TOP > 国内特許検索 > 酸化物超電導体の製造方法及び酸化物超電導体 > 明細書

明細書 :酸化物超電導体の製造方法及び酸化物超電導体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4190914号 (P4190914)
公開番号 特開2004-269309 (P2004-269309A)
登録日 平成20年9月26日(2008.9.26)
発行日 平成20年12月3日(2008.12.3)
公開日 平成16年9月30日(2004.9.30)
発明の名称または考案の名称 酸化物超電導体の製造方法及び酸化物超電導体
国際特許分類 C01G   1/00        (2006.01)
C01G   3/00        (2006.01)
FI C01G 1/00 ZAAS
C01G 3/00
請求項の数または発明の数 9
全頁数 17
出願番号 特願2003-061632 (P2003-061632)
出願日 平成15年3月7日(2003.3.7)
審査請求日 平成17年6月30日(2005.6.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】藤本 浩之
【氏名】尾作 仁司
【氏名】太田原 恵美
個別代理人の代理人 【識別番号】100064908、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 正武
【識別番号】100089037、【弁理士】、【氏名又は名称】渡邊 隆
審査官 【審査官】横山 敏志
参考文献・文献 特開2001-114595(JP,A)
特開平05-170598(JP,A)
特開平05-319824(JP,A)
特公平04-040289(JP,B2)
特許第2556401(JP,B2)
調査した分野 C01G1/00
C01G3/00
特許請求の範囲 【請求項1】
REBaCu7-X(REは希土類元素の1種又は2種以上を示す)なる組成の酸化物超電導体を製造するに際し、目的とするREBaCu7-Xなる組成の酸化物超電導体を構成する元素の化合物を混合した原料の圧密体であって、REBaCu7-X成分が1.1(5モル%REBaCu相成分)以上、1.8(40モル%REBaCu相成分)以下の範囲となるような配合比とした原料の圧密体からなる前駆体を加熱して半溶融状態とした後に冷却し、前記前駆体上に設置されている種結晶の結晶構造を基に先の半溶融状態の前駆体を結晶化して酸化物超電導体とする半溶融凝固法によって酸化物超電導体を製造する方法であって、
前記半溶融凝固法を実施するにあたり、前記前駆体を複数積み重ね、積み重ねた最上段の前駆体上に種結晶を設置し、半溶融凝固法により該種結晶を基にして最上段の前駆体を結晶化するとともに、該結晶化を下段側の前駆体に伝播させて積み重ねた他の前駆体を順次結晶化する方法とし、前記半溶融凝固法を実施するにあたり、前記積み重ねた前駆体を加熱して半溶融状態とし、等温保持した後、降温して結晶化開始温度よりも高い温度域に等温保持する予備加熱を行った後、予備加熱温度よりも低い結晶化開始温度に降温し、該結晶化開始温度において等温保持したまま結晶化を行い、その後に降温することを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。
【請求項2】
前記種結晶を前記前駆体に載置してから加熱して半溶融状態とするコールドシーディング法を用いることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項3】
前記種結晶として耐熱性基板の上に成膜法により形成された酸化物超電導体の単結晶状のフィルムであり、製造しようとする酸化物超電導体の包晶温度よりも高い包晶温度を有する酸化物超電導体の単結晶状のフィルムを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項4】
前記複数積み重ねた上下の前駆体の間を完全密着状態ではなく隙間を有した自然載置状態とすることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項5】
原料を混合して圧密し仮焼した後に粉砕し、その粉砕物を再度圧密した前駆体を用いる場合、平均粒径を50~100μmの範囲とした粉砕物を用いることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項6】
前記複数積み上げた前駆体を上段側から下段側にかけて順次結晶化する際、結晶化進行中の前駆体のみを結晶化温度に保持し、それよりも下段側の前駆体を半溶融状態の温度に維持し、結晶化の進行に応じて半溶融状態の前駆体を順次結晶化温度とする温度勾配を与えながら結晶化することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項7】
REBaCu7-X(REは希土類元素の1種又は2種以上を示す)なる組成の酸化物超電導体を製造するに際し、目的とするREBaCu7-Xなる組成の酸化物超電導体を構成する元素の化合物を混合した原料の圧密体であって、REBaCu7-X成分が1.1(5モル%REBaCu相成分)以上、1.8(40モル%REBaCu相成分)以下の範囲となるような配合比とした原料の圧密体からなる前駆体を加熱して半溶融状態とした後に徐冷して前記前駆体上に設置されている種結晶の結晶構造を基に先の半溶融状態の前駆体を結晶化して酸化物超電導体とする半溶融凝固法によって製造された酸化物超電導体であって、
前記前駆体が複数積み重ねられるとともに、最上段の前駆体に設置した種結晶を基にする半溶融凝固法による結晶化により、積み重ねられた複数の前駆体が結晶化されて酸化物超電導体とされてなり、前記半溶融凝固法を実施するにあたり、前記積み重ねた前駆体を加熱して半溶融状態とし、等温保持した後、降温して結晶化開始温度よりも高い温度域に等温保持する予備加熱を行った後、予備加熱温度よりも低い結晶化開始温度に降温し、該結晶化開始温度において等温保持したまま結晶化を行い、その後に降温されてなることを特徴とする酸化物超電導体。
【請求項8】
積み重ねられた酸化物超電導体のうち、上下に接する酸化物超電導体が互いに接する部分において溶着一体化されてなることを特徴とする請求項7に記載の酸化物超電導体。
【請求項9】
Ag、Pt、Auのいずれかが添加されてなることを特徴とする請求項7または8に記載の酸化物超電導体。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、半溶融凝固法に基づいて酸化物超電導体を製造する方法とそれにより製造された酸化物超電導体に関し、大型の酸化物超電導体を容易に得ることができるようにした技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
大型のバルク状の酸化物超電導体を製造する方法の一例として、特許第1869884号、特許第2555640号に開示されている溶融法が知られている。これらの特許に記載されている溶融法とは、REBaCu7-X(REは希土類元素を示す)なる組成の酸化物超電導体を製造するに際し、REBaCu相またはREBaCu10相と、Ba-Cu-Oを主成分とした液相とが共存する温度領域まで加熱した後、REBaCu7-X相が生成する包晶温度直上の温度まで冷却し、その温度から徐冷することにより結晶成長させ、核生成と結晶方位の制御を行い、酸化物超電導体を得る製造方法である。
【0003】
また、1つの種結晶を使用し、結晶成長開始温度が異なる材料を順次組み合わせて核生成、結晶方位および結晶成長方向を制御して酸化物超電導体を製造する半溶融凝固法が知られている。(特許文献1参照)
【0004】
この半溶融凝固法では、酸化物超電導体を構成する元素の化合物粉末を混合してなる原料粉末を圧密して前駆体を得た後、この前駆体を利用してREBaCu7-X(REは希土類元素を示す)なる組成の酸化物超電導体を製造するに際し、REBaCu相またはREBaCu10相と、Ba-Cu-Oを主成分とした液相とが共存する温度領域まで前駆体を加熱して半溶融状態とした後、半溶融状態の前駆体上に種結晶を設置し、REBaCu7-X相が生成する包晶温度直上の温度まで冷却し、その温度から徐冷することにより半溶融状態の前駆体の内部で徐々に結晶成長を行い、前駆体全体を酸化物超電導体とする製造方法である。また、半溶融凝固法による酸化物超電導体の結晶に必要に応じて更に酸素を付加して結晶構造を整えるために、酸素雰囲気中にて熱処理を施すことも知られている。
【0005】
次に、異なる希土類系の酸化物超電導体のバルク体を重ねて製造する技術として、希土類元素のうち、それぞれ異なる種類であって、REBaCu7-X相が生成する温度が高温側または低温側から連続するように複数の原料層を積層してから圧密して前駆体を形成し、その後に半溶融凝固法を実施する方法が知られている。(特許文献2参照)
【0006】
【特許文献1】
特開平5-170598号公報
【特許文献2】
特許第2556401号公報(特開平5-193938号公報)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、先に記載の酸化物超電導体の製造方法では、結晶成長できる前駆体の大きさに限界を有していた。即ち、前駆体の内部では半溶融凝固法を実施する際に、2REBaCu7-X(R123相)=REBaCu(R211相)+L(液相;3BaCuO+2CuO)なる式で示される反応を基に、R211相と液相がR123相を生成しながらR211相を半溶融状態の前駆体の内部で移動させる形で結晶化が進行するが、R211相を移動させながらR123相生成させる際の進行速度は極めて遅く、しかも半溶融状態の前駆体の内部に不純物や反応阻止要因があると反応は直ちに停止するか、結晶状態の悪い酸化物超電導体を生成してしまうので、Nd系やSm系の酸化物超電導体で直径2cm程度、厚さ数mm~1cm程度、Y系の酸化物超電導体でも直径が10cmを多少越える程度、厚さ数mm~1cm程度が現状の技術での限界的な大きさとされている。即ち、これらのサイズ以上の大きな前駆体を用いても、半溶融凝固反応が途中で停止するか、結晶成長が部分的に任意の方向に進行し、全体として配向性の良好な酸化物超電導体を得ることができない問題を有している。
【0008】
また、半溶融凝固法に用いる前駆体は酸化物超電導体の原料粉末を混合して圧密したものであるので、通常はCIP装置(冷間等方圧加圧装置)などを用いた圧密法により緻密で空孔のほとんど無い状態として用いるのが一般的である。ところがそのためには、数千万以上の設備であるCIP装置を用いる必要があり、低コストで簡単に製造できるものではないとともに、通常のCIP装置で固めることができる前駆体の大きさよりも更に大きな酸化物超電導体を製造することができない問題を有していた。なお、より大型の前駆体を得るために、更に大型のCIP装置を用いれば前駆体を製造できない訳ではないが、CIP装置が大型になるにつれて設備コストは大幅に上昇することになり、製造コストが著しく上昇するおそれがある。
【0009】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたもので、半溶融凝固法により酸化物超電導体を製造する際に従来よりも大型の酸化物超電導体を簡便に製造することが可能な酸化物超電導体の製造方法とそれにより得られる酸化物超電導体の提供を目的とする。
また、本発明は、大型の前駆体を製造するための特別なCIP装置を要することなく実施することができる製造方法とそれにより得られる酸化物超電導体の提供を目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は前述の目的を達成するために、REBaCu7-X(REは希土類元素の1種又は2種以上を示す)なる組成の酸化物超電導体を製造するに際し、目的とするREBaCu7-Xなる組成の酸化物超電導体を構成する元素の化合物を混合した原料の圧密体であって、REBaCu7-X成分が1.1(5モル%REBaCu相成分)以上、1.8(40モル%REBaCu相成分)以下の範囲となるような配合比とした原料の圧密体からなる前駆体を加熱して半溶融状態とした後に冷却し、前記前駆体上に設置されている種結晶の結晶構造を基に先の半溶融状態の前駆体を結晶化して酸化物超電導体とする半溶融凝固法によって酸化物超電導体を製造する方法であって、前記半溶融凝固法を実施するにあたり、前記前駆体を複数積み重ね、積み重ねた最上段の前駆体上に種結晶を設置し、半溶融凝固法により該種結晶を基にして最上段の前駆体を結晶化するとともに、該結晶化を下段側の前駆体に伝播させて積み重ねた他の前駆体を順次結晶化する方法とし、前記半溶融凝固法を実施するにあたり、前記積み重ねた前駆体を加熱して半溶融状態とし、等温保持した後、降温して結晶化開始温度よりも高い温度域に等温保持する予備加熱を行った後、予備加熱温度よりも低い結晶化開始温度に降温し、該結晶化開始温度において等温保持したまま結晶化を行い、その後に降温することを特徴とする。
【0011】
複数の前駆体を単に積み重ね、最上段の前駆体に対して種結晶を基に結晶成長させることで、最上段の前駆体を酸化物超電導体にすることができるとともに、その前駆体の下段側に設けた他の前駆体に対して結晶化を伝播させて順次酸化物超電導体とすることができる。この際、積み重ねた前駆体どうしは相互に加圧密着させる必要はなく、単に自重によって自然に接触している状態で良い。これにより、従来の前駆体を用いて得られていた酸化物超電導体の数倍もの厚さの酸化物超電導体を前駆体の単なる積み重ね作業の追加により容易に製造することができるようになる。
ここで半溶融凝固法とは、酸化物超電導体を構成する元素の化合物を複数混合して成形した原料混合成形体(前駆体)を得た後、この前駆体に種結晶を設置しておき、この後前駆体を融点以上の温度で液相と固相が共存する温度に加熱溶融させて半溶融状態とした後、冷却し、先の種結晶を利用し、種結晶を起点として前駆体内に目的の酸化物超電導体の単結晶を成長させることにより、結晶構造の良好な超電導特性の優れた酸化物超電導体を得ようとする方法である。
なお、半溶融凝固法を実施するにあたり、半溶融状態の温度に等温保持し、それよりも低い温度で等温保持する予備加熱を行った後、予備加熱温度よりも低い結晶化開始温度に降温し、結晶化開始温度において等温保持したまま結晶化を行うようにすれば、結晶化の進行を促進することができ、徐冷しながら温度勾配をかけて結晶成長させる場合に比べて遙かに短時間で結晶化を進行させることができる。
【0012】
本発明は前述の目的を達成するために、前記酸化物超電導体として、REBaCu7-X(REは希土類元素の1種又は2種以上を示す)なる組成の酸化物超電導体に適用することを特徴とする。
適用できる具体的な酸化物超電導体としてREBaCu7-X(REは希土類元素の1種または2種以上を示す)なる組成のものを例示できる。REとしてより具体的には、Yを含む希土類元素(La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)の1種または2種以上を示す。これらの組成式で示す酸化物超電導体を製造しようとする場合、半溶融状態とすると、REBaCu相またはREBaCu10相と、Ba-Cu-Oを主成分とした液相とが共存する温度領域まで加熱することで半溶融状態とすることができ、その後、半溶融状態の温度より低い温度で等温保持した後、REBaCu7-X相が生成する包晶温度直上の結晶化温度まで冷却し、その結晶化温度において等温保持して結晶成長させてから徐冷することにより目的の積み重ね構造の酸化物超電導体を得ることができる。
【0013】
本発明は前述の目的を達成するために、前記複数積み重ねた上下の前駆体の間を完全密着状態ではなく隙間を有した自然載置状態としたことを特徴とする。
積み重ねた前駆体どうしは相互に圧密法などにより圧密する必要はなく、単に自重によって接触している設置状態でよい。即ち、積み重ねた前駆体どうしが完全密着した状態ではなくとも、相互の間に多少の隙間を有して単に積み重ねられた状態でも上段側の酸化物超電導体の結晶を基にして下段側の前駆体を酸化物超電導体とすることができる。
本発明は前述の目的を達成するために、前記前駆体として、目的とするREBaCu7-X(REは希土類元素の1種又は2種以上を示す)なる組成の酸化物超電導体を構成する元素の化合物を混合した原料の圧密体であって、REBaCu7-X相成分が1.1(5モル%REBaCu相成分)以上、1.8(40モル%REBaCu相成分)以下の範囲となるような配合比とした原料の圧密体を用いることを特徴とする。
半溶融状態とした場合の前駆体の内部でREBaCu相(R211相)と液相(3BaCuO+2CuO)とに分解した場合にR123相の生成が促進され、結晶化が円滑になされる。
【0014】
本発明は前述の目的を達成するために、複数積み上げた前駆体を上段側から下段側にかけて順次結晶化する際、結晶化進行中の前駆体のみを結晶化温度に保持し、それよりも下段側の前駆体を半溶融状態の温度に維持し、結晶化の進行に応じて半溶融状態の前駆体を順次結晶化温度とする温度勾配を与えながら結晶化することを特徴とする。
このように温度管理することで、結晶化するべき前駆体のみを結晶化させることができ、半溶融状態の前駆体には結晶化を生じないようにすることで、上段側から下段側にかけて連続して均一した結晶化を進行させることができる。
【0015】
本発明は前述の目的を達成するために、REBaCu7-X(REは希土類元素の1種又は2種以上を示す)なる組成の酸化物超電導体を製造するに際し、目的とするREBaCu7-Xなる組成の酸化物超電導体を構成する元素の化合物を混合した原料の圧密体であって、REBaCu7-X成分が1.1(5モル%REBaCu相成分)以上、1.8(40モル%REBaCu相成分)以下の範囲となるような配合比とした原料の圧密体からなる前駆体を用い、酸化物超電導体の前駆体を加熱して半溶融状態とし、等温保持した後、降温して結晶化開始温度よりも高い温度域に等温保持する予備加熱を行った後、予備加熱温度よりも低い結晶化開始温度に降温し、該結晶化開始温度において等温保持したまま結晶化を行い、その後に降温して前記前駆体上に設置されている種結晶の結晶構造を基に先の半溶融状態の前駆体を結晶化して酸化物超電導体とする半溶融凝固法によって製造された酸化物超電導体であって、前記前駆体が複数積み重ねられるとともに、最上段の前駆体に設置した種結晶を基にする結晶化により、積み重ねられた複数の前駆体が結晶化されて酸化物超電導体とされてなるものである。
積み重ねた複数の前駆体に基づいて製造された酸化物超電導体であるならば、積み重ねた個々の前駆体自体は従来の前駆体と同じ大きさであっても、最終的には積み重ね数に応じた数倍もの厚さの酸化物超電導体を得ることができる。
これに対して最初から数倍の厚さの前駆体を得ようとすれば、CIP等の加圧装置で大型の製造装置が必要となり、設備コストが大幅に向上してしまう。従って本発明により得られた酸化物超電導体は、通常のプレス装置を用いても、通常のプレス装置では従来得られなかった厚さの前駆体に相当する厚さの酸化物超電導体の製造が可能であり、設備コストを上昇させることなく得ることが可能な酸化物超電導体である。
【0016】
本発明は前述の目的を達成するために、積み重ねられた酸化物超電導体のうち、上下に接する酸化物超電導体が互いに接する部分において溶着一体化されてなることを特徴とする。
積み重ねられた前駆体どうしは半溶融凝固法に基づいて結晶成長されているので、上下に接する前駆体どうしには溶融凝固時に溶融して一体に接合された溶着一体化された部分が生成する。
本発明は前述の目的を達成するために、酸化物超電導体として具体的に、REBaCu7-X(REは希土類元素の1種又は2種以上を示す)なる組成であるものに適用することができる
【0017】
半溶融凝固法を行うと、種結晶を基にして積み上げられた複数の前駆体の結晶化が順次進行するが、半溶融状態の前駆体の内部ではR211相と液相とに分解した領域から、液相がR211相を押し出してゆく代わりに、R123相を生成するようにして前駆体の全体に結晶化が進行する。そして、半溶融状態において存在していたR211相は、最上段の前駆体の底部まで押し出された後で、1つ下段の前駆体側に移動し、1つ下段の半溶融状態の前駆体にR123相を生成させながら、該1つ下段の前駆体の底部側まで移動する。このようにして下段側の前駆体にR211相が順次移動する結果、最終的に結晶化されてできた酸化物超電導体の最底部の中央部にR211相が集積する。
【0018】
【発明の実施の形態】
図1と図2は本発明に係る製造方法を実施する状態を説明するための側面図であり、図1は円盤状をなす酸化物超電導体の前駆体1,2をそれらの厚さ方向に重ね合わせ、上側(上段側)の前駆体1の上部中央に種結晶3を設置した状態を示し、図2は図1に示す前駆体1、2に対して以下に説明する製造方法を実施することにより得られた酸化物超電導体5を示している。
本発明で用いる酸化物超電導体の前駆体1,2とは、目的とする酸化物超電導体の組成と同じ組成、あるいは、近似する組成の原料混合体の圧密体であり、本発明を適用できる酸化物超電導体として例えば、RE-Ba-Cu-O系(REはYを含む希土類元素La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうちの1種または2種以上を示す。)のものを例示することができる。
【0019】
ここで目的の酸化物超電導体がRE-Ba-Cu-O系の酸化物超電導体である場合、前駆体1、2として例えば、REの化合物粉末とBaの化合物粉末とCuの化合物粉末をRE:Ba:Cu=1:2:3、またはそれに近似する組成で混合した原料混合粉末を圧密したものなどを用いることができる。
先の化合物粉末をRE:Ba:Cu=1:2:3に近似する組成で混合する場合、REBaCu7-X相成分(R123相成分)に対するREBaCu相成分(R211相成分)の比で1.1以上、1.8以下の範囲、モル比では5モル%以上、40モル%以下の範囲が好ましい。なお、得られるバルク体の臨界電流密度の値は1.4近傍で飽和する傾向にある。また、R123相に対するR211相の比を1.1未満にすると、溶融凝固時に正常な結晶化の反応が進行し難くなる。
【0020】
前記モル比の具体的な数値として例えば、R123相成分とR211相成分の比を1.1(5モル%R211相成分)、1.2(10モル%R211相成分)、1.4(20モル%R211相成分)、1.8(40モル%R211相成分)に設定することができる。ここで例えば、比が1.8とは、Sm123のSmモル数が10モルに対してSm211のSmモル数が8モルになるようにすることを意味する。
即ち、10(REBaCu7-X)+4(REBaCu)=100(REBaCu7-X)+40(REBaCu)の関係となるような百分率と考える。従って本明細書で用いる比で1.1とは5モル%R211相成分を意味し、比で1.2とは10モル%R211相成分を意味し、比で1.4とは20モル%R211相成分を意味し、比で1.8とは40モル%R211相成分を意味する。
【0021】
この形態において前駆体1、2は先の組成の原料混合粉末をプレス装置、あるいは、CIP装置(静水圧装置)などの加圧装置により円盤状に成形したものを用いる。勿論、CIP装置が高価であるならば、プレス装置で前駆体1、2を製造する方が製造コストは安くなる。また、前駆体1、2の大きさは任意で良く、用いるプレス装置やCIP装置で製造可能な大きさの前駆体とすれば良い。
また、前駆体1、2を製造する場合、原料混合粉末を得た後、800~1000℃程度で仮焼きしてから粉砕装置で粉砕したものを再度混合するという仮焼き粉砕操作を必要回数行ったものを成形しても良い。粉末混合粉砕と仮焼き温度の条件として、めのう乳鉢あるいはアトライタやボールミル等の粉砕混合装置を用いて1時間程度混合した後に900℃程度で15時間程度仮焼きする条件等を例示することができる。
また、繰り返し複数回仮焼きして最終粉砕して混合する際、後に行う半溶融凝固法の際の溶融温度を下げるためと機械的強度を向上させる目的でAgOを添加すること、あるいは、Re211の微細化触媒としてのPtを添加物質として混合して成形体としたものを前駆体としても良い。なお、他の元素としてAuを添加物質として混合することもあり得る。
これらの添加物質は最終的に得られる酸化物超電導体の超電導特性を向上させるもの、あるいは超電導特性を阻害しないものであれば良い。例えば添加物質がAgであれば、酸化物超電導体に5~20wt%程度の範囲で添加できることが知られているので、銀を添加しても良い。
【0022】
このような行程を経て前駆体を製造する場合、仮焼き後に粉砕して粉砕物を再度混合する場合、粉砕物の粒径をできるだけ小さくして、それらの粒度を揃えることが望ましい。例えば粉砕物の粒径が300μmを越える大粒のものがほとんどないように最大粒径を300μm以下に、好ましくは50~100μm程度の範囲の平均粒径になるように粉砕することを例示できるが、この範囲よりも更に微細な平均粒径になるように粉砕して混合しても差し支えない。粉砕物の粒径については後述する実施例に記載のごとく50~100μm程度の範囲とすれば本発明の実施には十分である。
【0023】
これらの前駆体1、2を積み重ねる場合、単にそれらの中心を同軸位置に合わせてそれらの上面と下面を合わせて積み重ねるものとし、前駆体1を前駆体2の上に自重により載置した状態とする。勿論、上下の前駆体1、2の中心をずらして積み重ねても良い。この状態において前駆体1、2の重ねた面どうしの間は図1に示すように目視状態では密着しているが、密着部分を拡大してみると前駆体1、2の面どうしが完全な平面にはなり得ないことから、必然的に若干の隙間を有している。勿論、前駆体1、2を成形する際に上面と下面の形成精度を厳格に形成して面どうしの密着性を向上させても良いが、目視しても若干の隙間を確認できるような程度の面精度で形成した成形体からなる前駆体1、2を積み重ねた場合でも本発明で使用するには十分である。
なお、図1では略しているが、これらの積み重ねた前駆体1、2の下には、YSZ(イットリウム安定化ジルコニア)の膜あるいは板(厚さ0.1~0.2mmのシート)を敷き、更にそれらを支持する板状、ボート状、坩堝状などの耐熱材料製の基台を設置しておき、加熱時にこれらの基台とともに加熱炉に装入すれば良い。
先のYSZの膜あるいは板は前駆体1、2への不純物の侵入を阻止するもので、この膜あるいは板を下に敷いておかないと下側の前駆体2が他の物質に接触した部分から結晶化が起こり、最終的に得られる結晶が多結晶体になるか配向性の悪い結晶体になってしまう。
また、耐熱性の基台と前駆体2との反応を抑制するなどの目的で、基台の上に更に別途耐熱層や耐熱材料製の中間層、下地材などを適宜敷設しても良い。
【0024】
図1に示す積み重ね状態としたならば上段側の前駆体1の上に種結晶3を設置し、これらを加熱炉に装入し、半溶融凝固法に基づいて熱処理する。
ここで行う半溶融凝固法とは、予め酸化物超電導体の前駆体に種結晶を載せておき、この前駆体を融点以上の温度で液相と固相が共存する温度に加熱溶融させて半溶融状態とした後、冷却工程を行ない、種結晶を利用し、種結晶を起点として前駆体内に目的の酸化物超電導体の単結晶を成長させることにより、結晶構造の良好な超電導特性の優れた酸化物超電導体を得ようとする製造方法として知られている方法である。また、結晶成長を行う場合に本実施例では後述するように規定の結晶化開始温度において等温保持させて行うものとする。なお、本実施形態では前駆体に種結晶を載せてから加熱してゆくコールドシーディング(cold seeding)法を利用するが、半溶融状態にしてから種結晶を設置するホットシーディング法を利用しても差し支えないのは勿論である。
【0025】
この実施形態で用いる種結晶3とは、目的とする希土類酸化物超電導体とは異なる希土類を用いた種類の酸化物超電導体の単結晶体か薄膜を用いる。
例えば、目的の酸化物超電導体がSm系のものである場合、Sm系よりも包晶温度の高いNd系の酸化物超電導体の単結晶体あるいは薄膜を用いることができる。即ち、種結晶3は前駆体の半溶融温度において結晶状態を維持している必要があるので、用いる前駆体よりも包晶温度の高いものを用いる。
酸化物超電導薄膜として、MgOなどの耐熱性基板の上に成膜法により形成したNd系の酸化物超電導体の単結晶状のフィルムを有するものを適用できる。勿論、この他に、希土類として、Gd系、Dy系、Ho系、Y系など、半溶融凝固法に適用できる種々の系の単結晶体あるいは超電導薄膜を種結晶として適用することができる。
【0026】
即ち、まず、前駆体1、2の融点よりも若干高い最高到達温度(Tmax)に全体を加熱して前駆体1、2を半溶融状態とする。また、加熱雰囲気としては、大気中でも良いし、不活性ガス中に微量の酸素を供給した酸素雰囲気でも良い。例えば一例として、1%O濃度のArガス雰囲気を選択できる。
この際の加熱温度は、目的とする酸化物超電導体の組成によって、あるいは、熱処理する場合の雰囲気ガスの成分により若干異なるが、概ね1%O不活性ガス雰囲気中においてNd系の酸化物超電導体であるならば1000~1200℃の範囲、他の系の酸化物超電導体でも概ね950~1200℃の範囲である。また、昇温する際に急激に前駆体1、2を加熱するとクラック等の欠陥部分を導入する危険性があるので、徐々に温度を上げることが好ましい。また、前駆体を加熱して半溶融状態にするまでの間の温度勾配は、どのような温度勾配でも差し支えないが、最高到達温度付近で温度勾配を緩やかにしないと加熱炉の温度調整機能に依存して最高到達温度を遥かに飛び越した温度になってしまう可能性があるので、最高到達温度付近で温度勾配を緩やかにすることが好ましい。
【0027】
前駆体1、2を最高到達温度の半溶融状態としたならば、前駆体1、2の温度を先の温度から数10℃、例えば20~40℃程度下げた後、その温度で所定の時間保持する予備加熱を行った後、先の温度から数10℃、例えば20~40℃程度下げた結晶化開始温度に温度を下げて、その結晶化開始温度で数時間等温保持して結晶成長させてから炉冷する。これにより、図2に示すような2段重ねの酸化物超電導体5を得ることができる。
より具体的には、Sm系の酸化物超電導体を製造する場合、室温から900℃まで1時間程度かけて昇温し、そこから半溶融温度の1080±20℃まで1時間かけて徐々に昇温し、半溶融温度で40分程度保持し、5分程度かけて1050℃まで降温し、次いで5分程度かけて目的の結晶化温度1020℃で約5時間程度等温保持して結晶化し、その後に1時間程度かけて900℃まで降温し、その後に室温まで炉冷するという熱処理条件を例示できる。なお、先の1080±20℃まで一気に昇温しても差し支えないが、昇温時の温度勾配が高過ぎると半溶融温度の上限に定めた1100℃を飛び越えて加熱してしまい、前駆体を溶解させてしまうおそれがあるので、昇温の際の温度勾配は定めた1080±20℃を越えないように設定する必要がある。勿論、加熱装置が前駆体1、2を規定の温度に精密に制御できるものであるならば前述の昇温条件に拘束されるものではなく、また、組成に応じて定めた目的の半溶融温度の範囲に合わせて適宜の割合で昇温するのは勿論である。
【0028】
その他の系の酸化物超電導体の結晶生成温度としては、Y系が1000℃、Nd系が1060℃、Eu系が1050℃、Gd系が1030℃、Dy系が1010℃、Ho系が990℃、Er系が970℃、Yb系が900℃として知られているので、これらの系に要求される結晶化開始温度条件とする。
ところで、半溶融温度である最高到達温度とその後の等温保持時間は、例えば直径30mm程度の前駆体の場合、上述の条件が望ましいが、更に大きな直径の前駆体に適用する場合は前駆体の中心部と外周部で温度が不均一になり易いので温度と時間を適宜変更することができる。
また、先の結晶化開始温度において等温保持することが重要であり、この等温保持により、1個の種結晶に温度勾配をかけて徐冷しながらなされる従来の結晶成長時間において約100時間程度必要であったものを、本実施形態では、2個積み重ねた状態であっても約5時間程度の結晶成長時間に短縮することができる。これは本実施形態では等温処理で結晶成長できることによっている。
一般に半溶融凝固法においては、1個の前駆体に対して結晶化温度に設定した後、温度勾配をかけて徐々に冷却することで結晶成長を行うが、一般的な半溶融凝固法では前駆体の直径において20~30mmのものを結晶成長させるために100時間程度かけている。ところが、先の如く結晶化温度で等温保持して結晶成長させることで後述する実施例の如く直径20~30mmの前駆体を5時間程度で結晶化することができる。勿論、この等温で結晶化する場合の維持温度と維持時間は前駆体の大きさに応じて適宜調整して良い。
更に最終段階の炉冷による冷却時間や冷却条件は、用いる炉の大きさによって変わるので、自然放冷と同じゆるやかなもので、得られた酸化物超電導体にヒートショックをかけない程度の冷却条件で良い。
【0029】
半溶融状態の前駆体1に対して種結晶3を設置し、結晶化温度で保持しておくことで、前駆体1の内部ではREBaCu相(R211相)とL相(液相:3BaCuO+2CuO)とに分解し、種結晶を起点として、液相がR211相を下側に(種結晶から離れる側に)押し出すように移動しながら種結晶を起点としてREBaCu7-X(R123相)なる組成比の酸化物超電導体の結晶を成長させることができ、その結果として最終的に前駆体1の全体を結晶化させてREBaCu7-X相(R123相)の酸化物超電導体とする。
【0030】
次に、REBaCu7-Xなる組成比の酸化物超電導体の結晶が成長する過程において前駆体1の底部まで結晶成長が伝達すると、この結晶成長が前駆体2側に伝わり、前駆体2においてもその上部側から下部側に向かって結晶成長が進み、最終的に前駆体2においても全体がREBaCu7-Xなる組成比の酸化物超電導体となる。ここでの結晶成長は前駆体2の上に前駆体1を単に載置しておくだけで進行する。前駆体1、2を予めプレス装置やCIP装置などを用いた加圧法で一体化しておく必要はない。
【0031】
以上説明の如く製造された酸化物超電導体5は前駆体1、2の境界部分に目視可能な境界線6が存在するものの、結晶構造が整って結晶化された一体ものの酸化物超電導体となる。また、酸化物超電導体5の最底部中央側(前駆体2の底部中央側)には溶融凝固時の反応で液相から押し出される形で排出されつつ半溶融状態の前駆体1、2を上部側から下部側に移動した結果残留されたREBaCu相(R211相)を主体とする残留層7が形成される。更に酸化物超電導体5において境界線6の一部分を占めるように、前駆体1、2の境界部において有していたわずかな隙間部分が溶着一体化された際に生成した溶着部分8が形成される。
なお、上段側の前駆体1の結晶成長に伴ってR211相が前駆体1の底部側まで移動し、次いで下段側の前駆体2に結晶成長が移動する際、前駆体1と前駆体2の境界線6の部分周りにR211相が一部残留している領域があるものと思われる。
【0032】
次に、上述の如く得られた酸化物超電導体5の上面の一形状例を図3に示す。本発明で用いる溶融凝固法によれば、上面中央部に設置した種結晶3(図3では種結晶を略している)を基にして放射状に単結晶領域が成長し、矩形状の単結晶領域の角部が円盤の周縁部まで到達して図3に示すような十字状のファセットラインを有する単結晶領域15が生成し、その領域の外側には平面視弓形の多結晶領域16が生成する。しかし、図3に示す単結晶領域は一例であって、単結晶領域が円盤状の前駆体1、2の全域に完全に広がって生成する場合、単結晶領域が円盤状の前駆体1、2の周縁部の手前で停止して図3に示す単結晶領域16よりも小さな矩形状の単結晶領域となる場合等、いずれの場合もあり得る。
【0033】
そして、この形態の酸化物超電導体5は前駆体1、2を合わせた分の厚さのものとなり、前駆体1、2が等しい厚さであるならば、元の前駆体の2倍の厚さの酸化物超電導体5が得られる。この点において従来の製造方法においては、規定厚さの前駆体の2倍の厚さの酸化物超電導体を得ようとしたならば、前駆体自体を2倍の厚さに圧密成型してから半溶融凝固法を適用しなくてはならない。
即ち、2倍の厚さの前駆体を得るために2倍の厚さの前駆体を圧密成形可能なCIP装置などの特別な加圧装置を導入しなくてはならない。従って従来方法では2倍厚さ対応の高価なCIP装置を購入する必要があり、設備コストの大幅な上昇を見込まなくてはならないが、本発明方法では現状使用の加圧装置をそのまま使用しても容易に2倍厚さの酸化物超電導体を得ることができるので、極めて経済的であり、従来よりも厚い酸化物超電導体を設備コストの上昇を招く事なく実現することができる。
また、この方法によれば前駆体1、2の境界部分に境界線6を有するものの、実質的には単結晶領域15が酸化物超電導体5の上部から下部にかけて連続生成された構造となり、全体として一体化された結晶構造の酸化物超電導体となる。
【0034】
図4は本発明係る製造方法の第2の例を実施した場合に得られる酸化物超電導体の一形態を示す。この形態の酸化物超電導体9は、先の2段積みの前駆体1、2に対して3段積みの前駆体に半溶融凝固法を適用して得られたものである。
この図4に示すように前駆体を3段積みしても良い。3段積みした前駆体であっても先の条件とほぼ同等の半溶融凝固法を適用すれば、最上段の前駆体1の結晶化を2段目の前駆体2に伝達することができ、2段目の前駆体2の結晶化を3段目の前駆体に伝達することができ、結果的に3段全ての前駆体とも同じように結晶化させて酸化物超電導体とすることができる。
【0035】
そして、3つの前駆体の境界位置に相当する位置には図4に示すように境界線6、10が生成し、境界線6,10によって酸化物超電導体9は目視的には3つの部分、上部酸化物超電導体9a、中央部酸化物超電導体9b、底部酸化物超電導体9cに分割されているように見えるが、最上部から最底部まで単結晶化された単結晶領域を有している。その単結晶領域の平面形状は図3で先に説明した単結晶領域15と同等となる。
また、この形態の酸化物超電導体9の底部9cの底面側中央には先の第1実施形態の場合と同様にR211相を主体とする残留層11が形成される。
【0036】
図4に示す構造であるならば、従来の前駆体の3倍分の厚さの酸化物超電導体9を得ることができ、先の第1の実施形態の場合よりも更に厚さの大きな酸化物超電導体9を得ることができる。
なお、3段積みした前駆体のそれぞれに形成される単結晶領域の例としては先に図3を基に説明した場合と同様に矩形状の単結晶領域を生成する場合と、前駆体の全体が単結晶領域となる場合のいずれの場合もあり得るのは先の実施の形態の場合と同様である。
【0037】
なお、これまで説明した実施形態においては、積み重ねた前駆体の全体を均一な温度に加熱あるいは冷却して目的を達成したが、積み重ねた前駆体に応じて温度勾配を与えても良い。例えば、半溶融状態から冷却し、結晶化温度以下にするとその部分から結晶成長が始まるので、最初に最上段の前駆体1のみを結晶化開始温度以下の温度にしておき、それよりも下段側の前駆体は半溶融温度のまま保持し、1段目の前駆体1の結晶化が終了した時点で2段目の前駆体を結晶化開始温度に加温し、3段目の前駆体は半溶融温度としておき、結晶化の進行に合わせて順次下段側の前駆体を結晶化開始温度にしてゆくというように温度勾配を与えながら結晶化を進行させて酸化物超電導体を製造しても良いのは勿論である
【0038】
【実施例】
「実施例1」
SmBaCu7-X系の酸化物超電導体を製造する目的で、酸化サマリウム(Sm)粉末と炭酸バリウム(BaCO)粉末と酸化銅(CuO)粉末をR123相成分(SmBaCu7-X相成分)とR211相成分(SmBaCu相成分)の比を1.1(5モル%R211相成分)、1.2(10モル%R211相成分)、1.4(20モル%R211相成分)、1.8(40モル%R211相成分)にそれぞれなるように個別に秤量し、個別にめのう乳鉢を用いて混合し、試験用の4種類の原料混合粉末を作製した。
【0039】
その後、各原料混合粉末を900℃で15時間仮焼きし、更に粉砕し、次いで900℃で15時間仮焼きを行った。この仮焼き粉に酸化銀(AgO)粉末を20wt%、白金(Pt)粉末を0.5wt%添加し、更に1時間混合して4種類の原料混合粉を得た。これらの原料混合粉を一軸加圧プレスにより直径20mm、厚さ5mmの複数のペレットに成型し、複数の前駆体とした。
これらのペレットにおいて、外径の等しいものを2段積み、あるいは3段積みにして試験体とし、これらに種結晶としてNdBaCu7-Xの組成の薄膜を設置し、大気中において以下の加熱パターンに応じて加熱処理した。この薄膜はMgOの基板上に先の組成比の10×10mmの厚さ700nmの酸化物超電導薄膜を成膜し、これを1mm角程度の大きさに割って使用したものである。
【0040】
加熱処理においては、大気中において各試験体に対して室温から900℃まで1時間かけて加熱し、900℃から1080℃まで1時間かけて加熱し、この温度で40分間保持し、次に5分かけて1050℃まで降温し、1050℃で1時間保持し、その後に5分かけて1020℃まで降温し、この温度を10~20時間保持し、次に1時間かけて900℃まで降温し、その後に1時間かけて室温まで降温した。
以上の工程により得られた試料のうち、Sm123相成分に対してSm211相成分を40モル%の比率とした試料の単結晶領域どうしの部分において、上下の酸化物超電導体の接合境界部分の断面の拡大写真を図5に示す。
図5に示すように上下の酸化物超電導体の境界部分には、黒点が点々と数珠状に横方向につながって形成されていた。また、図5において複数存在する大きな黒丸は空孔を示し、白抜きの不定形の部分は銀粒子の存在している部分を示し、その他の灰色の無地の部分の多くの部分はR123相の単結晶が成長した部分に相当する。また、図5の写真よりも更に倍率を上げて撮影した写真では、単結晶が成長した部分に不定形の微細なR211相の存在を多数確認でき、R123相中にR211相が分散された組織となっていることを確認できたが、図5に示す写真で示す倍率ではR211相の存在は確認できない大きさとなっている。
【0041】
この図5に示す数珠状に繋がっている黒点のうちの1つをエネルギー分散型X線分光法により元素分析した結果を図6に示す。この境界部分の黒点部分の分析の結果、SmとBaとCuとOがほぼ1:2:3:(7程度)の割合で存在し、この黒点部分はSmBaCu7-Xの組成の酸化物超電導体であるものと推定できる。
図6に示す分析結果から本発明により得られる酸化物超電導体は上下の前駆体の部分の境界を単結晶が良好な結晶整合性でもって一体化したものであると推定できる。
【0042】
次に先の工程により得られた各酸化物超電導体試料について、各試料が非超電導状態にあるとき、それぞれ200~5000Gの磁界をヘルムホルツ型コイルで印加後、液体窒素温度(77.3K)に冷却する磁場中冷却を行って各試料を冷却し、冷却後にホール素子を用いて各試料表面の磁界を検出し、磁界分布を測定した。
代表例として1.8の比率(40モル%)の原料混合粉末を用いて製造された外径17mmの試料に対する各印加磁場(0~5000G)での捕捉磁場分布を測定した結果を図7に示す。なお、この試料はペレットの状態では外径20mmであったが、溶融凝固反応後は外径17mmの酸化物超電導体になったものである。
【0043】
図7はSm211相成分を40モル%添加した原料混合粉末から製造した試料の捕捉磁場分布を3次元表示した図、図8はSm211相成分を40モル%添加した原料混合粉末から製造した試料の捕捉磁場分布を3次元表示した図、図9はSm211相成分を40モル%添加した原料混合粉末から製造した試料の捕捉磁場分布を3次元表示した図である。いずれの試料においてもシングルピークの優れた数値を示している。
以上の試験結果から、前駆体を2つ重ねたものを半溶融凝固法により結晶化して一体化し、酸化物超電導体としたものにおいて、シングルピークを有する優れた酸化物超電導体とすることができるとともに、捕捉磁場を向上させた酸化物超電導体を製造しようとする場合は、Sm211相成分を微細かつ均質にできるだけ多量に分散させることが好ましいものと思われる。
【0044】
図10は先の前駆体を製造した工程において仮焼きして得られた後の粉末の粒度分布測定結果を示す。仮焼1回目と2回目の各工程における粒度分布状況を見ると、53μm以下のものの割合と53~106μmのものの割合と106~300μmのものの割合と300~500μmのものの割合から見て、仮焼1回目では53~300μmのものが多く、仮焼2回目では53~106μmの粒度のものが多いことから、仮焼物をそれほど微細化しなくとも本発明の前駆体の成形に利用できることから、本発明では仮焼物をそれほど微細化しなくとも優れた酸化物超電導体を製造できることが明らかになった。勿論、仮焼物を更に微細化して微細粒径の粉末状に加工してから成型しても良いが、粉砕加工に手間がかかることになる。
【0045】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明によれば、REBaCu7-X(REは希土類元素の1種又は2種以上を示す)なる組成の酸化物超電導体を製造するに際し、目的とするREBaCu7-Xなる組成の酸化物超電導体を構成する元素の化合物を混合した原料の圧密体であって、REBaCu7-X成分が1.1(5モル%REBaCu相成分)以上、1.8(40モル%REBaCu相成分)以下の範囲となるような配合比とした原料の圧密体としての複数の前駆体を積み重ね、最上段の前駆体に対して種結晶を基に、半溶融状態とし、等温保持した後、降温して結晶化開始温度よりも高い温度域に等温保持する予備加熱を行った後、予備加熱温度よりも低い結晶化開始温度に降温し、該結晶化開始温度において等温保持したまま結晶化を行い、その後に降温して前駆体を結晶化して酸化物超電導体とする半溶融凝固法により、結晶成長させてその前駆体を酸化物超電導体にすることができるとともに、その前駆体の下段側に設けた他の前駆体にも結晶化を伝搬させることができ、上段側の結晶化した酸化物超電導体の結晶構造を基に順次結晶化させて全体を酸化物超電導体とすることができる。この際、積み重ねた前駆体どうしは相互に加圧密着させる必要はなく、単に自重によって自然に接触している状態で良い。これにより、従来の前駆体を用いて得られていた酸化物超電導体の数倍もの厚さの酸化物超電導体を前駆体の単なる積み重ね作業を行うことにより製造できる効果を奏する。しかもその酸化物超電導体は捕捉磁場の分布がシングルピークとなる優れた超電導特性を有するものとなる。
次に、積み重ねた前駆体を結晶化する場合、半溶融状態とし、等温保持した後、降温して結晶化開始温度よりも高い温度域に等温保持する予備加熱を行った後、予備加熱温度よりも低い結晶化開始温度に降温し、該結晶化開始温度において等温保持したまま結晶化を行うことにより、徐冷して結晶化する方法よりも遥かに短時間で全体を結晶化することができる。しかも、上段側の前駆体の結晶化を下段側の前駆体の結晶化に伝播させることで従来よりも数倍厚い酸化物超電導体を従来よりも短時間で容易に得ることができる。また、具体的には前述の製造方法により、直径20~30mmの前駆体を結晶成長させることができる。
【0046】
本発明は酸化物超電導体として、REBaCu7-X(REは希土類元素の1種又は2種以上を示す)なる組成の酸化物超電導体に適用することができる。 更に本発明は、前記複数積み重ねた上下の前駆体の間を完全密着状態ではなく自然載置状態で実現できるので、製造コストを上昇させることなく大型の酸化物超電導体の製造を可能とする効果がある。
【0047】
本発明は、目的とするREBaCu7-Xなる組成の酸化物超電導体を構成する元素の化合物を混合した原料の圧密体であって、REBaCu7-X相成分に対するREBaCu相成分の比の値を1.1以上、1.8以下の範囲となるような配合比とした原料の圧密体を用いるので、積み上げた前駆体の全てに結晶成長を円滑に伝達させて全体を確実に酸化物超電導体とすることができる効果を奏する。
また、本発明は、原料を混合して圧密し仮焼した後に粉砕し、その粉砕物を再度圧密した前駆体を用いる場合、平均粒径を50~100μmの範囲とした粉砕物を用いることで、目的の酸化物超電導体を製造することができる。
【0048】
本発明による酸化物超電導体であるならば、従来の前駆体を製造する手法では得られない厚さに対応する厚さの酸化物超電導体が従来よりも容易に、しかも、特別な加圧装置を要することなく安価に得られる。更に、得られた酸化物超電導体は捕捉磁場の分布がシングルピークとなる優れた超電導特性を有するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は本発明方法を実施している状態を説明するためのもので、前駆体を2つ積み重ねたものの上に種結晶を設置した状態を示す側面図である。
【図2】 図2は本発明方法を実施して得られた本発明に係る酸化物超電導体の第1の実施形態の側面図である。
【図3】 図3は本発明方法で得られた酸化物超電導体の平面形状の一例を示す図である。
【図4】 図4は本発明に係る酸化物超電導体の第2の実施形態の側面図である。
【図5】 図5は実施例で得られた酸化物超電導体の結晶化領域の境界部分の断面組織写真である。
【図6】 図6は図5に示す試料の境界部分の黒点部分の分析結果を示す図である。
【図7】 図7は実施例で得られた酸化物超電導体の捕捉磁場分布を示す図である。
【図8】 図8は実施例で得られた第1の例の酸化物超電導体試料の捕捉磁場の3次元分布図である。
【図9】 図9は実施例で得られた第2の例の酸化物超電導体試料の捕捉磁場の3次元分布図である。
【図10】 図10は実施例で適用された前駆体形成用粉砕物の粒度分布を示す図である。
【符号の説明】
1、2…前駆体、3…種結晶、5、9…酸化物超電導体、6、10…境界線、15…単結晶領域、16…多結晶領域。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9