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明細書 :パンタグラフ用ゴム部品

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4749873号 (P4749873)
公開番号 特開2007-202356 (P2007-202356A)
登録日 平成23年5月27日(2011.5.27)
発行日 平成23年8月17日(2011.8.17)
公開日 平成19年8月9日(2007.8.9)
発明の名称または考案の名称 パンタグラフ用ゴム部品
国際特許分類 B60L   5/24        (2006.01)
FI B60L 5/24 A
請求項の数または発明の数 2
全頁数 14
出願番号 特願2006-020117 (P2006-020117)
出願日 平成18年1月30日(2006.1.30)
審査請求日 平成20年4月3日(2008.4.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】半坂 征則
【氏名】伊藤 幹彌
【氏名】間々田 祥吾
個別代理人の代理人 【識別番号】100089635、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 守
【識別番号】100096426、【弁理士】、【氏名又は名称】川合 誠
審査官 【審査官】根本 徳子
参考文献・文献 特開2005-020962(JP,A)
特開2005-271329(JP,A)
特開2005-280603(JP,A)
調査した分野 B60L 5/00-5/42
特許請求の範囲 【請求項1】
パンタグラフの釣り合いを保持するための装置のベアリング部に使用されているパンタグラフ用リンクボールゴムが、耐候性、耐熱老化性、耐オゾン性に優れた水素添加ニトリルブタジエンゴム(H-NBR)からなることを特徴とするパンタグラフ用ゴム部品。
【請求項2】
請求項記載のパンタグラフ用ゴム部品において、前記パンタグラフ用リンクボールゴムは本体と軸ボルトの間にオイルが封入された構造を有することを特徴とするパンタグラフ用ゴム部品。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、パンタグラフ用ゴム部品に係り、特に、パンタグラフの釣り合いを保持するための装置のベアリング部に使用されているパンタグラフ用リンクボールゴムの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、労働コストの上昇に伴い、鉄道車両においてメンテナンスの省力化が強く求められている。鉄道車両用部品の中で、電車用パンタグラフは、メンテナンスに労力を要する部品の一つである。その理由として、パンタグラフはリンクボールなどのゴム系部品を多数有し、定期的に工場において電車から降ろしてこれらの部品を交換するとともにその他の部品についても点検する作業(解体検査と称する)が実施されているからである。このため、パンタグラフの解体検査の周期を延伸することは鉄道車両メンテナンスの省力化に寄与し、鉄道事業者の間で強いニーズがある。そこで、大都市近郊線区の電車用パンタグラフを対象とし、現行では60万km(約3年間相当)走行毎である検査周期を2倍以上に延伸することを目標に、検討が進められている。

【非特許文献1】西村充史,生駒信康,半坂征則,間々田祥吾,伊藤幹彌:「パンタグラフ用ゴム・樹脂系部品の劣化特性の研究」,第17回エラストマー討論会,社団法人日本ゴム協会(2004)
【非特許文献2】半坂征則,御船直人:「鉄道車両(電車) 用長寿命ゴムホースの開発」, 鉄道総研報告, 12(1)(1998)
【非特許文献3】栗原福次:プラスチックの劣化,日刊工業新聞社,p263(1970)
【非特許文献4】相原直樹,半坂征則,御船直人:「動的粘弾性によるゴム・エラストマの耐久性評価」,鉄道総研報告,9(6)(1995)
【非特許文献5】社団法人日本ゴム協会「環境劣化研究分科会」企画・編集:「エラストマーの耐候(光) 性—第1次共同研究報告—」,武蔵野クリエイト
【非特許文献6】畦地利夫,半坂征則,鈴木実,御船直人,大原利一郎:「鉄道車両用円錐ばねゴムの劣化特性」,高分子論文集,58(9)(2001)
【非特許文献7】鉄道技術推進センター:「車両の検査周期延伸試験結果の分析・評価報告書(電車)」(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
電車用パンタグラフの検査周期を延伸するうえで、ピン・ブッシュなどの摩耗部品およびリンクボールゴム等のゴム部品が制約因子となる。これらの部品については検査周期を延伸した場合の状況が不明であり、十分な耐久性評価を行うことなく現行周期以上の期間使用した場合には安全性に支障を与える可能性も考えられる。本発明ではゴム系部品を対象とし、以下、同部品に限定して述べる。上記の状況に鑑み現用の電車用ゴム部品について現車使用品の劣化評価を行った結果、例えば、リンクボールゴムでは現用周期の使用でクラックの発生が認められ、現状では検査周期を延伸した場合、安全性に支障を与える危険性が見出された。この結果を受けて、本発明では、少なくとも現行周期の2倍の使用が可能になるゴム部品の開発を行った。
【0004】
本発明は、上記状況に鑑みて、メンテナンスの省力化を図り得る、耐候性、耐熱老化性、耐オゾン性に優れたパンタグラフ用ゴム部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕パンタグラフ用ゴム部品において、パンタグラフの釣り合いを保持するための装置のベアリング部に使用されているパンタグラフ用リンクボールゴムが、耐候性、耐熱老化性、耐オゾン性に優れた水素添加ニトリルブタジエンゴム(H-NBR)からなることを特徴とする。
〕上記〔〕記載のパンタグラフ用ゴム部品において、前記パンタグラフ用リンクボールゴムは本体と軸ボルトの間にオイルが封入された構造を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、耐候性、耐熱老化性、耐オゾン性に優れたパンタグラフ用ゴム部品を得ることができ、メンテナンスの省力化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のパンタグラフ用ゴム部品は、パンタグラフの釣り合いを保持するための装置のベアリング部に使用されているパンタグラフ用リンクボールゴム等に使用されるゴム部品を、耐候性、耐熱老化性、耐オゾン性に優れた水素添加ニトリルブタジエンゴム(H-NBR)とした。
なお、後述する実施例は、パンタグラフPS28Aを対象としたものであるが、本発明はPS28Aに限らず電車用パンタグラフ一般に適用し得るものである。
【実施例】
【0008】
以下、本発明のパンタグラフ用ゴム部品の中でも、特に、リンクボールゴムに関する本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明にかかるパンタグラフの斜視図、図2は図1のA部(パンタグラフ用リンクボール)を示す斜視図、図3はパンタグラフ用リンクボールの斜視図、図4はパンタグラフ用リンクボールの断面図である。
【0009】
これらの図において、1はパンタグラフ、2はパンタグラフ1のA部に位置するリンクボール本体、3はそのリンクボール本体2に保持される軸ボルト、4はドーム型のリンクボールゴム、5はリンクボール本体2と軸ボルト3の係合部に設けられ、ドーム型のリンクボールゴム4に封入されるグリースである。
なお、パンタグラフ用リンクボールゴムの構造は、図5に断面を示すような構造とすることもできる。すなわち、図4に示したドーム型のリンクボールゴム4に代えて、リンクボールゴム6を湾曲させて先端を軸ボルト3に密着させる構造とすることもできる。
【0010】
本発明では、リンクボールゴムの材料として、従来のニトリルブタジエンゴム(NBR:nitrile-butadiene rubber)に代えて、水素添加ニトリルブタジエンゴム(H-NBR)を用いるようにした。その結果、耐候性、耐熱老化性、耐オゾン性に優れたリンクボールを得ることができた。
以下、パンタグラフ用リンクボールの耐久試験によるリンクボール本体およびグリースの評価について説明する。
〔1〕試験結果
パンタグラフ用リンクボールゴムをH-NBRとすることにより、理論上パンタグラフの現行検査周期の2倍以上の10年間程度の使用に相当する条件の耐熱老化試験において良好な耐久性を示し、かつ、良好な耐候性、耐オゾン性も示し、パンタグラフ用リンクボールゴムとして有望な材料であることが判明した。
〔2〕試験の概要
〔2.1〕対象部品と材料
試験において対象としたパンタグラフは大都市近郊線区の電車(209系)用のパンタグラフPS28A(菱型)であるが、鉄道車両用パンタグラフであれば、PS28Aに限らず一般に適用し得るものである。同パンタグラフにおける交換部品のうち、対象としたゴム系部品は、表1に示すようにリンクボール(パンタグラフの釣り合いを保持するための装置)のベアリング部に使用されているカバーゴム(リンクボールゴム) である。このリンクボールゴムに関しては、2種類の対策材を用意した。1つは、現時点においても既に鉄道以外のリンクボール製品に適用されている、現用材のニトリルブタジエンゴム(NBR)に塩化ビニル(PVC)を配合したもの〔対策材1〕である(以下、同材料をNBR/PVCと称する)。なお、PVCの配合はNBRに対する耐候性・耐オゾン性の改良手法として一般に検討されているものである。もう1つは本発明にかかる水素添加ニトリルブタジエンゴム(以下、H-NBRと称する) 〔対策材2〕である。各ゴム(ポリマー) 材料の構造式を図6~図8に示す。
【0011】
【表1】
JP0004749873B2_000002t.gif
〔2.2〕試験項目
促進劣化試験項目は、熱老化試験およびオゾン暴露試験である。熱老化試験は、長期間電車屋根上で使用されるパンタグラフにおいて、各部品に共通する主要な劣化モードと考える。したがって、熱老化試験は全材料に適用する。これに加えて、本試験では、耐候性・耐オゾン性の評価としてオゾン暴露試験を適用した。
【0012】
促進劣化試験前後の試験片に対する評価試験として、以下の項目を実施した。
熱老化試験に対しては、
(1)外観調査(目視および拡大鏡による拡大観察)、(2)表面硬さ、(3)引張特性、(4)動的粘弾性試験を実施した。
オゾン暴露試験に対しては外観観察(目視およびマイクロスコープによる拡大観察)を実施し、クラック状況の観察を行った。
〔2.3〕試験片
表2に熱老化試験における試験片形状、表3にオゾン暴露試験における試験片形状を示す。熱老化試験に関しては表2に示す試験片を作成し、それぞれを加熱した後試験に供した。
【0013】
オゾン暴露試験に関しては、表3に示す形状の試験片を作成し、それぞれを暴露試験に供した。ただし、本発明にかかるH-NBRについては、製品化されていないのでシートを原資とした。オゾンの作用については試験片の厚さも影響するのでH-NBRシートに関しては厚さを現用材なみの約0.9mmに加工している。
【0014】
【表2】
JP0004749873B2_000003t.gif

【0015】
【表3】
JP0004749873B2_000004t.gif
〔2.4〕試験方法
〔2.4.1〕促進劣化試験
(1)熱老化試験
熱老化試験は、空気循環式恒温槽DN63〔ヤマト科学(株)製〕を用い、100±2℃で最大480時間加熱した。その後、24時間以上室温で放冷し、動的粘弾性試験を除き室温(23±2℃)で評価試験を実施した。
【0016】
(2)オゾン暴露試験(静的試験)
オゾン暴露試験は、試験片をチャック間隔約30mmで約20%の静的伸張を加えた状態で、オゾンウェザーメータOMS-2A型〔スガ試験機(株)製〕の槽内に静置した。そして、50±5pphm、40±2℃の条件で最大48時間暴露した。なお、オゾン暴露試験に関しては、実使用条件と暴露条件の比較が一般に難しい。本発明では、検討の初期段階として、現用材と対策材の耐オゾン性の比較を主な目的とする。
〔2.4.2〕評価試験
(1)外観調査
熱老化試験後試験片の外観調査については、目視および10倍拡大鏡などを用いて、試験片外観のき裂、穴、大きな凸凹などの異常の有無を観察した。また、オゾン暴露試験については暴露8時間、24時間および48時間後の試験片について亀裂、穴や大きな凸凹などの異常の有無を観察した。また、暴露24時間および48時間後の試験片について、マイクロスコープVH-8000〔(株)キーエンス製〕を用いて最大25倍で拡大観察を行った。
【0017】
(2)表面硬さ
表面硬さ試験は、リンクボールゴム現用材(NBR)についてはJIS K6253(加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法) に定める国際ゴム硬さ試験M法により、その他の2材料(NBR/PVC、H-NBR)についてはJIS A型スプリング式硬度計〔高分子計器(株)製〕を用いて試験片の表面硬さを測定した。現用材および他の2材料のいずれにおいても試験片は短冊状とし、現用材については2枚以上の試験片を重ねることなく、他の2材料に関しては試験片を3枚積み重ね、最上段の試験片(フラット部)の表面硬さを測定した。
【0018】
(3)引張特性
引張試験は、材料試験機AGI-50kN〔島津製作所(株)製〕に、現用材試験片(5×50mm短冊状)に関しては標線間距離約10mm、他の2材料の試験片(JIS K6251の3号ダンベル) に関しては標線間距離約20mm
で装着した。現用材に関して速度約100mm/min、他の2材料に関しては速度約500mm/minで引っ張り、破断までの最大荷重および破断時の標線間距離を測定した。そして、下記の式(1)により引張強さ、下記の式(2)より破断時伸びを算出した。
【0019】
B =FB /A (1)
ここで、B は引張強さ(MPa)、FB は破断までの最大荷重(N)、Aは初期の試験片断面積(m2 )である。
B ={(L2 -L1 )/L1 }×100 (2)
ここで、EB は破断時伸び(%)、L1 は初期の標線間距離(m),L2 は破断時の標線間距離(m)である。
【0020】
(4)動的粘弾性
動的粘弾性試験機DDV-25FP〔A&D(株)製〕を用いて、材料の動的粘弾性を測定した。試験片をチャック間隔約30mm(一部試験片で約25mm)で装着し、加振周波数10Hz、振幅0.025mm、測定温度範囲-80~40℃、温度上昇速度2℃/minの条件で、動的弾性率E′、損失弾性率E″および損失係数tanδを測定した。ここでは特に、ゴム材料の分子鎖の状態変化を敏感に反映することが報告(非特許文献4)されている、損失係数tanδの最大値tanδmax およびそのときの温度(Ttmと称する) と動的弾性率(E′tmと称する) を重点的に評価の対象とした。
〔3〕試験結果および考察
〔3.1〕新品時の物性
まず、耐久性評価の基準となる新品時の物性について述べる。表4に、新品時の物性試験結果を示す。この中で、引張強さと破断時伸びについて、各材料の比較を図9に示す。また、3材料の動的粘弾性の温度分散を図10に示す。図10(a)は現用材(NBR)の動的粘弾性の温度分散を、図10(b)はNBR/PVCの動的粘弾性の温度分散を、図10(c)はH-NBRの動的粘弾性の温度分散をそれぞれ示している。
【0021】
【表4】
JP0004749873B2_000005t.gif
これらの物性の中で、引張特性が実用上重要である。引張強さは、劣化や、使用中に集電部材と接触するなどの外的要因等により材料が破断され易いか否かに関わっている。破断時伸びについては、使用中可動するリンクボールゴムにおいては柔軟性が求められるため、高い方が好ましい。この観点から3材料の引張特性を比較すると、引張強さに関してはH-NBRが高い値を示している。また、破断時伸びに関してはH-NBRとNBR/PVCの値が高い。総合すると、リンクボール材料の中ではH-NBRの値がバランスよく、初期の引張特性において有望であることが分かる。
〔3.2〕熱老化試験
〔3.2.1〕外観調査
100℃で最大480時間加熱したリンクボール現用材、NBR/PVCおよびH-NBRのての試験片の外観において亀裂や穴等の異常が認められなかった。
〔3.2.2〕表面硬さ
図11に加熱に伴う表面硬さの変化を示す。この図では各加熱時間における測定値(N3~4)の平均値を表4の新品時表面硬さの値で除した値を示す。
【0022】
この結果、対象とした3材料のいずれにおいても、表面硬さが加熱に伴い増加する傾向が認められた。過去の研究事例(非特許文献3,6,7)において、ゴム材料の多くが熱老化に伴い材質硬化をきたすことが知られており、本試験結果もこの傾向に一致するものと考える。ただし、表面硬さの増加程度は3材料で差異があり、H-NBR<NBR/PVC<現用材の順と認められた。
〔3.2.3〕引張特性
図12(a)、図12(b)それぞれ、加熱に伴う引張強さおよび破断時伸びの変化を示す。引張試験においては、新品時および各加熱時間ごとに原則としてN8の平均値を求めている。この結果より、次のことが分かった。まず、引張強さに関して考えると、図12(a)に示すように、現用材において加熱480時間後の値が大きく増加していることが認められた。上述の表面硬さ試験結果や過去の研究事例(非特許文献3,6,7)等を考慮すると、こうした引張強さの増加の要因の一つとして材質硬化の作用が推察された。また、こうした引張強さの増加は過渡的なもので、さらに長期間の加熱に対してはやがて低下することも研究事例等から推定される。ただし、本試験の範囲ではその段階に至っておらず、実用上問題とは言えない。また、NBR/PVCに関しては初期には低下するものの加熱240時間以後は新品値からの変化が小さい。
【0023】
一方、H-NBRは480時間を通じて引張強さの変化が小さい。
破断時伸びについて考えると、図12(b)に示すように、3材料のいずれにおいても加熱に伴い全般的に低下傾向を示すことが認められた。ただし、その低下程度については3材料で差異があり、H-NBRの低下は3材料の中では最小(加熱480時間後で低下率10%以下)であり、次いで、現用材、NBR/PVCの順であった。現用材は初期の低下が目立つが、その後同値の低下は収束し、加熱480時間後の変化で比較するとH-NBRに次ぐ結果を示した。一方、NBR/PVCの破断時伸びの低下は一様でかつ明確である。ただし、加熱480時間後も破断時伸びの低下は30%以下であった。過去の研究において破断時伸びが初期の50%程度低下するまで実用性能を保持した事例(非特許文献6,7)も見られ、これらを考慮すると本試験結果は使用限度に至るほど顕著な低下とは言えない。
【0024】
即ち、本試験結果から、引張特性に関しては対象とした3材料ともに加熱後も使用可能性を保持していることが認められた。ただし、詳細に物性変化の程度を検討すると、H-NBRの耐久性が最も優れていることが判明した。
〔3.2.4〕動的粘弾性
加熱に伴う動的粘弾性(動的弾性率E′および損失係数tanδ) の変化の例として、現用材の試験結果を図13に示す。
【0025】
このように、現用材において、加熱時間の増加に伴い、動的弾性率E′は全般的に増加傾向を示し、損失係数tanδは最大値(tanδmax ) が低下するとともに、そのときの温度(Ttm)が増加傾向を示すことが認められる。この変化傾向は、過去の研究事例(非特許文献3,6,7)も参考にすると、ゴム材料の一般の酸化劣化傾向に一致するものと考えられる。即ち、一般にゴム材料は酸化劣化に伴って拘束点が増大し、硬化傾向を示す。これに伴って、動的弾性率が増大する。また、同変化は分子運動性の低下をもたらし、これに伴い内部の摩擦抵抗が減少し、損失係数の最大値tanδmax も低下することとなる。また、損失係数の最大値tanδmax となるときの温度は、ゴム材料がガラス状態からゴム状態に転移するときの温度であることが推定されている。拘束点が増大するのに伴い、ガラス状態からゴム状態に転移するのに必要な熱エネルギーが増加し、この転移を発生させる温度も上昇すると考えられている。ただし、動的粘弾性の変化程度は材料によって異なる。以下、動的弾性率E′tm損失係数の最大値tanδmax について、3材料における変化を図14に示す。
【0026】
この結果、次のことが分かった。まず、動的弾性率E′に関して、図14(a)に示すように、3材料のいずれにおいても加熱に伴い増加する傾向が認められた。ただし、その増加程度はトータルで考えるとH-NBR<NBR/PVC<現用材の順である。
次に、損失係数の最大値tanδmax について考えると、図14(b)に示すように、3材料のいずれにおいても加熱に伴い低下する傾向が見られる。ただし、その低下程度はH-NBR<NBR/PVC<現用材の順である。この結果を動的弾性率E′の変化と考え併せると、動的粘弾性の変化およびその原因となっている分子運動性の変化についてはH-NBRで小さく、現用材で大きいと判定される。
〔3.2.5〕熱老化試験結果のまとめ
以上述べた熱老化試験結果をまとめると、次のとおりとなる。
(1)対象としたリンクボール現用材、NBR/PVC、H-NBRの3材料のいずれにおいても100℃・最大480時間の加熱後の試験片の外観に、亀裂等の異常は認められなかった。
(2)表面硬さ試験の結果、3材料のいずれにおいても加熱に伴う表面硬さの増加が認められた。
(3)引張試験の結果、引張強さに関しては3材料のいずれにおいても最大480時間の加熱後も明確な低下傾向を示さなかった。破断時伸びについては、3材料のいずれも低下傾向を示したがて30%以内の低下であった。
(4)動的粘弾性試験の結果、加熱に伴い3材料のいずれにおいても動的弾性率の増加と損失係数の最大値tanδmax の低下が認められた。この変化は、酸化劣化に伴う材質硬化および分子運動性の低下によるものと考えられる。
(5)上記(2)~(4)の結果を総合すると、3材料のいずれにおいても加熱に伴う酸化劣化およびそれによる材質硬化の傾向が認められた。ただし、引張特性の結果から、3材料のいずれにおいても実用上支障をきたす範囲の変化ではないと考える。その一方で、劣化の進展度は一部不明な点はあるが大概的に判断すると、H-NBR<NBR/PVC<現用材の順であり、H-NBRが対象とした材料の中で最も高い耐熱老化性を有していることも判明した。
〔3.3〕オゾン暴露試験
オゾン暴露試験の結果、以下のことが認められた。まず、8時間のオゾン暴露後、現用材およびNBR/PVC試験片の外観にクラックの発生が認められた。図15に暴露8時間後の現用材試験片〔図15(a)〕とNBR/PVC試験片〔図15(b)〕の外観を、図16に暴露24時間後の現用材試験片〔図16(a)〕とNBR/PVC試験片〔図16(b)〕の外観を、図17に暴露48時間後の現用材試験片〔図17(a)〕とNBR/PVC試験片〔図17(b)〕の外観を、図18に暴露24時間後のH-NBR試験片の外観を、図19に暴露48時間後のH-NBR試験片の外観をそれぞれ示している。
【0027】
これらの図から明らかなように、NBR/PVC試験片では、24時間、48時間後と暴露時間の増加に伴い、クラックの数、大きさともに増大し、暴露48時間後において測定した2試験片のうち1試験片が切断に至った。現用材試験片でも、暴露24時間後では暴露8時間後よりクラックの数、大きさともに増加傾向が見られたが、暴露48時間後では暴露24時間後と比べて顕著な進展は見られなかった。そして、現用材では、暴露48時間後も2試験片ともに切断には至らなかった。
【0028】
以上の結果より、H-NBRは理論上パンタグラフの現行検査周期の2倍以上の10年間程度の使用に相当する条件の耐熱老化試験において良好な耐久性を示し、かつ、良好な耐候性、耐オゾン性も示し、有望な材料であることが判明した。
なお、H-NBRは数年間程度の屋外使用に対して良好な実績を有していることも報告されている。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のパンタグラフ用ゴム部品は、パンタグラフの現行検査周期(3~4年間)の2倍以上の使用に耐えるパンタグラフ用ゴム部品として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明にかかるパンタグラフの斜視図である。
【図2】図1のA部(パンタグラフ用リンクボール)を示す斜視図である。
【図3】本発明にかかるパンタグラフ用リンクボール(その1)の斜視図である。
【図4】本発明にかかるパンタグラフ用リンクボール(その1)の断面図である。
【図5】本発明にかかるパンタグラフ用リンクボール(その2)の断面図である。
【図6】リンクボールゴム現用材(NBR)の構造式を示す図である。
【図7】リンクボールゴム対策材1(NBR/PVC)の構造式を示す図である。
【図8】本発明にかかるリンクボールゴム対策材2(H-NBR)の構造式を示す図である。
【図9】リンクボールゴムの対象材料の新品時の引張特性を比較した図である。
【図10】リンクボールゴムの対象材料の新品時の動的粘弾性の温度分散を示す図である。
【図11】リンクボールゴムの対象材料の加熱時間と表面硬さの関係を示す図である。
【図12】リンクボールゴムの対象材料の加熱時間と引張特性の関係を示す図である。
【図13】リンクボールゴムの現用材の動的弾性率E′と損失係数tanδの変化を示す図である。
【図14】リンクボールゴムの対象材料の動的弾性率E′tmと損失係数の最大値tanδmax の変化を示す図である。
【図15】オゾン暴露8時間後の現用材とNBR/PVC試験片の外観を示す図面代用写真である。
【図16】オゾン暴露24時間後の現用材とNBR/PVC試験片の外観を示す図面代用写真である。
【図17】オゾン暴露48時間後の現用材とNBR/PVC試験片の外観を示す図面代用写真である。
【図18】オゾン暴露24時間後のH-NBR試験片の外観を示す図面代用写真である。
【図19】オゾン暴露48時間後のH-NBR試験片の外観を示す図面代用写真である。
【符号の説明】
【0031】
1 パンタグラフ
2 リンクボール本体
3 軸ボルト
4 ドーム型のリンクボールゴム
5 グリース
6 改良型のリンクボールゴム
図面
【図1】
0
【図4】
1
【図5】
2
【図6】
3
【図7】
4
【図8】
5
【図9】
6
【図10】
7
【図11】
8
【図12】
9
【図13】
10
【図14】
11
【図2】
12
【図3】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18