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明細書 :亀裂監視システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4137781号 (P4137781)
公開番号 特開2005-181109 (P2005-181109A)
登録日 平成20年6月13日(2008.6.13)
発行日 平成20年8月20日(2008.8.20)
公開日 平成17年7月7日(2005.7.7)
発明の名称または考案の名称 亀裂監視システム
国際特許分類 G01N  27/20        (2006.01)
G01N  27/00        (2006.01)
FI G01N 27/20 A
G01N 27/00 L
請求項の数または発明の数 6
全頁数 20
出願番号 特願2003-422393 (P2003-422393)
出願日 平成15年12月19日(2003.12.19)
審査請求日 平成18年3月9日(2006.3.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】田中 誠
【氏名】江成 孝文
個別代理人の代理人 【識別番号】100104064、【弁理士】、【氏名又は名称】大熊 岳人
審査官 【審査官】田中 洋介
参考文献・文献 特開平10-031002(JP,A)
特開2001-141683(JP,A)
特開2001-174429(JP,A)
特開平05-157721(JP,A)
特開平06-109684(JP,A)
特開平07-280762(JP,A)
特開昭63-132151(JP,A)
特開昭63-144296(JP,A)
特開2002-257668(JP,A)
国際公開第2005/033475(WO,A1)
調査した分野 G01N 27/00-27/24
特許請求の範囲 【請求項1】
亀裂を監視する亀裂監視システムであって、
前記亀裂の進展に応じて電気抵抗が変化する導電層と、この導電層に電流を流す電極層とを有する亀裂検出部を、この亀裂の発生が予測される監視対象物の表面に形成し、この監視対象物に発生した亀裂の位置をこの亀裂検出部によって検出して、この監視対象物に発生する亀裂を監視する亀裂監視材と、
前記導電層の通電状態を測定する通電状態測定部と、
前記通電状態測定部の測定結果に基づいて前記監視対象物に発生する亀裂を評価する評価部とを備え、
前記導電層及び前記電極層は、導電性塗料を塗布して形成されており、
前記導電層は、被固定部材とこの被固定部材を固定する固定部材とが接合する接合部を被覆する前記監視対象物の表面に塗布されており、
前記電極層は、前記導電層の表面に複数行及び複数列形成されており、かつ、各行及び/又は各列に複数個形成されており、
前記評価部は、前記導電層に亀裂が発生したときに、この導電層の通電状態の測定結果に基づいて前記固定部材の緩みを検出すること、
を特徴とする亀裂監視システム
【請求項2】
請求項に記載の亀裂監視システムにおいて、
前記評価部は、複数の前記固定部材によって前記被固定部材が固定されているときに、前記導電層の通電状態の測定結果に基づいてこれらの固定部材の緩んだ数を検出すること、
を特徴とする亀裂検出システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の亀裂監視システムにおいて、
前記導電層は、前記電極層によって複数の監視領域に区画されており、隣接する前記電極層によって囲まれる領域が一つの監視領域を形成すること、
を特徴とする亀裂監視システム
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の亀裂監視システムにおいて、
前記通電状態測定部は、前記電極層によって前記導電層が複数の監視領域に区画されているときに、前記監視領域毎に通電状態を測定し、
前記評価部は、前記監視領域毎の通電状態の測定結果に基づいて亀裂の発生した監視領域を特定すること、
を特徴とする亀裂監視システム。
【請求項5】
請求項から請求項までのいずれか1項に記載の亀裂監視システムにおいて、
前記通電状態測定部の測定結果を補正する補正部を備え、
前記評価部は、補正後の測定結果に基づいて前記亀裂を評価すること、
を特徴とする亀裂監視システム。
【請求項6】
請求項に記載の亀裂監視システムにおいて、
前記通電状態測定部は、前記電極層によって前記導電層が複数の監視領域に区画されているときに、前記監視領域毎に通電状態を測定し、
前記補正部は、前記導電部に亀裂が発生したときに、亀裂の発生していない監視領域の通電状態の測定結果に基づいて、亀裂の発生した監視領域の通電状態の測定結果を補正すること、
を特徴とする亀裂監視システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、亀裂を監視する亀裂監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼構造物には、繰り返し荷重を受けることで引張荷重のかかる部位に疲労亀裂が発生したり、接合部のリベットやボルトの緩みや脱落などの重大変状が発生したりする。このような重大変状が構造物の耐力に影響するほどの大きさに成長すると構造物の破壊に至るため、変状部位別に許容される変状程度を超えるおそれがある場合には補修や補強のための工事が行われている。鋼構造物の重大変状は、通常の状態では複数年かけて進展するため変状発生時に直ちに補修や補強を行う必要はない。また、変状の中には進展が途中で止まる場合もあるため、補修や補強の必要性を判定するためには変状発生後の進展を監視する必要がある。
【0003】
【表1】
JP0004137781B2_000002t.gif

【0004】
表1は、鋼構造物に発生する重大変状として直ちに補修や補強が必要になる場合の例である。例えば、表1に示すように、主桁フランジ、縦桁、横桁引張り側フランジの亀裂は20mmに達した場合には、直ちに補修や補強が必要な状態であると判定される。ここで、表1に示す一群とは、継手を構成する一枚の母材に用いられるリベット又はボルトの全体を意味する。重大変状は、リベットやボルトの緩みや破断による接合力の低下、部材の疲労亀裂による破断強度の低下、地盤沈下による構造物全体の変位による走行安定性の低下に大きく分けられる。疲労亀裂は、繰り返し荷重の載荷時に引っ張り力が作用する部位に発生するため、発生箇所は構造形式によってある程度想定できる。また、発生した亀裂の構造物に与える影響が部位で異なることが知られている。
【0005】
鋼構造物の検査には、2年を超えない範囲で行われる定期検査と、地震などの異常時に大きな荷重を受けた場合に行われる不定期検査と、定期検査などで異常が想定された場合に実施される詳細検査とがある。定期検査と不定期検査は、巡回による検査通路からの目視検査が主体であり、この目視検査では亀裂の発生が想定される箇所に近接して防食塗膜の破断箇所を目視で観察する。鋼材の亀裂発生に伴う塗膜破断は、応力集中箇所と想定される部位から直線的に成長しているので、他の塗膜破断原因と容易に区別することができる。また、過去の経験から鋼材の疲労亀裂時に防食塗膜が破断に至ることが知られている。リベットやボルトの破断は、接合部が観察できれば双眼鏡などを用いて容易に発見することができる。リベットやボルトの緩みは、これらの周りの塗膜の破断状況を近接して観察し、ハンマーなどで叩き音の変化を確認する打音検査によって発見することができる。一方、詳細検査は、検査目的によって異なるが検査のために足場の架設を伴うことがある。巡回による目視によって変状が発見されるのは検査通路に近い部位のみであり、多くの場合には足場を架設して接近観察が必要になるが、足場の架設には多くの費用が必要になる。このため、緊急性の高い詳細検査以外では、10~15年毎に実施されている塗替え塗装工事の塗装足場を活用して検査されている。
【0006】
従来の亀裂検知方法には、超音波式や磁粉探傷式による亀裂検知と長さの計測方法がある。この方法では、極めて小さい亀裂の発見と長さの高精度な評価は可能であるが、従来の目視による検査で亀裂が発見された後に近接して測定することになるため、亀裂の発見の目的に適さないとともに、目視による観察以上の高精度な計測の必要性も少ない。また、従来の亀裂検知方法には、鋼構造物に加わる繰返し応力を素子によってモニタして疲労寿命を予測する方法がある。この方法では、構造物の適当な箇所に設置した素子に加わる繰返し応力をモニタし、使用鋼材の経験的に知られる破壊までの繰返し数によってマイナー則を用いて期間を予測することができる。しかし、この方法では、亀裂の発生時期の確定や亀裂の成長に関する情報が得られず、構造物に補修や補強が必要であるか否かを判定することができず、補修や補強の時期も知ることができない。さらに、従来の亀裂検知方法には、鋼構造物の電気抵抗などの特性変化から亀裂の発生と進展を検知する方法がある。この方法では、鋼構造物自体の電気特性の変化をモニタして、鋼材の抵抗値の変化から亀裂の発生を求めることができる。しかし、この方法では、鋼材自体の抵抗が極めて低いため、印加した電流の流れる経路が短い小型試験片や小型構造物では検知が可能であるが、大型構造物では電流の経路が大きいため、亀裂による抵抗の減少量が極僅かになり、抵抗の変化を効果的に検知することが困難になる。
【0007】
近年、導電性薄膜を構造物に配置しこの構造物に亀裂が発生したときにこの導電性薄膜が破断することで亀裂を検知する方法が提案されている。例えば、従来の亀裂検知材(従来技術1)は、防水性を有する絶縁塗料をトンネルの壁面に塗布して形成された下地層と、線状模様の電気回路を形成するように下地層の表面に導電性塗料を塗布して形成された導電層と、下地層と同様の絶縁塗料を導電層及び下地層に塗布して形成されこれらを被覆する保護層とを備えている(特許文献1参照)。このような従来の亀裂検知材では、壁面にひび割れが発生して異常が発生するとこの異常箇所の周辺が剥離して導電層が断線し導電層が非通電状態になるため、センサが導電層の非通電状態を検出して壁面の異常を検出することができる。
【0008】

【特許文献1】特開2001-201477号公報(段落番号0010~0015及び図2)
【0009】
また、従来の亀裂検知材(従来技術2)は、加工対象物や試験片に取り付けられる誘電体層と、この誘電体層に亀裂が発生し進展したときに破壊される抵抗層と、この抵抗層の表面に形成されこの抵抗層に電流を流す2つの湾曲状の電極とを備える(特許文献2参照)。このような従来の亀裂検知材では、亀裂の進展方向に対して略均一な感度を有するように電極層が湾曲状に形成されているため、2つの電極間の抵抗値の変化から亀裂の成長を評価することができる。
【0010】

【特許文献2】特開平11-094787号公報(段落番号0021~0048及び図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年、塗装周期(塗替え塗装周期)の延伸と無塗装構造物の登場という2つの環境の変化が鋼構造物におきている。高耐久型塗装系の導入により塗替え塗装周期が30年ほどに延伸しているため、塗装足場を活用した近接による検査では検査期間が長期化している。また、耐候性鋼の採用による無塗装化により塗装足場の活用が期待できなくなっている。このため、このような環境の変化により検査のためだけの足場の架設が将来必要になり、足場の架設によって検査費用が増大してしまう問題がある。
【0012】
また、従来技術1では、マスキングテープなどを使用して下地層、導電層及び保護層を塗装する必要があるため、作業が困難で手間がかかるとともに、亀裂の発生を検知することはできるが亀裂の成長を評価することができないという問題がある。さらに、従来技術2では、2つの湾曲状の電極の中心に亀裂が発生するようにこれらの電極を配置する必要があり、亀裂の発生箇所を正確に予測できない場合には、亀裂の発生前に電極を配置することができないという問題がある。
【0013】
この発明の課題は、検査費用を節減し検査の確実性を向上させ現場施工が容易であり検知機能を長時間維持することができる亀裂監視システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、亀裂(C1)を監視する亀裂監視システムであって、前記亀裂の進展に応じて電気抵抗が変化する導電層(17a)と、この導電層に電流を流す電極層(17b)とを有する亀裂検出部(17)を、この亀裂の発生が予測される監視対象物(15)の表面に形成し、この監視対象物に発生した亀裂の位置をこの亀裂検出部によって検出して、この監視対象物に発生する亀裂を監視する亀裂監視材(16)と、前記導電層の通電状態を測定(S210,S240,S250)する通電状態測定部(7)と、前記通電状態測定部の測定結果に基づいて前記監視対象物に発生する亀裂を評価(S230)する評価部(9)とを備え、前記導電層及び前記電極層は、導電性塗料を塗布して形成されており、前記導電層は、被固定部材(13)とこの被固定部材を固定する固定部材(14)とが接合する接合部(14a)を被覆する前記監視対象物の表面に塗布されており、前記電極層は、前記導電層の表面に複数行及び複数列形成されており、かつ、各行及び/又は各列に複数個形成されており、前記評価部は、前記導電層に亀裂が発生したときに、この導電層の通電状態の測定結果に基づいて前記固定部材の緩みを検出(S230)することを特徴とする亀裂監視システム(2)である。
【0015】
請求項2の発明は、請求項に記載の亀裂監視システムにおいて、前記評価部は、複数の前記固定部材によって前記被固定部材が固定されているときに、前記導電層の通電状態の測定結果に基づいてこれらの固定部材の緩んだ数を検出(S270)することを特徴とする亀裂検出システムである。
【0016】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の亀裂監視システムにおいて、前記導電層は、前記電極層によって複数の監視領域(A1,A2)に区画されており、隣接する前記電極層によって囲まれる領域が一つの監視領域を形成することを特徴とする亀裂監視システムである。
【0017】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の亀裂監視システムにおいて、前記通電状態測定部は、前記電極層(17b)によって前記導電層(17a)が複数の監視領域(A1,A2)に区画されているときに、前記監視領域毎に通電状態を測定(S210)し、前記評価部は、前記監視領域毎の通電状態の測定結果に基づいて亀裂の発生した監視領域(A1)を特定(S230)することを特徴とする亀裂監視システムである。
【0018】
請求項5の発明は、請求項から請求項までのいずれか1項に記載の亀裂監視システムにおいて、前記通電状態測定部の測定結果を補正(S260)する補正部(10)を備え、前記評価部は、補正後の測定結果に基づいて前記亀裂を評価(S270)することを特徴とする亀裂監視システムである。
【0019】
請求項6の発明は、請求項に記載の亀裂監視システムにおいて、前記通電状態測定部は、前記電極層によって前記導電層が複数の監視領域に区画されているときに、前記監視領域毎に通電状態を測定(S210)し、前記補正部は、前記導電部に亀裂が発生したときに、亀裂の発生していない監視領域(A2)の通電状態の測定結果に基づいて、亀裂の発生した監視領域(A1)の通電状態の測定結果を補正(S260)することを特徴とする亀裂監視システムである。
【発明の効果】
【0026】
この発明によると、検査費用を節減し検査の確実性を向上させ現場施工が容易であり検知機能を長時間維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1は、この発明の第1実施形態に係る亀裂監視システムの構成図である。
鋼構造物1は、鋼材によって構成された固定構造物である。鋼構造物1は、例えば、鉄道車両が走行する線路の下部に空間を確保し列車の荷重を支持する橋梁である。亀裂監視システム2は、鋼構造物1に発生する亀裂C1を監視するシステムである。亀裂監視システム2は、図1に示すように、亀裂監視材3と、リード線5と、電源部6と、通電状態測定部7と、制御部8と、評価部9と、補正部10と、通信部11と、収容部12とを備えている。亀裂監視システム2は、亀裂Cの発生が予測される鋼構造物1の部位に設置されている。
【0028】
図2は、この発明の第1実施形態に係る亀裂監視システムの亀裂監視材の一部を破断して示す斜視図である。図3は、この発明の第1実施形態に係る亀裂監視システムの亀裂監視材の導電層及び電極層の平面図である。図4は、この発明の第1実施形態に係る亀裂監視システムの亀裂監視材の縦断面図である。
亀裂監視材3は、亀裂C1の発生が予測される鋼構造物1の表面に形成され、この鋼構造物1に発生する亀裂C1を監視する部材である。亀裂監視材3は、図2~図4に示すように、亀裂検出部4を備えている。亀裂監視材3は、図1に示すように、亀裂C1の発生が予測される鋼構造物1の表面に刷毛、ローラ又はスプレーなどによって塗布され形成されている。
【0029】
亀裂検出部4は、鋼構造物1に発生した亀裂C1の位置を検出する部分であり、図2及び図4示すように導電層4aと、防錆絶縁層4bと、電極層4cと、環境遮断層4dと、耐候層4eとを備えている。亀裂検出部4は、長期間にわたり耐久性が期待できる塗装系材料によって構成されており鋼構造物1の表面に形成されている。
【0030】
導電層4aは、亀裂C1の進展に応じて電気抵抗が変化する塗膜である。導電層4aは、亀裂C1の発生が予測される鋼構造物1の防錆絶縁層4bの表面に面状に形成されている。導電層4aは、図3に示すように、電極層4cによって複数の監視領域A1,…,A49に区画されており、隣接する電極層4cによって囲まれる領域が一つの監視領域A1,A2,…を形成している。導電層4aは、例えば、導電顔料と有機樹脂とを含む導電性塗料を塗布して形成されており、導電顔料としてはカーボンブラック、グラファイト、ニッケル、銅、銀などが好ましく、有機樹脂としてはエポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、アルキルシリケート樹脂などが好ましい。
【0031】
導電層4aの塗膜厚さは、10μm以下では現場施工によって連続した塗膜が得られないおそれがあり、100μm以上では塗装したときに垂れなどの塗膜欠陥が多く発生し、この塗膜欠陥を防止するために粘度を高くすると施工性が犠牲になるおそれがある。このため、導電層4aの塗膜厚さは、10~100μmが好ましく、特に30~60μmが望ましい。導電層4aの塗膜の物性は、引張試験による破断時の伸びが10%以下では鋼構造物1の温度差による伸縮などの他の要因によって割れるおそれがあり、30%以上では鋼構造物1の亀裂発生時やボルトの緩み時に導電層4aが同時に破壊しないおそれがある。このため、導電層4aの塗膜の物性は、引張試験による破断時の伸びが10~30%であることが好ましい。導電層4aは、体積抵抗率が1~10Ω・cmとなり、塗布後の電極間の抵抗が200~10000Ω、好ましく200~2000Ωとなるように、導電顔料と有機樹脂との配合量を調整して形成されている。導電層4aの塗料粘度は、現場で刷毛、ローラ又はスプレーなどによって塗布できる程度に調整することが好ましい。
【0032】
防錆絶縁層4bは、鋼構造物1と導電層4aとを電気的に絶縁するとともに鋼構造物1の腐食を防止する塗膜である。防錆絶縁層4bは、図2及び図4に示すように、鋼構造物1の表面(鋼素地)に亀裂Cの検知範囲を含むように広く塗布され形成されている。防錆絶縁層4bは、例えば、防錆顔料入りエポキシ樹脂や有機ジンクリッチペイントなどのような鋼構造物用防食塗装系に適用されている下塗り塗料である。防錆絶縁層4bの塗膜厚さは、30~100μmが好ましい。
【0033】
電極層4cは、導電層4aに電流を流す塗膜である。電極層4cは、導電層4aの表面に複数行及び複数列形成されており、各行及び/又は各列に複数形成されている。電極層4cは、導電層4aの表面に多数点状に形成されている。電極層4cは、例えば、図3に示すように、1行目の電極位置P11,…,P18に等間隔で8個形成され、1列目の電極位置P11,…,P81に電極位置P11,…,P18と等間隔で8個形成されており、8行8列の電極位置P11,…,P88に合計64個形成されている。電極層4cは、例えば、電極位置P11,P12,P21,P22に配置された隣接する4つの電極層4cによって導電層4aを一つの監視領域A1に区画しており、導電層4aを合計49個の監視領域A1~A49に区画している。電極層4cは、導電層4aと同一の導電性塗料を塗布して形成されており、塗膜厚さ、塗膜の物性及び塗料粘度も導電層4aと同一である。電極層4cは、体積抵抗率が0.01~1Ω・cmとなるように、導電顔料と有機樹脂との配合量を調整して形成することが好ましい。
【0034】
環境遮断層4dは、導電層4a及び電極層4cを保護するとともに鋼構造物1の防食性を向上させる塗膜である。環境遮断層4dは、図2及び図4に示すように、導電層4a及び電極層4cを被覆するようにこれらの表面に塗布され形成されている。環境遮断層4dは、例えば、環境遮断性に優れたエポキシ樹脂系塗料などのような鋼構造物用防食塗装系に適用される中塗り塗料である。環境遮断層4dの塗膜厚さは、60~120μmが好ましい。
【0035】
耐候層4eは、環境遮断層4dを自然因子の作用から保護する塗膜である。耐候層4eは、環境遮断層4dを被覆するようにこの表面に耐候性塗料を塗布して形成されている。耐候層4eは、例えば、耐紫外線性及び耐薬品性に優れたポリウレタン樹脂やふっ素樹脂などのような鋼構造物用防食塗装系に適用される上塗り塗料である。
【0036】
リード線5は、導電層4aに電流を流す電線である。リード線5は、図1に示すように、一方の端部が各電極位置P11,…,P81に配置された電極層4cにそれぞれ取り付けられ接続されており、他方の端部が通電状態測定部7に接続されている。
【0037】
図1に示す電源部6は、電極層4cに電力を供給する直流電源又は交流電源である。電源部6は、制御部8からの指令に基づいて、図3に示す各電極位置P11,…,P88に配置された電極層4cに電力を供給する。電源部6は、例えば、監視領域A1内において行方向(横方向)で互いに対向する電極位置P11,P12間及び電極位置P21,P22に配置された電極層4cに電力を供給するとともに、この監視領域A1内において列方向(縦方向)で互いに対向する電極位置P11,P21及び電極位置P12,P22に配置された電極層4cに電力を供給する。また、電源部6は、例えば、監視領域A1内において斜め方向で互いに対向する電極位置P11,P22及び電極位置P12,P21に配置された電極層4cに電力を供給する。
【0038】
図5は、この発明の第1実施形態に係る亀裂監視システムの通電状態測定部の測定動作を説明するための平面図である。
通電状態測定部7は、導電層4aの通電状態を測定する抵抗測定器などである。通電状態測定部7は、制御部8からの指令に基づいて、監視領域A1~A49毎に通電状態を測定する。通電状態測定部7は、電源部6に接続されており、電源部6からの電力を各電極位置P11,…,P81に配置された電極層4cに供給する。通電状態測定部7は、例えば、図5に示すように、監視領域A1に亀裂C1が発生したときには、亀裂C1の発生した監視領域A1の導電層4aの電気抵抗を測定するとともに、亀裂C1の発生していない監視領域A2,…,A49のうち少なくとも一つの電気抵抗を測定する。
【0039】
図1に示す制御部8は、亀裂監視システム2の種々の動作を制御する中央処理部(CPU)である。制御部8は、電源部6に電力の供給を指令したり、通電状態測定部7に通電状態の測定を指令したり、通電状態測定部7の測定結果を補正部10に送信してこの補正部10にこの測定結果を補正させたり、補正部10の補正結果を評価部9に送信してこの評価部9に亀裂C1を評価させたり、評価部9の評価結果を通信部11から送信させたりする。制御部8には、電源部6と、通電状態測定部7と、評価部9と、補正部10と、通信部11とが接続されている。
【0040】
評価部9は、通電状態測定部7の測定結果に基づいて鋼構造物1に発生する亀裂C1を評価する部分である。評価部9は、図3に示すように、監視領域A1~A49毎の通電状態の測定結果に基づいて、亀裂C1の発生した監視領域A1を特定したり亀裂C1の規模を評価したりする。また、評価部9は、例えば、亀裂C1の発生した監視領域A1内の通電状態の測定結果に基づいてこの亀裂C1の進展方向を特定する。評価部9は、通電状態測定部7の測定結果を補正部10が補正したときには、補正後の測定結果に基づいて亀裂C1を評価する。
【0041】
補正部10は、通電状態測定部7の測定結果を補正する部分である。補正部10は、外気温による変化や経年による特性変化などの影響を受けたときに、通電状態測定部7の測定結果を補償する。補正部10は、図5に示すように、監視領域A1内の導電層4aに亀裂C1が発生したときに、亀裂C1の発生していない監視領域A2,…,A49の通電状態の測定結果に基づいて、亀裂C1の発生した監視領域A1の通電状態の測定結果を補正する。
【0042】
図1に示す通信部11は、評価部9の評価結果を送信する部分である。通信部11は、制御部8が出力する評価情報を図示しない中央監視室内の送受信機に有線又は無線により送信したり、この中央監視室内の送受信機からの評価情報の送信指令を受信したりする送受信機などである。
【0043】
収容部12は、電源部6、通電状態測定部7、制御部8、評価部9及び補正部10を収容する部分である。収容部12には、リード線5が引き込まれており図示しない接続端子にこれらが接続されている。収容部12は、図1に示すように、電源部6及び通電状態測定部7などをユニット化した状態で収容しており、鋼構造物1の表面に取り付けられ固定されている。
【0044】
次に、この発明の第1実施形態に係る亀裂監視システムにおける亀裂監視材の製造方法を説明する。
鋼構造物1では限定された範囲内で亀裂C1の発生が予測されるがこの亀裂C1の起点を特定できない場合がある。例えば、図1~図5に示すように、鋼構造物1の限定された範囲内で亀裂C1の発生が予測される場合には、鋼構造物1の塗替え塗装時にこの範囲を含む鋼構造物1の表面に防錆絶縁塗料を塗布し、防錆絶縁層4bを形成する。次に、防錆絶縁層4bの表面に導電性塗料を面状に塗布して導電層4aを形成する。その後に、例えば、電極位置P11~P88に対応する部分に貫通孔が形成されたフィルムを導電層4aの表面に貼り付けて、このフィルムの表面から導電性塗料を塗布する。そして、このフィルムを導電層4aから剥離して、電極位置P11~P49に電極層4cを多数点状に形成する。次に、各電極位置P11~P49に配置された電極層4cにそれぞれリード線5を接続して、導電層4a及び電極層4cの表面に環境遮断性を有する塗料を帯状に塗布し環境遮断層4dを形成する。その後に、環境遮断層4dの表面に耐候性塗料を面状に塗布して耐候層4eを形成し、鋼構造物1の表面に亀裂監視材3を形成する。最後に、鋼構造物1の表面に収容部12を固定して、リード線5が収容部12の接続端子に接続される。
【0045】
次に、この発明の第1実施形態に係る亀裂監視システムの動作を説明する。
図6は、この発明の第1実施形態に係る亀裂監視システムの動作を説明するためのフローチャートである。
ステップ(以下Sという)100において、電源がONする。図1に示す制御部8が電源部6に電力の供給を指令すると、図3に示す各電極位置P11~P88に配置された電極層4cに電源部6が電力を供給し、導電層4aに電流が流れる。
【0046】
S110において、監視領域A1~A49毎に通電状態が測定される。図1に示す制御部8が通電状態測定部7に通電状態の測定開始を指令すると、図2に示す監視領域A1~A49毎に導電層4aの通電状態の変化を通電状態測定部7が測定して測定結果を制御部8に送信する。
【0047】
S120において、通電状態が変化したか否かが評価される。通電状態測定部7の測定結果を制御部8が評価部9に送信すると、監視領域A1~A49毎に電気抵抗の変化を評価部9が評価する。図5に示すように、監視領域A1に亀裂C1が発生すると、亀裂監視材3が部分的に破断して亀裂監視材3に亀裂C1が発生し、監視領域A1の電気抵抗の変化量が大きくなる。通電状態が変化したときにはS130に進み、通電状態が変化していないときには通電状態が変化するまで判断を繰り返す。
【0048】
S130において、亀裂発生領域が評価される。図5に示すように、導電層4aの監視領域A1内に亀裂C1が発生してこの亀裂C1がさらに成長し進展すると、監視領域A1内の電気抵抗の変化量が監視領域A2,…,A49内の電気抵抗の変化量に比べて大きくなる。このため、各監視領域A1~A3内の導電層4aの電気抵抗を通電状態測定部7がそれぞれ測定して、各監視領域A1~A49内の電気抵抗の変化を評価部9が評価する。その結果、電気抵抗の変化が最も大きい監視領域A1内に亀裂C1が発生したことが評価部9によって評価されて亀裂C1の発生位置が特定される。
【0049】
S140において、亀裂C1の発生していない監視領域A2,…の抵抗値が測定される。導電層4aや電極層4cが外気温の変化や経年による特性の変化などの影響を受ける場合には、通電状態測定部7の測定結果を補償する必要がある。このため、図5に示すように、監視領域A1内の導電層4aに亀裂C1が発生したときには、この監視領域A1以外の監視領域A2,…,A49のうち少なくとも一つの電気抵抗の測定値を通電状態測定部7が測定してこの測定結果を制御部8に送信し、制御部8がこの測定結果を補正部10に送信する。
【0050】
S150において、亀裂C1の発生した監視領域A1の抵抗値が測定される。通電状態測定部7が監視領域A1内の抵抗値を測定してこの測定結果を制御部8に送信し、制御部8がこの測定結果を補正部10に送信する。
【0051】
S160において、亀裂C1の発生した監視領域A1の抵抗値が補正される。監視領域A2,…,A49のうち少なくとも一つの電気抵抗の測定値の初期値からの変化量(外気温の変化や経年による影響値)を補正部10が演算する。その結果、監視領域A1内の電気抵抗の測定値からこの変化量を補正部10が減算することで温度や材質の変化が補償される。補正後の測定結果を補正部10が制御部8に送信すると、この補正後の測定結果を制御部8が評価部9に送信する。
【0052】
S170において、亀裂長さが評価される。補正部10が補正した補正後の抵抗値の変化量に基づいて、外気温の変化や経年による変化に影響されない実際の亀裂C1の長さが評価部9によって評価される。
【0053】
S180において、亀裂C1の発生した監視領域A1の縦横斜め方向の電極間抵抗が測定される。監視領域A1内の横方向(行方向)において互いに対向する電極位置P11,P12間及び電極位置P21,P22間の電気抵抗を通電状態測定部7が測定する。また、監視領域A1内の縦方向(列方向)において互いに対向する電極位置P11,P21間及び電極位置P12,P22間の電気抵抗を通電状態測定部7が測定する。さらに、監視領域A1内の斜め方向において互いに対向する電極位置P11,P22間及び電極位置P12,P21間の電気抵抗を通電状態測定部7が測定する。通電状態測定部7がこれらの電気抵抗を測定してこの測定結果を制御部8に送信すると、制御部8がこの測定結果を補正部10に送信する。
【0054】
S190において、亀裂C1の発生した監視領域A1の縦横斜め方向の電極間抵抗が補正される。監視領域A2,…,A49のうち少なくとも一つの電気抵抗の測定値の初期値からの変化量を、監視領域A1内の縦横斜め方向の電極間抵抗の測定値から補正部10が減算して補正する。補正後の測定結果を補正部10が制御部8に送信すると、この補正後の測定結果を制御部8が評価部9に送信する。
【0055】
S200において、亀裂進展方向が評価される。一般に、電極間に亀裂C1が発生したときに、亀裂C1の進展方向と同一方向では電気特性の変化が小さく、亀裂C1の進展方向と直交する方向では電気特性の変化が大きくなる。例えば、図5に示すような方向に亀裂C1が発生した場合には、亀裂C1の進展方向と同一方向の電極位置P11,P21間及び電極位置P12,P22間の電気抵抗の変化は小さく、亀裂C1の進展方向と交差する方向の電極位置P11,P12間及び電極位置P21,P22間の電気抵抗の変化は大きくなる。このため、亀裂C1の発生した監視領域A1の縦横斜め方向の電極間抵抗の測定結果に基づいて、亀裂C1の進展方向を評価部9が評価する。
【0056】
S210において、評価結果が送信される。亀裂C1の発生位置、亀裂長さ及び亀裂進展方向を評価部9が評価情報として制御部8に送信すると、この評価情報を制御部8が通信部11に送信し、図示しない中央監視室にこの評価情報を通信部11が送信する。
【0057】
S220において、許容亀裂長さに亀裂C1が到達したか否かが評価される。例えば、表1に示すように、下フランジに亀裂C1が発生した場合には、許容亀裂長さ20mmにこの亀裂C1が達したときに鋼構造物1が直ちに補強が必要な状態になる。このため、通電状態測定部7の測定結果に基づいて許容亀裂長さに亀裂C1が到達したか否かを評価部9が評価する。許容亀裂長さに亀裂C1が到達したときにはS230に進み、許容亀裂長さに亀裂C1が到達していないときにはS110に戻り監視領域A1~A49毎に通電状態の測定を繰り返す。
【0058】
S230において、評価結果が送信される。鋼構造物1に直ちに補強が必要であるという評価結果を評価部9が評価情報として制御部8に送信するとこの評価情報を制御部8が通信部11に送信して、図示しない中央監視室にこの評価情報を通信部11が送信する。
【0059】
この発明の第1実施形態に係る亀裂監視システム及び亀裂監視材には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、鋼構造物1に発生する亀裂C1の位置を亀裂検出部4が検出する。その結果、鋼構造物1の疲労亀裂のような鋼構造物1の健全性に影響する重大な変状が発生したときに、この変状の発生領域を検出することができるため、目視検査による不確実性を解消することができる。
【0060】
(2) この第1実施形態では、亀裂検出部4が塗料を塗布して形成されている。このため、例えば、鋼構造物1の塗替え塗装工事に合わせて導電性塗料を塗布して導電層4a及び電極層4cを簡単に形成することができる。その結果、屋外や現場で容易に施工することができるとともに、検査のためだけに足場を架設する必要がなくなり経費を節減することができる。
【0061】
(3) この第1実施形態では、亀裂の進展に応じて電気抵抗が変化する導電層4aの表面に、この導電層4aに電流を流す電極層4cが複数行及び複数列形成されている。その結果、亀裂C1の長さや進展方向などの鋼構造物1の変状を検査通路などの遠隔地から電気抵抗の変化として検出することができる。
【0062】
(4) この第1実施形態では、電極層4cが各行及び/又は各列に複数形成されている、その結果、亀裂C1の発生が予測される導電層4aが多数の細かな監視領域A1~A49に区画されるため、亀裂C1の発生領域を高精度に検出することができるとともに、この亀裂C1の長さや進展方向を高精度に検出することができる。
【0063】
(5) この第1実施形態では、電極層4cによって導電層4aが複数の監視領域A1~A49に区画されており、隣接する電極層4cによって囲まれる領域が一つの監視領域A1を形成する。その結果、いずれの監視領域A1~A49内に亀裂C1が発生したかを容易に検出することができる。
【0064】
(6) この第1実施形態では、通電状態測定部7の測定結果に基づいて鋼構造物1に発生する亀裂C1を評価部9が評価するため、通電状態の変化に基づいて鋼構造物1に発生する亀裂C1の長さや進展方向を簡単に検出することができる。
【0065】
(7) この第1実施形態では、監視領域A1~A49毎の通電状態測定部7の測定結果に基づいて亀裂C1の発生した監視領域A1を評価部9が特定するため、亀裂C1の発生位置を検出することができる。
【0066】
(8) この第1実施形態では、亀裂C1の発生した監視領域A1内の通電状態の測定結果に基づいてこの亀裂C1の進展方向を評価部9が特定するため、亀裂C1の成長を監視することができる。
【0067】
(9) この第1実施形態では、通電状態測定部7の測定結果を補正部10が補正し、補正後の測定結果に基づいて亀裂C1を評価部9が評価するため、外気温の変化や経年による特性の変化などの影響を補償することができる。
【0068】
(10) この第1実施形態では、導電層4aに亀裂C1が発生したときに、亀裂C1の発生していない監視領域A2,…,A49の通電状態の測定結果に基づいて、亀裂C1の発生した監視領域A1の通電状態の測定結果を補正部10が補正する。その結果、亀裂C1の発生した監視領域A1内の電気特性に含まれる外気温や材料特性の変化分を考慮して、監視領域A1内の測定値を補正することができる。
【0069】
(第2実施形態)
図7は、この発明の第2実施形態に係る亀裂監視システムの構成図である。図8は、この発明の第2実施形態に係る亀裂監視システムの亀裂監視材の縦断面図である。以下では、図1に示す部分と同一の部分については同一の番号を付して詳細な説明を省略する。
図7及び図8に示す添接板13は、鋼構造物1を構成する鋼部材同士を突き合わせて接合するときに、この突き合わせ部の側面に接合する継手用の鋼板である。ボルト14は、鋼構造物1に添接板13を固定する固定部材である。ボルト14は、例えば、図7に示すように、等間隔に1列当たり7本で3列(7行3列)にわたり合計21本配置されている。図8に示す周縁部14aは、ボルト14と添接板13とが接合する接合部であり、ボルト14の座面の縁部と添接板13とが接触する部分である。
【0070】
防錆絶縁層15は、鋼構造物1及び添接板13と亀裂監視材16とを電気的に絶縁するとともに、鋼構造物1及び添接板13の腐食を防止する層である。防錆絶縁層15は、図2及び図4に示す防錆絶縁層4bと同一の下塗り塗料であり、防錆絶縁層4bの塗膜厚さと同一である。防錆絶縁層15は、添接板13及びボルト14の表面に塗布され形成されており周縁部14aを被覆している。
【0071】
亀裂監視材16は、亀裂C1の発生が予測される防錆絶縁層15の表面に形成され、この防錆絶縁層15に発生する亀裂C1を監視する部材である。亀裂監視材16は、図8に示すように、亀裂検出部17を備えており、この亀裂検出部17は図2~図5に示す導電層4aなどとそれぞれ同一の塗料であり塗膜厚さも同一である導電層17aと、電極層17bと、環境遮断層17cと、耐候層17dとを備えている。導電層17aは、防錆絶縁層15の表面に塗布され形成されており周縁部14aを被覆している。電極層17bは、図7に示すように、隣接する6つの電極層17bによって導電層17aを一つの監視領域A1に区画している。電極層17bは、1行目の電極位置PH1及び2行目の電極位置PH1にそれぞれ1個形成され、1列目の電極位置PV11,PV21及び2列目の電極位置PV12,PV22に等間隔でそれぞれ2個形成されており、2行2列にわたり合計6個形成されている。
【0072】
次に、この発明の第2実施形態に係る亀裂監視システムの動作を説明する。
図9は、この発明の第2実施形態に係る亀裂監視システムの動作を説明するためのフローチャートである。以下では、図6に示す処理と同一の処理を実行するステップについては詳細な説明を省略する。
S200において、電源部6がONする。図7に示すように、行方向(横方向)で互いに対向する電極位置PV11,PV12間及び電極位置PV21,PV22に配置された電極層4cに電源部6が電力を供給するとともに、列方向(縦方向)で互いに対向する電極位置PH1,PH2に配置された電極層4cに電源部6が電力を供給する。また、斜め方向で互いに対向する電極位置PH1,PV11、電極位置PH1,PV21、電極位置PH1,PV12及び電極位置PH1,PV22などに配置された電極層4cに電源部6が電力を供給する。
【0073】
S220において、監視領域A1,A2毎に通電状態が測定される。例えば、監視領域A1内の行方向の電極位置PV11,PV12間及び電極位置PV21,PV22間の電気抵抗を通電状態測定部7が測定するとともに、監視領域A1内の列方向の電極位置PH1,PH2間の電気抵抗を通電状態測定部7が測定する。また、例えば、監視領域A1内の斜め方向の電極位置PH1,PV11間、電極位置PH1,PV21間、電極位置PH1,PV12間及び電極位置PH1,PV22間などの電気抵抗を通電状態測定部7が測定する。
【0074】
S230においてボルト14の緩み箇所が評価される。図7及び図8に示すように、ボルト14が緩むとこれらのボルト14の周縁部14aの塗膜が破壊される。その結果、監視領域A2の電気抵抗の変化量に比べて監視領域A1の電気抵抗の変化量が大きくなるため、監視領域A1,A2毎の通電状態の測定結果に基づいて、ボルト14が緩み亀裂C1の発生した監視領域A1を評価部9が特定する。
【0075】
S240において、亀裂C1の発生していない監視領域A1の電気抵抗が測定され、S250において亀裂C1の発生した監視領域A2の電気抵抗を通電状態測定部7が測定する。そして、S260において、亀裂C1の発生していない監視領域A2の通電状態の測定結果に基づいて、亀裂C1の発生した監視領域A1の通電状態の測定結果を補正部10が補正して、外気温による変化や経年による特性変化などの影響が補償される。
【0076】
S270において、緩んだボルト14の本数が評価される。監視領域A1内で1本のボルト14が緩んだときの通電状態の測定結果から、監視領域A1内で全てのボルト14が緩んだときの通電状態の測定結果までを、基準データとして評価部9が記憶している。このため、監視領域A1内に亀裂C1が発生したときの通電状態の測定結果とこの基準データとに基づいて、監視領域A1内で緩んだボルト14の本数を評価部9が特定する。
【0077】
S290において、許容本数に到達したか否かが評価される。表1に示すように、主桁添接ボルトの緩みが一群の30%に達したときには、鋼構造物1が直ちに補強が必要な状態になる。例えば、20~100本を超える数で構成された添接部の一群のボルトの場合には、30%に相当する6~30本が許容されるボルトの緩みとなる。このため、図7に示す全部で21本のボルト14の30%に相当する許容本数6本に、緩んだボルト14の本数が到達したか否かを、通電状態測定部7の測定結果に基づいて評価部9が評価する。
【0078】
この発明の第2実施形態には、第1実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
(1) この第2実施形態では、添接板13とボルト14とが接合する周縁部14aを導電層4aが被覆し、この導電層4aに亀裂C1が発生したときにこの導電層4aの通電状態の測定結果に基づいて評価部9がボルト14の緩みを検出する。このため、ボルト14の緩みのような鋼構造物1の健全性に影響する重大な変状を検出することができる。
【0079】
(2) この第2実施形態では、複数のボルト14によって添接板13が固定されているときに、導電層17aの通電状態の測定結果に基づいてこれらのボルト14の緩んだ数を評価部9が検出する。その結果、鋼構造物1の変状を常時監視して鋼構造物1に重大な変状が発生するのを未然に防止することができる。
【実施例】
【0080】
次に、この発明の実施例を説明する。
(抵抗測定実験)
図10は、この発明の実施例に係る亀裂検出用塗膜の抵抗測定実験の構成図であり、図10(A)は平面図であり、図10(B)は正面図である。
図10に示す亀裂検出用塗膜18は、亀裂の発生が予測される検出対象物に塗布されこの検出対象物の亀裂を検出する塗膜である。亀裂検出用塗膜18は、厚さ3mmの基板の表面に長さL=1800mm、幅W=900mmにわたり亀裂検出用塗料を面状に厚さt=0.06mmで塗布して形成されており、亀裂の発生に応じて電気抵抗が変化する。亀裂検出用塗膜18は、導電顔料としてカーボンブラックを含み、有機材料として液状エポキシを含む樹脂/顔料割合が500%の亀裂検出用塗料を塗布して形成されている。電極19は、亀裂検出用塗膜18に電流を流す部分であり、亀裂検出用塗膜18の短辺から距離L1=400mm、長辺から距離L2=225mmの位置に、縦方向の間隔D1=225mm及び横方向の間隔D2=500mmで形成されている。図10に示す亀裂検出用塗膜18の中央に亀裂Cを導入して各電極19間の電気抵抗を測定した。
【0081】
図11は、この発明の実施例に係る亀裂検出用塗膜の亀裂長さと抵抗値の増加量との関係を示すグラフである。
図11に示す横軸は、亀裂検出用塗膜18の短辺の長さ(mm)に対する亀裂長さ(mm)の比であり、縦軸は電極間の抵抗増加量(Ω)である。ここで、図11に示すαは、図10に示す電極位置PI,Pi間及び電極位置PIII,Piii間の抵抗増加量の平均値である。βは、電極位置PII,Pi間、電極位置PII,Piii間、電極位置PI,Pii間及び電極位置PIII,Pii間の抵抗増加量の平均値である。γは、電極位置PI,Piii間及び電極位置PIII,Pi間の抵抗増加量の平均値である。図11に示すように、亀裂Cの進展方向と同一方向で互いに対向する電極位置PA,PB間では亀裂Cの大きさに関わらず抵抗値増加量に変化がない。一方、亀裂Cの進展方向と交差する方向で互いに対向する電極位置PII,Pii間などでは亀裂Cが大きくなるほど抵抗変化量も大きくなる。その結果、亀裂Cの進展方向と交差する方向に配置された電極位置PII,Pii間などの抵抗値の変化を検出することで亀裂Cの発生とこの亀裂Cの長さを検出することができるとともに、亀裂Cの進展方向を検出することができる。
【0082】
(実施例1)
図12は、この発明の実施例1に係る亀裂検出用塗料の樹脂/顔料割合と体積抵抗率との関係を示すグラフである。
図12に示す横軸は、樹脂/顔料割合(wt%)であり、縦軸は体積抵抗率(固有抵抗率)(Ω・cm)である。ここで、樹脂/顔料割合は、顔料の質量に対する樹脂の質量の割合を示し、数値が小さいほど樹脂量の少ない塗膜であることを示す。実施例1は、導電顔料としてカーボンブラック(電気化学工業(株)製、商品名:デンカブラック)を含み、有機材料として液状エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、商品名:エピクロン)を含む亀裂検出用塗料である。
【0083】
【表2】
JP0004137781B2_000003t.gif

【0084】
表2は、カーボンブラック/液状エポキシ樹脂の体積抵抗率の測定結果を示す。実施例1は、図12及び表2に示すように、樹脂含有量が低下すると体積抵抗率が小さくなり導電性が向上している。図1~図5に示す導電層4aや図7及び図8に示す導電層17aとして実施例1の亀裂検出用塗料を使用する場合には、体積抵抗率が1~10Ω・cm程度になるように、導電顔料の質量に対する有機樹脂の質量を300~700wt%程度に調整することが望ましい。
【0085】
(実施例2)
図13は、この発明の実施例2に係る亀裂検出用塗料の樹脂/顔料割合と体積抵抗率との関係を示すグラフである。
図13に示す横軸は、樹脂/顔料割合(wt%)であり、縦軸は体積抵抗率(mΩ・cm)である。実施例2は、導電顔料としてニッケル粉(関東化学(株)製の試薬)を含み、有機材料として液状エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、商品名:エピクロン)を含む亀裂検出用塗料である。
【0086】
【表3】
JP0004137781B2_000004t.gif

【0087】
表3は、ニッケル粉/液状エポキシ樹脂の体積抵抗率の測定結果を示す。実施例2は、図13及び表3に示すように、実施例1と同様に樹脂含有量が低下すると体積抵抗率が小さくなり導電性が向上している。図1~図5に示す電極層4cや図7及び図8に示す電極層17bとして実施例2の亀裂検出用塗料を使用する場合には、体積抵抗率が0.01~0.04Ω・cm程度になるように、導電顔料の質量に対する有機樹脂の質量を20~80wt%程度に調整することが望ましい。
【0088】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、監視対象物として鋼構造物1を例に挙げて説明したが、コンクリート構造物などの他の構造物についてもこの発明を適用することができる。また、この実施形態では、8行8列の電極層4cによって49個の監視領域A1~A49に導電層4aを区画した場合を例に挙げて説明したがこれに限定するものではなく、任意の数の電極層によって任意の数の監視領域に導電層を区画することもできる。さらに、この実施形態では、固定部材としてボルト14を例に挙げて説明したがこれに限定するものではなく、リベットなどの他の固定部材の破断によって防錆絶縁層15に亀裂C1が発生する場合についてもこの発明を適用することができる。
【0089】
(2) この実施形態では、各電極層4c,17bにリード線5を接続しているが、リード線や電極層が予めパターン化されて形成されたフィルムを導電層4a,17aの表面に貼り付けて電極層を形成することもできる。また、この実施形態では、樹脂自体が液状である液状エポキシ樹脂によって亀裂検出用塗料を製造する場合を例に挙げて説明したが、液状エポキシ樹脂に比べて分子量が高く常温で固体である固形エポキシ樹脂によって亀裂検出用塗料を製造することもできる。さらに、この実施形態では、ニッケル粉によって亀裂検出用塗料を製造する場合を例に挙げて説明したがこれに限定するものではない。例えば、酸化物によって表面が覆われたニッケル粉以外の他の金属顔料であっても、樹脂中で粉砕することで導電性塗膜を形成できる場合には、このような他の金属顔料によって亀裂検出用塗料を製造することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】この発明の第1実施形態に係る亀裂監視システムの構成図である。
【図2】この発明の第1実施形態に係る亀裂監視システムの亀裂監視材の一部を破断して示す斜視図である。
【図3】この発明の第1実施形態に係る亀裂監視システムの亀裂監視材の導電層及び電極層の平面図である。
【図4】この発明の第1実施形態に係る亀裂監視システムの亀裂監視材の縦断面図である。
【図5】この発明の第1実施形態に係る亀裂監視システムの通電状態測定部の測定動作を説明するための平面図である。
【図6】この発明の第1実施形態に係る亀裂監視システムの動作を説明するためのフローチャートである。
【図7】この発明の第2実施形態に係る亀裂監視システムの構成図である。
【図8】この発明の第2実施形態に係る亀裂監視システムの亀裂監視材の縦断面図である。
【図9】この発明の第2実施形態に係る亀裂監視システムの動作を説明するためのフローチャートである。
【図10】この発明の実施例に係る亀裂検出用塗膜の抵抗測定実験の構成図であり、(A)は平面図であり、(B)は正面図である。
【図11】この発明の実施例に係る亀裂検出用塗膜の亀裂長さと抵抗値の増加量との関係を示すグラフである。
【図12】この発明の実施例1に係る亀裂検出用塗料の樹脂/顔料割合と体積抵抗率との関係を示すグラフである。
【図13】この発明の実施例2に係る亀裂検出用塗料の樹脂/顔料割合と体積抵抗率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0091】
1 鋼構造物(監視対象物)
2 亀裂監視システム
3 亀裂監視材
4 亀裂検出部
4a 導電層
4b 防錆絶縁層
4c 電極層
4d 環境遮断層
4e 耐候層
5 リード線
6 電源部
7 通電状態測定部
8 制御部
9 評価部
10 補正部
11 通信部
12 収容部
13 添接板(被固定部材)
14 ボルト(固定部材)
14a 周縁部(接合部)
15 防錆絶縁層(監視対象物)
16 亀裂監視材
17 亀裂検出部
17a 導電層
17b 電極層
17c 環境遮断層
17d 耐候層
18 亀裂検出塗膜
19 電極
1~A49 監視領域
1 亀裂
11~P88 電極位置
H1,PH2 電極位置
V11,PV12,PV21,PH22 電極位置

図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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