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明細書 :電動機制御装置及び車両

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4533671号 (P4533671)
公開番号 特開2005-348528 (P2005-348528A)
登録日 平成22年6月18日(2010.6.18)
発行日 平成22年9月1日(2010.9.1)
公開日 平成17年12月15日(2005.12.15)
発明の名称または考案の名称 電動機制御装置及び車両
国際特許分類 H02P  21/00        (2006.01)
H02P  27/04        (2006.01)
B60L   9/18        (2006.01)
H01M   8/00        (2006.01)
H01M   8/04        (2006.01)
H01M   8/10        (2006.01)
FI H02P 5/408 A
B60L 9/18 A
H01M 8/00 Z
H01M 8/04 P
H01M 8/10
請求項の数または発明の数 5
全頁数 14
出願番号 特願2004-165666 (P2004-165666)
出願日 平成16年6月3日(2004.6.3)
審査請求日 平成18年7月21日(2006.7.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】古谷 勇真
【氏名】近藤 圭一郎
【氏名】山本 貴光
個別代理人の代理人 【識別番号】100090033、【弁理士】、【氏名又は名称】荒船 博司
【識別番号】100093045、【弁理士】、【氏名又は名称】荒船 良男
審査官 【審査官】山村 和人
参考文献・文献 特開2001-197799(JP,A)
特開2002-238298(JP,A)
特開2004-129483(JP,A)
特開平02-040025(JP,A)
特開2000-221207(JP,A)
特開平06-217579(JP,A)
特開2003-102105(JP,A)
特開2003-059517(JP,A)
特開平05-198309(JP,A)
調査した分野 H02P 6/00 - 6/24
21/00 - 27/18
B60L 9/18
H01M 8/00
特許請求の範囲 【請求項1】
燃料電池の直流出力を交流に変換して電動機に出力するインバータと、
所与の指令信号に従って前記インバータを制御する制御装置と、
前記電動機の回転速度を検出する速度検出手段と、
を備え
前記制御装置は、前記燃料電池からの出力電力が直接前記インバータに入力されて前記電動機に供給される主回路システムにおける前記電動機の駆動中に発生する電気的な振動現象であって、前記燃料電池本体の周囲温度又は前記燃料電池の酸素極に送り込まれる入気空気温度(以下包括して「燃料電池の温度」という。)の変化によっ前記燃料電池の出力電圧、出力電流及び出力電力の何れか(以下包括して「燃料電池の出力諸量」という。)が10Hz以下で振動する振動現象の、当該振動周波数成分を抽出するために遮断周波数が設定された二次の位相進み演算処理を当該燃料電池の出力諸量に基づき実行して得られる補償値をもとに前記指令信号を補償することで前記指令信号に対して二次の位相進み補償を施す進み補償手段を有し、この進み補償手段により補償された信号に従って前記インバータを制御
更に、前記進み補償手段が、前記速度検出手段により検出された回転速度が所定の閾値以上の場合に、当該回転速度が大きい程、前記進み補償を施す程度を大きくさせるゲイン変更手段を有する、
電動機制御装置。
【請求項2】
所与の指令信号に従って燃料電池の直流出力を交流へ変換して電動機へ出力するインバータと、
前記指令信号を生成して前記インバータを制御する制御装置と、
前記電動機の回転速度を検出する速度検出手段と、
を備え
前記制御装置は、前記燃料電池からの出力電力が直接前記インバータに入力されて前記電動機に供給される主回路システムにおける前記電動機の駆動中に発生する電気的な振動現象であって、前記燃料電池の温度の変化によっ前記燃料電池の出力諸量が10Hz以下で振動する振動現象の、当該振動周波数成分を抽出するために遮断周波数が設定された二次の位相進み演算処理を当該燃料電池の出力諸量に基づき実行して得られる補償値をもとに前記指令信号を補償することで前記指令信号に対して二次の位相進み補償を施す進み補償手段を有
更に、前記進み補償手段が、前記速度検出手段により検出された回転速度が所定の閾値以上の場合に、当該回転速度が大きい程、前記進み補償を施す程度を大きくさせるゲイン変更手段を有する、
電動機制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電動機制御装置であって、
前記指令信号には、前記電動機を駆動するための指令信号として少なくともd軸指令信号とq軸指令信号とが含まれ、
前記進み補償手段は、前記指令信号に含まれるq軸指令信号に対して前記二次の位相進み補償を施す、
電動機制御装置。
【請求項4】
請求項1~の何れか一項に記載の電動機制御装置であって、
前記電動機は車両走行用の電動機であり、当該電動機を制御することを特徴とする電動機制御装置。
【請求項5】
車両走行用の電動機と、
燃料電池と、
前記燃料電池の直流出力を交流へ変換して前記電動機に出力する制御を行う請求項1~の何れか一項に記載の電動機制御装置と、
を具備した車両。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を駆動電源として電動機を駆動制御する電動機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機は、例えば電気車や工作機械、製造設備、リフト類、ファン・ポンプといった種々の機械装置の動力源として用いられているが、近年では、環境負荷が小さく且つ高エネルギ効率が期待される燃料電池を駆動電源とする電動機制御の研究・開発が盛んに行われている。
【0003】
ところで、燃料電池は直流電源であることから、例えばインバータ等で燃料電池の直流出力を交流に変換して電動機に供給する必要があるが、かかる技術として、例えば次が知られている。特許文献1には、燃料電池本体とインバータとの間に複数の直流負荷抵抗を接続するが、燃料電池本体の出力電圧に基づいてその直流負荷抵抗の投入数を可変とすることで、過渡的な直流過電圧の抑制機能を実現する燃料電池発電装置が開示されている。また、特許文献2には、外気より取り込んだ空気を燃料電池の酸素極に供給するブロアに対して、燃料電池の電力負荷変動に対応した適正空気風量を発生させることで、空気ブロアの無駄な消費電力を抑えて総合的な発電効率の向上を図った燃料電池システムが開示されている。

【特許文献1】特開平9-306530号公報
【特許文献2】特開平7-211336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池を電動機の駆動電源として用いるためには、燃料電池を駆動システムに適用した場合の特性を把握し、把握した特性に適合したインバータ・電動機等から成る主回路システムを構築する必要がある。そこで、本願出願人が、燃料電池を電気車の一種である鉄道車両(電車)の駆動システムに適用した場合の特性を把握するため、燃料電池、誘導電動機を駆動するVVVFインバータ装置及び制御装置等から成る試験用主回路システムにて誘導電動機駆動試験を行ったところ、燃料電池の温度(詳細には、燃料電池本体の周囲温度や酸素極への入気空気温度等)が低下すると、燃料電池の出力諸量(電圧/電流/電力)に数[Hz]の振動が生じ、これによって電動機制御系全体に電気的な振動が発生することが判明した。電動機制御系に電気的な振動が発生すると、これによって、騒音や機械的な振動、過電流による機器損傷等が生じる恐れがある。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は、燃料電池の特性に適した電動機制御、詳細には燃料電池の温度低下によって電動機制御系に発生する振動の抑制が可能な電動機制御を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、第1の発明は、
電気車を駆動する電動機(例えば、図1の誘導電動機30)と、
燃料電池(例えば、図1の燃料電池システム10)と、
前記燃料電池の直流出力を交流に変換して前記電動機に出力するインバータ(例えば、図1のインバータ20)と、
所与の指令信号(例えば、実施形態のq軸電流指令Iq*)に従って前記インバータを制御する制御装置(例えば、図1の制御システム50)と、
を備えた電動機制御装置において、
前記制御装置は、前記所与の指令信号に前記燃料電池出力に基づく所定の進み補償を施す進み補償手段(例えば、図3の位相進み補償器59)を有し、この進み補償手段により補償された信号に従って前記インバータを制御する、
ことを特徴とする電動機制御装置である。
【0007】
この第1の発明によれば、電動機と、燃料電池と、燃料電池の直流出力を交流に変換して電動機に出力するインバータと、所与の指令信号に従ってインバータを制御する制御装置とを備えた電動機制御装置において、制御装置が、インバータを、所与の指令信号に燃料電池出力に基づく所定の進み補償を施して補償した信号に従って制御することができる。従って、上述した燃料電池の温度低下によって電動機制御系に発生する振動現象は、燃料電池の出力電圧が出力電流に比べて遅れる、即ち燃料電池の出力電圧から出力電流までが遅れ系となることに起因すると推定されるが、所定の進み補償として例えば二次の位相進み補償を行うことで、この電動機制御系に発生する振動現象を抑制することが可能となる。
【0008】
第2の発明は、
電動機と、
燃料電池と、
所与の出力指令信号に従って前記燃料電池の直流出力を交流へ変換して前記電動機へ出力するインバータと、
前記出力指令信号を生成して前記インバータを制御する制御装置と、
を備えた電動機制御装置において、
前記制御装置は、前記出力指令信号に前記燃料電池出力に基づく所定の進み補償を施す進み補償手段を有する、
ことを特徴とする電動機制御装置である。
【0009】
この第2の発明によれば、電動機制御装置と、燃料電池と、燃料電池の直流出力を交流に変換して電動機に出力するインバータと、出力指令信号を生成してインバータを制御する制御装置とを備えた電動機制御装置において、制御装置が、生成した出力指令信号に燃料電池出力に基づく所定の進み補償を施すことができる。即ち、インバータは、生成された出力指令信号に所定の進み補償を施した信号に従って制御されることになる。従って、上述した燃料電池の温度低下によって電動機制御系に発生する振動現象は、燃料電池の出力電圧が出力電流に比べて遅れる、即ち燃料電池の出力電圧から出力電流までが遅れ系となることに起因すると推定されるが、所定の進み補償として例えば二次の位相進み補償を行うことで、この電動機制御系に発生する振動現象を抑制することが可能となる。
【0010】
また、第3の発明のように、第1又は2の発明の電動機制御装置において、
前記電動機への流入電力を検出する電力検出手段を更に備え、
前記進み補償手段は、前記電力検出手段により検出された電力が大きい程前記進み補償を施す程度を大きくさせるゲイン変更手段を有する、
こととしても良い。
【0011】
この第3の発明によれば、第1又は2の発明と同様の効果を奏するとともに、電動機への流入電力が大きい程、進み補償を施す程度を大きくすることができる。
【0012】
また、第4の発明のように、第1又は2の発明の電動機制御装置において、
前記電動機の回転速度を検出する速度検出手段を更に備え、
前記進み補償手段は、前記速度検出手段により検出された回転速度が大きい程前記進み補償を施す程度を大きくさせるゲイン変更手段を有する、
こととしても良い。
【0013】
この第4の発明によれば、第1又は2の発明と同様の効果を奏するとともに、電動機の回転速度が大きい程、進み補償を施す程度を大きくすることができる。尚ここで、速度検出手段としては、速度センサを取り付けることで回転速度を直接に検出することとしても良いし、また、公知の速度センサレスベクトル制御で用いられる速度推定と同様な方法を用いることで推定することとしても良い。
【0014】
第5の発明は、
電動機と、
燃料電池と、
前記燃料電池の直流出力を交流に変換して前記電動機に出力するインバータと、
前記インバータを制御する制御装置と、
を備えた電動機制御装置において、
前記燃料電池出力に所定の振動現象が発生しているか否かを検出する振動検出手段を更に備え、
前記制御装置は、前記振動検出手段により振動現象の発生が検出された場合に、前記電動機への出力電力を低減させるように前記インバータを制御する出力電力低減制御手段を有する、
ことを特徴とする電動機制御装置である。
【0015】
この第5の発明によれば、電動機と、燃料電池と、燃料電池の直流出力を交流に変換して電動機に出力するインバータと、インバータを制御する制御装置とを備えた電動機制御装置において、制御装置が、燃料電池出力に所定の振動現象が発生していることが検出された場合に、電動機への出力電力を低減させるようにインバータを制御することができる。
【0016】
上述した燃料電池の温度低下によって電動機制御系に発生する振動現象は、燃料電池の出力電圧が出力電流に比べて遅れる、即ち燃料電池の出力電圧から出力電流までが遅れ系となることに起因すると推定される。従って、電動機として誘導電動機を用いる場合、誘導電動機には、消費電力が少ない場合には燃料電池の出力電流が遅れていても振動現象が発生しない特性があるため、燃料電池出力に所定の振動現象が発生した場合に電動機への出力電力を低減させる、即ち消費電力を低減させるように制御することで、電動機制御系に発生する振動現象を抑制することが可能となる。
【0017】
第6の発明は、
電動機と、
燃料電池と、
前記燃料電池の直流出力を交流に変換して前記電動機に出力するインバータと、
前記インバータを制御する制御装置と、
を備えた電動機制御装置において、
前記インバータ出力に所定の振動現象が発生しているか否かを検出する振動検出手段を更に備え、
前記制御装置は、前記振動検出手段により振動現象の発生が検出された場合に、前記電動機への出力電力を低減させるように前記インバータを制御する出力電力低減制御手段を有する、
ことを特徴とする電動機制御装置である。
【0018】
この第6の発明によれば、電動機と、燃料電池と、燃料電池の直流出力を交流に変換して電動機に出力するインバータと、インバータを制御する制御装置とを備えた電動機制御装置において、インバータ出力に所定の振動現象が発生していることが検出された場合に、電動機への出力電力を低減させるようにインバータを制御することができる。
【0019】
上述した燃料電池の温度低下によって電動機制御系に発生する振動現象は、燃料電池の出力電圧が出力電流に比べて遅れる、即ち燃料電池の出力電圧から出力電流までが遅れ系となることに起因すると推定される。従って、電動機として誘導電動機を用いる場合、誘導電動機には、消費電力が少ない場合には燃料電池の出力電流が遅れていても振動現象が発生しない特性があるため、インバータ出力に所定の振動現象が発生した場合に電動機への出力電力を低減させる、即ち消費電力を低減させるように制御することで、電動機制御系に発生する振動現象を抑制することが可能となる。
【0020】
また、第7の発明のように、第5又は6の発明の電動機制御装置において、
前記燃料電池の周囲温度を計測する温度計測手段を更に備え、
前記振動検出手段は、前記温度計測手段により計測された温度が所定閾値以下又は所定閾値未満であった場合に前記振動現象が発生していると推定する推定手段を有する、
こととしても良い。
【0021】
この第7の発明によれば、第5又は6の発明と同様の効果を奏するとともに、燃料電池の周囲温度が所定閾値以下/未満であった場合に振動現象が発生していると推定することができる。
【0022】
また、第8の発明のように、第5~7の何れかの発明の電動機制御装置において、
前記電動機への流入電力を検出する電力検出手段を更に備え、
前記出力電力低減制御手段は、前記電力検出手段により検出された電力が大きい程出力電力の低減量を大きくさせる低減量制御手段を有する、
こととしても良い。
【0023】
この第8の発明によれば、第5~7の発明と同様の効果を奏するとともに、電動機への流入電力が大きい程、電動機への出力電力の低減量を大きくさせることができる。即ち、電動機への流入電力が大きい程、電動機制御系により大きな振動現象が発生すると予測されるため、電動機の消費電力の低減量を大きくさせるように制御することで、電動機制御系に発生する振動現象をより効果的に抑制することが可能となる。
【0024】
また、第9の発明のように、第5~7の何れかの発明の電動機制御装置において、
前記電動機の回転速度を検出する速度検出手段を更に備え、
前記出力電力低減制御手段は、前記速度検出手段により検出された回転速度が大きい程出力電力の低減量を大きくさせる低減量制御手段を有する、
こととしても良い。
【0025】
この第9の発明によれば、第5~7の発明と同様の効果を奏するとともに、電動機の回転速度が大きい程、電動機への出力電力の低減量を大きくさせることができる。電動機の回転速度が大きい程、電動機制御系により大きな振動現象が発生すると予測されるため、、電動機の電動機の消費電力の低減量を大きくさせるように制御することで、電動機制御系に発生する振動現象をより効果的に抑制することが可能となる。
【0026】
また、第10の発明のように、第1~9の何れかの発明の電動機制御装置において、
前記電動機は電気車を駆動する電動機であり、当該電気車の電動機を制御することとしても良い。
【0027】
ここで、「電気車」とは、電気動力(主に、電動機の回転力)によって走行する車両のことであり、例えば電車や電気自動車である。この第10の発明によれば、燃料電池を駆動電源として駆動される電気車において、第1~9の何れかの発明と同様の効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、燃料電池の温度低下によって電動機制御系に発生する振動の抑制が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を説明する。尚、以下では、本発明を、電気車の一種である電車に適用した場合について説明するが、本発明の適用がこれに限定されるものではない。
【0030】
[振動抑制の原理]
上述のように、燃料電池で駆動される鉄道車両(電車)等の電動機制御系では、燃料電池温度が低下すると、燃料電池出力(電圧/電流/電力)に電気的な振動現象が発生し、これによって電動機制御系全体に電気的な振動が生じることが判明した。これは、燃料電池温度が低下した際に生じる現象であることから、燃料電池の特性に起因するものと推定される。つまり、燃料電池の出力電流が出力電圧に比べて遅れる、即ち出力電流から出力電圧までの伝達関数が遅れ要素をもつことで生じる現象であると推測される。そこで、本実施形態では、電動機制御系に二次の位相進み補償(いわゆる、ダンピング補償)を付加することで制御系全体に生じる振動現象を抑制する。
【0031】
[主回路構成]
図1は、本実施形態における鉄道車両を駆動する主回路システムの概略構成を示すブロック図である。主回路システムは燃料電池を動力源としてVVVFインバータ装置で誘導電動機を駆動するものであり、主に、燃料電池システム10と、インバータ20と、誘導電動機30と、制御システム50と、を備えて構成される。
【0032】
燃料電池システム10は、化学エネルギを電気エネルギに変換して直流電力を発生する燃料電池から構成される。本実施形態では、電気自動車や定置型電源装置への応用が多く見られ、実用性が高いと考えられている固体高分子型燃料電池(PEMFC)により実現される。燃料電池システム10による発生電力は、インバータ20に供給される。
【0033】
図2に、PEMFCの原理図を示す。同図に示すように、PEMFCは、電解質として固体高分子膜を用いており、燃料極には加圧した純水素が、酸素極には加圧した空気が送り込まれる。燃料極においては、電気化学反応式(1a)に示すように、燃料極の触媒作用により水素が水素イオンH+と電子e-とに分離される。水素イオンH+は、固体高分子電解質膜を通過して酸素極に到達し、電子e-は燃料極により取り出されて外部回路へと供給される。酸素極においては、電気化学反応式(1b)に示すように、外部回路から酸素極に供給される電子e-と、空気中の酸素O2と、固体高分子電解質膜を通過して到達した水素イオンH+とが反応して水が生成される。
【数1】
JP0004533671B2_000002t.gif

【0034】
尚ここで、燃料電池システム10の温度とは、燃料電池本体の周囲温度若しくは燃料電池の酸素極に送り込まれる入気空気温度を意味することとする。
【0035】
インバータ20は、例えばIGBT等の半導体スイッチング素子から成る。インバータ20は、制御システム50から入力される制御信号に従ってスイッチング駆動され、燃料電池システム10から供給される直流電力を可変電圧/可変周波数の三相交流電力に変換して誘導電動機30に供給する。
【0036】
誘導電動機30は、インバータ20から供給される三相交流電力によって車軸(不図示)を回転駆動する主電動機(メインモータ)であり、本実施形態では3相交流誘導電動機で実現される。
【0037】
制御システム50は、パルスジェネレータ40で検出された誘導電動機30のロータ周波数、電流センサ32a、32bによって検出された誘導電動機30への流入電流(即ち、インバータ20からの供給電流)、及び、燃料電池システム10の出力電圧(詳細には、燃料電池システム10とインバータ20との間に接続されたフィルタコンデンサCFの両端電圧)VFCに基づいてインバータ20を制御する。具体的には、制御システム50は、燃料電池システム10の起動後、ある速度までは一定電流で駆動する定トルク制御を行い、変調率が最大値に達した後は、d軸電流指令をインバータ周波数の(-1)乗で低減する弱め磁束制御(弱め界磁制御)を行う。
【0038】
図3に、制御システム50の一例として、すべり周波数形ベクトル制御を行う場合のブロック構成図を示す。同図によれば、制御システム50は、主に、電流指令演算部51と、加算器52a、52bと、電流制御器(ACR)53と、PWM制御回路54と、すべり周波数演算部56と、積分器57と、座標変換器58と、位相進み補償器59と、を備える。
【0039】
F/V変換器55は、パルスジェネレータ40により検出された誘導電動機30の回転数をロータ周波数ωrに変換して出力する。
【0040】
電流指令演算部51は、F/V変換器55から入力されたロータ周波数ωrに基づき、誘導電動機30を駆動するための電流指令としてd軸電流指令Id*及びq軸電流指令Iq0*を演算して出力する。
加算器52aは、電流指令演算部51から入力されたq軸電流指令Iq0*に、位相進み補償器59から入力されたq軸電流補正指令Iqdmp*を加算して補正し、q軸電流指令Iq*として出力する。
【0041】
すべり周波数演算部56は、電流指令演算部51から入力されたd軸電流指令Id*及び加算器52aから入力されたq軸電流指令Iq*に基づいてすべり周波数ωsを算出する。
加算器52bは、すべり周波数演算部56から入力されたすべり周波数ωsと、F/V変換器55から入力されたロータ周波数ωrとを加算し、一次周波数(インバータ周波数)ω1として出力する。
積分器57は、加算器52bから入力された一次周波数ω1を時間積分し、誘導電動機30の回転子角度θ1として出力する。
【0042】
座標変換器58は、電流センサ32a、32bによって検出された誘導電動機30のU相電流Iu及びV相電流Ivを、積分器57から入力された回転子角度θ1に基づいてdq軸座標変換し、d軸成分であるd軸検出電流(励磁検出電流)Idと、q軸成分であるq軸検出電流(トルク検出電流)Iqとに変換して出力する。尚、dq軸座標とは、インバータ20の一次周波数と同一角速度で回転する回転座標系のことである。また、Iu、IvからId、Iqへの変換式としては、例えば次式が知られている。
【数2】
JP0004533671B2_000003t.gif

【0043】
電流制御器53は、電流指令演算部51から入力されたd軸電流指令Id*と、加算器52aから入力されたq軸電流指令Iq*と、座標変換器58から入力された検出電流Id、Iqとから、次式(3)に従って電圧指令Vd*、Vq*を演算する。
【数3】
JP0004533671B2_000004t.gif

【0044】
式(3)において、Φfは誘導電動機30の界磁磁束である。また、CPId(s)及びCPIq(s)は、それぞれd軸電流指令Id*及びq軸電流指令Iq*のPI補償器を表し、HDCd(s)及びHDCq(s)は、それぞれd軸電流指令Id*及びq軸電流指令Iq*の非干渉化補償項を表す。即ち、電流制御器53は、電流指令Id*、Iq*と検出電流Id、Iqとの偏差がゼロとなるようにフィードバック制御を行うとともに、電流指令Id*、Iq*を用いてdq軸間の干渉を除去する非干渉化補償を行って電圧指令Vd*、Vq*を演算している。
【0045】
PWM制御回路54は、電流制御器53から入力された電圧指令Vd*、Vq*を、積分器57から入力された回転子角度θ1に基づいて三相の電圧指令VU*、VU*、VW*に変換する。そして、変換した電圧指令VU*、VV*、VW*に基づいてインバータ20のスイッチング素子をオン/オフするためのPWM制御信号を生成し、インバータ20に出力する。
【0046】
位相進み補償器59は、燃料電池の温度低下により電動機制御系に発生する電気的な振動現象を抑制するために挿入される補償器であり、次式(4)に示す伝達関数Gd(s)を有する。そして、位相進み補償器59は、電圧センサ(不図示)によって検出された燃料電池システム10の出力電圧VFCに基づく二次の位相進み演算を行ってq軸電流補正指令Iqdmp*を演算する。算出したq軸電流補正指令Iqdmp*は、加算器52aにてq軸電流指令Iq0*に加算される。
【数4】
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【0047】
式(4)に示すように、位相進み補償器59は、2段の一次微分要素59a、59bと比例要素59cとの直列結合から成る。この伝達関数Gd(s)の比例ゲインKdmpや時定数TD1、TD2等が設計事項であり、これを適当に調整することで、制御系の仕様に合った適切なq軸電流指令補正Iqdmp*を得ることができる。尚、各一次微分要素の時定数TD1、TD2は、通常、同一値に設定される。
【0048】
また、一次微分要素59a、59bは高周波成分のみを通過させるハイパスフィルタであるので、出力電圧VFCの振動成分(燃料電池の温度低下によって発生する振動成分)のみが抽出されるように遮断周波数(カットオフ周波数)を適当に設定する、即ち伝達関数Gd(s)のゲイン等を適当に設定することで、出力電圧VFCに電気的な振動現象が発生している場合のみ、位相進み補償器59から出力される電流補正指令Iqdmp*に値を持たせ、位相進み補償器59による補償を有効とすることができる。
【0049】
[試験結果]
続いて、上述した主回路システムを用いた1つの試験結果を開示し、燃料電池システム10の温度低下によって電動機制御系に生じる電気的な振動現象の抑制として、位相進み補償器59による二次の位相進み補償が有効であることを説明する。
【0050】
図4、5は、燃料電池システム10の温度を通常温度よりも低下させて誘導電動機30を駆動した場合の試験結果を示す図であり、燃料電池システム10の起動時(誘導電動機30の駆動開始時)から定トルク制御を行っている間(加速時)の試験結果を示している。図4は、位相進み補償器59を挿入しない(補償を行わない)場合の試験結果を示し、同図(b)は、位相進み補償器59を挿入した(補償を行った)場合の試験結果を示している。また、両図ともに、横軸を共通な時間軸として、上から順に、(a)燃料電池システム10の出力電圧VFC、(b)出力電流IFC、(c)d軸電流指令Id*及びd軸検出電流Id、(d)q軸電流指令Iq*及びd軸検出電流Iq、(e)すべり周波数ωs及びロータ周波数ωr、(f)燃料電池システム10の出力電力PFC、を示している。
【0051】
図4に示す位相進み補償器59による補償無しの場合と、図5に示す補償有りの場合とを比較すると、補償有りの場合には、補償無しの場合と比較して各信号の振動が抑制されていることがわかる。特に、燃料電池システム10の出力電圧VFC(a)、出力電流IFC(b)、q軸検出電流Iq(d)、及び、燃料電池システム10の出力電力PFC(f)それぞれについて、振動が大幅に抑制されていることがわかる。このように、燃料電池システム10の温度低下によって電動機制御系に発生する振動現象の抑制方法として、位相進み補償器59による二次の位相進み補償が有効であるといえる。
【0052】
[作用・効果]
以上のように、本実施形態の制御システム50による電動機制御系では、位相進み補償器59により、燃料電池システム10の出力電圧VFCに二次の位相進み補償を施してq軸電流補正指令Iqdmp*を生成し、生成したq軸電流補正指令Iqdmp*を、電流指令演算部51によって演算されたq軸電流指令Iq0*に加算して補正している。そして、電流指令演算部51により演算されたd軸電流指令Id*と、補正したq軸電流指令Iq*とに基づいて電圧指令Vd*、Vq*を生成し、生成した電圧指令Vd*、Vq*に従ってインバータ20をPWM制御している。従って、燃料電池の温度低下によって電動機制御系に発生する振動現象は、燃料電池の出力電圧が出力電流に比べて遅れる、即ち燃料電池の出力電圧から出力電流までが遅れ系となることに起因すると推定されるが、燃料電池システム10の出力電圧VFCに対して二次の位相進み補償を行うことで、この電動機制御系に発生する振動現象を抑制することが可能となる。
【0053】
[変形例]
尚、本発明の適用は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0054】
(A)検出値
例えば、上述した実施形態では、燃料電池システム10の出力電圧VFCを検出し、これを位相進み補償器59に入力してq軸電流補正指令Iqdmp*を演算することとしたが、検出値を、出力電圧VFCに代えて、(a)燃料電池システム10の出力電流IFC(若しくは、フィルタコンデンサCFに流れる電流)、(b)燃料電池システム10の出力電力PFC、(c)インバータ20の出力電圧(若しくは、誘導電動機30への入力電圧)、(d)インバータ20の出力電流(若しくは、誘導電動機30への入力電流)、(e)インバータ20の出力電力(若しくは、誘導電動機30への入力電力)、の何れかを検出(或いは演算)し、これを位相進み補償器59に入力してq軸電流補正指令Iqdmp*を演算することとしても良い。尚この場合には、勿論、比例ゲインKや時定数T等を適切に設定する必要がある。また、(a)燃料電池システム10の出力電流IFCは、燃料電池システム10の出力電圧VFCを微分することで算出しても良い。
【0055】
(B)補正対象
また、上述した実施形態では、位相進み補償器59によって演算されたq軸電流補正指令Iqdmp*をq軸電流指令Iq*に加算して補正することとしたが、補正対象を、q軸電流指令Iq*に代えて、(a)q軸電圧指令Vq*、(b)1次周波数ω1若しくは回転子角度θ1、の何れかに加算して補正することとしても良い。尚この場合にも、比例ゲインKや時定数T等を適切に設定する必要がある。
【0056】
(C)q軸電流補正指令Iqdmp*の調整
また、位相進み補償器59から出力される補正値Iqdmp*に、誘導電動機30の消費電力又は回転速度に応じたゲインを乗じることでその値を調整し、高速・大出力時にのみ補償が有効となるようにしても良い。具体的には、例えば消費電力又は回転速度が所定の閾値未満なら「0~1」のゲインを乗じ、閾値以上であるならば、消費電力又は回転速度が大きくなる程、より大きなゲインを乗じる。
【0057】
尚ここで、誘導電動機30の回転速度は、例えばパルスジェネレータ等の速度センサによって直接検出しても良いし、公知の速度センサレスベクトル制御で用いられる推定方法(誘導電動機30の出力電圧/電流や定数等から演算する方法)によって得ることとしても良い。
【0058】
(D)補償の方法
また、上述した実施形態では、検出値(燃料電池システム10の出力電圧VFC)を位相進み補償器59に入力して二次の位相進み演算を行うことでq軸電流補正指令Iqdmp*を演算し、これを操作対象(q軸電流指令Iq*)に加算して補正することとしたが、これを次のようにしても良い。即ち、(1)電動機制御系に振動現象が発生したか否かを検出し、(2)発生したならば振動を抑制する制御を行う、こととする。
【0059】
ここで、(1)振動現象の検出、としては次の方法がある。即ち、(a)燃料電池システム10の出力(電圧/電流/電力)又はインバータ20の出力(電圧/電流/電力)から、例えば所定のフィルタを通すことで振動成分(燃料電池システム10の温度低下によって発生する振動成分)を抽出する。そして、ある程度以上の振動成分が検出されたならば、振動現象が発生していると判断する。又は、(b)燃料電池システム10の温度、即ち燃料電池システム10の周囲温度若しくは燃料電池の酸素極に送り込まれる入気空気の温度を計測する。そして、計測温度が電動機制御系に振動現象が発生すると推定される所定の温度以下/未満であるならば、発生していると判断する。
【0060】
また、(2)振動抑制、としては、インバータ20から誘導電動機30への出力電圧/電流を、例えば段階的に落とすことで消費電力を制限し、電動機制御系に発生する振動現象を抑制する方法が有る。これは、誘導電動機30は、消費電力がある程度低い(小さい)場合には、燃料電池システム10の出力電流IFCが出力電圧VFCに比べて遅れていても振動現象が発生しない特性を持っているからである。
【0061】
(E)適用対象
更に、上述した実施形態では、本発明を電車に適用した場合を説明したが、その他の電気車、例えば電気自動車についても同様に適用可能であるのは勿論である。電気車とは、電車や電気自動車等の電気力(主に、電動機の回転力)によって走行する車両のことである。また、本発明は、電気車に限らず、電動機を動力源とする機械装置、例えば工作機械や製造設備、リフト類、ファン・ポンプ等にも同様に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】主回路システムの構成図。
【図2】固体高分子型燃料電池(PEMFC)の原理図。
【図3】制御システムによる電動機制御系のブロック構成図。
【図4】位相進み補償器による補償無しの場合の試験結果の一例。
【図5】位相進み補償器による補償有りの場合の試験結果の一例。
【符号の説明】
【0063】
10 燃料電池システム
20 インバータ(INV)
30 誘導電動機(IM)
40 パルスジェネレータ(PG)
50 制御システム
51 電流指令演算部
52 加算器
53 電流制御器(ACR)
54 PWM制御回路
55 F/V変換器
56 すべり周波数演算部
57 積分器
58 座標変換器
59 位相進み補償器
FC 燃料電池システムの出力電圧
FC 燃料電池システムの出力電流
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4