのスペクトル図であり(右側)、(d)は、錯体(2c)とパーフルオロオクタン(3)を混合した後の、-70ppmから-85ppm(左側)、-110ppmから-130ppmのスペクトル図である(右側)。
【図8】中空遷移金属錯体(2d)によるパーフルオロオクタン(3)の包接検討前後の19F-NMRスペクトル図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7