TOP > 国内特許検索 > だ行回転速度推定装置及びだ行回転速度推定方法 > 明細書

明細書 :だ行回転速度推定装置及びだ行回転速度推定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4850543号 (P4850543)
公開番号 特開2007-252042 (P2007-252042A)
登録日 平成23年10月28日(2011.10.28)
発行日 平成24年1月11日(2012.1.11)
公開日 平成19年9月27日(2007.9.27)
発明の名称または考案の名称 だ行回転速度推定装置及びだ行回転速度推定方法
国際特許分類 H02P  21/00        (2006.01)
H02P  27/04        (2006.01)
FI H02P 5/408 C
請求項の数または発明の数 2
全頁数 20
出願番号 特願2006-069704 (P2006-069704)
出願日 平成18年3月14日(2006.3.14)
審査請求日 平成20年7月25日(2008.7.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】近藤 圭一郎
【氏名】若尾 真治
【氏名】山川 隼史
個別代理人の代理人 【識別番号】100124682、【弁理士】、【氏名又は名称】黒田 泰
【識別番号】100104710、【弁理士】、【氏名又は名称】竹腰 昇
【識別番号】100090479、【弁理士】、【氏名又は名称】井上 一
審査官 【審査官】森山 拓哉
参考文献・文献 特開平11-075394(JP,A)
特開2004-215466(JP,A)
調査した分野 H02P 21/00-27/18
特許請求の範囲 【請求項1】
所定の最高回転速度である車両駆動用の永久磁石同期電動機のだ行回転速度推定装置であって、
前記電動機の各相端子を所定の短絡時間の間短絡させる制御を行う第1の短絡制御手段と、
所定の電流検出手段によって検出される前記第1の短絡制御手段による短絡時の短絡電流に基づいて、所定座標系における当該短絡電流の電流ベクトルの角度を求める第1の角度算出手段と、
前記最高回転速度による前記電動機の半回転時間より短い時間として予め定められた所定の間隔時間が、前記第1の短絡制御手段による短絡制御から経過した後、前記電動機の各相端子を前記短絡時間と同一時間の間短絡させる制御を行う第2の短絡制御手段と、
前記電流検出手段によって検出される前記第2の短絡制御手段による短絡時の短絡電流に基づいて、所定座標系における当該短絡電流の電流ベクトルの角度を求める第2の角度算出手段と、
前記第1及び第2の角度算出手段により求められたそれぞれの角度の差を、前記間隔時間に前記短絡時間を加えた時間で除算することで前記電動機の回転速度を推定する回転速度推定手段と、
を備えるだ行回転速度推定装置。
【請求項2】
所定の最高回転速度である車両駆動用の永久磁石同期電動機のだ行回転速度を推定するだ行回転速度推定方法であって、
前記電動機の各相端子を所定の短絡時間の間短絡する第1の短絡ステップと、
所定の電流検出手段によって検出される前記第1の短絡ステップにおける短絡時の短絡電流に基づいて、所定座標系における当該短絡電流の電流ベクトルの角度を求める第1の角度算出ステップと、
前記最高回転速度による前記電動機の半回転時間より短い時間として予め定められた所定の間隔時間が、前記第1の短絡ステップにおける短絡から経過した後、前記電動機の各相端子を前記短絡時間と同一時間の間短絡する第2の短絡ステップと、
前記電流検出手段によって検出される前記第2の短絡ステップにおける短絡時の短絡電
流に基づいて、所定座標系における当該短絡電流の電流ベクトルの角度を求める第2の角度算出ステップと、
前記第1及び第2の角度算出ステップにおいて求められたそれぞれの角度の差を、前記間隔時間に前記短絡時間を加えた時間で除算することで前記電動機の回転速度を推定する回転速度推定ステップと、
を含むだ行回転速度推定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の最高回転速度である永久磁石同期電動機のだ行回転速度推定装置及びだ行回転速度の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石同期電動機(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)は誘導電動機に比べて高効率であるため、産業分野等において広く用いられており、この永久磁石同期電動機(以下、「PMSM」という。)の更なる小型軽量化等のために、回転子位置センサを除去した、いわゆる位置センサレス制御方法が研究・開発されている。
【0003】
中でも、給電が停止された状態のPMSMを再給電して再起動するためには、PMSMの回転子位置及び回転子速度を正確に推定する必要がある。例えば、非特許文献1には位置センサレスによるPMSMの再起動時の制御方法が開示されており、回転子位置及び回転子の回転速度を推定する方法が記載されている。以下、非特許文献1に記載の推定方法について簡単に説明する。
【0004】
PMSMのd-q軸座標系(磁極座標系)における電圧方程式は以下の式(1)で表される。
【数1】
JP0004850543B2_000002t.gif

【0005】
ここで、v,vはd-q軸電機子電圧、i,iはd-q軸電機子電流、Rは巻線抵抗、L,Lはd-q軸インダクタンス、Kは速度起電力係数、pは微分演算子(d/dt)である。
【0006】
式(1)においてq軸時定数L/Rに対して短絡時間Tが十分短いとしてR≒0と近似した場合に、初期電流i(0)=0で、三相短絡(v=0,v=0)した後の時刻Tにおける電流ベクトルi(T)は次式(2)となる。
【0007】
【数2】
JP0004850543B2_000003t.gif

【0008】
式(2)において、電流ベクトルi(T)の大きさを|I|とし、更にsinθT≒θT、cosθT≒1と近似することで次式(3)となる(θの下線は、数式中のドットを便宜的に表したものであり、θは位置θの時間微分、即ち速度を表す。他の式も同様である。)。
【0009】
【数3】
JP0004850543B2_000004t.gif

【0010】
式(3)によれば、式(3)の電流ベクトルi(T)の大きさ|I´|は速度θに比例し、方向はθ>0の時にq軸の負方向であるから、i(T)の大きさから速度θが、方向から回転子位置θが、それぞれ推定できる。推定速度をθとすると、推定速度の大きさ|θ|は次式(4)で得られる。
【0011】
【数4】
JP0004850543B2_000005t.gif

【0012】
また、速度の正負の特定については、適当な時間をおいて推定操作を2回行うことで、電流ベクトルi(T)の回転方向より判明できる。
【0013】
ここで、図13に、式(2)による電流ベクトルと、式(3)による電流ベクトルとを示す。図13において実線が式(2)による電流ベクトルIで、破線が式(3)による電流ベクトルI´である。推定速度θは、式(3)の近似した電流ベクトルI´に基づき求められるが、実際に検出される電流ベクトルは式(2)に示したものである。より正確な推定を行うためには、式(2)と式(3)それぞれの電流ベクトル間の関係に基づく補正を行う必要がある。
【0014】
式(2)と式(3)それぞれの電流ベクトルの大きさ|I|、|I´|の大小関係はモータ定数によって異なる。|I|と|I´|との比nは次式(5)で求まる。
【0015】
【数5】
JP0004850543B2_000006t.gif

【0016】
式(5)を用いて、推定速度の大きさを求める式(4)を補正したのが次式(6)である。
【数6】
JP0004850543B2_000007t.gif

【0017】

【非特許文献1】竹下隆晴、臼井明、渡辺淳一、松井信行「再給電時のセンサレス永久磁石形同期電動機の制御」、電気学会論文誌D、Vol.118-D、No.12、平成10年、p.1443-1449
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
非特許文献1の技術によれば、給電されていない状態のPMSMの回転速度を式(6)によって推定することができる。しかし、非特許文献1が対象とするPMSMは一般産業用のものである。鉄道車両等の電気車駆動用のPMSMは、一般産業用に比べて、最高回転速度が速く、電流制御周期が長い。従って、短絡時間を最短の電流制御周期1周期分にしたとしてもθTが大きくなる。
【0019】
単純計算してみよう。例えば、最高回転速度が300Hzの場合の角周波数ωは、2πf≒2×3.14×300=1884となる。さらに、鉄道車両用の制御装置による電流制御周期を1kHzとし、短絡時間Tを1周期である1msecとすると、短絡時間Tの間に電流ベクトルが回転する角度は、1884×1m=1.884rad=108degとなる。即ち、短絡時間Tの間に電流ベクトルは108度回転してしまう。
【0020】
非特許文献1の技術を用いて、電気車の代表例である鉄道車両駆動用のPMSMをだ行状態から再起動した場合のシミュレーションを行った。以下、シミュレーション結果を説明する。
【0021】
図14は鉄道車両が低速域でだ行走行している状態でPMSMを再起動した場合のシミュレーション結果である。具体的には、走行速度が20km/h(機械回転数1000r/min、電気角周波数33Hz)の時のシミュレーション結果であり、同図(a)がdq軸それぞれの電流のシミュレーション結果、同図(b)が電気角速度のシミュレーション結果である。
【0022】
図15は鉄道車両が中速域でだ行走行している状態でPMSMを再起動した場合のシミュレーション結果である。具体的には、走行速度が60km/h(機械回転数3000r/min、電気角周波数100Hz)の時のシミュレーション結果であり、同図(a)がdq軸それぞれの電流のシミュレーション結果、同図(b)が電気角速度のシミュレーション結果である。
【0023】
図14、15ともに、0.1秒の時点でPMSMの再起動制御を開始しており、0.1秒時点の推定角速度が、非特許文献1の技術によって推定されたものである。図14(b)に示すように低速域における誤差は約20rad/secであるが、中速域では図15(b)に示すように約350rad/secに拡大している。その結果、中速域では再起動時のdq軸電流が大きく変動してしまい、適切な再起動がなされたとは言い難い。また中速域での誤差量は実際の電気角速度の約6割に達しており、誤差の範疇を超え、推定失敗とも考えられる。さらに、図15は中速域におけるシミュレーション結果であり、高速域においては、誤差量が更に拡大することが予想される。
【0024】
以上のように、非特許文献1の技術を、鉄道車両駆動用PMSMのだ行回転速度の推定に適用することはできない。電気自動車等の鉄道車両以外の電気車においても同様と考えられる。勿論、電気車駆動用以外のPMSMであっても、制御演算周期が電気車駆動用の制御演算周期と同様の場合には、同様の問題が生ずるのは勿論である。
【0025】
本発明の目的とするところは、制御演算周期が長い場合であっても、PMSMのだ行回転速度をより正確に推定することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
以上の課題を解決するための第1の発明は、
所定の最高回転速度である永久磁石同期電動機のだ行回転速度推定装置であって、
前記電動機の各相端子を所定の短絡時間の間短絡させる制御を行う第1の短絡制御手段(例えば、図1の短絡制御部12)と、
所定の電流検出手段によって検出される前記第1の短絡制御手段による短絡時の短絡電流に基づいて、所定座標系における当該短絡電流の電流ベクトルの角度を求める第1の角度算出手段(例えば、図1の短絡電流ベクトル算出部14)と、
前記最高回転速度による前記電動機の半回転時間より短い時間として予め定められた所定の間隔時間が、前記第1の短絡制御手段による短絡制御から経過した後、前記電動機の各相端子を前記短絡時間と同一時間の間短絡させる制御を行う第2の短絡制御手段(例えば、図1の短絡制御部12)と、
前記電流検出手段によって検出される前記第2の短絡制御手段による短絡時の短絡電流に基づいて、所定座標系における当該短絡電流の電流ベクトルの角度を求める第2の角度算出手段(例えば、図1の短絡電流ベクトル算出部14)と、
前記第1及び第2の角度算出手段により求められたそれぞれの角度と前記短絡時間と前記間隔時間とに基づいて前記電動機の回転速度を推定する回転速度推定手段(例えば、図1の速度推定部16)と、
を備えるだ行回転速度推定装置である。
【0027】
また他の発明として、
所定の最高回転速度である永久磁石同期電動機のだ行回転速度を推定するだ行回転速度推定方法であって、
前記電動機の各相端子を所定の短絡時間の間短絡する第1の短絡ステップと、
所定の電流検出手段によって検出される前記第1の短絡ステップにおける短絡時の短絡電流に基づいて、所定座標系における当該短絡電流の電流ベクトルの角度を求める第1の角度算出ステップと、
前記最高回転速度による前記電動機の半回転時間より短い時間として予め定められた所定の間隔時間が、前記第1の短絡ステップにおける短絡から経過した後、前記電動機の各相端子を前記短絡時間と同一時間の間短絡する第2の短絡ステップと、
前記電流検出手段によって検出される前記第2の短絡ステップにおける短絡時の短絡電流に基づいて、所定座標系における当該短絡電流の電流ベクトルの角度を求める第2の角度算出ステップと、
前記第1及び第2の角度算出ステップにおいて求められたそれぞれの角度と前記短絡時間と前記間隔時間とに基づいて前記電動機の回転速度を推定する回転速度推定ステップと、
を含むだ行回転速度推定方法を構成してもよい。
【0028】
この第1の発明等によれば、1回目及び2回目の短絡時における電流ベクトルの角度と、短絡時間と、その短絡間隔時間とに基づいて、電動機の回転速度が推定される。このとき、1回目及び2回目の短絡時間はそれぞれ同一であり、短絡間隔時間は電動機の最高回転速度における半回転時間より短い時間に定められる。従って、1回目の短絡電流ベクトルと2回目の短絡電流ベクトルの相対位置関係に基づいてより正確な速度を推定することができる。
【0029】
第2の発明は、
所定の最高回転速度である永久磁石同期電動機のだ行回転速度推定装置であって、
前記電動機の各相端子を所定の短絡時間の間短絡させる制御を行う第1の短絡制御手段と、
所定の電流検出手段によって検出される前記第1の短絡制御手段による短絡時の短絡電流に基づいて、所定座標系における当該短絡電流の電流ベクトルの角度を求める第1の角度算出手段と、
前記第1の短絡制御手段による短絡制御から第1の間隔時間の後、前記電動機の各相端子を前記短絡時間と同一時間の間短絡させる制御を行う第2の短絡制御手段と、
前記電流検出手段によって検出される前記第2の短絡制御手段による短絡時の短絡電流に基づいて、所定座標系における当該短絡電流の電流ベクトルの角度を求める第2の角度算出手段と、
前記第1の間隔時間との差が、前記最高回転速度による前記電動機の半回転時間より所定の間隔差異時間異なる時間として予め定められた第2の間隔時間が、前記第2の短絡制御手段による短絡制御から経過した後、前記電動機の各相端子を前記短絡時間と同一時間の間短絡させる制御を行う第3の短絡制御手段と、
前記電流検出手段によって検出される前記第3の短絡制御手段による短絡時の短絡電流に基づいて、所定座標系における当該短絡電流の電流ベクトルの角度を求める第3の角度算出手段と、
前記第1,第2及び第3の角度算出手段により求められたそれぞれの角度と前記間隔差異時間とに基づいて前記電動機の回転速度を推定する回転速度推定手段と、
を備えるだ行回転速度推定装置である。
【0030】
また他の発明として、
所定の最高回転速度である永久磁石同期電動機のだ行回転速度を推定するだ行回転速度推定方法であって、
前記電動機の各相端子を所定の短絡時間の間短絡する第1の短絡ステップと、
所定の電流検出手段によって検出される前記第1の短絡ステップにおける短絡時の短絡電流に基づいて、所定座標系における当該短絡電流の電流ベクトルの角度を求める第1の角度算出ステップと、
前記第1の短絡ステップにおける短絡から第1の間隔時間の後、前記電動機の各相端子を前記短絡時間と同一時間の間短絡する第2の短絡ステップと、
前記電流検出手段によって検出される前記第2の短絡ステップにおける短絡時の短絡電流に基づいて、所定座標系における当該短絡電流の電流ベクトルの角度を求める第2の角度算出ステップと、
前記第1の間隔時間との差が、前記最高回転速度による前記電動機の半回転時間より所定の間隔差異時間異なる時間として予め定められた第2の間隔時間が、前記第2の短絡ステップにおける短絡から経過した後、前記電動機の各相端子を前記短絡時間と同一時間の間短絡する第3の短絡ステップと、
前記電流検出手段によって検出される前記第3の短絡ステップにおける短絡時の短絡電流に基づいて、所定座標系における当該短絡電流の電流ベクトルの角度を求める第3の角度算出ステップと、
前記第1,第2及び第3の角度算出ステップにおいて求められたそれぞれの角度と前記間隔差異時間とに基づいて前記電動機の回転速度を推定する回転速度推定ステップと、
を含むだ行回転速度推定方法を構成してもよい。
【0031】
この第2の発明等によれば、1回目、2回目及び3回目の短絡時における電流ベクトルの角度と、短絡時間と、各短絡間の短絡間隔時間とに基づいて、電動機の回転速度が推定される。このとき、1回目、2回目及び3回目の短絡時間はそれぞれ同一であり、1回目と2回目の短絡間の短絡間隔時間と、2回目と3回目の短絡間の短絡間隔時間との差が電動機の最高回転速度における半回転時間より短い時間に定められる。この短絡間隔時間の差の時間の間にどれだけ電流ベクトルの角度が変化するかを読み取ることで、回転子速度をより正確に推定することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、一般産業用の駆動制御に比べて、電気車駆動用電動機の駆動制御のように制御演算周期が長い場合であっても、PMSMのだ行回転速度をより正確に推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、電気車の代表例である鉄道車両(電車)を駆動する永久磁石同期電動機(PMSM)を回転子位置センサレスで制御する電動機制御装置に組み込まれるだ行回転速度推定装置の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0034】
図1は、電車の主回路構成の概略を示すブロック図であり、一の駆動軸についての構成要素を示している。同図に示すように、主回路は、電動機Mと、インバータ40と、電流センサ50と、電動機制御装置1とを備えて構成される。電動機制御装置1は、CPUや、プログラムを記憶したROM、RAM等から構成されるコンピュータにより実現されるものであり、例えば制御ボードとして制御装置の一部として実装されたり、インバータを含めて一体的にインバータ装置として構成され得るものである。
【0035】
電動機Mは、永久磁石同期電動機であり、インバータ40から電力が供給されることで車軸を回転駆動する主電動機(メインモータ)である。インバータ40には、パンタグラフ及びコンバータを介して架線の電力が供給される。そして、インバータ40は、ベクトル制御演算装置30から入力されるU相、V相、W相の電圧指令値V、V、Vに基づいて出力電圧を調整し、電動機Mに印加する。電流センサ50は、電動機Mの入力端に設けられ、電動機MのU相、V相、W相の電流I、I、Iを検出する。
【0036】
但し、だ行時においては、インバータ40のスイッチングロス低減の観点から、全ゲートをオフし、電動機Mへは一切電流が流れない状態で鉄道車両がだ行走行する。
【0037】
だ行状態から電動機Mを再起動する場合に、だ行回転速度推定装置10がインバータ40の+側又は-側全てのIGBTをオンすることで電動機Mの各相端子を短絡させ、短絡時に電流センサ50によって検出された短絡電流に基づいて電動機Mの回転速度を推定する。そして、だ行回転速度推定装置10によって推定された回転速度等を基にベクトル制御演算装置30によって電動機Mの再起動の制御がなされる。本実施形態は、だ行回転速度推定装置10によるだ行時の電動機Mの回転速度推定が特徴であって、その後のベクトル制御演算装置30による電動機Mの再起動制御は公知の方法であるため、ベクトル制御演算装置30による電動機Mの再起動制御の説明は省略する。
【0038】
だ行回転速度推定装置10は、短絡制御部12と、短絡電流ベクトル算出部14と、速度推定部16とを備えて構成される。
【0039】
短絡制御部12は、インバータ40の+側又は-側全てのIGBTをオンさせて電動機Mの各相端子を短絡させる制御を行う。短絡電流ベクトル算出部14は、短絡時に電流センサ50によって検出された各相の短絡電流に基づいて、固定子三相軸における電流ベクトル(以下、この電流ベクトルのことを「短絡電流ベクトル」という。)の角度(固定子軸における位置或いは方向とも定義される。)を求める。
【0040】
速度推定部16は、短絡電流ベクトル算出部14によって求められた短絡電流ベクトルの角度と、短絡制御部12が行う短絡1回当たりの短絡時間と、複数回の短絡の間隔時間である短絡間隔時間とに基づいて、電動機Mの角速度、即ち速度を推定する。
【0041】
以下、だ行回転速度推定装置10によるだ行回転速度推定の原理及びその制御内容について説明する。但し、説明を簡明化するため、背景技術において非特許文献1を参照して説明した方法(以下、「従来手法」という。)を基本とし、相違点を中心に説明する。
【0042】
本実施形態と従来手法との相違点を一言で述べると、1回目の短絡電流と2回目の短絡電流の固定子三相軸上の相対位置によって速度を推定するということである。
【0043】
短絡時に流れる電流は式(2)に示した通りである。この式に示されるように、回転子速度θが一定ならば、短絡時間Tにより短絡電流ベクトルが決まる。即ち、1回目の短絡と2回目の短絡それぞれの短絡時間Tを一定とした場合、短絡電流の大きさや固定子d-q軸座標上におけるq軸からの偏角θも同じになる。図2は、1回目短絡時の固定子三相軸上の短絡電流ベクトルの一例を示す図であり、図3は、1回目短絡終了後、τ秒経過した後の短絡電流ベクトルの一例を示す図である。図2,3に示すように、1回目の短絡と2回目の短絡それぞれの短絡時間Tを一定にすると、この間の短絡電流ベクトルの位相差θI2-θI1とd軸の位相差θ-θが等しくなる。この結果、短絡電流ベクトルの位相差θI2-θI1から回転子速度が推定できる。
【0044】
具体的には、次式(7)のように速度推定を行う。
【数7】
JP0004850543B2_000008t.gif

【0045】
ここで、τ秒は1回目短絡終了後の短絡電流が“0”に減衰するまでの待ち時間であるが、これは、最高速度の時でも短絡電流ベクトルの位相差θI2-θI1がπを超えない範囲で設定する。この位相差がπ(半回転)を超えてしまうと、速度の正負が判定できず、また速度推定も正確に行えないからである。
【0046】
だ行回転速度推定装置10の動作は次の通りである。先ず、短絡制御部12が、インバータ40を制御することで電動機Mの各相端子を短絡時間Tの間短絡させる。この短絡が1回目の短絡である。1回目の短絡の間に電流センサ50によって検出された電流に基づいて、短絡電流ベクトル算出部14が短絡電流ベクトルの角度を求める。短絡電流ベクトルの角度の算出方法は公知の方法であり、例えば上述の非特許文献1にも記載されている。図4に再掲する。
【0047】
次いで、1回目の短絡の後、最高回転速度において電動機Mの回転子が半回転する時間よりも短い時間として予め定められた短絡間隔時間τが経過して後、短絡制御部12が、1回目と同じ短絡時間Tの間、電動機Mの各相端子を短絡させる。この短絡が2回目の短絡である。
【0048】
2回目の短絡の間に電流センサ50によって検出された電流に基づいて、短絡電流ベクトル算出部14が2回目の短絡電流ベクトルの角度を求める。そして、速度推定部16が、短絡電流ベクトル算出部14によって求められた1回目の短絡電流ベクトルと2回目の短絡電流ベクトルとの位相差θI2-θI1と、短絡時間Tと、短絡間隔時間τとに基づいて、式(7)から、電動機Mの回転速度を推定する。
【0049】
次に、だ行回転速度推定装置10によるだ行回転速度の推定方法を用いて、鉄道車両駆動用のPMSMをだ行状態から再起動した場合のシミュレーション結果について説明する。
【0050】
図5は鉄道車両が低速域でだ行走行している状態でPMSMを再起動した場合のシミュレーション結果である。具体的には走行速度が20km/h(機械回転数1000r/min、電気角周波数33Hz)の時のシミュレーション結果であり、同図(a)がdq軸それぞれの電流のシミュレーション結果、同図(b)が電気角速度のシミュレーション結果である。
【0051】
図6は鉄道車両が中速域でだ行走行している状態でPMSMを再起動した場合のシミュレーション結果である。具体的には走行速度が60km/h(機械回転数3000r/min、電気角周波数100Hz)の時のシミュレーション結果であり、同図(a)がdq軸それぞれの電流のシミュレーション結果、同図(b)が電気角速度のシミュレーション結果である。
【0052】
図7は鉄道車両が高速域でだ行走行している状態でPMSMを再起動した場合のシミュレーション結果である。具体的には走行速度が130km/h(機械回転数6000r/min、電気角周波数190Hz)の時のシミュレーション結果であり、同図(a)がdq軸それぞれの電流のシミュレーション結果、同図(b)が電気角速度のシミュレーション結果である。
【0053】
図5~7何れの場合も、0.1秒の時点でPMSMの再起動制御を開始しており、0.1秒時点の推定角速度が、本実施形態の推定方法によって推定された角速度である。低速域、中速域、高速域の何れの速度域においても高精度に速度(角速度)が推定されており、円滑に再起動制御が開始されていることが分かる。
【0054】
以上、実施形態を説明したが、本発明が適用可能な形態は上述した実施の形態に限られるものではない。例えば、電気車の1つである電気自動車を駆動するPMSMのだ行回転速度の推定に適用してもよい。
【0055】
また、上述した実施の形態においては、短絡回数を2回としたが、3回とし、短絡間隔時間τに制約を設けないこととしてもよい。以下に具体的に説明する。なお、上述の実施形態の方式を「2回短絡方式」、以下説明する方式を「3回短絡方式」という。
【0056】
2回短絡方式においては、上述した通り、1回目の短絡終了から2回目の短絡開始までの短絡間隔時間τは、短絡電流が“0”に減衰するまでの時間以上で且つ、最高回転速度において電動機Mが半回転する時間よりも短い時間である必要がある。
【0057】
しかし、鉄道車両駆動では短絡電流が“0”に減衰するまでの間に、短絡電流ベクトルの位相差θI2-θI1がπ以上となることが考えられる。3回短絡方式は短絡間隔時間τに制限の無い方式である。
【0058】
3回短絡方式は、1回目の短絡と2回目の短絡の間隔である“1回目”の短絡間隔時間τ12と、2回目の短絡と3回目の短絡の間隔である“2回目”の短絡間隔時間τ23とに差τα(=τ23-τ12)を設けることにより、ταの間にどれだけ短絡電流ベクトルの位置(角度)が変化するかを読み取り回転子速度を推定する方式である。
【0059】
図8は、1回目の短絡時における固定子三相軸上の短絡電流ベクトルi(T)の例を示す図であり、図9は、2回目の短絡時における固定子三相軸上の短絡電流ベクトルi(T)の例を示す図である。1回目の短絡間隔時間τ12は十分大きな値となっており、1回目の短絡から2回目の短絡までの間に、電動機Mの回転子は正方向又は負方向に数回転し、2回目の短絡時における短絡電流ベクトルが図9の位置であったとする。このとき、1回目と2回目の短絡電流ベクトルの相対的な位相差は図9に示すように、θI2-θI1である。
【0060】
次回の3回目の短絡について、2回目の短絡から3回目の短絡までの短絡間隔時間τ23が、仮に1回目の短絡間隔時間τ12と同じだった場合を考える。このとき、3回目の短絡時における短絡電流ベクトルi´(T)は図10のようになる。
【0061】
即ち、1回目の短絡からτ12秒待って(θI2-θI1)進んだ位置に2回目の短絡電流ベクトルi(T)があるので、τ12と同じ時間待った場合、3回目の短絡電流ベクトルi´(T)は2回目の短絡電流ベクトルi(T)から位相(θI2-θI1)だけ進んだ位置となる。
【0062】
しかし、3回短絡方式は、τ23=τ12+ταである。即ち、3回目の短絡電流ベクトルi(T)は、正方向への回転だった場合には例えば図11のように、負方向への回転だった場合には例えば図12のように、τα時間における位相差であるθα分、短絡電流ベクトルi´(T)から位相が変化することとなる。この原理を利用して、回転子速度を推定できる。
【0063】
具体的には、次式(8)のように速度推定を行う。この3回短絡方式によれば、速度の正負の判定も可能である。
【数8】
JP0004850543B2_000009t.gif

【0064】
なお、ταは、最高回転速度において電動機Mの回転子が半回転する時間よりも短い時間として予め設定する必要がある。2回短絡方式と同様、τα秒で回転子が半回転以上回転すると回転の正負が判定できず、正確な速度推定ができないためである。
【0065】
但し、3回短絡方式では、2回短絡方式と異なり、短絡間隔時間そのものについては任意に設定可能である。
【0066】
以上の3回短絡方式を図1に示しただ行回転速度推定装置10によって実現する場合の制御動作は次のようになる。すなわち、先ず、短絡制御部12が、電動機Mの各相端子を短絡時間Tの間短絡させる。これが1回目の短絡である。この1回目の短絡の間に電流センサ50によって検出された電流に基づいて、短絡電流ベクトル算出部14が1回目の短絡電流ベクトルの角度を求める。
【0067】
次いで、1回目の短絡から短絡間隔時間τ12が経過して後、短絡制御部12が、2回目の短絡制御を行う。そして、電流センサ50によって検出される2回目の短絡電流に基づいて、短絡電流ベクトル算出部14が2回目の短絡電流ベクトルの角度を求める。
【0068】
そして、2回目の短絡から短絡間隔時間τ23(=τ12+τα)が経過して後、短絡制御部12が、3回目の短絡制御を行う。そして、電流センサ50によって検出される3回目の短絡電流に基づいて、短絡電流ベクトル算出部14が3回目の短絡電流ベクトルの角度を求める。
【0069】
そして、速度推定部16が、短絡電流ベクトル算出部14によって求められた1~3回目の短絡電流ベクトルの角度(固定子軸における位置或いは方向)と、短絡時間Tと、短絡間隔時間の差ταとに基づいて、式(8)から、電動機Mの回転速度を推定する。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】電車の主回路構成の概略ブロック図。
【図2】1回目短絡時の固定子三相軸上の短絡電流ベクトルの一例を示す図。
【図3】1回目短絡終了後、τ秒経過した後の短絡電流ベクトルの一例を示す図。
【図4】短絡電流ベクトルの角度の算出方法を示す図。
【図5】鉄道車両が低速域でだ行走行している状態でPMSMを再起動した場合のシミュレーション結果。
【図6】鉄道車両が中速域でだ行走行している状態でPMSMを再起動した場合のシミュレーション結果。
【図7】鉄道車両が高速域でだ行走行している状態でPMSMを再起動した場合のシミュレーション結果。
【図8】3回短絡方式において、1回目の短絡時における固定子三相軸上の短絡電流ベクトルi(T)の一例を示す図。
【図9】3回短絡方式において、2回目の短絡時における固定子三相軸上の短絡電流ベクトルi(T)の一例を示す図。
【図10】3回短絡方式において、2回目の短絡間隔時間τ23が1回目の短絡間隔時間τ12と同じだった場合の3回目の短絡時における短絡電流ベクトルの一例を示す図。
【図11】3回短絡方式において、3回目の短絡電流ベクトルが正方向への回転だった場合の一例を示す図。
【図12】3回短絡方式において、3回目の短絡電流ベクトルが負方向への回転だった場合の一例を示す図。
【図13】従来の推定方式による電流ベクトルを説明するための図。
【図14】従来の推定方式を用いて鉄道車両が低速域でだ行走行している状態でPMSMを再起動した場合のシミュレーション結果。
【図15】従来の推定方式を用いて鉄道車両が中速域でだ行走行している状態でPMSMを再起動した場合のシミュレーション結果。
【符号の説明】
【0071】
1 電動機制御装置
10 だ行回転速度推定装置
12 短絡制御部
14 短絡電流ベクトル算出部
16 速度推定部
30 ベクトル制御演算装置
40 インバータ
50 電流センサ
M 永久磁石同期電動機
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図8】
4
【図9】
5
【図10】
6
【図11】
7
【図12】
8
【図13】
9
【図5】
10
【図6】
11
【図7】
12
【図14】
13
【図15】
14