TOP > 国内特許検索 > 鉄道車両用アンチロックブレーキシステムおよび鉄道車両用の制動制御方法 > 明細書

明細書 :鉄道車両用アンチロックブレーキシステムおよび鉄道車両用の制動制御方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4843198号 (P4843198)
公開番号 特開2005-289172 (P2005-289172A)
登録日 平成23年10月14日(2011.10.14)
発行日 平成23年12月21日(2011.12.21)
公開日 平成17年10月20日(2005.10.20)
発明の名称または考案の名称 鉄道車両用アンチロックブレーキシステムおよび鉄道車両用の制動制御方法
国際特許分類 B60T   8/58        (2006.01)
FI B60T 8/58 Z
請求項の数または発明の数 7
全頁数 19
出願番号 特願2004-105617 (P2004-105617)
出願日 平成16年3月31日(2004.3.31)
審判番号 不服 2010-001415(P2010-001415/J1)
審査請求日 平成18年7月24日(2006.7.24)
審判請求日 平成22年1月22日(2010.1.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
発明者または考案者 【氏名】川口 清
【氏名】竹内 泰裕
個別代理人の代理人 【識別番号】100090033、【弁理士】、【氏名又は名称】荒船 博司
【識別番号】100093045、【弁理士】、【氏名又は名称】荒船 良男
参考文献・文献 特開平10-217929(JP,A)
特開平7-245804(JP,A)
特開昭61-261157(JP,A)
調査した分野 B60T 8/58
特許請求の範囲 【請求項1】
鉄道車両の各輪軸毎に制動力を調整して車輪のロックを抑制するための鉄道車両用アンチロックブレーキシステムであって、
ブレーキハンドルを備えたブレーキ設定器と、
前記車輪の速度を検知するための検知装置と、
前記各輪軸毎に制動力を発生させるための制動力発生装置と、
制動動作にある場合に前記各輪軸毎に前記制動力発生装置により発生された制動力を維持し、または緩めるための滑走防止装置と、
前記滑走防止装置を介して前記制動力発生装置に前記制動力を供給するためのブレーキ制御装置と、
前記滑走防止装置に対して制御指令を出力するために、前記検知装置から入力される速度情報に基づいて、前記車輪の速度の減速度の変化率を演算可能に構成された滑走防止制御演算装置と、
を備えた鉄道車両用アンチロックブレーキシステムにおいて
記滑走防止制御演算装置には、
前記車両の速度域が高速域、中速域および低速域に場合分けされており、かつ、前記滑走防止装置が前記制動力を緩める際の切り替え可能な前記変化率に対する第一の閾値が予め前記各場合についてそれぞれ設定されており、
前記車両の速度および前記各車輪の速度の差、または前記差の前記車両の速度に対する比の少なくとも一方に対して、前記滑走防止装置が前記制動力を緩める際の基準となる前記差または前記比に対する第二の閾値が、予め前記各場合についてそれぞれ設定されており、かつ、少なくとも前記第二の閾値は、前記高速域の場合が最も大きく、前記高速域、前記中速域、前記低速域の順に漸次小さい値になるように設定されており、
前記滑走防止制御演算装置は、
制動時には、前記車両の速度に応じて、前記車両の速度域がいずれの速度域にあるかを判定して、前記第一の閾値および前記第二の閾値当該速度域に対応する値に切り替え
前記車両の速度がいずれの速度域にある場合においても、前記変化率が前記第一の閾値を超えている前記車輪については、当該車輪の前記輪軸に対応する前記滑走防止装置を当該輪軸に対する前記制動力を緩めさせるように制御して、ストライベック曲線における混合潤滑領域に入った車両の滑走状態を前記混合潤滑領域から境界潤滑領域に引き戻し、
前記変化率が前記第一の閾値を超えていない前記車輪については、当該車輪に対応する前記差または前記比が前記第二の閾値を超えている場合に、当該車輪の前記輪軸に対応する前記滑走防止装置を当該輪軸に対する前記制動力を緩めさせるように制御するように構成されていることを特徴とする鉄道車両用アンチロックブレーキシステム。
【請求項2】
前記滑走防止制御演算装置は、制動時には、各車輪の速度の中で最も高い速度を車両の速度とし、前記差または前記比の少なくとも一方を演算し、前記車両の速度および前記ブレーキ設定器から入力されるブレーキ信号に応じて、前記第一の閾値および前記第二の閾値を切り替えるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用アンチロックブレーキシステム。
【請求項3】
前記滑走防止制御演算装置は、前記第一の閾値および前記第二の閾値として、常用ブレーキおよび非常ブレーキのブレーキ種別やブレーキノッチ指令のブレーキ種別に対して前記閾値がそれぞれ予め設定されており、かつ、前記ブレーキ種別について制動力が強くなるに従って前記各閾値が漸次大きな値になるように設定されており、制動時には、前記ブレーキ設定器から入力されるブレーキ信号に応じて、前記ブレーキの種別がいずれのブレーキ種別であるかを判別し、前記閾値を切り替えるように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の鉄道車両用アンチロックブレーキシステム。
【請求項4】
前記滑走防止制御演算装置は、前記検知装置から入力される速度情報に応じて、前記車輪の速度の減速度を演算可能に構成されており、かつ、演算された前記減速度について、前記滑走防止装置が前記制動力を緩める際の切り替え可能な閾値が予め複数設定されており、前記車両の速度および前記ブレーキ設定器から入力されるブレーキ信号に応じて、前記閾値を切り替えるように構成されていることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載の鉄道車両用アンチロックブレーキシステム。
【請求項5】
鉄道車両の各輪軸毎に制動力を調整して車輪のロックを抑制するための鉄道車両用の制動制御方法であって、
車両の速度域が車両の速度により高速域、中速域および低速域の各速度域に予め場合分けされており、車輪の速度の減速度の変化率に対する第一の閾値を、前記速度域毎にそれぞれ予め設定し、
前記車両の速度および各車輪の速度の差、または前記差の前記車両の速度に対する比の少なくとも一方に対して前記差または前記比に対する第二の閾値を前記速度域毎にそれぞれ予め設定し、かつ、少なくとも前記第二の閾値を、前記高速域の場合が最も大きく、前記高速域、前記中速域、前記低速域の順に漸次小さい値になるように設定し、
かつ、制動時には、前記車両の速度に応じて、前記車両の速度域がいずれの速度域にあるかの判定を行い、前記判定に応じて前記第一の閾値および前記第二の閾値当該速度域に対応する値に切り替え
前記車両の速度がいずれの速度域にある場合においても、前記変化率が前記第一の閾値を超えている前記車輪については、当該車輪の前記輪軸に対応する前記滑走防止装置を当該輪軸に対する前記制動力を緩めさせるように制御して、ストライベック曲線における混合潤滑領域に入った車両の滑走状態を前記混合潤滑領域から境界潤滑領域に引き戻し、
前記変化率が前記第一の閾値を超えていない前記車輪については、当該車輪に対応する前記差または前記比が前記第二の閾値を超えている場合に、当該車輪の前記輪軸に対応する前記滑走防止装置を当該輪軸に対する前記制動力を緩めさせるように制御することを特徴とする鉄道車両用の制動制御方法。
【請求項6】
前記判定の前に、常用ブレーキおよび非常ブレーキのブレーキ種別やブレーキノッチ指令のブレーキ種別に対して閾値それぞれ予め設定し、かつ、前記ブレーキ種別について制動力が強くなるに従って前記各閾値が漸次大きな値になるように設定し、制動時には、ブレーキ信号に応じて、前記ブレーキの種別がいずれのブレーキ種別であるかを判別し、前記閾値を切り替えることを特徴とする請求項5に記載の鉄道車両用の制動制御方法。
【請求項7】
前記閾値のほかに、前記車輪の速度の減速度に対する閾値を、前記車両の速度域および前記ブレーキ種別毎にそれぞれ予め設定し、制動時には、前記判定および前記判別を行い、前記判定および前記判別に応じて前記閾値を切り替えることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の鉄道車両用の制動制御方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用アンチロックブレーキシステムおよびそれを用いた制動制御方法に係り、特に、レールに対する車輪の滑り易さ係数がストライベック曲線における混合潤滑領域に入り得る高速の鉄道車両用のアンチロックブレーキシステムおよびそれを用いた制動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
走行している鉄道車両に強いブレーキを掛けて車輪をロックさせてしまうと、車輪がレール上を滑走して摩耗し、車輪に平坦面が形成され、車輪がスムーズに回転し難くなり、騒音や振動の原因となる。アンチロックブレーキシステム(以下、ABSという。)は、このようなロックによる車輪の摩耗を防止するために、鉄道車両の各輪軸毎または各台車毎に制動力を調整して車輪のロックを抑制するためのシステムであり、通常、車輪の回転速度を検知する速度検知装置を備える。そして、ブレーキを掛けて車輪がレールに対して滑り始めると、そのままブレーキを掛け続けると車輪がロックするので、ブレーキシリンダの押圧力を緩めて車輪に対する制輪子の制動力を緩めて車輪の速度Vを回復させ、滑りがなくなると、再度制輪子の制動力を強めるという動作を繰り返して車輪のロックを回避する技術である(図7参照)。
【0003】
このように、ABSは、もともと車輪のロック回避のための技術として開発されたものであるが、このABSを用いて車両を制動した場合、車輪をロックさせて車両を制動させる場合と比較して制動距離が短くなるという重要な特性を有する。そのため、その後、車両の制動安定性の要請もあり、特に自動車産業等の分野で研究が盛んに進められてきた。鉄道分野においても、近年、このABS技術の改良が進んでいる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
鉄道車両における通常のABSは、例えば、図8のグラフに示すように、車両の速度Vtと車輪の外周における周速度V、すなわち車輪の速度Vの差が閾値ΔVa以上になった場合(図中の直線Pから下の部分)、または、車両の速度Vtと車輪の速度Vの差の車両の速度Vtに対する比(α=(Vt-V)/Vt)が閾値(αa)以上になった場合(図中の直線Qから下の部分)、或いはその両方の条件を満たす場合(図中の斜線部分)に、車輪がレール上を滑走していると判断するように構成されている。そして、車輪にブレーキを掛け、前記のいずれかの条件を満たす状態になった時点で車輪に対する制輪子の制動力を緩め、車輪の速度Vが回復して、これらの条件から外れると、再度車輪に対して制動を加えるという動作が繰り返されて、車両が制動される。

【特許文献1】特開2003-220946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、鉄道車両の高速化に伴い、車両の制動距離が長距離化する傾向が強くなっている。鉄道車両の場合、車輪とレールとの間の接触面圧が自動車のタイヤと路面間の接触面圧のおよそ1000倍になる。そのため、雨天等でレールが滑り易い状況でも、鉄道車両の速度が低速であれば、一般に、滑走は生じ難く、たとえ滑走が生じても前述したような通常のABSによる制御で十分対処できる。しかし、最高時速が130km/h以上に及ぶ高速鉄道車両では、いわゆるハイドロプレーニング現象を生じて滑走し易くなり、制動距離が予想以上に長距離化する場合があることが分かってきた。以下、この現象について簡単に説明する。
【0006】
図9は、トライポロジーの分野でよく使われるストライベック曲線を表すグラフであり、縦軸は摩擦係数(μ)、横軸は滑り易さ係数である。ここで、水の粘度(動粘度)をρ、車輪とレールとの相対速度(以下、滑り速度という。)をΔV、車輪の輪重をWとすると、滑り易さ係数はρ×ΔV/Wで表される係数である。ここで、滑り速度ΔVは車両速度Vtと車輪の速度Vとの差(ΔV=Vt-V)で表され、輪重Wは一定であり、水の粘度ρは温度等に依存する。
【0007】
ストライベック曲線は、このように定義される滑り易さ係数の変化に対して、摩擦係数μがどのように変化するかを表すグラフであり、主に、滑り易さ係数が増加しても摩擦係数μがほとんど変化しない境界潤滑領域Iと、滑り易さ係数が増加すると摩擦係数μが急激に減少していく混合潤滑領域IIと、摩擦係数μが滑り易さ係数にほぼ比例して増加していく流体潤滑領域IIIに分けられる。各領域I~IIIを微視的に見た場合、図10に模式的に示すように、境界潤滑領域Iは、車輪WHやレールRの表面粗さRaに比べて水Lの厚さΔh(以下、水膜厚さΔhという。)が非常に小さい状態(Ra>>Δh)、混合潤滑領域IIは、表面粗さRaと水膜厚さΔhとが同程度である状態(Ra≒Δh)、流体潤滑領域IIIは、表面粗さRaに対して水膜厚さΔhが非常に大きい状態(Ra<<Δh)であるとされている。
【0008】
前述した低速の鉄道車両では、車両自体の速度が小さいため、例えば、雨天等でレールが濡れた状態で非常ブレーキを掛けても、滑り速度ΔVはそれほど大きな値にならず、通常、滑り易さ係数は境界潤滑領域Iの範囲内で変化する。そのため、通常のABSで十分に制動することができる。
【0009】
それに対し、高速鉄道車両では、濡れたレール上で非常ブレーキを掛けると、滑り速度ΔVが急速に増加して、滑走状態がストライベック曲線の境界潤滑領域Iから混合潤滑領域IIに入り込んでしまう場合がある。そのため、混合潤滑領域IIでは車輪WHとレールRとの摩擦係数μが境界潤滑領域Iにおける摩擦係数μより小さくなり、車両の制動距離が延びるのである。
【0010】
このような高速鉄道車両における制動距離の長距離化を防止する方法としては、例えば、図8のグラフに示した車両速度Vtと車輪の速度Vとの差(すなわち、滑り速度ΔV)の閾値ΔVaを小さい値に設定しておき、図11に示すように、車輪が滑り始めて滑り速度ΔVが閾値ΔVaを超えるとすぐにブレーキの制動力を緩めるようにする方法が採られることが多い。この方法は、車両の滑走状態をできるだけストライベック曲線の境界潤滑領域Iに留め、滑走状態が混合潤滑領域IIに入り込むことを極力防止しようとする方法である。
【0011】
しかし、この方法では、ABSのブレーキシリンダの圧抜きが頻繁になり、ブレーキシリンダ圧が低下してしまうため、所定のブレーキシリンダ圧が確保できなくなり、設計上の高いブレーキ性能が得られなくなる。そのため、制動距離が必ずしも効果的に短縮されず、ブレーキ制動が不安定になる。
【0012】
そのため、図8の閾値ΔVaをある程度大きい値に設定してブレーキシリンダの圧抜きの回数を減らす必要があるが、この場合、図12に示すように、特に低速域で車輪WHがロックし易くなる。前述したように、境界潤滑領域Iは、水膜厚さΔhが車輪WHやレールRの表面粗さRaに比べて非常に小さい状態であり、車輪WHとレールRがいわば金属接触をしている状態であるから、車輪WHがロックした状態でレールR上を滑走すると、レールRの表面粗さRaが平滑化されてしまい、車輪WHには平坦面が形成されてスムーズに回転し難くなるという問題がある。
【0013】
一方、前記の制動方法では、主に、非常ブレーキを掛けて強い制動力で鉄道車両を緊急停止させる場合を想定して説明したが、常用ブレーキを用いて鉄道車両を減速させる場合のように非常ブレーキの場合ほど強い制動力を必要としない場合もある。そのような場合には、例えば、図8のグラフに示した車両の速度Vtと車輪の速度Vの差(すなわち、滑り速度ΔV)の閾値ΔVaや、車両の速度Vtと車輪の速度Vの差の車両の速度Vtに対する比αの閾値αa等を非常ブレーキの場合と常用ブレーキの場合で変える必要がある。
【0014】
そこで、本発明の目的は、制動力を付与するためのブレーキシリンダ圧を高圧に維持してブレーキ性能を保ったまま、車輪のロックを防止し、ブレーキ種別に応じて適切に制動することが可能な鉄道車両用アンチロックブレーキシステムおよび制動制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の問題を解決するために、請求項1の鉄道車両用アンチロックブレーキシステムは、
鉄道車両の各輪軸毎に制動力を調整して車輪のロックを抑制するための鉄道車両用アンチロックブレーキシステムであって、
ブレーキハンドルを備えたブレーキ設定器と、
前記車輪の速度を検知するための検知装置と、
前記各輪軸毎に制動力を発生させるための制動力発生装置と、
制動動作にある場合に前記各輪軸毎に前記制動力発生装置により発生された制動力を維持し、または緩めるための滑走防止装置と、
前記滑走防止装置を介して前記制動力発生装置に前記制動力を供給するためのブレーキ制御装置と、
前記滑走防止装置に対して制御指令を出力するために、前記検知装置から入力される速度情報に基づいて、前記車輪の速度の減速度の変化率を演算可能に構成された滑走防止制御演算装置と、
を備えた鉄道車両用アンチロックブレーキシステムにおいて
記滑走防止制御演算装置には、
前記車両の速度域が高速域、中速域および低速域に場合分けされており、かつ、前記滑走防止装置が前記制動力を緩める際の切り替え可能な前記変化率に対する第一の閾値が予め前記各場合についてそれぞれ設定されており、
前記車両の速度および前記各車輪の速度の差、または前記差の前記車両の速度に対する比の少なくとも一方に対して、前記滑走防止装置が前記制動力を緩める際の基準となる前記差または前記比に対する第二の閾値が、予め前記各場合についてそれぞれ設定されており、かつ、少なくとも前記第二の閾値は、前記高速域の場合が最も大きく、前記高速域、前記中速域、前記低速域の順に漸次小さい値になるように設定されており、
前記滑走防止制御演算装置は、
制動時には、前記車両の速度に応じて、前記車両の速度域がいずれの速度域にあるかを判定して、前記第一の閾値および前記第二の閾値当該速度域に対応する値に切り替え
前記車両の速度がいずれの速度域にある場合においても、前記変化率が前記第一の閾値を超えている前記車輪については、当該車輪の前記輪軸に対応する前記滑走防止装置を当該輪軸に対する前記制動力を緩めさせるように制御して、ストライベック曲線における混合潤滑領域に入った車両の滑走状態を前記混合潤滑領域から境界潤滑領域に引き戻し、
前記変化率が前記第一の閾値を超えていない前記車輪については、当該車輪に対応する前記差または前記比が前記第二の閾値を超えている場合に、当該車輪の前記輪軸に対応する前記滑走防止装置を当該輪軸に対する前記制動力を緩めさせるように制御するように構成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、車輪の滑走状態が前記ストライベック曲線の混合潤滑領域に入ると、車輪の減速度の変化率(Jerk)の値が急激に増加するため、Jerkに第一の閾値を設けて監視することにより、滑走状態がストライベック曲線のどの領域にあるかを把握し、車両の速度域の判定に応じてそれらの閾値を自動的に切り替える。
また、高速域、中速域、低速域の各領域に予め場合分けされた車両の速度域において適切な前記変化率に対する第一の閾値および前記差または前記比に対する第二の閾値を設定し、車両の速度域に応じて第一の閾値および第二の閾値を切り替える。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の鉄道車両用アンチロックブレーキシステムにおいて、前記滑走防止制御演算装置は、制動時には、各車輪の速度の中で最も高い速度を車両の速度とし、前記差または前記比の少なくとも一方を演算し、前記車両の速度および前記ブレーキ設定器から入力されるブレーキ信号に応じて、前記第一の閾値および前記第二の閾値を切り替えるように構成されていることを特徴とする。
請求項2に記載の発明によれば、アンチロックブレーキシステムにおいて、滑走防止装置が車両の車輪に対する制動力を緩める際の基準となる閾値としては、通常、車輪の滑り速度や滑り速度の車両速度に対する比に対して閾値が設定されるが、本発明では、その閾値は、ブレーキ種別が異なる場合には異なる値をとり、ブレーキ信号に応じて閾値を切り替える。また、車両の速度に応じても異なる値をとるようにし、車両速度に応じて閾値を切り替えるようにする。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の鉄道車両用アンチロックブレーキシステムにおいて、前記滑走防止制御演算装置は、前記第一の閾値および前記第二の閾値として、常用ブレーキおよび非常ブレーキのブレーキ種別やブレーキノッチ指令のブレーキ種別に対して前記閾値がそれぞれ予め設定されており、かつ、前記ブレーキ種別について制動力が強くなるに従って前記各閾値が漸次大きな値になるように設定されており、制動時には、前記ブレーキ設定器から入力されるブレーキ信号に応じて、前記ブレーキの種別がいずれのブレーキ種別であるかを判別し、前記閾値を切り替えるように構成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、前記変化率に対する第一の閾値および前記差または前記比に対する第二の閾値が、制動距離が限られていて強い制動力が必要な非常ブレーキである場合と、通常の制動を行うため非常ブレーキの場合ほど強い制動力を必要としない常用ブレーキである場合とで異なる値をとり、ブレーキ種別に応じて閾値を切り替える。
【0023】
請求項に記載の発明は、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の鉄道車両用アンチロックブレーキシステムにおいて、前記滑走防止制御演算装置は、前記検知装置から入力される速度情報に応じて、前記車輪の速度の減速度を演算可能に構成されており、かつ、演算された前記減速度について、前記滑走防止装置が前記制動力を緩める際の切り替え可能な閾値が予め複数設定されており、前記車両の速度および前記ブレーキ設定器から入力されるブレーキ信号に応じて、前記閾値を切り替えるように構成されていることを特徴とする。
【0024】
請求項に記載の発明によれば、車輪の滑走状態が前記ストライベック曲線の混合潤滑領域に入ると、車輪の減速度の値が急激に増加するため、減速度を監視することにより、滑走状態がストライベック曲線のどの領域にあるかを把握して、車両速度やブレーキ信号に応じて閾値を切り替える。
【0025】
請求項に記載の発明は、
鉄道車両の各輪軸毎に制動力を調整して車輪のロックを抑制するための鉄道車両用の制動制御方法であって、
車両の速度域が車両の速度により高速域、中速域および低速域の各速度域に予め場合分けされており、車輪の速度の減速度の変化率に対する第一の閾値を、前記速度域毎にそれぞれ予め設定し、
前記車両の速度および各車輪の速度の差、または前記差の前記車両の速度に対する比の少なくとも一方に対して前記差または前記比に対する第二の閾値を前記速度域毎にそれぞれ予め設定し、かつ、少なくとも前記第二の閾値を、前記高速域の場合が最も大きく、前記高速域、前記中速域、前記低速域の順に漸次小さい値になるように設定し、
かつ、制動時には、前記車両の速度に応じて、前記車両の速度域がいずれの速度域にあるかの判定を行い、前記判定に応じて前記第一の閾値および前記第二の閾値当該速度域に対応する値に切り替え
前記車両の速度がいずれの速度域にある場合においても、前記変化率が前記第一の閾値を超えている前記車輪については、当該車輪の前記輪軸に対応する前記滑走防止装置を当該輪軸に対する前記制動力を緩めさせるように制御して、ストライベック曲線における混合潤滑領域に入った車両の滑走状態を前記混合潤滑領域から境界潤滑領域に引き戻し、
前記変化率が前記第一の閾値を超えていない前記車輪については、当該車輪に対応する前記差または前記比が前記第二の閾値を超えている場合に、当該車輪の前記輪軸に対応する前記滑走防止装置を当該輪軸に対する前記制動力を緩めさせるように制御することを特徴とする。
【0026】
請求項に記載の発明によれば、車輪の滑走状態が前記ストライベック曲線の混合潤滑領域に入ると、車輪の減速度の変化率(Jerk)の値が急激に増加するため、Jerkに閾値を設けて監視することにより、滑走状態がストライベック曲線のどの領域にあるかを把握し、車両の速度域の判定に応じてそれらの閾値を自動的に切り替える。
また、車両の速度域が車両の速度により高速域、中速域および低速域の各速度域に予め場合分けされており、それぞれの領域において適切な前記変化率に対する第一の閾値および前記差または前記比に対する第二の閾値を設定し、車両の速度域に応じて閾値を切り替える。
【0029】
求項に記載の発明は、請求項5に記載の鉄道車両用の制動制御方法において、前記判定の前に、常用ブレーキおよび非常ブレーキのブレーキ種別やブレーキノッチ指令のブレーキ種別に対して閾値それぞれ予め設定し、かつ、前記ブレーキ種別について制動力が強くなるに従って前記各閾値が漸次大きな値になるように設定し、制動時には、ブレーキ信号に応じて、前記ブレーキの種別がいずれのブレーキ種別であるかを判別し、前記閾値を切り替えることを特徴とする。
【0030】
請求項に記載の発明によれば、前記車両の速度域の判定の前に、ブレーキの種類の判別を行い、ブレーキ種別にあわせて閾値も異なる値に自動的に切り替える。
【0031】
請求項に記載の発明は、請求項5または請求項6に記載の鉄道車両用の制動制御方法において、前記閾値のほかに、前記車輪の速度の減速度に対する閾値を、前記車両の速度域および前記ブレーキ種別毎にそれぞれ予め設定し、制動時には、前記判定および前記判別を行い、前記判定および前記判別に応じて前記閾値を切り替えることを特徴とする。
【0032】
請求項に記載の発明によれば、車輪の滑走状態が前記ストライベック曲線の混合潤滑領域に入ると、車輪の減速度や減速度の値が急激に増加するため、減速度に閾値を設けて監視することにより、滑走状態がストライベック曲線のどの領域にあるかを把握し、ブレーキ種別の判別や車両の速度域の判定に応じてそれらの閾値を自動的に切り替える。
【発明の効果】
【0033】
請求項1に記載の発明によれば、アンチロックブレーキシステムにおいて、車輪の滑走状態が前記ストライベック曲線の混合潤滑領域に入ると、車輪の減速度の変化率(Jerk)の値が急激に増加するため、Jerkを監視することにより、滑走状態がストライベック曲線のどの領域にあるかを把握して、車両速度に応じて閾値を切り替える。そのため、このようなJerkについて第一の閾値を設けることで、滑走状態が混合潤滑領域に入った時点で自動的にブレーキを緩めることができ、滑走状態を混合潤滑領域から境界潤滑領域の状態に引き戻すことが可能となる。そのため、車輪のロックを確実に防止することができ、設計上のブレーキ性能を安定して発揮できる。また、滑走状態が混合潤滑領域にあると、車両の脱線が生じ易くなるが、前記のように、滑走状態が混合潤滑領域から境界潤滑領域の状態に自動的に引き戻されるため、このような脱線を有効に防止することが可能となる。
また、車両の速度域が高速域、中速域、低速域の各領域に予め場合分けされており、それぞれの領域において適切な閾値を設定し、車両の速度域に応じて閾値を切り替えるため、車両の中間的な速度域において高速域や低速域の閾値とは異なる値の閾値を用いることにより、車輪に比較的強い制動力を与えつつ、ブレーキシリンダの圧抜きの回数を適宜低減することが可能となり、ブレーキシリンダ圧を高圧に維持しつつ、車輪のロックを有効に防止することが可能となる。
請求項2に記載の発明によれば、アンチロックブレーキシステムにおいて、車輪の滑り速度や滑り速度の車両速度に対する比に対して、滑走防止装置が車両の車輪に対する制動力を緩める際の基準となる閾値が設定されるが、本発明では、その閾値を、ブレーキ種別が異なる場合には異なる値をとるようにしてブレーキ信号に応じて閾値を切り替え、車両の速度に応じても異なる値をとるようにして車両速度に応じて閾値を切り替えるようにする。そのため、請求項1に記載の発明の効果に加え、ブレーキの種類に応じて適切な閾値に変更することが可能となり、また、車輪の速度条件に応じて適宜閾値を変更することにより、制動力を付与するためのブレーキシリンダ圧を高圧に維持してブレーキ性能を保ったまま、車輪のロックを防止することが可能となる。
【0034】
請求項3に記載の発明によれば、前記変化率に対する第一の閾値および前記差または前記比に対する第二の閾値が、制動距離が限られていて強い制動力が必要な非常ブレーキである場合と、通常の制動を行うため非常ブレーキの場合ほど強い制動力を必要としない常用ブレーキである場合とで異なる値をとり、ブレーキ種別に応じて閾値を切り替えるため、前記各請求項に記載の発明の効果に加え、例えば、非常ブレーキの場合に滑り速度に対する閾値を大きくとることにより、レールに対する車輪の滑り速度が大きな値になるまで車輪に対する制動力を緩めず、車輪に強い制動力を与えることができる。また、常用ブレーキの場合により小さな値の閾値とすることにより、より小さな滑り速度で車輪に対する制動力が緩和され、車輪のロックを防止し、車輪やレールの損耗を確実に防止することが可能となり、ブレーキの種類に応じて適切な閾値に変更することが可能となる。
【0037】
請求項に記載の発明によれば、車輪の滑走状態が前記ストライベック曲線の混合潤滑領域に入ると、車輪の減速度の値が急激に増加するため、減速度を監視することにより、滑走状態がストライベック曲線のどの領域にあるかを把握して、車両速度やブレーキ信号に応じて閾値を切り替える。そのため、このような減速度についても閾値を設けることで、前記各請求項に記載の発明の効果に加え、滑走状態が混合潤滑領域に入った時点で自動的にブレーキを緩めることができ、滑走状態を混合潤滑領域から境界潤滑領域の状態に引き戻すことが可能となる。そのため、車輪のロックを確実に防止することができ、設計上のブレーキ性能を安定して発揮できると同時に、非常ブレーキの場合には制動距離が短くなる。また、滑走状態が混合潤滑領域にあると、車両の脱線が生じ易くなるが、前記のように、滑走状態が混合潤滑領域から境界潤滑領域の状態に自動的に引き戻されるため、このような脱線を有効に防止することが可能となる。
【0038】
請求項に記載の発明によれば、車輪の滑走状態が前記ストライベック曲線の混合潤滑領域に入ると、車輪の減速度の変化率(Jerk)の値が急激に増加するため、Jerkに閾値を設けて監視することにより、滑走状態がストライベック曲線のどの領域にあるかを把握し、車両の速度域の判定に応じてそれらの閾値を自動的に切り替える。そのため、このようなJerkについて第一の閾値を設けることで、滑走状態が混合潤滑領域に入った時点で自動的にブレーキを緩めることができ、滑走状態を混合潤滑領域から境界潤滑領域の状態に引き戻すことが可能となる。そのため、車輪のロックを確実に防止することができ、設計上のブレーキ性能を安定して発揮できる。また、滑走状態が混合潤滑領域にあると、車両の脱線が生じ易くなるが、前記のように、滑走状態が混合潤滑領域から境界潤滑領域の状態に自動的に引き戻されるため、このような脱線を有効に防止することが可能となる。
【0039】
また、車両の速度域を予め高速域、中速域、低速域の各領域場合分けしておき、それぞれの領域において適切な閾値を予め設定し、車両の速度域間の移行にあわせて自動的に閾値を切り替えるため、車両の速度が高速域にある場合にレールに対する車輪の滑り速度が大きな値になるまで車輪に対する制動力を緩めず、車輪に強い制動力を与えることができる。そのため、上記の効果に加え、高速域で大きな制動力を加えることで制動距離の短縮を図ることが可能となるとともに、ブレーキシリンダの圧抜きの回数を減らすことができ、ブレーキシリンダが所定の圧力を確保でき、設計上の高いブレーキ性能が得られる。また、車両の速度が低速域にある場合には、より小さな滑り速度で車輪に対する制動力が緩和され、車輪のロックを確実に防止できるとともに、車輪やレールの損耗を防止することが可能となる。また、中間的な速度域において高速域や低速域の閾値とは異なる値の閾値を用いることにより、車輪に比較的強い制動力を与えつつ、ブレーキシリンダの圧抜きの回数を適宜低減することが可能となり、ブレーキシリンダ圧を高圧に維持しつつ、車輪のロックを有効に防止することが可能となる。
【0040】
求項に記載の発明によれば、前記車両の速度域の判定の前に、ブレーキの種類の判別を行い、ブレーキ種別にあわせて閾値も異なる値に自動的に切り替えるため、前記請求項に記載の効果に加え、例えば、非常ブレーキの場合に滑り速度に対する閾値を大きくとることにより、レールに対する車輪の滑り速度が大きな値になるまで車輪に対する制動力を緩めず、車輪に強い制動力を与えることができる。また、常用ブレーキの場合により小さな値の閾値とすることにより、より小さな滑り速度で車輪に対する制動力が緩和され、車輪のロックを防止し、車輪やレールの損耗を確実に防止することが可能となり、ブレーキの種類に応じて適切な閾値に変更することが可能となる。
【0041】
請求項に記載の発明によれば、車輪の滑走状態が前記ストライベック曲線の混合潤滑領域に入ると、車輪の減速度の値が急激に増加するため、減速度に閾値を設けて監視することにより、滑走状態がストライベック曲線のどの領域にあるかを把握し、ブレーキ種別の判別や車両の速度域の判定に応じてそれらの閾値を自動的に切り替える。そのため、このような減速度についても閾値を設けることで、前記各請求項に記載の発明の効果に加え、滑走状態が混合潤滑領域に入った時点で自動的にブレーキを緩めることができ、滑走状態を混合潤滑領域から境界潤滑領域の状態に引き戻すことが可能となる。そのため、車輪のロックを確実に防止することができ、設計上のブレーキ性能を安定して発揮できると同時に、非常ブレーキの場合には制動距離が短くなる。また、滑走状態が混合潤滑領域にあると、車両の脱線が生じ易くなるが、前記のように、滑走状態が混合潤滑領域から境界潤滑領域の状態に自動的に引き戻されるため、このような脱線を有効に防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0043】
図1は、本発明に係る鉄道車両用アンチロックブレーキシステムが適用された鉄道車両の実施形態を示す模式図であり、本実施形態では、鉄道車両用アンチロックブレーキシステム1が、時速130kmで走行可能な8輪型の鉄道車両Tに適用された場合を示す。なお、以下、車輪61等という場合には、車両Tの反対側の各車輪61等と輪軸で連結された図示しない各車輪をも指す。また、本実施形態では、各輪軸毎に制動力を調整して各輪軸で連結された車輪のロックを抑制する場合について述べるが、数本の輪軸等から構成される台車毎に制動力を調整するように構成することも可能である。
【0044】
本実施形態の鉄道車両用アンチロックブレーキシステム1には、システム全体をコントロールし、滑走防止装置81~84に対して制御指令を出力するための滑走防止制御演算装置2が備えられている。本実施形態では、滑走防止制御演算装置2としては、CPUやRAM、ROM、入出力インターフェース等がBUSにより接続されて構成され、必要なプログラムがインストールされた図示しないコンピュータが用いられている。滑走防止制御演算装置2は、専用のCPUを備えた装置として構成されてもよい。
【0045】
滑走防止制御演算装置2には、ブレーキ制御演算装置3が接続されており、ブレーキ制御演算装置3には、運転士が操作するブレーキハンドルを備えたブレーキ設定器4が電気的に接続されている。また、本実施形態では、ブレーキ制御演算装置3には、地上に設置された送信機からのブレーキ信号を受信する受信機5が電気的に接続されている。ブレーキ制御演算装置3は、ブレーキ設定器4や受信機5からのブレーキ信号に基づいて、常用ブレーキや非常ブレーキのブレーキ種別やブレーキノッチ指令のブレーキ種別を判断し、その情報を滑走防止制御演算装置2に出力するように構成されている。
【0046】
また、滑走防止制御演算装置2には、各車輪61~64の輪軸にそれぞれ取り付けられたセンサよりなる検知装置71~74が接続されており、各検知装置71~74は、各車輪61~64の回転速度(軸速度)を検知して滑走防止制御演算装置2にその測定値を速度情報として出力するように構成されている。本実施形態では、滑走防止制御演算装置2には、常時各検知装置71~74から測定値が入力されるようになっている。
【0047】
なお、本実施形態の滑走防止制御演算装置2は、前記各検知装置71~74から出力された各車輪61~64の回転速度から各車輪61~64の外周の線速度、すなわち各車輪61~64の速度V1~V4に変換するように構成されており、速度V1~V4の中で最も値が大きい速度を車両Tの速度Vtとみなすようになっている。本実施形態のように車輪の回転速度を車輪の速度に変換せずに回転速度のまま演算を行うように構成することも可能である。また、車両Tの速度Vtを直接測定したり、他の方法で車両速度Vtを推定することも可能である。
【0048】
また、本実施形態の滑走防止制御演算装置2は、変換して得られた各車輪61~64の速度V1~V4に基づいて、各車輪61~64の速度V1~V4の減速率およびこの減速率の変化率(以下、Jerkという。)をそれぞれ演算可能とされている。すなわち、本実施形態の滑走防止制御演算装置2は、一定の時間間隔で各検知装置71~74から送信されてくる各車輪61~64の回転速度の測定値を速度V1~V4に変換し、同時に速度V1~V4の微分を演算して減速率βを求め、さらに減速率βを微分してJerkを求めてそれぞれ記憶するようになっている。
【0049】
滑走防止制御演算装置2には、制動動作にある場合に各車輪61~64に加わる制動力を維持し或いは緩めるための滑走防止装置81~84が電気的に接続されており、滑走防止装置81~84には、各輪軸毎または各台車毎に各車輪61~64に対して制動力を発生させるための制動力発生装置91~94が連結されている。また、滑走防止装置81~84は、それぞれブレーキ制御装置10に連結されており、ブレーキ制御装置10は、各滑走防止装置81~84を介して各制動力発生装置91~94にそれぞれ空気圧を供給して各車輪61~64に対する制動力を供給するように構成されている。
【0050】
本実施形態では、ブレーキ制御装置10は、通常の空気ブレーキ方式による制御を行うように構成されており、ブレーキ制御装置10には、空気圧縮機11が連結されている。空気圧縮機11は、滑走防止制御演算装置2または車両本体を制御する図示しない制御部に電気的に接続されており、動作を制御されるようになっている。ブレーキ方式は、本実施形態のような空気ブレーキ方式以外にも、例えば、電気指令式空気ブレーキ方式や電気ブレーキ方式など、通常、鉄道車両のブレーキ制御に用いられる他の制御方式を用いて構成されていてもよい。
【0051】
図2は、制動力発生装置および滑走防止装置の構造を概略的に説明する模式図である。制動力発生装置9は、車輪6に対して制動力を付与する制輪子12を備えており、制輪子12には、制動力発生装置9を構成するブレーキシリンダ13の出力軸14の一端部が連結されている。出力軸14の他端部には、ブレーキシリンダ13のピストン15が連結されており、ピストン15は、図示しない前記ブレーキ制御装置、滑走防止装置8およびブレーキシリンダ13を連絡するブレーキシリンダ管16を通ってブレーキ制御部から供給される空気圧に応じてブレーキシリンダ13の内部を移動し、出力軸14を介して制輪子12を車輪6に押圧することで車輪6に対する制動力を付与し、或いは押圧を緩めたり解除したりすることで車輪6に対する制動力を緩めたり解除したりするようになっている。なお、ブレーキシリンダ13の内部には、ピストン15を押し戻すための戻しバネ17が設けられている。
【0052】
滑走防止装置8は、ブレーキシリンダ管16の管内を開放し或いは遮蔽することによりブレーキ制御装置からブレーキシリンダ13に空気圧を供給し或いは遮断する供給停止弁18および排気口19を開放してブレーキシリンダ側の空気圧を緩める排気弁20を備えている。そして、滑走防止装置8の供給停止弁18および排気弁20は、前記滑走防止制御演算装置2からの開閉信号に応じて、ブレーキ制御装置から空気圧が供給されて制動動作にある前記制動力発生装置9の制動力を維持し、または制動力を緩め或いは解除するように構成されている。
【0053】
次に、本実施形態に係る鉄道車両用アンチロックブレーキシステム1を用いた本発明の制動制御方法に係る実施形態について説明する。
【0054】
図3は、本実施形態の制動制御方法における処理の手順を示すフローチャートである。本実施形態の制動制御方法では、鉄道車両Tの走行中に、ブレーキ制御演算装置3にブレーキ設定器4や受信機5からブレーキ信号が入力されると、ブレーキ制御演算装置3は、そのブレーキ信号から常用ブレーキや非常ブレーキのブレーキ種別およびブレーキノッチ指令のブレーキ種別を判断し、その情報を滑走防止制御演算装置2に出力する。滑走防止制御演算装置2は、ブレーキ制御演算装置3から送られてきた前記情報に基づいて、ブレーキ種別が常用ブレーキ(NB)であるか非常ブレーキ(EB)であるかの判別を行う(判別過程、ステップS1)。
【0055】
次に、滑走防止制御演算装置2は、この判別過程で、例えば、ブレーキ種別が非常ブレーキ(EB)であると判別すると、各検知装置71~74から入力された各車輪61~64の回転速度の測定値から演算された各車輪61~64の速度V1~V4の中から最も大きな速度を選択して車両Tの速度Vtとみなし、この車両速度Vtが設定されたどの速度域にあるかの判定を行う(判定過程、ステップS2)。
【0056】
本実施形態では、車両Tの速度域として、車両Tの最高速度の約70%の速度である時速90km以上の高速域、最高速度の約40%の速度である時速50km以下の低速域、およびその中間の時速50kmより大きく時速90kmより小さい中速域の3つの領域が設定されている。
【0057】
高速域を車両Tの最高速度の約70%の速度以上とする理由は、例えば、図7に示したように、車両速度Vtが単調に減少して停止した場合、ブレーキの掛け始めの位置から停止位置までの走行距離は図中の直角三角形の面積で表されるが、車両速度Vtがブレーキの掛け始めの際の速度の約70%に減少した時点で、すでに車両Tは停止までの走行距離の約半分を走行していることになるため、ここまでの段階で効果的に制動を行わないと、車両Tの制動距離が延びてしまうからである。
【0058】
低速域を車両Tの最高速度の約40%の速度以下とする理由は、図8に示した滑り速度ΔVの閾値ΔVaを大きな値に設定した場合には、図12に示したように、最高速度の約40%以下の速度域において車輪6のロックが生じ易いためであり、高速域と低速域とで閾値ΔVaを切り替えることにより、的確な制動制御を行うことが可能となるからである。また、本実施形態のように、中速域を設けることで、より的確な制動制御が可能となる。速度域をさらに細かく分けることも可能である。
【0059】
次に、本実施形態では、滑走防止制御演算装置2には、各滑走防止装置81~84が各車輪61~64に対する制動力を緩める際の基準となる閾値として、各車輪61~64の各減速率β1~β4についてそれぞれ閾値が設けられており、車両速度Vtが高速域にある場合の閾値βa、中速域にある場合の閾値βb、および低速域にある場合の閾値βcがそれぞれ予め滑走防止制御演算装置2に入力され設定されている。滑走防止制御演算装置2は、前記判定過程で判定した車両速度Vtの速度域に応じて、各車輪61~64の減速率β1~β4が対応する閾値βa、閾値βbまたは閾値βcを超えたか否かをそれぞれ判断する(ステップS3、ステップS4またはステップS5)。
【0060】
各車輪の減速率を監視する理由は、以下のとおりである。つまり、図4(A)~図4(C)に示すように、車両Tにブレーキを掛けて車輪6が滑り始めると、滑り速度ΔVが小さいうちは、車両の滑走状態は前述したストライベック曲線(図9参照)の境界潤滑領域Iにある。しかし、滑り速度ΔVが増加して滑走状態が混合潤滑領域IIに移行すると、減速率βの値が、境界潤滑領域Iにある場合の値の数倍~十数倍に急激に増加する現象が観察される[図4(B)参照]。そのため、各車輪61~64の減速率β1~β4を監視することにより、車両の滑走状態が混合潤滑領域IIに入ったことを把握することができるためである。
【0061】
さらに、各車輪の減速率βの変化率であるJerk[図4(C)参照]を監視することによっても、車両の滑走状態が境界潤滑領域Iにあるか混合潤滑領域IIにあるかを判断することができる。Jerkは、減速率βよりも立ち上がりが早く現れるので、Jerkを監視することにより、より早期に混合潤滑領域に入ったことを把握することができる。
【0062】
本実施形態の滑走防止制御演算装置2は、前述したように、各滑走防止装置81~84が各車輪61~64に対する制動力を緩める際の基準となる閾値として、車両速度Vtの速度域に応じて、減速率βa、βb、βcを有しており、減速率βa、βb、βcは同一の値が設定されている。減速率βa、βb、βcを車両速度Vtの速度域に応じて異なる値に設定することも可能である。また、減速率βa、βb、βcとともに、または減速率βa、βb、βcに代えて、前記jerkについて切り替え可能な閾値Jerka、Jerkb、Jerkcを予め設定しておき、車両速度Vtの速度域に応じて閾値を切り替えるようにすることも可能である。その際、Jerka、Jerkb、Jerkcは同一の値を設定してもよいし、車両速度Vtの速度域に応じて異なる値に設定することも可能である。
【0063】
滑走防止制御演算装置2は、各車輪61~64の減速率β1~β4のいずれか(例えば、車輪62の減速率β2)が対応する閾値βa、閾値βbまたは閾値βcを超えていると判断した場合には、減速率βが閾値を超えていると判断された車輪6(前記例では車輪62)に対応する滑走防止装置8(図2参照)の供給停止弁18に閉信号を、排気弁20に開信号を送り、前記車輪6に対する制動力を緩める(ステップS6、ステップS7またはステップS8)。ここで、図3中の「制御」とは、本発明の鉄道車両用アンチロックブレーキシステム1を作動させることをいい、具体的には、このように閾値を超えてロックしそうな車輪6に対する制動力を緩めることをいう。また、「制御」のステップがない場合には、そのままブレーキを掛け続けるということを意味する。
【0064】
また、滑走防止制御演算装置2は、各車輪61~64の減速率β1~β4が対応する閾値βa、閾値βbまたは閾値βcを超えていないと判断した車輪6(前記例では車輪61、63、64)について、それらの車輪6の滑り速度ΔV(前記例ではΔV1、ΔV3、ΔV4)が、車両速度Vtの速度域に応じて異なる値に予め設定された閾値ΔVa、ΔVbまたはΔVcを超えたか否かを判断する(ステップS9、S10またはS11)。そして、滑走防止制御演算装置2は、滑り速度ΔVが閾値ΔVa等を超えていると判断した車輪6に対して、前記と同様にして制動力を緩める(ステップS12、ステップS13またはステップS14)。また、滑り速度ΔVが閾値ΔVa等を超えていないと判断した車輪6に対しては制動力を緩めず、そのままブレーキを掛け続ける。
【0065】
本実施形態では、前記閾値ΔVa、ΔVb、ΔVcは、車両速度Vtが低速になるに従って各閾値が漸次小さい値になるように、すなわち、ΔVa>ΔVb>ΔVcを満たすように設定されている。閾値をこのように設定することで、図5に示すように、制動時に、車両速度Vtに応じて閾値を切り替えることができる。なお、前述したように、閾値ΔVa等とともに、または閾値ΔVaに代えて、閾値として、車両の速度Vtと車輪の速度Vの差の車両の速度Vtに対する比(α=(Vt-V)/Vt)について閾値αa等を設定することも可能である(図8参照)。その場合も、閾値αa、αb、αcが、車両速度Vtが低速になるに従って各閾値が漸次小さい値になるように、すなわち、αa>αb>αcを満たすような異なる値をとるように設定することにより、制動時に、車両速度Vtに応じて閾値を切り替えることが可能となる。
【0066】
一方、滑走防止制御演算装置2は、前記判別過程で、ブレーキの種別が常用ブレーキ(NB)であると判別すると(図3参照、ステップS1)、次に、ブレーキノッチ指令のブレーキ種別を判別する(ステップS15)。本実施形態では、ブレーキノッチ指令のノッチ数が1~4の場合と5~8の場合とに分け、それぞれ前記各閾値が切り替えられるようになっている。そして、例えば、ブレーキノッチ指令のブレーキ種別において、ノッチ数が5~8のいずれかであると判別されると、以降、非常ブレーキの場合と同様に、車両速度Vtの速度域の判定(ステップS16)、各車輪61~64について減速度β(Jerk)が閾値βd(Jerkd)、閾値βe(Jerke)または閾値βf(Jerkf)を超えたか否かの判断(ステップS17、ステップS18またはステップS19)、および各車輪61~64について滑り速度ΔV(α)が閾値ΔVd(αd)、ΔVe(αe)またはΔVf(αf)を超えたか否かの判断(ステップS20、ステップS21またはステップS22)を行い、それぞれ閾値を超えていると判断された場合には、閾値を超えていると判断した車輪6に対する制動力を緩める(ステップS23~ステップS28)。
【0067】
また、滑走防止制御演算装置2は、前記判別過程で、常用ブレーキ(NB)であると判別し(ステップS1)、ブレーキノッチ指令のノッチ数が1~4のいずれかであると判別すると(ステップS15)、図3では図示を省略したノッチ数が5~8の場合と同様のフローに従ってブレーキの制動力を維持し、或いは緩める。
【0068】
滑走防止制御演算装置2は、ブレーキ制御演算装置3を介してブレーキ設定器4や受信機5からブレーキ信号が入力されている間、図3に示された前記制御過程を繰り返して、車両Tを停止または減速させる。
【0069】
なお、前記滑り速度ΔV等に関する各閾値は、ブレーキ種別について制動力が強くなるに従って前記各閾値が漸次大きな値になるように設定されている。すなわち、例えば、車両速度Vtが高速域にある場合の滑り速度ΔV(α)の閾値では、ブレーキ種別が非常ブレーキである場合の閾値ΔVa(αa)、常用ブレーキでありノッチ数が5~8である場合の閾値ΔVd(αd)、およびノッチ数が1~4である場合の閾値(ここでは閾値ΔVg(αg)という。)の関係がΔVa>ΔVd>ΔVg(αa>αd>αg)を満たすように設定される。減速率β(Jerk)についての閾値βa(Jerka)等に関して同様の関係に設定してもよい。また、本実施形態では、ブレーキノッチ指令のノッチ数を1~4と5~8とで判別する場合(ステップS15)について述べたが、ノッチ数に応じてさらに細かく判別するなど他の判別の仕方であってもよく、その場合も、前記条件に従って閾値が設定される。
【0070】
以上のように、本実施形態の鉄道車両用アンチロックブレーキシステム1および制動制御方法によれば、車輪6を制動するブレーキの種別が、制動距離が限られていて強い制動力が必要な非常ブレーキである場合と、通常の制動を行うため非常ブレーキの場合ほど強い制動力を必要としない常用ブレーキである場合とで区別し、前述したように、ブレーキ種別について制動力が強くなるに従って前記各閾値が漸次大きな値になるように予め構成しておくことで、制動時に入力されるブレーキ種別を判別することにより、自動的に適切な閾値に切り替えることが可能となる。
【0071】
すなわち、非常ブレーキの場合に閾値ΔVa等(αa等)を大きくとることにより、レールRに対する車輪6の滑り速度ΔV(α)が大きな値になるまで車輪6に対する制動力を緩めないため、車輪6に強い制動力を与えることができる。また、常用ブレーキの場合の閾値ΔVd等(αd等)を非常ブレーキの場合の閾値ΔVa等(αa等)より小さな値とすることにより、より小さな滑り速度ΔVで車輪6に対する制動力が緩和され、車輪6やレールRの損耗を確実に防止できる。
【0072】
また、ブレーキノッチ指令のノッチ数が小さくなり、制動力が弱くなると、図4に示した滑り速度ΔVの時間的増大の割合が小さくなる。つまり、非常ブレーキの場合は、ΔVの時間的増大の割合が大きく、常用ブレーキのノッチ数が大きい場合はそれに次いでΔVの時間的増大の割合が大きく、ノッチ数が小さくなるに従ってΔVの時間的増大の割合が小さくなっていく。そのため、その傾向にあわせて閾値ΔVa等を小さい値に予め設定することにより、強い制動力の要請や、車輪やレールの損耗の防止の要請に的確に応えることが可能となる。
【0073】
このようにして、本実施形態の鉄道車両用アンチロックブレーキシステム1および制動制御方法では、ブレーキ種別に応じて適切に制動することが可能となる。さらに常用ブレーキの中でもブレーキノッチ指令のノッチ数に応じて更に細かく判別することにより、大きなノッチ数の場合は閾値も大きく、また小さなノッチ数の場合には閾値を小さく設定することにより、更に的確に制動を行うことができる。
【0074】
また、本実施形態の鉄道車両用アンチロックブレーキシステム1および制動制御方法によれば、検知装置71~74から滑走防止制御演算装置2に入力される速度の測定値に応じて、車両速度Vtが高速域、低速域およびその中間の領域(中速域)にあるそれぞれの場合で閾値が異なる値をとるように構成されており、制動時に、その速度域を判定することにより自動的に閾値を切り替えることができるため、車輪6に制動力を付与するためのブレーキシリンダ圧を高圧に維持してブレーキ性能を保った状態で、効果的に車輪のロックを防止することが可能となる。
【0075】
つまり、図6に示すように、車両速度Vtが高速域にある状態では、滑り速度の閾値ΔVaをより大きな値に設定することで、大きな制動力を得ると同時に、滑走防止装置8によるブレーキシリンダ13の圧抜きの回数を減らすことができ、そのため、ブレーキシリンダ圧が高圧に維持され、設計上の高いブレーキ性能を保つことができる。また、低速域では、滑り速度の閾値ΔVcを予め小さな値に設定することで、図12に示したように、車輪6の低速域でのロックを効果的に防止できる。
【0076】
そのため、レールRや車輪6の滑走による損傷を低減することができ、さらに、ブレーキ性能の安定性を向上させることができる。また、本実施形態のように、車両速度Vtが中速域にある状態で、高速域や低速域の閾値とは異なる値の閾値を用いることにより、車輪6に比較的強い制動力を与えながら、ブレーキシリンダ13の圧抜きの回数を適宜低減することにより、ブレーキシリンダ圧を高圧に維持しつつ、車輪6のロックを有効に防止することが可能となる。
【0077】
また、本実施形態の鉄道車両用アンチロックブレーキシステム1および制動制御方法によれば、滑走防止制御演算装置2が、各車輪61~64の減速率β1~β4やその変化率であるJerk1~Jerk4に対する閾値βaやJerka等を有しているため、車両の滑走状態がストライベック曲線における混合潤滑領域IIに入ったことを的確に把握することが可能となり、滑走状態が混合潤滑領域IIに入った時点で、車輪6に対する制動力を自動的に緩めることができる。また、滑走状態を混合潤滑領域IIから境界潤滑領域Iに引き戻すことが可能となるため、車輪6のロックを確実に防止することができ、設計上のブレーキ性能を安定して発揮できると同時に、非常ブレーキの場合には制動距離が短くなる。
【0078】
このように、滑走状態を混合潤滑領域IIから境界潤滑領域Iに的確に引き戻すことにより、車両の脱線を有効に防止することも可能となる。例えば、雨が降って脱線係数(いわゆるQ/P比。この場合、Qは横圧、Pは輪重)が小さくなり、車輪6の滑走状態が混合潤滑領域IIに入った状態で、車両Tがカーブに差し掛かると、車輪6が滑り、レールRとの摩擦力の大部分が横方向の力、すなわち横圧Qにとられてしまい、脱線し易くなる。しかし、本実施形態の鉄道車両用アンチロックブレーキシステム1および制動制御方法を用いて、車両Tの滑走状態を水膜上で滑っている混合潤滑領域IIからレールと車輪が金属接触する境界潤滑領域Iに引き戻すことにより、前記横圧Qを効果的に低減させることができ、車輪6の脱線を有効に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の鉄道車両用アンチロックブレーキシステムが適用された鉄道車両に係る実施形態を示す模式図である。
【図2】制動力発生装置および滑走防止装置の構造を概略的に説明する模式図である。
【図3】本実施形態の制動制御方法における処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】滑走状態が混合潤滑領域に入った場合の車両の速度(A)、減速率(B)およびJerk(C)が変化する状態を表すグラフである。
【図5】本実施形態の車両の各速度域における閾値の変化と制御方法を示す図である。
【図6】本実施形態の鉄道車両用アンチロックブレーキシステムを用いた制動制御における車輪の速度の変化を示すグラフである。
【図7】一般的なアンチロックブレーキシステムを用いた場合の車輪の速度変化を示すグラフである。
【図8】鉄道車両における一般的な閾値の取り方を示す図である。
【図9】ストライベック曲線を表すグラフである。
【図10】車輪やレールの表面粗さと水膜厚さとの関係を表す模式図である。
【図11】閾値ΔVaを小さくとった場合の車輪の速度変化を示すグラフである。
【図12】閾値ΔVaを大きくとった場合の車輪の速度変化と車輪のロックを示すグラフである。
【符号の説明】
【0080】
1 鉄道車両用アンチロックブレーキシステム
2 滑走防止制御演算装置
3 ブレーキ制御演算装置
4 ブレーキ設定器
6 車輪
7 検知装置
8 滑走防止装置
9 制動力発生装置
10 ブレーキ制御装置
Jerk 減速度の変化率
Jerka、Jerkb、Jerkc 変化率に対する閾値
T 鉄道車両
V 車輪の速度
Vt 車両の速度
αa、αb、αc 差の車両の速度に対する比に対する閾値
β 減速
βa、βb、βc 減速度に対する閾値
ΔVa、ΔVb、ΔVc 車両の速度および車輪の速度との差に対する閾値
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11