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明細書 :レール電位低減交流き電回路

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3816413号 (P3816413)
公開番号 特開2003-260963 (P2003-260963A)
登録日 平成18年6月16日(2006.6.16)
発行日 平成18年8月30日(2006.8.30)
公開日 平成15年9月16日(2003.9.16)
発明の名称または考案の名称 レール電位低減交流き電回路
国際特許分類 B60M   3/02        (2006.01)
FI B60M 3/02 A
請求項の数または発明の数 4
全頁数 11
出願番号 特願2002-061722 (P2002-061722)
出願日 平成14年3月7日(2002.3.7)
審査請求日 平成16年7月29日(2004.7.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
発明者または考案者 【氏名】持永 芳文
【氏名】久水 泰司
【氏名】吉舗 幸信
【氏名】増山 隆雄
個別代理人の代理人 【識別番号】100089761、【弁理士】、【氏名又は名称】八幡 義博
審査官 【審査官】安池 一貴
参考文献・文献 特開昭63-043841(JP,A)
特公昭42-027403(JP,B1)
実公昭43-030486(JP,Y1)
調査した分野 B60M 3/02
特許請求の範囲 【請求項1】
変電所のき電電圧を電車線電圧より高くし、線路に沿って所定距離ごとに設置された単巻変圧器(AT)により電車線電圧に降圧し、電気車に電力を供給するATき電回路であって、レール電位を低減するために3軌道回路以上の間隔でAT箇所およびその中間でレールと保護線(PW)を結ぶCPW箇所においてインピーダンスボンドの中性点を接地する多点接地回路を有することを特徴とするレール電位低減交流き電回路。
【請求項2】
接地回路の接地電極として、高架区間では高架脚部鉄筋を利用し、トンネル区間ではトンネル用鉄筋または路盤鉄筋を利用することを特徴とする請求項1記載のレール電位低減交流き電回路。
【請求項3】
接地回路の接地電極として、埋設接地線を用いることを特徴とする請求項1記載のレール電位低減交流き電回路。
【請求項4】
直流電気鉄道が並行する区間においては、電食を防止するため、インピーダンスボンド中性点と接地電極との間にコンデンサとリアクトルからなる直列共振回路を設けたことを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3に記載のレール電位低減交流き電回路。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気鉄道の単巻変圧器(AT)き電方式において、電気車走行時に発生するレール電位を低減する技術の分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
電気鉄道においては、レールを帰回路として構成し、電気車電流を流すため、レールの特性インピーダンスと負荷電流に起因するレール電位が発生する。
図7に、最も簡単な、トロリ線とレールのみで構成される直接き電方式の図を示す。(a)はき電系統図、(b)はレール電流分布図、(c)はレール電位分布図である。
変電所10からトロリ線2を経て電気車11にき電されレール3を経て変電所10へ戻る。変電所10の位置をO点、電気車11の位置をQ点(負荷点)とし、O点からQ点までの距離をl1 とすると、O点から距離xのx点におけるレール電流Ix は数式1で表される。
【0003】
【数1】
JP0003816413B2_000002t.gif【0004】
この数式1によって表される電流分布を示すのが図7の(b)である。
レール電位は、レール電流にレールの特性インピーダンスZ0 を乗じて求められるが、数式1中のn0Iは電車線電流Iの電磁誘導作用によって流れる成分なので、レール電位には何ら関与しない。よってx点におけるレール電位Vx は、数式2のようになる。
【0005】
【数2】
JP0003816413B2_000003t.gif【0006】
電気車11の存在するQ点(負荷点)のレール電位VQ は数式2にx=l1 を代入すればよいから、その結果数式3のようになり、最も高くなる。
【0007】
【数3】
JP0003816413B2_000004t.gif【0008】
一方、変電所10の位置であるO点のレール電位VO は数式2にx=0を代入すればよいから、その結果、数式4のようになる。
【0009】
【数4】
JP0003816413B2_000005t.gif【0010】
これを数式3の負荷点の電位と較べると大きさは同じで極性が反転していることが分かる。図7の(c)はこのことを示している。
図8はATき電方式の場合を示す。
ATき電方式においては電気車11に流れた負荷電流Iは進行方向前後の単巻変圧器(以下、ATとも呼ぶ)1に分流するので、直接き電方式の場合とはレール電位の分布が異なるが、例えば、電気車11が図8の(a)のようにAT間(距離l2)の中央Q点にいるときのQ点におけるレール電位は直接き電方式と同様に数式3のl1 の代りにl2 /2を代入して数式5で表される。
【0011】
【数5】
JP0003816413B2_000006t.gif【0012】
上記数式5の値は、図8の(a)における、レール3と保護線(PWとも呼ぶ)7を結ぶCPW8がない場合の値であるが、通常ATとATの中央点ではレールがインピーダンスボンドを通して保護線と接続されていることから数式6の値の約70%位に低減する。一方、電気車11が(a)のようにQ点にいる状態でのATの位置即ちP点およびR点のレール電位は、負荷電流Iが前後のATに向って分流してレールに流れること、およびPW7への分流効果によって、負荷点(Q点)のレール電位に較べて逆極性で値が2分の1以下程度になる。このような状態でのレール電位を示すと図8の(b)のようになる。
【0013】
以上のようなレール電位の値は、在来線においては、負荷電流が小さいため実用上問題は発生していない。
一方、新幹線においては負荷電流が大きいため、電車の通過直後のレール電位は高くなることがあるが、新幹線特例法によって一般の立入を禁止していること、および営業時間帯は保守作業を行わないため、問題は発生していない。
以上から、従来一般区間において特段のレール電位抑制対策は実施されていない。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、今後建設されるATき電回路においてはAT間隔が長くなり、15kmを超すような長い区間が想定されることから、レール電位が更に高くなり、信号の軌道回路を電気的に絶縁するために用いられているレールとまくらぎ間の絶縁パットに高い電圧が加わり、寿命を短くするという問題がある。
【0015】
また、今後上下線で構成されるATき電回路において片線を電車が走行し、他線で線路敷地内に立ち入って作業を行う場合、レールが高い電位にあることは種々危険を伴うという問題がある。
【0016】
本発明の目的は、上記問題に鑑みてATき電方式におけるレール電位の上昇を抑制する手段を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の目的を達成するために次の手段構成を有する。
本発明の第1の構成は、変電所のき電電圧を電車線電圧より高くし、線路に沿って所定距離ごとに設置された単巻変圧器(AT)により電車線電圧に降圧し、電気車に電力を供給するATき電回路であって、レール電位を低減するために3軌道回路以上の間隔でAT箇所およびその中間でレールと保護線(PW)を結ぶCPW箇所においてインピーダンスボンドの中性点を接地する多点接地回路を有することを特徴とするレール電位低減交流き電回路である。
【0018】
本発明の第2の構成は、前記第1の構成において、接地回路の接地電極として、高架区間では高架脚部鉄筋を利用し、トンネル区間ではトンネル用鉄筋または路盤鉄筋を利用することを特徴とするレール電位低減交流き電回路である。
本発明の第3の構成は、前記第1の構成において、接地回路の接地電極として、埋設接地線を用いることを特徴とするレール電位低減交流き電回路である。
【0019】
本発明の第4の構成は、前記第1、第2又は第3の構成において、直流電気鉄道が並行する区間においては、電食を防止するため、インピーダンスボンド中性点と接地電極との間にコンデンサとリアクトルからなる直列共振回路を設けたことを特徴とするレール電位低減交流き電回路である。
【0020】
【発明の実施の形態】
説明の簡単のために、図1に示すような直接き電方式において、変電所近傍でレールを接地した場合のレール電位を考える。
図1の(a)はき電系統を示す図である。変電所10の位置をO点、電気車11の位置をP点(負荷点)とし、O点とP点の距離をl1 とする。電気車11に流れる負荷電流はIである。(b)はレールの電流分布を示す図であり、(c)はレール電位分布を示す図である。
【0021】
今、O点の近傍、距離aのQ点でレール3を接地抵抗Rg を介して接地した場合を考える。この場合、レール3のアドミタンスを通して減衰している電流は、Q点で透過および反射を行う。図1において、Q点より右側から電流が流れ込む場合は、Q点から見たインピーダンスZは、Q点より左方のレールの特性インピーダンスZ0 と接地抵抗Rg が並列となっているので、数式6のようになる。
【0022】
【数6】
JP0003816413B2_000007t.gif【0023】
そして、Q点から右方はレールの特性インピーダンスZ0 であり、Q点でインピーダンス不整合となっているため、右から進行して来た電流波は一部反射する。その反射係数mは数式7で与えられる。
【0024】
【数7】
JP0003816413B2_000008t.gif【0025】
変電所10の位置O点において、左方へ進む電流波は変電所10からの
-(1-n0)I/2
とP点からの電流波
(1-n0)Iexp(-γl1)/2
となり、従って、右方からQ点に到着する電流波IQ は数式8で表される。
【0026】
【数8】
JP0003816413B2_000009t.gif【0027】
次に、Q点で反射して右方へ向う電流波IQRは、数式8の電流波IQ に反射係数mを乗じたものであるから、数式9のようになる。
【0028】
【数9】
JP0003816413B2_000010t.gif【0029】
従って、Q点でのそれぞれの電流波IQ とIQRを合成したレール電流Ia は、電流の方向は右方を正として表すと、数式10のようになる。
【0030】
【数10】
JP0003816413B2_000011t.gif【0031】
次に、Q点における電圧Va は電流に特性インピーダンスZ0 をかけて求められる。ただし、電圧は電流の流れ方向にかかわらず、その向きは同じであるので、左方に進む電流についての符号は+となる。従って、数式11のようになる。
【0032】
【数11】
JP0003816413B2_000012t.gif【0033】
Q点で完全接地、即ちRg =0で接地すると反射係数mは数式7よりm=-1となるから、数式11よりVa =0となる。
逆に、Q点を全く接地しない場合、即ちRg =∞とすると、反射係数mは数式7よりm=0となるから、Q点における電圧Va は数式11より数式12のようになる。
【0034】
【数12】
JP0003816413B2_000013t.gif【0035】
以上のように、接地点Qのレール電位は接地抵抗Rg が小となるほど電位が低くなり、Rg =0でVa =0となることが分かる。即ち、レールを抵抗Rg で接地すればレール電位を抑制することができる。
しかしながら、図1の(c)に示すように、接地点であるQ点から離れるにつれて低減効果が少なくなり、負荷点では最大電圧となる。
そこで、き電回路全体に渡ってレール電位を低減するには数kmおきにレールを接地する多点接地が有効となる。
【0036】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
図2は、ATき電回路における多点接地の概念図である。レールは1列車しか入らない閉そく区間を設けており、これを軌道回路と呼んでいる。
レールの破断検知を考えると、軌道回路5に並列に接続される導体は最低2軌道回路が必要であり、更に余裕を考えると、3軌道回路以上が必要である。
【0037】
すなわち、レール3と並列に接続される、電車線路のがいしせん絡を検知する保護線7は、3軌道回路以上離れて、CPW8によりレール3のインピーダンスボンド4の中性点と接続されている。
同様に、レール3のインピーダンスボンド4を接地することは、軌道回路5と並列回路を作ることになるので、CPW8と同様に3軌道回路以上離すことが必要になる。
【0038】
従って、レールのインピーダンスボンド4を接地する位置には必ずしもCPW箇所でなくても良いが実用上はCPW箇所で接地することが軌道回路の並列箇所を少なくすることになり、実施が容易となる。
また、例えばCPW8と接地の位置を同じ箇所にした場合、その箇所は、AT箇所と、AT箇所の中間に1箇所の場合が一般的であるが、AT間隔が長くなれば軌道回路条件が許されるならば2箇所,3箇所も可能である。
【0039】
図3はATき電回路と電気車の位置(負荷点)およびその位置におけるレール電位との関係を示す図である。(a)はき電系統図である。(b)は(a)のき電系統における電気車11の位置とその位置のレール電位を示している。(a)のレール3上の位置を示すA,B,C,……と(b)の横軸におけるA,B,C,……と対応する。
【0040】
(b)の実線曲線は(a)におけるCPW8および接地回路9がすべてない場合のレール電位の変化を示している。電気車がA点即ち、AT1の位置にあるときのその点におけるレール電位が最も低く、電気車が右方へ移動するにつれ、電気車の位置のレール電位は上昇し、B点即ちAT1とAT1の中間点で最大となり、前述の数式5のレール電位となる。中間点(B点)を過ぎるとほぼ対称の曲線で低下して行き、AT1の位置であるC点で最小となる。これはA点の電位と同じである。
【0041】
C点を通過すると再び上昇し始め、次のAT1の位置(F点)との中間点で最大になる。ここで、中間点までの距離がA点からB点までの距離より長くなっているので、中間点での最大値は数式5から分かるようにB点における値よりも大きくなる。中間点を通過するとほぼ対称の曲線でF点まで低下する。
【0042】
次に、A~Fの各点をCPW8によって保護線7に接続した場合の電位を示すと実線曲線の下の点線曲線のようになる。この場合、B点,D点,E点では曲線に窪みを生じており、最大値は無対策時(実線曲線の場合)に比べて約70%に低減する。
【0043】
更に、A~Fの各点を接地回路9にて接地すると、更に下の点線曲線のようになり、レール電位は回路条件により異なるが、無対策の場合に較べて約4分の1以下に低減する。
このように、レールを多点接地することにより、レール電位を低減することができる。
【0044】
また、レール回路のインピーダンスを下げるとレール電位を低減することができるから、複線区間では、上下線のレールを結ぶクロスボンドの実施が考えられる。図4に複線区間の上下線のレールのクロスボンドの例を示す。
これは、図3の(a)に示すようなATき電回路が上下線並行して設けられている場合にA点同士、C点同士、F点同士を接続し、接地回路9を共通にした回路構成である。
【0045】
また、各接地点の接地回路抵抗Rg が小さい程、電位低減効果は大となる。
このような接地電極の例としては、高架区間においては高架脚部の鉄筋を利用したり、トンネル区間においてはトンネル用鉄筋または路盤鉄筋を利用することが考えられる。これらの場合、1~数Ωの低抵抗接地電極が得られる。図5に接地電極として利用する鉄筋の例を示す。(a)は高架脚の鉄筋を利用する例である。高架脚の地中部分の鉄筋に絶縁電線の導体を黄銅ろう溶接して接地電極とする。(b)はトンネル区間の場合でありトンネル用鉄筋または路盤地中に張られている路盤鉄筋を(a)と同様に接地電極とする。また、充分低い接地抵抗の得られる埋設接地線と接続してもよい。
【0046】
なお、直流電気鉄道が当該交流電気鉄道のき電回路に近接して並行する場合は、直接接地すると直流電流が交流き電回路のレールに分流し、電食の原因になる。このため、図6に示すようにコンデンサ13とリアクトル14の直列回路からなる、直流電流をカットすると共に、交流に対してインピーダンスを小さくした直列共振回路15を通してレールを接地すれば良い。
【0047】
このとき、き電周波数をfヘルツ、コンデンサ13の容量をCファラッド、リアクトル14のインダクタンスをLヘンリとすれば、CとLの値は数式13を満足するように選べばよい。
【0048】
【数13】
JP0003816413B2_000014t.gif【0049】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のレール電位低減交流き電回路は、AT箇所およびその中間のCPW箇所でインピーダンスボンドの中性点を接地するようにしたのでレール電位を低減することができ、その結果AT間隔の延伸が可能となるという利点があるとともに、上下線で構成される複線区間において、上下線のレールがCPW箇所で接続されるクロスボントが施されていても、レール電位が低いことから片線で電気車が走行していても他線での作業が可能となるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】直接き電方式におけるき電系統、レール電流分布およびレール電位分布を示す図である。
【図2】ATき電回路における多点接地の概念図である。
【図3】ATき電回路と電気車の位置(負荷点)におけるレール電位との関係を示す図である。
【図4】複線区間における上下線のレール間のクロスボンドの例を示す図である。
【図5】接地電極の例を示す図である。
【図6】インピーダンスボントの中性点からの接地回路に電食防止用の直列共振回路を挿入した例を示す図である。
【図7】直接き電方式のき電系統、レール電流分布およびレール電位分布を示す図である。
【図8】ATき電方式のき電系統と電気車がAT間の中央にいる場合のレール電位分布を示す図である。
【符号の説明】
1 単巻変圧器(AT)
2 トロリ線
3 レール
4 インピーダンスボンド
5 軌道回路
6 き電線
7 保護線(PW)
8 CPW
9 接地回路
10 変電所
11 電気車
12 クロスボンド
13 コンデンサ
14 リアクトル
15 直列共振回路
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7