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明細書 :酸化物超電導体の製造方法及び酸化物超電導体とその前駆体支持用基材

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4174332号 (P4174332)
公開番号 特開2004-262673 (P2004-262673A)
登録日 平成20年8月22日(2008.8.22)
発行日 平成20年10月29日(2008.10.29)
公開日 平成16年9月24日(2004.9.24)
発明の名称または考案の名称 酸化物超電導体の製造方法及び酸化物超電導体とその前駆体支持用基材
国際特許分類 C01G   3/00        (2006.01)
C01G   1/00        (2006.01)
C04B  35/653       (2006.01)
H01B  12/06        (2006.01)
H01B  13/00        (2006.01)
FI C01G 3/00
C01G 1/00 S
C04B 35/60 B
H01B 12/06 ZAA
H01B 13/00 565D
請求項の数または発明の数 16
全頁数 16
出願番号 特願2003-015208 (P2003-015208)
出願日 平成15年1月23日(2003.1.23)
審査請求日 平成17年5月6日(2005.5.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391004481
【氏名又は名称】財団法人国際超電導産業技術研究センター
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】松井 元英
【氏名】村上 雅人
個別代理人の代理人 【識別番号】100064908、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 正武
【識別番号】100089037、【弁理士】、【氏名又は名称】渡邊 隆
審査官 【審査官】廣野 知子
参考文献・文献 特開平09-306256(JP,A)
特開平09-255335(JP,A)
調査した分野 C01G 1/00ー57/00
H01B 13/00
H01L 39/24
特許請求の範囲 【請求項1】
RE-Ba-Cu-O7-x系(REは希土類元素を示す)の酸化物超電導体の前駆体を半溶融凝固せしめて酸化物超電導体を製造する方法において、半溶融中の前駆体に対して溶解可能な化合物または純金属からなる基材の上に前記前駆体を設置し、この状態から前記前駆体を半溶融凝固せしめて酸化物超電導体を製造することを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。
【請求項2】
前記基材として、半溶融中の前駆体に対して均一に溶解可能であり、酸化物超電導体中に、酸化物超電導体との熱膨張率差に起因する応力集中クラックを生成させる優先反応部分を生成させない前記化合物または純金属からなる基材を使用することを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項3】
前記基材が、溶融状態でBaまたはCuを含み、希土類元素を含まない材料からなるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項4】
前記前駆体を半溶融凝固させる際に耐熱材料製の基台上に、Y、Yb、Er、Ho、Dy、Eu、Sm、Gd、ZrO、Al、BaZrO、MgO、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)のいずれか、からなる下地材を設置した上に前記基材を設置し、その上に前記酸化物超電導体の前駆体を設置することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項5】
前記基材として、BaまたはCuの純金属、BaまたはCuの酸化物、複合酸化物、炭酸物、硫化物、硫酸物、塩化物、水酸化物、硝酸物の1種または2種以上からなるものを用いることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項6】
前記BaまたはCuの酸化物、複合酸化物、炭酸物、硫化物、硫酸物、塩化物、水酸化物、硝酸物のうちの1種または2種以上として、BaO、CuO、CuO、BaCuO、BaCO、CuCO、BaS、CuS、BaSO、CuSO、BaCl、CuCl、CuCl、Ba(OH)、Cu(OH)、Ba(NO、Cu(NOのうちの1種または2種以上を選択して用いることを特徴とする請求項5に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項7】
前記基材として、Ag、Au、Pt、Pd等の貴金属のうちの1種又は2種以上、あるいは前記貴金属の酸化物を含むものを用いることを特徴とする請求項3~6のいずれかに記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項8】
RE-Ba-Cu-O7-x系(REは希土類元素を示す)の酸化物超電導体の前駆体を半溶融凝固せしめて酸化物超電導体を製造する方法において用いられる半溶融状態の前駆体支持用基材であって、前記基材が、溶融状態でBaまたはCuを含み、希土類元素を含まない材料からなることを特徴とする酸化物超電導体の前駆体支持用基材。
【請求項9】
前記基材が粉末の集合体からなることを特徴とする請求項8に記載の酸化物超電導体の前駆体支持用基材。
【請求項10】
前記基材が、BaまたはCuの純金属、BaまたはCuの酸化物、複合酸化物、炭酸物、硫化物、硫酸物、塩化物、水酸化物、硝酸物の1種または2種以上からなることを特徴とする請求項8または9に記載の酸化物超電導体の前駆体支持用基材。
【請求項11】
前記BaまたはCuの酸化物、複合酸化物、炭酸物、硫化物、硫酸物、塩化物、水酸化物、硝酸物のうちの1種または2種以上が、BaO、CuO、CuO、BaCuO、BaCO、CuCO、BaS、CuS、BaSO、CuSO、BaCl、CuCl、CuCl、Ba(OH)、Cu(OH)、Ba(NO、Cu(NOのうちの1種または2種以上であることを特徴とする請求項10に記載の酸化物超電導体の前駆体支持用基材。
【請求項12】
前記基材に、Ag、Au、Pt、Pd等の貴金属のうちの1種又は2種以上、あるいは前記貴金属の酸化物が含まれてなることを特徴とする請求項8~11のいずれかに記載の酸化物超電導体の前駆体支持用基材。
【請求項13】
酸化物超電導体の前駆体を半溶融凝固せしめて製造されたRE-Ba-Cu-O7-x系(REは希土類元素を示す)の酸化物超電導体において、酸化物超電導体の外面の一部分であって、前記前駆体の半溶融凝固時の該前駆体支持相当部分に、Ba、Cuのいずれかまたは両方を含み希土類元素を含まない溶融凝固部分が生成されてなることを特徴とする酸化物超電導体。
【請求項14】
前記溶融凝固部分に更にAg、Au、Pt、Pd等の貴金属のうちの1種又は2種以上が含まれてなることを特徴とする請求項13に記載の酸化物超電導体。
【請求項15】
前記酸化物超電導体の底部に前記溶融凝固部分が形成されたことを特徴とする請求項13または14に記載の酸化物超電導体。
【請求項16】
表面側と裏面側の捕捉磁場分布が同じであることを特徴とする請求項13~15のいずれか1項に記載の酸化物超電導体。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、半溶融凝固法により高い臨界電流密度を有する酸化物超電導体を製造する方法とそれにより製造された酸化物超電導体に関し、特に得られた酸化物超電導体にクラック等の欠陥部分を生じないようにして大型の酸化物超電導体を得ることができるようにした技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
数10mm以上の直径を有する大型のバルク状の酸化物超電導体を半溶融状態から徐冷して凝固させつつ結晶成長を行う際には、酸化物超電導体のバルク状の前駆体を成形し、その下部にAl、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)、あるいはMgOなどの耐熱材料からなる棒材や基板や板材を設置して支持すること、あるいは、前駆体と同じ包晶温度、もしくは、より低い包晶温度を有するYBaCu7-Xなる組成の超電導粉末(いわゆるY123粉末)とYBaCuOなる組成の複合酸化物粉末(いわゆるY211粉末)の混合粉末、または、YbBaCu7-Xなる組成の超電導粉末(いわゆるYb123粉末)とYbBaCuOなる組成の複合酸化物粉末(いわゆるYb211粉末)の混合粉末を金属基台等の上に敷く等の手段が一般的に実施されている。
【0003】
これは、酸化物超電導体の前駆体を白金やAl(アルミナ)等の耐熱材料からなる受け皿やるつぼ等の支持部材に直接載置して半溶融温度に加熱したのでは、半溶融状態の前駆体が受け皿やるつぼの構成材料と反応して固着し、その凝固過程で受け皿やるつぼの構成材料との熱膨張率差から大きな応力を受けて酸化物超電導体にクラックが入り易いという問題を回避しようとするためである。即ち、得ようとする酸化物超電導体の組成にできるだけ近い組成の支持部材で半溶融凝固時に前駆体を支持することで熱膨張率差に起因する凝固時の応力負荷を軽減し、もって得ようとする酸化物超電導体にクラックを出来る限り生じないようにしようとするものである。
また、以下の特許文献1に記載のごとく、半溶融状態の前駆体を金属皿内の溶融銀中に浮上させて支持し、この状態から半溶融凝固させる技術も提供されている。ここで銀は酸化物超電導体とはほとんど反応しないため、前駆体の溶融凝固後において得られた酸化物超電導体を銀の凝固体から容易に取り出すことができると記載されている。
【0004】
【特許文献1】
特開平5-229820号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、先に記載の酸化物超電導体の組成に近い組成の材料からなる棒材や基板あるいは混合粉末を用いる方法では、白金やAl(アルミナ)からなる受け皿やるつぼ等の支持部材を用いる方法よりもクラックの発生のおそれは少ないものの、依然として以下に説明する原因からクラックを生じやすいという問題を有していた。
ここで酸化物超電導体の半溶融状態について考察すると、YBaCu7-Xなる組成の超電導粉末は包晶温度以上の温度において以下の(1)式のように分解する。
2YBaCu7-X(Y123)=YBaCuO(Y211)+L(3BaCuO+2CuO) …(1)式
この(1)式においてLは液相を示す。
【0006】
この半溶融状態で液相が存在するために従来の支持方法では、例えば棒状の複数本の支持部材で支持した半溶融状態の前駆体の下部が軟化して自重により変形したり、支持部材と反応して前駆体の底部が支持部材と固着する等の問題を生じるものと考えられる。また、酸化物超電導体に近い組成の支持部材や混合粉末を用いて支持する方法では、希土類元素を含む組成の複合酸化物の凝固部分(優先反応部分)を生じ易く、この希土類元素を含む組成の複合酸化物の凝固部分がその周囲の酸化物超電導体部分と微妙な熱膨張係数差を生じやすく、実際にこの種の酸化物超電導体を半溶融凝固法により製造しようとすると、先の複合酸化物部分(優先反応部分)とその周囲の酸化物超電導体部分の界面近傍からクラックを生じやすいという実験結果を本発明者らは得ている。
【0007】
また、各種の酸化物超電導体の中でもRE-Ba-Cu-O系(REは希土類元素を含む)の酸化物超電導体が臨界温度が高く、一般に広く知られているが、この系の酸化物超電導体において、希土類元素としてYを用いたYBaCu7-Xなる組成の酸化物超電導体は、バルク状の酸化物超電導体を半溶融凝固法で製造した場合、仮に部分的に微細クラックを生じてもそのクラックがバルクの全体に広がるおそれが少ないとされ、実際にY-Ba-Cu-O系の酸化物超電導体は臨界電流密度の高い直径100mm程度のバルク体が製造されている。
ところが、例えば、希土類元素としてNdを用いた酸化物超電導体にあっては、生成した微細クラックが全体に伝搬し易く、部分的にクラックを生じるとそのクラックが全体に伝播して割れてしまうか、全体を貫く大きなクラックを有する著しく超電導特性の低い酸化物超電導体となってしまう傾向があり、例えば、半溶融凝固法による超電導特性の優れたNd系のバルク体としては、現在30mm程度の径のものが製造限界であり、この大きさではクラックの進入によって歩留まり良く作製できないという状況にある。
【0008】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたもので、半溶融凝固法により酸化物超電導体を製造する際に支持部材との熱膨張係数差に起因するクラックを入らないようにして欠陥のない大型のバルク状の酸化物超電導体を製造することができる技術の提供を目的とする。
本発明は、半溶融凝固法によるクラックの生じていない大型のバルク状の酸化物超電導体を製造する場合に用いて好適な酸化物超電導体の前駆体支持用基材の提供を目的とする。
また、本発明は半溶融凝固法によるクラックの生じていない大型のバルク状の酸化物超電導体を提供することを目的とする。
更に本発明は、直径30mm程度以上の大きさの現在世界最大レベルのバルク状のNd系酸化物超電導体を製造することが可能な技術の提供を目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は前述の目的を達成するために、RE-Ba-Cu-O7-x系(REは希土類元素を示す)の酸化物超電導体の前駆体を半溶融凝固せしめて酸化物超電導体を製造する方法において、半溶融中の前駆体に対して溶解可能な化合物または純金属からなる基材の上に前記前駆体を設置し、この状態から前記前駆体を半溶融凝固せしめて酸化物超電導体を製造することを特徴とする。
半溶融中の前駆体に対して溶解可能な化合物または純金属からなる基材で半溶融中の前駆体を支持しながら半溶融凝固法を行うことで、半溶融時の高温に加熱した前駆体に基材の構成材料の一部が仮に溶解しても、前駆体に優先反応部分を生じないので、半溶融凝固後に得られる酸化物超電導体に熱膨張係数差に伴うクラックを生じ難い。
ここで半溶融凝固法とは、酸化物超電導体を構成する元素の化合物を複数混合して成形した原料混合成形体(前駆体)を得た後、この前駆体を融点以上の温度で加熱溶融した後、温度勾配を加えながら徐冷工程を行ない、結晶化直前の温度で種結晶を前駆体の一部に設置し、種結晶を起点として前駆体内に結晶を成長させることにより、結晶構造の良好な超電導特性の優れた酸化物超電導体を得ようとする製造方法として知られている方法である。
【0010】
本発明は前述の目的を達成するために、前記基材として、半溶融中の前駆体に対して均一に溶解可能であり、酸化物超電導体中に、酸化物超電導体との熱膨張率差に起因する応力集中クラックを生成させる優先反応部分を生成させない前記化合物または純金属からなる基材を使用することを特徴とする。
半溶融中の前駆体に対して均一に溶解可能であり、優先反応部分を生成しない材料の基材で半溶融状態の前駆体を支持するので、半溶融時の高温に加熱した前駆体に基材の構成材料の一部が仮に溶解しても、均一な溶解状態になり、前駆体に優先反応部分を生じないので、半溶融凝固後の前駆体に熱膨張係数差に伴うクラックを生じ難い。
【0011】
本発明は前述の目的を達成するために、前記酸化物超電導体が、RE-Ba-Cu-O7-x(REは希土類元素を示す)の酸化物超電導体であり、前記基材が、溶融状態でBaまたはCuを含み、希土類元素を含まない材料からなるものであることを特徴とする。
材構成材料としてBaまたはCuを含み、希土類元素を含まない材料を選択することができる。
酸化物超電導体を構成する希土類元素とBaとCuとOを含み、目的の酸化物超電導体と組成比が異なる複合酸化物からなる優先反応部分は、半溶融凝固法による酸化物超電導体の素地の部分と熱膨張率が異なるので、半溶融後の凝固時にクラック発生の原因となる。このような優先反応部分を発生しない前駆体と基材との組み合わせとすることで、半溶融凝固後においてもクラックの生じない酸化物超電導体を提供できる。
【0012】
本発明は前述の目的を達成するために、前記前駆体を半溶融凝固させる際に耐熱材料製の基台上にY、Yb、Er、Ho、Dy、Eu、Sm、Gd、ZrO、Al、BaZrO、MgO、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)のいずれか、からなる下地材を設置した上に前記基材を設置し、その上に前記酸化物超電導体の前駆体を設置することを特徴とする。
半溶融凝固時に下地材がほとんど基台と反応しないか、基台との反応を抑制することができ、下地材上の基材が前駆体と反応しないので、半溶融凝固時に前駆体が基台と反応することがなく、前駆体に余計な優先反応部分が生じない。よって前駆体の半溶融凝固後に得られる酸化物超電導体にクラックを生じない。
【0013】
本発明は前述の目的を達成するために、前記基材として具体的に、Ba(融点725℃)またはCu(融点1083℃)の純金属、BaまたはCuの酸化物、複合酸化物、炭酸物、硫化物、硫酸物、塩化物、水酸化物、硝酸物の1種または2種以上からなるものを用いることができる。
本発明は前述の目的を達成するために具体的に、前記BaまたはCuの酸化物、複合酸化物、炭酸物、硫化物、硫酸物、塩化物、水酸化物、硝酸物のうちの1種または2種以上として、BaO(融点1920℃)、CuO(融点1026℃)、CuO(融点1232℃)、BaCuO(融点980℃)、BaCO(融点811℃)、CuCO(融点220℃)、BaS(融点1200℃)、CuS(融点220℃)、BaSO(融点1580℃)、CuSO(融点200℃)、BaCl(融点963℃)、CuCl(融点430℃)、CuCl(融点620℃)、Ba(OH)(融点78℃)、Cu(OH)(融点220℃)、Ba(NO(融点592℃)、Cu(NO(融点114.5℃)のうちの1種または2種以上を選択して用いることができる。
【0014】
本発明は前述の目的を達成するために、前記基材として具体的に、Ag(融点962℃)、Au(融点1065℃)、Pt(融点1772℃)、Pd(融点1554℃)等の貴金属のうちの1種又は2種以上、あるいは前記貴金属の酸化物例えば、AgO(融点300℃)、PtO(融点450℃)を含むものを用いることができる。これらの純金属あるいは化合物であるならば、1000~1200℃の範囲で加熱処理する半溶融凝固法を実施する場合に半溶融状態の前駆体に対して確実に溶解するか、あるいは、ほとんど溶解せずに原形を保つ。
【0015】
本発明の酸化物超電導体の前駆体支持用基材は、RE-Ba-Cu-O7-x(REは希土類元素を示す)の酸化物超電導体の前駆体を半溶融凝固せしめて酸化物超電導体を製造する方法において用いられる半溶融状態の前駆体支持用基材であって、前記基材が、溶融状態でBaまたはCuを含み、希土類元素を含まない材料からなる。
前記基材の構成材料は、BaまたはCuの純金属、BaまたはCuの酸化物、複合酸化物、炭酸物、硫化物、硫酸物、塩化物、水酸化物、硝酸物の1種または2種以上からなるものを用いることができる。
基材を構成するこれらの化合物の例として、先に列挙した種々のものを用いることができる。
【0016】
本発明は前述の目的を達成するために、酸化物超電導体の前駆体を半溶融凝固せしめて製造されたRE-Ba-Cu-O7-x(REは希土類元素を示す)の酸化物超電導体において、前記酸化物超電導体の前駆体の半溶融凝固時の該前駆体支持部分に、Ba、Cuのいずれかまたは両方を含み希土類元素を含まない溶融凝固部分が生成されてなることを特徴とする。
前駆体に対して溶解し、希土類元素を含まない基材で支持した前駆体を溶融凝固させて製造された酸化物超電導体であると、前駆体を支持した部分に希土類元素を含まないBa、Cuのいずれかまたは両方を含む溶融凝固部分が生成される。このような溶融凝固部分を有する半溶融凝固法による酸化物超電導体であるならば、溶融凝固部分に優先反応部分は生じていないので、得られた酸化物超電導体に熱膨張率の異なる部分が少なく、凝固時の熱膨張率差に起因するクラックを生じていない、超電導特性の優れた酸化物超電導体が得られる。
【0017】
本発明は前述の目的を達成するために、前記溶融凝固部分には更にAg、Au、Pt、Pd等の貴金属のうちの1種又は2種以上が含まれていても良い。
本発明は前述の目的を達成するために、前記酸化物超電導体の前駆体の底部に前記溶融凝固部分が形成されたことを特徴とする。
【0018】
【発明の実施の形態】
図1は本発明の製造方法を実施する状態を説明するための側面図であり、耐熱材料製の板状の基台1の上に、下地材2と基材3を介して酸化物超電導体の前駆体5が設置された状態を示している。
前記基台1の外形は図1では板状であるが、基台1は前駆体5を設置できる形状であれば任意の形状で良く、ボート状、坩堝状等のいずれの形状でも差し支えない。この基台1は前駆体5に対して後述のごとく施す溶融凝固法で加熱する温度(例えば950~1200℃)に耐えるものであれば良いので、Al(アルミナ)、MgO、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)等の耐熱材料、例えば耐熱セラミックスなどからなる。
【0019】
前記下地材2と基材3は、この例では粉末の集合体で層状に形成されたものであり、基台1の上には下地材2が敷設され、下地材2の上に基材3が敷設され、基材3の上に前駆体5が設置されている。これらの下地材2、基材3はこれらを構成する後述の粉末を桝等の敷設器具を用いて基台1上に順次広げて敷き均すことで敷設されている。
前記下地材2は、Y、Yb、Er、Ho、Dy、Eu、Sm、Gd、ZrO、Al、BaZrO、MgO、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)のいずれかからなり、具体的にはこれらの材料の粉末から層状に形成されてなるのものであり、アルミナ等の耐熱材料からなる基台1と後述する材料製の基材3とが反応しないように、反応抑制層として設けられている。なお、この例では下地材2として粉末を敷設した層構造としたが、予め先の材料をシート状や板状に加工したものなどを用いても良い。
前記下地材2は先に列挙した材料の如く基台1との反応性の低い材料であって同時に基材3との反応性も低い材料が望ましい。
【0020】
前記基材3は、前駆体5との反応性を有しない材料で前駆体5の半溶融状態において前駆体5に溶解する材料、例えば、BaまたはCuの純金属粉末、BaとCuを含む化合物粉末を適用することができる。
より具体的には、BaまたはCuの酸化物粉末、複合酸化物粉末、炭酸物粉末、硫化物粉末、硫酸物粉末、塩化物粉末、水酸化物粉末、硝酸物粉末の1種または2種以上からなるものを用いることができる。
更に、前記BaまたはCuの酸化物粉末、複合酸化物粉末、炭酸物粉末、硫化物粉末、硫酸物粉末、塩化物粉末、水酸化物粉末、硝酸物粉末のうちの1種または2種以上として具体的には、BaO粉末(融点1920℃)、CuO粉末(融点1026℃)、CuO粉末(融点1232℃)、BaCuO粉末(融点980℃)、BaCO粉末(融点811℃)、CuCO粉末(融点220℃)、BaS粉末(融点1200℃)、CuS粉末(融点220℃)、BaSO粉末(融点1580℃)、CuSO粉末(融点200℃)、BaCl粉末(融点963℃)、CuCl粉末(融点430℃)、CuCl粉末(融点620℃)、Ba(OH)粉末(融点78℃)、Cu(OH)粉末(融点220℃)、Ba(NO粉末(融点592℃)、Cu(NO粉末(融点114.5℃)のうちの1種または2種以上を選択して用いることができる。
これらの化合物において、融点の低いものでは半溶融凝固法の際の加熱温度で確実に分解し、C、S、Cl、OH、NO等の成分は分解して除去され、BaやCuが半溶融状態の前駆体5に均一に溶解して優先反応部分を生成することなく溶解部分を生成して本発明の目的を達成する。また、溶融凝固時の加熱温度で完全に熱分解しないような融点の高い材料であっても、酸化物系の粉末であれば酸化物超電導体に酸素が含まれているので、他の粉末と同時に使用することで互いに反応して化合物を作り、溶融凝固時の加熱温度では均一溶解するので、支障はない。
【0021】
また、前記基材3には前記純金属や化合物の他に、具体的に、Ag(融点962℃)、Au(融点1065℃)、Pt(融点1772℃)、Pd(融点1554℃)等の貴金属のうちの1種又は2種以上、あるいは前記貴金属の酸化物例えば、AgO(融点300℃)、PtO(融点450℃)を含むものを用いることができる。これらの純金属あるいは化合物であるならば、1000~1200℃の範囲で加熱処理する半溶融凝固法を実施する場合に半溶融状態の前駆体5に対して確実に溶解するか、あるいは、ほとんど溶解せずに原形を保つ。また、原形を保つものにおいては一部元素が半溶融状態の前駆体5に拡散するおそれを有するが、仮に元素拡散しても前駆体5に溶解するので最終的に得られる酸化物超電導体に後述する優先反応部分を生じないようにすることができる。
【0022】
前記酸化物超電導体の前駆体5とは、目的とする酸化物超電導体の組成と同じ組成、あるいは近似する組成の原料混合体の圧密体であり、例えば、RE-Ba-Cu-O系(REはYを含む希土類元素(La、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの1種または2種以上を示す。)ここで例えば、目的の酸化物超電導体がNdBaCu7-Xの組成の場合、前駆体5として例えば、NdBaCu7-Xの組成の粉末とNdBaCu10の組成の粉末を混合して圧密し、純酸素中で焼結したものが前駆体であり、目的の酸化物超電導体がSmBaCu7-Xの組成の場合、前駆体5として例えば、SmBaCu7-Xの組成の粉末とSmBaCuOの組成の粉末を混合して圧密したものが前駆体であり、目的の酸化物超電導体がGdBaCu7-Xの組成の場合、前駆体5として例えば、GdBaCu7-Xの組成の粉末とGdBaCuOの組成の粉末を混合して圧密したものを例示することができる。
【0023】
図1に示す状態としたならば前駆体5を半溶融凝固法に基づいて熱処理する。
ここで半溶融凝固法とは、RE-Ba-Cu-O系の酸化物超電導体を構成する各元素の化合物を複数混合して成形した原料混合成形体を得た後、この原料混合成形体を融点以上の温度で加熱溶融し、成形体の形を保持して半溶融状態とし、次いで温度勾配を加えながら徐冷工程を行ない、結晶化直前の温度で種結晶を前駆体の一部に設置し、種結晶を起点として前駆体内で結晶を成長させることにより酸化物超電導体を得ようとする製造方法として知られている方法である。
即ち、前駆体5の融点よりも若干高い温度に全体を加熱して前駆体5をそれ自身の形が崩れないように半溶融状態とする。また、加熱雰囲気としては不活性ガス中に微量の酸素を供給した酸素雰囲気とする。例えば一例として、1%O濃度のArガス雰囲気を選択できる。
この際の加熱温度は、目的とする酸化物超電導体の組成によって、あるいは、熱処理する場合の雰囲気ガスの成分により若干異なるが、概ね1%O不活性ガス雰囲気中においてNd系の酸化物超電導体であるならば1000~1200℃の範囲、他の系の酸化物超電導体でも概ね970~1200℃の範囲である。
【0024】
前駆体5を半溶融状態としたならば、前駆体5の温度を若干下げた後、結晶化直前の温度でその表面上部に種結晶を設置し、徐々に温度を段階的に下げて規定の温度で数10時間保持してから炉冷する。例えば、半溶融状態の温度よりも数10℃低い温度まで徐冷して種結晶を設置した後、更に数10℃低い温度まで徐冷してその温度で数10時間保持してから炉冷することで図2に示すような酸化物超電導体6を得ることができる。例えば、半溶融温度を1100℃とした場合、1010℃まで冷却し、種結晶を設置し、1000℃まで徐冷し、989℃まで徐冷した後、60時間保持し、炉冷する。
半溶融状態の前駆体5に対して種結晶を設置し、徐冷してゆくことで、先に記載の(1)式に基づき、
前駆体5の内部ではYBaCuO(Y211相)とL(液相)(3BaCuO+2CuO)とに分解し、種結晶を起点として、液相がY211相を下側に(種結晶から離れる側に)押し出すように移動しながら種結晶を起点としてYBaCu7-X(Y123相)なる組成比の酸化物超電導体の結晶が成長し、その結果として最終的に前駆体5の全体が結晶化してYBaCu7-X(Y123相)の組成の酸化物超電導体のバルクが得られる。
【0025】
このような半溶融凝固法を行う場合、前駆体5を長時間半溶融させると、前駆体5の底部側にて基材3も一部溶融するが、ここで基材3の構成材料は、前駆体5に対して半溶融状態で溶解するBaまたはCuを主体とする材料からなるので溶解しても前駆体5の内部に半溶融時に生成する(液相)(3BaCuO+2CuO)と同じ成分となるので、半溶融状態の前駆体5と優先的に反応することはない。即ち、酸化物超電導体を生成する反応とは別個に反応して目的の組成比の酸化物超電導体ではない、別の組成比の優先反応部分(複合酸化物部分)を生成してしまうことがない。また、酸化物超電導体6の底部側には基材3との溶融反応により生じる溶融凝固部分7が図2に示すように生成される。
このため、半溶融状態の前駆体5を段階的に冷却し凝固させて結晶成長させてゆく際、前駆体5に目的の組成比の酸化物超電導体と熱膨張率の異なる優先反応部分を生じていないので、この優先反応部分とその他の酸化物超電導体部分との間の熱膨張率の差異に起因する熱応力を受けることがない。このため、冷却段階でクラックを生じない欠陥のない酸化物超電導体6を得ることができる。
【0026】
このようにクラックを有していない酸化物超電導体6を製造できることから、本発明によればクラックなどの欠陥のない超電導特性の優れた酸化物超電導体を製造できる。なお、クラックが生じていない酸化物超電導体であるならば、例えば酸化物超電導体を液体窒素温度に冷却して外部磁場を印加した後、外部磁場を除去して酸化物超電導体に磁場を捕捉させた場合、捕捉磁場のピークが高いという性能を発揮できる。また、クラックが入っていない酸化物超電導体であるならば、捕捉磁場はシングルピークを有する。ところが、クラックが複数入っている酸化物超電導体であると、捕捉磁場分布を見ると、複数のピークに分かれると同時に著しく低い捕捉磁場ピークとなってしまう。当然、クラックの無い酸化物超電導体はクラックが入っている酸化物超電導体よりも臨界電流密度の面でも有利となる。
【0027】
ところで、酸化物超電導体6に生成される溶融凝固部分7は図2では底面全体に生成されているように示したが、溶融凝固部分7は常に底面全体に生成されるものではなく、前駆体5の支持状態の違いや温度の状態や製造条件等により底面の一部のみに形成されることもある。例えば、図1の例では粉末を敷いた層で前駆体5を支持したが、前駆体5を支持するものとして、層ではなく、棒状の基材、枠状の基材、台状の基材などを用いれば、それらの基材と前駆体5とが接触した部分を中心に酸化物超電導体の底部側に部分的に溶融凝固部分が生成する。また、先の理想的な反応形態では、前駆体5と基材3との界面部分に生じる溶融凝固部分7に目的の酸化物超電導体の構成元素の1つである希土類元素を含まないと考えるが、反応の状況によっては部分的に多少の希土類元素を含むこともあり得る。。
【0028】
次に、この実施形態では、耐熱材料製の基台1と基材3との反応を無くするか、抑制するために下地材2をこれらの間に介挿しているので、基材3が下地材2と反応することがなく、更に、基材3がその上の前駆体5と溶解して優先反応部分を生成しない材料から構成したので、前駆体5に優先反応部分を生じないようにすることが確実にできるものである。なお、下地材2として用いる材料は溶融凝固法を行う場合の熱に耐えて溶解しないものである必要があり、また、仮に一部溶解することがあっても、基台1とほとんど反応しないか、反応を抑制することができ、かつ、基材3に対してもほとんど反応しないものか、反応を抑制することができるものが好ましい。
【0029】
前記基材3を棒状や枠状などに形成した場合、基台1上に直接棒状の基材3を複数本設置し、これらの上に前駆体5を設置して溶融凝固法を実施しても良い。その場合に棒状の基材を溶融させないように加熱すれば基台1との反応を抑制でき、また、基材を十分に大きく形成すれば基台との接触部分で反応を生じても基材で前駆体5を支持した部分まで基台1の反応が影響することがなくなるので、下地材2は不要となる。
勿論、棒状や枠状に形成した基材と基台1との反応を抑制するために、下地材2を棒状や枠状に形成した基材の基台1側に貼り付けたり、基台1との接触部分に配置しておいても良い。
【0030】
【実施例】
「実施例1」
NdBaCu7-X(Nd123)なる組成比の焼結体の粉砕物とNdBaCu10なる組成の複合酸化物の粉砕物をそれらの配合比が5:1になるように秤量し、更に作製するべきバルク状の酸化物超電導体の機械強度のばらつきを抑える目的で酸化銀(AgO)粉末を10wt%加えて混合物を得、この混合物を粉末混合装置で3時間混合混練粉砕して混合原料粉末を得た。ここで添加した酸化銀は前記Nd123の包晶温度を下げる効果がある。また、NdBaCu7-Xなる組成のバルク体の包晶温度はRE-Ba-Cu-O系の希土類酸化物系超電導体の中でも最も包晶温度が高く、適当な種結晶が銀を添加しない状態のものでは知られていないこともあるので、この例では酸化銀を10wt%添加している。
先の混合原料粉末に1.5tの圧力で一軸プレスを行ってペレット状の円盤状の成形体(直径40mm、厚さ13mm)に成形した後、2t/cmの圧力で冷間静水圧処理を施して2個のバルク体を製造した。続いてこれらのバルク体を純酸素中において1040℃で焼結し、2個の前駆体を得た。
【0031】
次に、アルミナ(Al)製のボート(基台)の上にY粉末層(下地材)を形成した。このY粉末層はボート上に桝を用いてY粉末を2mm程度の厚さに敷設することで形成した。次にY粉末層上にBaCuOの粉末を桝を用いて2mm程度の厚さに敷設することで、BaCuOの粉末層(基材)を形成し、その上に先の前駆体を載置したものを本発明試料とした。
また、比較材として、アルミナ(Al)製のボートの上に前記と同じY粉末層を形成し、その上にYbBaCu7-X(Yb123)なる組成比の粉末とYbBaCuOなる組成比の粉末の混合粉末を桝を用いて2mm程度の厚さに敷設し、その上に前記前駆体を載置したものを用意した。
これらの本発明試料と比較材を1%O-Arガス雰囲気中に設置し、1100℃まで加熱して前駆体を半溶融状態とし、1100℃で1時間保持した後、1010℃まで2時間かけて冷却し、酸化銀を添加していないNd系の種結晶を半溶融状態の前駆体上表面に設置し、1000℃まで5分間かけて冷却し、次に989℃まで1℃/時間の割合で徐冷し、この温度(989℃)で60時間保持してから炉冷し、直径30mm、厚さ10mmの円盤状の酸化物超電導体を得た。
【0032】
得られた酸化物超電導体を炉から取り出して観察したところ、比較材の酸化物超電導体の底部に、Ybが半溶融状態の前駆体と優先的に反応して生成した優先反応部分(複合酸化物部分)を複数箇所確認することができ、この優先反応部分を起点として複数本のクラックが生成し、そのうちの一部のクラックが酸化物超電導体を底部から上面まで貫いていることを確認できた。
図3はこの比較材の酸化物超電導体の底面の組織写真の模式図である。図3に示す円盤状の酸化物超電導体10の底面には、通常の均一な砂地模様の酸化物超電導体の素地部分12に対して色の濃い無定形の優先反応部分13が複数ランダムに形成され、クラック14が優先反応部分13を起点として複数本発生していた。
これに対し、本発明の酸化物超電導体試料では、試料底部に優先反応部分を確認できず、クラックも発生していなかった。図4はこの例の酸化物超電導体試料の底面写真の模式図であるが、均一で緻密な砂地模様の組織を呈していた。
なお、本発明の酸化物超電導体の試料底部には、一部BaCuOの粉末層が溶解して半溶融状態の前駆体と溶け合った後に凝固した部分を確認できたが、この溶解凝固部分は緻密で密に締まった表面組織を呈し、その他の部分との組織的連続性が密であり、それ故クラックを発生しなかったのではと推定される。
【0033】
続いて先の酸化物超電導体を7T(テスラ)の外部磁場中で液体窒素を用いて冷却し、その後磁場を取り除き、表面の捕捉磁場分布を観察したところ、クラックなどの影響のない、シングルピークを有する捕捉磁場分布であることを確認することができた。また、捕捉磁場のシングルピークの最大値は1.1Tであり、極めて高い磁場を捕捉できていることが明らかとなった。次に、同酸化物超電導体の裏面側の捕捉磁場を観察したところ、捕捉磁場の最大値は1.25Tであり、表裏どちら側でも高い捕捉磁場を有する酸化物超電導体を製造することができたことを確認できた。
【0034】
一方、比較材の酸化物超電導体の捕捉磁場分布はクラックの影響で低下し、捕捉磁場分布が複数のピークを有し、表面側でのピークの最大値が0.65T、裏面側でのピークの最大値が0.2Tと著しく低いものであった。これは比較材の酸化物超電導体の裏面側にクラックが複数発生し、そのうちの一部が酸化物超電導体を貫いて上部まで達したことを示している。
【0035】
「実施例2」
SmBaCu7-X(Sm123)なる組成比の焼結体の粉砕物とSmBaCuO(Sm211)なる組成の複合酸化物の粉砕物をそれらの配合比が3:1になるように秤量し、更に、0.5wt%のPtと、作製するべきバルク状の酸化物超電導体の機械強度のばらつきを抑える目的で酸化銀(AgO)粉末を10wt%加えて混合物を得、この混合物を粉末混合装置で3時間混合混練粉砕して混合原料粉末を得た。
先の混合原料粉末に1.5tの圧力で一軸プレスを行ってペレット状の円盤状の成形体(直径40mm、厚さ13mm)に成形した後、2t/cmの圧力で冷間静水圧処理を施して2個の前駆体を得た。
【0036】
次に、実施例1と同様にアルミナ(Al)製のボートの上にY粉末層(下地材)を形成し、その上にBaCuOの粉末層(基材)を形成し、その上に先の前駆体を載置したものを本発明試料とした。
また、比較材として、アルミナ(Al)製のボートの上に前記と同じY粉末層を形成し、その上にYbBaCu7-X(Yb123)なる組成比の粉末とYbBaCuOなる組成比の粉末の混合粉末層を敷設し、その上に前記前駆体を載置したものを用意した。
これらの試料と比較材を1%O-Arガス雰囲気中に設置し、1090℃まで加熱して前駆体を半溶融状態とし、1090℃で1時間保持した後、1000℃まで2時間かけて冷却し、酸化銀を添加していないNd系の種結晶を半溶融状態の前駆体上表面に設置し、990℃まで5分間かけて冷却し、次に975℃まで1℃/時間の割合で徐冷し、この温度(975℃)で70時間保持してから炉冷し、直径30mm、厚さ10mmの円盤状の酸化物超電導体を得た。
【0037】
得られた酸化物超電導体を観察したところ、比較材の酸化物超電導体の底部に、Ybが半溶融状態の前駆体と優先的に反応して生成した優先反応部分(複合酸化物部分)を複数箇所確認することができ、この優先反応部分を起点として多数本のクラックが生成していた。
これに対し、本発明の酸化物超電導体試料では、試料底部に優先反応部分を確認できず、クラックも発生していなかった。
【0038】
続いて先の酸化物超電導体を7T(テスラ)の外部磁場中で液体窒素を用いて冷却し、その後磁場を取り除き、表面の捕捉磁場分布を観察したところ、図5(a)に示すようにクラックなどの影響のない、シングルピークを有する捕捉磁場分布であることを確認することができた。また、捕捉磁場のシングルピークの最大値は0.9Tであり、極めて高い磁場を捕捉できていることが明らかとなった。
次に、同酸化物超電導体の裏面側の捕捉磁場を観察したところ、図5(b)に示すように捕捉磁場の最大値は1.0Tであり、シングルピークを有する捕捉磁場分布であることを確認することができた。従って、表裏どちら側でも高い捕捉磁場を有する酸化物超電導体を製造することができたことを確認できた。
一方、比較材の酸化物超電導体の捕捉磁場分布の測定結果を図6(a)(b)に示すが、クラックの影響で低下し、捕捉磁場分布が複数のピークを有し、表面側でのピークの最大値が0.4T、裏面側でのピークの最大値が0.2Tと著しく低いものであった。
【0039】
「実施例3」
GdBaCu7-X(Gd123)なる組成比の焼結体の粉砕物とGdBaCuO(Gd211)なる組成の複合酸化物の粉砕物をそれらの配合比が2:1になるように秤量し、更に、0.5wt%のPtと、作製するべきバルク状の酸化物超電導体の機械強度のばらつきを抑える目的で酸化銀(AgO)粉末を10wt%加えて混合物を得、この混合物を粉末混合装置で3時間混合混練粉砕して混合原料粉末を得た。
先の混合原料粉末に1.5tの圧力で一軸プレスを行ってペレット状の円盤状の成形体(直径40mm、厚さ13mm)に成形した後、2t/cmの圧力で冷間静水圧処理を施して2個の前駆体を得た。
【0040】
次に、実施例1と同様にアルミナ(Al)製のボートの上にY粉末層(下地材)を形成し、その上にBaCuOの粉末層(基材)を形成し、その上に先の前駆体を載置したものを本発明試料とした。
また、比較材として、アルミナ(Al)製のボートの上に前記と同じY粉末層を形成し、その上にYbBaCu7-X(Yb123)なる組成比の粉末とYbBaCuOなる組成比の粉末の混合粉末層を敷設し、その上に前記前駆体を載置したものを用意した。
これらの試料と比較材を1%O-Arガス雰囲気中に設置し、1080℃まで加熱して前駆体を半溶融状態とし、1080℃で1時間保持した後、990℃まで2時間かけて冷却し、酸化銀を添加していないNd系の種結晶を半溶融状態の前駆体上表面に設置し、980℃まで5分間かけて冷却し、次に960℃まで0.5℃/時間の割合で徐冷し、この温度(960℃)で70時間保持してから炉冷し、直径30mm、厚さ10mmの円盤状の酸化物超電導体を得た。
【0041】
得られた酸化物超電導体を観察したところ、比較材の酸化物超電導体の底部に、Ybが半溶融状態の前駆体と優先的に反応して生成した優先反応部分を複数箇所確認することができ、この優先反応部分を起点として多数本のクラックが生成していた。
これに対し、本発明の酸化物超電導体試料では、試料底部に優先反応部分を確認できず、クラックも発生していなかった。
【0042】
続いて先の実施例1、2と同じ条件で捕捉磁場の測定をしたところ、本発明試料はクラックなどの影響のない、シングルピークを有する捕捉磁場分布であることを確認することができた。また、捕捉磁場のシングルピークの最大値は表面側で1.4T、裏面側で1.3Tであり、極めて高い磁場を捕捉できていることが明らかとなった。一方、比較材の酸化物超電導体の捕捉磁場分布はクラックの影響で低下し、捕捉磁場分布が複数のピークを有し、表面側でのピークの最大値が0.7T、裏面側でのピークの最大値が0.4Tと低いものであった。
【0043】
ところで、先の実施例1において製造されたクラックの無い直径30mm、厚さ10mmのバルク状のNdBaCu7-X(Nd123)なる組成の酸化物超電導体は、現在得られているNd系の酸化物超電導体として世界最大級のものである。
この種のRE-Ba-Cu-O系の酸化物超電導体においてNd系の酸化物超電導体は半溶融凝固法を用いて製造する場合にクラックが生じ易く、しかもクラックを生じると酸化物超電導体の全体を貫くようにクラックが成長し易い。ここで例えば、Y系の酸化物超電導体においては底部側に微小クラックを生じてもそのクラックが全体を貫いてしまうことは少なく、このような関係からY系の酸化物超電導体では100mmクラス程度の大きさのバルク状の酸化物超電導体が実際に得られている。
しかし、Nd系の酸化物超電導体では特に溶融凝固法に伴うクラックが広がり易く、シングルピークを有するクラックの無いNd系の酸化物超電導体としては直径20mmを超える大きさのものは従来技術では非常に困難である。
【0044】
大型のバルク状の酸化物超電導体においてクラックなどの欠陥の無いものを得難いことに関し、「INSTITUTE OF PHYSICS PUBLISHING SUPERCONDUTOR SCIENCE AND TECHNOLOGY. 15 (2002)639-647」に「Processing, microstructure and characterization of artifial joint in top seeded melt grown Y-Ba-Cu-O」と題して「D A Cardwell」らが発表している文献、「INSTITUTE OF PHYSICS PUBLISHING SUPERCONDUTOR SCIENCE AND TECHNOLOGY. 15 (2002)672-674」に「Joining of melt-textured YBCO: a direct contact method」と題して「Lihua Chen」らが発表している文献、「低温工学 Vol.34, No.11, 1999 P563」に「微小重力下超電導体製造プロジェクト」と題して「坂井直道」らが記載している文献等から知られるように、「結晶成長させるバルク材料が大型化すると、結晶成長に要する時間が長くなり、部分溶融状態での長時間の熱処理により基板材料などからの汚染および液相成分の流出などによる組成の変動などが生じ、良質な結晶が得られなくなる」と理解されている。
このような状況下において本願発明では直径30mmもの大型のバルク状のNd系の酸化物超電導体をクラックを生じることなく製造することができ、しかもその試料の捕捉磁場分布においてシングルピークのみを有する優れた特性のものを得られることが明らかになり、本発明によれば大型のバルク状の酸化物超電導体を製造する技術において極めて有効かつ顕著な効果を発揮できることを立証できた。なお、このような欠陥のない直径30mmのNd系酸化物超電導体は現在世界最大のものであり、捕捉磁場分布においてシングルピークのみを有する優れた特性を持ち、かつ、超電導体の上下両面側で同等の優れた特性を持つ、直径30mm以上のNd系酸化物超電導体は、本発明以外の技術では現在得られていないものである。
【0045】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明によれば、RE-Ba-Cu-O7-x(REは希土類元素を示す)の酸化物超電導体の半溶融中の前駆体に対して溶解可能な化合物または純金属からなる基材で半溶融中の前駆体を支持しながら半溶融凝固法を行うことで、前駆体に優先反応部分を生じさせないので、熱膨張係数差に伴うクラックを生じていない酸化物超電導体を得ることができる。
本発明において酸化物超電導体がRE-Ba-Cu-O7-x系の酸化物超電導体であり、前記基材として溶融状態でBaまたはCuを含み、希土類元素を含まない材料からなるものを適用することができる。本発明では具体的に、BaまたはCuの純金属、BaまたはCuの酸化物、複合酸化物、炭酸物、硫化物、硫酸物、塩化物、水酸化物、硝酸物の1種または2種以上からなるものを用いることができる。
【0046】
本発明では、RE-Ba-Cu-O7-x系(REは希土類元素を示す)の酸化物超電導体の前駆体に対して溶解し、希土類元素を含まない基材で支持した前駆体を溶融凝固させて製造された酸化物超電導体であると、前駆体を支持した部分に希土類元素を含まないBa、Cuのいずれかまたは両方を含む溶融凝固部分が生成される。このような溶融凝固部分を有する半溶融凝固法による酸化物超電導体であるならば、溶融凝固部分に優先反応部分は生じていないので、得られた酸化物超電導体に熱膨張率の異なる部分が少なく、凝固時の熱膨張率差に起因するクラックを生じていないクラックの無い酸化物超電導体が提供される。
溶融凝固の際にその底部を支持して製造するならば、底部に優先反応部分を有していない溶融凝固部分を有するRE-Ba-Cu-O7-x系の酸化物超電導体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は酸化物超電導体の前駆体に対して本発明方法を実施している状態を説明するための側面図である。
【図2】 図2は本発明方法により得られたバルク状の酸化物超電導体を示す側面図である。
【図3】 図3は実施例で得られたNdBaCu7-Xなる組成比の比較材の酸化物超電導体の底面を示す写真の模式図である。
【図4】 図4は実施例で得られたNdBaCu7-Xなる組成比の本発明に係る酸化物超電導体の底面を示す写真の模式図である。
【図5】 図5は実施例で得られた本発明に係る酸化物超電導体の捕捉磁場分布を示すグラフである。
【図6】 図6は実施例で得られた比較材の酸化物超電導体の捕捉磁場分布を示すグラフである。
【符号の説明】
1…基台、2…下地材、3…基材、5…前駆体、6…酸化物超電導体、7…溶融凝固部分、10…酸化物超電導体(比較材)、12…素地、13…優先反応部分、14…クラック、15…酸化物超電導体(本発明材)。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5