TOP > 国内特許検索 > 地下構造物の安定度の判定方法および判定装置 > 明細書

明細書 :地下構造物の安定度の判定方法および判定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3880327号 (P3880327)
公開番号 特開2002-294681 (P2002-294681A)
登録日 平成18年11月17日(2006.11.17)
発行日 平成19年2月14日(2007.2.14)
公開日 平成14年10月9日(2002.10.9)
発明の名称または考案の名称 地下構造物の安定度の判定方法および判定装置
国際特許分類 E02D   1/06        (2006.01)
E02D  29/045       (2006.01)
E21D  13/00        (2006.01)
G01M   3/02        (2006.01)
FI E02D 1/06
E02D 29/04 A
G01M 3/02 Z
請求項の数または発明の数 6
全頁数 8
出願番号 特願2001-101472 (P2001-101472)
出願日 平成13年3月30日(2001.3.30)
審査請求日 平成16年7月28日(2004.7.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】坂井 宏行
個別代理人の代理人 【識別番号】100085394、【弁理士】、【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
審査官 【審査官】石村 恵美子
参考文献・文献 特開平06-101399(JP,A)
調査した分野 E02D 1/06
E02D 29/045
E21D 13/00
G01M 3/02
特許請求の範囲 【請求項1】
地下水に海水を含んだ漏水のある地下構造物の安定度を判定するにあたり、漏水中の海水成分の正常時の濃度を測定してこの変化状態を基礎データとして予め求めておき、該基礎データから逸脱した海水成分の濃度が測定された場合に、これを地下構造物の安定度が低下したものと判定するようにしたことを特徴とする地下構造物の安定度の判定方法。
【請求項2】
地下水に海水を含んだ漏水のある地下構造物の安定度を判定するにあたり、漏水中の海水成分の正常時の濃度の測定値を基礎データとして記憶するデータ記憶手段、海水成分の濃度を測定する濃度測定手段、該濃度測定手段で測定された海水成分の濃度が前記記憶された基礎データから逸脱したものである場合に、これを地下構造物の安定度が低下したものと判定する安定度判定手段を備えて構成したことを特徴とする地下構造物の安定度の判定装置。
【請求項3】
請求項2において、基礎データは、1年を通して測定されたデータであることを特徴とする地下構造物の安定度の判定装置。
【請求項4】
請求項2または3において、濃度測定される海水成分は、ナトリウムイオンであることを特徴とする地下構造物の安定度の判定装置。
【請求項5】
請求項2、3または4において、基礎データを測定するにあたり、漏水の流量も合わせて測定するものとし、該測定された漏水流量が正常時の漏水流量から逸脱していると判断される場合には、そのとき測定された海水成分の濃度測定値を基礎データには用いないようにしたことを特徴とする地下構造物の安定度の判定装置。
【請求項6】
請求項2、3、4または5において、地下構造物の安定度の判定をするにあたり、漏水の流量も合わせて測定するものとし、該測定された漏水流量が正常時の漏水流量から逸脱していると判断される場合には、そのとき測定された海水成分の濃度測定値を地下構造物の安定度の判定をするための測定値には用いないようにしたことを特徴とする地下構造物の安定度の判定装置。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、海底トンネル等の地下構造物のように海底や海岸近傍にあって、地下水に海水を含む漏水があるところに築造された地下構造物の安定度の判定方法および判定装置の技術分野に属するものである。
【0002】
【従来技術】
こんにち、地下水面や海面より低い位置にトンネルやボックスカルバート等の地下構造物を築造することが頻繁に行われ、このような地下構造物では、漏出した水の自然排水ができない場合が多く、このときには地下構造物の水没を避けるため漏出した水を動力を使って地上に人工的に排出することが要求される。この様な地下構造物において、海水による浸食を受けて地下構造物自体の劣化が進行する等して地下構造物の安定度が低下することが想定され、このような安定度の低下をそのまま放置しておくと、大量の海水による浸水につながる惧れがあり、早期の補修が必要となる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
このため、このような地下構造物については、定期的に安定度の判定検査をすることが提唱されるが、このような判定検査を簡便にすることは事実上難しく、このような判定検査をするためには、高価な検査機器と多数の作業員とが必要なうえ、判定のための時間も長くかかるという問題があり、ここに本発明の解決すべき課題がある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記のような実情に鑑み、これらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、地下水に海水を含んだ漏水のある地下構造物の安定度を判定するにあたり、漏水中の海水成分の正常時の濃度を測定してこの変化状態を基礎データとして予め求めておき、該基礎データから逸脱した海水成分の濃度が測定された場合に、これを地下構造物の安定度が低下したものと判定するようにしたことを特徴とする地下構造物の安定度の判定方法である。
請求項2の発明は、地下水に海水を含んだ漏水のある地下構造物の安定度を判定するにあたり、漏水中の海水成分の正常時の濃度の測定値を基礎データとして記憶するデータ記憶手段、海水成分の濃度を測定する濃度測定手段、該濃度測定手段で測定された海水成分の濃度が前記記憶された基礎データから逸脱したものである場合に、これを地下構造物の安定度が低下したものと判定する安定度判定手段を備えて構成したことを特徴とする地下構造物の安定度の判定装置である。
そしてこのようにすることにより、正常時の海水成分の濃度を基礎データとして求めておけば、以降は、この基礎データから逸脱した海水成分の濃度が測定されるだけで簡単に地下構造物の安定度の判定ができることになり、判定作業の簡略化および効率化を図ることができるようになる。
請求項3の発明は、請求項2において、基礎データは、1年を通して測定されたデータであることを特徴とすることができ、このようにすることで、1年間を通しての判定が可能となる。
請求項4の発明は、請求項2または3において、濃度測定される海水成分は、ナトリウムイオンであることを特徴とすることができ、このようにした場合には、海水成分として濃度の高いものを用いての判定ができて、判定精度の信頼性を高めることができる。
請求項5の発明は、請求項2、3または4において、基礎データを測定するにあたり、漏水の流量も合わせて測定するものとし、該測定された漏水流量が正常時の漏水流量から逸脱していると判断される場合には、そのとき測定された海水成分の濃度測定値を基礎データには用いないようにしたことを特徴とすることができ、このようにしたときには、基礎データとしての信頼性が高まり、精度の高い地下構造物の安定度の判定ができる。
請求項6の発明は、請求項2、3、4または5において、地下構造物の安定度の判定をするにあたり、漏水の流量も合わせて測定するものとし、該測定された漏水流量が正常時の漏水流量から逸脱していると判断される場合には、そのとき測定された海水成分の濃度測定値を地下構造物の安定度の判定をするための測定値には用いないようにしたことを特徴とすることができ、このようにしたときには、安定度判定をするにあたり、特異的な地下水流量の変動があったときの判定の間違いを少なくして判定の信頼性を向上することができる。
【0005】
【発明の実施の形態】
海底や海岸近傍に築造された地下構造物には、地下水に海水を含む漏水が流入することに着目し、海水由来の化学成分の濃度を測定して基礎データとし、この基礎データを基準として現状の海水由来の化学成分の濃度状態を観測することで地下構造物の安定度の判定ができることを確認し、本発明を完成した。この場合に、漏水中の地下水分については、天候等、自然環境による季節的な変動があるのに対して、海水分については、海底や海岸から地下構造物に至るまでの海水流入経路が形成されている地盤等が地震等、格別のことがない限りは変化がないか変化があってもわずかであると考えられることから、季節に左右されず1年を通じてほとんど一定であるものと推定され、そこで漏水組成成分の濃度の季節的変動を予め測定してこれを通年の基礎データとしてデータ化しておき、これと実際に測定した漏水組成成分の濃度とを比較することによって地下構造物の安定度を1年を通して検査できるようにしたものである。
そして本発明では、ある海底トンネルの漏水について海水成分の一つであるナトリウムイオン濃度と漏水流量とを複数年に亘って測定したところ、各測定位置による特異差はあるものの、測定位置が同じであれば季節的変化はほぼ一定していることを見出し、これを1年間の基礎データとし、ナトリウムイオン濃度がこの基礎データから逸脱(大きい方向に逸脱)した場合には、地下構造物の海水に対する安定度が低下したものと推定でき、ここに本発明を完成したものである。このような基礎データについては、多数年の測定値を蓄積するほど信頼性が向上することになり、そこで、安定度が高い、つまり正常状態であると判断されたときの測定値を逐次蓄積し、これを基礎データとして更新することが好ましい。
【0006】
流入した海水成分の濃度測定に用いられるものとしては、例えばナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、マグネシウムイオン(Mg2+)、カルシウムイオン(Ca2+)等の陽イオン、塩化物イオン(Cl)、硫酸イオン(SO2-)等の陰イオンの1種類または複数種類の濃度を選択的に測定することで行われる。濃度測定するにあたって好ましい海水成分としては、海水に多量に含まれ、かつ、化学的に安定な成分であることが必要で、その好適な例としてはナトリウムイオンまたは塩化物イオンがこれに該当する。つまり、これら海水成分は地下水中にも含まれているが、その含有量の差が大きいほど判定誤差を減少させることになるからである。
さらにまた、本発明を実施するにあたり、精度をより向上させるためには、ナトリウムイオン1種類について判定するのではなく、複数種類の含有成分について判定できることはいうまでもない。
【0007】
さらにまた、漏水中の地下水は、例えば台風等で大雨が異常に降ったときや、干ばつ等で雨が異常に少ないときには、地下水量の変動が大きく、通年の地下水流量とはならない場合がある。このようなときの海水成分の濃度についても通年の濃度からは逸脱するものとなり、これに基づいて安定度の判定をすることは安定度判定の信頼性を損なうことになる。そこで基礎データをつくる場合、並びに安定度判定をする場合に、地下水流量が基礎データから逸脱していると判断された場合、合わせて測定される海水成分の濃度を基礎データとして採用しないことは勿論、安定度判定をするときの測定値としても用いないようにし、これによって安定度判定の信頼性を高めるようにすることが好ましい。
【0008】
【実施例】
次に、本発明の実施例について図面を用いて説明する。図1(A)は在来の海底トンネルの概略縦断面図、同(B)は概略横断面図であって、該海底トンネルは、上り線本坑1、下り線本坑2、そして作業坑3の3本から構成されている。そのうちの上下線の本坑1、2は左右に並行状態で、かつ、軸方向の中間に向かうほど深くなるこう配変更点を有する略V字形の傾斜状態で築造されている。これに対して作業抗3は、前記本坑1、2の軸方向中間位置では該本坑1、2よりも深く位置するこう配変更点を有し、坑口はさらに深くなるよう傾斜した略逆V字形に築造され、そして地上位置においてたて坑4、5が築造されている。そして上り線系統の漏水は、両坑口から本坑f、j、本坑g、hを経て上り線本坑1のこう配変更点に達し、ここから一方に向けた作業坑mを流れて該方のたて坑底nに達し、一方のたて坑4の坑口にくみ上げ(ポンプ室による揚水)られて一方の海岸に排出されるようになっている。これに対し、下り線系統の漏水は、両坑口から本坑a、e、本坑b、cを経て下り線本坑2のこう配変更点に達し、ここから他方の作業坑kを流れて該方のたて坑底lに達し、他方のたて坑5の坑口にくみ上げ(ポンプ室による揚水)られて他方の海岸に排出されるようになっている。
【0009】
さて、前記の海底トンネルにおいて、前記a~nの各測定位置についての漏水流量とナトリウムイオン濃度との測定をしたが、いま、その代表として測定位置f~jの各位置について、異常がない(安定度が確保されている状態である)ことを確認したうえで、複数年(例えば5年程度)に亘って漏水の流量(m day-1:立方メートル 日の-1乗)を三角ぜき法にて測定すると共に、その漏水中のナトリウムイオン濃度(μg mL-1:マイクログラム ミリリットルの-1乗)を測定(通常知られた測定手法を採用でき、そのようなものとして例えば、イオン選択性電極での測定がある)し、これら測定されたデータをプロットしたものを図2~図6に示す。これらプロットされたグラフ図を観察すると、測定位置においての固有差はあるものの、測定されたナトリウムイオン濃度(○印)と漏水流量(△印)とは、各測定位置において凡そ一定の関係で季節的に連続的な変化をしていることが観測され、このことから、海水分の漏水流量は一定で、地下水分の流量には変化が認められるとの推論が正しいことが確認され、斯かる各データを各測定対応観測位置での基本データとし、このデータから逸脱したナトリウムイオン濃度が測定された場合には、海底トンネルの構造物の劣化が進行する等して安定度が低下したものと判定する。その例として、測定位置iでは、ある年の7月に測定したナトリウムイオン濃度(●印)が、漏水流量(▲印)については基礎データと変化が殆どないにも拘わらず、該当月の基礎データの値から増加していることが観測され、これによって海底トンネル構造物の劣化が促進する等して海水流量が増大したものと判定した。この判定結果の真偽を調べるため、現場について詳細な検査をしたところ、事実、トンネル構造物の劣化が進んで安定度が損なわれていることが確認され、本発明の信頼度が高いことが確認された。
【0010】
一方、測定位置jについて、ある年の10月に測定したナトリウムイオン濃度(●印)と漏水流量(▲印)とが基礎データから逸脱していることが観測された。この年の8月は干ばつで特に雨量が少なく、このため、地下水流量が少なくなり、この結果、漏水流量は減少したものの、流入する海水流量には変化がないためナトリウムイオンの濃度が増加して異常値と判断されたものと判定した。この判定結果の真偽を調べるため、現場において詳細な検査をしたところ、事実、トンネル構造物は劣化が進んでおらず安定度が高いままのものであることが確認され、このような対応をすることで本発明の信頼度が高くなることが確認された。
【0011】
次に、図7には安定度の判定装置が示されるが、該判定装置6は、前記海水成分であるナトリウムイオン濃度と漏水流量とのデータを入力して地下構造物の安定度の判定をするものであるが、このものは、書換え可能な記憶部を備えたマイクロコンピューターを制御部7として備えて構成されている。記憶部には、前記a~nの各測定位置での漏水流量とナトリウムイオン濃度との基礎データが入力されている。さらに制御部7には、前記a~nの各測定位置の選択入力、各種データの入力、測定日が入力できる入力操作具8と、ナトリウムイオン濃度を測定するためのセンサー(例えばイオン選択性電極)9とが入力インターフェース側に接続されている。そして、前記a~nの測定位置を選択入力すると共に測定日を入力し、さらにセンサー9で測定した漏水のナトリウムイオン濃度の測定値を入力すると、制御部7は、これら入力結果と予め記憶されている基礎データとを比較判断し、ナトリウムイオン濃度が基礎データから逸脱していると判断された場合には、安定度が低いとしてその旨を表示部10で表示するようになっている。
【0012】
因みに、安定度の判定基準であるが、例えば複数年についての同一日での測定値(漏水の性格上、日単位の測定値には大きな変化がないと考えられることから、測定値について例えば月単位で大きく取りまとめてもよい)を母集団として平均値を求め、該平均値からの偏差により正常、異常の判定をするようにしても勿論よい。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)は海底トンネルの概略縦断面図、(B)は同概略横断面図である。
【図2】測定位置fにおいての漏水流量と該漏水中のナトリウムイオン濃度とをプロットしたグラフ図である。
【図3】測定位置gにおいての漏水流量と該漏水中のナトリウムイオン濃度とをプロットしたグラフ図である。
【図4】測定位置hにおいての漏水流量と該漏水中のナトリウムイオン濃度とをプロットしたグラフ図である。
【図5】測定位置iにおいての漏水流量と該漏水中のナトリウムイオン濃度とをプロットしたグラフ図である。
【図6】測定位置jにおいての漏水流量と該漏水中のナトリウムイオン濃度とをプロットしたグラフ図である。
【図7】地下構造物の安定度判定装置のブロック回路図である。
【符号の説明】
1、2 海底トンネルの本坑
3 海底トンネルの作業坑
4、5 たて坑
6 測定装置
7 制御部
8 入力操作具
9 センサー
10 表示部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6