TOP > 国内特許検索 > 潤滑剤組成物 > 明細書

明細書 :潤滑剤組成物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4553182号 (P4553182)
公開番号 特開2005-281524 (P2005-281524A)
登録日 平成22年7月23日(2010.7.23)
発行日 平成22年9月29日(2010.9.29)
公開日 平成17年10月13日(2005.10.13)
発明の名称または考案の名称 潤滑剤組成物
国際特許分類 C10M 169/04        (2006.01)
C10M 109/00        (2006.01)
C10M 155/02        (2006.01)
C10N  30/06        (2006.01)
C10N  40/04        (2006.01)
C10N  40/06        (2006.01)
FI C10M 169/04
C10M 109/00
C10M 155/02
C10N 30:06
C10N 40:04
C10N 40:06
請求項の数または発明の数 1
全頁数 7
出願番号 特願2004-098128 (P2004-098128)
出願日 平成16年3月30日(2004.3.30)
審査請求日 平成18年7月24日(2006.7.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】曽根 康友
【氏名】池田 博志
個別代理人の代理人 【識別番号】100104064、【弁理士】、【氏名又は名称】大熊 岳人
審査官 【審査官】坂井 哲也
参考文献・文献 特開2000-169866(JP,A)
特開2001-234185(JP,A)
特開2001-342477(JP,A)
特開2003-183682(JP,A)
特開2000-087069(JP,A)
伴巧他,車輪/レール用潤滑剤の粘着特性評価,鉄道総研報告,2001年,第15巻第12号,p.17-20
調査した分野 C10M 101/00-177/00
C10N 40/04-40/06
特許請求の範囲 【請求項1】
鉄道車両が急曲線を通過するときに、この鉄道車両の車輪のフランジ面とレールの内側頭頂面との間の摩耗を低減するとともに、これらの間のすべりを抑える潤滑剤組成物であって、
前記鉄道車両の加速又は減速によって空転又は滑走に至る巨視すべりが発生するすべり領域ではすべり率の増加とともにトラクション係数が増加するトラクション特性を示し、
ナフテン系化合物と変性シリコーン油とを含み、
前記ナフテン系化合物は、ナフテン酸であり、
前記変性シリコーン油は、アルキル変性シリコーン油であり、
前記アルキル変性シリコーン油の配合率が1~30mass%であること、
を特徴とする潤滑剤組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、摩耗を低減しすべりを抑えるための潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、急曲線を通過するときに曲線通過性能に応じた横圧を伴って走行するため、曲線の外軌側のレール側面とこのレール側面と接触する車輪のフランジ部には摩耗が発生する。また、この横圧は曲線の内軌及び外軌のきしり音(摩擦音)の原因になるとともに、内軌側のレールの踏面に発生する波状摩耗の原因にもなる。このような過大な横圧や摩耗を低減するために、車輪とレールとの間の粘着力を低下させる摩擦調整剤や潤滑油を内軌側のレールの頭頂面又は車輪の踏面に塗布したり、外軌側のレールの頭頂面と頭部側面との境目又は車輪のフランジと踏面との境目に塗布したりしている。
【0003】
例えば、従来の摩擦調整剤噴射装置(従来技術1)は、摩擦係数の大きいVHPF摩擦調整剤と摩擦係数の小さいHPF摩擦調整剤とを収容するタンクと、車両の走行地点を検出する走行地点検知手段と、VHPF摩擦調整剤及びHPF摩擦調整剤の噴射位置を記憶する噴射位置記憶手段と、走行地点検知手段が検知した走行位置と噴射位置記憶手段が記憶する噴射位置とを比較して噴射判定する噴射判定手段と、噴射判定手段の判定結果に基づいてVHPF摩擦調整剤又はHPF摩擦調整剤のいずれか一方をタンクから噴射するように指令する噴射制御手段とを備えている(例えば、特許文献1参照)。このような従来の摩擦調整剤噴射装置では、摩擦係数を増加させる必要がある駅手前区間や急勾配区間ではVHPF摩擦調整剤を選択し、摩擦係数を低減する必要がある曲線区間ではHPF摩擦調整剤を選択して、レール頭頂面にこれらの摩擦調整剤を噴射している。
【0004】
従来の車載式塗油装置(従来技術2)は、車両の角速度を検出する角速度センサと、潤滑油を噴射させる電磁式ポンプと、角速度センサが検出した角速度に基づいて電磁式ポンプ動作させる制御手段を備えている(例えば、特許文献2参照)。このような従来の車載式塗油装置では、角速度センサが検出した角速度に基づいて曲線路の曲がり方向を判定し、角速度の大きさが大きいほど電磁式ポンプを早く動作させて、外軌側のレールの頭頂面と頭部側面との境目又は車輪のフランジと踏面との境目に潤滑油を噴射している。
【0005】
従来の自動レール塗油装置(従来技術3)は、列車の通過を検出する列車検出部と、油タンク内に圧縮空気を供給する圧縮空気供給部と、油タンク内から油を噴射するノズルと、列車検出部が出力する列車検出信号に基づいて圧縮供給部に圧縮空気を供給させる制御部とを備えている(例えば、特許文献3参照)。このような従来の自動レール塗油装置では、列車の通過が検出されると圧縮空気が供給されて、車輪のフランジ部と接触するレールの頭部側面にノズルから油が噴射される。
【0006】

【特許文献1】特開2001-151110号公報
【0007】

【特許文献2】特開平11-173495号公報
【0008】

【特許文献3】特開2002-37068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術1では、車両の走行地点を検知して摩擦調整剤の噴射位置を判定し、摩擦係数の異なる二種類の摩擦調整剤のいずれか一方を選択する必要があるため、装置が複雑になり摩擦調整剤のコストが高いという問題があった。また、従来技術2,3では、レールの頭部側面と車輪のフランジ面との間に噴射した潤滑油などがレールの頭頂面や車輪の踏面に付着すると、力行(駆動)時に車輪がレール上を滑る車輪の空転やブレーキ時に車輪がレール上を滑る車輪の滑走などが発生するおそれがある。その結果、空転によってレールに甚大な摩擦が発生したり、滑走によって車輪の踏面が局部的に形状不整になるフラットが発生したりして、臨時のメンテナンスが多くなるという問題がある。また、滑走によって停車駅をオーバーランした場合には列車が遅延してしまう問題がある。
【0010】
この発明の課題は、接触面と被接触面との摩耗を低減するとともにこれらの間のすべりを抑えることができる潤滑剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、鉄道車両が急曲線を通過するときに、この鉄道車両の車輪(2)のフランジ面(2b)とレール(1)の内側頭頂面(1b)との間の摩耗を低減するとともに、これらの間のすべりを抑える潤滑剤組成物であって、前記鉄道車両の加速又は減速によって空転又は滑走に至る巨視すべりが発生するすべり領域ではすべり率の増加とともにトラクション係数が増加するトラクション特性を示し、ナフテン系化合物と変性シリコーン油とを含み、前記ナフテン系化合物は、ナフテン酸であり、前記変性シリコーン油は、アルキル変性シリコーン油であり、前記アルキル変性シリコーン油の配合率が1~30mass%であることを特徴とする潤滑剤組成物である。
【発明の効果】
【0018】
この発明によると、接触面と被接触面との摩耗を低減するとともにこれらの間のすべりを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、この発明の実施形態に係る潤滑剤組成物が使用される鉄道用部材の状態を示す平面図である。図2は、図1のII部分を拡大して示す正面図である。図3は、図2のIII方向から見た側面図である。
レール1は、車輪2を案内する鉄道用部材であり、車輪2を支持する頭頂面(頭部上面)1aと、この頭頂面1aと連続する内側頭頂面(内側頭部側面)1bとを備えている。車輪2は、レール1と回転接触する鉄道用部材であり、レール1の頭頂面1aと接触して摩擦抵抗を受ける踏面2aと、鉄道車両が急曲線を通過するときに外軌側のレール1の内側頭頂面1bと接触して摩擦抵抗を受けるフランジ面2bとを備えている。内側頭頂面1b及びフランジ面2bには、図1及び図2に示すように、矢印方向に鉄道車両が急曲線を通過するときに横圧Qが作用する。その結果、内側頭頂面1b及びフランジ面2bは、激しく高面圧で滑り接触を起こすため摩耗の激しい場所となり、このような摩耗が進行すると頭頂面1a及び踏面2aの形状が変化し、安全性や乗り心地が低下するとともに保守コストが増加する。
【0020】
図4は、理想的なトラクション特性を示す図である。
図4に示すトラクション特性は、トラクション係数tとすべり率との関係を表す曲線(参考文献: 伴 巧 他、車輪/レール用潤滑剤の粘着特性評価、鉄道総研報告 2001年12月、第17頁~第20頁)であり、縦軸がトラクション係数tであり横軸がすべり率である。ここで、トラクション係数tとは、レール1に作用する車輪円周の接線方向の力(図3に示す接線力P)を車輪2からレール1に作用する垂直力(図3に示す垂直力W)で除した値(接線力係数)であり、ブレーキ力や駆動力の伝達の大きさを表し、接線力が最大値となる場合の係数を粘着係数という。また、すべり率とは、周速度U1の回転体と周速度U2の回転体とが回転接触するときに、2つの回転体の周速度の差(U1-U2)の絶対値をいずれか一方の回転体の周速度U1,U2で除した値、又は2つの回転体の周速度の差の絶対値を2つの回転体の周速度の平均値(U1+U2/2)で除した値である。
【0021】
図4に示す曲線Iは、通常の潤滑油を使用したときのトラクション特性である。曲線Iでは、急曲線を通過しているときにはトラクション係数tが小さくなり、図1に示すレール1と車輪2との間で発生する横圧Qを抑制できる。しかし、車両が加速又は減速してすべり率が大きくなると、トラクション係数tがさらに小さくなり空転や滑走が発生してしまう。曲線IIは、理想的なトラクション特性であり、急曲線通過時に生ずるすべり率の範囲ではトラクション係数tが小さくなり横圧Qの発生を抑制し、車両の加速又は減速によって空転又は滑走に至る巨視すべりが発生した場合には瞬時に高いトラクション係数tに移行している。このため、このようなトラクション特性を示す潤滑剤組成物を使用することが望ましい。
【0022】
このような潤滑剤組成物としては、ナフテン系化合物とシリコーン油とを含むものが好ましい。このようなナフテン系化合物としては、例えばナフテン酸が好ましく、シリコーン油としては例えば変性シリコーン油が好ましい。シリコーン油の配合率は、配合率が低すぎると効果が失われ配合率が高すぎるとナフテン系化合物との混合が不十分になるため1~30mass%が好ましい。また、潤滑剤組成物としては、合成トラクション油と固体潤滑剤とを含むものが好ましい。固体潤滑剤としては、例えば、二硫化モリブデンが好ましい。二硫化モリブデンの配合率は、配合率が低すぎると効果が失われ配合率が高すぎると噴出時にノズルや配管などが詰まるおそれがあるため0.1~10.0mass%が好ましい。潤滑剤組成物は、例えば、地上側に設置された噴射ノズルを有する塗油装置によって内側頭頂面1b又はフランジ面2bに供給されたり、車上側に設置され車輪と回転接触する塗布ローラを有する塗油装置によって内側頭頂面1b又はフランジ面2bに供給されたりして塗布される。
【0023】
この発明の実施形態に係る潤滑剤組成物には、以下に記載するような効果がある。
(1) この実施形態では、潤滑剤組成物がナフテン系化合物とシリコーン油とを含む。また、この実施形態では、潤滑剤組成物が合成トラクション油と固体潤滑剤とを含む。このため、接触面と被接触面との摩耗を低減するとともにこれらの間のすべりを抑えることができる。
【0024】
(2) この実施形態では、潤滑剤組成物がナフテン系化合物を含むため、従来技術1のような高価な摩擦調整剤を購入する必要がなく低コスト化を図ることができるとともに、既存の塗油装置を利用して潤滑剤組成物を簡単に塗布することができる。また、この実施形態では、潤滑剤組成物がシリコーン油を含むため、油膜を保持する力を低下させて摩擦係数を増加させることができる。
【実施例】
【0025】
潤滑条件下でトルクを伝達する能力を持つ潤滑剤組成物のレールと車輪との間への適用を検討するために、比較例及び実施例1,2についてトラクション特性試験を実施した。
【0026】
(実施例1,2及び比較例)
実施例1は、ナフテン酸90mass%を主成分とする試薬(商品名:ナフテン酸、販売元:関東化学株式会社)に、変性シリコーン油(商品名:KF-412、販売元:信越化学株式会社)10mass%を添加した潤滑剤組成物である。実施例2は、合成トラクション油(商品名:KTF-1、販売元:日産自動車株式会社) 99.5mass%に、固体潤滑剤である二硫化モリブデン粉末(商品名:LIQUI-MOLY、販売元:THE LOCKREY COMPANY)0.5mass%を添加した潤滑剤組成物である。比較例は、トラクション特性を考慮していない試料油であり、ポリαオレフィン100mass%からなる通常の潤滑油(商品名:シンフルード801、販売元:新日鐵化学株式会社)である。
【0027】
(トラクション特性試験)
次に、実施例1,2及び比較例のトラクション特性を2円筒転がり接触試験機を用いて評価した。2円筒転がり接触試験機は、種々の車輪/レール接触問題を探求するために製作された基礎試験機であり、車輪ディスク/レールディスク間に発生するトラクション(接線力)を高精度に測定することができる。2円筒転がり接触試験機は、材質が実物と同一である車輪ディスクとレールディスクとを所定の荷重を加えて加圧接触させた状態で車輪ディスクを回転させ、この車輪ディスクに作用するトルクをトルク計によって測定する。試験条件は、周速度19km/h、最大ヘルツ接触圧力1GPaとした。
【0028】
(試験結果)
図5は、実施例1,2及び比較例のトラクション特性試験の結果である。
図5に示す縦軸は、トラクション係数であり、横軸はすべり率(%)である。ここで、図5に示すすべり率は、2つのディスクの周速度の差の絶対値をいずれか一方のディスクの周速度で除した値である。図5に示すように、実施例1,2は比較例よりも高いトラクション係数を示している。また、比較例は数%以上のすべり領域ですべり率の増加によりトラクション係数が減少する挙動を示しているが、実施例1はすべり率の増加とともにトラクション係数が増加しており、レールと車輪との間の潤滑油として適した挙動を示している。一方、実施例2は、トラクション係数が減少から増加に転じる傾向を示している。以上より、実施例1,2については必要なトラクション特性を満たす可能性があり、レールと車輪との間の摩耗を低減することが期待されるとともに、頭頂面に回り込んだときに空転や滑走の原因になり難いと考えられる。
【0029】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、鉄道用部材としてレール1及び車輪2を例に挙げて説明したが、相対運動によって摩擦抵抗を受けるパンタグラフのピン及びピンブッシュなどの他の鉄道用部材についてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、潤滑剤組成物を外軌側のレール1に供給する場合を例に挙げて説明したが、潤滑剤組成物を内軌側のレール1に供給することもできる。
【0030】
(2) この発明の実施形態では、潤滑剤組成物の組成を挙げて説明したが、大きな荷重に耐えることができる極圧剤を添加することもできる。また、この実施形態では、潤滑剤組成物を直接塗布する場合を例に挙げて説明したが、車両の変速機内で使用している潤滑剤組成物をこの変速機内から適宜噴射することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の実施形態に係る潤滑剤組成物が使用される鉄道用部材の状態を示す平面図である。
【図2】図1のII部分を拡大して示す正面図である。
【図3】図2のIII方向から見た側面図である。
【図4】理想的なトラクション特性を示す図である。
【図5】実施例1,2及び比較例のトラクション特性試験の結果である。
【符号の説明】
【0032】
1 レール(鉄道用部材)
1a 頭頂面
1b 内側頭頂面(接触面)
2 車輪(鉄道用部材)
2a 踏面
2b フランジ面(被接触面)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4