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明細書 :分子回転周期差を利用した同位体の分離方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4953274号 (P4953274)
公開番号 特開2007-181763 (P2007-181763A)
登録日 平成24年3月23日(2012.3.23)
発行日 平成24年6月13日(2012.6.13)
公開日 平成19年7月19日(2007.7.19)
発明の名称または考案の名称 分子回転周期差を利用した同位体の分離方法
国際特許分類 B01D  59/34        (2006.01)
FI B01D 59/34 A
B01D 59/34 B
請求項の数または発明の数 2
全頁数 7
出願番号 特願2006-001106 (P2006-001106)
出願日 平成18年1月6日(2006.1.6)
審査請求日 平成20年7月15日(2008.7.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505374783
【氏名又は名称】独立行政法人日本原子力研究開発機構
発明者または考案者 【氏名】赤木 浩
【氏名】大場 弘則
【氏名】横山 啓一
【氏名】横山 淳
個別代理人の代理人 【識別番号】100075270、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 泰
【識別番号】100080137、【弁理士】、【氏名又は名称】千葉 昭男
【識別番号】100096013、【弁理士】、【氏名又は名称】富田 博行
【識別番号】100092015、【弁理士】、【氏名又は名称】桜井 周矩
審査官 【審査官】三崎 仁
参考文献・文献 特開昭56-091828(JP,A)
特開昭61-274731(JP,A)
特開昭62-125829(JP,A)
特開平02-251227(JP,A)
特開平02-251228(JP,A)
特開平06-233919(JP,A)
特開平07-024262(JP,A)
特開平11-019479(JP,A)
特開昭60-132629(JP,A)
調査した分野 B01D59/00-59/50
特許請求の範囲 【請求項1】
原料ガスにパルスレーザー光を照射して、原料ガス中の同一方向に向いた分子のみを振動あるいは電子励起させ、
目的同位体または非目的同位体を含む分子回転周期に合わせてさらにパルスレーザー光を1パルスあるいは複数パルス照射し、目的同位体または非目的同位体を含む分子を優先的に光分解させてその同位体を分離する方法であって、
レーザー光の通過する距離の差を調整して、パルスレーザー光照射の時間間隔を制御することを特徴とする、同位体の分離方法。
【請求項2】
照射するパルスレーザー光として、直線偏光したレーザー光を利用することを特徴とする、請求項1に記載の同位体の分離方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、同位体を分離する方法に関するものであり、同位体的に低純度の原料ガス中の、目的同位体を含む分子と非目的同位体を含む分子の有する分子回転周期の差を利用することで、目的同位体を分離、回収することを特徴とするものである。
【背景技術】
【0002】
天然に存在する大多数の元素には、複数の同位体が存在する。その同位体を分離・濃縮したものは、トレーサー、医療用検査試薬、核燃料などの原料として利用されている。最近、シリコンの同位体の1つである28Siを分離し、高濃縮(99.86%)した単結晶では、その熱伝導度が天然の同位体構成材料と比べて大きくなることが見出され、次世代の半導体基板材料の候補として注目された。このように、単一の同位体を高濃縮した物質の物性は、天然存在比のものと大きく異なる可能性があり、同位体を制御した材料への関心が高まっている。
【0003】
同位体の分離・濃縮方法としては、遠心分離法、ガス拡散法、蒸留法などが実用化されている。しかしながら、1回の分離・濃縮操作で得られる濃縮度が極めて低いために、高濃縮同位体を得るためには多数回の分離・濃縮操作が必要であり、分離・濃縮施設は大規模になる。それにより、施設建設や運転コストが膨大になる。従って、これらの方法が適応できる同位体は、それらのコストを賄えるだけの需要があるものに限定される。
【0004】
その他の同位体に対する分離・濃縮方法としては、電磁質量分離法が使われている。この方法は、原理的に全ての同位体に適応可能であり、しかも1回の分離・濃縮操作で高い濃縮度が得られる。しかし、高真空を保った条件下で分離・濃縮を行う必要があるため、極微量の高濃縮同位体しか製造できない。その製造量に対して装置建設および運転コストが大きいため、高濃縮同位体は非常に高価であり、高濃縮同位体を比較的安価に製造できる方法の開発が期待されている。
【0005】
その候補として、分子レーザー同位体分離法の研究・開発が進められている。この方法は、原料中の目的同位体を含む分子と非目的同位体を含む分子の、分子振動数の差によって生じる分子振動スペクトルのずれ、いわゆる同位体シフトを利用することで、どちらか一方のみを赤外多光子分解し、目的同位体を分離、回収するものであり、1回の分離・濃縮操作で高濃縮同位体を得ることが可能である(例えば、特許文献1を参照)。さらに、連続的に原料を供給しながら分離・濃縮操作を行うことにより、高濃縮同位体を大量に製造することも可能である。

【特許文献1】特開2003-53153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
分子レーザー同位体分離法には、対象とする元素の質量が大きくなると、同位体を分離・濃縮する効率が低下する、という問題点がある。これは、対象元素の質量が大きくなると分子振動数が小さくなることに原因がある。例えば等核2原子分子の場合、分子振動数νは次式に表されるように、原子の質量の1/2乗に反比例する。
【式1】
【0007】
JP0004953274B2_000002t.gif
【式2】
【0008】
ここで、πは円周率、kは分子バネ定数、mは原子の質量である。
【式3】
【0009】
この質量増加に伴う分子振動数の減少は、分子レーザー同位体分離法において、2つの悪効果を及ぼす。すなわち、異なる同位体による分子振動数の差の減少、および原料中の振動励起分子の存在割合増加である。分子振動数の差の減少は、分子振動スペクトルにおける同位体シフトの減少を生じ、振動励起分子の存在割合増加は、分子振動スペクトル幅の増加を生じる。これらの結果、一方の同位体を含む分子のみを光分解することが困難になる。従って、分子レーザー同位体分離法の対象を重元素とした場合、同位体分離・濃縮の効率が低下する。
[課題を解決するための手段]
【0010】
上記の問題点を解決するために、本発明においては、重元素を対象とした同位体の分離・濃縮に対し、その重元素の同位体を含む分子の持つ回転周期の差を利用する。具体的に、本発明は、パルスレーザーの複数パルス照射(パルスレーザーによる複数回の照射)に基づく、重元素同位体の分離・濃縮の高効率化法であって、原料ガスに直線偏光したパルスレーザー光を照射することで原料ガス中の同一方向に向いた分子のみを振動あるいは電子励起し;目的同位体または非目的同位体を含む分子回転周期に合わせてさらに直線偏光したパルスレーザー光を1パルスあるいは複数パルス照射することにより、目的同位体または非目的同位体を含む分子の光化学反応を優先的に誘起することを特徴とする。
【0011】
また、パルスレーザー光の通過する距離の差を利用してレーザー光照射の時間間隔を制御することにより、光化学反応を安定にかつ効率良く進行させることを特徴とする。この光化学反応とは、例えば、原料ガスをパルスレーザー光照射により光分解し、その際に生成する同位体原子あるいはそれを含む分子などを他の原子あるいは分子などと反応させてその同位体原子を含む安定な化合物を生成させる化学反応等である。
【0012】
本発明で使用される直線偏光したパルスレーザーは、光電場の振動が特定の一方向に限られているレーザー光であり、例えば、上述のとおり、原料ガスに直線偏光したパルスレーザー光を照射すると、ガス中の特定方向に向いた分子のみを振動あるいは電子励起することができ、又目的同位体を含む分子または非目的同位体を含む分子の分子回転周期に合わせてさらに直線偏光したパルスレーザー光を照射すると、目的同位体または非目的同位体を含む分子を優先的に光分解してその同位体を分離することができる。本発明では、図1のパルスレーザー光照射系において、近赤外パルスレーザーからのレーザー光を偏光素子に通して直線偏光したパルスレーザーを形成している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
分子回転周期は、対象とする元素の質量が大きくなると長くなる。例えば等核2原子分子の場合、分子回転周期Tは次式に表されるように、原子の質量に比例する。
【0014】
JP0004953274B2_000003t.gif
【0015】
ここで、rは原子間の距離、ηはプランク定数である。従って、質量mの原子で形成される等核2原子分子と質量(m+Δm)の原子で形成される等核2原子分子における分子回転周期差ΔTは、次式に表されるように、原子質量差Δmのみに比例する。
【0016】
JP0004953274B2_000004t.gif
【0017】
すなわち、質量mには依存しない。従って、対象元素が重くなった場合においても、分子回転周期差は変化しない。また振動励起分子においても、分子回転周期はあまり変化しないため、振動励起分子の割合増加の影響は小さい。従って、本発明においては、重元素を対象とした同位体分離・濃縮においても、その元素の質量自体の重さに影響されることの少ない分子回転周期差に依存するので、その分離・濃縮効率低下を抑制することが可能である。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、原料として臭化ヨウ素IBrを用い、直線偏光したパルスレーザー光を2パルス照射して分解することで臭素79と臭素81を分離する場合の実施例を用い、図を参照して説明する。
【0019】
図1は本発明による同位体分離・濃縮装置の概略構成図を、図2は臭素81を含む臭化ヨウ素分子の回転周期に合わせて直線偏光レーザー光を2パルス照射した際の、臭素79と臭素81を含む臭化ヨウ素分子の挙動を示した模式図を、図3は2つのパルスレーザー間の照射時間差に対する臭素79または臭素81を含む臭化ヨウ素の光分解確率変化の予測図である。
【0020】
図1に示されるように、同位体分離・濃縮装置は、2つの装置系からなる。まず、原料供給および分離回収、同位体組成比測定系では、反応器への原料ガス供給と、パルスレーザー光を照射した後のガスの回収、分離および同位体組成比の測定を行う。一方、パルスレーザー光照射系では、直線偏光したパルスレーザー光の2パルス照射を行う。
【0021】
まず原料供給および分離回収、同位体組成比測定系において、真空排気装置を用いて反応器を十分に真空排気した後、原料ガスである臭化ヨウ素蒸気ならびにバッファーガスを反応容器に採取する。バッファーガスとしては、原料ガスが光分解して生成する原子と反応して安定な化合物を生じる、アセチレンなどのガスを使用する。
【0022】
次にパルスレーザー光照射系に反応器を移す。基底電子状態の臭化ヨウ素分子は、分子軸に対して垂直な方向を向いた光電場を持ち、かつそのエネルギーが波長として780nm付近の光子を1光子吸収することで第一電子励起状態へ励起され、さらに同じエネルギーの光子をもう1光子吸収することで解離性電子励起状態へ励起され、ヨウ素原子と臭素原子に分解する。出力波長を780nm付近に合わせた近赤外パルスレーザー光を、偏光素子を通すことで垂直偏光したレーザー光にした後、ハーフミラーを通すことで2つに分割し、2つのレーザー光が通過する距離の差、いわゆる光路差をつけた後、再びハーフミラーを通して同軸上に戻す。この光路差を調整することにより、2つの連続した直線偏光パルスレーザー光照射の時間間隔を、安定にかつ精度良く制御することが可能である。この2つの連続した直線偏光パルスレーザー光を反応器に導入すれば、図2に示されるように、最初のパルス照射により、水平方向に分子軸が整列した第一電子励起状態分子の集団が形成される。その励起分子の整列状態は、励起分子が回転するとともに崩れていくが、分子回転周期後に、再び励起分子が整列した状態が形成される。その時間に合わせて2つ目のパルス照射を行うことで、同じ分子回転周期を持つ臭化ヨウ素分子、すなわち同じ臭素同位体原子を含む分子を、優先的に光分解することが出来る。
【0023】
上記光路差の調整は、一方において、ハーフミラーを透過したレーザー光を固定反射プリズムで反射させて再度ハーフミラーに照射して直角方向に反射させた後に反応器に導入し、他方において、ハーフミラーで直角方向に照射されたレーザー光を移動可能な反射プリズムで距離を調整して反射し、再度ハーフミラーを透過させて反応器に導入することにより、この2つの光路におけるレーザー光の
光路差を調整する。
【0024】
図3に示すように、臭素79を含む分子は390ピコ秒程度で再び整列するのに対し、臭素81を含む分子は400ピコ秒程度で再整列すると予測される。従って、ハーフミラーで2つにレーザー光を分けた後の光路差を、11.7センチメートル程度に設定すれば臭素79を含む分子を優先的に光分解できる。また、12.0センチメートル程度に設定すれば、逆に臭素81を含む分子を優先的に光分解することが可能である。
【0025】
パルスレーザー光照射をした反応器を、原料供給および分離回収、同位体組成比測定系に戻す。蒸留装置を用いて、臭素原子とバッファーガスによる化合物ならびに未反応の臭化ヨウ素を単離することで、同位体を分離・濃縮する。臭素81を含む臭化ヨウ素分子を優先的に光分解した場合には、臭素原子とバッファーガスによる化合物中に臭素81が、未反応の臭化ヨウ素中に臭素79が濃縮される。
[発明の効果]
【0026】
本発明の同位体分離方法によれば、対象元素の質量の影響を受けにくい回転周期差を利用するため、対象元素の質量が大きくなった場合においても同位体分離・濃縮の効率低下を抑制することが可能である。

【0027】
実施例に基づいて説明したように、本発明の同位体分離方法によれば、原料ガスにパルスレーザーの複数パルス照射を行うことにより、特定の同位体を含む分子に対する光化学反応を優先的に進行させることができるため、対象元素の質量の大小に係らず、効率的に同位体分離・濃縮を行うことが可能となる。

【0028】
本発明の同位体分離方法によれば、パルスレーザー光照射の時間間隔を調整することにより、特定の同位体を含む分子に対する光化学反応効率を上昇させる、あるいは他の同位体を含む分子の光化学反応効率を低下させることが可能となる。

【0029】
本発明の同位体分離方法によれば、レーザー光の光路差を利用することで、安定でかつ高精度な時間間隔を持つ連続したパルスレーザー光照射を実現することが可能となる。

【0030】
本発明の同位体分離方法によれば、照射するレーザー光として直線偏光したパルスレーザー光を用いることにより、特定の同位体を含む分子に対する光化学反応効率を上昇させる、あるいは他の同位体を含む分子の光化学反応効率を低下させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、天然に存在する同位体元素を分離・濃縮し、トレーサー、医療用検査試薬、核燃料などの原料を作製するために利用される。又、シリコンの同位体の2つである28Siを分離し、高濃縮(99.86%)した単結晶が、その熱伝導度が天然の同位体構成材料と比べて大きいことから、次世代の半導体基板材料の候補として上げられているが、このように、単一の同位体を高濃縮した物質の物性
は、天然存在比のものと大きく異なる可能性があるので、同位体を制御した材料の作製に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例に係る同位体分離・濃縮装置の概略図である。
【図2】本発明の実施例である、臭化ヨウ素分子の直線偏光レーザー光2パルス照射による多光子分解反応において、臭素81を含む臭化ヨウ素分子の回転周期に合わせて直線偏光レーザー光を2パルス照射した際の、臭素79と臭素81を含む臭化ヨウ素分子の挙動を示した模式図である。
【図3】本発明の実施例である、臭化ヨウ素分子の直線偏光レーザー光2パルス照射による多光子分解反応における、2つのパルスレーザー間の照射時間差に対する臭素79または臭素81を含む臭化ヨウ素の光分解確率変化の予測図である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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