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明細書 :ロータ周波数推定装置及びロータ周波数推定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4675264号 (P4675264)
公開番号 特開2007-244082 (P2007-244082A)
登録日 平成23年2月4日(2011.2.4)
発行日 平成23年4月20日(2011.4.20)
公開日 平成19年9月20日(2007.9.20)
発明の名称または考案の名称 ロータ周波数推定装置及びロータ周波数推定方法
国際特許分類 H02P  23/00        (2006.01)
FI H02P 7/36 302S
請求項の数または発明の数 4
全頁数 11
出願番号 特願2006-062108 (P2006-062108)
出願日 平成18年3月8日(2006.3.8)
審査請求日 平成20年8月20日(2008.8.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
【識別番号】591083244
【氏名又は名称】富士電機システムズ株式会社
発明者または考案者 【氏名】近藤 圭一郎
【氏名】川村 淳也
【氏名】松本 康
個別代理人の代理人 【識別番号】100124682、【弁理士】、【氏名又は名称】黒田 泰
【識別番号】100104710、【弁理士】、【氏名又は名称】竹腰 昇
【識別番号】100090479、【弁理士】、【氏名又は名称】井上 一
審査官 【審査官】森山 拓哉
参考文献・文献 特開2003-18898(JP,A)
特開2005-45847(JP,A)
特開2005-124366(JP,A)
特開平8-308300(JP,A)
調査した分野 H02P 21/00-27/18
特許請求の範囲 【請求項1】
出力指令値に従った制御動作を行うインバータによって駆動される誘導電動機のロータ周波数を推定するロータ周波数推定装置であって、
前記誘導電動機の回転方程式に基づいて予め定められた機械シミュレータ数式モデルに従って、前記誘導電動機の1次電流ベクトル値からロータ周波数を推定して周波数推定値として出力する機械シミュレータ手段と、
前記誘導電動機の電圧方程式に基づいて予め定められた誘導機シミュレータ数式モデルに従って、前記出力指令値と、前記周波数推定値と、前記誘導電動機のすべり周波数とから1次トルク電流を推定して1次トルク電流推定値として出力する誘導機シミュレータ手段と、
を備え、前記1次トルク電流推定値に基づいて、前記機械シミュレータ手段の推定誤差を補償するロータ周波数推定装置。
【請求項2】
所定の検出手段によって検出される前記誘導電動機の1次トルク電流と、前記1次トルク電流推定値との差異に基づいて所定の比例積分演算をすることで補償値を算出する補償値算出手段と、
前記補償値算出手段によって算出された補償値を前記周波数推定値に加えて前記機械シミュレータ手段の推定誤差を補償する補償値加算手段と、
を備え、
前記誘導機シミュレータ手段は、前記出力指令値と、前記補償値加算手段により補償値が加算された周波数推定値と、前記誘導電動機のすべり周波数とから1次トルク電流を推定する、
請求項1に記載のロータ周波数推定装置。
【請求項3】
前記機械シミュレータ数式モデルは、ロータの慣性力がトルクと所与のトルク係数とを乗算したものから抵抗を減算した力と釣り合う数式モデルであり、
前記1次トルク電流推定値と前記インバータによる1次トルク電流指令値との差異が大きい程、前記トルク係数を大きくし、差異が小さい程、前記トルク係数を小さくするトルク係数変更手段を有する、
請求項1に記載のロータ周波数推定装置。
【請求項4】
出力指令値に従った制御動作を行うインバータによって駆動される誘導電動機のロータ周波数を推定するロータ周波数推定方法であって、
前記誘導電動機の回転方程式に基づいて予め定められた機械シミュレータ数式モデルに従って、前記誘導電動機の1次電流ベクトル値からロータ周波数を推定する機械シミュレータ推定ステップと、
前記誘導電動機の電圧方程式に基づいて予め定められた誘導機シミュレータ数式モデルに従って、前記出力指令値と、前記機械シミュレータ推定ステップにおいて推定された周波数推定値と、前記誘導電動機のすべり周波数とから1次トルク電流を推定する誘導機シミュレータ推定ステップと、
前記誘導機シミュレータ推定ステップにおいて推定された1次トルク電流に基づいて、前記機械シミュレータ推定ステップにおける推定誤差を補償する補償ステップと、
を含むロータ周波数推定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、出力指令値に従って制御動作を行うインバータによって駆動される誘導電動機のロータ周波数を推定するロータ周波数推定装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
速度センサを不要とした誘導電動機のベクトル制御では、ロータ鎖交磁束誘起電圧を介した電気的情報をステータ側(1次側)で得ることによって、ロータの回転数(ロータ周波数)を推定している。そのため、誘起電圧が低くなる極低速域では、ステータ側に現れる電流・電圧等の電気的情報だけでのロータ周波数の推定が困難になる。そこで、極低速域におけるロータ周波数の推定方式について種々の考案がなされている。例えば、非特許文献1には、鉄道車両を駆動する誘導電動機の速度センサレスベクトル制御方法が記載され、車両の運動方程式に基づいてロータ周波数を推定する方法が記載されている。
【0003】
この非特許文献1に開示されたロータ周波数推定に関わるブロック線図を図8に示す。
図8は、誘導電動機及び誘導電動機を駆動するインバータを備える実機システム10と、機械シミュレータ数式モデルに従ってロータ周波数を推定する機械シミュレータ部20との関係を示す図である。実機システム10は、インバータが1次側(ステータ側)の磁束及びトルクそれぞれの電圧出力指令値V1d,V1qに従って直交変換した3相電圧を誘導電動機に供給することで誘導電動機を駆動するシステムである。なお、電圧出力指令値V1d,V1qは、インバータが出力する実際の電流値が電流指令値I1d,I1qに追従するように制御される過程で求められる。このため、インバータは電圧出力指令V1d,V1qではなく電流指令値I1d,I1qに従って電動機を駆動しているともいえる。
【0004】
機械シミュレータ数式モデルは、インバータ周波数が数Hz程度である極低速域領域における車輪の回転方程式に基づく数式モデルであり、その内容は次式(1)に示す通りである。
【数1】
JP0004675264B2_000002t.gif

【0005】
ここで、frestはロータ周波数推定値、I1dはステータd軸(磁束成分)電流、I1qはステータq軸(トルク成分)電流、Pは極対数、Gは歯車比、Mmsetは相互インダクタンス設定値、L2setは2次(ロータ)自己インダクタンス設定値、Jwsetは等価慣性質量設定値、rは車輪半径、Rtsetは走行抵抗設定値である。
【0006】
この数式(1)による機械シミュレータ数式モデルによれば、極低速域の機械的挙動が状態方程式でモデル化されるため、実際の入力であるステータ側電流ベクトルをこの機械シミュレータ数式モデルに与えることで、ロータ周波数を推定することができる。
【0007】
推定されたロータ周波数frestには、所定の演算器によってトルクと磁束の比に比例したすべり周波数fが所定の演算器によって算出・加算され、インバータ周波数fとして実システム10にフィードバックされる。
【0008】
なお、1次電流ベクトル値の磁束成分I1d及びトルク成分I1qは、電流検出器によってインバータのu,v,wの3相出力電流が検出され、検出された3相電流がd-q軸座標系へ座標変換されることによって求められる。この座標変換は公知技術であるため、詳細な説明を省略する。
【0009】

【非特許文献1】近藤、結城「誘導電動機速度センサレスベクトル制御の鉄道車両駆動への適用検討」、電気学会論文誌D、Vol.125-D、2005年1月号、p.1-8
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献1の方法は、誘導電動機の機械的な状態を定式化した機械シミュレータ数式モデルに基づき、1次電流の磁束成分I1d及びトルク成分I1qからロータ周波数を推定している。このため、極低速域におけるロータ周波数の推定値は、機械シミュレータ数式モデルの各パラメータ値の誤差や変動に対して、また鉄道車両駆動用の誘導電動機であれば勾配や荷重条件(例えば、乗車人数)の変化に対して、大きく変動することとなる。推定されるロータ周波数に基づいて電動機の駆動制御を行っているため、変動したロータ周波数に基づく制御はすべり周波数を変化させることとなり、その結果磁束ベクトルが変化することとなって、大きなトルク変動が生じる場合があった。また、場合によっては脱調に至る可能性もあった。
【0011】
本発明は、上述の課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、極低速域におけるロータ周波数をより正確に推定することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上の課題を解決するための第1の発明は、
出力指令値に従った制御動作を行うインバータによって駆動される誘導電動機のロータ周波数を推定するロータ周波数推定装置であって、
前記誘導電動機の回転方程式に基づいて予め定められた機械シミュレータ数式モデル(例えば、式(1))に従って、前記誘導電動機の1次電流ベクトル値からロータ周波数を推定して周波数推定値として出力する機械シミュレータ手段(例えば、図1の機械シミュレータ部20)と、
前記誘導電動機の電圧方程式に基づいて予め定められた誘導機シミュレータ数式モデル(例えば、式(2))に従って、前記出力指令値と、前記周波数推定値と、前記誘導電動機のすべり周波数とから1次トルク電流を推定して1次トルク電流推定値として出力する誘導機シミュレータ手段(例えば、図1の誘導機シミュレータ部30)と、
を備え、前記1次トルク電流推定値に基づいて、前記機械シミュレータ手段の推定誤差を補償することを特徴とするロータ周波数推定装置である。
【0013】
また、他の発明として、出力指令値に従った制御動作を行うインバータによって駆動される誘導電動機のロータ周波数を推定するロータ周波数推定方法であって、
前記誘導電動機の回転方程式に基づいて予め定められた機械シミュレータ数式モデル(例えば、式(1))に従って、前記誘導電動機の1次電流ベクトル値からロータ周波数を推定する機械シミュレータ推定ステップ(例えば、図1の機械シミュレータ部20)と、
前記誘導電動機の電圧方程式に基づいて予め定められた誘導機シミュレータ数式モデル(例えば、式(2))に従って、前記出力指令値と、前記機械シミュレータ推定ステップにおいて推定されたロータ周波数と、前記誘導電動機のすべり周波数とから1次トルク電流を推定する誘導機シミュレータ推定ステップ(例えば、図1の誘導機シミュレータ部30)と、
前記誘導機シミュレータ推定ステップにおいて推定された1次トルク電流に基づいて、前記機械シミュレータ推定ステップにおける推定誤差を補償する補償ステップと、
を含むロータ周波数推定方法を構成してもよい。
【0014】
この第1の発明等によれば、誘導機シミュレータ手段が、出力指令値と、機械シミュレータ手段によって推定された周波数推定値と、誘導電動機のすべり周波数とから1次トルク電流を推定する。すなわち、周波数推定値と、実際のロータ周波数とが異なる場合には、すべり周波数に誤差が生じ得、すべり周波数の誤差は1次トルク電流に影響する。このため、出力指令値と、周波数推定値と、すべり周波数とから1次トルク電流を推定し、推定した1次トルク電流を基にロータ周波数の推定誤差を補償することで、ロータ周波数を適切に推定することができるようになる。
【0015】
具体的には、例えば、第2の発明として、第1の発明のロータ周波数推定装置であって、
所定の検出手段によって検出される前記誘導電動機の1次トルク電流と、前記1次トルク電流推定値との差異に基づいて所定の比例積分演算をすることで補償値を算出する補償値算出手段(例えば、図1の比例積分器40)と、
前記補償値算出手段によって算出された補償値を前記周波数推定値に加えて前記機械シミュレータ手段の推定誤差を補償する補償値加算手段(例えば、図1の加え合わせ点50)と、
を備え、
前記誘導機シミュレータ手段は、前記出力指令値と、前記補償値加算手段により補償値が加算された周波数推定値と、前記誘導電動機のすべり周波数とから1次トルク電流を推定する、
ロータ周波数推定装置を構成してもよい。
【0016】
また、第3の発明として、第1の発明のロータ周波数推定装置であって、
前記機械シミュレータ数式モデルは、ロータの慣性力がトルクと所与のトルク係数とを乗算したものから抵抗を減算した力と釣り合う数式モデル(例えば、式(4))であり、
前記1次トルク電流推定値と前記インバータによる1次トルク電流指令値との差異が大きい程、前記トルク係数を大きくし、差異が小さい程、前記トルク係数を小さくするトルク係数変更手段(例えば、図7の演算器80)を有する、
ロータ周波数推定装置を構成してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、極低速域におけるロータ周波数を適切に推定することができる
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、鉄道車両を駆動する誘導電動機を速度センサレスベクトル制御で制御する制御装置に組み込まれるロータ周波数推定装置の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0019】
1.構成及び動作
ロータ周波数推定装置1は、CPUや、プログラムを記憶したROM、RAM等から構成されるコンピュータにより実現されるものであり、例えば制御ボードとして誘導電動機の制御装置に実装される。また誘導電動機に駆動電力を供給するインバータを含めて一体的にインバータ装置として構成され得るものである。
【0020】
図1は、ロータ周波数推定装置1の制御内容を示すブロック線図である。ロータ周波数推定装置1は、背景技術として上述したものと同じ機械シミュレータ部20の他に、誘導機シミュレータ部30と、比例積分器40とを備える。
【0021】
誘導機シミュレータ部30は、誘導機シミュレータ数式モデルに従い、インバータ周波数fと電圧出力指令値V1d,V1qとに基づいて、1次d軸電流I1d及び1次q軸電流I1qを推定する制御ブロックである。なお、電圧出力指令値V1d,V1qではなく、電流出力指令値I1d,I1qとしてもよいことは背景技術において説明した通りである。
【0022】
誘導機シミュレータ数式モデルによる演算内容は次式(2)による。
【数2】
JP0004675264B2_000003t.gif

【0023】
ここで、サフィックスnはノミナル値を、サフィックスestは推定値を、サフィックスRefは指令値を、Rは1次(ステータ)巻線抵抗を、Rは2次(ステータ)巻線抵抗を、Lは1次自己インダクタンスを、Lは2次自己インダクタンスを、Mは相互インダクタンスを、V1dRefはd軸電圧指令値を、V1qRefはq軸電圧指令値をそれぞれ示す。
【0024】
また、R12n=R1n+(Mmn/L2n2n、ωrest=2πPrest、ω=R2n1qRef/(L2n2dRef)、ω=ωrest+ωである。
【0025】
誘導機シミュレータ部30によって推定演算された1次q軸電流推定値I1qestから、実際に測定された1次q軸電流を引いた差が比例積分器40に入力される。
【0026】
比例積分器40は、入力値を比例積分して周波数補償値△frestとして出力する演算器である。比例積分器40のゲイン曲線を図2に示し、伝達関数を次式(3)に示す。
【数3】
JP0004675264B2_000004t.gif

【0027】
(3)式の各ゲインは次のように調整・設定する。すなわち、先ず、比例ゲインKMechPを“0”としたままで、積分ゲインKMechIを徐々に大きくする。その過程で、系固有の振動周波数成分による振動が現出する。この時の振動角周波数をωsysとし、比例積分器40の折点周波数1/TMechをωsysより小さく設定する。折点周波数1/TMechを設定して後、再度ゲインKMechを徐々に大きくしていく。このとき、周波数補償値Δfrestが無くなるように調整する。
【0028】
そして、機械シミュレータ部20から出力されるロータ周波数推定値は、補償前推定値frest0とされ、比例積分器40から出力される周波数補償値Δfrestが加えられて補償されることで、ロータ周波数推定値frestとして、ロータ周波数推定装置1から出力される。
【0029】
また、補償されたロータ周波数推定値frestには、すべり周波数fが加えられてインバータ周波数fとされ、実システム10にフィードバックされる。
【0030】
以上のロータ周波数推定装置1が、機械シミュレータ部20によって推定されるロータ周波数frest0を補償する原理は次の通りである。すなわち、機械シミュレータ部20によって得られた補償前のロータ周波数推定値frest0と実際のロータ周波数fとの間に誤差が生じると、すべり周波数fに誤差が生じる。それは、1次角周波数ω(インバータ周波数f)として誘導機シミュレータ部30に反映される。1次電圧ベクトルV1d,V1qには実システム10に対する定電流制御の結果が反映されるが、誘導機シミュレータ部30の出力電流ベクトルである推定電流ベクトルI1dest,I1qestに対しては反映されない。そのため、1次角周波数ωを介して反映されるすべり周波数fの誤差は、推定電流ベクトルI1dest,I1qestに反映される。このうち、トルクと直接的に比例関係にあるq軸電流に着目し、実際値と推定値の偏差を比例積分器40の出力Δfrestにてロータ周波数推定値frest0を補正する。これにより、機械シミュレータ数式モデルの各パラメータ値の誤差等によって生じた機械シミュレータ部20によるロータ周波数の推定誤差が補償される。
【0031】
2.実験結果
ロータ周波数推定装置1を組み込んだ電気車制御の数値シミュレーションを行い、ロータ周波数推定装置1の効果を確認した。数値シミュレーションでは、シミュレーション開始2秒後から電流を立ち上げることとした。これは、実車においてブレーキ緩解後の力行電流の立ち上がりまでに要する時間を模擬するためであり、現実的な時間より長目の2秒という厳しい条件にしたものである。この結果、下り勾配では微速前進状態からの起動を、上り勾配では後退状態からの起動を再現している。
【0032】
(1)空車・下り勾配
通勤電車等において、空車状態で35パーミル下り勾配での起動状態を想定したシミュレーションを行った。このとき、誘導機シミュレータ部30の等価荷重設定値及び走行抵抗設定値は、全く異なる値、すなわち通勤電車等の200%満車状態(荷重が空車質量の半分程度)で且つ平坦を走行する場合を想定した値とした。
【0033】
図3は誘導機シミュレータ部30による補償を無しとして起動した場合のシミュレーション結果である。誘導機シミュレータ部30による補償が無いため、従来の図8に示した構成とほぼ同様の構成による制御がなされている。シミュレーションの結果、図3(a)に示す通り、発生トルクTが推定トルクTmestの約半分となっている。このため、加速についても下り勾配で加速してはいるものの、予定値(推定値)に対して概ね半分程度の加速に留まっている。
【0034】
一方、図4は誘導機シミュレータ部30による補償を有りとした場合のシミュレーション結果である。誘導機シミュレータ部30による補償有りの場合は、同図(a)発生トルクT、(b)q軸トルクI1q、及び(c)ロータ周波数fの何れも、シミュレーション開始5秒後、すなわちロータ周波数推定装置1による推定開始から3秒後には、各々の推定値と一致する結果が得られた。機械的パラメータの設定誤差等の影響を補償して、極低速域において適切な加速が行われたといえる。
【0035】
(2)満車・上り勾配
通勤電車等において、200%満車状態(荷重が空車質量の半分程度)で35パーミル上り勾配での起動状態を想定したシミュレーションを行った。このとき、誘導機シミュレータ部30の等価荷重設定値および走行抵抗設定値は、全く異なる値、すなわち空車で且つ平坦を走行する場合を想定した値とした。
【0036】
図5は誘導機シミュレータ部30による補償を無しとして起動した場合のシミュレーション結果である。誘導機シミュレータ部30による補償が無いため、従来の図8に示した構成とほぼ同様の構成による制御がなされている。シミュレーションの結果、図5(c)に示す通り、ロータ周波数推定値frestとロータ周波数fが乖離し、この場合には上り急勾配での起動を想定しているので、脱調に至った後に後退していることが分かる。
【0037】
一方、図6は誘導機シミュレータ部30による補償を有りとした場合のシミュレーション結果である。同図(a)発生トルクT、(b)q軸トルクI1q、及び(c)ロータ周波数fの何れも、シミュレーション開始5秒後、すなわちロータ周波数推定装置1による推定開始から3秒後には、各々の推定値と一致しており、上り急勾配の満車条件であっても極低速域の制御が良好に機能し、適切に起動できている。
【0038】
3.変形例
以上の実施形態ではロータ周波数推定装置1は鉄道車両用の誘導電動機を対象とするものとして説明した。しかし、誘導電動機は、鉄道車両や電気自動車等の電気車の他、工作機械、製造設備、リフト類、ファン・ポンプといった種々の機械装置の動力源としても用いられる。そのため、これらの動力源である誘導電動機に対してロータ周波数推定装置1を適用し、起動特性を改善することとしてもよいことは勿論である。
【0039】
また、本発明を適用可能なロータ周波数推定装置は、上述の図1の構成に限られるものではない。例えば図7に示すロータ周波数推定装置2のような構成としてもよい。すなわち、図1のロータ周波数推定装置1と同じ誘導機シミュレータ部30によって推定された1次q軸電流推定値I1qestと1次q軸電流の指令値I1qRefとの比を演算器90が演算し、その結果をGtmとして(1-Gtm)Kgainを演算器80が演算して、機械シミュレータ部25がロータ周波数推定値frestを推定演算する。
【0040】
機械シミュレータ部25の数式モデルである機械シミュレータ数式モデルは次式の通りである。各定数及び係数は式(1)と同様である。
【数4】
JP0004675264B2_000005t.gif

【0041】
このロータ周波数推定装置2の動作原理は、すべり周波数の誤差が1次q軸電流指令値I1qRefに表れることに基づくものである。すなわち、1次q軸電流推定値I1qestと1次q軸電流指令値I1qRefとが差異が小さければ、演算器80による(1-Gtm)Kgainの値が“0”に近づき、差異が大きければ、Kgainの値が式(4)のトルクの項(右辺第1項)に効いてくることになる。
【0042】
かかるロータ周波数推定装置2によっても、極低速域におけるロータ周波数の推定を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】ロータ周波数推定装置のブロック線図。
【図2】比例演算器のゲイン曲線。
【図3】誘導機シミュレータ部による補償を無しとした場合のシミュレーション結果。
【図4】誘導機シミュレータ部による補償を有りとした場合のシミュレーション結果。
【図5】誘導機シミュレータ部による補償を無しとした場合のシミュレーション結果。
【図6】誘導機シミュレータ部による補償を有りとした場合のシミュレーション結果。
【図7】変形例としてのロータ周波数推定装置のブロック線図。
【図8】従来のロータ周波数推定に関わるブロック線図。
【符号の説明】
【0044】
1,2 ロータ周波数推定装置
10 実システム
20 機械シミュレータ部
30 誘導機シミュレータ部
40 比例積分器
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7