TOP > 国内特許検索 > 固定構造物の圧力波低減構造 > 明細書

明細書 :固定構造物の圧力波低減構造

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4205456号 (P4205456)
公開番号 特開2004-270345 (P2004-270345A)
登録日 平成20年10月24日(2008.10.24)
発行日 平成21年1月7日(2009.1.7)
公開日 平成16年9月30日(2004.9.30)
発明の名称または考案の名称 固定構造物の圧力波低減構造
国際特許分類 E01F   8/00        (2006.01)
E21D   9/14        (2006.01)
E21F   1/00        (2006.01)
FI E01F 8/00
E21D 9/14
E21F 1/00 Z
請求項の数または発明の数 17
全頁数 23
出願番号 特願2003-064032 (P2003-064032)
出願日 平成15年3月10日(2003.3.10)
審査請求日 平成17年6月28日(2005.6.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】飯田 雅宣
【氏名】福田 傑
【氏名】菊地 勝浩
個別代理人の代理人 【識別番号】100104064、【弁理士】、【氏名又は名称】大熊 岳人
審査官 【審査官】小山 清二
参考文献・文献 特開平10-329715(JP,A)
特開2000-080890(JP,A)
特開平09-221990(JP,A)
特開平05-125706(JP,A)
特開昭51-144026(JP,A)
特開2003-056285(JP,A)
特開平04-182502(JP,A)
特開平04-353193(JP,A)
特開平09-221721(JP,A)
特開平11-044188(JP,A)
特開2001-220996(JP,A)
特開2002-188398(JP,A)
特開2002-147190(JP,A)
特開平08-04032(JP,A)
特開平10-205299(JP,A)
実開平05-071297(JP,U)
特開平08-227604(JP,A)
特開平08-053815(JP,A)
特開平05-140914(JP,A)
特開昭62-170601(JP,A)
特公昭48-005290(JP,B1)
特開平11-280020(JP,A)
特開平07-062608(JP,A)
特開2000-355908(JP,A)
特開2004-257230(JP,A)
調査した分野 E01F 8/00
E21D 9/14
E21F 1/00
特許請求の範囲 【請求項1】
上下線の一方の本線を移動する移動体が固定構造物の出入口に突入するときにこの出入口から外部に放射する圧力波と、前記上下線の他方の本線を移動する移動体が前記出入口から退出するときにこの出入口から外部に放射する圧力波とを低減する固定構造物の圧力波低減構造であって、
前記固定構造物は、前記移動体が時速300km/h以上の高速で内部を通過する複線トンネル又は複線トンネル緩衝工であり、これらの内部の左右の側壁のうち前記移動体に近接する側壁側に強く放射される前記圧力波を低減するために、前記出入口を前記上下線の間仕切る仕切手段を備え、
前記仕切手段は、前記移動体の移動方向における長さが前記出入口の断面積と同一の断面積を有する円の半径以上であり、この出入口にこの移動体が突入するときに前記固定構造物の内部に発生する圧縮波の波面の長さ以下であること、
を特徴とする固定構造物の圧力波低減構造。
【請求項2】
上下線の一方の本線を移動する移動体が固定構造物の出入口に突入するときにこの出入口から外部に放射する圧力波と、前記上下線の他方の本線を移動する移動体が前記出入口から退出するときにこの出入口から外部に放射する圧力波とを低減する固定構造物の圧力波低減構造であって、
前記固定構造物は、前記移動体が時速300km/h以上の高速で下方を通過する跨線橋、橋上駅又は立体交差であり、これらの下方の左右の脚部のうち前記移動体に近接する脚部側に強く放射される前記圧力波を低減するために、前記出入口を前記上下線の間で仕切る仕切手段を備え、
前記仕切手段は、前記移動体の移動方向における長さが前記出入口の断面積と同一の断面積を有する円の半径以上であり、この出入口にこの移動体が突入するときに前記固定構造物の内部に発生する圧縮波の波面の長さ以下であること、
を特徴とする固定構造物の圧力波低減構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、
前記仕切手段は、前記固定構造物を上り線側の空間と下り線側の空間とに完全に仕切る仕切壁を備えること、
を特徴とする固定構造物の圧力波低減構造。
【請求項4】
請求項1又は請求項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、
前記仕切手段は、前記固定構造物を上り線側の空間と下り線側の空間とに空間の一部を仕切る仕切壁を備えること、
を特徴とする固定構造物の圧力波低減構造。
【請求項5】
請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、
前記仕切手段は、前記固定構造物の断面形状が前記移動体を中心に略左右対称になるように上り線側の空間と下り線側の空間とを仕切る仕切壁を備えること、
を特徴とする固定構造物の圧力波低減構造。
【請求項6】
請求項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、
前記固定構造物は、前記出入口から内部に向かって前記上り線を覆う単線トンネル部と前記下り線を覆う単線トンネル部とを備え、
前記仕切壁は、隣接する前記単線トンネル部の間の壁部であること、
を特徴とする固定構造物の圧力波低減構造。
【請求項7】
請求項又は請求項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、
前記仕切壁は、断面形状が略Y字状又は湾曲状であること、
を特徴とする固定構造物の圧力波低減構造。
【請求項8】
請求項から請求項までのいずれか1項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、
前記仕切壁は、長さ方向のトンネル奥側の端部に上下方向に傾斜する傾斜部を有すること、
を特徴とする固定構造物の圧力波低減構造。
【請求項9】
請求項から請求項までのいずれか1項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、
前記仕切壁は、この仕切壁を貫通する複数の貫通孔を有すること、
を特徴とする固定構造物の圧力波低減構造。
【請求項10】
請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、
前記固定構造物は、前記出入口から外部に向かって前記上下線の外側に一対の傾斜側壁を備え、
前記仕切手段は、前記出入口から外部に向かって前記上下線の間に前記一対の傾斜側壁と略同一形状の傾斜壁部を有する仕切壁を備えること、
を特徴とする固定構造物の圧力波低減構造。
【請求項11】
請求項1又は請求項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、
前記仕切手段は、前記上下線の間に流体を流して流体膜を形成する流体膜形成装置を備えること、
を特徴とする固定構造物の圧力波低減構造。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、
前記固定構造物は、前記圧力波を低減するために前記出入口にフランジ部を備えること、
を特徴とする固定構造物の圧力波低減構造。
【請求項13】
請求項1から請求項12までのいずれか1項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、
前記仕切手段は、前記移動体の側面と対向する前記固定構造物の側壁を垂直な側壁に近似したときに、この垂直な側壁までの距離の中間点がこの移動体の中心と略一致する位置に設置されていること、
を特徴とする固定構造物の圧力波低減構造。
【請求項14】
請求項1から請求項12までのいずれか1項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、
前記仕切手段は、前記移動体の移動方向と交差する水平方向に放射する前記圧力波の強さが上り線側と下り線側とで異なるように、前記上り線側又は前記下り線側にずらして設置されていること、
を特徴とする固定構造物の圧力波低減構造。
【請求項15】
請求項1から請求項14までのいずれか1項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、
前記移動体の移動方向と交差する方向に前記仕切手段による仕切位置を可変する可変手段を備えること、
を特徴とする固定構造物の圧力波低減構造。
【請求項16】
請求項15に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、
前記可変手段は、
前記移動体が前記出入口に突入するときには、この移動体が突入する側の空間がこの移動体を中心に略左右対称になるように前記仕切位置を可変し、
前記移動体が前記出入口から退出するときには、この移動体が退出する側の空間がこの移動体を中心に略左右対称になるように前記仕切位置を可変すること、
を特徴とする固定構造物の圧力波低減構造。
【請求項17】
請求項15又は請求項16に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、
前記可変手段は、前記上下線を移動する移動体の速度が異なるときに、速度の速い前記移動体が移動する側の空間がこの移動体を中心に略左右対称になるように前記仕切位置を可変すること、
を特徴とする固定構造物の圧力波低減構造。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、上下線の一方の本線を移動する移動体が固定構造物の出入口に突入するときにこの出入口から外部に放射する圧力波と、前記上下線の他方の本線を移動する移動体が前記出入口から退出するときにこの出入口から外部に放射する圧力波とを低減する圧力波低減構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
図20は、トンネルに列車が突入するときに坑口から外部に放射する圧力波の概念図である。図21は、トンネルから列車が退出するときに坑口から外部に放射する圧力波の概念図である。
図20に示すように、列車101がトンネル103の坑口103aに突入すると列車101の前方のトンネル103内に圧縮波W1 が発生し、この圧縮波W1 がトンネル103内を伝播する。その結果、パルス状の圧力波(以下、トンネル微気圧波という)W2 が突入側の坑口103aとは反対側の坑口103bから外部に放射する。また、図21に示すように、列車101がトンネル103の坑口103bから退出すると列車101の後方のトンネル103内に圧縮波W3 が発生し、この圧縮波W3 がトンネル103内を伝播する。その結果、トンネル微気圧波W4 が退出側の坑口103bとは反対側の坑口103aから外部に放射する。このトンネル微気圧波W2 ,W4 は、坑口103a,103b付近で衝撃音を発生させたり、坑口103a,103b付近の家屋の建具などを揺らしたりして、環境問題を引き起こす場合がある。このため、このようなトンネル微気圧波W2 ,W4 を低減するトンネル緩衝工を、列車101が突入する突入側の坑口103a,103bに設置したり、列車101の列車先頭部の形状を先鋭化したりするなどの対策がなされている。一方、列車101の高速化とともに新たな問題が発生している。
【0003】
図20に示すように、列車101がトンネル103の坑口103aに突入すると反対側の坑口103bから放射されるトンネル微気圧波W2 だけではなく、20Hz未満を主成分とする圧力波(以下、突入波という)W5 が突入側の坑口103aから外部に放射される。また、図21に示すように、列車101がトンネル103の坑口103bから退出すると反対側の坑口103aから放射されるトンネル微気圧波W4 だけではなく、20Hz未満を主成分とする圧力波W6 (以下、退出波という)が退出側の坑口103bから外部に放射される。この突入波W5 及び退出波W6 は、トンネル微気圧波W2 ,W4 と同様に坑口103a,103b付近の家屋の建具などを揺らすなどの環境問題を引き起こす場合がある。この突入波W5 及び退出波W6 は、振幅が列車101の速度の3乗に略比例し、坑口103a,103bから観測点までの距離に略反比例するような特性を有し、新幹線などの高速鉄道では環境に与える影響が大きくなる。
【0004】
また、この突入波W5 及び退出波W6 は、列車101の移動方向に対して前後方向で強さが異なり(指向性があり)、坑口103a,103bの明り側よりもトンネル103側に強く放射される。例えば、列車先頭部が坑口103aに突入すると、先頭車両の運転席から見て前側(トンネル103の奥側)のほうが後側(トンネル103の手前側)よりも突入波W5 が強く放射される。さらに、複線トンネルの場合には、列車101を中心としてトンネル103が左右対称ではない。このため、この突入波W5 及び退出波W6 は、列車101の移動方向に対して直交する左右方向で強さが異なり(指向性があり)、トンネル103の中心軸線に対して列車101の中心軸線が偏っている側(トンネル103に対して列車101が偏っている側)に強く放射される。例えば、日本の鉄道のように列車101が左側通行である場合には、列車先頭部が坑口103aに突入すると、列車101の先頭車両の運転席から見て左側のほうが右側よりも突入波W5 が強く放射される。
【0005】
このため、坑口から外部に向かって斜め側壁を設置したり、フランジ部やフレア部を坑口に設置したり、複線トンネル緩衝工の側壁にスリット状の開口部を設置したりして、突入波W5 及び退出波W6 を低減するトンネル圧力波低減構造が知られている。例えば、従来の複線トンネルの圧力波低減構造は、列車の移動方向に対して前後方向の突入波及び退出波を低減するために、複線トンネル緩衝工の坑口にフランジ部を備えている(特許文献1参照)。また、従来の複線トンネル緩衝工は、列車の移動方向に対して直交する左右方向の突入波及び退出波を低減するために、この複線トンネル緩衝工の坑口に突入する側の側壁を線路の外側に拡大して、複線トンネル緩衝工の中心軸線と列車の中心軸線とを一致させている(特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開2001-115795号公報(段落番号0022及び図1)
【0007】
【特許文献2】
特開2002-21500号公報(段落番号0022~0025及び図1)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従来の複線トンネル緩衝工では、フランジ部を坑口に設置したり側壁を拡大したりするため広い用地を新たに買収する必要があり経済的な負担になるという問題があった。また、従来の複線トンネル緩衝工では、突入側の列車の中心軸線と複線トンネル緩衝工の中心軸線とを一致させているが、退出側の列車の中心軸線と複線トンネル緩衝工の中心軸線とがずれている。その結果、坑口に突入する列車が発生する突入波を低減することができるが、この列車とは反対方向を走行しこの坑口から退出する列車が発生する退出波を低減することができないという問題点があった。
【0009】
この発明の課題は、固定構造物の出入口に移動体が突入するときに発生する圧力波とこの出入口から移動体が退出するときに発生する圧力波とを低減することができる固定構造物の圧力波低減構造を提供することである。
【0010】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、上下線の一方の本線(2a)を移動する移動体(1)が固定構造物(3,7)の出入口(3a,7a)に突入するときにこの出入口から外部に放射する圧力波(W5 )と、前記上下線の他方の本線(2b)を移動する移動体が前記出入口から退出するときにこの出入口から外部に放射する圧力波(W6 )とを低減する固定構造物の圧力波低減構造であって、前記固定構造物は、前記移動体が時速300km/h以上の高速で内部を通過する複線トンネル(3)又は複線トンネル緩衝工(7)であり、これらの内部の左右の側壁(3c,3d,7c,7d)のうち前記移動体に近接する側壁(3c,7c)側に強く放射される前記圧力波を低減するために、前記出入口を前記上下線の間仕切る仕切手段(5,6)を備え、前記仕切手段は、前記移動体の移動方向(A,B)における長さ(L13)が前記出入口の断面積と同一の断面積を有する円の半径(D11/2)以上であり、この出入口にこの移動体が突入するときに前記固定構造物の内部に発生する圧縮波(W1)の波面の長さ以下であることを特徴とする固定構造物の圧力波低減構造(4)である。
【0011】
請求項2の発明は、上下線の一方の本線(2a)を移動する移動体(1)が固定構造物(8)の出入口(8a,8b)に突入するときにこの出入口から外部に放射する圧力波(W5 )と、前記上下線の他方の本線(2b)を移動する移動体が前記出入口から退出するときにこの出入口から外部に放射する圧力波(W6 )とを低減する固定構造物の圧力波低減構造であって、前記固定構造物は、前記移動体が時速300km/h以上の高速で下方を通過する跨線橋、橋上駅又は立体交差であり、これらの下方の左右の脚部(8c,8d)のうち前記移動体に近接する脚部(8c)側に強く放射される前記圧力波を低減するために、前記出入口を前記上下線の間で仕切る仕切手段(5,6)を備え、前記仕切手段は、前記移動体の移動方向(A,B)における長さ(L13)が前記出入口の断面積と同一の断面積を有する円の半径(D11/2)以上であり、この出入口にこの移動体が突入するときに前記固定構造物の内部に発生する圧縮波(W1)の波面の長さ以下であることを特徴とする固定構造物の圧力波低減構造(4)である。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、前記仕切手段は、前記固定構造物を上り線(2a)側の空間(S1 )と下り線(2b)側の空間(S2 )とに完全に仕切る仕切壁(5)を備えることを特徴とする固定構造物の圧力波低減構造である。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1又は請求項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、前記仕切手段は、前記固定構造物を上り線側の空間と下り線側の空間とに空間の一部を仕切る仕切壁を備えることを特徴とする固定構造物の圧力波低減構造である。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、前記仕切手段は、前記固定構造物の断面形状が前記移動体を中心に略左右対称になるように上り線側の空間と下り線側の空間とを仕切る仕切壁を備えることを特徴とする固定構造物の圧力波低減構造である。
【0015】
請求項6の発明は、請求項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、前記固定構造物は、前記出入口(3a)から内部に向かって前記上り線を覆う単線トンネル部(3g)と前記下り線を覆う単線トンネル部(3h)とを備え、前記仕切壁は、隣接する前記単線トンネル部の間の壁部(5)であることを特徴とする固定構造物の圧力波低減構造である。
【0016】
請求項7の発明は、請求項又は請求項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、前記仕切壁は、断面形状が略Y字状又は湾曲状であることを特徴とする固定構造物の圧力波低減構造である。
【0017】
請求項8の発明は、請求項から請求項までのいずれか1項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、前記仕切壁は、長さ方向のトンネル奥側の端部に上下方向に傾斜する傾斜部(5a)を有することを特徴とする固定構造物の圧力波低減構造である。
【0018】
請求項9の発明は、請求項から請求項までのいずれか1項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、前記仕切壁は、この仕切壁を貫通する複数の貫通孔(5b)を有することを特徴とする固定構造物の圧力波低減構造である。
【0019】
請求項10の発明は、請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、前記固定構造物(3,7,8)は、前記出入口(3a,7a,8a,8b)から外部に向かって前記上下線の外側に一対の傾斜側壁(3e,3f,7e,7f,8e~8h)を備え、前記仕切手段は、前記出入口から外部に向かって前記上下線の間に前記一対の傾斜側壁(5c,5d)と略同一形状の傾斜壁部を有する仕切壁(5)を備えることを特徴とする固定構造物の圧力波低減構造である。
【0020】
請求項11の発明は、請求項1又は請求項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、前記仕切手段は、前記上下線の間に流体を流して流体膜(F)を形成する流体膜形成装置(6)を備えることを特徴とする固定構造物の圧力波低減構造である。
【0021】
請求項12の発明は、請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、前記固定構造物は、前記圧力波を低減するために前記出入口にフランジ部(7g)を備えることを特徴とする固定構造物の圧力波低減構造である。
【0022】
請求項13の発明は、請求項1から請求項12までのいずれか1項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、前記仕切手段は、前記移動体の側面と対向する前記固定構造物の側壁(3c,3d,7c,7d)を垂直な側壁(3c' ,3d' )に近似したときに、この垂直な側壁までの距離(L)の中間点がこの移動体の中心(O1 ,O2 )と略一致する位置に設置されていることを特徴とする固定構造物の圧力波低減構造である。
【0023】
請求項14の発明は、請求項1から請求項12までのいずれか1項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、前記仕切手段は、前記移動体の移動方向と交差する水平方向(C,D)に放射する前記圧力波の強さが上り線側と下り線側とで異なるように、前記上り線側又は前記下り線側にずらして(ΔL)設置されていることを特徴とする固定構造物の圧力波低減構造である。
【0024】
請求項15の発明は、請求項1から請求項14までのいずれか1項に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、前記移動体の移動方向と交差する方向に前記仕切手段による仕切位置(P0 )を可変する可変手段(9)を備えることを特徴とする固定構造物の圧力波低減構造である。
【0025】
請求項16の発明は、請求項15に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、前記可変手段は、前記移動体が前記出入口に突入するときには、この移動体が突入する側の空間(S1 )がこの移動体を中心に略左右対称になるように前記仕切位置を可変し、前記移動体が前記出入口から退出するときには、この移動体が退出する側の空間(S2 )がこの移動体を中心に略左右対称になるように前記仕切位置を可変することを特徴とする固定構造物の圧力波低減構造である。
【0026】
請求項17の発明は、請求項15又は請求項16に記載の固定構造物の圧力波低減構造において、前記可変手段は、前記上下線を移動する移動体の速度が異なるときに、速度の速い前記移動体が移動する側の空間がこの移動体を中心に略左右対称になるように前記仕切位置を可変することを特徴とする固定構造物の圧力波低減構造である。
【0029】
【発明の実施の形態】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1は、この発明の第1実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造を備えるトンネルの斜視図である。図2は、この発明の第1実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造における仕切壁の正面図である。図3は、この発明の第1実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造における仕切壁の側面図である。図4は、この発明の第1実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造における仕切壁の設置位置を説明するための模式図である。
【0030】
列車1は、軌道2に沿って移動する移動体である。列車1は、例えば、300km/h以上の高速で走行する新幹線車両である。軌道2は、列車1が走行する通路(移動経路)である。軌道2は、図1に示すように、二本の本線で構成された複線であり、上り本線となる線路2aと、下り本線となる線路2bとから構成されている。トンネル3は、山腹などの地中を貫通して列車1を通過させるための固定構造物(土木構造物)であり、図1及び図2に示すように線路2a,2bを一つのトンネル内に収容する複線用の鉄道トンネル(複線トンネル)である。トンネル3は、図1及び図3に示すように、列車1が突入及び退出する出入口となる坑口3aと、図2に示すようにトンネル3の上半分を形成する半円状のアーチ部3bと、トンネル3の下半分の両側部分を形成する側壁3c,3dなどから構成されている。
【0031】
圧力波低減構造4は、線路2aを移動する列車1がトンネル3の坑口3aに突入するときにこの坑口3aから外部に放射される突入波W5 と、線路2bを移動する列車1がこの坑口3aから退出するときにこの坑口3aから外部に放射される退出波W6 とを低減する構造である。圧力波低減構造4は、図1~図3に示すように、トンネル3の内部を線路2aと線路2bとの間で仕切る仕切壁5を備えている。
【0032】
仕切壁5は、突入波W5 及び退出波W6 を低減するために線路2aと線路2bと間を仕切る固定構造物である。仕切壁5は、図1に示すように、列車1が線路2aをA方向に移動して坑口3aに突入したときにC方向に強く放射する突入波W5 を低減し、列車1が線路2bをB方向に移動して坑口3aから退出したときにD方向に強く放射する退出波W6 を低減する。仕切壁5は、図2に示すように、トンネル3を線路2a側の空間S1 と線路2b側の空間S2 とに完全に仕切る垂直な壁部であり、トンネル3と一体に構築されている。仕切壁5は、図に示すように、トンネル3の側壁3c,3dまでの距離Lの中間点が線路2a,2bの中心O1 ,O2 と略一致する位置に設置されている。この実施形態では、図4に示すように、列車1の側面と対向するトンネル3の湾曲した側壁3c,3dを垂直面3c' ,3d' に近似したときに、線路2a,2bの中心O1 ,O2 及び列車1の中心を通過する中心線L1 ,L2 上に、垂直面3c' ,3d' と仕切壁5の側面との間の中間点が位置するようにこの仕切壁5を設置することが好ましい。仕切壁5は、図1及び図3に示すように、長さ方向の端部(仕切壁5の坑口3a側とは反対側(トンネル奥側)の端部)に上下方向に傾斜する傾斜部5aを有する。
【0033】
次に、この発明の第1実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造の作用を説明する。
図3に示すように、線路2aをA方向に移動する列車1が坑口3aに突入するとこの坑口3aから外部に突入波W5 が放射し、線路2bを走行する列車1がトンネル3の坑口3aから退出するとこの坑口3aから外部に退出波W6 が放射する。このとき、図3に示すように、波面が球面状の突入波W5 及び退出波W6 が坑口3aから全方向に放射する。トンネル3が複線トンネルである場合には、図2に示すようにトンネル3の中心を通過する垂直な中心線L0 に対して、線路2aの中心O1 (列車1の中心)を通過する垂直な中心線L1 と、線路2bの中心O2 (列車1の中心)を通過する垂直な中心線L2 とがずれている。このため、仕切壁5が存在しない場合には、列車1を中心としてトンネル3の断面形状が左右対称ではない。
【0034】
トンネル3に仕切壁5が存在しない場合に、図1及び図2に示すように線路2aをA方向に移動する列車1が坑口3aに突入すると、列車1に近接する側壁3c側(図1に示すC方向)のほうが、列車1から遠隔の側壁3d側(図1に示すD方向)よりも突入波W5 が強く放射する。一方、トンネル3に仕切壁5が存在しない場合には、線路2bをB方向に移動する列車1が坑口3aから退出すると、D方向のほうがC方向よりも突入時とは逆に退出波W6 が強く放射する。
【0035】
一方、図1~図3に示すように、トンネル3に仕切壁5を設置した場合には、図2に示すように仕切壁5と側壁3c,3dとの間の中間点が線路2a,2bの中心O1 ,O2 と略一致する。このため、トンネル3の空間S1 ,S2 では列車1を中心としてトンネル3の断面形状が左右対称に近くなる。その結果、図1に示す線路2aをA方向に移動する列車1が坑口3aに突入すると、トンネル3に仕切壁5を設置しない場合に比べて、C方向に放射する突入波W5 が低減する。同様に、図1に示す線路2bをB方向に移動する列車1が坑口3aから退出すると、トンネル3に仕切壁5を設置しない場合に比べて、D方向に放射する退出波W6 が低減する。
【0036】
なお、トンネル3に仕切壁5を設置した場合には、トンネル3に仕切壁5を設置しない場合に比べて、線路2aをA方向に移動する列車1が坑口3aに突入するときにD方向に放射する突入波W5 が増加し、線路2aをB方向に移動する列車1が坑口3aから退出するときにC方向に放射する突入波W5 が増加する。しかし、トンネル3に仕切壁5を設置した場合には、トンネル3に仕切壁5を設置しない場合にC方向から見て最も大きかった突入波W5 が低減し、D方向から見て最も大きかった退出波W6 が低減する。その結果、トンネル3に仕切壁5を設置した場合には、C,D方向のいずれから見ても突入波W5 及び退出波W6 を合わせた圧力波の最大値が低減することになる。
【0037】
この発明の第1実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、突入波W5 及び退出波W6 を低減するために線路2aと線路2bと間を仕切壁5が仕切る。その結果、トンネル3の側壁3c,3dと仕切壁5との間をいずれか一方の側に片寄ることなく列車1が走行するため、C方向に放射する突入波W5 を低減するとともにD方向に放射する退出波W6 を低減することができる。また、従来の複線トンネル緩衝工のように側壁を拡大したりする必要がなくなるため、広い用地を新たに買収する必要がなくなり経済的な負担を軽減することができる。
【0038】
(2) この第1実施形態では、仕切壁5から側壁3c,3dまでの距離Lの中間点が線路2a,2bの中心O1 ,O2 と略一致する位置にこの仕切壁5が設置されている。その結果、列車1を中心としてトンネル3の断面形状が略左右対称に近似するため、C方向に放射する突入波W5 とD方向に放射する退出波W6 とを低減することができる。
【0039】
(3) この第1実施形態では、仕切壁5の長さ方向のトンネル奥側の端部に上下方向に傾斜する傾斜部5aが形成されている。その結果、線路2a,2bを移動する列車1が傾斜部5aの近傍を通過するときに発生する圧力変動を抑えることができる。
【0040】
(第2実施形態)
図5は、この発明の第2実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造における仕切壁の正面図である。以下では、図1~図3に示す部分と同一の部分については、同一の番号を付して詳細な説明を省略する。
図5に示す仕切壁5は、トンネル3を線路2a側の空間S1 と線路2b側の空間S2 とにこれらの空間S1 ,S2 の一部を仕切る垂直な壁部である。仕切壁5は、この仕切壁5の上端部とトンネル3のアーチ部3bとの間に隙間をあけて設置されており、架線を支持する支持装置(電車線支持物)Eを避けるように上部を開放している。この第2実施形態では、第1実施形態の効果に加えて、列車1が通過するときに発生する風圧が仕切壁5の上部の隙間を経由して裏側に回り込むため、この風圧によって仕切壁5が受ける圧力荷重を緩和させることができるとともに、仕切壁5を薄くすることができる。
【0041】
(第3実施形態)
図6は、この発明の第3実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造における仕切壁の正面図であり、図6(A)は断面形状が略Y字状の仕切壁の正面図であり、図6(B)は断面形状が湾曲状の仕切壁の正面図である。
図6に示す仕切壁5は、トンネル3の断面形状が列車1を中心に略左右対称になるように線路2a側の空間S1 と線路2b側の空間S2 とを仕切る壁部である。図6(A)に示す仕切壁5は、上部が線路2a,2b側に開くように断面形状が略Y字状に形成されており、列車1を中心としてトンネル3の断面形状を近似的に左右対称にしている。図6(B)に示す仕切壁5は、線路2a,2bをそれぞれ覆うように断面形状が湾曲状に形成されており、図6(A)に示す仕切壁5に比べて列車1を中心とするトンネル3の断面形状を一層左右対称に近づけている。この第3実施形態では、トンネル3の断面形状が列車1を中心に略左右対称になるため、C方向に強く放射する突入波W5 とD方向に強く放射する退出波W6 とを低減することができる。
【0042】
(第4実施形態)
図7は、この発明の第4実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造を備えるトンネルの斜視図である。
図7に示すトンネル3は、坑口3aから外部に向かって軌道2の外側に一対の傾斜側壁3e,3fを備えている。傾斜側壁3e,3fは、C,D方向から見て列車先頭部がこの傾斜側壁3e,3fと徐々に重なりながら通過するように、トンネル3と一体に構築された三角形状の部分である。傾斜側壁3e,3fは、突入波W5 及び退出波W6 を低減する機能を有する。仕切壁5は、坑口3aから外部に向かって線路2aと線路2bとの間に傾斜壁部5cを備え、この傾斜壁部5cは一対の傾斜側壁3e,3fと略同一形状であり、坑口3a側の仕切壁5の端部に一体に構築されている。この第3実施形態では、線路2a,2bを中心として傾斜側壁3e,3fと傾斜壁部5cとが左右対称になるため、C方向に放射する突入波W5 とD方向に放射する退出波W6 とを低減することができる。
【0043】
(第5実施形態)
図8は、この発明の第5実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造を備えるトンネルの斜視図である。
図8に示すトンネル3は、坑口3aから内部に向かって線路2aを覆う単線トンネル部3gと線路2bを覆う単線トンネル部3hと、これらの単線トンネル部3g,3hと接続する複線トンネル部3iとを備えている。トンネル3は、坑口3aから所定範囲までが眼鏡型の単線トンネル部3g,3hであり、この所定範囲を超えるとトンネル3内で1つの複線トンネル部3iと合流する。仕切壁5は、隣接する単線トンネル部3gと単線トンネル部3hとの間の壁部である。この第5実施形態では、第4実施形態に比べて、トンネル3の断面形状が列車1を中心に左右対称になるため、C方向に放射する突入波W5 とD方向に放射する退出波W6 とをより一層低減することができる。
【0044】
(第6実施形態)
図9は、この発明の第6実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造における仕切壁の断面図である。
図9に示す仕切壁5は、この仕切壁5を貫通する複数の貫通孔5bを有する。仕切壁5は、コンクリート製、合成樹脂製又は金属製などである。貫通孔5bは、列車1が通過するときに発生する風圧を低減するための開口部であり、仕切壁5の全面又は列車1の側面と対向する面にのみ形成されている。この第6実施形態では、十分な強度を有するアクリル樹脂などの合成樹脂によって仕切壁5を製造したときには、多数の貫通孔5bを容易に形成することができるとともに、仕切壁5の製造や設置が容易であり薄く軽量化を図ることができる。
【0045】
(第7実施形態)
図10は、この発明の第7実施形態にかかる固定構造物の圧力波低減構造を備えるトンネルの斜視図である。
図10に示すトンネル3は、内部を線路2aと線路2bとの間で仕切る流体膜形成装置6を備えている。流体膜形成装置6は、突入波W5 及び退出波W6 を低減するために線路2aと線路2bとの間に流体を流して流体膜Fを形成する装置である。流体膜形成装置6は、例えば、水などの液体をトンネル3の上部から平面状に落下させて水膜を形成するウォーターカーテンである。流体膜形成装置6は、図10に示すように、アーチ部3bの最も高い位置から水を噴射する噴射装置6aと、この噴射装置6aから噴射され落下する水を線路2aと線路2bとの間で回収する回収装置6bと、線路2a,2bを移動する列車1の突入及び退出を検出する図示しない検出装置と、この検出装置の検出結果に基づいて列車1の突入及び退出時の前後に噴射装置6aを動作させる図示しない制御装置などを備えている。この第7実施形態では、第1実施形態の効果に加えて、線路2aと線路2bとの間に建築限界から仕切壁5を設置できない場合などに適用することができる。
【0046】
(第8実施形態)
図11は、この発明の第8実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造を備えるトンネルの正面図である。
図11に示す仕切壁5は、C,D方向に放射する突入波W5 及び退出波W6 の強さが線路2a側と線路2b側とで異なるように、線路2a側又は線路2b側のいずれか一方にずらして設置されている。以下では、D方向にのみ民家Hが存在し突入側及び退出側の列車1の速度が同一である場合を例に挙げて説明するとともに突入波W5 及び退出波W6 の強さを強、中、弱の3段階に分けて評価する。
【0047】
図11に示す仕切壁5が存在しない場合には、突入波W5 はC方向に強くD方向に弱く放射し、退出波W6 はC方向に弱くD方向に強く放射する。また、図11に二点鎖線で示すように、トンネル3の中心線L0 と仕切壁5とを一致させた場合には、突入波W5 はC,D方向に中程度放射し、退出波W6 はC,D方向に中程度放射する。一方、図11に実線で示すように、トンネル3の中心線L0 から線路2b方向に仕切壁5をずらした場合には、突入波W5 がC方向には中程度よりもやや強くD方向には中程度よりもやや弱く放射し、退出波W6 がC方向には中程度よりもやや強くD方向には中程度よりもやや弱く放射する。その結果、図11に示すように、D方向にのみ民家Hが存在する場合には、トンネル3の中心線L0 から線路2b側に偏移量ΔLだけずらして仕切壁5を設置することによって、D方向に放射する突入波W5 を中程度よりもやや弱い程度に抑えつつ、D方向に放射する退出波W6 のみを低減することができる。なお、図11とは逆にC方向にのみ民家Hが存在する場合には、トンネル3の中心線L0 から線路2a側にずらして仕切壁5を設置することによって、C方向に放射する突入波W6 を中程度よりもやや弱い程度に抑えつつ、C方向に放射する突入波W5 のみを低減することができる。
【0048】
(第9実施形態)
図12は、この発明の第9実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造を備えるトンネルの正面図である。以下では、軌道2の両側(C,D方向)に民家Hが存在する場合を例に挙げて説明する。
図12に示す圧力波低減構造4は、列車1の移動方向と交差する方向に流体膜形成装置6による仕切位置P0 を可変する可変手段9を備えている。可変手段9は、列車1が坑口3aに突入するときには、この列車1が突入する側の空間S1 がこの列車1を中心に略左右対称になるように仕切位置P0 を可変(C方向に移動)する。可変手段9は、列車1が坑口3aから退出するときには、この列車1が退出する側の空間S2 がこの列車1を中心に略左右対称になるように仕切位置P0 を可変(D方向に移動)する。一般に、図12に二点鎖線で示すように、トンネル3の中心線L0 と仕切位置P0 とを一致させた場合には、空間S1 ,S2 内をそれぞれ通過する列車1に対して各空間S1 ,S2 は厳密には左右対称ではない。しかし、トンネル3の中心線L0 から線路2a,2bのいずれか一方の側に仕切位置P0 をずらした場合には、列車1に対して空間S1 ,S2 のいずれか一方をより左右対称に近づけることができる。例えば、図12に示すように、軌道2bを移動する列車1が坑口3aから退出するときには、可変手段9が流体膜形成装置6の噴射位置を調整して流体膜Fによる仕切位置P0 を仕切位置P1 に偏移量ΔLだけ変化させる。その結果、列車1を中心として空間S2 が左右対称に近づくため、退出波W6 を低減することができる。
【0049】
また、可変手段9は、上下線を移動する列車1の速度が異なるときには、速度の速い列車1が移動する空間S1 又は空間S2 がこの列車1を中心に左右対称になるように仕切位置P0 を可変する。例えば、軌道2bを移動する列車1が軌道2aを移動する列車1よりも速度が速いときには、図12に示すように可変手段9が流体膜形成装置6の噴射位置を調整して仕切位置P0 を仕切位置P1 に変化させる。その結果、列車1を中心として空間S2 が左右対称に近づくため、速度の速い列車1による退出波W6 を低減することができる。
【0050】
(第10実施形態)
図13は、この発明の第10実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造を備えるトンネル緩衝工の斜視図である。
図13に示すトンネル緩衝工7は、トンネル微気圧波W2 ,W4 を低減するためにトンネル3の坑口3aを覆う固定構造物(土木構造物)であり、線路2a,2bを一つのトンネル覆工内に収容する複線用のトンネル緩衝工(複線トンネル緩衝工)である。トンネル緩衝工7は、坑口3aの外部に軌道2に沿ってトンネル3を延長するように構築されておりコンクリート製、鉄筋コンクリート製又は鋼板製である。トンネル緩衝工7は、列車1が突入及び退出する出入口7aと、図13に示すようにトンネル緩衝工7の上側部分を形成する天部7bと、トンネル緩衝工7の側面部分を形成する側壁7c,7dなどから構成されている。トンネル緩衝工7は、このトンネル緩衝工7の内部を線路2aと線路2bとの間で仕切る仕切壁5を備えており、この仕切壁5はトンネル緩衝工7と一体に構築されている。この第10実施形態では、第1実施形態の効果に加えてトンネル微気圧波W2 ,W4 を低減することができる。
【0051】
(第11実施形態)
図14は、この発明の第11実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造を備えるトンネル緩衝工の斜視図である。
図14に示すトンネル緩衝工7は、出入口7aから外部に向かって軌道2の外側に一対の傾斜側壁7e,7fを備えている。傾斜側壁7e,7fは、図7に示す傾斜側壁3e,3fと同一の構造及び機能を有し、側壁7c,7dと一体に構築された三角形状の部分である。仕切壁5は、出入口7aから外部に向かって線路2aと線路2bとの間に傾斜壁部5cを備え、この傾斜壁部5cは一対の傾斜側壁7e,7fと略同一形状であり、出入口7a側の仕切壁5の端部に一体に構築されている。この第11実施形態には、第4実施形態と同様の効果がある。
【0052】
(第12実施形態)
図15は、この発明の第12実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造を備えるトンネル緩衝工の斜視図である。
図15に示すトンネル緩衝工7は、突入波W5 及び退出波W6 を低減するために出入口7aにフランジ部7gを備えており、このフランジ部7gは突入波W5 及び退出波W6 を低減する機能を有する。フランジ部7gは、線路2aをA方向に移動する列車1が出入口7aに突入したときに列車先頭部の運転席から見て前側(山側)に放射する突入波W5 を低減するとともに、線路2bをB方向に移動する列車1が出入口7aから退出したときに列車先頭部の運転席から見て後側(山側)に放射する退出波W6 を低減する。フランジ部7gは、天部7b及び側壁7c,7dの出入口7a側の端部に一体に構築されている。この第12実施形態では、仕切壁5によってC,D方向に放射する突入波W5 及び退出波W6 を低減することができるとともに、フランジ部7gによってA,B方向に放射する突入波W5 及び退出波W6 も低減することができる。
【0053】
(第13実施形態)
図16は、この発明の第13実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造を備える明り区間構造物の斜視図である。
図16に示す固定構造物8は、トンネル区間以外の高架橋区間や土路盤区間などの明り区間に設けられた建築物(土木構造物)であり、軌道2に対して略直交して構築されている。固定構造物8は、例えば、軌道2を越えるためにこの軌道2上に架け渡した跨線橋や立体交差、軌道2上に駅本屋が配置された橋上駅などである。固定構造物8は、列車1が突入及び退出する出入口8a,8bと、軌道2の外側に構築された橋脚や脚台などの脚部8c,8dと、出入口8aから外部に向かって軌道2の外側に構築された一対の傾斜側壁8e,8fと、出入口8bから外部に向かって軌道2の外側に構築された一対の傾斜側壁8g,8hとから構成されている。傾斜側壁8e~8hは、C,D方向から見て列車先頭部がこれらの傾斜側壁8e~8hと徐々に重なりながら通過するように、脚部8c,8dと一体に構築された三角形状の部分である。傾斜側壁8e~8hは、列車1が固定構造物8の近傍を通過して出入口8a,8bに突入したりこの出入口8a,8bから退出したりしたときに、この出入口8a,8bから外部に放射する突入波(通過波)W5 及び退出波(通過波)W6 を低減する機能を有する。固定構造物8は、この固定構造物8の下方を線路2aと線路2bとの間で仕切る仕切壁5を備え、この仕切壁5は出入口8a,8bから外部に向かって線路2aと線路2bとの間に傾斜壁部5c,5dを備える。傾斜壁部5cは、一対の傾斜側壁8e,8fと略同一形状であり、傾斜壁部5dは一対の傾斜側壁8g,8hと略同一形状であり、傾斜壁部5c,5dは仕切壁5の両端部に一体に構築されている。この第13実施形態には、第11実施形態と同様の効果がある。
【0054】
【実施例】
次に、この発明の実施例について説明する。
図17は、この発明の実施例に係る固定構造物の圧力波低減構造の効果を確認するための模型実験装置の構成図である。図18は、トンネルに仕切壁を入れた状態とトンネルに仕切壁を入れない状態の圧力波の測定結果を示すグラフであり、図18(A)は列車が偏っている側で測定した圧力波の時間変化を示し、図18(B)は列車が偏っている側とは反対側で測定した圧力波の時間変化を示す。図19は、トンネルに仕切壁を入れた状態とトンネルに仕切壁を入れない状態のトンネル内の圧縮波の測定結果を示すグラフであり、図19(A)は圧力の時間変化を示し、図19(B)は圧力勾配の時間変化を示す。なお、図18及び図19に示す細線は仕切壁を入れない状態(対策前)の測定結果であり、太線は仕切壁を入れた状態(対策後)の測定結果である。
【0055】
模型実験装置20は、トンネル30に列車10を突入させたときに発生する圧力波を測定するための装置である模型実験装置20は、図17に示すように、列車1を模擬した列車10と、トンネル3を模擬したトンネル30と、仕切壁5を模擬した仕切壁50とを備えており、実物の1/100の大きさで設計されている。ここで、図17に示すO11は、トンネル中心軸であり、O12はこのトンネル中心軸O11と平行な列車中心軸であり、O13はトンネル30の坑口30aを通過してトンネル中心軸O11及び列車中心軸O12と直交する軸線である。D11は、トンネル直径(100mm)である。L11は、トンネル中心軸O11から点P11,P12までの距離(400mm)であり、L12はトンネル30の坑口30aから点P13までの距離(1000mm)である。L13は、列車10の移動方向(A方向)における仕切壁50の長さ(200mm)である。すなわち、L13=2D11である。図17に示すように、列車10はトンネル中心軸O11から僅かにずれた列車中心軸O12に沿って350km/hで移動し、仕切壁50はトンネル中心軸O11から僅かにずれた位置に設置されている。点P11は、トンネル中心軸O11に対して列車10が偏心している側(近接側)に放射する突入波W5 の測定点であり、点P12はトンネル中心軸O11に対して列車10が偏心している側とは反対側(遠隔側)に放射する突入波W5 の測定点であり、点P13はトンネル30内に発生する圧縮波W1 の測定点である。
【0056】
図18に示すように、仕切壁50を入れない状態でトンネル30に列車10を突入させると点P11では強い圧力波が測定されており点P12では弱い圧力波が測定されている。しかし、図17に示すように、トンネル30に仕切壁50を入れた状態でこのトンネル30に列車10を突入させると、点P11側の圧力波が低減して点P12側の圧力波が増加する。その結果、軸線O13方向における突入波W5 の指向性が緩和されることが確認された。また、図19に示すように、仕切壁50を入れない状態と仕切壁50を入れた状態とでは、トンネル微気圧波W2 の原因となる圧縮波W1 及びこの圧縮波W1 の時間変化を表す圧力勾配に差がほとんど見られなかった。その結果、図17に示すように、トンネル直径D11の2倍の長さLの仕切壁50をトンネル30内に設置した場合には、トンネル微気圧波W2 が増大しないことが確認された。
【0057】
この実施例では、図17に示すように、L13=2D11に設定しているが仕切壁50の長さLをこの値と厳密に一致させる必要はなく、L13≧D11/2であれば突入波W5 及び退出波W6 を低減することができる。実際の複線トンネル又は複線トンネル緩衝工では、これらの断面が正確な円形や四角形ではなく円形や四角形に近似した形状である。このため、列車1の移動方向における仕切壁5の長さを、複線トンネル又は複線トンネル緩衝工の断面積と同一の断面積を有する円の半径以上に設定することが好ましい。また、トンネル30内に仕切壁50を設置すると列車10側から見るとトンネル断面積が小さくなるので、トンネル30内に発生する圧縮波W1 が増大して、結果的に坑口30aとは反対側の坑口30bから発生するトンネル微気圧波W2 が増大するおそれがある。しかし、突入時の圧縮波W1 の波面の長さはトンネル直径D11の数倍程度に及ぶ(おおむねトンネル直径D11/突入マッハ数M)ため、圧縮波W1 の波面の長さよりも長さL13を短く設定(L13≦D11/M,マッハ数M=0.2の場合L13≦5D11)すれば仕切壁50の反対側に圧力が回り込み、トンネル30内に発生する圧縮波W1 がほとんど増大しないと考えられる。一方、長さL13を非常に長く設定(L13≧D11/M,マッハ数M=0.2の場合L13≧5D11)すると突入波W5 及び退出波W6 の低減効果が一定値に収束するが、トンネル断面積が小さくなったのと同等になるためトンネル微気圧波W2 が増大する可能性がある。この場合には、図13~図15に示すように、坑口3aにトンネル緩衝工7を設置したり、トンネル3内にバラストを散布したりする他の圧力波低減対策を採用することによって、距離L13をD11/M以上に設定することができる。
【0058】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、移動体として列車(鉄道車両)1を例に挙げて説明したがこれに限定するものではない。例えば、高速で走行する磁気浮上式鉄道や自動車などの移動体についてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、軌道2が複線である場合を例に挙げて説明したが、軌道2が複々線である場合についてもこの発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、仕切壁5に直線状の傾斜部5aを形成しているが、この傾斜部5aを曲線状に形成してもよい。
【0059】
(2) この実施形態では、1枚の仕切壁5を設置した場合を例に挙げて説明したが、仕切壁5を2枚以上設置したり仕切壁5に厚みをもたせたりすることもできる。例えば、第1実施形態では、仕切壁5と側壁3c,3dとの位置関係を説明したが、図4に示すように仕切壁5が非常に厚い壁になるような場合には、間隔をあけて仕切壁5を二枚設置することもできる。また、この実施形態では、仕切壁5に傾斜部5aを形成した場合を例に挙げて説明したがこの傾斜部5aを省略することもできる。
【0060】
(3) この第2実施形態では、空間S1 ,S2 の上部を除きこれらの空間S1 ,S2 を仕切壁5によって仕切っているが空間S1 ,S2 の中間部又は下部を除きこれらの空間S1 ,S2 を仕切壁5によって仕切ることもできる。また、この第4実施形態、第11実施形態及び第13実施形態では、傾斜側壁3e,3f,7e,7f,8e~8hを三角形状に形成した場合を例に挙げて説明したが、厳密に三角形状である必要はなく三角形の斜辺の部分を曲線状に形成してもよい。
【0061】
(4) この第7実施形態では、流体膜形成装置6としてウォーターカーテンを例に挙げて説明したが、空気などの気体をトンネル3の上部と下部との間に平面状に噴射して空気層を形成するエアカーテンなどの流体膜形成装置についてもこの発明を適用することができる。また、この第7実施形態では、列車1の突入及び退出の前後に水を噴射する場合を例に挙げて説明したが、常時水を噴射した状態にすることもできる。さらに、この第9実施形態では、流体膜形成装置6の流体膜Fによる仕切位置P0 を可変手段9によって可変する場合を例に挙げて説明したが、駆動機構部などの可変手段によって仕切壁5を駆動して仕切位置を可変することもできる。
【0062】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明によると、固定構造物の出入口に移動体が突入するときに発生する圧力波とこの出入口から移動体が退出するときに発生する圧力波とを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の第1実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造を備えるトンネルの斜視図である。
【図2】この発明の第1実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造における仕切壁の正面図である。
【図3】この発明の第1実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造における仕切壁の側面図である。
【図4】この発明の第1実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造における仕切壁の設置位置を説明するための模式図である。
【図5】この発明の第2実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造における仕切壁の正面図である。
【図6】この発明の第3実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造における仕切壁の正面図であり、(A)は断面形状が略Y字状の仕切壁の正面図であり、(B)は断面形状が湾曲状の仕切壁の正面図である。
【図7】この発明の第4実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造を備えるトンネルの斜視図である。
【図8】この発明の第5実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造を備えるトンネルの斜視図である。
【図9】この発明の第6実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造における仕切壁の断面図である。
【図10】この発明の第7実施形態にかかる固定構造物の圧力波低減構造を備えるトンネルの斜視図である。
【図11】この発明の第8実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造を備えるトンネルの正面図である。
【図12】この発明の第9実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造を備えるトンネルの正面図である。
【図13】この発明の第10実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造を備えるトンネル緩衝工の斜視図である。
【図14】この発明の第11実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造を備えるトンネル緩衝工の斜視図である。
【図15】この発明の第12実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造を備えるトンネル緩衝工の斜視図である。
【図16】この発明の第13実施形態に係る固定構造物の圧力波低減構造を備える明り区間構造物の斜視図である。
【図17】この発明の実施例に係る固定構造物の圧力波低減構造の効果を確認するための模型実験装置の構成図である。
【図18】トンネルに仕切壁を入れた状態とトンネルに仕切壁を入れない状態の圧力波の測定結果を示すグラフであり、(A)は列車が偏っている側で測定した圧力波の時間変化を示し、(B)は列車が偏っている側とは反対側で測定した圧力波の時間変化を示す。
【図19】トンネルに仕切壁を入れた状態とトンネルに仕切壁を入れない状態のトンネル内の圧縮波の測定結果を示すグラフであり、(A)は圧力の時間変化を示し、(B)は圧力勾配の時間変化を示す。
【図20】トンネルに列車が突入するときに坑口から外部に放射する圧力波の概念図である。
【図21】トンネルから列車が退出するときに坑口から外部に放射する圧力波の概念図である。
【符号の説明】
1 列車(移動体)
2 軌道
2a,2b 線路
3 トンネル(固定構造物)
3a 坑口(出入口)
3b アーチ部
3c,3d 側壁
3e,3f 傾斜側壁
3g,3h 単線トンネル部
3i 複線トンネル部
4 圧力波低減構造
5 仕切壁(仕切手段)
5a 傾斜部
5b 貫通孔
5c,5d 傾斜壁部
6 流体膜形成装置(仕切手段)
6a 噴射装置
6b 回収装置
7 トンネル緩衝工(固定構造物)
7a 出入口
7c,7d 側壁
7e,7f 傾斜側壁
7g フランジ部
8 固定構造物
8a,8b 出入口
8c,8d 脚部
8e,8f,8g,8h 傾斜側壁
9 可変手段
L 距離
0 ,L1 ,L2 中心線
ΔL 偏移量
13 長さ
E 支持装置
F 流体膜
0 ,P1 仕切位置
1 ,S2 空間
1 ,O2 線路の中心
1 ,W3 圧縮波
2 ,W4 トンネル微気圧波
5 突入波(圧力波)
6 退出波(圧力波)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20