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明細書 :パンタグラフのすり板の溶損量推定方法及び装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4602803号 (P4602803)
公開番号 特開2006-262543 (P2006-262543A)
登録日 平成22年10月8日(2010.10.8)
発行日 平成22年12月22日(2010.12.22)
公開日 平成18年9月28日(2006.9.28)
発明の名称または考案の名称 パンタグラフのすり板の溶損量推定方法及び装置
国際特許分類 B60L   5/20        (2006.01)
FI B60L 5/20 Z
請求項の数または発明の数 3
全頁数 11
出願番号 特願2005-072456 (P2005-072456)
出願日 平成17年3月15日(2005.3.15)
審査請求日 平成19年7月3日(2007.7.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】早坂 高雅
【氏名】清水 政利
【氏名】島田 健夫三
個別代理人の代理人 【識別番号】100100413、【弁理士】、【氏名又は名称】渡部 温
審査官 【審査官】上野 力
参考文献・文献 特開平09-318435(JP,A)
特開昭61-258102(JP,A)
特開平08-050097(JP,A)
特開2003-274501(JP,A)
調査した分野 B60L 5/00 - 5/42
B60M 1/00 - 7/00

特許請求の範囲 【請求項1】
トロリ線から電車に電力を受け入れるパンタグラフのすり板の溶損量を溶損量推定装置が推定する方法であって、
前記すり板と前記トロリ線との間に発生するスパーク光(アーク光)を受光し、
受光したスパーク光のうち、メタリック相光の発光開始時点からガス相光の発光開始時点までの時間を計測し、
この時間に基づき前記すり板の溶損量を推定することを特徴とするパンタグラフのすり板の溶損量推定方法。
【請求項2】
トロリ線から電車に電力を受け入れるパンタグラフのすり板の溶損量を推定する装置であって、
前記すり板と前記トロリ線との間に発生するスパーク光(アーク光)のうち、メタリック相光を受光するメタリック相光受光部、及び、ガス相光を受光するガス相光受光部を有する受光部と、
該受光部のメタリック相光受光部のみの受光時間を積算する積算部と、
該積算部の積算時間に基づき前記すり板の溶損量を推定する溶損量推定部と、
を具備すること特徴とするパンタグラフのすり板の溶損量推定装置。
【請求項3】
前記メタリック相光受光部が、前記スパーク光のうち200~400nmの波長域のものを受光し、
前記ガス相光受光部が、前記スパーク光のうち500nm付近の波長域のものを受光することを特徴とする請求項2記載のパンタグラフのすり板の溶損量推定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電車の車体屋根上等に搭載され、トロリ線(架線、給電線)から車両に電力を受け入れるパンタグラフにおいて、パンタグラフの舟体上表面に設けられたすり板の溶損量を推定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の営業用の電車においては、トロリ線(架線、給電線)からパンタグラフを介して車両に電力を送る方式が一般的である。トロリ線は、多くのものは銅系の材料であるが、アルミニウム系や鉄系の材料のものもある。トロリ線は、電車の走行区間中に所定間隔おきに立ち上げられた柱に、吊架線やハンガーを介して吊られている。このトロリ線には、パンタグラフの舟体上表面に設けられたすり板が直接接触する。このすり板は、一般に銅系合金、鉄系合金又はカーボン等で形成されている。
【0003】
ところで、トロリ線とパンタグラフの舟体(すり板)との接触力は、トロリ線の高さ変動や車両・パンタグラフの振動等によって変動する。この接触力の変動が大きくなると、パンタグラフの舟体のすり板がトロリ線から離れる現象(離線)が生じ易くなる。この離線が生じた場合は、トロリ線とすり板との間にアーク放電が起こってスパーク光や騒音、熱が発生し、すり板の溶損が進み易くなる。
【0004】
パンタグラフのすり板は、一定程度以上溶損し劣化した場合には交換を行う必要がある。そのため、例えばJRの新幹線鉄道では、一ヶ月に一度程度、夜間に試験車を走行させて離線発生の可能性を検査し、その検査結果からすり板の溶損量を推定している。これについては、現在のところ、離線時に発生するスパーク光(アーク光)の全波長域をフォトダイオード等で検出し、その全発光時間に基づいてすり板の溶損量を推定するようにしている。なお、従来より、パンタグラフのすり板の摩耗量等を検査する装置としては、例えば特許文献1(特開平8-168102号公報)に開示されたものが知られている。さらに、トロリ線の摩耗を検知する装置としては、例えば特許文献2(特開平9-5035号公報)に開示されたものが知られている。
【0005】

【特許文献1】特開平8-168102号公報
【特許文献2】特開平9-5035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現状の課題について図10を参照しつつ説明する。
図10は、日本における12月のある日の太陽光に含まれる波長の相対強度とパワースペクトル密度を示すグラフであり、左縦軸が相対強度、右縦軸がパワースペクトル密度(単位μW/cm/nm)、横軸が波長(単位nm)を表す。
図10のパワースペクトル密度(右横軸)をみると、この太陽光には300nm以下の波長のものがほとんど含まれていない。一方、相対強度(左横軸)をみると、この太陽光においては400nm程度から著しく強度が大きくなっていることがわかる。ここで、400nm程度以下の波長の太陽光は、通常の測定機器のスライスレベルを調整する等によりカットできるが、400nm程度以上の波長のものをカットすることは困難である。
【0007】
前述の通り、現状では、離線時に発生するスパーク光の全波長域をフォトダイオード等で検出し、その全発光時間に基づいてすり板の溶損量を推定しており、そのためのスパーク光の検出(離線検査)は、夜間に試験車を走行させて行っている。スパーク光の検出を夜間に行う理由は、日中にスパーク光の全波長域を検出するとなると、その際には400nm以上の波長の太陽光も混在することとなり、すり板の溶損量を正確に推定することができなくなるためである。
【0008】
しかしながら、夜間に限らず、日中においても試験車を走行させてすり板の溶損量をより正確に推定できる方法・装置の提供が求められている。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、昼夜を問わずより正確にパンタグラフのすり板の溶損量を推定できるパンタグラフのすり板の溶損量推定方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1のパンタグラフのすり板の溶損量推定方法は、 トロリ線から電車に電力を受け入れるパンタグラフのすり板の溶損量を溶損量推定装置が推定する方法であって、 前記すり板と前記トロリ線との間に発生するスパーク光(アーク光)を受光し、 受光したスパーク光のうち、メタリック相光の発光開始時点からガス相光の発光開始時点までの時間を計測し、 この時間に基づき前記すり板の溶損量を推定することを特徴とする。
【0010】
発光現象は、原子の最外殻の電子が励起されてエネルギー準位が上がった後、元のエネルギー準位に下がる際に、そのエネルギーに対応する波長の光が発せられて生じるものと考えられる。本発明に係る発光現象としては、パンタグラフのすり板とトロリ線との間に離線が生じると、すり板・トロリ線の構成材料(母材)を構成する原子、及び、大気を構成する原子(窒素や酸素)の最外殻の電子が励起され、スパーク光(アーク光)が発せられるものと考えられる。
【0011】
そして、離線発生時間内でのスパーク光の発光過程において、スパーク光の発生初期の時点付近と発生後期の時点付近とに着目すると、発生初期ではすり板・トロリ線の母材に特有の波長の相対強度が顕著に大きくなることが確認でき(この波長域をメタリック相といい、メタリック相中のスパーク光をメタリック相光という)、発生後期では大気を構成する窒素や酸素に特有の波長の相対強度が顕著に大きくなることが確認できる(この波長域をガス相といい、ガス相中のスパーク光をガス相光という)。これにより、スパーク光の発生メカニズムは、発生初期と発生後期とで違いがあると考えられる。
【0012】
図8は、すり板及びトロリ線が一例で銅製の場合に、スパーク光の発生初期(図中▲)と発生後期(図中□)を分光測定した結果を示すグラフであり、上部のグラフは縦軸が相対強度、横軸が時間(単位msec)を表し、下部のグラフは縦軸が相対強度、横軸が波長(単位nm)を表す。
図9は、測定したスパーク光を400nm以下のものと400nm以上のものとに分けたときの相対強度の時間変化を示すグラフであり、縦軸が相対強度、横軸が時間(単位msec)を表す。
なお、相対強度とは、スパーク光のパワースペクトル密度を200~800nmの全光量で割った値である。
【0013】
図8に示すように、スパーク光の発生初期では400nm以下の波長域の相対強度が大きいが、スパーク光の発生後期になると400nm以下の波長域のものは減少し、470~500nm付近の波長域のものが増加する。400nm以下の波長は、銅(すり板及びトロリ線)に特有の波長であり、470~500nmの波長は、窒素や酸素(大気)に特有の波長である。そこで、スパーク光を400nm以下の波長域と400nm以上の波長域とに分けて、相対強度の発光継続時間の変化を描くと、おおよそ図9に示すようなグラフが得られる。
【0014】
以上のことから、すり板の母材の溶損量を推定する際には、スパーク光の発生初期(メタリック相光)についてのみ着目することが、推定精度を上げる一つの選択肢と考えることができる。本発明では、スパーク光(アーク光)のうち、メタリック相光の発光開始時点からガス相光の発光開始時点までの時間(すなわちメタリック相光の発光継続時間)を計測し、この時間に基づきすり板の溶損量を推定することで、メタリック相光についてのみ着目した溶損量の推定を実現でき、溶損量をより正確に推定することができると考えられる。
なお、実際に溶損量推定値を得るには、すり板の溶損量と計測時間との間の比例定数を実測に基づき定め、計測時間から溶損量推定値を計算して求めるものとする。
【0015】
本発明に関連する他のパンタグラフのすり板の溶損量推定方法は、トロリ線から電車に電力を受け入れるパンタグラフのすり板の溶損量を推定する方法であって、 前記すり板と前記トロリ線との間に発生するスパーク光(アーク光)のうち、主に400nm以下の波長域のものを受光し、 受光したスパーク光の発光継続時間を計測し、 この時間に基づき前記すり板の溶損量を推定することを特徴とする。
【0016】
図8及び図9で説明したように、すり板の母材の溶損量は、400nm以下のスパーク光(メタリック相光)についてのみ着目することが妥当であり、このメタリック相光の発光継続時間に基づき溶損量を推定することで、溶損量をより正確に推定することができる。また、図10を用いて説明したように、400nm以下の波長域においては、通常の測定機器のスライスレベルを調整してカットする等により太陽光をほとんど排除できるので、スパーク光の観測を日中に行った場合にも、すり板の溶損量をより正確に推定することが可能となる。
【0017】
本発明のパンタグラフのすり板の溶損量推定装置は、 トロリ線から電車に電力を受け入れるパンタグラフのすり板の溶損量を推定する装置であって、 前記すり板と前記トロリ線との間に発生するスパーク光(アーク光)のうち、メタリック相光を受光するメタリック相光受光部、及び、ガス相光を受光するガス相光受光部を有する受光部と、 該受光部のメタリック相光受光部のみの受光時間を積算する積算部と、 該積算部の積算時間に基づき前記すり板の溶損量を推定する溶損量推定部と、を具備すること特徴とする。
【0018】
本発明のパンタグラフのすり板の溶損量推定装置においては、前記メタリック相光受光部が、前記スパーク光のうち主に200~400nmの波長域のものを受光し、 前記ガス相光受光部が、前記スパーク光のうち主に500nm付近の波長域のものを受光することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、昼夜を問わずより正確にパンタグラフのすり板の溶損量を推定できるパンタグラフのすり板の溶損量推定方法及び装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下の説明では、通常の鉄道技術におけるのと同様に、鉄道車両の走行するレールの長手方向(車両の進行方向)を前後といい、鉄道車両の高さ方向を上下といい、鉄道車両の幅方向を左右という。
【符号の説明】
【0021】
まず、図1及び図2を参照して、電車のパンタグラフの周辺構造の典型例について説明する。
図1は、パンタグラフの舟体の構造例を示す模式的斜視図である。
図2は、パンタグラフの支持構造例を示す模式的側面断面図である。
トロリ線1は、直径約15mmの金属線である。トロリ線1は、多くのものは銅系の材料であるが、アルミニウム系や鉄系の材料のものもある。トロリ線1は、約5mおきに吊架線(図示されず)によって吊られている。この吊架線は、約50mおきに柱(図示されず)によって支えられている。トロリ線1の単位当たり(1ドラム区間当たり)の長さは、約1.5kmである。
【0022】
本実施の形態におけるパンタグラフ10は、一般に菱形パンタグラフと呼ばれるものであるが、この他にシングルアーム式と呼ばれるもの等もある。パンタグラフ10は、電車の車体屋根上に搭載されている。パンタグラフ10の上端には、左右方向に沿って延びる舟体12が、前後方向に1つずつ設けられている(前側12F、後側12R)。各舟体12F、12Rは、一例でアルミニウム合金製の中空ビームからなる。各舟体12F、12Rの上表面には、すり板14が貼り付けられている。図1に示すように、このすり板14は4分割されており、中央の2つが主すり板14aで、左右両端の2つが補助すり板14bである。トロリ線1には、主として主すり板14aが直接接触する。すり板14は、一般に銅系合金、鉄系合金又はカーボン等からなる。
【0023】
各舟体12F、12Rの左右両端部寄りの底面には、図2に示すロッド16がそれぞれ固定されている。ロッド16は、上端に固定板16aを有するとともに、下端にストッパ16bを有する。ロッド16の固定板16aは、舟体12F、12Rの底面に固定されている。各舟体12F、12Rにおいて、左端寄り同士及び右端寄り同士の両ロッド16は、舟支え18によって前後に繋がれている。舟支え18は、各舟体12F、12Rの左右両端部寄りにおいて、それぞれ前後方向に延びている。
【0024】
各舟支え18には、前後2つのスリーブ18f、18rが一体に形成されている。これらスリーブ18f、18rは、上下方向に開口しており、内側にリニアガイド20が設けられている。前側のスリーブ18fは、前側の舟体12Fに固定されたロッド16に外嵌しており、後側のスリーブ18rは、後側の舟体12Rに固定されたロッド16に外嵌している。舟支え18は、各スリーブ18f、18r内のリニアガイド20によりロッド16に沿って上下に摺動し、ストッパ16bで抜け止めされる。
【0025】
舟体12F、12R底面と舟支え18間において、各ロッド16の外側には復元バネ22が介装されている。各復元バネ22はコイルバネ等からなり、上端が各舟体12F、12Rの左右下面にそれぞれ連結されているとともに、下端が舟支え18に連結されている。舟支え18は、各復元バネ22を介して舟体12F、12Rの左右両端をそれぞれ支持する。
【0026】
舟支え18は、菱形のリンク状をした枠組24に取り付けられている。この枠組24は、コイルバネ又はエアシリンダ(図示されず)等によって上下に昇降する。図2では、枠組24が上がり、復元バネ22の弾性力で舟体12F、12Rの各すり板14がトロリ線1に押し付けられている状態が描かれているが、パンタグラフ10を使用しないときは、枠組24は折り畳まれて下がり、舟体12F、12Rの各すり板14はトロリ線1から離れる。
【0027】
次に、図3を参照して、本実施の形態におけるすり板の溶損量測定装置の基本構成について説明する。
図3は、本実施の形態に係るパンタグラフのすり板の溶損量推定装置の基本構成を示すブロック図である。
図3に示す溶損量推定装置は、受光部31(メタリック相光受光部31M、ガス相光受光部31G)、処理部32、積算部33、溶損量推定部34を備えている。
【0028】
受光部31は、メタリック相光受光部31Mとガス相光受光部31Gとからなる。メタリック相光受光部31Mは、離線時にすり板14とトロリ線1との間に発生するスパーク光(アーク光)のうち、200~400nm程度の波長のもの(メタリック相光)に感応して受光する。一方、ガス相光受光部31Gは、離線時にすり板14とトロリ線1との間に発生するスパーク光(アーク光)のうち、500nm付近の波長のもの(ガス相光)に感応して受光する。各受光部31M、31Gは、それぞれフォトダイオードや光ケーブル等を用いて構成されている。
【0029】
処理部32は、メタリック相光受光部31Mの受光開始信号から、ガス相光受光部31Gの受光開始信号までを受信し、その結果を積算部33へと送る。
積算部33は、受光部31のメタリック相光受光部31Mのみが受光している時間(すなわちメタリック相光の発光開始時点からガス相光の発光開始時点までの時間)を積算し、溶損量推定部34へと送る。
溶損量推定部34は、積算部33の積算時間に基づき、すり板14の溶損量を推定する。実際の溶損量推定値は、すり板14の溶損量と積算時間の間の比例定数を実測に基づき予め定めておき、積算時間から溶損量推定値を計算して求める。
【0030】
図4~図7のそれぞれには、離線時に発生したスパーク光(アーク光)の相対強度と波長との関係が示されている。
図4は、トロリ線を想定した陽極、及び、すり板を想定した陰極がともにアルミニウム製の場合(図中○)及び銅製の場合(図中■)を表すグラフである。
図5は、トロリ線が鉄製の場合(図中◆)、アルミニウム製の場合(図中◇)、銅製の場合(図中▲)で、すり板が鉄系合金製の場合をそれぞれ表すグラフである。
図6は、トロリ線が鉄製の場合(図中◆)、アルミニウム製の場合(図中◇)、銅製の場合(図中▲)で、すり板が銅系合金製の場合をそれぞれ表すグラフである。
図7は、トロリ線が鉄製の場合(図中◆)、アルミニウム製の場合(図中◇)、銅製の場合(図中▲)で、すり板がカーボン製の場合をそれぞれ表すグラフである。
なお、これらのグラフでは、縦軸が相対強度を表し、横軸が波長(単位nm)を表す。
【0031】
図4によれば、陽極(トロリ線1を想定)及び陰極(すり板14を想定)がともにアルミニウム(Al)製の場合(図中○)、スパーク光に含まれる波長は276~286nm、303~315nm、378~404nmで相対強度のピークをもち、陽極及び陰極がともに銅製(Cu)の場合(図中■)、スパーク光に含まれる波長は200~234nm、320~335nm、398~413nm、507~530nmで相対強度のピークをもつ。これにより、アルミニウムと銅は、それぞれに特有の波長で相対強度のピークをもつことがわかる。
【0032】
さらに、前述の通り、実際の電気鉄道においては、トロリ線1は銅系(Cu)の材料やアルミニウム系(Al)、鉄系(Fe)の材料から形成され、すり板14は銅系合金(BC)、鉄系合金(BF)又はカーボン(C)等から形成されている。そこで、これらの構成材料(母材)同士を組み合わせ、スパーク光の相対強度と波長との関係を調べると、図5~図7の各グラフに示すように、相対強度のピークは主に400nm以下の波長(メタリック相)において顕著に現れていることが確認できる。
【0033】
図8及び図9を用いて前述したように、スパーク光は、発生初期ではトロリ線1及びすり板14の母材に特有の、400nm以下の波長(メタリック相)の相対強度が大きいが、発生後期になると400nm以下の波長の相対強度は減少し、窒素や酸素(大気)に特有の、470~500nm付近の波長(ガス相)の相対強度が増加する。本実施の形態の溶損量推定装置(図3参照)は、受光部31のメタリック相光受光部31Mで200~400nm程度のメタリック相光を受光し、ガス相光受光部31Gで500nm付近のメタリック相光を受光する。そして、メタリック相光受光部31Mの受光開始信号から、ガス相光受光部31Gの受光開始信号までを処理部32で受信し、受光部31のメタリック相光受光部31Mのみの受光時間を積算部33で積算した後、溶損量推定部34でメタリック相光についてのみ着目した溶損量の推定を行う。そのため、すり板14の母材についてのみ着目した溶損量の推定を実現でき、より正確な溶損量の推定値を得ることができる。
【0034】
なお、本実施の形態の溶損量推定装置によれば、受光部31のメタリック相光受光部31Mのみの受光時間に着目してすり板14の溶損量を推定する。これにより、400nm以下の波長域(メタリック相)においては、通常の測定機器のスライスレベルを調整する等により太陽光をほとんど排除できるので、夜間だけでなく日中にスパーク光の検出を行って、すり板14の溶損量を推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】パンタグラフの舟体の構造例を示す模式的斜視図である。
【図2】パンタグラフの支持構造例を示す模式的側面断面図である。
【図3】本実施の形態に係るパンタグラフのすり板の溶損量推定装置の基本構成を示すブロック図である。
【図4】トロリ線を想定した陽極、及び、すり板を想定した陰極がともにアルミニウム製の場合(図中○)及び銅製の場合(図中■)を表すグラフである。
【図5】トロリ線が鉄製の場合(図中◆)、アルミニウム製の場合(図中◇)、銅製の場合(図中▲)で、すり板が鉄系合金製の場合をそれぞれ表すグラフである。
【図6】トロリ線が鉄製の場合(図中◆)、アルミニウム製の場合(図中◇)、銅製の場合(図中▲)で、すり板が銅系合金製の場合をそれぞれ表すグラフである。
【図7】トロリ線が鉄製の場合(図中◆)、アルミニウム製の場合(図中◇)、銅製の場合(図中▲)で、すり板がカーボン製の場合をそれぞれ表すグラフである。
【図8】すり板及びトロリ線が一例で銅製の場合に、スパーク光の発生初期(図中▲)と発生後期(図中□)を分光測定した結果を示すグラフである。
【図9】測定したスパーク光を400nm以下のものと400nm以上のものとに分けたときの相対強度の時間変化を示すグラフである。
【図10】日本における12月のある日の太陽光に含まれる波長の相対強度とパワースペクトル密度を示すグラフである。
【0036】
1 トロリ線 10 パンタグラフ
12(12F、2R) 舟体 14 すり板
14a 主すり板 14b 補助すり板
31 受光部
31M メタリック相光受光部 31G ガス相光受光部
32 処理部 33 積算部
34 溶損量推定部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9