TOP > 国内特許検索 > FIRアクティブ・サーモグラフィ検査装置 > 明細書

明細書 :FIRアクティブ・サーモグラフィ検査装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4324651号 (P4324651)
公開番号 特開2007-215809 (P2007-215809A)
登録日 平成21年6月19日(2009.6.19)
発行日 平成21年9月2日(2009.9.2)
公開日 平成19年8月30日(2007.8.30)
発明の名称または考案の名称 FIRアクティブ・サーモグラフィ検査装置
国際特許分類 A61B   5/01        (2006.01)
A61B  10/00        (2006.01)
G01J   5/48        (2006.01)
FI A61B 5/00 101E
A61B 10/00 T
G01J 5/48 A
請求項の数または発明の数 2
全頁数 7
出願番号 特願2006-040540 (P2006-040540)
出願日 平成18年2月17日(2006.2.17)
審査請求日 平成21年1月27日(2009.1.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
発明者または考案者 【氏名】水戸部 一孝
【氏名】吉村 昇
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100110537、【弁理士】、【氏名又は名称】熊谷 繁
審査官 【審査官】伊藤 幸仙
参考文献・文献 水戸部一孝、吉村昇 他,「FIRヒータを用いたアクティブ・サーモグラフィ構築の基礎的研究」,照明学会誌,日本,2004年,Vol.88,No.8A,p529-p532
水戸部一孝、吉村昇 他,「アクティブ・サーモグラフィ法による乳ガン検査の可能性の検討」,照明学会誌,日本,2006年,Vol.90,No.8A,p487-p494
調査した分野 A61B 5/01
A61B 10/00
G01J 5/48
特許請求の範囲 【請求項1】
遠赤外線領域の光源又は電磁波の発信器と、該発信器と測定対象物との間に遠赤外線放射の開始・停止を実現するためのシャッター機構と、前記測定対象物の温度分布を測定するサーマルカメラ及び画像処理装置とで構成されたことを特徴とするFIRアクティブ・サーモグラフィ検査装置。
【請求項2】
前記シャッター機構と測定対象物との間に前記サーマルカメラによる温度分布を撮影するためのハーフミラーを設けたことを特徴とする請求項1記載のFIRアクティブ・サーモグラフィ検査装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、遠赤外線(FIR)放射加熱により能動的に体表面を加熱して体表面付近の組織の熱伝導・熱容量・比熱の違いに基づく生体情報を画像化するFIRアクティブ・サーモグラフィ検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに乳癌(breast cancer)を対象としたサーモグラフィ検査に用いられたサーマルカメラは、温度分解能及び時間応答性が低く、撮像素子の冷却にAr等の冷却ガスが必要でシステムが大型化するなどの多くの問題が残っていた。
しかし、近年開発された第2世代赤外線撮像システムでは、マイクロボロメータ(microbolometer)の利用により冷却が不要となり、システム全体の小型化・軽量化が進み、病院外における乳癌の検診・スクリーニングに利用できるほど携帯性が改善しており、解像度および時間分解能も向上している。
初期のサーモグラフィ検査は静的な状態で体表面の温度分布を測定する場合が多かったが、Ohashiらは体表面の温度を下げ、体温が上昇する過程を比較して差分画像を作る手法(dynamic thermography)により、乳癌の正診率を54%から82%に向上させることが出来たと報告している(非特許文献1を参照)。
また、Anbarらは、悪性腫瘍細胞(malignant cells)から生じる一酸化炭素(NO)により生体組織の温度変化の減衰量に差が生じる現象を科学的根拠として、高感度、高時間分解能赤外線撮影システムを用いて体表面の温度変化を計測し、FFTにより周期的な温度変化を画像化して乳癌の存在を検出するDAT(dynamic area tele-thermometry)技術を開発している(非特許文献2を参照)。
生体加熱に関する過去の研究において、遠赤外線(FIR)による輻射加熱では、熱伝導及び温風による対流熱伝達加熱と比べ血管の拡張が少ないため、加熱停止後でも組織に熱が蓄熱しやすい(保温性が高い)ことが報告されている(非特許文献3,4,5を参照)。

【特許文献1】特開平8-52141号公報
【非特許文献1】Yasuhiro Ohashi and Isao Uchida:Applying dynamic thermography in the diagnosis of breast cancer,IEEE Eng.Med&Biol.,Vol.19,No.3,pp.42-51(2000)
【非特許文献2】Michael Anbar,Cheryl Brown,Lorin Milescu,John Babalola and Laura Gentner:The potential of dynamic area telethermometry in assessing breast cancer,IEEE Eng.Med&Biol.,Vol.19,N.3,pp.58-62(2000)
【非特許文献3】水戸部一孝、尹鐘賢、片寄喜久、小川純一、吉村昇:FIRヒータを用いたアクティブ・サーモグラフィ構築の基礎研究、照明学会誌、Vol.88、No.8A、pp.529-532(2004)
【非特許文献4】田口春男、水戸部一孝、吉村昇:遠赤外線放射体の作製と異なる加熱形態による人体の保温性の比較、照明学会誌論文号、Vol.86、No.8A、pp.521-526(2002)
【非特許文献5】吾妻辰則、水戸部一孝、吉村昇:天然ゼオライトによる遠赤外線放射体の開発と生体加熱効果に関する研究、平成14年度電気関係学会東北支部連合大会予稿集、p.201(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、遠赤外線(FIR)放射加熱により能動的に体表面を加熱して体表面付近の組織の熱伝導・熱容量・比熱の違いに基づく生体情報を画像化するFIRアクティブ・サーモグラフィ検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のFIRアクティブ・サーモグラフィ検査装置は、遠赤外線領域の光源又は電磁波の発信器と、測定対象物の温度分布を測定するサーマルカメラ及び画像処理装置とで構成されたものである。
前記発信器と測定対象物との間に遠赤外線放射の開始・停止を実現するためのシャッター機構を設けたものである。
前記シャッター機構と測定対象物との間に前記サーマルカメラによる温度分布を撮影するためのハーフミラーを設けたものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明のFIRアクティブ・サーモグラフィ検査装置では、体外から熱を加えてその応答を計ることで血管、脂肪、筋肉及び腫瘍の弁別を可能にし、乳癌検査の正診率を向上させることができる。
本発明のFIRアクティブ・サーモグラフィ検査装置では、FIR帯域の電磁波が体表面で吸収され熱エネルギーに変換される特徴を活かし、従来のサーモグラフィ検査では得られない体表面付近の熱容量、比熱等の違いを熱画像から収集するための検査システムを提唱する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明のFIRアクティブ・サーモグラフィ検査装置の一実施例を図面に基づいて、以下に説明する。
図1は本発明のFIRアクティブ・サーモグラフィ検査装置の一実施例を示すもので、遠赤外線(FIR:波長数μm~数mm)領域の光源又は電磁波の発信器1と、測定対象物の温度分布を測定するサーマルカメラ2及び熱画像解析用コンピュータ(画像処理装置)3と、前記発信器1と測定対象物との間に遠赤外線放射の開始・停止を実現するためのシャッター4及びシャッター開閉制御ユニット5(シャッター機構)と、前記シャッター4と測定対象物との間に前記サーマルカメラによる温度分布を撮影するためのハーフミラー6とから構成される。
【0007】
前記発信器1は、遠赤外線(FIR)放射体をアルミのフレームとパネルで固定し、背面に定格300Wの平板ヒータを2枚配置した。
前記遠赤外線(FIR)放射体は、天然ゼオライトとバインダーを0.7:1.0の重量比で混合したペーストをベースとなるアルミニウム板に塗布した後、常温で24時間乾燥させて作製した。
【0008】
前記サーマルカメラ2(TVS-620:AVIO)は、傾斜角度に配置したハーフミラー6からの映像を受像する側方位置に配置され、検知波長領域8~14μm、最小温度分解能0.1℃の特性を有する。
温度分布画像は30秒間隔で測定され、コンパクトフラッシュ(登録商標)メディアに記録される。
なお、温度分布画像の撮影間隔を短くできると、つまりサンプリングレートを上げることが出来ると、FIRヒータの照射開始・停止に同期した過渡的な温度変化を計測できるため確実に分析の精度を向上させることができる。
前記サーマルカメラ2にはデジタルビデオカメラを接続しており、リアルタイム(30枚/秒)にNTSC信号経由で録画した。
【0009】
次に、本発明のFIRアクティブ・サーモグラフィ検査装置による検査手順について、以下に説明する。
被験者(測定対象物)には仰臥姿勢を保ち、可能な限り動かないように教示し、脱衣後、体温が室温と平衡状態に達するまで5分間待機した後、FIRヒータ(発信器1)で1分間、30秒間のインターバルを置き2回加熱した後、連続してさらに6分間加熱する。
これらの過程をサーマルカメラ2で撮影する。
サーマルカメラ2での測定時間は35分であり、脱衣直後からの5分間は室温と体温が平衡状態に達する過程であり、その後、送風機(図示せず)により5分間体表面を冷却した。
再度、室温と体温が平衡状態に達するまで5分間待機した後、FIRヒータ(発信器1)で8分加熱した。
加熱停止後は体表面が冷えるまでの過程を8分間測定した。
【0010】
ここで、FIRヒータの放射エネルギーを1とすると、体表面を介して流入するエネルギーは組織で吸収されるエネルギーα、組織を透過するエネルギーτに大別され、体表面で反射されるエネルギーρの間にエネルギー保存則が成立し、以下の式が導かれる。
ρ+α+τ=1・・・・・・(1)
なお、生体組織の場合、遠赤外線の波長帯域ではτ=0であり、一般に放射率ε=αが成立することから、以下の式が成り立つ。
ρ=1-ε ・・・・・・(2)
一般にヒトの皮膚の放射率εは約0.98であり、反射率ρは0.02程度になる。
加熱中に測定している温度分布画像には体表面(skin)の真の温度Tsに加えて、皮膚で反射されたFIRヒータの放射(radiation)エネルギーがノイズとして含まれるため、測定された温度はTs+dTrとなる。
ここでノイズ分として加算されるdTrは、測定部位におけるFIRヒータのエネルギーの近似値に比例した値となる。
したがって、FIRヒータによる加熱過程において、dTs/dTrを計算することで、各測定点に届いたFIRヒータからの放射エネルギーで正規化した組織の温度変化分を求めることができる。
以下に、dTs/dTrの計算の一例を示す。
加熱直前の体表面温度をTs0、加熱して1分間経過した時の温度をTs1+dTr1、その直後FIRヒータを外して測定した温度をTs1’とすると、以下の式が成立する(なお、Ts1’=Ts1と近似した)。
dTs/dTr=(Ts1’-Ts0)/((Ts1+dTr1)-Ts1’)・・(3)
各測定部位におけるFIRヒータによる加熱1分後、2分後のdTs/dTrを計算することで、体表面付近の組織の熱容量の違いを画像化できる。
【0011】
図2に検査過程における温度分布画像の一例を示す。
図2(a)は脱衣直後(測定を始めて0分後)、同図(b)は送風による冷却時(6分後)、同図(c)はFIRヒータによる加熱時(20分後)、同図(d)は加熱停止後(26分後)の温度分布画像である。
この一例では、円形リングで囲まれている左胸部上方に悪性腫瘍がある。
【0012】
図3に解析対象とした悪性腫瘍部(malignancy)、正常組織である体幹中央部(center region)、比較対象として腫瘍部と左右対称に位置する正常組織(opposite region)をそれぞれ示す。
図4に上記各部位における温度の経時変化を表し、横軸が経時時間、縦軸が表面温度を示す。
図4に示すように測定を始めてから5分から10分まで強制的に体表面を冷却(Cooling)しているが、悪性腫瘍部(malignancy)では温度低下が少ないことがわかる。
これは悪性腫瘍の内部及び周辺には栄養血管が増殖するため、正常組織に比べ血流が多いためと考えられる。
また、15分から25分までFIRヒータにより加熱(Heating)しているが、いずれの測定点においても平熱を上回る38℃以上に加熱できたことが確認できる。
なお、加熱を開始してからの1分後および3分後にFIRヒータを1分間外し、温度分布を測定した。
【0013】
次に、正常組織(opposite region)に対する温度差をプロットした経時変化のグラフを図5に示す。
太い実線は悪性腫瘍部(malignancy)の温度変化パターン、破線部は体幹中央部(center region)の温度変化パターンを示す。
正常組織(opposite region)との温度差は、体表面冷却(Cooling)時に広がり、加熱(Heating)時に温度差が接近もしくは逆転することがわかる。
このプロファイルは悪性腫瘍部位に多く見られる栄養血管によるものであり、悪性腫瘍を自動的に抽出する画像処理プログラムを作成する際のマーカーとして利用できることが確認できる。
【0014】
さらに、各測定部位におけるFIRヒータのよる加熱1分後、2分後、8分後のdTs/dTrを図6に示す。
加熱初期の加熱1分の時点では悪性腫瘍部(malignancy)の温度変化が小さく、血管(blood vessel)の温度が高くなっている。
生体組織の熱伝導率は脂肪で0.0005cal/(s・cm・℃)、筋肉で0.001cal/(s・cm・℃)、直径0.1mm程度の血管を流れる血流で0.24cal/(s・cm・℃)であり、血管は他の組織に比べ数百倍の熱量の輸送能力がある。
周辺組織で温められた血液が血管(blood vessel)に流入したために、短時間に血管(blood vessel)の温度が急上昇したものと考えられる。
一方、2分を過ぎると血管(blood vessel)と悪性腫瘍部(malignancy)との差は少なくなるが、血管が少なく脂肪の多い組織は蓄熱されやすいため、温度が上昇している。
血管が豊富な組織は血流により冷却されるため、一定温度に収束していく。
加熱の初期段階において血管(blood vessel)と悪性腫瘍部(malignancy)の昇温特性が異なるとの知見は本発明の根幹となる考えであり、赤外線画像から悪性腫瘍部(malignancy)を自動抽出するプログラムを作成する上で必要不可欠な知見になっている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のFIRアクティブ・サーモグラフィ検査装置の構成を示す説明図である。
【図2】検査過程における温度分布画像を示す写真図である。
【図3】解析対象とした部位を示す写真図である。
【図4】各部位における温度の経時変化を示すグラフ図である。
【図5】正常組織(opposite region)に対する温度差の経時変化を示すグラフ図である。
【図6】各部位における昇温特性を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0016】
1 発信器
2 サーマルカメラ
3 熱画像解析用コンピュータ(画像処理装置)
4 シャッター
5 シャッター開閉制御ユニット
6 ハーフミラー

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5