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明細書 :プログラム、情報記憶媒体及び車輪摩耗推定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4537240号 (P4537240)
公開番号 特開2006-275573 (P2006-275573A)
登録日 平成22年6月25日(2010.6.25)
発行日 平成22年9月1日(2010.9.1)
公開日 平成18年10月12日(2006.10.12)
発明の名称または考案の名称 プログラム、情報記憶媒体及び車輪摩耗推定装置
国際特許分類 G01B  21/20        (2006.01)
G01B  21/00        (2006.01)
B61K   9/12        (2006.01)
G01M  17/10        (2006.01)
FI G01B 21/20 C
G01B 21/00 W
B61K 9/12
G01M 17/02 A
請求項の数または発明の数 7
全頁数 21
出願番号 特願2005-091200 (P2005-091200)
出願日 平成17年3月28日(2005.3.28)
審査請求日 平成19年7月24日(2007.7.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
発明者または考案者 【氏名】芳賀 昭弘
【氏名】下村 隆行
【氏名】佐藤 栄作
【氏名】斉藤 憲司
【氏名】大戸 伸一
個別代理人の代理人 【識別番号】100090033、【弁理士】、【氏名又は名称】荒船 博司
【識別番号】100093045、【弁理士】、【氏名又は名称】荒船 良男
審査官 【審査官】大和田 有軌
参考文献・文献 特開2003-344023(JP,A)
特開2003-240520(JP,A)
調査した分野 G01B 21/00 - 21/32
G01M 17/00 - 17/10
B61K 9/00 - 9/12
特許請求の範囲 【請求項1】
コンピュータを、
異なる走行距離の時点で計測した鉄道用車輪の複数の踏面形状計測データそれぞれを、車輪厚さ方向に所定間隔毎の離散データに変換して踏面形状データを得るデータ変換手段、
踏面形状を推定する際の希望する走行距離である推定希望走行距離を所定の走行距離間隔で複数設定する推定希望距離設定手段、
前記データ変換手段により得られた複数の踏面形状データそれぞれと、当該複数の踏面形状データそれぞれに対応する各走行距離とに基づき、前記車輪厚さ方向の所定間隔毎に、前記各走行距離での前記踏面形状データに対する回帰演算処理を実行することで、前記設定された複数の推定希望走行距離それぞれでの踏面形状データを推定する踏面形状推定手段、
前記踏面形状推定手段により推定された前記複数の推定希望走行距離それぞれの踏面形状データに基づいて、前記複数の推定希望走行距離それぞれでの前記鉄道用車輪の検査項目値を算出し、当該算出された検査項目値が転削の要否を判定するための規定車輪形状条件を満たすか否かを判定することにより、前記鉄道用車輪を転削すべき時期を推定する転削時期推定手段、
として機能させるためのプログラム。
【請求項2】
前記踏面形状推定手段による前記回帰演算処理に用いられる前記複数の踏面形状データは、走行距離が5万キロ未満の踏面形状データの走行距離間隔が1万キロ以下であり、走行距離が5万キロ以上の踏面形状データの走行距離間隔が5万キロ以下の条件を満たすデータであることを特徴とする請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
前記推定希望距離設定手段が、所定の車両検査時の走行距離に基づいて前記推定希望走行距離が将来の車両検査時期の走行距離となるように前記複数の推定希望走行距離を設定するように前記コンピュータを機能させ、
前記転削時期推定手段が、前記鉄道用車輪を転削すべき車両検査の時期を推定するように前記コンピュータを機能させるための請求項1または2に記載のプログラム。
【請求項4】
前記鉄道用車輪の出場時形状データと、前記転削時期推定手段により転削すべきと推定された時期の走行距離に対応する前記踏面形状推定手段により算出された踏面形状データとに基づき、転削時の削正量を算出する削正量算出手段、
前記削正量算出手段により算出された削正量と、前記転削時期推定手段により推定された時期と、前記鉄道用車輪の出場時直径と、前記鉄道用車輪の使用限度直径とに基づき、前記鉄道用車輪の寿命を推定する寿命推定手段、
として前記コンピュータを機能させるための請求項1からのいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項5】
前記転削時期推定手段が、前記検査項目値として、車輪直径、フランジ厚さ、フランジ高さ及びフランジ角度を算出し、当該算出された車輪直径、フランジ厚さ、フランジ高さ及びフランジ角度の全てが前記規定車輪形状条件を満たすか否かを判定することにより、前記鉄道用車輪を転削すべき時期を推定するように前記コンピュータを機能させる、
ための請求項1からのいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項6】
請求項1~の何れか一項に記載のプログラムを記憶したコンピュータが読み取り可能な情報記憶媒体。
【請求項7】
異なる走行距離の時点で計測した鉄道用車輪の複数の踏面形状計測データそれぞれを、車輪厚さ方向に所定間隔毎の離散データに変換して踏面形状データを得るデータ変換手段と、
踏面形状を推定する際の希望する走行距離である推定希望走行距離を所定の走行距離間隔で複数設定する推定希望距離設定手段と、
前記データ変換手段により得られた複数の踏面形状データそれぞれと、当該複数の踏面形状データそれぞれに対応する各走行距離とに基づき、前記車輪厚さ方向の所定間隔毎に、前記各走行距離での前記踏面形状データに対する回帰演算処理を実行することで、前記設定された複数の推定希望走行距離それぞれでの踏面形状データを推定する踏面形状推定手段と、
前記踏面形状推定手段により推定された前記複数の推定希望走行距離それぞれの踏面形状データに基づいて、前記複数の推定希望走行距離それぞれでの前記鉄道用車輪の検査項目値を算出し、当該算出された検査項目値が転削の要否を判定するための規定車輪形状条件を満たすか否かを判定することにより、前記鉄道用車輪を転削すべき時期を推定する転削時期推定手段と、
を備える車輪摩耗推定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、走行による鉄道用車輪の摩耗を推定する車輪摩耗推定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両用の車輪は、走行距離の増加に伴ってその踏面が摩耗し形状が変化する。車輪踏面の摩耗は鉄道車両の安全走行に大きく影響するため、所定周期で摩耗した車輪の踏面形状を整える転削が実施されている。また、車輪直径は走行距離の増加に伴う摩耗や転削によって減少するが、この車輪直径が予め規定された使用限度直径を下回ることがないよう、適切な時期に車輪を交換する必要がある。
【0003】
現在、車輪の転削時期やその削正量、交換時期(即ち、寿命)の判断は人間によって為されている。即ち、主に走行距離に応じた所定周期で鉄道車両の検査(車両検査)が実施されているが、この車両検査時に、現場の検査担当者が、現時点での車輪の踏面形状から次回の車両検査時での踏面形状を予測し、この予測を基に、今回検査時に転削を行うか否かや、転削を行う場合の削正量、車輪を交換するか否かといったことを判断していた。つまり、車輪の摩耗や転削時期、交換時期等を定量的に推定する方法は無かった。このため、本願に近似する先行技術文献は発見されなかった。
【0004】
また、車両検査時には、車輪直径やフランジ厚さ、フランジ高さ、フランジ角度といった各種の検査項目値を計測する車輪の寸法検査が実施される。これらの検査項目値の内、車輪直径、フランジ厚さ及びフランジ高さは、計測値に基づく一次補間又は二次補間によって次回の車両検査時の値をある程度予測することができるが、フランジ角度については、走行距離との関係を定式化することができず、定量的な推定が不可能であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、車輪の転削時期やその削正量、交換時期等の判断は、検査担当者によって為されるものであったため、検査担当者の経験や熟練度によってその判断結果が異なる場合が多く、その結果、不必要な車輪の転削や交換が発生してコスト増加の原因となっていた可能性がある。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、鉄道用車輪の摩耗した踏面形状を定量的に推定可能とするとともに、この推定を用いて、車輪の転削時期や寿命(交換時期)を定量的に推定可能とすることを目的としている
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明は、
コンピュータを、
異なる走行距離の時点で計測した鉄道用車輪の複数の踏面形状計測データ(例えば、図5の踏面形状計測データ332)それぞれを、車輪厚さ方向に所定間隔毎の離散データに変換して踏面形状データ(例えば、図5の踏面形状データ334)を得るデータ変換手段(例えば、図5のデータ変換部210;図14のステップS1)、
踏面形状を推定する際の希望する走行距離である推定希望走行距離を所定の走行距離間隔で複数設定する推定希望距離設定手段(例えば、図5の転削時期推定部220;図15のステップS13)、
前記データ変換手段により得られた複数の踏面形状データそれぞれと、当該複数の踏面形状データそれぞれに対応する各走行距離とに基づき、前記車輪厚さ方向の所定間隔毎に、前記各走行距離での前記踏面形状データに対する回帰演算処理を実行することで、前記設定された複数の推定希望走行距離それぞれでの踏面形状データを推定する踏面形状推定手段(例えば、
図5の踏面形状推定部222;図15のステップS15)、
前記踏面形状推定手段により推定された前記複数の推定希望走行距離それぞれの踏面形状データに基づいて、前記複数の推定希望走行距離それぞれでの前記鉄道用車輪の検査項目値を算出し、当該算出された検査項目値が転削の要否を判定するための規定車輪形状条件を満たすか否かを判定することにより、前記鉄道用車輪を転削すべき時期を推定する転削時期推定手段(例えば、図5の転削時期推定部220;図15のステップS17~ステップS23)、
として機能させるためのプログラム(例えば、図5の車輪摩耗推定プログラム310)である。
【0008】
また、第の発明は、
異なる走行距離の時点で計測した鉄道用車輪の複数の踏面形状計測データそれぞれを、車輪厚さ方向に所定間隔毎の離散データに変換して踏面形状データを得るデータ変換手段と、
踏面形状を推定する際の希望する走行距離である推定希望走行距離を所定の走行距離間隔で複数設定する推定希望距離設定手段と、
前記データ変換手段により得られた複数の踏面形状データそれぞれと、当該複数の踏面形状データそれぞれに対応する各走行距離とに基づき、前記車輪厚さ方向の所定間隔毎に、前記各走行距離での前記踏面形状データに対する回帰演算処理を実行することで、前記設定された複数の推定希望走行距離それぞれでの踏面形状データを推定する踏面形状推定手段と、
前記踏面形状推定手段により推定された前記複数の推定希望走行距離それぞれの踏面形状データに基づいて、前記複数の推定希望走行距離それぞれでの前記鉄道用車輪の検査項目値を算出し、当該算出された検査項目値が転削の要否を判定するための規定車輪形状条件を満たすか否かを判定することにより、前記鉄道用車輪を転削すべき時期を推定する転削時期推定手段と、
を備える車輪摩耗推定装置(例えば、図1,5の車輪摩耗推定装置20)である。
【0009】
この第1又は第の発明によれば、異なる走行距離の時点で計測された鉄道用車輪の複数の踏面形状計測データそれぞれを車輪厚さ方向に所定間隔毎の離散データに変換して得られた踏面形状データそれぞれと、この踏面形状データそれぞれに対応する各走行距離とに基づき、車輪厚さ方向の所定間隔毎に、各走行距離での踏面形状データに対する回帰演算処理が実行されることで、設定された推定希望走行距離での踏面形状データが推定される。即ち、複数の踏面形状計測データから、任意の推定希望走行距離での踏面形状データが得られる。従って、走行距離に応じた鉄道用車輪の摩耗した踏面形状を定量的に推定可能となる。
また、推定された踏面形状データに基づいて、鉄道用車輪の検査項目値を算出し、当該算出された検査項目値が転削の要否を判定するための規定車輪形状条件を満たすか否かを判定することにより、鉄道用車輪を転削すべき時期が推定される。従って、複数の踏面形状データから、当該車輪の適正な転削時期の定量的な推定が可能となる。
【0010】
第2の発明として、第1の発明のプログラムを、
前記踏面形状推定手段による前記推定演算処理に用いられる前記複数の踏面形状データは、走行距離が5万キロ未満の踏面形状データの走行距離間隔が1万キロ以下であり、走行距離が5万キロ以上の踏面形状データの走行距離間隔が5万キロ以下の条件を満たすデータであることとしても良い。
【0011】
この第2の発明によれば、踏面形状データとして、走行距離が5万キロ未満の踏面形状データの走行距離間隔が1万キロ以下であり、走行距離が5万キロ以上の踏面形状データの走行距離間隔が5万キロ以下の条件を満たすデータが推定演算に用いられる。推定した踏面形状データから検査項目値としてフランジ角度を推定する場合があるが、フランジ角度と走行距離との間には、走行距離が5万キロ未満の場合は、走行距離の変化に対してフランジ角度が大きく変化し、走行距離が5万キロ以上の場合には、走行距離の変化に対してフランジ角度がほとんど変化しないといった特性がある。このため、上記条件を満たす複数の踏面形状データを用いて推定演算を行うことで、より精度の高い推定希望走行距離での踏面形状データの推定が可能となる。
【0014】
の発明として、第1又は第2の発明のプログラムを、
前記推定希望距離設定手段が、所定の車両検査時の走行距離に基づいて前記推定希望走行距離が将来の車両検査時期の走行距離となるように前記複数の推定希望走行距離を設定するように前記コンピュータを機能させ、
前記転削時期推定手段が、前記鉄道用車輪を転削すべき車両検査の時期を推定するように前記コンピュータを機能させるためのプログラムとしても良い。
【0015】
この第の発明によれば、所定の車両検査時期の走行距離に基づいて複数の推定希望走行距離が設定され、転削すべき車両検査の時期が推定される。従って、転削時期として車両検査の時期が推定されるので、実際の運用に即した転削時期の推定が可能となる。
【0016】
の発明として、第1から第のいずれかの発明のプログラムを、
前記鉄道用車輪の出場時形状データと、前記転削時期推定手段により転削すべきと推定された時期の走行距離に対応する前記踏面形状推定手段により算出された踏面形状データとに基づき、転削時の削正量を算出する削正量算出手段(例えば、図5の車輪寿命推定部230;図16のステップS37~S41)、
前記削正量算出手段により算出された削正量と、前記転削時期推定手段により推定された時期と、前記鉄道用車輪の出場時直径と、前記鉄道用車輪の使用限度直径とに基づき、前記鉄道用車輪の寿命を推定する寿命推定手段(例えば、図5の車輪寿命推定部230;図16のステップS43~S55)、
として前記コンピュータを機能させるためのプログラムとしても良い。
【0017】
この第の発明によれば、出場時形状データと、転削すべきと推定された時期での算出された踏面形状データとに基づき、転削時の削正量が算出され、算出された削正量と、転削すべきと推定された時期と、出場時直径と、使用限度直径とに基づき、車輪の寿命が推定される。即ち、複数の踏面形状計測データから、当該車輪の寿命を定量的に推定可能となる。ここで、「出場時」とは、新品車輪である未走行時、又は、転削直後を意味する。
【0018】
の発明は、第1から第のいずれかの発明のプログラムを、
前記転削時期推定手段が、前記検査項目値として、車輪直径、フランジ厚さ、フランジ高さ及びフランジ角度を算出し、当該算出された車輪直径、フランジ厚さ、フランジ高さ及びフランジ角度の全てが前記規定車輪形状条件を満たすか否かを判定することにより、前記鉄道用車輪を転削すべき時期を推定するように前記コンピュータを機能させる、
ためのプログラムとしてもよい。
【0020】
の発明によれば、前記検査項目値として、車輪直径、フランジ厚さ、フランジ高さ及びフランジ角度を算出し、当該算出された車輪直径、フランジ厚さ、フランジ高さ及びフランジ角度の全てが前記規定車輪形状条件を満たすか否かを判定することにより、前記鉄道用車輪を転削すべき時期を推定する。このため、車輪の適正な転削時期の定量的な推定が可能となる。
【0021】
の発明は、第1~第の何れかの発明のプログラムを記憶したコンピュータが読み取り可能な情報記憶媒体(例えば、図5の記憶部300、図20の記憶部700)である。
【0022】
ここで「情報記憶媒体」とは、記憶されている情報をコンピュータが読み取り可能な、例えばハードディスクやMO、CD-ROM、DVD、メモリカード、ICメモリ等の記憶媒体である。従って、この第7の発明によれば、該情報記憶媒体に記憶されている情報をコンピュータに読み取らせて演算処理を実行させることで第1~第の何れかの発明と同様の効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、異なる走行距離の時点で計測された鉄道用車輪の複数の踏面形状計測データから、任意の推定希望走行距離での踏面形状データが推定される。即ち、走行距離に応じた鉄道用車輪の摩耗した踏面形状を定量的に推定可能となる。また、複数の踏面形状計測データから、当該車輪の適正な転削時期の定量的な推定が可能となるとともに、車輪の寿命の定量的な推定が可能となる
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態を説明する。
【0025】
〔第1実施形態〕
先ず、第1実施形態を説明する。第1実施形態は、計測された鉄道用車輪の踏面形状データから、走行による車輪の摩耗を推定する車輪摩耗推定装置についての実施形態である。
【0026】
[全体構成]
図1は、本実施形態の全体構成図である。同図に示すように、本実施形態は、形状計測装置10及び車輪摩耗推定装置20を備えており、両装置間は所定のケーブルKによって接続されている。ここで、ケーブルKとはデータ授受が可能な通信路のことであり、例えばパラレル接続用のケーブルやUSB(Universal Serial Bus)接続用のケーブル等である。
【0027】
形状計測装置10は、対象物体である鉄道車両用の車輪Wの踏面形状(厚さ方向の断面形状)を計測する。計測されたデータは、二次元のアナログデータとして出力される。
【0028】
車輪摩耗推定装置20は、PC(Personal Computer)等で構成され、形状計測装置10によって計測された車輪Wの踏面形状計測データに基づいて、当該車輪Wの摩耗を推定(算出)する。具体的には、計測時の走行距離が異なる複数の踏面形状計測データを基に任意の走行距離での車輪Wの踏面形状データを算出し、この算出した踏面形状データを用いて車輪Wを転削すべき時期(転削時期)や寿命(交換時期)を算出(推定)する。
【0029】
即ち、先ず、図2に示すように、アナログデータである、計測時の走行距離が異なる複数の踏面形状計測データ332それぞれを、デジタルデータ(離散データ)である踏面形状データ334に変換する。同図では、計測時の走行距離がA1,A2・・・である踏面形状計測データ332A,332B・・・それぞれが、踏面形状データ334A,334B・・・に変換されている。
【0030】
データ変換の詳細について説明する。図3(a)は、形状計測装置10によって計測された踏面形状データの一例である。但し、X方向を車輪の厚さ方向とし、Y方向を高さ方向としている。車輪摩耗推定装置20は、この踏面形状計測データを、同図(b)に示すように、X=4.1~120.0[mm]の範囲のデータ部分に対して、X方向のデータ間隔が所定の等間隔のデジタルデータに変換する。同図(b)では、同図(a)に示した踏面形状計測データの一部分について、X方向のデータ間隔を0.1[mm]の等間隔のデータに変換した場合を示している。
【0031】
尚ここでは、形状計測装置10による計測データはアナログデータであるとしたが、デジタルデータで与えられる場合も同様である。即ち、該デジタルデータに対する所定の補間処理を行って、X方向のデータ間隔が0.1[mm]の等間隔のデジタルデータに変換すれば良い。
【0032】
そして、車輪摩耗推定装置20は、変換後のデジタルデータである踏面形状データを用いて、任意の走行距離での踏面形状データを推定(算出)する。図4は、踏面形状データの推定について説明する図である。車輪摩耗推定装置20は、走行距離が異なる複数の踏面形状データに対して、走行距離に基づく推定演算として回帰演算を行うことで、任意の走行距離(推定希望走行距離)での踏面形状データを推定する。
【0033】
即ち、X値22a毎に、各走行距離22bでのY値に対する回帰演算を行って推定希望走行距離22cでのY値を算出する。同図では、走行距離22aが「0」、「1.43万キロ」・・・それぞれでの踏面形状データ334に対して回帰演算を行い、推定希望走行距離22cが「18万キロ」での踏面形状データを推定した場合を示している。ここで、走行距離が「0」の踏面形状データとは、出場時の車輪の踏面形状データである。「出場時」とは、当該車輪への交換直後、又は、転削直後の未走行時を意味する。
【0034】
ここで、踏面形状の推定に用いる複数の踏面形状データは次の条件を満たすことが望ましい。即ち、計測時の走行距離が5万キロ未満の踏面形状データについては、計測された走行距離間隔が1万キロ以下であり、走行距離が5万キロ以上の踏面形状データについては、計測された走行距離間隔が5万キロ以下である。
【0035】
これは、フランジ角度と走行距離との関係に基づくものである。即ち、フランジ角度と走行距離との間には、走行距離が5万キロ未満の場合には、走行距離の変化に対してフランジ角度が大きく変化し、走行距離が5万キロ以上の場合には、走行距離に対してフランジ角度が殆ど変化しないといった特性がある。このため、上記条件を満たす踏面形状データを用いて踏面形状の推定を行うことで、推定した踏面形状データから、車輪直径やフランジ厚さ、フランジ高さ、フランジ角度といった検査項目値を精度よく推定することが可能となる。
【0036】
[車輪摩耗推定装置]
図5は、車輪摩耗推定装置20のブロック構成図である。同図によれば、車輪摩耗推定装置20は、通信部120と、入力部140と、処理部200と、記憶部300と、出力部160とを備えて構成される。
【0037】
通信部120は、ケーブルKを介して形状計測装置10等の外部装置とデータ通信を行う。特に、本実施形態では、形状計測装置10から、計測された車輪Wの形状データを取り込む。取り込んだ形状データは、該データの計測時の走行距離と対応付けられて踏面形状計測データ332として記憶部300に記憶される。この通信部120は、外部接続用のインターフェースボード等によって実現される。
【0038】
入力部140は、車輪摩耗推定装置20に対するユーザ(使用者)の操作入力を受け付け、操作データを処理部200に出力する。この入力部140は、例えばキーボードやマウス、ボタンスイッチ、タッチパネル、各種センサ、マイク等によって実現される。
【0039】
処理部200は、車輪摩耗推定装置20の全体制御を行う。この処理部200は、CPU等の演算装置やICメモリ等の記憶装置等によって実現される。また、処理部200は、データ変換部210と、転削時期推定部220と、車輪寿命推定部230とを含み、記憶部300から読み出したプログラムやデータに従って、車輪の摩耗を推定する車輪摩耗推定処理を実行する。
【0040】
データ変換部210は、踏面形状計測データ332を、X方向のデータ間隔が所定間隔(例えば、0.1[mm])のデジタルデータに変換する。変換後のデータは、踏面形状データ334として記憶部300に記憶される。具体的には、図4を参照して説明したように、踏面形状計測データ332の内、例えばX値が、x=4.0~120.0[mm]、の範囲のデータ部分をX方向のデータ間隔が0.1[mm]のデジタルデータに変換し、当該走行距離での踏面形状データ334とする。
【0041】
転削時期推定部220は、踏面形状推定部222と検査項目値推定部224とを含み、踏面形状データ334に基づいて当該車輪を転削すべき時期(転削時期)を推定(算出)する。
【0042】
図6は、転削時期推定部220による転削時期の推定を説明するための図である。車輪の踏面形状の計測は、例えば交番検査などの所定の車両検査時に行われる。そこで、本実施形態において、転削時期推定部220は、各車両検査の時点での踏面形状データを算出(推定)し、算出した踏面形状データが、予め定められている検査規定を満たす車輪の形状条件(規定車輪形状条件)を満たすか否かを判断することで、当該車輪の転削時期を推定する。即ち、各車両検査時について、算出した踏面形状データを基に条件の充足/不充足を判断し、最初に「不充足」と判断した車両検査時の直前の車両検査時を「転削時期」とする。
【0043】
同図では、出場時から数えて初回及び2回目の車両検査時において、踏面形状が計測され、その次の3回目以降の各車両検査時について、踏面形状データが推定されている。そして、3回目からn回目の車両検査時においては、何れも「充足」と判断され、その次の(n+1)回目の車両検査時において「不充足」と判断されている。従って、n回目の車両検査時が「転削時期」と推定されている。
【0044】
踏面形状推定部222は、踏面形状データ334を基に、各車輪検査時での車輪の踏面形状データを算出する。各車両検査時の走行距離間隔を一定距離lとすると、i回目の車両検査時間での走行距離Lは「i×l」となる。従って、i回目の車両検査時の踏面形状データとして、踏面形状データ334に基づき、走行距離Lでの踏面形状データを算出する。算出された踏面形状データは、踏面形状推定データ(A)336として記憶部300に記憶される。
【0045】
検査項目値推定部224は、踏面形状推定部222によって算出された踏面形状推定データ(A)336に基づき、検査項目値として、車輪直径、フランジ厚さ、フランジ高さ及びフランジ角度を算出する。
【0046】
図7は、各検査項目値の算出方法の説明図であり、X方向を車輪の厚さ方向とし、Y方向を高さ方向とした踏面形状データを示している。また、車輪のバック面の位置をx=0とし、x=65[mm]のY方向の位置をy=0とする。そして、車輪直径は、式(1)に示すように、出場時の車輪直径(設計値)から踏面摩耗量の2倍の値を減算した値とする。
車輪直径=出場時の車輪直径-2×踏面摩耗量 ・・(1)
ここで、踏面摩耗量は、x=65[mm]におけるy値と、図中一点鎖線で示す出場時の踏面形状データにおける、x=65[mm]におけるy値との差分とする。尚、出場時の踏面形状データは、後述する設計車輪データ322に格納されている。
【0047】
また、フランジ厚さは、y=-10[mm]でのx値とする。フランジ高さは、x=65[mm]でのy値と、フランジトップでのy値の差、即ちy値の最小値の絶対値とする。フランジ角度は、y=-18~-12[mm]の範囲について、補間処理を行ってY方向のデータ間隔が0.1[mm]の等間隔データに変換し、変換後の各データ点の位置でのフランジ角度の平均値とする。尚、フランジ高さは、次式(2)に示す算出式に従って算出しても良い。
フランジ高さ=出場時のフランジ高さ+踏面摩耗量 ・・(2)
【0048】
検査項目値推定部224によって算出された各検査項目値は、推定検査項目値データ338に格納される。図8に、推定検査項目値データ338のデータ構成の一例を示す。同図によれば、推定検査項目値データ338は、検査項目338a毎に、推定値338bと、判定結果338cとを対応付けて格納している。検査項目338aとしては、車輪直径、フランジ厚さ、フランジ高さ及びフランジ角度が設定されている。
【0049】
推定値338bは、検査項目値推定部224によって算出された値が格納される。判定結果338cは、対応する推定値338bが、車輪形状条件である規定値を満たすか否かの判定結果であり、満たすならば「○」が、満たさないならば「×」が格納される。
【0050】
ここで、各検査項目値が規定値を満たすか否かの判定は踏面形状推定部222によって行われる。また、各検査項目値の規定値は、車輪の検査規定データ324に格納されている。図9に、車輪の検査規定データ324のデータ構成の一例を示す。同図によれば、車輪の検査規定データ324は、検査項目324a毎に、規定値324bを対応付けて格納している。検査項目324aとしては、車輪直径、フランジ厚さ、フランジ高さ及びフランジ角度が設定されている。
【0051】
転削時期推定部220は、最後に車輪の踏面形状の計測が行われた車両検査時の次の車両検査時から順に転削候補時期とする。そして、該転削候補時期について、踏面形状推定部222によって算出された踏面形状推定データ(A)336を基に、検査項目値推定部224によって算出された検査項目値が規定値を満たすか否かを判断し、車輪形状条件の充足/不充足を判断する。即ち、検査項目値の全てが規定値を満たしているならば「充足」と判断し、検査項目値の内の1つでも満たしていないならば「不充足」と判断する。その結果、最初に「不充足」と判断した転削候補時期の直前の車両検査時を、転削時期とする。
【0052】
車輪寿命推定部230は、転削時期推定部220によって算出された転削時期を基に、当該車輪の寿命(交換すべき時期。車輪交換時期)を算出する。
【0053】
図10は、車輪寿命推定部230による車輪の寿命の推定方法を説明するための図である。車輪寿命推定部230は、出場時から転削時期推定部220によって推定された転削時期までの走行距離を転削走行距離とし、出場時からこの転削走行距離間隔で転削を行ったと仮定した場合の当該車輪の寿命を推定(算出)する。
【0054】
具体的には、先ず、初回転削時の踏面形状データを算出する。即ち、踏面形状データ334に基づいて、転削走行距離での踏面形状データを算出する。そして、この算出した踏面形状データから、初回転削時期での削正量を算出する。ここで、算出された初回転削時の踏面形状データは、踏面形状推定データ(B)342として記憶部300に記憶される。
【0055】
削正量は、次のように算出する。即ち、先ず、図7に示したように、踏面形状推定データ(B)342と、出場時の踏面形状データとから踏面摩耗量を算出する。ここで、出場時の踏面形状データは、設計時の踏面形状データであり、踏面形状設計データとして設計車輪データ322に格納されている。図11に、設計車輪データ322のデータ構成の一例を示す。同図によれば、設計車輪データ322は、踏面形状設計データ322aと、設計値テーブル322bとを含んでいる。
【0056】
踏面形状設計データ322aは、少なくとも、車輪の厚さ方向であるX方向の値(x値)が、例えば、x=4.1~120.0[mm]の範囲のデータであって、このX方向のデータ間隔が例えば0.1[mm]の等間隔であるデジタルデータの形態で格納されている。設計値テーブル322bは、検査項目322b-1毎に、設計値322b-2を対応付けて格納している。検査項目322b-1としては、車輪直径、フランジ厚さ、フランジ高さ及びフランジ角度が設定されている。
【0057】
また、車輪寿命推定部230は、図7に示したように、踏面形状推定データ(B)342と踏面形状設計データ322aとから鉛直摩耗量の最大値(最大鉛直摩耗量)を算出する。即ち、データ点として設定されている例えば0.1[mm]間隔のx値毎に、踏面形状データ334のy値と踏面形状設計データ322aのy値との差分を鉛直摩耗量として算出する。図12は、算出された鉛直摩耗量の一例を示すグラフである。そして、この鉛直摩耗量の最大値を最大鉛直摩耗量とする。
【0058】
次いで、次式(3)に示す算出式に従って、初回転削時の削正量を算出する。但し、ここで算出される削正量は車輪半径相当分である。
削正量=最大鉛直摩耗量-踏面摩耗量 ・・(3)
【0059】
続いて、車輪寿命推定部230は、初回転削時における転削前の車輪直径を、次式(4)に示す算出式に従って算出する。但し、出場時の車輪直径とは、新品車輪である未走行時、又は、転削直後の車輪直径とする。
転削前車輪直径=出場時の車輪直径-2×踏面摩耗量 ・・(4)
【0060】
そして、算出した転削前車輪直径が、予め定められた使用限度直径である規定値を満たすか否かにより、当該車輪の使用可/不可を判定する。ここで、車輪直径の規定値は、車輪の検査規定データ324に格納されている。即ち、車輪の検査規定データ324において、検査項目324a「車輪直径」に対応する規定値324bである。
【0061】
転削前車輪直径が規定値を満たすならば、続いて、初回転削時における転削後の車輪直径(転削直後車輪直径)を、次式(5)に示す算出式に従って算出する。
転削直後車輪直径=転削前車輪直径-2×削正量 ・・(5)
【0062】
そして、車輪寿命推定部230は、上述した転削前車輪直径の場合と同様に、算出した転削直後車輪直径が予め定められた使用限度直径である規定値を満たすか否かにより、当該車輪の使用可/不可を判定する。
【0063】
転削直後車輪直径が規定値を満たすならば、続いて、初回転削時から転削走行距離間隔で順に転削時期とする。そして、各転削時期について、式(4)に従って転削前車輪直径を算出して、算出した転削前車輪直径が規定値を満たすか否かを判定し、また、式(5)に従って転削直後車輪直径を算出して、算出した転削直後車輪直径が規定値を満たすか否かを判定することにより、当該転削時期において、車輪の使用可/不可を判定する。その結果、最初に「使用不可」と判定した転削時期の直前の転削時期を、当該車輪の寿命とする。
【0064】
図10では、出場時から数えてm回目までの転削時期において「使用可」と判定され、その次の(m+1)回目の転削時期において初めて「使用不可」と判定されている。従って、m回目の転削時期が「寿命」と推定されている。また、転削走行距離をkとすると、寿命までの累積走行距離は「k×m」となる。
【0065】
ここで、車輪寿命推定部230により算出された各値は、寿命推定データ344に格納される。図13に、寿命推定データ344のデータ構成の一例を示す。同図によれば、寿命推定データ344は、各転削時データ345と、寿命推定結果データ346とを含んでいる。
【0066】
各転削時データ345は、転削時期345aと、転削走行距離345bと、踏面摩耗量345cと、最大鉛直摩耗量345dと、削正量345eと、出場時の車輪直径345fと、転削前車輪直径345gと、転削直後車輪直径345hとを格納している。これらの内、転削時期345a、転削走行距離345b、踏面摩耗量345c、最大鉛直摩耗量345d及び削正量345eは、初回転削時の推定の際に更新され、出場時の車輪直径345f、転削前車輪直径345g及び転削直後車輪直径345hは、各転削時の推定毎に更新される。
【0067】
また、寿命推定結果データ346は、転削回数346a毎に、転削直後車輪直径346bと、判定結果346cと、累積走行距離346dとを対応付けて記憶している。
【0068】
記憶部300は、処理部200に車輪摩耗推定装置20を統合的に制御させるための各種プログラムやデータ等を記憶する。具体的には、プログラムとして車輪摩耗推定プログラム310を記憶し、データとして、踏面形状計測データ332と、踏面形状データ334と、踏面形状推定データ(A)336と、推定検査項目値データ338と、踏面形状推定データ(B)342と、寿命推定データ344と、設計車輪データ322と、車輪の検査規定データ324とを記憶する。この記憶部300は、例えばハードディスクやROM、RAM、MO等によって実現される。
【0069】
出力部160は、処理部200による処理結果を出力するものであり、CRTやLCD、ELD等の表示装置、スピーカ等の音声出力装置、プリンタ等の印字装置等で実現される。
【0070】
[処理の流れ]
図14は、本実施形態における車輪摩耗推定処理の流れを説明するためのフローチャートである。この処理は、処理部200が車輪摩耗推定プログラム310に従った処理を実行することで実現される。同図によれば、先ず、データ変換部210が、踏面形状計測データ332を、X方向のデータ間隔が所定間隔(例えば、0.1[mm])のデジタルデータである踏面形状データ334に変換する(ステップS1)。次いで、転削時期推定部220が転削周期推定処理を行って転削時期を推定する(ステップS3)。
【0071】
図15は、転削時期推定処理の流れを説明するためのフローチャートである。同図によれば、転削時期推定部220は、先ず、最後に車輪踏面形状の計測が行われた車両検査時の次の車両検査時を転削候補時期とする(ステップS11)。次いで、出場時から転削候補時期までの走行距離を推定走行距離とし(ステップS13)、踏面形状推定部222が、踏面形状データ334に対する回帰演算を行って、この推定走行距離での踏面形状推定データ(A)336を算出する(ステップS15)。
【0072】
続いて、検査項目値推定部224が、算出された踏面形状推定データ(A)336に基づいて、車輪直径、フランジ厚さ、フランジ高さ及びフランジ角度といった各検査項目値を算出する(ステップS17)。そして、転削時期推定部220は、車輪の規定検査データ324を参照して、算出された各検査項目値が規定値を満たすか否かを判定する。検査項目値の全てが規定値を満たすならば(ステップS19:YES)、現在の転削候補時期における車輪形状条件は「充足」と判断し、転削候補時期を、その次の車両検査時に変更した後(ステップS21)、ステップS13に戻り、同様の処理を再度実行する。
【0073】
一方、算出した各検査項目値の内、一項目でも規定値を満たさないならば(ステップS19:NO)、転削候補時期における車輪形状条件は「不充足」と判断し、この転削候補時期の直前の車両検査時を転削時期とする(ステップS23)。そして、本転削時期推定処理を終了して、図14のステップS5に戻る。
【0074】
図14において、転削時期推定処理が終了すると、続いて、車輪寿命推定部230が車輪寿命推定処理を行って車輪の寿命を推定する(ステップS5)。
【0075】
図16は、車輪寿命推定処理の流れを説明するためのフローチャートである。同図によれば、車輪寿命推定部230は、先ず、初期設定として、転削回数jを「1」に設定するとともに、累積走行距離を「0」に設定する(ステップS31)。次に出場時の車輪直径を設定する(ステップS32)。続いて、出場時から転削時期算出処理によって算出された初回転削時までの走行距離を転削走行距離とし(ステップS33)、踏面形状データ334に対する回帰演算を行って、この転削走行距離での踏面形状推定データ(B)342を算出する(ステップS35)。
【0076】
続いて、車輪寿命推定部230は、踏面形状設計データ322aを参照して、算出した踏面形状推定データ(B)342から踏面摩耗量を算出するとともに(ステップS37)、鉛直摩耗量の最大値(最大鉛直摩耗量)を算出する(ステップS39)。そして、算出した最大鉛直摩耗量から踏面摩耗量を減算して削正量を算出する(ステップS41)。
【0077】
その後、車輪寿命推定部230は、予め設定した出場時の車輪直径から踏面摩耗量の2倍の値を減算して、転削前車輪直径を算出する(ステップS43)。そして、車輪の検査規定データ324を参照して、算出した転削前車輪直径が規定値を満たすか否かを判定する。満たさないならば(ステップS44:NO)、(j-1)回目の転削時を当該車輪の寿命とし(ステップ55)、本寿命推定処理を終了する。
【0078】
転削前車輪直径が規定値を満たすならば(ステップS44:YES)、車輪寿命推定部230は、転削前車輪直径から削正量の2倍の値を減算して転削直後車輪直径を算出する(ステップS45)。そして、車輪の検査規定データ324を参照して、算出した転削直後車輪直径が規定値を満たすか否かを判定する。満たすならば(ステップS49:YES)、累積走行距離に転削走行距離を加算し(ステップS47)、転削回数を「1」加算した値に更新するとともに(ステップS51)、転削直後車輪直径を出場時の車輪直径に再設定した後(ステップS53)、ステップS43に戻り、同様の処理を繰り返す。一方、転削直後車輪直径が規定値を満たさないならば(ステップS49:NO)、(j-1)回目の転削時を当該車輪の寿命とする。そして、本寿命推定処理を終了する。
そして、図14において、車輪寿命推定処理が終了すると、本車輪摩耗推定処理は終了となる。
【0079】
[作用・効果]
以上、第1実施形態によれば、車輪摩耗推定装置20は、計測時の走行距離が異なる車輪Wの複数の踏面形状計測データ332それぞれを、車輪厚さ方向であるX方向のデータ間隔が所定の等間隔(例えば、0.1[mm])である踏面形状データ334に変換し、変換後の複数の踏面形状データ334を用いて、当該車輪Wの摩耗を推定する。
【0080】
即ち、転削時期推定部220が、踏面形状データ334を基に、所定の走行距離間隔で実施される交番検査などの各車両検査の時点での踏面形状推定データ(A)336を算出し、この踏面形状推定データ(A)336から算出される各検査項目値が車輪の検査規定データ324で規定される規定値を満たすか否かにより、当該車輪の転削時期を推定(算出)する。また、車輪寿命推定部230が、転削時期推定部220により算出された転削時期での削正量を算出し、この削正量を基に、該転削時期までの走行距離間隔での転削を行った場合の各転削時での転削前車輪直径及び転削直後車輪直径を算出し、算出した転削前車輪直径及び転削直後車輪直径が車輪の検査規定データ324で規定される規定値を満たすか否かを判定することにより、当該車輪Wの寿命を算出する。このように、鉄道用車輪の摩耗した踏面形状が定量的に推定可能になるとともに、当該車輪の転削時期や寿命(交換時期)を定量的に推定可能となる。
【0081】
参考例
次に、参考例を説明する。この参考例は、フランジ角度の計測値からフランジ角度と走行距離との関係を推定するフランジ角度推定装置についての形態例である。
【0082】
[走行距離とフランジ角度との関係]
図17は、ある走行距離におけるフランジ角度の計測値をプロットした図である。但し、横軸を走行距離とし、縦軸をフランジ角度の計測値としている。また、車両の種類によって該車両で使用される車輪の摩耗の仕方が異なるため、ここでは、ある特定の鉄道車両で使用される車輪(但し、同一の車輪とは限らない)について計測したフランジ角度の値のみを対象としている。
【0083】
同図に示すように、走行距離とフランジ角度との間には、走行距離が5万キロまでの間は、走行距離の変化に対してフランジ角度は大きく変化(増加)するが、走行距離が5万キロを超えると、走行距離の変化に対してフランジ角度はほとんど変化しないといった特性がある。更に、車両の種類により摩耗の仕方が異なるため、走行距離が5万キロ以降でのフランジ角度の変化には、(a)ほぼ一定、(b)やや増加する、(c)やや減少する、の3パターンがあることが分かった。同図では、(c)やや減少する場合に相当する。
【0084】
そして、蓄積された多数のフランジ角度の計測値を分析することで、走行距離Xとフランジ角度Yとの関係式として、次式(6)が適当であると分かった。
Y=A×tanh(B×X)+C×X+D ・・(6)
但し、A,B,C,Dは定数である。
【0085】
図18は、式(6)の曲線の一例を示す図である。但し、横軸をXとし、縦軸をYとしている。同図に示すように、式(6)の曲線は、X値が所定値未満の図中左部分では、X値の変化に対してY値が大きく変化し、X値が所定値以上の図中右部分では、X値の変化に対してY値の変化が小さいといった特性を持つ。即ち、上述した走行距離とフランジ角度との関係と同様の特性である。また、当該曲線の左部分の傾きは、主に定数A,Bの値によって決定され、右部分の傾きは、主に定数Cの値によって決定される。そして、定数Cの値に応じて、右部分の傾きが、(a)0、(b)正、(c)負、の何れかとなる。
【0086】
従って、蓄積されたフランジ角度の計測値と走行距離との関係に応じて定数A,B,C,Dを適当に設定することで、式(6)により、走行距離とフランジ角度との関係を定式化できる。尚、定数Dは、X=0、でのY値、即ちフランジ角度の設計値となる。そして、式(5)において、主に、第1項は走行距離Xが5万キロ以下の部分の特性を表し、第2項は走行距離Xが5万キロ以上の部分の特性を表す。また、第3項(定数項)は、フランジ角度の設計値である。
【0087】
図19は、式(6)で与えられる走行距離Xとフランジ角度Yとの関係式と、蓄積されたフランジ角度の計測値との比較結果を示す図である。但し、横軸を走行距離Xとし、縦軸をフランジ角度Yとしている。また、式(6)において、A=5.3、B=1.8、C=60、D=65、とした関係式の曲線を示している。同図に示すように、式(6)で示される関係式の曲線とフランジ角度の計測値とがほぼ一致しており、この関係式が適切であることが分かる。
【0088】
[フランジ角度推定装置]
図20は、本参考例におけるフランジ角度推定装置30のブロック構成図である。同図によれば、フランジ角度推定装置30は、入力部520と、処理部600と、記憶部700と、出力部540とを備えて構成される。
【0089】
入力部520は、フランジ角度推定装置30に対するユーザ(使用者)の操作入力を受け付け、操作データを処理部600に出力する。この入力部520は、例えばキーボードやマウス、ボタンスイッチ、タッチパネル、各種センサ、マイク等によって実現される。
【0090】
処理部600は、フランジ角度推定装置30の全体制御を行う。この処理部600は、CPU等の演算装置やICメモリ等の記憶装置等によって実現される。また、処理部600は、記憶部700から読み出したプログラムやデータ等に従って、フランジ角度の計測値から走行距離とフランジ角度との関係を推定するフランジ角度推定処理を実行する。
【0091】
具体的には、計測値蓄積データ722及び設計値データ724に基づいて、式(6)で示される関係式の定数A,B,C,Dを決定し、推定の対象としている車輪の走行距離とフランジ角度との関係式を推定する。ここで、計測値蓄積データ722とは、推定の対象としている車輪が使用される鉄道車両で過去に使用された各車輪についての、フランジ角度の測定値を該計測時の走行距離と対応付けて多数蓄積したデータ(履歴データ)であり、例えば図17に示したデータ群である。
【0092】
また、設計値データ724とは、推定の対象としている車輪の設計時の寸法データである。図21に、設計値データ724の一例を示す。同図に示すように、設計値データ724は、設計値としてフランジ角度724aを格納している。
【0093】
処理部600は先ず、設計値データ724に格納されているフランジ角度の設計値を、式(6)における定数Dとして決定する。次いで、式(6)における定数A,B,Cを様々に変化させた複数(多数)の候補式を算出する。そして、各候補式について、その曲線と計測値蓄積データ722の各データ値との近似度を所定の近似度算出方法で算出し、近似度が最も高い(最も近似している)候補式を、推定の対象としている車輪に最も適切な関係式として確定する。
【0094】
確定された関係式は、関係式データ726に格納される。図22に、関係式データ726のデータ構成の一例を示す。同図によれば、関係式データ726は、関係式726aと、この関係式726aにおける各定数726bの値とを格納している。
【0095】
記憶部700は、処理部600にフランジ角度推定装置30を統合的に制御させるための各種プログラムやデータ等を記憶する。具体的には、プログラムとして、処理部600にフランジ角度推定処理を実行させるためのフランジ角度推定プログラム710を記憶し、データとして、計測値蓄積データ722と、設計値データ724と、関係式データ726とを記憶する。
【0096】
[処理の流れ]
図23は、参考例におけるフランジ角度推定処理の流れを説明するためのフローチャートである。この処理は、処理部600がフランジ角度推定プログラム710に従った処理を実行することで実現される。
【0097】
同図によれば、処理部600は、先ず、設計値データ724に設定されているフランジ角度の設計値を、式(6)に示す関係式における定数Dとして設定する(ステップT1)。次いで、この関係式において定数A,B,Cを様々に変化させた候補式を複数(多数)生成する(ステップT3)。そして、生成した各候補式について、その曲線と計測値蓄積データ722に蓄積されている各データ値との近似度を算出し、最も近似している候補式を、推定対象としている車輪について最も適切な関係式であると判定する(ステップT5)。以上の処理を行うと、処理部600はフランジ角度推定式を終了する。
【0098】
[作用・効果]
以上の参考例によれば、フランジ角度推定装置30は、ある車輪についての走行距離Xとフランジ角度Yとの関係式を、式「Y=A×tanh(B×X)+C×X+D」における定数A,B,C,Dを決定することで推定(算出)する。即ち、定数Dを、設計値データ724に設定されている当該車輪のフランジ角度の設計値とする。そして、定数A,B,Cと様々に変化させた複数の候補式の内、当該車輪が使用される鉄道車両で過去に使用されていた各車輪についてのフランジ角度の計測値を該計測時の走行距離と対応付けて多数蓄積した計測値蓄積データ722の各データと最も近似する候補式を、当該車輪についての関係式として推定(算出)する。このように、フランジ角度の計測値から、鉄道用車輪のフランジ角度と走行距離との関係を定式化することが可能となる。
【0099】
〔変形例〕
尚、本発明の適用は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】第1実施形態における全体構成図。
【図2】データ変換の説明図。
【図3】データ変換の説明図。
【図4】踏面形状データに基づく踏面形状データの推定の説明図。
【図5】車輪摩耗推定装置の構成図。
【図6】転削時期推定の説明図。
【図7】各検査項目値の算出例。
【図8】推定検査項目値データのデータ構成例。
【図9】車輪の検査規定データのデータ構成例。
【図10】寿命推定の説明図。
【図11】設計車輪データのデータ構成例。
【図12】鉛直摩耗量の一例。
【図13】寿命推定データのデータ構成例。
【図14】車輪摩耗推定処理の流れ図。
【図15】車輪摩耗推定処理中で実行される転削時期推定処理の流れ図。
【図16】車輪摩耗推定処理中で実行される車輪寿命推定処理の流れ図。
【図17】フランジ角度の計測値と走行距離との関係例。
【図18】走行距離Xとフランジ角度Yとの関係式の一例。
【図19】関係式とフランジ角度の計測値との比較例。
【図20】参考例におけるフランジ角度推定装置の構成図。
【図21】設計値データのデータ構成例。
【図22】関係式データのデータ構成例。
【図23】フランジ角度推定処理の流れ図。
【符号の説明】
【0101】
10 形状計測装置
20 車輪摩耗推定装置
120 通信部
140 入力部
200 処理部
210 データ変換部
220 転削時期推定部
222 踏面形状推定部
224 検査項目値推定部
230 車輪寿命推定部
300 記憶部
310 車輪摩耗推定プログラム
322 設計車輪データ
324 車輪の検査規定データ
332 踏面形状計測データ
334 踏面形状データ
336 踏面形状推定データ(A)
338 推定検査項目値データ
342 踏面形状推定データ(B)
344 寿命推定データ
160 出力部
30 フランジ角度推定装置
520 入力部
600 処理部
700 記憶部
710 フランジ角度推定プログラム
722 計測値蓄積データ
724 設計値データ
726 関係式データ
540 出力部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22