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明細書 :酸化物超電導バルク体の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4690774号 (P4690774)
公開番号 特開2006-306692 (P2006-306692A)
登録日 平成23年2月25日(2011.2.25)
発行日 平成23年6月1日(2011.6.1)
公開日 平成18年11月9日(2006.11.9)
発明の名称または考案の名称 酸化物超電導バルク体の製造方法
国際特許分類 C30B  29/22        (2006.01)
C01G   1/00        (2006.01)
C01G   3/00        (2006.01)
FI C30B 29/22 501B
C01G 1/00 ZAAS
C01G 3/00
請求項の数または発明の数 5
全頁数 18
出願番号 特願2005-151580 (P2005-151580)
出願日 平成17年5月24日(2005.5.24)
優先権出願番号 2005093066
優先日 平成17年3月28日(2005.3.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成19年6月29日(2007.6.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】尾作 仁司
個別代理人の代理人 【識別番号】100064908、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 正武
【識別番号】100089037、【弁理士】、【氏名又は名称】渡邊 隆
審査官 【審査官】田中 則充
参考文献・文献 特開2001-114595(JP,A)
特開2004-269309(JP,A)
特開2004-262673(JP,A)
特開2004-339055(JP,A)
特開平05-193938(JP,A)
特開平09-241100(JP,A)
特開2005-289684(JP,A)
調査した分野 C30B 1/00-35/00
C01G 1/00
C01G 3/00
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
酸化物超電導体の前駆体を加熱して半溶融状態とした後に冷却し、前記前駆体上に設置されている種結晶の結晶構造を基に先の半溶融状態の前駆体を結晶化して酸化物超電導バルク体とするトップシード溶融凝固法によってファセットを成長させた酸化物超電導バルク体を製造する方法であって、
1回目のトップシード溶融凝固法によってファセットが生成しないか、ファセットが生成したとしても前駆体中心部で生成停止した状態の未発達ファセット状態の試料に対し、
2回目のトップシード溶融凝固法を実施するとともに、この2回目のトップシード溶融凝固法を実施するにあたり、結晶成長のための処理を複数段のステップで、各ステップの温度差を2℃±1℃として徐々に温度降下させるとともに、各ステップにおいては等温保持する段階降温等温処理を施すにあたり、前駆体の組成比に応じた理論的結晶成長温度を中心としてそれよりも高い温度域から段階降温等温処理を開始し、結晶成長温度よりも低い温度域まで段階降温等温処理を施すことにより、REBaCu7-x系の酸化物超電導体(REはYを含む希土類元素の1種類又は2種以上を示す。)または前記組成にAg、PtまたはAuのいずれかを含む組成系の酸化物超電導体からなる酸化物超電導バルク体を得ることを特徴とする酸化物超電導バルク体の製造方法。
【請求項2】
前記段階降温等温処理を施し、その後、常温まで冷却することを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導バルク体の製造方法。
【請求項3】
前記結晶成長のための保持温度の段階的ステップ数を3~8の範囲することを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物超電導バルク体の製造方法。
【請求項4】
前記酸化物超電導体の前駆体として、得ようとする酸化物超電導バルク体を構成する元素を含む原料粉末を混合して仮焼きした後、この仮焼物を圧密した圧密成形体を用いることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の酸化物超電導バルク体の製造方法。
【請求項5】
前記REが、Yを含む希土類元素La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの1種または2種以上を示すことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の酸化物超電導バルク体の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、トップシード溶融凝固法に基づいて酸化物超電導バルク体を製造する方法に関し、ファセットが十分に成長した状態の大型かつ高品質の酸化物超電導バルク体を容易に得ることができるようにした技術に関する。
【背景技術】
【0002】
大型の酸化物超電導バルク体を製造する方法の一例として溶融法が知られている。
この溶融法とは、REBaCu7-X(REは希土類元素を示す)なる組成の酸化物超電導バルク体を製造するに際し、REBaCu相またはREBaCu10相と、Ba-Cu-Oを主成分とした液相とが共存する温度領域まで加熱した後、REBaCu7-X相が生成する包晶温度直上の温度まで冷却し、その温度から徐冷することにより結晶成長させ、核生成と結晶方位の制御を行い、酸化物超電導バルク体を得る製造方法である。
【0003】
また、1つの種結晶を使用し、結晶成長開始温度が異なる材料を順次組み合わせて核生成、結晶方位および結晶成長方向を制御して酸化物超電導バルク体を製造するトップシード溶融凝固法(Top Seeding Melt Growth)が知られている。(特許文献1参照)
この特許文献1に記載されたトップシード溶融凝固法では、酸化物超電導バルク体を構成する元素の化合物粉末を混合してなる原料粉末を圧密して前駆体を得た後、この前駆体を利用してREBaCu7-X(REは希土類元素を示す)なる組成の酸化物超電導体を製造するに際し、REBaCu相またはREBaCu10相と、Ba-Cu-Oを主成分とした液相とが共存する温度領域まで前駆体を加熱して半溶融状態とした後、半溶融状態の前駆体上に種結晶を設置し、REBaCu7-X相が生成する包晶温度直上の温度まで冷却し、その温度から徐冷することにより半溶融状態の前駆体の内部で種結晶に沿わせて徐々に結晶成長を行い、前駆体全体を酸化物超電導バルク体とする方法の一例として記載されている。
【0004】
更に、先のトップシード溶融凝固法を用いて希土類酸化物超電導バルク体を製造する方法において他の文献も知られている。(特許文献2参照)
この特許文献2に記載されたトップシード溶融凝固法は、REBaCu7-x系超電導体(ここでREはYを含む希土類元素の1種類又はその組み合わせ)の原料成形体を溶融加熱処理し、これを冷却してREBaCu7-x相中にREBaCuO相又はREBaCu10相が分散した酸化物超電導体を製造する方法において、前記原料成形体上に種結晶を載置してから溶融加熱処理を行う方法として開示されている。
この特許文献2の実施例1においては、原料粉末から形成した円盤状成形体を1150℃に加熱した後に、1080℃において種結晶を設置し、1060℃まで30分で降温し、更にここから1040℃まで120時間かけて徐冷し、結晶成長を行ったと記載されている。次にこの特許文献2の実施例2においては、970℃まで110時間かけて徐冷したと記載され、実施例3では960℃まで110時間かけて徐冷したと記載され、実施例4では1045℃まで120時間かけて徐冷したと記載され、実施例5では970℃まで110時間かけて徐冷し結晶成長を行ったと記載され、実施例6では960℃まで110時間かけて徐冷したと記載され、実施例7では970℃まで110時間かけて徐冷し、結晶成長を行ったと記載されている。

【特許文献1】特開平5-170598号公報
【特許文献2】特開2001-233696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先に記載した特許文献に記載されたトップシード溶融凝固法においては、いずれも、目的の酸化物超電導体の組成に応じて望ましい温度に加熱した成形体の温度を一端、包晶温度直上の温度まで冷却し、その温度から100時間を超える長い時間をかけてわずかな温度勾配をかけて徐冷する温度勾配冷却を行い、酸化物超電導バルク体を製造していた。従ってこの種の酸化物超電導バルク体を製造するために極めて長い時間、例えば100時間~500時間程度の加熱処理が必要であり、製造効率が悪いという問題を有していた。
【0006】
また、この種のトップシード溶融凝固法を用いて酸化物超電導バルク体を製造する場合、結晶を成長させる温度は組成に応じて一義的に決まるものではなく、経験的な温度決めが必要不可欠であった。例えば、目的の組成比通りに前駆体を製造し、事前に熱分析により溶融温度を測定しておいたとしても、実際に製造に用いる加熱炉の温度分布や成形体のサイズ、成形体を製造する場合の製造条件のわずかなばらつき、あるいは、加熱条件などの微妙な差異により、溶融時に組成ずれが必ず起こり、先の熱分析値による指標温度も経験的な温度決めの補助的要素にしかならないケースが多いものであった。
また、加熱温度が1000℃を超える温度範囲となった場合、成形体試料の温度自体を精密に制御したり、計測すること自体が難しく、単に加熱炉に投入して加熱炉の設定温度を制御したのみでは、精密な温度制御は難しいものであるとともに、1000℃を超える成形体の温度状態を精密にモニターし、成形体の中心部と外周部で精密に温度制御すること自体困難なものであった。
【0007】
更に、前記いずれの製造方法において製造するにしても、酸化物超電導体を構成する元素は希土類元素を多く含み、不純物の混入を嫌うので、原材料単価自体が極めて高いとともに、100時間以上もの長い時間をかけて製造し、良好な条件の元で製造したとしてもわずかな条件等の手違いが起因となって歩留まりが大幅に低下するとして知られており、例えば数10~100個程度製造を試みて数個程度の良品が得られるのみであって極めて歩留まりが悪いという問題があった。
【0008】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、1回目のトップシード溶融凝固法においてはファセットの成長が失敗した試料を再利用して再度処理し、最終的にファセットを成長させた高品質の酸化物超電導バルク体を製造することができるとともに、従来方法では100時間を超える徐冷処理による結晶成長が必要であったものを本発明では数時間~10数時間程度の短い時間で結晶成長可能とする技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、酸化物超電導体の前駆体を加熱して半溶融状態とした後に冷却し、前記前駆体上に設置されている種結晶の結晶構造を基に先の半溶融状態の前駆体を結晶化して酸化物超電導バルク体とするトップシード溶融凝固法によってファセットを成長させた酸化物超電導バルク体を製造する方法であって、
1回目のトップシード溶融凝固法によってファセットが生成しないか、ファセットが生成したとしても前駆体中心部で生成停止した状態の未発達ファセット状態の試料に対し、
2回目のトップシード溶融凝固法を実施するとともに、この2回目のトップシード溶融凝固法を実施するにあたり、結晶成長のための処理を複数段のステップで、各ステップの温度差を2℃±1℃として徐々に温度降下させるとともに、各ステップにおいては等温保持する段階降温等温処理を施すにあたり、前駆体の組成比に応じた理論的結晶成長温度を中心としてそれよりも高い温度域から段階降温等温処理を開始し、結晶成長温度よりも低い温度域まで段階降温等温処理を施すことにより、REBaCu7-x系の酸化物超電導体(REはYを含む希土類元素の1種類又は2種以上を示す。)または前記組成にAg、PtまたはAuのいずれかを含む組成系の酸化物超電導体からなる酸化物超電導バルク体を得ることを特徴とする。
【0010】
本発明において、前記段階降温等温処理を施し、その後、常温まで冷却するものでも良い。
本発明において、前記結晶成長のための保持温度の段階的ステップ数を3~8の範囲することができる。
明で用いる前記酸化物超電導体の前駆体として、得ようとする酸化物超電導バルク体を構成する元素を含む原料粉末を混合して仮焼きした後、この仮焼物を圧密した圧密成形体を用いることを特徴とする。
【0011】
本発明において、前記REが、Yを含む希土類元素La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの1種または2種以上を示すことができる。

【発明の効果】
【0012】
本発明において、1回目のトップシード溶融凝固法によってファセットが生成しないか、ファセットが生成しても前駆体中心部で生成停止した状態の未発達ファセット状態の試料に対し、2回目のトップシード溶融凝固法を実施する際、結晶成長のための処理を複数段のステップで徐々に温度降下させるとともに、各ステップにおいては等温保持する段階降温等温処理を施すことにより、1回目のトップシード溶融凝固法においてはファセットの成長が失敗した試料を再利用して最終的にファセットを成長させた高品質の酸化物超電導バルク体を製造することができる。
この点において、1回目のトップシード溶融凝固法によってファセットが生成しないか、ファセットが生成しても前駆体中央部で生成停止した状態の未発達ファセット状態の試料は従来不良品として扱われていた。この不良品の試料は再利用するとしても、そのまま再利用することはできないので、粉砕して微細粉末化し、沈殿分離再回収処理工程などを経て、組成成分毎に再生原料として利用し、この再生原料から再度次の試料を製造している。即ち、再生原料と他の成分原料とを原料混合し、粉末化して粒度を揃え、圧密化を経て前駆体として再利用に提供されるので、本発明ではこのような複雑な工程を経ることなく段階降温等温処理のみでファセットが成長した酸化物超電導バルク体として再利用可能となり、その利用価値は大幅に向上する。また、1回目のトップシード溶融凝固法により製造失敗した試料の再利用を図るので酸化物超電導バルク体の製造歩留まりの向上にも寄与する。
【0013】
本発明において、複数段のステップで等温保持させながら徐々にステップ毎に温度を下げつつ加熱処理することで、単に緩い温度勾配で徐冷して結晶成長させるよりも遙かに早く結晶成長させることができる効果がある。例えば、従来技術では緩い温度勾配で100時間を超える徐冷処理が必要であったのに比較して数時間~10時間程度の段階降温等温処理で結晶成長ができるようになる。従って従来技術よりも数倍~数10倍の速度で結晶成長させることができるようになる。即ちこの結晶成長方法により、種結晶を元として前駆体を結晶化する場合、結晶成長が完全に進行した目安となるファセットが、種結晶の設置部分から前駆体の外周部まで完全に到達し、完全結晶成長した酸化物超電導バルク体を従来よりも数倍~数10倍の速度で確実に製造できるようになる。
【0014】
種結晶を元に前駆体を結晶成長させる場合、前駆体の原料の配合組成比に応じた理論的結晶成長温度を中心として、それよりも高い温度域から段階的降温等温処理を行い、理論的結晶成長温度よりも低い温度まで段階的降温等温処理を行うことで、前駆体の製造過程での原料の混合不均一性や原料自体の組成ずれ、原料混合比のずれ、その他の前駆体の製造過程での種々の製造要因などに起因して、組成比に応じた理論的結晶開始温度からわずかにずれた温度で結晶成長を開始する場合の温度ずれを吸収して結晶成長させることができる。従ってこの方法の採用により、前駆体の製造条件のばらつきを吸収して確実な結晶成長を促すことができる。
また、より具体的には、3~8ステップであって各ステップの温度差を2℃±1℃とした段階降温等温処理とすることで、完全結晶成長させた酸化物超電導バルク体を確実に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1~図3は本発明に係る製造方法を実施する状態を説明するための図であり、図1は円盤状をなす酸化物超電導体の前駆体1の上部中央に種結晶2を設置した状態を示し、図2は図1に示す前駆体1に対して以下に説明する方法を実施することにより得られた前駆体熱履歴物3Aを示し、図3は図2に示す前駆体熱履歴物3Aに対して後に説明する方法を実施することにより得られた酸化物超電導バルク体3Bを示している。なお、この酸化物超電導バルク体3Bを酸素雰囲気中において熱処理することで最終目的物としての酸化物超電導バルクが得られる。
本発明で用いる酸化物超電導バルク体製造用の前駆体1とは、目的とする酸化物超電導体の組成と同じ組成、あるいは、近似する組成の原料混合体の圧密体であり、本発明を適用できる酸化物超電導体として例えば、RE-Ba-Cu-O系(REはYを含む希土類元素La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの1種または2種以上を示す。)のものを例示することができる。
【0016】
ここで目的の酸化物超電導体がRE-Ba-Cu-O系の酸化物超電導体である場合、前駆体1として例えば、REの化合物粉末とBaの化合物粉末とCuの化合物粉末をRE:Ba:Cu=1:2:3、またはそれに近似する組成で混合した原料混合粉末を圧密したものなどを用いることができる。
先の化合物粉末をRE:Ba:Cu=1:2:3に近似する組成で混合する場合、REBaCu7-X相成分(R123相成分)に対するREBaCu相成分(R211相成分)の比で1.1以上、1.8以下の範囲、モル比では5モル%以上、40モル%以下の範囲とする混合比を例示することができる。なお、得られる酸化物超電導バルク体の臨界電流密度の値は1.4近傍で飽和する傾向にある。また、R123相に対するR211相の比を1.1未満にすると、溶融凝固時に正常な結晶化の反応が進行し難くなるが、これらの範囲に本発明が制限されるものではなく、組成比に応じて望ましい範囲を選択すれば良い。
【0017】
前記モル比の具体的な数値として例えば、R123相成分とR211相成分の比を1.1(5モル%R211相成分)、1.2(10モル%R211相成分)、1.4(20モル%R211相成分)、1.8(40モル%R211相成分)に設定することができる。ここで例えば、比が1.8とは、Sm123のSmモル数が10モルに対してSm211のSmモル数が8モルになるようにすることを意味する。
即ち、10(REBaCu7-X)+4(REBaCu)=100(REBaCu7-X)+40(REBaCu)の関係となるような百分率と考える。従って本明細書で用いる比で1.1とは5モル%R211相成分を意味し、比で1.2とは10モル%R211相成分を意味し、比で1.4とは20モル%R211相成分を意味し、比で1.8とは40モル%R211相成分を意味する。
【0018】
この形態において前駆体1は先の組成の原料混合粉末をプレス装置、あるいは、CIP装置(静水圧装置)などの加圧装置により円盤状に成形したものを用いる。勿論、CIP装置が高価であるならば、プレス装置で前駆体1を製造する方が製造コストは安くなる。また、前駆体1の大きさは任意で良く、用いるプレス装置やCIP装置で製造可能な大きさの前駆体とすれば良い。
また、前駆体1を製造する場合、原料混合粉末を得た後、800~1000℃程度で仮焼きしてから粉砕装置で粉砕した仮焼原料を再度混合するという仮焼き粉砕操作を必要回数行ったものを成形しても良い。粉末混合粉砕と仮焼き温度の条件として、めのう乳鉢あるいはアトライタやボールミル等の粉砕混合装置を用いて1時間程度混合した後に900℃程度で15時間程度仮焼きする条件等を例示することができる。
【0019】
また、繰り返し複数回仮焼きして最終粉砕して混合する際、後に行う半溶融凝固法の際の溶融温度を下げるためと機械的強度を向上させる目的でAgOを添加すること、あるいは、R211相の微細化触媒としてのPtを添加物質として混合して成形体としたものを前駆体1としても良い。なお、他の元素としてAuを添加物質として混合することもあり得る。
これらの添加物質は最終的に得られる酸化物超電導体の超電導特性を向上させるもの、あるいは超電導特性を阻害しないものであれば良い。例えば添加物質がAgであれば、酸化物超電導体に5~20wt%程度の範囲で添加できることが知られているので、AgあるいはAgOを先の範囲で添加しても良い。
【0020】
図1に示すように前駆体1の上に種結晶2を設置し、これらを加熱炉に装入し、1回目のトップシード溶融凝固法に基づいて熱処理する。
ここで行う1回目のトップシード溶融凝固法とは、予め酸化物超電導体の前駆体に種結晶を載せておき、この前駆体を融点以上の温度で液相と固相が共存する温度に加熱溶融させて半溶融状態とした後、冷却工程を行ない、種結晶を利用し、種結晶を起点として前駆体内に目的の酸化物超電導体の単結晶を成長させることにより、結晶構造の良好な超電導特性の優れた酸化物超電導体を得ようとする製造方法として知られている方法である。
更に、本実施形態では前駆体に種結晶を載せてから加熱してゆくコールドシーディング(cold seeding)法を元に説明するが、前駆体を半溶融状態にしてから種結晶を設置するホットシーディング法を利用しても差し支えないのは勿論である。
【0021】
この実施形態で用いる種結晶2とは、目的とする希土類酸化物超電導体とは異なる希土類を用いた種類の酸化物超電導体の単結晶体か薄膜を用いる。
例えば、目的の酸化物超電導体がSm系のものである場合、Sm系よりも包晶温度の高いNd系の酸化物超電導体の単結晶体あるいは単結晶薄膜を用いることができる。即ち、種結晶2は前駆体の半溶融温度において結晶状態を維持している必要があるので、用いる前駆体よりも包晶温度の高いものを用いることが好ましい。
種結晶2として酸化物超電導薄膜を用いる場合に、MgOなどの耐熱性基板の上に成膜法により形成したNd系の酸化物超電導体の単結晶状のフィルムを有するものなどを適用できる。勿論、この他に、希土類として、Gd系、Dy系、Ho系、Y系など、半溶融凝固法に適用できる種々の系の単結晶体あるいは超電導薄膜を種結晶として適用することができる。
【0022】
なお、図1では略しているが、前駆体1の下には、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)の膜あるいは板(厚さ0.1~0.2mmのシート)を敷き、更にそれらを支持する板状、ボート状、坩堝状などの耐熱材料製の基台を設置しておき、加熱時にこれらの基台とともに加熱炉に装入すれば良い。
先のYSZの膜あるいは板は前駆体1への不純物の侵入を阻止するもので、この膜あるいは板を下に敷いておかないと下側の前駆体1が他の物質に接触した部分から結晶化が起こり、最終的に得られる結晶が多結晶体になるか配向性の悪い結晶体になってしまうおそれがある。
また、耐熱性の基台と前駆体1との反応を抑制するなどの目的で、基台の上に更に別途耐熱層や耐熱材料製の中間層、下地材などを適宜敷設しても良い。
【0023】
加熱炉では、まず、前駆体1の融点よりも若干高い最高到達温度(Tmax)に全体を加熱して前駆体1を半溶融状態とする。また、加熱雰囲気としては、大気中でも良いし、不活性ガス中に微量の酸素を供給した酸素雰囲気でも良い。例えば一例として、1%O濃度のArガス雰囲気を選択できる。
この際の加熱温度は、目的とする酸化物超電導体の組成によって、あるいは、熱処理する場合の雰囲気ガスの成分により若干異なるが、概ね1%O不活性ガス雰囲気中においてNd系の酸化物超電導体であるならば1000~1200℃の範囲、他の系の酸化物超電導体でも概ね950~1200℃の範囲である。また、昇温する際に急激に前駆体1を加熱するとクラック等の欠陥部分を導入する危険性があるので、徐々に温度を上げることが好ましい。また、前駆体1を加熱して半溶融状態にするまでの間の温度勾配は、どのような温度勾配でも差し支えないが、最高到達温度付近で温度勾配を緩やかにしないと加熱炉の温度調整機能に依存して最高到達温度を遥かに飛び越した温度条件になってしまう可能性があるので、最高到達温度付近で温度勾配を緩やかにすることが好ましい。
【0024】
前駆体1を最高到達温度の半溶融状態としたならば、前駆体1の温度を先の温度から数10℃、例えば20~40℃程度下げた後、その温度で所定の時間(例えば数時間程度)保持する予備加熱を行う。なお、ここで行う予備加熱は結晶化温度よりも高い温度で先の最高到達温度よりも低い任意の温度で行うことができるが、本発明では必ずしも行う必要はなく、予備加熱を略しても良い。
【0025】
次に以下のいずれかに説明する方法に基づく1回目の降温処理を施す。
前記最高到達温度から直接、前駆体1の組成比に応じた状態図から推定される理論的結晶化開始温度と目される温度、あるいは先の前駆体1の熱分析から推定される溶融温度から計算される結晶化開始温度(本発明ではこの温度も理論的結晶化開始温度の概念に含めるものとする)前後の温度に降温し、この温度から降温処理を施す。
降温処理の第1の例としては、特開平6-211588号の従来技術に記載されているような、Y系酸化物超電導体の結晶成長における溶融凝固時の結晶プロセスとして、前駆体を包晶温度(1000℃)から1時間に1℃程度の割合で900℃までゆっくりと冷却しながら凝固させて、123結晶を作製する方法を採用することができる。
降温処理の第2の例としては、特開平6-211588号に記載されている如く、前駆体をRT~1000℃×1h,1000℃~1050℃×1h,1050℃×2h,1050℃~1000℃×10分で溶融状態にして、過冷温度:tを1000℃~900℃〔過冷度:△Tでは、0℃<△T≦100℃,ここで△T=T123-t(℃),T123は123結晶の包晶温度(=1000℃)〕の範囲で凝固域に過冷し、その後1℃/hの割合で冷却しながら凝固を行う方法を採用することができる。
降温処理の第3の例としては、特開平5-170598号公報に記載されている如く、前駆体が211相と液相が共存する温度領域に加熱し、種結晶のREの組成のTfよりも低く前駆体中最も高いRE組成のTf(Tfh)よりも高い温度に冷却した後、種結晶を設置し、Tfhから前駆体中の最も低いRE組成のTfよりもさらに30℃低い温度まで20℃/hr以下の冷却速度で徐冷し結晶を成長させた後、一旦室温に戻すかまたは連続して800℃から200℃の温度領域を酸化性雰囲気中で酸素付加処理をして超電導材料を得る方法を採用することができる。
【0026】
降温処理の第4の例として、先の結晶化開始温度から以下に説明する段階降温等温処理の条件で1回目の降温処理を開始しても良い。
この第4の例の段階降温等温処理は、複数の等温保持ステップ毎に徐々に降温させる処理、換言すると、所定の温度に必要時間保持し、次に先の保持温度よりも若干低い所定の温度に必要時間保持し、続いて更に先の保持温度よりも若干低い所定の温度に必要時間保持するという段階的ステップの温度処理を施すものを意味する。
ここで先の温度よりも若干低い温度とは、最初の結晶化開始温度から例えば1℃~数℃ずつ下がる温度ステップを意味し、保持時間は数10分~数時間程度の範囲で選択することができる。例えば2~3℃ステップで徐々に段階的に降温し、3~8段階に温度を下げるステップとして、各温度ステップの保持時間を数10分~数時間程度とする段階的ステップを例示することができる。
また、降温処理の第5の例として、段階降温等温処理を先に説明の段階降温等温熱処理から外れる条件、例えば、段階的に温度を下げないで徐々に冷却する条件や1段か2段で温度を下げるステップで行うか、2~3゜ステップよりも大きな温度ステップで行うか、保持温度を10分以下とする条件で行うか、などの条件を適宜選択して段階降温等温処理する条件で行うこともできる。
【0027】
半溶融状態の前駆体1に対して種結晶2を設置し、結晶化温度で降温処理することで、前駆体1の内部ではREBaCu相(R211相)とL相(液相:3BaCuO+2CuO)とに分解し、種結晶を起点として、液相がR211相を下側に(種結晶から離れる側に)押し出すように移動しながら種結晶を起点としてREBaCu7-X(R123相)なる組成比の酸化物超電導前駆体の結晶を成長させることができ、その結果として最終的に前駆体1を結晶化させてREBaCu7-X相(R123相)の酸化物超電導バルク前駆体とすることができる。ここで結晶成長が十分になされた試料ではファセットと称される領域が成長した区域が生成される。
【0028】
これらのいずれかの方法で1回目の降温処理を行った結果得られた試料のうちで、種結晶2を中心としてファセットが十分に広がった良品の酸化物超電導バルク体は良いが、図2に示す如くファセットが十分に成長できずに前駆体2の中央部のみにファセット痕4がわずかに形成され、その他の大部分が多結晶体6Aとなった試料はファセット未成長の酸化物超電導バルク体、換言すると、前駆体熱履歴物3Aとなっている。また、図2に示す構成に限らず、ファセットが全く生成されていない試料などについてもファセット未成長の前駆体熱履歴物と称することができる。
【0029】
この形態ではこのような前駆体熱履歴物3Aを用いて本願特有の段階降温等温処理を施す。ここでの段階降温等温処理とは、複数の等温保持ステップ毎に徐々に降温させる処理、換言すると、所定の温度に必要時間保持し、次に先の保持温度よりも若干低い所定の温度に必要時間保持し、続いて更に先の保持温度よりも若干低い所定の温度に必要時間保持するという段階的ステップの温度処理を施すものを意味する。
ここで先の温度よりも若干低い温度とは、最初の結晶化開始温度から例えば1℃~数℃ずつ下がる温度ステップを意味し、保持時間は数10分~数時間程度の範囲で選択することができる。例えば2~3℃ステップで徐々に段階的に降温し、3~8段階に温度を下げるステップとして、各温度ステップの保持時間を数10分~数時間程度とする段階的ステップを例示することができる。
【0030】
また、段階降温等温処理を終了させる場合の温度は、理論的結晶化開始温度よりも若干低い温度(数℃から10℃程度低い温度)まで行うものとすることが好ましい。これは、作成した前駆体1の状態により、実際に結晶化開始する温度が微妙に異なり、状態図を基に組成比から推定される結晶化開始温度、あるいは、前駆体1の熱分析などにより予想される結晶化開始温度で、いずれの前駆体も結晶化開始するとは限らないので、実際に用いた前駆体の結晶化開始温度が低温側にずれている場合でも目的とする結晶化を進行させるためである。なお、先のような事情から実際の前駆体の結晶化開始温度が高温側にわずかにずれることも考えられるので、段階降温等温処理の開始温度は先に述べたとおり、理論的結晶化開始温度よりも若干高い温度(数℃から10℃程度高い温度)から行うものとすることが好ましい。
【0031】
例えばSm系の酸化物超電導バルク体を一般的にトップシード溶融凝固法により結晶成長させようとする場合の結晶成長温度は銀添加なしで1060℃~1050℃であるので、本発明ではこの温度を挟むように段階降温等温処理を施すものとした。
また、他に、結晶成長温度は、Y系1000℃、Eu系1050℃、Gd系1030℃、Dy系1010℃、Ho系990℃、Er系980℃、Tm系960℃、Yb系900℃、Lu系880℃とそれぞれ考えられるので、これらの組成系に応じて結晶化開始温度を挟むように段階降温等温処理を施すならば、本発明方法を種々の組成系に適用することができる。勿論、これらの理論的結晶成長開始温度は1つの目安であり、実際に製造した組成系の前駆体を熱分析してからその前駆体の結晶成長開始温度を推定し、その温度を挟むように段階降温等温処理を行うこともできる。なお、これらの系に銀を添加すると結晶成長温度を低下できるので、銀を添加した系については更に上記の温度から低い適切な温度で成長させればよい。
【0032】
このような段階的ステップの段階降温等温処理により、図2に示すような前駆体熱履歴物3Aを図3に示す如きファセットが成長した酸化物超電導バルク体3Bとすることができる。
より具体的には、酸化銀10wt%含有Sm系の酸化物超電導体を製造する場合、室温から900℃まで1時間程度かけて昇温し、そこから半溶融温度1080±20℃まで1時間かけて徐々に昇温し、半溶融温度で40分程度保持し、5分程度かけて1050℃まで降温し、次いで5分程度かけて目的の結晶化温度を挟んだステップの段階的等温保持処理を行う。ここで例えば6ステップの一例として、結晶化開始温度を1022℃とした場合、一例として、室温から1026℃まで1時間程度かけて昇温し、その温度で1時間保持し、以下1分で1024℃として1時間保持、1分で1022℃として1時間保持、1分で1020℃として1時間保持、1分で1018℃として1時間保持、1分で1016℃として1時間保持する6ステップの段階的等温保持処理を行う処理を例示できる。
【0033】
全てのステップの段階降温等温処理が終了したならば、その後に1時間程度かけて900℃まで降温し、その後に室温まで炉冷するという熱処理条件を例示できる。なお、先の1080±20℃まで一気に昇温しても差し支えないが、昇温時の温度勾配が高過ぎると半溶融温度の上限に定めた1100℃を飛び越えて加熱してしまい、前駆体を部分的に溶解させてしまうおそれがあるので、昇温の際の温度勾配は定めた1080±20℃を越えないように設定する必要がある。勿論、加熱装置が前駆体1を規定の温度に精密に制御できるものであるならば前述の昇温条件に拘束されるものではなく、また、組成に応じて定めた目的の半溶融温度の範囲に合わせて適宜の割合で昇温しても良いのは勿論である。
【0034】
半溶融状態の前駆体1に対して種結晶2を設置し、結晶化温度で段階降温等温処理しておくことで、前駆体1の内部ではREBaCu相(R211相)とL相(液相:3BaCuO+2CuO)とに分解し、種結晶を起点として、液相がR211相を下側に(種結晶から離れる側に)押し出すように移動しながら種結晶を起点としてREBaCu7-X(R123相)なる組成比の酸化物超電導前駆体の結晶を成長させることができ、その結果として最終的に前駆体1を結晶化させてREBaCu7-X相(R123相)の酸化物超電導バルク体3Bとすることができる。ここで従来の温度勾配を有する徐冷処理とは異なり、本発明では等温保持するので、この等温保持の間に結晶が成長し、円滑な結晶成長がなされる結果として、従来方法よりも格段に早く結晶成長させることができる。例えば、従来100時間程度降温のために施していた処理時間を10数時間に短縮できる。
【0035】
次に、上述の如く得られた酸化物超電導バルク体3Bの上面の一形状例を図3に示す。
本発明で用いる2回目の段階降温等温処理によるトップシード溶融凝固法によれば、上面中央部に設置した種結晶2(図2、図3では種結晶を略している)を基にして放射状に単結晶領域が成長し、矩形状の単結晶領域の角部が円盤の半径の半分ほどまで到達して図3に示すような十字状のファセットラインを有する単結晶領域5が生成し、その領域の外側には多結晶領域6が生成する。この図3に示すように生成した単結晶領域は一例であって、図4に示す如く単結晶領域5の端部が円盤状の前駆体1の周縁部まで生成して酸化物超電導バルク体となる場合、単結晶領域5が円盤状の前駆体1の全域に完全に広がって生成する場合等、いずれの場合もあり得る。
【0036】
図3に示す形状の酸化物超電導バルク体3Bを製造する場合、従来の技術によれば結晶成長のために結晶化温度から100時間程度かけて降温し、ファセットが成長せずに不良となった試料は廃棄するか、粉砕して原料として再利用するかしか無かったが、先に説明したとおり本実施の形態では複数ステップの各ステップ毎に1時間程度、合計すると3~8ステップであれば3~20時間程度の範囲の加熱処理で結晶成長させることができるので、従来よりも遙かに短い時間で処理ができ、しかも1回目の降温処理で生成した不良品を短い時間で再生して良品として利用することができる。
例えば、2℃ずつ降温して1時間保持する3ステップ処理であれば、2℃降温するために5分程度要するとしても3~6時間程度で結晶成長させることができ、従来の結晶成長時間100時間に対して1/16~1/33程度に短縮できる。また、2℃ずつ降温して1時間保持する3ステップ処理を施した後、2℃ずつ3時間保持する3ステップの処理を更に施した場合、各ステップの温度に調整するために1分程度要したとしても、12時間程度で結晶成長させることができ、短時間で再生できる。また、2℃ずつ降温する場合、試料が発熱することも考慮し、測定温度差なども考慮すると2℃ずつ降温と設定しても実際には2℃±1℃の範囲で変動するものと考えると、詳細には2℃±1℃の降温処理となる。
【0037】
以上説明した如く本発明によれば、複数ステップに基づく段階降温等温処理により前駆体熱履歴物3Aの結晶成長を行うので、種結晶2を半溶融状態の前駆体1(原料成形体)に接触させて結晶成長させる場合に従来よりも遙かに短時間で結晶成長を行わせることができる効果がある。また、得られた酸化物超電導バルク体2はファセットを有する単結晶領域が充分に発達した実用性の高いものが得られる。
なお、単結晶領域が十分に生成した酸化物超電導バルク体については、酸素雰囲気中において加熱する熱処理を行えば、結晶格子中に酸素原子を補給することができ、完成品としての酸化物超電導バルクを得ることができる。
ところで、酸素熱処理を経て完成品とした酸化物超電導バルクは、外部磁場を印加してから該外部磁場を取り除いた場合に酸化物超電導バルクが補足する磁場の強さにおいて、捕捉磁場が大きいものが要求されるが、先のファセットが未発達状態の酸化物超電導バルク体を酸素雰囲気中で熱処理しても高い捕捉磁場のものは得られない。この点においてファセットを成長させた後の酸化物超電導バルク体を酸素雰囲気中で熱処理したものであるならば、高い捕捉磁場を有する高品質ものが得られる。
【0038】
従って換言すると1回目の降温処理により生成されたファセットが未発達の熱履歴物とは、酸素雰囲気中において熱処理しても捕捉磁場の値が低い酸化物超電導バルク体とも称することができる。この未発達状態のファセットを有する熱履歴物は、単結晶が成長しようとしている間に何らかの製造条件の要因、あるいは材料配合や不純物混入などの原料的要因によって単結晶成長が停止したもの、あるいは単結晶成長が起こらなかったが、材料の全体で見ると単結晶成長が生じる素養はあるものの単結晶成長に至らなかったもの、などと考えることができる。従ってこの熱履歴物に何らの単結晶成長要因を与えると、単結晶成長が進行するものと考えることができる。このような熱履歴物に対して本願では2回目の段階降温等温処理を施して単結晶成長を促進させることで、単結晶の成長を促進し、ファセットを成長できたものと推定できる。
従って本願発明の適用範囲は、1回目の降温処理が段階的降温等温処理を行ってもファセットの成長が十分になされなかった試料は勿論、段階的降温等温処理と同じではないが近い条件で1回目の降温処理を行った試料、段階的降温等温処理ではないが、従来から知られている一般的な降温処理により酸化物超電導バルク体を製造しようとして1回目の降温処理を行ってファセット成長が未発達であったもののいずれにおいても適用することができる。
【実施例】
【0039】
「実験例1」
SmBaCu7-X系の酸化物超電導バルク体を製造する目的で、酸化サマリウム(Sm)粉末と炭酸バリウム(BaCO)粉末をR123相成分(SmBaCu7-X相成分)とR211相成分(SmBaCu相成分)の比を1.7(35モル%R211相成分)になるように個別に秤量し、更にPtを0.5重量%混合し、個別にめのう乳鉢を用いて混合し、試験用の原料混合粉末を作製した。
その後、各原料混合粉末を900℃で15時間仮焼きし、更に粉砕し、次いで900℃で15時間仮焼きを行って原料混合粉末を得た。また、先の仮焼き粉に白金粉末を0.5wt%添加し、更に1時間混合して原料混合粉を得た。これらの各原料混合粉を一軸加圧プレスにより直径30mm、厚さ17mmの複数のペレットに成型し、複数の前駆体とした。
これらのペレット状の前駆体に種結晶としてNdBaCu7-Xの組成の薄膜を設置し、大気中において以下の加熱パターンに応じて加熱処理した。この薄膜はMgOの基板上に先の組成比の10×10mmの厚さ700nmの酸化物超電導薄膜を成膜し、これを1mm角程度の大きさにカットしたものを使用した。
【0040】
1回目の加熱処理においては、先の原料混合粉末から得られた前駆体試料の1つについて以下の条件で行った。まず、大気中において試験体に対して室温から1098℃まで1時間かけて加熱し、この温度で1時間保持し、次に5分かけて1060℃(以下前駆体の温度は加熱炉設定温度ではなく全て実測値)まで降温し、1060℃で1時間保持し、その後に1分かけて1058℃まで降温し、1058℃で1時間保持し、その後に1分かけて1057℃まで降温し、1057℃で1時間保持し、その後に1分かけて1055℃まで降温し、1055℃で1時間保持し、その後に1分かけて1053℃まで降温し、1053℃で1時間保持し、その後に1分かけて1051℃まで降温し、1051℃で1時間保持し、その後に5分かけて1021℃まで降温し、1021℃で1時間保持し、その後常温まで炉冷し、試料を得た。この試料の表面の状態を撮影した写真を図5に示す。この試料はファセットの成長が中心部のごく一部に限られ、ファセット未成長の前駆体熱履歴物であった。
【0041】
このファセット未成長の前駆体熱履歴物試料に対して、再度、2回目の段階降温等温処理を施す。大気中において試験体に対して室温から1102℃まで1時間かけて加熱し、1102℃の温度で3時間保持し、次に5分かけて1063℃(以下前駆体の温度は加熱炉設定温度ではなく全て実測値)まで降温し、1063℃で3時間保持し、その後に1分かけて1061℃まで降温し、1061℃で3時間保持し、その後に1分かけて1059℃まで降温し、1059℃で3時間保持し、その後に1分かけて1056℃まで降温し、1056℃で3時間保持し、その後に1分かけて1054℃まで降温し、1054℃で3時間保持し、その後に1分かけて1052℃まで降温し、1052℃で3時間保持し、その後に1分かけて1050℃まで降温し、1050℃で3時間保持し、その後常温まで炉冷し、第1の酸化物超電導バルク体を得た。この第1の酸化物超電導バルク体の表面を撮影した写真を図6に示す。
図5と図6の比較から、図5の試料の中心部分にのみ数mmの大きさで存在していた未発達のファセットが図6の試料では試料半径の半分程に広がり、ファセットが成長して大きくなっていることから、2回目の段階降温等温処理を施すことにより品質の良好な酸化物超電導バルク体を得られることが判明した。
【0042】
「実験例2」
先の例と同等の組成の試料に対し、1回目の加熱処理において以下の条件で処理した。 大気中において試験体に対して室温から1101℃まで1時間かけて加熱し、この温度で1時間保持し、次に5分かけて1059℃まで降温し、1時間保持し、その後に1分かけて1057℃まで降温し、1時間保持し、その後に1分かけて1055℃まで降温し、1時間保持し、その後に1分かけて1054℃まで降温し、1時間保持し、その後に1分かけて1052℃まで降温し、1時間保持し、その後に1分かけて1050℃まで降温し、1時間保持し、その後に5分かけて1021℃まで降温し、1時間保持し、その後常温まで炉冷し、試料を得た。この試料の表面の状態を撮影した写真を図7に示す。この試料はファセットの成長が中心部のごく一部(数mm程度)に限られ、ファセット未成長の前駆体熱履歴物であった。
【0043】
このファセット未成長の前駆体熱履歴物試料に対して、再度、2回目の段階降温等温処理を施した。大気中において試験体に対して室温から1100℃まで1時間かけて加熱し、1100℃の温度で3時間保持し、次に5分かけて1061℃まで降温し、3時間保持し、その後に1分かけて1059℃まで降温し、3時間保持し、その後に1分かけて1057℃まで降温し、3時間保持し、その後に1分かけて1055℃まで降温し、3時間保持し、その後に1分かけて1053℃まで降温し、3時間保持し、その後に1分かけて1051℃まで降温し、3時間保持し、その後に5分かけて1021℃まで降温し、1021℃で1時間保持し、その後常温まで炉冷し、第2の酸化物超電導バルク体を得た。この第2の酸化物超電導バルク体の表面を撮影した写真を図8に示す。
図7と図8の比較から、図7の試料の中心部分にのみ数mmの大きさで存在していた未発達のファセットが図8の試料では試料半径の1/3程に広がり、ファセットが成長して大きくなっていることから、2回目の段階降温等温処理を施すことにより品質の良好な酸化物超電導バルク体を得られることが判明した。
【0044】
「実験例3」
先の例の組成においてPt添加量を0.43重量%に変更し、その他の条件は同等とした試料に対し、1回目の加熱処理において以下の条件で処理した。
大気中において試験体に対して室温から1098℃に加熱して1時間保持後、1063℃に3分かけて降温して3時間保持、以降1分ずつかけて各々1062℃に降温して3時間保持、1060℃に降温して3時間保持、1058℃に保持して3時間保持、1056℃に降温して3時間保持、1054℃に降温して3時間保持、その後に5分かけて1021℃まで降温し、1021℃で1時間保持し、その後常温まで炉冷し、第2の酸化物超電導バルク体を得た。この第2の酸化物超電導バルク体を酸素雰囲気中において600℃、1時間、300℃、100時間加熱して酸素アニールして得られた酸化物超電導バルクの表面を撮影した写真を図9に示す。この試料はファセットの成長が中心部の一部(5mm程度)に限られ、周辺部分には多結晶領域が複数形成されたファセット未成長の前駆体熱履歴物であった。
【0045】
このファセット未成長の前駆体熱履歴物試料(酸化物超電導バルク)の種を、新たに新しい種(実験例1に記載の種結晶と同種のNd薄膜)に置き換えて、再度、2回目の段階降温等温処理を施した。大気中において試験体に対して室温から1100℃まで1時間かけて加熱し、1100℃の温度で3時間保持し、次に5分かけて1062℃まで降温し、3時間保持し、その後に1分かけて1060℃まで降温し、3時間保持し、その後に1分かけて1058℃まで降温し、3時間保持し、その後に1分かけて1056℃まで降温し、3時間保持し、その後に1分かけて1054℃まで降温し、3時間保持し、その後に1分かけて1052℃まで降温し、3時間保持し、その後に5分かけて1022℃まで降温し、1時間保持し、その後常温まで炉冷し、第3の酸化物超電導バルク体を得た。この第3の酸化物超電導バルク体の表面を撮影した写真を図10に示す。
図9と図10の比較から、図9の試料の中心部分にのみ数mmの大きさで存在していた未発達のファセットが図10の試料では確認できなくなったが、複数存在していた多結晶領域が見分けられなくなり、更に中心部と異なる位置に白抜きの4角形状に確認できるファセットが発達した。この試料を300℃で100時間熱処理した場合の捕捉磁場は最大305ガウスを示した。この試料では種結晶からはずれた位置でファセットが成長した。このようにアニールした後の試料でも条件によっては2回目の段階降温等温処理によって再結晶化できることが判明した。
【0046】
「実験例4」
先の例の組成においてPt添加量を0.45重量%に変更し、その他の条件は同等とした試料に対し、1回目の加熱処理において以下の条件で処理した。
大気中において試験体に対して室温から1100℃に加熱して1時間30分保持後、5分かけて1061℃に降温して1時間30分保持後、以降1分ずつかけて各々1060℃に降温して1時間30分保持、1058℃に降温して1時間30分保持、1056℃に降温して3時間保持、1054℃に降温して3時間保持、1052℃に降温して3時間保持、その後常温まで炉冷し、酸化物超電導バルク体を得た。この酸化物超電導バルク体の表面を撮影した写真を図11に示す。この試料はファセットの成長が中心部に見られず、多結晶領域の多数存在するファセット未成長の前駆体熱履歴物であった。
【0047】
このファセット未成長の前駆体熱履歴物試料に対して、再度、2回目の段階降温等温処理を施した。大気中において試験体に対して室温から1102℃まで1時間かけて加熱3時間保持し、次に5分かけて1064℃まで降温し、3時間保持し、その後に1分かけて1062℃まで降温し、3時間保持し、その後に1分かけて1060℃まで降温し、3時間保持し、その後に1分かけて1057℃まで降温し、3時間保持し、その後に1分かけて1055℃まで降温し、3時間保持し、その後に1分かけて1053℃まで降温し、3時間保持し、その後1023℃に降温して1時間保持後、常温まで炉冷し、第5の酸化物超電導バルク体を得た。この第5の酸化物超電導バルク体の表面を撮影した写真を図12に示す。
図11と図12の比較から、図11の試料では多数の多結晶領域が見られ、ファセットは確認できなかったものが、図12の試料ではファセットが試料の半径の半分ほどの大きさに明確に生成し、確認できるようになっている。このことからファセット生成、即ち単結晶成長が促進されたことが明らかである。
【0048】
「実験例5」
先の例の組成においてPt添加量を0.69重量%に変更し、その他の条件は同等とした試料に対し、1回目の加熱処理において以下の条件で処理した。
大気中において試験体に対して室温から1100℃に加熱して1時間保持後、5分かけて1061℃に降温して1時間保持後、以降1分ずつかけて各々1059℃に降温して1時間保持、1057℃に降温して1時間保持、1056℃に降温して1時間保持、1054℃に降温して1時間保持、1052℃に降温して1時間保持、その後常温まで炉冷し、第2の酸化物超電導バルク体を得た。この第2の酸化物超電導バルク体の表面を撮影した写真を図13に示す。この試料はファセットの成長が中心部に見られず、多結晶領域の多数存在するファセット未成長の前駆体熱履歴物であった。
【0049】
このファセット未成長の前駆体熱履歴物試料に対して、再度、2回目の段階降温等温処理を施した。大気中において試験体に対して室温から1101℃まで1時間かけて加熱し、1100℃の温度で3時間保持し、次に5分かけて1062℃まで降温し、3時間保持し、その後に1分かけて1060℃まで降温し、3時間保持し、その後に1分かけて1058℃まで降温し、3時間保持し、その後に1分かけて1056℃まで降温し、3時間保持し、その後に1分かけて1054℃まで降温し、3時間保持し、その後に1分かけて1052℃まで降温し、3時間保持し、その後に5分かけて1022℃まで降温し、3時間保持し、その後常温まで炉冷し、第6の酸化物超電導バルク体を得た。この第6の酸化物超電導バルク体の表面を撮影した写真を図14に示す。
図13と図14の比較から、図13の試料の中心部分にのみ数mmの大きさで存在していた未発達のファセットが図14の試料では試料半径の2/3程度に広がり、ファセットが成長して大きくなっているとともに、複数存在していた多結晶領域が消失していることから、2回目の段階降温等温処理を施すことにより品質の良好な酸化物超電導バルク体を得られることが判明した。
【0050】
「捕捉磁場試験」
先の実験例4で得られた図12に示す試料を酸素雰囲気中で熱処理した酸化物超電導バルクを用いて捕捉磁場の測定実験を行った結果を図15に示す。図15のグラフにおいて縦軸は捕捉磁場の強さを示し、横軸の2つは試料X方向と試料Y方向の測定位置をmm単位で示す。縦軸の単位は(Oe)で示すが、100(Oe)は8000A/mを示し、500(Oe)は40000A/mを示す。
図15に示す如く大きな単峰ピークを明確に示す捕捉磁場特性を得ることができ、実験例4で得られた酸化物超電導バルク体試料は優れた捕捉磁場特性を示す優れた超電導バルク体であることが明らかとなった。
【0051】
「実験例6」
先の実験例の組成においてPt添加量を0.5重量%に変更し、更にAgを10%添加し、その他の条件は同等とした試料に対し、1回目の加熱処理において以下の条件で処理した。
大気中において試験体に対して室温から1060℃に加熱して1時間保持後、1016℃に加熱して24時間保持後、常温まで炉冷し、酸化物超電導バルク体を得た。
この酸化物超電導バルク体試料の組織写真を図16に示すが、前駆体中心部にファセットを確認できなかった。
この酸化物超電導バルク体試料に対して、種結晶として実験例1と同じNd薄膜の1×2ミリにカットした種結晶に付け替え、室温から1099℃に加熱して3時間保持後、1025℃に降温して3時間、1023℃に降温して3時間、1021℃に降温して3時間、1019℃に降温して3時間、1017℃に降温して3時間、1015℃に降温して3時間加熱後、常温まで炉冷した。
この第7の酸化物超電導バルク体の表面を撮影した写真を図17に示す。
図16と図17の比較から、円盤状の前駆体の半径の2/3ほどに発達したファセットが生成され、Agを添加した試料においても2回目の段階降温等温処理を施すことにより品質の良好な酸化物超電導バルク体を得られることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は本発明方法を実施する場合に用いる前駆体と種結晶の状態を示す説明図である。
【図2】図2は本発明方法に従い、1回目の降温処理により得られる酸化物超電導バルク体の一例を示す平面図である。
【図3】図3は本発明方法に従い、2回目の段階降温等温処理により得られる酸化物超電導バルク体の一例を示す平面図である。
【図4】図4は本発明方法に従い、2回目の降温処理により得られる酸化物超電導バルク体の他の例を示す平面図である。
【図5】図5は実験例1において1回目の降温処理により得られた酸化物超電導バルク体の組織写真を示す図である。
【図6】図6は実験例1において2回目の段階降温等温処理により得られた酸化物超電導バルク体の組織写真を示す図である。
【図7】図7は実験例2において1回目の降温処理により得られた酸化物超電導バルク体の組織写真を示す図である。
【図8】図8は実験例2において2回目の段階降温等温処理により得られた酸化物超電導バルク体の組織写真を示す図である。
【図9】図9は実験例3において1回目の降温処理により得られた酸化物超電導バルク体の組織写真を示す図である。
【図10】図10は実験例3において2回目の段階降温等温処理により得られた酸化物超電導バルク体の組織写真を示す図である。
【図11】図11は実験例4において1回目の降温処理により得られた酸化物超電導バルク体の組織写真を示す図である。
【図12】図12は実験例4において2回目の段階降温等温処理により得られた酸化物超電導バルク体の組織写真を示す図である。
【図13】図13は実験例5において1回目の降温処理により得られた酸化物超電導バルク体の組織写真を示す図である。
【図14】図14は実験例5において2回目の段階降温等温処理により得られた酸化物超電導バルク体の組織写真を示す図である。
【図15】図15は捕捉磁場試験の結果を示す図である。
【図16】図16は実験例6において1回目の降温処理により得られた酸化物超電導バルク体の組織写真を示す図である。
【図17】図17は実験例6において2回目の段階降温等温処理により得られた酸化物超電導バルク体の組織写真を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1…前駆体、2…種結晶、3A、3B、3C…酸化物超電導バルク体、5…ファセット、6…多結晶領域。

図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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