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明細書 :導電性固形潤滑剤及び導電性固形潤滑剤の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4929433号 (P4929433)
公開番号 特開2007-056178 (P2007-056178A)
登録日 平成24年2月24日(2012.2.24)
発行日 平成24年5月9日(2012.5.9)
公開日 平成19年3月8日(2007.3.8)
発明の名称または考案の名称 導電性固形潤滑剤及び導電性固形潤滑剤の製造方法
国際特許分類 C10M 111/02        (2006.01)
C10M 169/04        (2006.01)
C10M 177/00        (2006.01)
C10M 101/02        (2006.01)
C10M 103/02        (2006.01)
C10M 105/04        (2006.01)
C10M 125/02        (2006.01)
C10N  20/00        (2006.01)
C10N  30/00        (2006.01)
C10N  30/08        (2006.01)
C10N  40/02        (2006.01)
C10N  50/08        (2006.01)
C10N  70/00        (2006.01)
FI C10M 111/02
C10M 169/04
C10M 177/00
C10M 101/02
C10M 103/02 Z
C10M 105/04
C10M 125/02
C10N 20:00 Z
C10N 30:00 D
C10N 30:08
C10N 40:02
C10N 50:08
C10N 70:00
請求項の数または発明の数 2
全頁数 8
出願番号 特願2005-245261 (P2005-245261)
出願日 平成17年8月26日(2005.8.26)
審査請求日 平成20年8月22日(2008.8.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
【識別番号】000215752
【氏名又は名称】帝国カーボン工業株式会社
発明者または考案者 【氏名】土屋 広志
【氏名】久保 俊一
【氏名】久保田 喜雄
【氏名】畔津 巖
【氏名】畔津 秀明
【氏名】畔津 健太郎
【氏名】畔津 慎次郎
【氏名】吉村 英夫
個別代理人の代理人 【識別番号】110000073、【氏名又は名称】特許業務法人プロテック
審査官 【審査官】品川 陽子
参考文献・文献 特開平07-172220(JP,A)
特開昭61-083677(JP,A)
特開昭63-096316(JP,A)
特開平06-322384(JP,A)
特開平11-002243(JP,A)
特表2003-506819(JP,A)
特開平07-300363(JP,A)
特開平09-149503(JP,A)
調査した分野 C10M 103/02
C10M 125/02
C10M 101/02
C10M 111/02
C10N 40/02
特許請求の範囲 【請求項1】
電気抵抗率5μΩm以上~30μΩm以下、曲げ強さ20MPa以上~60MPa以下の特性値を有する人造黒鉛質または天然黒鉛質基材を所定の形状に加工し、これらに流動パラフィンを重量比にて3~15%含浸させたことを特徴とするパンタグラフすり板用導電性固形潤滑剤。
【請求項2】
電気抵抗率5μΩm以上~30μΩm以下、曲げ強さ20MPa以上~60MPa以下の特性値を有する人造黒鉛質または天然黒鉛質基材を所定の形状に加工する工程と、該工程により加工したこれらに流動パラフィンを重量比にて3~15%含浸させる工程により成ることを特徴とするパンタグラフすり板用導電性固形潤滑剤の製造方法。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、主として電気車の金属製または焼結合金製パンタグラフすり板に添加、配置するすり板の導電性固形潤滑剤及び導電性固形潤滑剤の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気車のパンタグラフすり板の減摩耗向上の目的ですり板に添加、配置されている従来のパンタグラフすり板用固形潤滑剤は、日本国有鉄道規格昭和59年8月制定JRS15191-8A-11BR4S、西日本旅客鉄道仕様書平成5年2月制定E92-026が多く使用されている。これらの潤滑剤は主成分のワックスに数種の潤滑粉を添加、混合し、結合剤には樹脂を使用している。また、これらの特性は、曲げ強さ5.4MPa以上、軟化点90℃~120℃乃至130℃である。
尚、導電性固形潤滑剤に関する技術が記載された文献としては、下記特許文献があげられる。

【特許文献1】特開2005-15828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、電気車の高速度化や冷暖房機等負荷設備の増強に伴い、1台当りのパンタグラフへの給電電流が増大し、トロリー線との接触点となるすり板の温度上昇は避けられない状況にある。すり板に添加、配置されている固形潤滑剤も当然温度上昇するが、現用材質の主成分がワックスを主体としており、軟化点が90~120℃乃至130℃であるため、この近辺の温度が頻発すると固形潤滑剤は徐々に変形、溶損し、その機能を喪失する。
【0004】
また、トロリー線面に生じる起伏の形状によっては、トロリー線面の凸部が固形潤滑剤に乗り上げ、両側に配置されているすり板がトロリー線から離れる状態(図1参照)が起ることがある。ワックス系潤滑剤は絶縁性物質であることから、このような現象が生じると、すり板、トロリー線間にアークaが発生し、アーク熱によりトロリー線1、すり板2及び固形潤滑剤3を著しく損耗させる。
【0005】
本発明は、上述のワックス系固形潤滑剤の欠点(耐熱性の不足、導電性の欠如)を解消するため、導電性に富み、高い耐熱性を有する人造黒鉛質または天然黒鉛質を基材とし、これに高潤滑の流動パラフィンを含浸させる技法に着想し、これを実用化せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ワックス系固形潤滑剤の摩耗粉は付着性に富むことから、すり板摺動面に薄皮膜を生成しやすく、この皮膜の存在により、トロリー線との摺動が円滑に遂行され、すり板並びにトロリー線の減摩耗向上に貢献している。但し、耐熱性の不足、導電性の欠如という二つの弱点も共有する。
【0007】
そこで、ワックス系の長所を生かし、短所を解消する材質として黒鉛質に着目し、これにワックス系摩耗粉並みの付着性を付与するため、外部から黒鉛質基材に流動パラフィンを含浸する方式を採った。
【0008】
流動パラフィンは、比較的低粘度のパラフィン系脱ろう油を高度に精製したもので、主として精密機械の潤滑油および化粧品原料等に用いられている。物理/化学的性質は、沸点450℃、揮発性なし、酸化性なし、密度0.863、流動点は-12.5℃で水に不溶である。
【0009】
流動パラフィンを黒鉛質基材に含浸させることにより、黒鉛質基材が粘性を帯び、その摩耗粉も粘性を保持するのですり板摺動面に付着しやすく、ワックス系潤滑剤に匹敵する潤滑膜を生成することになり、良好な減摩作用が発現される。加えて黒鉛質特有の導電性、耐熱性並びに高機械的特性を具備するとにより、ワックス系を大幅に凌駕する性能を発揮できる。
【0010】
なお、流動パラフィンの含浸量は3~15%が望ましい、3%未満では粘性不足で潤滑膜の生成が不充分であり、15%越える場合は黒鉛質組織内に過多な空孔が存在していることを示し、潤滑剤本体の機械的強度が劣化する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の導電性固形潤滑剤は、前記の如く、人造黒鉛質または天然黒鉛質を基材としてこれに流動パラフィンを重量比にて3~15%含浸させたので、黒鉛質基材が粘性を帯び、その摩耗粉も粘性を保持してすり板摺動面に付着しやすくなり、ワックス系潤滑剤に匹敵する潤滑膜を生成して良好な減摩作用を実現することができるばかりでなく、黒鉛質特有の導電性、耐熱性、ならびに高機械的特性を具備することによりワックス系を大幅に凌駕する性能を発揮することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に本発明を実施例により具体的に説明する。
所定形状に加工された、かさ比重の異なる人造黒鉛質基材4種類並びに天然黒鉛質基材2種類を重量測定して円筒形の含浸用タンクに入れ、密閉後、真空ポンプを作動させる。真空時間を30分間保持した後、吸込みバルブを開き、流動パラフィンをタンク内に注入する。流動パラフィンのタンク内充満を確認した上で、更に真空時間を30分間追加する。真空作業終了後、開放バルブを開いて大気圧に戻し、8時間放置して表1に示す本発明の固形潤滑剤を得た。また比較試料のうち、ワックスが主成分で黒鉛粉末を添加したもの(日本国有鉄道規格昭和59年8月制定JRS15191-8A-11BR4S相当材)を比較例1、ワックスが主成分で四フッ化エチエン樹脂を添加したもの(西日本旅客鉄道仕様書平成5年2月制定E92-026相当材)を比較例2とした。また、性能比較のため、下限の含浸率3%未満の試料取得を目的として、含浸時間を標準の8時間より短縮した結果、人造黒鉛質、天然黒鉛質においてそれぞれの含浸率2.2%、2.0%を得、これらを比較例3並びに4とした。
【0013】
【表1】
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【0014】
表1により得られた各種固形潤滑剤を埋め込んだすり板の比摩耗量並びに固形潤滑剤の潤滑性能の比較指標となるトロリー線摩耗率を表2に示す。
試験条件は次の通りである。
すり板材質には特許第1053072号集電摺動用銅系耐摩焼結合金を用いた。
【0015】
すり板試験片を10×25×90mmとし、試験片摺動面に巾10mmの溝加工を施し、図2のように各種固形潤滑剤を溝内に埋め込みした。これらを回転式集電摺動試験機に取付け、押上力54N、通電電流DC100A、摺動速度90km/h、左右振れ巾40mmにて60分間摺動させ、そのときの各試験片の比摩耗量(摩耗体積を押上力と摺動距離で割った値)と相手方トロリー線に対し、パンタに取り付けられた各試験片が1万回通過当りのトロリー線の摩耗厚さ(トロリー線摩耗率と称す)を測定した。その結果を表2に示す。
【0016】
【表2】
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【0017】
表2では、実施例1~6並びに比較例1,2はすり板の温度上昇は20-30℃程度であり、ほとんど差異のない結果が得られた。即ち、比較的常温に近い温度域では双方とも良好な性能を示した。なお、含浸率が3%未満の場合、実施例1(人造黒鉛質)と同系基材の比較例3はすり板比摩耗量において約30%の増加、実施例3(天然黒鉛質)と同系基材の比較例4はすり板比摩耗量において約40%の増加となった。
このことは流動パラフィン含浸率が不充分なため、すり板摺動面に生成する潤滑膜が不足することにより、すり板とトロリー線の摩擦が増大し、両者の摩耗促進をもたらすもので、下限値3%は確保を要する数字である。
【0018】
更に、実施例1~6並びに比較例1,2について性能の優劣を検証すべく、すり板温度をワックス系の軟化点を越える140℃近辺に設定し、黒鉛質とワックス系を対比した。試験条件は通電電流を除いて表2のケースと同様である。すり板温度を140℃近辺まで高めるために、通電電流を表2の100Aから300A-500Aに引き上げた。表3に試験結果を示す。なお、表2の結果から、通電電流100A試験において比較例3、4が実施例1~4に比べて性能の低下が認められたので、通電電流300-500A試験の対象から比較例3、4を除外した。
【0019】
なお、追加試験片には、流動パラフィン含浸の黒鉛質については実施例7~12、ワックス系については比較例5,6の番号を付した。
【0020】
【表3】
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【0021】
次に、摩耗試験に供された試料の物理的性質について、測定結果を表4に示す。測定項目は、導電性については電気抵抗率を、機械的強度については曲げ強さを評価特性とした。
電気抵抗率は、現在、国内の一部私鉄で実用中の純カーボン製すり板の32μΩmを目安に上限値を30Ωm以下とし、通常の人造および天然黒鉛質グループの電気抵抗率としてほぼ最小とされる5μΩmをもって下限値とした。
曲げ強さは、前述の旧日本国有鉄道規格、西日本旅客鉄道仕様書に規定された5.4MPaを上回る20MPaを下限値とし、通常の人造および天然黒鉛質グループではほぼ最大とされる60MPaをもって上限値とした。
【0022】
【表4】
JP0004929433B2_000005t.gif

【0023】
上表より、本発明の実施例1~6は電気抵抗率についていえば、現在、一部私鉄で実用中の純カーボン製パンタグラフすり板に比して大幅に低く、導電性に関して非常に優れていることが確認された。また曲げ強さは、純カーボン製すり板に比して低位にあるものの、比較例1,2のワックス系との対比では3~4倍の高さを示し、機械的強度面での安定性が認められた。
なお、表3の実施例7~12、比較例5,6の試料は表4の実施例1~6、比較例1,2と同等材であることから電気抵抗率、曲げ強さは表4と同値である。
【0024】
表3より、実施例7~12は比較例5,6と対比すると、すり板比摩耗量、トロリー線摩耗率とも1/3程度に減少している。またすり板摺動面の状態は、比較例5,6に潤滑材の溶損と一部喪失が見受けられたが、実施例7~12の潤滑剤には異常がなかった。
【0025】
表2、表3、表4を総括すれば、下記のように整理される。
(1)流動パラフィン含浸の人造黒鉛質、天然黒鉛質潤滑剤(実施例1~6、7~12)は、通電電流100Aレベルでも300A-500Aレベルでも同程度の良好な性能を維持できる。
(2)ワックス系潤滑剤(比較例1,2,5,6)は、通電電流100Aでは、流動パラフィン含浸の黒鉛質潤滑剤とほぼ同程度の性能を示すが、300-500Aではすり板比摩耗量並びにトロリー線摩耗率とも流動パラフィン含浸の黒鉛質潤滑剤に比べて性能は大幅に低下する。
(3)流動パラフィン含浸の人造黒鉛質、天然黒鉛質(実施例1~6、7~12)の電気抵抗率は、いずれも一部私鉄で現用中の純カーボン製すり板の半分程度で、良好な導電性が立証されている。
導電性の保有は、高度の潤滑作用に加えてすり板、トロリー線間の過大なアーク発生に対し、双方の損耗を抑制する機能を具備するもので、広範囲での適用が可能となる。
【0026】
以上に述べたように、本発明は、高速度、大電流給電の電気車両のパンタグラフすり板並びにトロリー線の減摩耗向上に極めて有効に作用するもので、加えて低摩擦音、無公害性の面でも有益である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】アーク熱によりトロリー線、すり板及び固形潤滑剤が損耗される状態を示す説明図である。
【図2】固形潤滑剤を埋込んだ試験片の斜視図である。
【符号の説明】
【0028】
1・・・トロリー線、2・・・すり板、3・・・固形潤滑剤、a・・・アーク。
図面
【図1】
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【図2】
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