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明細書 :車両用トラクション制御装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4111780号 (P4111780)
公開番号 特開2004-092459 (P2004-092459A)
登録日 平成20年4月18日(2008.4.18)
発行日 平成20年7月2日(2008.7.2)
公開日 平成16年3月25日(2004.3.25)
発明の名称または考案の名称 車両用トラクション制御装置
国際特許分類 F02D   9/02        (2006.01)
F02D  11/10        (2006.01)
F02D  29/02        (2006.01)
F02D  41/04        (2006.01)
B60T   8/58        (2006.01)
B61C  15/12        (2006.01)
FI F02D 9/02 341F
F02D 11/10 U
F02D 29/02 311A
F02D 41/04 360G
B60T 8/58
B61C 15/12
請求項の数または発明の数 6
全頁数 15
出願番号 特願2002-252864 (P2002-252864)
出願日 平成14年8月30日(2002.8.30)
審査請求日 平成17年4月8日(2005.4.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】村上 浩一
【氏名】中村 英男
審査官 【審査官】西山 智宏
参考文献・文献 特開平02-258431(JP,A)
特開平01-111540(JP,A)
特開2001-330123(JP,A)
特開平07-259594(JP,A)
特開平03-160121(JP,A)
特開2000-233744(JP,A)
調査した分野 F02D9/00-11/10
F02D29/00-29/06
B60T7/12-8/1769,8/32-8/96
B61C1/00-17/12
特許請求の範囲 【請求項1】
駆動輪速度と非駆動輪速度の速度差、並びに駆動輪速度の加減速度の少なくとも一方に基づいてスリップ発生とスリップ収束を判断し、スリップの状態に応じて駆動力を制御する車両用トラクション制御装置において、
スリップ収束後に発揮できると予測される駆動力の最大値に相当するアクセル開度である粘着アクセルを求める粘着アクセル算出手段と、
スリップ収束の検出点でアクセル開度を前記粘着アクセルまで復帰するアクセル開度復帰手段と、
前記粘着アクセルからドライバの操作量に対応するアクセル開度であるノッチアクセルまで増加するアクセル開度増加手段と、を備え、
前記粘着アクセル算出手段は、スリップ発生の検出点のアクセル開度から、スリップ発生の検出点における接線力係数(動摩擦係数)の低下量に相当するアクセル開度量である粘着用減少値を減算することによって前記粘着アクセルを算出するものであり、
前記接線力係数の低下量は、スリップ発生直前の粘着係数(静摩擦係数)からスリップ発生直後の初期減少値を減じた値から、μV=μs-Δμ-ρ・ΔVという式において(但し、μV:接線力係数、μs:スリップ発生直前の粘着係数、Δμ:スリップ発生直後の初期減少値、ρ:接線力係数の傾き、ΔV:駆動輪速度と非駆動輪速度の速度差とする。)、ΔVにスリップ発生検出用しきい値を代入することによって得た値を減じることによって求め、
前記接線力係数の低下量に相当するアクセル開度量は、アクセル開度に対する駆動力及び粘着係数を示し、車両の基本走行性能を表したデータテーブルにおいて、スリップ発生の検出点のアクセル開度と非駆動輪速度における粘着係数を求め、この粘着係数から前記接線力係数の低下量を減じた粘着係数に相当するアクセル開度を求め、このアクセル開度を前記スリップ発生の検出点のアクセル開度から減じることによって求めることを特徴とする車両用トラクション制御装置。
【請求項2】
前記アクセル開度復帰手段は、ドライバの操作量に対応するアクセル開度であるノッチアクセル及び非駆動輪速度に応じて設定した、アクセル開度の復帰量及び復帰時間に基いてアクセル開度を復帰することを特徴とする請求項1に記載の車両用トラクション制御装置。
【請求項3】
前記アクセル開度増加手段は、ドライバの操作量に対応するアクセル開度であるノッチアクセル及び非駆動輪速度に応じて設定した、アクセル開度の増加量及び増加時間に基いてアクセル開度を増加することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用トラクション制御装置。
【請求項4】
駆動輪速度と非駆動輪速度の速度差が最大となってから減少方向に向かって回復傾向になったことを判断するスリップ回復検出手段と、
スリップ回復の検出点で前記粘着アクセルより低いアクセル開度である回復アクセルまで回復し維持するアクセル開度回復手段とを備えたことを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の車両用トラクション制御装置。
【請求項5】
前記スリップ回復検出手段は、駆動輪速度と非駆動輪速度の速度差が最大となってから速度差の減少量が一定のしきい値を越えて小さくなり、かつ速度差が一定のしきい値を下回った場合にスリップ回復傾向と判断することを特徴とする請求項に記載の車両用トラクション制御装置。
【請求項6】
前記アクセル開度回復手段は、スリップ発生の検出点のアクセル開度から、ドライバの操作量に対応するアクセル開度であるノッチアクセル及び非駆動輪速度に応じて設定した回復用減少値を減算することにより前記回復アクセルを算出し、アクセル開度をこの回復アクセルまで回復し維持することを特徴とする請求項4または5に記載の車両用トラクション制御装置。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄道車両等の車両用トラクション制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、スリップの再粘着制御を行う車両用トラクション制御装置としては、トルクコンバータの入出力特性を利用してスリップ発生時の駆動力、つまりレールと車輪間の粘着力を算出し、これに基いてスリップの再粘着制御を行う、例えば、特開平1-148629号公報に記載の技術が知られている。この公報には、エンジンの回転数とトルクコンバータの出力回転数との速度比を求め、速度比からトルクコンバータの入出力特性に基いてトルクコンバータの出力トルク、つまり駆動力(粘着力)を算出する駆動力検出手段を備え、検出した駆動力に基いて駆動力の増減を図りスリップの再粘着を行うことが記載されている。
また、駆動輪速度の加減速度情報に基いてスリップの回復傾向を判断し、これに基いて駆動力の回復を行う、例えば、特開平3-200469号公報に記載の技術が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の車両用トラクション制御装置においては、トルクコンバータの入出力特性に基いて粘着力を求める構成であり、計算が複雑でトルクコンバータを使用しない直結段では活用できないし、発生したスリップの抑制とスリップ収束後の駆動力の確保を両立して車両の加速性を向上させるのが困難であった。
【0004】
また、駆動輪速度の加減速度が正から負に変化した付近を捉えて、スリップの回復傾向を判断する構成であり、大きな速度差を有したスリップ状況に対しても加減速度の正から負への変化点を、あるいは、ある程度の速度差を有したまま発散も収束もせずに均衡したスリップ状況に対しても加減速度の正から負への変化点を回復傾向であると判断して駆動力を保持、又は増加させるため、スリップの抑制を適切に行えない問題があった。
【0005】
一方、スリップの収束付近(再粘着付近)から行う駆動力の増加量が一定値であるため、駆動力の確保を重視した制御定数では、粘着が比較的高い状況には良好に対応できるが、連続して低い状況には対処できないなど、多様な粘着状況に適切に対応できない問題があった。加えて、体感的に粘着状況が良いと感じられ、ドライバの操作量に対応するアクセル開度が高い場合でも駆動力の増加量が一定値であるため、加速性が悪化する問題があった。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、駆動輪速度と非駆動輪速度の速度差、並びに駆動輪速度の加減速度の少なくとも一方に基づいてスリップ発生とスリップ収束を判断し、スリップの状態に応じて駆動力を制御する車両用トラクション制御装置において、スリップ収束後に発揮できると予測される駆動力の最大値に相当するアクセル開度である粘着アクセルを求める粘着アクセル算出手段と、スリップ収束の検出点でアクセル開度を前記粘着アクセルまで復帰するアクセル開度復帰手段と、前記粘着アクセルからドライバの操作量に対応するアクセル開度であるノッチアクセルまで増加するアクセル開度増加手段と、を備え、
前記粘着アクセル算出手段は、スリップ発生の検出点のアクセル開度から、スリップ発生の検出点における接線力係数(動摩擦係数)の低下量に相当するアクセル開度量である粘着用減少値を減算することによって前記粘着アクセルを算出するものであり、
前記接線力係数の低下量は、スリップ発生直前の粘着係数(静摩擦係数)からスリップ発生直後の初期減少値を減じた値から、μV=μs-Δμ-ρ・ΔVという式において(但し、μV:接線力係数、μs:スリップ発生直前の粘着係数、Δμ:スリップ発生直後の初期減少値、ρ:接線力係数の傾き、ΔV:駆動輪速度と非駆動輪速度の速度差とする。)、ΔVにスリップ発生検出用しきい値を代入することによって得た値を減じることによって求め、
前記接線力係数の低下量に相当するアクセル開度量は、アクセル開度に対する駆動力及び粘着係数を示し、車両の基本走行性能を表したデータテーブルにおいて、スリップ発生の検出点のアクセル開度と非駆動輪速度における粘着係数を求め、この粘着係数から前記接線力係数の低下量を減じた粘着係数に相当するアクセル開度を求め、このアクセル開度を前記スリップ発生の検出点のアクセル開度から減じることによって求めることを特徴とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、粘着アクセル算出手段によって、スリップ収束後に発揮できると予測される駆動力の最大値に相当するアクセル開度である粘着アクセルを求め、アクセル開度復帰手段によって、スリップ収束の検出点でアクセル開度を前記粘着アクセルまで速やかに復帰するので、レールと車輪間の粘着力に相当する駆動力をスリップ収束直後に確保することができる。そして、アクセル開度増加手段によって、粘着アクセルからドライバの操作量に対応するアクセル開度であるノッチアクセルまで緩やかに増加するので、駆動力を徐々に増加することができる。さらに、アクセル開度復帰手段及びアクセル開度増加手段を実行中に発生したスリップに対しても、その都度、前記粘着アクセル算出手段での粘着アクセルの算出値を更新することにより確実に実態の粘着力を捉え、多様な粘着状況に適切に対応することができる。したがって、発生したスリップの抑制とスリップ収束後の駆動力の確保を両立して車両の加速性を向上できる。
【0009】
また、粘着アクセル算出手段によりスリップ発生の検出点のアクセル開度から、スリップ発生の検出点における接線力係数の低下量に相当するアクセル開度量である粘着用減少値を減算して粘着アクセルを算出することにより、レールと車輪間の粘着力の限界値に相当する駆動力を発揮するためのアクセル開度を比較的簡便で正確に求めることができ、また、トルクコンバータを使用しない速度段にも対応することができる。
【0010】
請求項に記載の発明は、請求項1に記載の車両用トラクション制御装置において、前記アクセル開度復帰手段は、ドライバの操作量に対応するアクセル開度であるノッチアクセル及び非駆動輪速度に応じて設定した、アクセル開度の復帰量及び復帰時間に基いてアクセル開度を復帰することを特徴とする。
【0011】
請求項に記載の発明によれば、アクセル開度復帰手段によりノッチアクセル及び非駆動輪速度に応じて設定したアクセル開度の復帰量及び復帰時間に基いてアクセル開度を復帰させることにより、ドライバの操作量を反映して駆動力の速やかな復帰をスリップ収束後に行え、加速性を保つことができる。
【0012】
請求項に記載の発明は、請求項1または2に記載の車両用トラクション制御装置において、前記アクセル開度増加手段は、ドライバの操作量に対応するアクセル開度であるノッチアクセル及び非駆動輪速度に応じて設定した、アクセル開度の増加量及び増加時間に基いてアクセル開度を増加することを特徴とする。
【0013】
請求項に記載の発明によれば、アクセル開度増加手段によりノッチアクセル及び非駆動輪速度に応じて設定したアクセル開度の増加量及び増加時間に基いてアクセル開度を増加させることにより、ドライバの操作量を反映して駆動力の緩やかな増加が行え、予測した粘着力から徐々に駆動力を増加して、加速性を改善することができる。
【0014】
請求項に記載の発明は、請求項1~のいずれか一項に記載の車両用トラクション制御装置において、駆動輪速度と非駆動輪速度の速度差が最大となってから減少方向に向かって回復傾向になったことを判断するスリップ回復検出手段と、スリップ回復の検出点で前記粘着アクセルより低いアクセル開度である回復アクセルまで回復し維持するアクセル開度回復手段とを備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項に記載の発明によれば、スリップ回復検出手段により駆動輪速度と非駆動輪速度の速度差が最大となってから減少方向に向かって回復傾向になったことを判断することができる。そして、アクセル開度回復手段によって、スリップ回復の検出点で粘着アクセルより低いアクセル開度である回復アクセルまで回復し維持するので、スリップ収束後の駆動力をより確実に確保することができる。
【0016】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の車両用トラクション制御装置において、前記スリップ回復検出手段は、駆動輪速度と非駆動輪速度の速度差が最大となってから速度差の減少量が一定のしきい値を越えて小さくなり、かつ速度差が一定のしきい値を下回った場合にスリップ回復傾向と判断することを特徴とする。
【0017】
請求項に記載の発明によれば、スリップ回復検出手段により駆動輪速度と非駆動輪速度の速度差が最大となってから速度差の減少量が一定のしきい値を越えて小さくなり、かつ速度差が一定のしきい値を下回った場合にスリップ回復傾向と判断することにより、確実にスリップの回復地点を捉えることができる。
【0018】
請求項に記載の発明は、請求項4または5に記載の車両用トラクション制御装置において、前記アクセル開度回復手段は、スリップ発生の検出点のアクセル開度から、ドライバの操作量に対応するアクセル開度であるノッチアクセル及び非駆動輪速度に応じて設定した回復用減少値を減算することにより前記回復アクセルを算出し、アクセル開度をこの回復アクセルまで回復し維持することを特徴とする。
【0019】
請求項に記載の発明によれば、アクセル開度回復手段によりスリップ発生の検出点のアクセル開度から、ノッチアクセル及び非駆動輪速度に応じて設定した回復用減少値を減算することにより前記回復アクセルを算出し、アクセル開度をこの回復アクセルまで回復し維持することにより、スリップ収束後の駆動力をより確実に確保することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図lは、本発明の一実施形態にかかる車両用トラクション制御装置を備えた鉄道用ディーゼル車両の機器構成を示すものである。図1(a)において、ドライバは、運転台にある主幹制御器1にある図示しないノッチ用マスコン(自動車のアクセルペダルに相当)とトランスミッション用ハンドル(自動車のギヤシフトに相当)を操作し運転を行う。ノッチ用マスコンの操作情報(例えば、停止、切、1~5ノッチの7段階のノッチ情報)は電気信号(通常3bitのON/OFF信号)に置き換えられノッチ信号20として、またトランスミッション用ハンドルの操作情報(ギヤ段を示す中立、変速段、直結段、及び前進、後進)は電気信号(通常ON/OFF信号)に置き換えられ速度段信号21及び逆転機信号22として、さらに駆動輪10及び非駆動輪11に設けられた速度センサ12及び13からの回転パルス信号26及び27が車両用トラクション制御装置2に入力される。
【0021】
この車両用トラクション制御装置2は、図1(b)に示すように、粘着アクセル算出手段2aと、アクセル開度復帰手段2bと、アクセル開度増加手段2cとを備えている。粘着アクセル算出手段2aは、スリップ収束後に発揮できると予測される駆動力の最大値に相当するアクセル開度である粘着アクセルを求めるものである。アクセル開度復帰手段2bは、スリップ収束の検出点でアクセル開度を前記粘着アクセルまで速やかに復帰するものである。アクセル開度増加手段2cは、前記粘着アクセルからドライバの操作量に対応するアクセル開度であるノッチアクセルまで緩やかに増加するものである。
さらに、車両用トラクション制御装置2は、スリップ回復検出手段2dと、アクセル開度回復手段2eとを備えている。スリップ回復検出手段2dは、駆動輪速度と非駆動輪速度の速度差が最大となってから減少方向に向かって回復傾向になったことを判断するものである。アクセル開度回復手段2eは、スリップ回復の検出点で前記粘着アクセルより低いアクセル開度である回復アクセルまで回復し維持するものである。
【0022】
また、車両用トラクション制御装置2は、回転パルス信号26及び27から駆動輪速度及び非駆動輪速度を算出し、運転操作情報のノッチ信号20、速度段信号21及び逆転機信号22から、運転操作又は車両速度に応じたトランスミッション7の速度段(通常、変速段、直結1段、直結2段)となるように、クラッチ接続信号25を出力してクラッチ接続行う。また、駆動輪速度と非駆動輪速度の速度差、もしくは駆動輪加減速度を基にスリップ状態を判断する。
【0023】
スリップ未発生と判断した場合は、ドライバの操作量であるノッチ信号20に対応するアクセル開度23を、一方スリップ発生と判断した場合は、粘着アクセル算出手段2a、アクセル開度復帰手段2b、及びアクセル開度増加手段2cで演算したきめ細かなアクセル開度23を燃料制御装置3へ出力する。
【0024】
燃料制御装置3からのアクチュエータ駆動信号24により噴射ポンプ5に付属するアクチュエータ4が動作し、アクチュエータ4に連動する図示しないコントロールラックの位置調節、つまり燃料供給量の調節がなされディーゼルエンジン6の出力調節が行われる。ディーゼルエンジン6で発生した動力は、トランスミッション7に内蔵されたトルクコンバータやギヤトレーンを介して動力変換された後、プロペラシャフト8、減速機9を経て駆動輪10へ伝達され、駆動力となる。
【0025】
次に、このように構成された本実施例において実行されるスリップの再粘着制御について、図2~13に基づき説明する。図2は、車両用トラクション制御装置におけるスリップ再粘着制御のメインルーチンを表すフローチャートである。なお、この処理は図示しないスリップ制御装置の電源がオンとなったとき、ステップ100より開始される。
【0026】
まず、ステップ100にて、各種フラグや各種カウンタの初期設定を行う。続くステップ101では、入力情報の速度センサ12,13の回転パルス信号26,27を基に駆動輪速度Vd、非駆動輪速度Vt、及び駆動輪加減速度GVdを演算する。
【0027】
ステップ102で、入力情報のノッチ信号20に対応する、図3のように予め設定したデータテーブルを用いてノッチアクセルAcc_notchを算出する。また、入力情報の速度段信号21を基にトランスミッションの速度段が変速段、直結段、中立のどの位置にあるかを、及び逆転機信号22を基にトランスミッションの進行方向を示す前進、後進、中立のどの位置にあるかを判断する。
【0028】
図2に戻って、ステップ103で、ノッチ信号20が1ノッチ以上であること、速度段が中立位置以外にあること、逆転機が中立以外にあることをスリップ制御実施の可能条件とし、駆動輪速度Vdと非駆動輪速度Vtの速度差ΔVを演算する。速度差ΔV、もしくは、駆動輪加減速度GVdがスリップ発生検知用しきい値を超えた場合にスリップ発生と判断する。ここで、駆動輪加減速度GVdによるスリップの状況判断は後述する理由で課題があるため、判定条件は速度差ΔVのみによるものとして、以降説明する。スリップ発生時のアクセル開度Acc_slipを記憶し、ステップ104に進む。そうでない場合はステップ150に進み、ノッチアクセルAcc_notchをアクセル開度Accと決定し、スリップの再粘着制御を実行しないで制御処理を終了する。
【0029】
ステップ104で、スリップ収束後に発揮できると予測される駆動力の最大値、つまり粘着力の限界値に相当するアクセル開度の粘着アクセルAcc_μを、粘着アクセル算出手段2aによりスリップ発生の検出点におけるアクセル開度Acc_slip及びドライバの操作量であるノッチアクセルAcc_notchと非駆動輪速度Vt毎に粘着用減少値Acc_μdownを設定した図4から、(1)式に従って算出する。
Acc_μ=Acc_slip-Acc_μdown[%] (1)
【0030】
ここで、粘着力の限界値についての考え方を、図5を用いて説明する。図5は、一般的に言われている、スリップが発生する直前の粘着係数(静摩擦係数)とスリップ中の接線力係数(動摩擦係数)の関係を表したものでる。接線力係数μVは、スリップ発生直前の粘着係数μs(A点)に対しスリップ発生直後に初期減少値Δμだけ低下し(B点)、さらに速度差の大きさに伴い接線力係数の傾きρ分小さくなる。従って、粘着力の限界値は、A点及びB点では再びスリップする可能性が高いため、速度差ΔVに基いて判断するスリップ発生の検出点における接線力係数(接線力)、例えば、スリップ発生検出用しきいちが4km/hのC点が適切であると考えた。なお、C点における接線力係数の低下量ρ・ΔVは、スリップ発生直後のB点に対し概ね3%である。
【0031】
さらに、アクセル開度と粘着力の関係を示す図6を用いて、スリップ発生の検出点における接線力係数の低下量ρ・ΔVに相当するアクセル開度量について説明する。図6は、主要なアクセル開度(20%毎を示す)に対する駆動力(粘着力)及び粘着係数を示し、車両の基本走行性能を表したものである。例えば、A点に示すアクセル開度60%、速度14km/hにおける粘着係数は15%であり、図4に示したスリップ発生の検出点での接線力係数の低下量3%を減じた粘着係数12%に相当するアクセル開度は、B点に示す50%であることが判る。つまり、接線力係数の低下量3%に相当するアクセル開度量は、車両の基本走行性能データから10%となる。
【0032】
以上の考え方から、粘着用減少値Acc_μdownは、図4に示すように、ノッチアクセルAcc_notchが60~79%、非駆動輪速度Vtが0~40km/hの場合に対し、接線力係数の低下量3%に相当するアクセル開度量の10%を基本値として与えている。また、ノッチアクセルAcc_notchが高いほど及び非駆動輪速度Vtが高いほど、粘着用減少値Acc_μdownを小さな値としている。前者はドライバの運転意思を考慮したもので、粘着状態が体感的に高いと感じられ、高めのノッチアクセルAcc_notchの場合には、小さな粘着用減少値Acc_downを選択し、(1)式による粘着アクセルAcc_μの算出値を高くなるようにしている。後者は、高速走行時の瞬間的な粘着係数の低下で発生したスリップを考慮したもので、非駆動輪速度Vtが高い場合には、小さな粘着用減少値Acc_μdownを選択し、(1)式による粘着アクセルAcc_μの算出値を高くなるようにしている。
【0033】
図2に戻って、ステップ105では、発生したスリップの拡大を抑えると共にスリップの収束を図るため、公知技術の手段でアクセル開度を低減、つまり駆動力を減少させる。続くステップ120で、速度差ΔVとスリップ収束検知用しきい値を比較し、下回った場合は、スリップ収束と判断しステップ130へ進む。そうでない場合は、ステップ105に戻りアクセル開度の減処理を継続する。なお、ステップ105に続くステップ110~ステップ113は、アクセル開度回復手段2eによる処理であり、これについては後述する。
【0034】
ステップ130では、スリップ収束後の駆動力を確保するため、アクセル開度を粘着アクセル算出手段2aで求めた粘着アクセルAcc_μまで速やかに復帰(増加)し、ステップ131へ進む。このアクセル開度復帰手段2bは、図7に示すようにスリップ収束の検出点におけるノッチアクセルAcc_notchと非駆動輪速度Vt毎に、アクセル開度の復帰量及び復帰時間を設定したデータテーブルに基き、アクセル開度Accを増加する。ここでは、ノッチアクセルAcc_nocthが高いほど早めに増加するよう設定している。これはドライバの運転意思を考慮したもので、粘着状態が体感的に良いと感じられ、高めのノッチアクセルAcc_nocthの場合には早く増加している。
【0035】
再び図2に戻って、ステップ131では、速度差ΔVとスリップ発生検知用しきい値を比較し、超えた場合は再びスリップ発生と判断し、ステップ104へ戻る。そうでない場合はステップ132へ進む。
【0036】
ステップ132でアクセル開度Accが粘着アクセルAcc_μに達したかどうかを判断し、達した場合はステップ140へ進む。そうでない場合はステップ130へ戻り、アクセル開度の復帰を継続する。
【0037】
ステップ140では、アクセル開度Accを粘着アクセルAcc_μからドライバの操作量に対応するアクセル開度のノッチアクセルAcc_notchまで緩やかに増加し、ステップ141へ進む。このアクセル開度増加手段2cは、図8に示すようにスリップ収束の検出点における、ノッチアクセルAcc_notchと非駆動輪速度Vt毎に、アクセル開度の増加量及び増加時間を設定したデータテーブルに基き、アクセル開度Accを増加する。ここでは、ノッチアクセルAcc_notchが高いほど、増加量が大きくなるように設定し、また、非駆動輪速度Vtが低いほど、増加時間が遅くなるよう設定している。前者はドライバの運転意思を考慮したもので、粘着状態が体感的に良いと感じられ、高めのノッチアクセルの場合には復帰量を大きくしている。後者はトルクコンバータを使用する変速段での低速走行の場合には、増加時間を長くしている。なお、図8のデータテーブルは、トランスミッションの速度段毎にマップ化して設定する構成でも良い。
【0038】
再び図2に戻って、ステップ141では、速度差ΔVとスリップ発生検知用しきい値を比較、超えた場合は再びスリップ発生と判断しステップ104へ戻る。そうでない場合はステップ142へ進む。つまり、発揮可能と予測した駆動力の最大値に相当するアクセル開度Acc_μが、実際の粘着力よりも高くて再びスリップした場合でも、ステップ104~ステップ141の処理を繰返すことによって、その都度ノッチアクセルAcc_μを算出、補正し、実際の粘着力を確実に捉えることができる。
【0039】
ステップ142でアクセル開度AccがノッチアクセルAcc_notchに達したかどうかを比較し、達した場合はステップ160に進み、スリップの再粘着制御を終了する。そうでない場合はステップ140へ戻りアクセル開度Accの増加を継続する。
【0040】
以上のようなフローチャートで実行されたスリップ再粘着制御のタイムチャート例を図9に示して説明する。図9は、ドライバの操作するノッチ信号20が3ノッチ、非駆動輪速度30km/hで走行中に発生したスリップに対する制御状況を表したものである。なお、制御中に非駆動輪速度の変化はなく、またドライバの操作するノッチ信号20も一定であるとした。速度差がスリップ検知用しきい値を上回ったA1点でスリップ発生と判断し、粘着アクセル算出手段にて、スリップ発生の検出点におけるアクセル開度Acc_slip60%及び非駆動輪速度30km/hから図4に基いてアクセル開度減少値(粘着用減少値)Acc_downを10%と算出し、さらに、(1)式より粘着アクセルAcc_μ(1)を50%と演算する。続いて、アクセル開度減処理にてアクセル開度を下げ、駆動力を低下させスリップの抑制を行う。速度差がスリップ収束検知用しきい値を下回ったC1点でスリップ収束と判断し、アクセル開度復帰手段2bに移る。アクセル開度復帰手段2bでは、スリップ収束の検出点におけるドライバの操作量に対応するアクセル開度のノッチアクセルAcc_notch60%と非駆動輪速度30km/hから図7に基いて復帰量4%及び復帰時間20msを算出し、アクセル開度をこの復帰量及び復帰時間に基いて粘着アクセルAcc_μ(1)の50%まで速やかに復帰する。つまり、発揮できると予測した駆動力の最大値に相当するアクセル開度に一気に復帰させ、まず駆動力の確保を図る。続いて、アクセル開度増加手段2cに移り、スリップ収束の検出点におけるノッチアクセルAcc_notch60%と非駆動輪速度30km/hから図8に基いて増加量5%及び増加時間3sと算出し、アクセル開度をこの復帰量及び復帰時間に基いてノッチアクセルAcc_notchの60%まで緩やかに増加する。つまり、駆動系、特にトランスミッションのトルクコンバータの応答性を加味した時間を持って徐々にアクセル開度を増加し、駆動力の更なる増加を試みる。アクセル開度増加手段2cを実行中のA2点で再びスリップ発生と判断した場合は、減処理に移りスリップの抑制を図ると共に、粘着アクセル算出手段2aにより粘着アクセルAcc_μ(2)を40%と演算し、以下前記同様にアクセル開度復帰手段2b及びアクセル開度増加手段2cによりアクセル開度を復帰及び増加する。このように粘着アクセルAcc_μの値が高く再びスリップが発生した場合でも、粘着アクセルAcc_μを算出、補正することによって、確実に粘着力を捉えることができる。
【0041】
また、スリップ発生の検出点におけるアクセル開度Acc_slipが、例えば30%と低い場合(図9には記載せず)、つまり粘着状況が低い場合、粘着アクセルAcc_μは20%と算出され、スリップ収束後のアクセル開度復帰手段2bは省略されて、始めからアクセル開度増加手段2cにより増加量5%、増加時間2sに基いて緩やかにアクセル開度の増加が行われることになる。従って、このように連続する低粘着区間や一時的な粘着低下など多様な粘着状況に適切に対応することができる。
【0042】
再び図2に戻って、ステップ110~113の処理で実施するスリップ回復検出手段2dとアクセル開度回復手段2eについて説明する。図10は、スリップが発生した際の駆動輪速度と駆動輪加減速度の関係を示したもので、ケース1はスリップの発散から収束まで単純に変化した状況、ケース2はある程度の速度差を有したまま発散も収束もせず均衡した状況を表す。課題で述べたように、駆動輪加減速度の正から負への変化点であるB1点及びB2点で回復傾向にあると判断し、アクセル開度を回復(増加)する構成ではスリップを抑えられず、かえってスリップを拡大してしまう恐れがある。
【0043】
図2に戻って、ステップ110で、スリップが回復傾向になったかどうかを判断し、スリップ回復の場合はステップ111進む。そうでない場合はステップ105へ戻る。ここで、スリップ回復検出手段2d及びアクセル開度回復手段2eを加えた場合のスリップ再粘着制御のタイムチャート例を図l1に示し、スリップ回復検出手段2dについて説明する。図11に示すように、速度差ΔVが速度差の最大点ΔV_maxに至ってから速度差の減少量が速度差の減少値ΔV_downを越えて小さくなり、かつ、速度差ΔVがスリップ回復検知用しきい値を下回ったB点をスリップ回復と判断する。従って、前述のような均衡した速度差を有したスリップに対しても的確にスリップの回復傾向を捉えることができる。
【0044】
図2に戻って、ステップ111では、スリップ収束後の駆動力を確実に確保するため、スリップ収束前のスリップ回復の時点で、アクセル開度を回復アクセルに回復(増加)、保持しステップ112へ進む。ここで、回復アクセルAcc_kは、スリップ発生の検出点におけるアクセル開度Acc_slip及びドライバの操作量であるノッチアクセルAcc_notchと非駆動輪速度Vt毎に回復用減少値Acc_kdownを設定した図12から、(2)式に従って算出する。
Acc_k=Acc_slip-Acc_kdown[%] (2)
回復用減少値は図12に示すように、ノッチアクセルAcc_notchと非駆動輪速度Vt毎に設定でき、ドライバの操作量を反映及び走行状態を考慮できるようにしており、ノッチアクセルAcc_notchが高い場合には小さな回復用減少値Acc_kdownを選択し、(2)式による回復アクセルAcc_kの算出値を高くなるようにしている
【0045】
再び図2に戻って、ステップ112で、速度差ΔVとスリップ発生検知用しきい値を比較し、超えた場合は再びスリップ発生と判断し、ステップ104へ戻る。そうでない場合はステップ113へ進む。
【0046】
ステップ113では、速度差ΔVとスリップ収束検知用しきい値を比較し、下回った場合はスリップ収束と判断しステップ130へ進む。そうでない場合はステップ111へ戻る。従って、スリップ回復検出手段2d及びアクセル開度回復手段2eを加えた場合、図11に示すように、スリップ収束と判断した駆動輪速度のC点で行うアクセル開度復帰手段2bの前に、スリップ回復と判断したB点で、アクセル開度を回復アクセルAcc_kに予め回復し、スリップ収束まで保持することによって、スリップ収束後の駆動力をより確実に確保することができる。
【0047】
本発明の車両用トラクション制御装置によるスリップの再粘着制御の一実測例を図l3に示し、制御の特徴と効果について説明する。図13は、上り25‰(2.5%)勾配区間を、レール上への散水条件の下、ノッチ信号4ノッチにて加速試験(起動試験)を行った際のデータである。図13において、制御処理状態は、アクセル開度減処理やアクセル開度復帰手段など制御処理のモードを表す。また、推進軸トルクは、図1に示すプロペラシャフト8のねじれトルクであり、駆動力に相当する。駆動輪速度のA1点でスリップ発生と判断(1回目)、アクセル開度減処理にてアクセル開度を下げスリップの抑制を行う。B1点でスリップ回復と判断しアクセル開度回復手段2eによりアクセル開度を回復、保持させた後、アクセル開度復帰手段2bに移りアクセル開度を粘着アクセルAcc_μ(1)まで速やかに復帰させる。続いて、アクセル開度増加手段2cに移り、アクセル開度を緩やかに増加させる。アクセル開度増加手段2cを実行中に再び発生したスリップに対しA2点で、及びそれ以降のスリップに対してA3点とA4点でスリップ発生と判断し(2回目~4回目)、粘着アクセル算出手段2aによる粘着アクセルAcc_μの算出値を、Acc_μ(2)~Acc_μ(4)へと順次低減する。この結果、発生したスリップの大きさ(速度差の大きさ)は、順次小さくなり、かつ、スリップの発生期間(発生から収束までの時間)も短くなっている。また、2回目以降のスリップ発生期間中及び収束後の推進軸トルクに大きな低下は見られない。従って、粘着アクセル算出手段2aによる粘着アクセルAcc_μの算出値は、実際の粘着力の限界に近い適切な駆動力であると判断でき、また、アクセル開度復帰手段2b及びアクセル開度増加手段2c実行中に発生したスリップ毎に粘着アクセルAcc_μを算出、更新する手法によって、確実に粘着力を捉えると共にスリップの抑制とスリップ収束後の駆動力の確保を両立させていると判断できる。
【0048】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の車両用トラクション制御装置によれば、簡便な方法で実態の粘着力に相当するアクセル開度の粘着アクセルを算出でき、スリップ収束後に速やかに駆動力を確保することが可能である。また、アクセル開度の復帰及び増加中に、再びスリップが発生した場合には粘着アクセルの補正(修正)を行い、確実に実態の粘着力を捉えることができる。さらに、ドライバの操作量を反映したアクセル開度の復帰量、復帰時間及び増加量、増加時間を算出でき、ドライバの運転意志を考慮した駆動力の復帰及び増加を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】一実施形態のトラクション制御装置が用いられたディーゼル車両の機器構成図である。
【図2】一実施形態におけるスリップ再粘着制御の処理内容を表すフローチャートである
【図3】一実施形態におけるノッチ信号に対応をするアクセル開度を示すデータテーブルである。
【図4】一実施形態における粘着アクセル算出手段での粘着用減少値を示すデータテーブルである。
【図5】粘着係数と接線力係数の関係を示す模式図である。
【図6】車両の走行性能と粘着係数の関係を示すデータテーブルである。
【図7】一実施形態におけるアクセル開度復帰手段でのアクセル開度の復帰量及び復帰時間を示すデータテーブルである。
【図8】一実施形態におけるアクセル開度増加手段でのアクセル開度の増加量及び増加時間を示すデータテーブルである。
【図9】一実施形態における発生したスリップに対するアクセル開度の制御状況を示すタイムチャートである。
【図10】発生したスリップと駆動輪加減速度の関係を示す模式図である。
【図11】アクセル開度回復手段を加えた場合の発生したスリップに対するアクセル開度の制御状況を示すタイムチャートである。
【図12】一実施形態におけるアクセル開度回復手段での回復用減少値を示すデータテーブルである。
【図13】一実施形態における制御状況の実測例を示すグラフ図である。
【符号の説明】
2 車両用トラクション制御装置
2a 粘着アクセル算出手段
2b アクセル開度復帰手段
2c アクセル開度増加手段
2d スリップ回復検出手段
2e アクセル開度回復手段
10 駆動輪
11 非駆動輪
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
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【図12】
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【図13】
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