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明細書 :鉄道車両用トラクション制御装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4402980号 (P4402980)
公開番号 特開2005-239024 (P2005-239024A)
登録日 平成21年11月6日(2009.11.6)
発行日 平成22年1月20日(2010.1.20)
公開日 平成17年9月8日(2005.9.8)
発明の名称または考案の名称 鉄道車両用トラクション制御装置
国際特許分類 B61C  15/12        (2006.01)
F02D  29/02        (2006.01)
B60L  15/20        (2006.01)
FI B61C 15/12
F02D 29/02 311A
B60L 15/20 Y
請求項の数または発明の数 8
全頁数 19
出願番号 特願2004-052886 (P2004-052886)
出願日 平成16年2月27日(2004.2.27)
審査請求日 平成18年3月3日(2006.3.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】村上 浩一
【氏名】中村 英男
個別代理人の代理人 【識別番号】100090033、【弁理士】、【氏名又は名称】荒船 博司
【識別番号】100093045、【弁理士】、【氏名又は名称】荒船 良男
審査官 【審査官】西中村 健一
参考文献・文献 特開平09-324667(JP,A)
特開2003-164016(JP,A)
特開昭62-261564(JP,A)
特開2000-233744(JP,A)
特開2004-092459(JP,A)
特開2004-176574(JP,A)
調査した分野 B61C 15/08-15/12
B60L 1/00-15/42
F02D 29/00-29/06
F02D 41/00-41/40

特許請求の範囲 【請求項1】
駆動輪速度と非駆動輪速度との速度差に基づいてスリップの状況を判断し、スリップ中に推定した駆動輪とレール間の粘着係数に基いて算出したアクセル開度によって駆動輪を制御し、スリップ再粘着制御を行う鉄道車両用トラクション制御装置において、
前記速度差と粘着係数算出用しきい値の比較によって粘着係数算出点を判断し、この粘着係数算出点における粘着係数を算出する粘着係数算出手段と、
この粘着係数算出手段によって算出された粘着係数算出値に基いて、スリップ回復検出点からスリップ収束検出点までと、スリップ収束検出点以降とにそれぞれ用いる目標粘着係数を算出する目標粘着係数算出手段と、
この目標粘着係数算出手段によって算出された目標粘着係数算出値に基いたアクセル開度の決定により、スリップ回復検出点からスリップ収束検出点までにおいて、駆動輪を制御する目標粘着係数回復手段と、
前記目標粘着係数算出値に基いたアクセル開度の決定により、スリップ収束検出点以降において、駆動輪を制御する目標粘着係数増加手段とを備えたことを特徴とする鉄道車両用トラクション制御装置。
【請求項2】
前記粘着係数算出手段は、スリップ発生を判断するスリップ発生検出用しきい値より小さな粘着係数算出用しきい値と前記速度差との比較によって粘着係数算出点を判断することを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用トラクション制御装置。
【請求項3】
スリップ収束を判断するスリップ収束検出用しきい値より小さな粘着係数クリア用しきい値と速度差の比較に基いて粘着係数クリア点を判断し、この粘着係数クリア点において前記粘着係数算出手段で算出した粘着係数算出値をクリアすることを特徴とする請求項1または2に記載の鉄道車両用トラクション制御装置。
【請求項4】
前記目標粘着係数算出手段は、前記粘着係数算出手段で算出した粘着係数算出値に、スリップ発生検出点における非駆動輪速度およびドライバの操作量に対応するアクセル開度の状態に対応した重み付けを行って、目標粘着係数を算出することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の鉄道車両用トラクション制御装置。
【請求項5】
前記目標粘着係数回復手段は、前記目標粘着係数算出手段で算出した目標粘着係数算出値に相当する駆動力を得るために必要となるアクセル開度を決定することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の鉄道車両用トラクション制御装置。
【請求項6】
前記目標粘着係数増加手段は、前記目標粘着係数算出手段で算出した目標粘着係数算出値を、非駆動輪速度およびドライバの操作量に対応するアクセル開度の状態に応じて設定した増加量および増加時間に基いて増加し、この値に相当する駆動力を得るために必要となるアクセル開度を決定することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の鉄道車両用トラクション制御装置。
【請求項7】
目標粘着係数回復手段または目標粘着係数増加手段で決定したアクセル開度に基く駆動力の制御中において、スリップの状況が回復および収束傾向から発散傾向へ変化した状態であるスリップ発散を、速度差の変化量とスリップ発散検出用しきい値の比較に基いて判断することを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の鉄道車両用トラクション制御装置。
【請求項8】
粘着係数クリア点を検出した後、目標粘着係数増加手段で決定したアクセル開度に基く駆動力の制御中において、収まったスリップが再び発生した状態である再スリップ発生を、速度差と再スリップ検出用しきい値の比較に基いて判断することを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の鉄道車両用トラクション制御装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両等等の車両用トラクション制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スリップの再粘着制御を行う車両用トラクション制御装置としては、例えば特許文献1に記載されているように、トルクコンバータの入出力特性を利用してスリップ発生時の駆動力、つまりレールと車輪間の粘着力を算出し、これに基いてスリップの再粘着制御を行う技術が知られている。この特許文献1には、エンジンの回転数とトルクコンバータの出力回転数との速度比を求め、速度比からトルクコンバータの入出力特性に基いてトルクコンバータの出力トルク、つまり駆動力(粘着力)を算出する駆動力検出手段を備え、検出した駆動力に基いて駆動力の増減を図りスリップの再粘着を行うことが記載されている。
また、駆動輪速度の加減速度情報に基いてスリップの回復傾向を判断し、これに基いて駆動力の回復を行う、例えば、特許文献2に記載の技術が知られている。

【特許文献1】特開平9-324667号公報
【特許文献2】特開平3-200469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の車両用トラクション制御装置においては、スリップの発生を判断した時点で粘着力を求める構成であるため、車輪とレール間の粘着限界である粘着係数を正確に捉えることができなかった。加えて、スリップがある程度拡大した時点の、つまり実際の粘着限界よりも低い粘着力を目標とする駆動力の制御により、スリップの抑制とスリップ収束後の駆動力の確保を両立して車両の加速性を向上させるのが困難であった。
【0004】
また、駆動輪速度の加減速度が正から負に変化した付近を捉えて、スリップの回復傾向を判断する構成であり、大きな速度差を有したスリップ状況に対しても加減速度の正から負への変化点を、あるいは、ある程度の速度差を有したまま発散も収束もせずに均衡したスリップ状況に対しても加減速度の正から負への変化点を回復傾向であると判断して駆動力を保持、又は増加させるため、スリップの抑制を適切に行えない問題があった。
【0005】
一方、スリップの収束付近(再粘着付近)から行う駆動力の増加量が一定値であるため、駆動力の確保を重視した制御定数では、粘着が比較的高い状況には良好に対応できるが、連続して低い状況には対処できないなど、多様な粘着状況に適切に対応できない問題があった。加えて、体感的に粘着状況が良いと感じられ、ドライバの操作量に対応するアクセル開度が高い場合でも駆動力の増加量が一定値であるため、加速性が悪化する問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、例えば図1~図5および図11に示すように、駆動輪速度と非駆動輪速度との速度差に基づいてスリップの状況を判断し、スリップ中に推定した駆動輪とレール間の粘着係数に基いて算出したアクセル開度によって駆動輪を制御し、スリップ再粘着制御を行う鉄道車両用トラクション制御装置において、
前記速度差と粘着係数算出用しきい値の比較によって粘着係数算出点aを判断し、この粘着係数算出点aにおける粘着係数μc(a)を算出する粘着係数算出手段20と、
この粘着係数算出手段20によって算出された粘着係数算出値μc(a)に基いて、スリップ回復検出点dからスリップ収束検出点eまでと、スリップ収束検出点e以降とにそれぞれ用いる目標粘着係数μo(d),μo(e)を算出する目標粘着係数算出手段21と、
この目標粘着係数算出手段21によって算出された目標粘着係数算出値μo(d)に基いたアクセル開度の決定により、スリップ回復検出点dからスリップ収束検出点eまでにおいて、駆動輪を制御する目標粘着係数回復手段22と、
前記目標粘着係数算出値μo(e)に基いたアクセル開度の決定により、スリップ収束検出点e以降において、駆動輪を制御する目標粘着係数増加手段23とを備えたことを特徴とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、粘着係数算出手段によって、速度差(駆動輪速度と非駆動輪速度との速度差)と粘着係数算出用しきい値の比較によって粘着係数算出点を判断し、この粘着係数算出点における粘着係数を算出し、この算出した粘着係数算出値に基いて、スリップ回復検出点からスリップ収束検出点までと、スリップ収束検出点以降とにそれぞれ用いる目標粘着係数を目標粘着係数算出手段によって算出するので、より適確に粘着状態を把握することができる。
そして、スリップ回復検出点からスリップ収束検出点までは、目標粘着係数回復手段によって駆動輪を制御し、スリップ収束検出点以降は、目標粘着係数増加手段によって駆動輪を制御するので、粘着力をより有効利用でき駆動力の回復、増加を図ることができる。
したがって、発生したスリップの抑制を適切に行うことができるとともに、スリップ収束後の駆動力を確保して車両の加速性を向上させることができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、例えば図3および図4に示すように、請求項1に記載の鉄道車両用トラクション制御装置において、前記粘着係数算出手段20は、スリップ発生を判断するスリップ発生検出用しきい値ΔVHより小さな粘着係数算出用しきい値ΔV_μRと前記速度差との比較によって粘着係数算出点を判断することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、粘着係数算出用しきい値が、スリップ発生を判断するスリップ発生検出用しきい値より小さいので、粘着係数算出点をスリップ発生検出点より前側で判断できる。つまり、実際のスリップはスリップ発生検出点より前側で生じているので、粘着係数算出点をスリップ発生検出点より前側で判断することによって、粘着係数算出値から算出される目標粘着係数を、より粘着限界に近い粘着係数として正確に算出できる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の鉄道車両用トラクション制御装置において、スリップ収束を判断するスリップ収束検出用しきい値ΔVSより小さな粘着係数クリア用しきい値ΔV_μCと速度差の比較に基いて粘着係数クリア点fを判断し、この粘着係数クリア点fにおいて前記粘着係数算出手段20で算出した粘着係数算出値μc(a)をクリアすることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、拡大(発散)、抑制(収束)などを繰返して変化するスリップ状況においても、粘着係数クリア点で粘着係数算出値をクリアし、さらに、粘着係数算出値を更新する構成によって、再びスリップの発生を検出した場合などにおいても、より粘着限界に近い粘着係数を求めることができる。つまり、拡大、抑制を繰返すスリップに対しても、その都度、粘着係数算出点で粘着係数算出値を更新することによって、常に粘着限界に近い粘着係数算出値に基づいた制御が可能である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、例えば図8に示すように、請求項1~3のいずれか一項に記載の鉄道車両用トラクション制御装置において、前記目標粘着係数算出手段21は、前記粘着係数算出手段20で算出した粘着係数算出値μc(a)に、スリップ発生検出点bにおける非駆動輪速度およびドライバの操作量に対応するアクセル開度の状態に対応した重み付け(図8のステップ420およびステップ430)を行って、目標粘着係数μo(d),μo(e)を算出することを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、粘着係数算出値に、スリップ発生検出点における非駆動輪速度およびドライバの操作量に対応するアクセル開度の状態に対応した重み付けを行って、目標粘着係数を算出するので、車両の走行速度に応じた目標粘着係数とドライバの操作量を反映した目標粘着係数を算出することができる。
また、走行速度が速いほど目標粘着係数を高く、またドライバの操作量が大きいほど目標粘着係数を高く設定することにより、ドライバの意志を反映したうえで車両の加速性を得ることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、例えば図9に示すように、請求項1~4のいずれか一項に記載の鉄道車両用トラクション制御装置において、前記目標粘着係数回復手段22は、前記目標粘着係数算出手段21で算出した目標粘着係数値μo(d)に相当する駆動力を得るために必要となるアクセル開度を決定することを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、目標粘着係数算出手段で算出した目標粘着係数値に相当する駆動力を得るために必要となるアクセル開度を決定するので、スリップ回復検出点からスリップ収束検出点までの間で、スリップの抑制と同時に駆動力の回復を図ることができ、さらに、スリップ収束直後に速やかに駆動力を確保できる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、例えば図10に示すように、請求項1~5のいずれか一項に記載の鉄道車両用トラクション制御装置において、前記目標粘着係数増加手段23は、前記目標粘着係数算出手段21で算出した目標粘着係数算出値μo(e)を、非駆動輪速度およびドライバの操作量に対応するアクセル開度の状態に応じて設定した増加量Δμおよび増加時間Δtに基いて増加し、この値に相当する駆動力を得るために必要となるアクセル開度を決定することを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、目標粘着係数算出値を、非駆動輪速度およびドライバの操作量に対応するアクセル開度の状態に応じて設定した増加量および増加時間に基いて増加し、この値に相当する駆動力を得るために必要となるアクセル開度を決定するので、駆動力の緩やかな増加が行え、予測した粘着力から徐々に駆動力を増加して、加速性を改善することができる。
また、再スリップしない場合には、車両の走行速度とドライバの操作量に応じた増加量および増加時間に基づいて目標粘着係数算出値を増加するので、粘着限界ぎりぎりの範囲でさらに高い駆動力を確保することができる。
【0018】
請求項7に記載の発明は、請求項1~6のいずれか一項に記載の鉄道車両用トラクション制御装置において、目標粘着係数回復手段22または目標粘着係数増加手段23で決定したアクセル開度に基く駆動力の制御中において、スリップの状況が回復および収束傾向から発散傾向へ変化した状態であるスリップ発散を、速度差の変化量とスリップ発散検出用しきい値ΔVUの比較に基いて判断することを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明によれば、回復傾向または収束傾向となったスリップが、目標粘着係数回復手段や目標粘着係数増加手段によるアクセル開度の増加、もしくは粘着状態の変化(低下)によって再び発散傾向になった場合に対しても、この状態を適確に判断できる。そして、この判断点でアクセル開度を低減することにより、発散を抑えることができる。
【0020】
請求項8に記載の発明は、請求項1~7のいずれか一項に記載の鉄道車両用トラクション制御装置において、粘着係数クリア点fを検出した後、目標粘着係数増加手段23で決定したアクセル開度に基く駆動力の制御中において、収まったスリップが再び発生した状態である再スリップ発生を、速度差と再スリップ検出用しきい値の比較に基いて判断することを特徴とする。
【0021】
請求項8に記載の発明によれば、スリップ収束検出後の目標粘着係数増加手段によるアクセル開度の増加、もしくは粘着状態の変化(低下)によって再びスリップが発生した場合に対しても、この状態を適確に判断できる。この判断点でアクセル開度を低減することにより、発散を抑えることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、粘着係数算出手段によって、粘着係数算出点における粘着係数を算出し、この算出した粘着係数算出値に基いて、スリップ回復検出点からスリップ収束検出点までと、スリップ収束検出点以降にそれぞれ用いる目標の粘着係数を目標粘着係数算出手段によって算出するので、より適確に粘着状態を把握することができる。
そして、目標粘着係数算出値に基いたアクセル開度の決定により、スリップ回復検出点からスリップ収束検出点までにおいて、目標粘着係数回復手段によって駆動輪を制御し、スリップ収束検出点以降において、目標粘着係数増加手段によって駆動輪を制御するので、粘着力を有効利用でき駆動力の回復を図ることができ、よって、発生したスリップの抑制を適切に行うことができるとともに、スリップ収束後の駆動力を確保して車両の加速性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明に係る車両用トラクション制御装置を備えた鉄道用ディーゼル車両の機器構成の一例を示すものである。この図に示すように、本トラクション制御装置は、変速機内のクラッチの接続や開放を行う変速機制御装置、機関の燃料供給量を調節して機関出力の制御を行う燃料制御装置、駆動輪及び非駆動輪の速度検出を行うための速度発電機などから構成される。
ドライバが主幹制御器で操作したノッチ指令情報は、変速機制御装置に入力され、同制御装置はノッチ指令情報に対応したノッチ信号を燃料制御装置に出力する。燃料制御装置はノッチ信号に対応した燃料供給量を確保するためのアクチュエータ駆動信号を、噴射ポンプに付属するアクチュエータに出力し、機関出力の調節を行う。機関出力は、変速機内のトルクコンバータやギヤトレインによりトルク変換(動力変換)された後、出力軸(推進軸)、減速機を経て駆動軸に伝達される。また、機関の回転数は回転センサによって検出されて、燃料制御装置に入力される。
【0024】
本トラクション制御装置10は、駆動輪速度と非駆動輪速度との速度差に基づいてスリップの状況を判断し、スリップ中に推定した駆動輪とレール間の粘着係数に基いて算出したアクセル開度によって駆動輪を制御し、スリップ再粘着制御を行うものであり、図2に示すように、粘着係数算出手段20と、目標粘着係数算出手段21と、目標粘着係数回復手段22と、目標粘着係数増加手段23とが前記燃料制御装置に設けられている。
【0025】
粘着係数算出手段20は、速度差(駆動輪速度と非駆動輪速度との速度差)と粘着係数算出用しきい値の比較によって粘着係数算出点を判断し、この粘着係数算出点における粘着係数を算出するものである。粘着係数算出用しきい値ΔV_μRは、図3および図4に示すように、スリップ発生を判断するスリップ発生検出用しきい値ΔVHより小さく設定されている。
そして、図3に示すように、速度差ΔVが粘着係数算出用しきい値ΔV_μRと等しい点a,gを粘着係数算出点と判断し、この粘着係数算出点a,gにおける粘着係数を以下のようにして算出する。なお、粘着係数算出点gや、図4で示す粘着係数算出点a1、g1の粘着係数も、粘着係数算出点aにおける場合と同様にして算出するので、以下では粘着係数算出点aにおける粘着係数を算出する方法を例にとって説明する。
粘着係数を算出するには、図7に示すように、まずステップ210で機関回転数Neを読み込む。次に、ステップ220で変速機のトルクコンバータのタービン軸の回転数Ntを読み込む。次に、ステップ230で機関回転数Neとタービン軸回転数Ntの速度比eを算出する。
次に、ステップ240で機関出力トルクTeを算出する。この機関出力トルクTeは、図7中のトルクコンバータ入力特性を示すグラフによって算出する。次に、ステップ250でトルク比τを算出する。このトルク比τは、図7中のトルクコンバータ出力特性を示すグラフによって算出する。
【0026】
次に、ステップ260で出力軸トルクToを、次式によって算出する。
To=Te・τ・C1-I・α・1000・(1000/3600)・(2/D)2
ここで、C1、α、Dは車両緒元であり、C1はギヤトレーン減速比、αは駆動輪の加減速度、Dは車輪径である。また、Iは動力伝達部の慣性モーメントである。
次に、ステップ270で引張力Fを、次式によって算出する。
F=2・To・C2・η/D
ここで、C2、ηは車両緒元であり、C2は減速機減速比、ηは減速機伝達効率である。
次に、ステップ280で粘着係数μcを次式によって算出する。
μc=F/(1000・W)
ここで、Wは車両緒元であり、軸重である。
以上のようにして、粘着係数算出手段20によって、粘着係数算出点aにおける粘着係数μc(a)を算出する。
【0027】
前記目標粘着係数算出手段21は、粘着係数算出手段20によって算出された粘着係数算出値μc(a)に基いて、図3に示すスリップ回復検出点dからスリップ収束検出点eまでと、スリップ収束検出点e以降とにそれぞれ用いる目標粘着係数を算出するものであり、前記粘着係数算出値μc(a)に、スリップ発生検出点bにおける非駆動輪速度およびアクセル開度の状態に対応した重み付けを行って、目標粘着係数を算出する。
【0028】
この目標粘着係数の算出は以下のようにして行う。すなわち図8に示すように、ステップ410で粘着係数算出値μc(a)を読み込み、次に、ステップ420でスリップ回復検出点dからスリップ収束検出点eまでに用いる目標粘着係数μo(d)を算出する。この目標粘着係数μo(d)は目標粘着係数回復手段22(図2参照)における目標粘着係数回復処理に用いられるものであり、次式によって算出する。
μo(d)=μc(a)-補正量A
ここで、補正量Aは、粘着係数算出値μc(a)に、スリップ発生検出点bにおける非駆動輪速度およびドライバの操作量に対応するアクセル開度の状態に対応した重み付けを行うものであり、図8中の「補正量Aを示すデータテーブル」から求められる。このデータテーブルには、非駆動輪速度およびドライバの操作量に対応するアクセル開度の比率(%)に応じた補正量Aが記載されている。
【0029】
次に、ステップ430でスリップ収束検出点e以降に用いる目標粘着係数μo(e)を算出する。この目標粘着係数μo(e)は目標粘着係数増加手段23(図2参照)における目標粘着係数増加処理に用いられるものであり、次式によって算出する。
μo(e)=μc(a)-補正量B
ここで、補正量Bは、粘着係数算出値μc(a)に、スリップ発生検出点bにおける非駆動輪速度およびドライバの操作量に対応するアクセル開度の状態に対応した重み付けを行うものであり、図8中の「補正量Bを示すデータテーブル」から求められる。このデータテーブルには、非駆動輪速度およびドライバの操作量に対応するアクセル開度の比率(%)に応じた補正量Bが記載されている。
【0030】
以上のようにして、目標粘着係数算出手段21によって、スリップ回復検出点dからスリップ収束検出点eまでに用いる目標粘着係数μo(d)と、スリップ収束検出点e以降に用いる目標粘着係数μo(e)とを算出する。
【0031】
前記目標粘着係数回復手段22は、目標粘着係数算出手段21によって算出された目標粘着係数算出値μo(d)に基いたアクセル開度の決定により、スリップ回復検出点dからスリップ収束検出点eまでにおいて、駆動輪を制御する。
アクセル開度の決定の処理は以下のようにして行う。
すなわち、図9に示すように、まずステップ610で目標粘着係数回復の処理における目標粘着係数μo(d)を読み込む。次にステップ620でアクセル開度Accを算出する。この算出は図9中の車両性能データを示すグラフから算出する。この車両性能データを示すグラフは、車両の走行性能を加味して目標粘着係数μoに換算した引張力を得るに必要なアクセル開度Accを目標粘着係数μoと車両速度(非駆動輪速度)Vtに応じて設定したグラフである。なお、車両性能データを示すグラフは、図9中の、駆動力性能を示すグラフ(アクセル開度一定での粘着係数(駆動力)を示すグラフ)から得ることができる。次に、ステップ630でアクセル開度Accを決定して、これらの処理を終了する。
【0032】
また、前記目標粘着係数増加手段23は、目標粘着係数算出手段21によって算出された目標粘着係数算出値μo(e)に基いたアクセル開度の決定により、スリップ収束検出点e以降において、駆動輪を制御する。その際、目標粘着係数増加手段23は、目標粘着係数算出手段21で算出した目標粘着係数算出値μo(e)を、非駆動輪速度およびドライバの操作量に対応するアクセル開度の状態に応じて設定した増加量および増加時間に基いて増加し、この値に相当する駆動力を得るために必要となるアクセル開度を決定する。
【0033】
このような目標粘着係数の増加やアクセル開度の決定の処理は以下のようにして行う。
すなわち、図10に示すように、まずステップ810で目標粘着係数算出値の増加量Δμ、増加時間Δtを読み込む。この増加量Δμおよび増加時間Δtは、図10中の「増加量Δμを示すデータテーブル」および「増加時間Δtを示すデータテーブル」から読み込む。
増加量Δμを示すデータテーブルには、非駆動輪速度およびドライバの操作量に対応するアクセル開度の比率(%)に応じた増加量Δμが記載されている。また、増加時間Δtを示すデータテーブルには、非駆動輪速度およびドライバの操作量に対応するアクセル開度の比率(%)に応じた増加時間Δtが記載されている。
【0034】
次に、ステップ820で目標粘着係数増加処理における目標粘着係数算出値μo(e)を読み込む。次に、ステップ830でアクセル開度Accを算出する。この算出は図10中の車両性能データを示すグラフから算出する。この車両性能データを示すグラフは、車両の走行性能を加味して目標粘着係数算出値μoに換算した引張力を得るに必要なアクセル開度Accを目標粘着係数算出値μoと車両速度(非駆動輪速度)Vtに応じて設定したグラフである。なお、車両性能データを示すグラフは、図10中の、駆動力性能を示すグラフ(アクセル開度一定での粘着係数(駆動力)を示すグラフ)から得ることができる。次に、ステップ840でアクセル開度Accを決定する。
【0035】
次に、ステップ850で目標粘着係数算出値μo(e)の増加時間Δtを検出し、この増加時間Δtで目標粘着係数算出値μo(e)が増加してなければ処理を終了する。ステップ850で目標粘着係数算出値μo(e)が増加時間Δtで増加していれば、ステップ860で目標粘着係数算出値μoの更新を行う。これは、目標粘着係数算出値μo(e)に増加量Δμを加えることにより行う。
次に、ステップ830に戻り、以降は増加時間Δtで目標粘着係数算出値μo(e)が増加している限り、ステップ840、ステップ850、ステップ860をこの順で繰返し行う。
【0036】
図6は、本発明に係る車両用トラクション制御装置によるスリップ再粘着制御の処理内容を示すフローチャートである。このフローチャートと図5を参照して、スリップ再粘着制御の処理方法を説明する。
まず、ステップ100で、各種フラグや各種カウンタの初期設定を行う。続くステップ110では、速度発電機の駆動輪速度情報(駆動輪の回転パルス信号)および非駆動輪速度情報(非駆動輪の回転パルス信号)を基に駆動輪速度Vd、非駆動輪速度Vt、速度差ΔVを演算する。
【0037】
次に、ステップ120で粘着係数算出点の判定を行う。この判定では図5に示すように、速度差ΔVが粘着係数算出用しきい値ΔV_μRと等しい点を粘着係数算出点a0と判断し、速度差ΔVが粘着係数算出用しきい値ΔV_μRより小さければ、スリップ再粘着制御は必要なしと判断して処理を終了する。
一方、ステップ120で粘着係数算出点aを判断したら、つまりΔV≧ΔV_μRならば、ステップ200で粘着係数算出手段20によって、粘着係数算出点a0における粘着係数を算出して、粘着係数算出値μc(a0)とする。この粘着係数の算出は図7のフローチャートに示す、ステップ210~ステップ280によって行う。
次に、ステップ300で粘着係数算出値μc(a0)のクリア点の判定を行う。つまり、スリップ収束を判断するスリップ収束検出用しきい値ΔVS(図3参照)より小さな粘着係数クリア用しきい値ΔV_μCと速度差の比較に基いて粘着係数クリア点b0を判断し、この粘着係数クリア点b0において前記粘着係数算出手段20で算出した粘着係数算出値μc(a0)をクリアする(ステップ320)。つまり、速度差ΔVが小さくなっていき、この速度差ΔVが粘着係数クリア用しきい値ΔV_μC以下になった場合には、前記粘着係数算出値μc(a0)をスリップ再粘着制御に使用することなく、クリアして、ステップ120に戻り、次のスリップ再粘着制御の処理となる。
【0038】
そして、次のスリップ再粘着制御の処理において、ステップ200で粘着係数算出点a1における粘着係数を算出して、粘着係数算出値μc(a1)とし、ステップ300で粘着係数算出値μc(a1)のクリア点の判定を行って、これをクリアすることなく使用する場合は、ステップ310でスリップ発生の判定を行う。
この判定は、速度差ΔVとスリップ発生検出用しきい値ΔVH(図3参照)とを比較し、速度差ΔVがスリップ発生検出用しきい値ΔVHより小さい場合は、スリップが発生していないと判断してステップ300に戻る。
一方、ステップ310で速度差ΔVがスリップ発生検出用しきい値VH(図3参照)以上であれば、スリップ発生と判断し、ステップ400で目標粘着係数算出手段21によって目標粘着係数を算出する。この目標粘着係数μo(d)およびμo(e)の算出は図8のフローチャートに示す、ステップ410~ステップ430によって行う。
【0039】
次に、スリップ発生検出点b1で、スリップ発生と判断したら、ステップ500でアクセル開度減処理を行う。つまり、アクセルを絞りスリップの抑制を図る。
次に、ステップ510でスリップ回復の判定を行う。この判定は図3に示すように、速度差ΔVが最大となってからの速度差の変化量(減少量)ΔVtとスリップ回復検出用しきい値ΔVDとを比較し、速度差の変化量(減少量)ΔVtがスリップ回復検出用しきい値ΔVDより小さい場合は、スリップが回復していないと判断してステップ500に戻り、アクセルを絞り(アクセル開度減処理)、スリップの抑制を図る。
一方、ステップ510で速度差の変化量(減少量)ΔVtがスリップ回復検出用しきい値ΔVD以上となれば、スリップ回復と判断し、ステップ600で目標粘着係数回復手段22によって目標粘着係数回復の処理を行う。この処理は、図9のフローチャートに示す、ステップ610~ステップ630によって行う。
【0040】
次に、図6に示すステップ610でスリップ発散の判定を行う。すなわち、目標粘着係数回復手段22で決定したアクセル開度に基く駆動力の制御中において、スリップの状況が回復および収束傾向から発散傾向へ変化した状態であるスリップ発散を、速度差の変化量(増加量)ΔVtとスリップ発散検出用しきい値ΔVUの比較に基いて判断する。速度差の変化量ΔVtがスリップ発散検出用しきい値ΔVU以上の場合は、スリップ発散と判定してステップ500に戻りアクセル開度減処理を行ってスリップの抑制を図る。
一方、速度差の変化量ΔVtがスリップ発散検出用しきい値ΔVU未満の場合は、スリップは収束傾向であるとして、ステップ620で、スリップ収束の判定を行う。この判定は図5に示すように、速度差ΔVとスリップ収束検出用しきい値ΔVSとを比較し、速度差ΔVがスリップ収束検出用しきい値ΔVSより大きい場合は、スリップが収束していないと判断してステップ600に戻る。
一方、ステップ620で速度差ΔVがスリップ収束検出用しきい値ΔVS以下であれば、スリップ収束と判断し、ステップ800で目標粘着係数増加手段23によって目標粘着係数増加の処理を行う。この処理は、図10のフローチャートに示す、ステップ810~ステップ850によって行う。
【0041】
次に、ステップ900でスリップ発散の判定を行う。すなわち、目標粘着係数増加手段23で決定したアクセル開度に基く駆動力の制御中において、スリップの状況が回復および収束傾向から発散傾向へ変化した状態であるスリップ発散を、速度差の変化量ΔVtとスリップ発散検出用しきい値ΔVUの比較に基いて判断する。速度差の変化量がスリップ発散検出用しきい値ΔVU以上の場合は、スリップ発散と判定してステップ500に戻りアクセル開度減処理を行ってスリップの抑制を図る。すなわち、図5に示すように、速度差ΔVが粘着係数クリア用しきい値ΔV_μC以下とならずf2、g2と推移して(図中のケース2)、速度差の変化量がスリップ発散検出用しきい値ΔVUと等しい点g2をスリップ発散と判定し、ステップ910以降で行う粘着係数算出値の更新をしないまま、アクセル開度減処理に移行し、ステップ200で算出した粘着係数算出値に基づいてステップ510以降の処理を行う。
一方、速度差の変化量ΔVtがスリップ発散検出用しきい値ΔVU未満の場合は、スリップは収束傾向であるとして、ステップ910で粘着係数算出値μc(a1)のクリア点の判定を行う。つまり、図5に示すように、スリップ収束を判断するスリップ収束検出用しきい値ΔVSより小さな粘着係数クリア用しきい値ΔV_μCと速度差ΔVの比較に基いて粘着係数クリア点f1を判断し、この粘着係数クリア点f1において前記粘着係数算出手段20で算出した粘着係数算出値μc(a1)をクリアする(ステップ920)。
ステップ920で粘着係数算出値μc(a1)をクリアした場合、ステップ930に移行して、次のスリップ再粘着制御の処理となる。つまり、ステップ910で以前のスリップ再粘着制御で使用する粘着係数算出値μc(a1)が残存していた場合、これをクリアして、次のスリップ再粘着制御の処理に移行する。
【0042】
次に、ステップ930で、粘着係数算出点の判定を行う。この判定では図5)に示すように、速度差ΔVが粘着係数算出用しきい値ΔV_μRと等しい点を粘着係数算出点g1と判断し、速度差ΔVが粘着係数算出用しきい値ΔV_μRより小さければ、ステップ950で再スリップ検出の判定を行う。すなわち、粘着係数クリア点f1を検出した後、目標粘着係数増加手段23で決定したアクセル開度に基く駆動力の制御中において、収まったスリップが再び発生した状態である再スリップ発生を、速度差と再スリップ検出用しきい値の比較に基いて判断する。
つまり、速度差ΔVが再スリップ検出用しきい値と等しい点を再スリップ発生検出点h1と判断し、粘着係数算出値をステップ200で算出した粘着係数算出値からステップ940で算出した粘着係数算出値に更新し、この更新された粘着係数算出値に基づいてステップ950以降の処理を行う。次にステップ950で再スリップの判定を行う。すなわち、目標粘着係数増加手段23で決定したアクセル開度に基づく駆動力の制御中において、収まったスリップが再び発生した状態である再スリップの発生を、速度差ΔVとスリップ検出用しきい値ΔVHの比較に基づいて判断する。すなわち、速度差ΔVがスリップ検出用しきい値ΔVH未満の場合は、再スリップの発生はないと判定し、ステップ960に進む。一方、ステップ950で再スリップ発生と判定した場合、ステップ400に戻って、ステップ940で算出した粘着係数算出値に基づいて次のステップで使用する目標粘着係数を算出し、以降は1回目のスリップ再粘着制御の場合と同様にして処理を進めていく。
ステップ960では制御終了の判定を行う。すなわち、目標粘着係数増加手段23で決定したアクセル開度とドライバの操作量に対応したアクセル開度の比較に基づいて判断する。目標粘着係数増加手段23で決定したアクセル開度がドライバの操作量に対応したアクセル開度に達した時点で制御を終了する。一方、アクセル開度がドライバの操作量に対応したアクセル開度に達していない場合には、ステップ800に戻り、目標粘着係数増加手段23によってアクセル開度の増加処理を引続き行う。
【0043】
図11は本トラクション制御装置におけるスリップ再粘着制御の基本的な制御状況を示すタイムチャート、図10は本トラクション制御装置におけるスリップ再粘着制御の代表的な制御状況を示すタイムチャートである。
図11ではスリップ再粘着制御を1回行っている。まず、粘着係数算出点aにおける粘着係数μc(a)を算出し、スリップ発生検出点bでスリップ発生と判断したら目標粘着係数μo(d)およびμo(e)を算出する。
また、スリップ発生検出点bでアクセル開度減処理を行ってアクセルを絞りスリップの抑制を図る。
次に、スリップ回復検出点dで目標粘着係数回復の処理を行う。この場合、目標粘着係数μoを、スリップ中に予測(算出)した目標粘着係数μo(d)まで一気に増加させるように、目標粘着係数回復処理を行う。
次に、スリップ収束検出点eで目標粘着係数増加の処理を行う。この場合、スリップ中に予測(算出)した目標粘着係数μo(e)まで増加させるように、目標粘着係数増加処理を行う。以降は時間経過に応じて目標粘着係数μoを徐々に段階的に増加させるように、目標粘着係数増加処理を行い、スリップ再粘着制御が終了したら、通常制御に移行する。
また、粘着係数クリア点fで、前記粘着係数μc(a)をクリアしておき、次回の
スリップ再粘着制御に備えておく。
【0044】
図10ではスリップ再粘着制御を2回行っている。この制御では上記と同様に1回目の再粘着制御を行った後、次のスリップが発生し、このスリップの再粘着制御を行っている。
まず、1回目の再粘着制御では、上記の場合と同様に、粘着係数算出点a1における粘着係数μc(a1)を算出し、スリップ発生検出点b1でスリップ発生と判断したら目標粘着係数μo(d1)およびμo(e1)を算出する。
また、スリップ発生検出点b1でアクセル開度減処理を行ってアクセルを絞りスリップの抑制を図る。
次に、スリップ回復検出点d1で目標粘着係数回復の処理を行う。この場合、目標粘着係数μoを、スリップ中に予測(算出)した目標粘着係数μo(d1)まで一気に増加させるように、目標粘着係数回復処理を行う。
次に、スリップ収束検出点e1で目標粘着係数増加の処理を行う。この場合、スリップ中に予測(算出)した目標粘着係数μo(e1)まで増加させるように、目標粘着係数増加処理を行う。以降は時間経過に応じて目標粘着係数μoを徐々に段階的に増加させるように、目標粘着係数増加処理を行う。
また、粘着係数クリア点f1で、前記粘着係数μc(a1)をクリアしておき、2回目のスリップ再粘着制御に備えておく。
【0045】
そして、2回目のスリップ再粘着制御では、粘着係数算出点a2における粘着係数μc(a2)を算出し、スリップ発生検出点b2でスリップ発生と判断したら目標粘着係数μo(d2)およびμo(e2)を算出する。
また、スリップ発生検出点b2でアクセル開度減処理を行ってアクセルを絞りスリップの抑制を図る。
次に、スリップ回復検出点d2で目標粘着係数回復の処理を行う。この場合、目標粘着係数μoを、スリップ中に予測(算出)した目標粘着係数μo(d2)まで一気に増加させるように、目標粘着係数回復処理を行う。
次に、スリップ収束検出点e2で目標粘着係数増加の処理を行う。この場合、スリップ中に予測(算出)した目標粘着係数μo(e2)まで増加させるように、目標粘着係数増加処理を行う。以降は時間経過に応じて目標粘着係数μoを徐々に段階的に増加させるように、目標粘着係数増加処理を行う。
また、粘着係数クリア点f2で、前記粘着係数μc(a2)をクリアしておき、次回のスリップ再粘着制御に備えておく。
【0046】
図13は、スリップ再粘着制御での制御実測例を示すグラフである。図13に示すように、ドライバがノッチ指令(notch)を、1ノッチ、2ノッチ、3ノッチと操作していくと、操作されたノッチ指令またはノッチ信号に対する目標の粘着係数μoを求め、目標の粘着係数μoが0.1、0.15、0.20と段階的に増加していく。そして、アクセル開度(Acc)は、粘着係数ごとに速度に応じて上昇していくので、各粘着係数域では、アクセル開度(Acc))が次第に上昇するように制御され、推進軸トルクはほぼ一定となる。つまり、車両速度に対して一定の駆動力(引張力)を得ることができる。
【0047】
そして、スリップ発生検出点b1でスリップ発生と判断したら目標粘着係数μo(d1):0.13およびμo(e1):0.15を算出する。
また、スリップ発生検出点b1でアクセル開度減処理を行ってアクセルを絞りスリップの抑制を図る。
次に、スリップ回復検出点d1で目標粘着係数回復の処理を行う。この場合、目標粘着係数μoを、スリップ中に予測(算出)した目標粘着係数μo(d1):0.13まで回復し、速度の上昇に伴ってアクセル開度を増加するように、目標粘着係数回復処理を行って駆動力を確保する。
次に、スリップ収束検出点e1で目標粘着係数増加の処理を行う。この場合、スリップ中に予測(算出)した目標粘着係数μo(e1):0.15まで増加させるように、目標粘着係数増加処理を行い、さらなる駆動力の回復を図る。以降は時間経過に応じて目標粘着係数μoを徐々に段階的に増加させるように、目標粘着係数増加処理を行い、このアクセル開度の増加に伴って、駆動力が確保され非駆動輪速度すなわち車両速度は次第に増加していく。
【0048】
そして、次のスリップ発生検出点b2でスリップ発生と判断したら目標粘着係数μo(d2):0.13を算出する。
また、スリップ発生検出点b2でアクセル開度減処理を行ってアクセルを絞りスリップの抑制を図る。
次に、スリップ回復検出点d2(この例では、スリップ回復検出点とスリップ収束検出点とが同じである)で目標粘着係数増加処理を行う。この場合、スリップ中に予測(算出)した目標粘着係数μo(d2):0.13まで増加させるように、目標粘着係数増加処理を行って駆動力の確保を図る。以降は、時間経過に応じて目標粘着係数μoを徐々に段階的に増加し、この目標粘着係数の増加および速度の上昇に伴って増加するアクセル開度によって、駆動力が確保され非駆動輪速度すなわち車両速度は徐々に増加していく。
【0049】
このように、本スリップ再粘着制御によれば、粘着係数算出手段20によって、速度差(駆動輪速度と非駆動輪速度との速度差)と粘着係数算出用しきい値ΔV_μRの比較によって粘着係数算出点aを判断し、この粘着係数算出点aにおける粘着係数μc(a)を算出し、この算出した粘着係数算出値μc(a)に基いて、スリップ回復検出点dからスリップ収束検出点eまでと、スリップ収束検出点e以降とにそれぞれ用いる目標粘着係数μo(d)およびμo(e)を目標粘着係数算出手段21によって算出するので、より適確に粘着状態を把握することができる。
そして、スリップ回復検出点dからスリップ収束検出点eまでは、目標粘着係数回復手段22によって駆動輪を制御し、スリップ収束検出点e以降は、目標粘着係数増加手段23によって駆動輪を制御するので、粘着力をより有効利用でき駆動力の回復、増加を図ることができる。
したがって、発生したスリップの抑制を適切に行うことができるとともに、スリップ収束後の駆動力を確保して車両の加速性を向上させることができる。
【0050】
また、粘着係数算出用しきい値ΔV_μRが、スリップ発生を判断するスリップ発生検出用しきい値ΔVHより小さいので、粘着係数算出点aをスリップ発生検出点bより前側で判断できる。つまり、実際のスリップはスリップ発生検出点bより前側で生じているので、粘着係数算出点aをスリップ発生検出点bより前側で判断することによって、粘着係数算出値μc(a)から算出される目標粘着係数μo(d)およびμo(e)を、より粘着限界に近い粘着係数として正確に算出できる。
さらに、スリップ収束検出用しきい値ΔVSより小さな粘着係数クリア用しきい値ΔV_μCと速度差の比較に基いて粘着係数クリア点Cμを判断するので、拡大(発散)、抑制(収束)などを繰返して変化するスリップ状況においても、粘着係数クリア点fで粘着係数算出値μc(a)をクリアし、さらに、粘着係数算出値を更新する構成によって、再びスリップの発生を検出した場合などにおいても、より粘着限界に近い粘着係数を求めることができる。
【0051】
また、粘着係数算出値μc(a)に、スリップ発生検出点bにおける非駆動輪速度およびドライバの操作量に対応するアクセル開度の状態に対応した重み付けを行って、目標粘着係数μo(d)およびμo(e)を算出するので、車両の走行速度に応じるともにドライバの操作量を反映した目標粘着係数を算出することができ、よって、より有効に駆動力の回復や増加を図ることができる。
また、走行速度が速いほど目標粘着係数を高く、またドライバの操作量が大きいほど目標粘着係数を高く設定することにより、ドライバの意志を反映したうえで車両の加速性を得ることができる。
【0052】
さらに、目標粘着係数回復手段22は、目標粘着係数算出手段21で算出した目標粘着係数値μo(d)に相当する駆動力を得るために必要となるアクセル開度を決定するので、スリップ回復検出点dからスリップ収束検出点eまでの間で、スリップの抑制と同時に駆動力の回復を図ることができ、さらに、スリップ収束直後に速やかに駆動力を確保できる。
また、目標粘着係数増加手段23は、目標粘着係数算出手段21で算出した目標粘着係数算出値μo(e)を、非駆動輪速度およびドライバの操作量に対応するアクセル開度の状態に応じて設定した増加量Δμおよび増加時間Δtに基いて増加し、この値に相当する駆動力を得るために必要となるアクセル開度を決定するので、駆動力の緩やかな増加が行え、予測した粘着力から徐々に駆動力を増加して、加速性を改善することができる。
また、再スリップしない場合には、車両の走行速度とドライバの操作量に応じた増加量Δμおよび増加時間Δtに基づいて目標粘着係数算出値μo(e)を増加するので、粘着限界ぎりぎりの範囲でさらに高い駆動力を確保することができる。
【0053】
加えて、目標粘着係数回復手段22または目標粘着係数増加手段23で決定したアクセル開度に基く駆動力の制御中において、スリップの状況が回復および収束傾向から発散傾向へ変化した状態であるスリップ発散を、速度差の変化量とスリップ発散検出用しきい値ΔVUの比較に基いて判断するので、回復傾向または収束傾向となったスリップが、目標粘着係数回復手段22や目標粘着係数増加手段23によるアクセル開度の増加、もしくは粘着状態の変化(低下)によって再び発散傾向になった場合に対しても、この状態を適確に判断できる。そして、この判断点でアクセル開度を低減することにより、発散を抑えることができる。
さらに、粘着係数クリア点fを検出した後、目標粘着係数増加手段23で決定したアクセル開度に基く駆動力の制御中において、収まったスリップが再び発生した状態である再スリップ発生を、速度差と再スリップ検出用しきい値の比較に基いて判断するので、スリップ収束検出後の目標粘着係数増加手段23によるアクセル開度の増加、もしくは粘着状態の変化(低下)によって再びスリップが発生した場合に対しても、この状態を適確に判断できる。この判断点でアクセル開度を低減することにより、発散を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る車両用トラクション制御装置の一例を示すもので、該トラクション制御装置を備えた鉄道用ディーゼル車両の機器構成を示す図である。
【図2】同、トラクション制御装置のブロック図である。
【図3】本発明に係る車両用トラクション制御装置によるスリップ再粘着制御を説明するためのもので、粘着係数算出点および粘着係数クリア点を示すタイムチャートである。
【図4】同、速度差に基いたスリップ状況の判断を示すタイムチャートである。
【図5】同、スリップ状況に応じた粘着係数算出値を示すタイムチャートである。
【図6】同、スリップ再粘着制御の処理内容を示すフローチャートである。
【図7】同、粘着係数算出点における粘着係数を算出するためのフローチャートである。
【図8】同、目標粘着係数を算出するためのフローチャートである。
【図9】同、目標粘着係数算出値に基いてアクセル開度を決定する目標粘着係数回復の処理を示すフローチャートである。
【図10】同、目標粘着係数算出値に基いてアクセル開度を決定する目標粘着係数増加の処理を示すフローチャートである。
【図11】同、スリップ再粘着制御の基本的な制御状況を示すタイムチャートである。
【図12】同、スリップ再粘着制御の代表的な制御状況を示すタイムチャートである。
【図13】同、スリップ再粘着制御での制御実施例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0055】
10 トラクション制御装置
20 粘着係数算出手段
21 目標粘着係数算出手段
22 目標粘着係数回復手段
23 目標粘着係数増加手段
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12