TOP > 国内特許検索 > 鉄道車両の滑走防止制御における車輪損傷の定量評価方法 > 明細書

明細書 :鉄道車両の滑走防止制御における車輪損傷の定量評価方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4209318号 (P4209318)
公開番号 特開2005-189143 (P2005-189143A)
登録日 平成20年10月31日(2008.10.31)
発行日 平成21年1月14日(2009.1.14)
公開日 平成17年7月14日(2005.7.14)
発明の名称または考案の名称 鉄道車両の滑走防止制御における車輪損傷の定量評価方法
国際特許分類 G01B  21/00        (2006.01)
B60T   8/1761      (2006.01)
G01M  17/10        (2006.01)
B61K   9/12        (2006.01)
FI G01B 21/00 W
B60T 8/1761
G01M 17/02 A
B61K 9/12
請求項の数または発明の数 1
全頁数 15
出願番号 特願2003-432109 (P2003-432109)
出願日 平成15年12月26日(2003.12.26)
審査請求日 平成18年4月11日(2006.4.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
発明者または考案者 【氏名】野中 俊昭
【氏名】板野 康晴
【氏名】吉川 広
【氏名】大山 忠夫
【氏名】遠藤 靖典
個別代理人の代理人 【識別番号】100089635、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 守
【識別番号】100096426、【弁理士】、【氏名又は名称】川合 誠
審査官 【審査官】櫻井 仁
参考文献・文献 特開2001-001723(JP,A)
特開2001-004364(JP,A)
特開平05-319243(JP,A)
野中俊昭 他3名,編成車両のブレーキに対する力学モデル,第10回鉄道技術連合シンポジウム講演論文集,日本,社団法人日本機械学会,2003年12月 8日,No.03-51,73-76
野中俊昭 他3名,編成としての鉄道車両における滑走防止制御(第1報,力学モデルの定式化と制御の評価法),日本機械学会論文集C編,日本,社団法人日本機械学会,2005年 5月25日,71/705,192-198
調査した分野 G01B 21/00~21/32
B60T 8/1761
G01M 17/10
B61K 9/12
特許請求の範囲 【請求項1】
レール・車輪間の摩擦による仕事に対応する車輪損傷量Qを、車輪損傷測定部に入力して、下記の理論式により求め、車輪損傷に対する定量評価を行うことを特徴とする鉄道車両の滑走防止制御における車輪損傷の定量評価方法。
【数1】
JP0004209318B2_000031t.gif
ただし、Fbiは第i軸の制輪子摩擦力、Ri は第i軸の車輪半径、Ji は第i軸の慣性モーメント、vは編成車両の速度、ωi は第i軸の角速度、-v+Ri ωi は第i軸のレール・車輪間のすべり速度を示している。なお、ここで、1≦i≦nである。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の滑走防止制御(以下、ABS)における車輪損傷の定量評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両のブレーキ時の力学的な挙動は、各軸に働くブレーキ力とレール・車輪間の粘着力とが相互に影響し合いながら、編成車両全体の並進運動エネルギーと各軸の回転運動エネルギーとをゼロにする運動とみなすことができる。したがって、鉄道車両のブレーキについて考える場合には、編成を単位としての力学的な挙動を考える必要がある。
【0003】
ところで、鉄道車両は自動車などと異なり、実車試験を容易に行うことができないため、シミュレーションの活用がABSなどの研究開発を効率的に進めるために重要である。
【0004】
しかしながらこれまで、鉄道車両のブレーキなどに対しては、1軸で力学モデルを表現している場合がほとんどであり(下記非特許文献1~6参照)、ABSなどの性能評価に対する編成車両全体の定式化およびシミュレーションは、ほとんど行われてこなかった。
【0005】
また、ABSの研究開発には、ABSの制御性能の評価方法を確立する必要があり、そのためには、ABSの主要な目的である「ブレーキ距離の短縮」と「車輪損傷の低減」に対して定量的に評価する方法が必要となる。しかしながら、ブレーキ距離については容易に測定できるものの、車輪損傷については、定量評価方法はこれまで存在せず、車両の営業使用により発生する車輪損傷を、統計的に把握することでしか制御性能の評価が行われていない。つまり、車輪損傷に対するABSの制御性能は、「実際に使用してみないと分からない」というのがこれまでの実態である。

【非特許文献1】田中,長谷川,保田,高橋,山口,高速電車の速度と粘着特性に対応した減速度自動制御に関する研究,機論,52-481,C(1986),2432-2436.
【非特許文献2】山崎,鉄道車両のブレーキ時における車輪滑走のシミュレーション,機講論,No.940-57(1994-12),232-236.
【非特許文献3】塩見,板野,FUZZY制御応用ANTI-SKID制御装置,機講論,No.940-57(1994-12),237-240.
【非特許文献4】飯田,喜多,熊野,菊地,ファジィ粘着制御方式の開発,電気学会産業応用部門全国大会,(1995-3),269-272.
【非特許文献5】南京,空気ブレーキによる車両減速度制御に関する研究,鉄道総研報告,Vol.17,No.4(2003-4),35-38.
【非特許文献6】Oldrich Polach,Winterthur,Rad-Schiene-Modelle in der Simulation der Fahrzeug- und Antriebsdynamik,Elektrische Bahnen,(2001-5),219-230.
【非特許文献7】Michel Boiteux,Le probleme de l’adherence en freinage,REVUE GENERALE DES CHEMINS DE FER,(1986-2),59-72.
【非特許文献8】Michel Boiteux,Influence de l’energie de glissement sur l’adherence exploitable en freinage,REVUE GENERALE DES CHEMINS DE FER,(1987-10),5-16.
【非特許文献9】熊谷,長谷川,「すべり率滑走制御」の導入による高速化・高減速度化,RRR.Vol.53,No.10(1996-10)18-21.
【非特許文献10】長谷川,茅島,在来線140km化のためのブレーキ技術,鉄道総研報告,Vol.13,No.10(1999-10),35-40.
【非特許文献11】川口,渡邊,大江,玉置,高粘着・高減速ブレーキシステムの開発,機講論,No.940-57(1009-12),241-244.
【非特許文献12】大山,内田,車輪/レール接触における巨視滑りまでの粘着力の挙動,機論,60-574,C(1994.6),2096-2102.
【非特許文献13】内田,大山,野村,ブレーキ時の粘着力と滑走制御,鉄道総研報告,Vol.15,No.5(2001.5),1-6.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、従来は、鉄道車両の滑走防止制御における車輪損傷に対して定量評価を行う方法がなかった。
【0007】
本発明は、上記状況に鑑みて、滑走防止制御における車輪損傷を簡便に、かつ容易に定量評価できる鉄道車両の滑走防止制御における車輪損傷の定量評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕鉄道車両の滑走防止制御における車輪損傷の定量評価方法において、レール・車輪間の摩擦による仕事に対応する車輪損傷量Qを、車輪損傷測定部に入力して、下記の理論式により求め、車輪損傷に対する定量評価を行うことを特徴とする。
【0009】
【数2】
JP0004209318B2_000002t.gif
ただし、Fbiは第i軸の制輪子摩擦力、Ri は第i軸の車輪半径、Ji は第i軸の慣性モーメント、vは編成車両の速度、ωi は第i軸の角速度、-v+Ri ωi は第i軸のレール・車輪間のすべり速度を示している。なお、ここで、1≦i≦nである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鉄道車両の滑走防止制御における車輪損傷を簡便に、かつ容易に定量評価することができる。
【0011】
よって、鉄道車両の滑走防止制御に対して車輪損傷の定量的な性能評価に活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
鉄道車両の滑走防止制御における車輪損傷の定量評価方法において、レール・車輪間の摩擦による仕事に対応する車輪損傷量Qを上記の理論式により求め、車輪損傷に対する定量評価を行う。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
本発明では、鉄道車両の編成車両全体のシミュレーションを可能とするため、編成車両のブレーキ時における力学モデルの定式化を図るとともに、実車試験でも測定可能な、車輪損傷に対するABSの制御性能の定量評価式を示す。また、ABSシミュレーションにより、3両編成(12軸)モデルに対する制御状態、ブレーキ距離および車輪損傷量の定量評価例を示す。
【0015】
まず、編成車両のブレーキに対する力学モデルについて説明する。
【0016】
図1はn軸の編成車両のための動的モデルを示す図であり、表1は変数の定義を示す。
【0017】
【表1】
JP0004209318B2_000003t.gif
図1および表1をもとに、機械ブレーキ時における編成車両の挙動について考える。
【0018】
図1において、1はレール、2は編成車両、3,4,5は車輪、6,7,8は車輪3,4,5のそれぞれの軸、9,10,11は車輪3,4,5のそれぞれの制輪子(またはパッド)である。
【0019】
編成車両2に働くブレーキ力には、各軸6,7,8の回転運動に加わるブレーキ力として、各車輪3,4,5の制輪子(またはパッド)9,10,11の摩擦力(以下、制輪子摩擦力)があり、また、編成車両2の並進運動に加わる減速力として、空気抵抗と勾配抵抗(以下、両者の総和を「車体抵抗」と呼ぶ)がある。
【0020】
ところで、制輪子摩擦力をFbi(1≦i≦n)、車体抵抗をFr とすると、制輪子摩擦力Fbiと車体抵抗Fr はともに、編成車両2の並進運動と、各軸6,7,8の回転運動の双方に影響する。具体的には、制輪子摩擦力Fbiと車体抵抗Fr によって、編成車両2の並進運動に対するブレーキ力Fと、各軸6,7,8の回転運動に対するブレーキ力Fi が発生する。つまり、制輪子摩擦力Fbiと車体抵抗Fr の総和は、編成車両2の並進運動に対するブレーキ力Fと各軸6,7,8の回転を停止させるブレーキ力Fi の総和に等しくなる。このことは、別の見方をすると、編成車両2を停止させるためには、編成車両全体が持つ並進運動エネルギーMv2 /2と、各軸6,7,8の回転運動エネルギーJi ωi 2 /2とをゼロにする必要があり、制輪子摩擦力Fbiと車体抵抗Fr は、双方のエネルギーをゼロにするために与えられる力であると考えることができる。
JP0004209318B2_000004t.gif
【0021】
一方、上限値を超えるように制輪子摩擦力Fbiを与えると、車輪は滑走状態(滑走の度合が増加している状態)となり、『角減速度と車輪半径の積>編成の減速度』となる。
JP0004209318B2_000005t.gif
【0022】
以上を踏まえて、編成車両の並進運動と各軸の回転運動についての定式化を行う。なお、以下では全て、ブレーキ力方向を正とするとともに、編成としての車両は剛体であり、各軸とも固着(車輪の完全停止)に至ることはないものとする。また、制輪子摩擦力Fbiの摩擦係数を一定とするとともに、輪軸に働く軸受抵抗と曲線抵抗は、制輪子摩擦力Fbiに含まれるものとする。
【0023】
編成車両の並進運動の減速度βを与える力をFとすると、
Mβ=F (1)
また、各軸の回転を停止させるためのブレーキ力をFi とすると、
【0024】
【数3】
JP0004209318B2_000006t.gif
F,Fi の総和は,FbiとFr の総和と等しいので、
【0025】
【数4】
JP0004209318B2_000007t.gif

【0026】
JP0004209318B2_000008t.gif【数5】
JP0004209318B2_000009t.gif

【0027】
JP0004209318B2_000010t.gif【数6】
JP0004209318B2_000011t.gif

【0028】
JP0004209318B2_000012t.gif【数7】
JP0004209318B2_000013t.gif
という関係が成り立つ。
JP0004209318B2_000014t.gif これは、編成車両の並進運動が減速度βで減速するとき、制輪子摩擦力Fbiのない軸においても回転運動が角減速度β/Ri で減速する運動を表現したものである。つまり、式(5)~(11)のモデルは進行方向と同じ向きの、いわゆる負方向の粘着力Ji β/Ri 2 によって、制輪子摩擦力Fbiのない軸の回転運動が停止することを含め、編成車両の並進運動と各軸の回転運動との相関性を考慮したものとなっていることがわかる。
【0029】
一方、このモデルでは、式(9)~(11)が従来(非特許文献2,12,13参照)の1軸モデルにおける関係式と異なり、粘着力が負となる場合もあることから、理解し難いうえ、以後の理論展開が複雑になる。そこで、
【0030】
【数8】
JP0004209318B2_000015t.gif
として変数変換すると、式(5)~(11)は、それぞれ式(13)~(19)のように書き直される。
【0031】
【数9】
JP0004209318B2_000016t.gif
定常状態 : Fbi=Fmi(∀i) (17)
滑走状態 : Fbi>Fmi(∀i) (18)
再粘着過程 : Fbi<Fmi(∀i) (19)
以上、式(13)~(19)が編成車両のブレーキに対する力学モデルの定式化である。なお、Fmiは、物理的に、定常状態ではFbiの反力として発生する粘着力であり、滑走状態、再粘着過程を含め、自軸の回転運動のみを考慮した粘着力を示している。Fmiの力の向きは反進行方向である。
JP0004209318B2_000017t.gif
【0032】
ところで、ブレーキ中、各軸の速度が、編成車両の速度を超えることはない。従って、これまでの議論は、初速度V0 から完全に停止するまでの間の任意の時刻Tに対して、
-Ri ωi ≦-v
すなわち、
【0033】
【数10】
JP0004209318B2_000018t.gif
を前提としている。式(15)、(16)を用いて式(20)を整理すると、
【0034】
【数11】
JP0004209318B2_000019t.gif
式(21)の意味するところは、「固着に至らない限り、時刻Tにおいて、Fbiによる運動量はFmiによる運動量よりも、滑走状態および再粘着過程では大きくなり、定常状態では等しくなる」ということであり、以下のように表される。
【0035】
【数12】
JP0004209318B2_000020t.gif
なお、以上の議論は、回生ブレーキなどの電気ブレーキに対しても同様に適用することができる。また、符号に注意すれば、力行時についても一般性を失わずに適用することができる。
【0036】
次に、本発明の特徴となる車輪損傷に対する定量評価について説明する。
【0037】
車輪は主として、レールとの接触により損傷を受ける。それには固着により生ずるものと、滑走時にレールとのすべりにより生ずるものとがあるが、固着に至るようなABSを設計することは考えられないため、車輪損傷に対する制御性能の定量評価としては、滑走時に車輪がレールから受ける、摩擦による仕事に対応する車輪損傷量Qとするのが適切である。そこで、ここでは、そのような摩擦による仕事を定量評価式として導出することを考える。
【0038】
編成車両全体において、ブレーキ開始から任意の時刻Tまでの間に減少するエネルギーは、編成車両全体の並進運動エネルギーの減少量と、各軸の回転運動エネルギーの減少量との総和であるから、
【0039】
【数13】
JP0004209318B2_000021t.gif
式(24)第1項は、式(2)、(3)を用いて、
【0040】
【数14】
JP0004209318B2_000022t.gif
また、式(24)第2項は、
【0041】
【数15】
JP0004209318B2_000023t.gif
よって、式(24)は、式(25)、(26)より、
【0042】
【数16】
JP0004209318B2_000024t.gif
となる。式(27)は、ブレーキ中におけるエネルギー保存則を表現したものである。
【0043】
ところで、第i軸の周速度は-Ri ωi 、第i軸のレール・車輪間のすべり速度は-v+Ri ωi であるから、式(27)第1項は制輪子の摩擦による仕事を表し、式(27)第2項は滑走によるレール・車輪間の摩擦による仕事を表している。よって、滑走時において、式(27)第2項は、車輪がレールから受ける損傷の定量表現とみなすことができる。さらに、式(27)第2項におけるFbi,Ji ,Ri ,v,Ri ωi は、制輪子の摩擦係数を一定と考える場合、全軸滑走時を除き、いずれも容易に計測可能な物理量である。したがって、式(27)第2項は、シミュレーションだけでなく実車試験でも算出可能な式であり、ABSに対して、車輪損傷の定量的な性能評価に活用できる。
【0044】
よって以下では、式(27)第2項を「車輪損傷量Q」として、
【0045】
【数17】
JP0004209318B2_000025t.gif
と表すことにする。
【0046】
なお、停止まで滑走がまったく発生しない場合、任意の時間について、-v=-Ri ωi (∀i)であるから、式(27)は以下のようになる。
【0047】
【数18】
JP0004209318B2_000026t.gif
式(29)から、滑走が発生しないまま停止まで至る場合、編成車両全体の運動エネルギーの総和は、すべて制輪子摩擦力Fbiと車体抵抗Fr で消費され、車輪損傷量はQ=0となることがわかる。
【0048】
次に、本発明によるABSにおける車輪損傷の定量評価のシミュレーション例について説明する。
【0049】
ここでは、以上をもとに、3両編成(12軸)モデルに対するファジィ推論を用いたABSについてのシミュレーション例を示す。シミュレーションの各種条件を表2に、レール・車輪間の粘着係数モデル(巨視すべり領域まで拡張したモデル)を図2に示す。なお、図2(a)は第1番目の軸のすべり率(%)と粘着係数の特性図、図2(b)は第1番目の軸の走行速度(km/h)と粘着係数の特性図、図2(c)は第12番目の軸のすべり率(%)と粘着係数の特性図、図2(d)は第12番目の軸の走行速度(km/h)と粘着係数の特性図である。
【0050】
本シミュレーションにおけるファジィ推論を用いたABSは、現在実用に供されているABSと同一のものである。なお、このABSの仕様については、格別の制限を設けないものとするのでここでは割愛する。
【0051】
【表2】
JP0004209318B2_000027t.gif
粘着係数については、一般に、これまでの実験や実車試験を通じ、定性的に以下のことがわかっている(非特許文献7-12参照)。
(1)粘着係数は前方の車輪の方が低い。
(2)後方の車輪ほど粘着係数に対する走行速度の影響が低くなる。
(3)前方の車輪が滑走すると、後方の車輪の粘着係数が向上する。
【0052】
そこで、上記(1)~(3)を満たすよう、図2に示す通り、粘着係数は、走行速度、すべり率〔=(編成の走行速度-自軸の走行速度)/走行速度〕のほか、軸位についても考慮している。
【0053】
また、図2には表現されていないが、前方の車輪のすべり率に応じて、軸間距離相当の遅れで後方の車輪の粘着係数が向上するような関数も付加している。
【0054】
また、図3は、シミュレーション結果を示す図であり、図3(a)は第3両目の車両の、図3(b)は第2両目の車両の、図3(c)は第1両目の車両の、それぞれのシミュレーション結果を示す図である。
【0055】
各軸の速度、BC圧の給排気、給気電磁弁(以下、AV)と排気電磁弁(以下、RV)の動作、ブレーキ距離を示している。
【0056】
さらに、図4は、実車試験結果の一例を示している。
【0057】
図3と図4より、シミュレーションにおける結果が実際の走行試験結果とほぼ同じような挙動となっていることがわかる。
【0058】
図3から先頭軸であるNo.1軸の滑走がもっとも大きく、後方軸ほど滑走が小さくなっていることがわかる。これは、編成車両として軸位を考慮した粘着係数モデルとしている結果が現れていることを示している。
【0059】
さらに、同一台車において、前方となる奇数軸よりも後方となる偶数軸の方が滑走が小さくなっているが、これは、AV/RVが台車単位となっているためである。
【0060】
表3は、1両編成(4軸)、2両編成(8軸)、3両編成(12軸)それぞれの単独編成に対して、同一のシミュレーション条件と粘着係数モデルを与えたときのブレーキ距離を比較したものである。
【0061】
【表3】
JP0004209318B2_000028t.gif
一般に「降雨時では短編成の方がブレーキ距離が延びる」ということが知られているが、表3から、シミュレーション上でもこのことが表現できることが分かる。
【0062】
以上、図3及び表3より、編成車両としてモデル化することで、従来の1軸モデルでは不可能であったシミュレーションを実車に近い形で行うことができることが分かる。
【0063】
最後に、表4は、ABSの滑走検知感度の違いによる車輪損傷量とブレーキ距離を比較したものである。車輪損傷量は式(28)で定義したQにより算出している。
【0064】
【表4】
JP0004209318B2_000029t.gif
表4より、検知感度を下げる(low)ことで滑走を許容すると、車輪損傷量は大きくなるものの、ブレーキ距離が短くなる傾向があり、検知感度を上げる(high)ことで滑走を許容しないと、ブレーキ距離は長くなるものの、車輪損傷量は小さくなる傾向があることが分かる。
【0065】
図5は本発明にかかる鉄道車両の滑走防止制御における車輪損傷の定量評価システムの構成図である。
【0066】
この図において、20は入力装置であり、この入力装置20から、第i軸の制輪子摩擦力Fi 、第i軸の車輪半径Ri 、第i軸の慣性モーメントJi 、編成車両の速度v、第i軸の角速度ωi 、第i軸のレール・車輪間のすべり速度-v+Ri ωi を求めて、インターフェース22を介して車輪損傷測定部21に入力し、レール・車輪間の摩擦による仕事に対応する車輪損傷量Qの理論式を論理式編集部23で編集し、その理論式を、演算処理部24で処理して出力部25へ出力する。
【0067】
【数19】
JP0004209318B2_000030t.gif
このことは、車輪損傷量が、ブレーキ距離と合わせて、ABSの制御性能を評価する定量指標として活用でき、ABSを営業線で使用する前に、制御性能を定量的に見積もることを可能とするという利点があることを示している。
【0068】
上記したように、本発明によれば、ABSに対して、編成モデルの定式化および車輪損傷量の定量評価式の導出を行うことで、編成車両として、実車に近い形でのシミュレーションができるようになるとともに、ABSの車輪損傷に対する定量評価を行うことを可能としている。特に、車輪損傷量に対しては、これまで定式化がなされたことがないことから、今後のABSに対する研究開発に大きく寄与することが期待できる。
【0069】
この編成モデルに関するシミュレーションの応用としては、ここで示したABSの他、1軸モデルでのシミュレーションでは不可能な、制御伝送を用いた編成ブレーキ制御などに対する研究・開発が考えられる。
【0070】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、鉄道車両の滑走防止制御における車輪損傷に対する定量評価方法に適しており、その制御性能向上に資するところが大である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】n軸の編成車両のための動的モデルを示す図である。
【図2】レール・車輪間の粘着係数モデルを示す図である。
【図3】本発明の実施例を示すシミュレーション結果を示す図である。
【図4】実車試験結果の一例を示す図である。
【図5】本発明にかかる鉄道車両の滑走防止制御における車輪損傷の定量評価システムの構成図である。
【符号の説明】
【0073】
1 レール
2 編成車両
3,4,5 車輪
6,7,8 軸
9,10,11 制輪子(またはパッド)
20 入力装置
21 車輪損傷測定部
22 インターフェース
23 論理式編集部
24 演算処理部
25 出力部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図5】
3
【図4】
4