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明細書 :地震被害推定方法及びその装置、並びにプログラム記録媒体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4015821号 (P4015821)
公開番号 特開2002-323571 (P2002-323571A)
登録日 平成19年9月21日(2007.9.21)
発行日 平成19年11月28日(2007.11.28)
公開日 平成14年11月8日(2002.11.8)
発明の名称または考案の名称 地震被害推定方法及びその装置、並びにプログラム記録媒体
国際特許分類 G01V   1/28        (2006.01)
G01V   1/00        (2006.01)
FI G01V 1/28
G01V 1/00 D
請求項の数または発明の数 7
全頁数 20
出願番号 特願2001-127590 (P2001-127590)
出願日 平成13年4月25日(2001.4.25)
審査請求日 平成16年11月5日(2004.11.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】室野 剛隆
【氏名】芦谷 公稔
個別代理人の代理人 【識別番号】100083839、【弁理士】、【氏名又は名称】石川 泰男
審査官 【審査官】野田 洋平
参考文献・文献 特開2000-027481(JP,A)
斎藤正人,有効入力動の所要降伏震度スペクトルに与える影響に関する研究,第34回地盤工学研究発表会-平成11年度発表講演集(2分冊の2)-,1999年 6月18日,P.1559-1560
調査した分野 G01V 1/00-1/52
JSTPlus(JDream2)
特許請求の範囲 【請求項1】
降伏点応力に達するときの構造物の振動加速度である降伏加速度aSyと、前記降伏点応力に達するときの振動周期である降伏周期TSyを有する構造物モデルに、振動加速度の最大値である最大加速度aGMと、フーリエ変換により周波数領域に変換した場合に振幅が最大となるときの周期である卓越周期Tを有するモデル地震動波形を入力した場合の前記構造物モデルのモデル応答波形を、n1個の前記構造物モデルとn2個の前記モデル地震動波形について、非線形時刻歴動的解析により算出し、
前記算出されたモデル応答波形に基づくモデルデータ点を、前記卓越周期Tを前記降伏周期TSyで除算した正規化周期(T/TSy)を一方の直交座標軸にとるとともに、前記最大加速度aGMを前記降伏加速度aSyで除算した正規化加速度(aGM/aSy)を他方の直交座標軸にとった座標平面である正規化座標平面の上にn3個プロットし、
前記モデル地震動波形が加わった場合の前記構造物モデルの応答変位波形の最大振幅をδmaxとし、静的荷重が加えられた場合の前記構造物モデルが静的に降伏するときの変位量をδyとしたとき、δmax/δyで求められる値を応答塑性率μとしたとき、
前記正規化座標平面の上にプロットされたn3個のモデルデータ点を、前記応答塑性率μが0<μ<μ1の範囲となる場合、前記応答塑性率μがμ1≦μ<μ2の範囲となる場合、…、前記応答塑性率μがμi-1≦μ<μiの範囲となる場合、のようにi個のグループにグループ分けを行い、1つのグループのモデルデータ点を1つの前記正規化座標平面の上にプロットするようにして各グループごとのグラフを作成し、
前記各グループのグラフにおいて、前記モデルデータ点の集合が示す領域の下限輪郭線を描くことにより、その応答塑性率範囲における前記構造物モデルの被害程度を表す関数曲線である構造物被害程度関数曲線を求め、
観測された実際の地震動波形の前記最大加速度がaGM1で、かつ前記卓越周期がT1で、被害推定を行う対象となる実際の構造物の前記降伏加速度がaSy1で、かつ前記降伏周期がTSy1の場合に、正規化周期をT1/TSy1により算出するとともに、正規化加速度をaGM1/aSy1により算出し、算出された正規化周期と正規化加速度を各直交座標とした場合の実際データ点を前記正規化座標平面上にプロットし、
前記応答塑性率の値ごとに得られた前記構造物被害程度関数曲線と前記実際データ点との関係に基づき、前記実際の地震動波形が前記実際の構造物に加わった場合の構造物被害程度を推定すること
を特徴とする地震被害推定方法。
【請求項2】
請求項1記載の地震被害推定方法において、
異なる応答塑性率の場合の前記構造物被害程度関数曲線をそれぞれ求め、
前記正規化座標平面上に、異なる応答塑性率の場合の前記構造物被害程度関数曲線を同時に表示することにより、構造物被害推定ノモグラムを作成し、前記構造物被害程度関数曲線に対する前記実際データ点の位置関係に応じて、前記実際の地震動波形が前記実際の構造物に加わった場合の構造物被害程度を視覚的に推定すること
を特徴とする地震被害推定方法。
【請求項3】
請求項1記載の地震被害推定方法において、
前記卓越周期Tは、実際の地震動波形の振動速度の最大値をvGM1としたとき、下式
1=2π×(vGM1/aGM1
により求められること
を特徴とする地震被害推定方法。
【請求項4】
降伏点応力に達するときの構造物の振動加速度である降伏加速度aSyと、前記降伏点応力に達するときの振動周期である降伏周期TSyを有する構造物モデルに、振動加速度の最大値である最大加速度aGMと、フーリエ変換により周波数領域に変換した場合に振幅が最大となるときの周期である卓越周期Tを有するモデル地震動波形を入力した場合の前記構造物モデルのモデル応答波形を、n1個の前記構造物モデルとn2個の前記モデル地震動波形について、非線形時刻歴動的解析により算出し、前記算出されたモデル応答波形に基づくモデルデータ点を、前記卓越周期Tを前記降伏周期TSyで除算した正規化周期(T/TSy)を一方の直交座標軸にとるとともに、前記最大加速度aGMを前記降伏加速度aSyで除算した正規化加速度(aGM/aSy)を他方の直交座標軸にとった座標平面である正規化座標平面の上にn3個プロットし、前記モデル地震動波形が加わった場合の前記構造物モデルの応答変位波形の最大振幅をδmaxとし、静的荷重が加えられた場合の前記構造物モデルが静的に降伏するときの変位量をδyとしたとき、δmax/δyで求められる値を応答塑性率μとしたとき、前記正規化座標平面の上にプロットされたn3個のモデルデータ点を、前記応答塑性率μがμ1≦μ<μ2の範囲となる場合、…、前記応答塑性率μがμi-1≦μ<μiの範囲となる場合、のようにi個のグループにグループ分けを行い、1つのグループのモデルデータ点を1つの前記正規化座標平面の上にプロットするようにして各グループごとのグラフを作成し、前記各グループのグラフにおいて、前記モデルデータ点の集合が示す領域の下限輪郭線を描くことにより、その応答塑性率範囲における前記構造物モデルの被害程度を表す関数曲線である構造物被害程度関数曲線を求め、前記各構造物被害程度関数曲線のデータ値を記憶する記憶手段と、
観測された実際の地震動波形の前記最大加速度がaGM1で、かつ前記卓越周期がT1で、被害推定を行う対象となる実際の構造物の前記降伏加速度がaSy1で、かつ前記降伏周期がTSy1の場合に、正規化周期をT1/TSy1により算出するとともに、正規化加速度をaGM1/aSy1により算出し、算出された正規化周期と正規化加速度を各直交座標とした場合の実際データ点を前記正規化座標平面上にプロットし、前記応答塑性率の値ごとに得られた前記構造物被害程度関数曲線と前記実際データ点との関係に基づき、前記実際の地震動波形が前記実際の構造物に加わった場合の構造物被害程度の値を推定して出力する演算推定手段を備えること
を特徴とする地震被害推定装置。
【請求項5】
請求項4記載の地震被害推定装置において、
前記演算推定手段は、異なる応答塑性率の場合の前記構造物被害程度関数曲線をそれぞれ求め、前記正規化座標平面上に、異なる応答塑性率の場合の前記構造物被害程度関数曲線を同時に表示することにより、構造物被害推定ノモグラムを作成し、前記構造物被害程度関数曲線に対する前記実際データ点の位置関係に応じて補間を行い、前記実際の地震動波形が前記実際の構造物に加わった場合の構造物被害程度の推定値を出力すること
を特徴とする地震被害推定装置。
【請求項6】
請求項4記載の地震被害推定装置において、
前記実際の構造物の前記降伏加速度aSy1及び前記降伏周期TSy1は、あらかじめデータベースとして前記記憶手段に格納されており、
前記観測された実際の地震動波形又は前記観測された実際の地震動波形から抽出されたデータは、地震発生箇所から前記演算推定手段の設置箇所まで通信回線によって送られた後に前記演算推定手段に入力され、
前記演算推定手段は、前記観測された実際の地震動波形が前記実際の構造物に加わった場合の構造物被害程度の推定値をリアルタイムで出力すること
を特徴とする地震被害推定装置。
【請求項7】
データを入力するための入力手段と、
データを格納するデータ格納手段と、
データを処理するとともに各手段を制御する主制御手段と、
前記入力手段に入力されたデータ又は前記主制御手段が処理したデータを一時的に記憶する一時記憶手段と
前記主制御手段が処理したデータを出力する出力手段を
備えたコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読取り可能なプログラム記録媒体であって、
前記プログラムは、地震動波形が構造物に加わった場合の構造物被害程度を推定する地震被害推定方法を実施するものであり、
前記地震被害推定方法は、
降伏点応力に達するときの構造物の振動加速度である降伏加速度aSyと、前記降伏点応力に達するときの振動周期である降伏周期TSyを有する構造物モデルに、振動加速度の最大値である最大加速度aGMと、フーリエ変換により周波数領域に変換した場合に振幅が最大となるときの周期である卓越周期Tを有するモデル地震動波形を入力した場合の前記構造物モデルのモデル応答波形を、n1個の前記構造物モデルとn2個の前記地震動波形について、前記主制御手段が、非線形時刻歴動的解析により算出し、
前記算出されたモデル応答波形に基づくモデルデータ点を、前記卓越周期Tを前記降伏周期TSyで除算した正規化周期(T/TSy)を一方の直交座標軸にとるとともに、前記最大加速度aGMを前記降伏加速度aSyで除算した正規化加速度(aGM/aSy)を他方の直交座標軸にとった座標平面である正規化座標平面の上に、前記主制御手段が、n3個プロットし、
前記モデル地震動波形が加わった場合の前記構造物モデルの応答変位波形の最大振幅をδmaxとし、静的荷重が加えられた場合の前記構造物モデルが静的に降伏するときの変位量をδyとしたとき、δmax/δyで求められる値を応答塑性率μとしたとき、
前記正規化座標平面の上にプロットされたn3個のモデルデータ点を、前記応答塑性率μがμ1<μ<μ2の範囲となる場合、…、前記応答塑性率μがμi-1<μ<μiの範囲となる場合、のように、前記主制御手段が、i個のグループにグループ分けを行い、1つのグループのモデルデータ点を1つの前記正規化座標平面の上にプロットするようにして各グループごとのグラフを作成し、
前記各グループのグラフにおいて、前記モデルデータ点の集合が示す領域の下限輪郭線を描くことにより、その応答塑性率範囲における前記構造物モデルの被害程度を表す関数曲線である構造物被害程度関数曲線を前記主制御手段が求め、
観測された実際の地震動波形の前記最大加速度がaGM1で、かつ前記卓越周期がT1で、被害推定を行う対象となる実際の構造物の前記降伏加速度がaSy1で、かつ前記降伏周期がTSy1の場合に、正規化周期をT1/TSy1により算出するとともに、正規化加速度をaGM1/aSy1により算出し、算出された正規化周期と正規化加速度を各直交座標とした場合の実際データ点を前記正規化座標平面上に前記主制御手段がプロットし、
前記応答塑性率の値ごとに得られた前記構造物被害程度関数曲線と前記実際データ点との関係に基づき、前記実際の地震動波形が前記実際の構造物に加わった場合の構造物被害程度を前記主制御手段が推定すること
を特徴とするプログラム記録媒体。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、地震時の地盤振動波形が構造物に加わった場合の被害程度を推定するための地震被害推定方法、及びこの方法を用いて被害程度を推定して出力する地震被害推定装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、地震が発生した場合に、鉄道や道路等のコンクリート高架橋、橋梁、トンネル等の構造物にどの程度の被害が加わるか(以下、「加害性」という。)については、地盤の地震動の変位、速度、加速度等、振動の一般的な物理的指標を用いて推定しようとする試みが種々検討されてきた。しかし、現在では、これらの指標単独では、地震による構造物の被害(以下、「地震時構造物被害」という。)の程度を明確に評価することは非常に困難である、と考えられている。また、地震動の大きさを表す指標には、震度(計測震度を含む)や、SI(スペクトル強さ:設定された周期範囲での速度応答スペクトルの面積)といった耐震工学的指標があり、これらは地震時構造物被害との相関が高い、と考えられている。けれども、これらの指標は、地震時構造物被害の発生のメカニズムとの関係が明確ではないため、一般的に用いられるには至っていない。
【0003】
このように、地震時構造物被害の推定については、現在まで、信頼できる評価指標がなく、構造物への地震の加害性の判断基準は、もっぱら過去の被災事例等を参考にして専門家等が経験的に推定を行い総合的に判断していた。
【0004】
近年では、耐震設計や耐震補強技術などにより、各構造物の耐震性能は多様化している。このため、地震時構造物被害の程度の推定にあたっても、各構造物の耐震性能に即した個別のきめ細かい判断が求められるようになってきた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記したように、従来の経験則に頼る推定手法では、個々の構造物の耐震性能の状況に応じて、地震時構造物被害の程度を、個別に、きめ細かく、かつ簡易に判断する、ということはできなかった。
【0006】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、本発明の解決しようとする課題は、各構造物の耐震性能に応じて地震時構造物被害の程度を個別にきめ細かくかつ簡易に判断し得る地震被害推定方法等を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明に係る地震被害推定方法は、
降伏点応力に達するときの構造物の振動加速度である降伏加速度aSyと、前記降伏点応力に達するときの振動周期である降伏周期TSyを有する構造物モデルに、振動加速度の最大値である最大加速度aGMと、フーリエ変換により周波数領域に変換した場合に振幅が最大となるときの周期である卓越周期Tを有するモデル地震動波形を入力した場合の前記構造物モデルのモデル応答波形を、n1個の前記構造物モデルとn2個の前記モデル地震動波形について、非線形時刻歴動的解析により算出し、
前記算出されたモデル応答波形に基づくモデルデータ点を、前記卓越周期Tを前記降伏周期TSyで除算した正規化周期(T/TSy)を一方の直交座標軸にとるとともに、前記最大加速度aGMを前記降伏加速度aSyで除算した正規化加速度(aGM/aSy)を他方の直交座標軸にとった座標平面である正規化座標平面の上にn3個プロットし、
前記モデル地震動波形が加わった場合の前記構造物モデルの応答変位波形の最大振幅をδmaxとし、静的荷重が加えられた場合の前記構造物モデルが静的に降伏するときの変位量をδyとしたとき、δmax/δyで求められる値を応答塑性率μとしたとき、
前記正規化座標平面の上にプロットされたn3個のモデルデータ点を、前記応答塑性率μが0<μ<μ1の範囲となる場合、前記応答塑性率μがμ1≦μ<μ2の範囲となる場合、…、前記応答塑性率μがμi-1≦μ<μiの範囲となる場合、のようにi個のグループにグループ分けを行い、1つのグループのモデルデータ点を1つの前記正規化座標平面の上にプロットするようにして各グループごとのグラフを作成し、
前記各グループのグラフにおいて、前記モデルデータ点の集合が示す領域の下限輪郭線を描くことにより、その応答塑性率範囲における前記構造物モデルの被害程度を表す関数曲線である構造物被害程度関数曲線を求め、
観測された実際の地震動波形の前記最大加速度がaGM1で、かつ前記卓越周期がT1で、被害推定を行う対象となる実際の構造物の前記降伏加速度がaSy1で、かつ前記降伏周期がTSy1の場合に、正規化周期をT1/TSy1により算出するとともに、正規化加速度をaGM1/aSy1により算出し、算出された正規化周期と正規化加速度を各直交座標とした場合の実際データ点を前記正規化座標平面上にプロットし、
前記応答塑性率の値ごとに得られた前記構造物被害程度関数曲線と前記実際データ点との関係に基づき、前記実際の地震動波形が前記実際の構造物に加わった場合の構造物被害程度を推定することを特徴とする。
【0008】
上記の地震被害推定方法において、好ましくは、
異なる応答塑性率の場合の前記構造物被害程度関数曲線をそれぞれ求め、
前記正規化座標平面上に、異なる応答塑性率の場合の前記構造物被害程度関数曲線を同時に表示することにより、構造物被害推定ノモグラムを作成し、前記構造物被害程度関数曲線に対する前記実際データ点の位置関係に応じて、前記実際の地震動波形が前記実際の構造物に加わった場合の構造物被害程度を視覚的に推定する。
【0009】
また、上記の地震被害推定方法において、好ましくは、前記卓越周期Tは、実際の地震動波形の振動速度の最大値をvGM1としたとき、下式
1=2π×(vGM1/aGM1
により求められる。
【0010】
また、本発明に係る地震被害推定装置は、
降伏点応力に達するときの構造物の振動加速度である降伏加速度aSyと、前記降伏点応力に達するときの振動周期である降伏周期TSyを有する構造物モデルに、振動加速度の最大値である最大加速度aGMと、フーリエ変換により周波数領域に変換した場合に振幅が最大となるときの周期である卓越周期Tを有するモデル地震動波形を入力した場合の前記構造物モデルのモデル応答波形を、n1個の前記構造物モデルとn2個の前記モデル地震動波形について、非線形時刻歴動的解析により算出し、前記算出されたモデル応答波形に基づくモデルデータ点を、前記卓越周期Tを前記降伏周期TSyで除算した正規化周期(T/TSy)を一方の直交座標軸にとるとともに、前記最大加速度aGMを前記降伏加速度aSyで除算した正規化加速度(aGM/aSy)を他方の直交座標軸にとった座標平面である正規化座標平面の上にn3個プロットし、前記モデル地震動波形が加わった場合の前記構造物モデルの応答変位波形の最大振幅をδmaxとし、静的荷重が加えられた場合の前記構造物モデルが静的に降伏するときの変位量をδyとしたとき、δmax/δyで求められる値を応答塑性率μとしたとき、前記正規化座標平面の上にプロットされたn3個のモデルデータ点を、前記応答塑性率μがμ1≦μ<μ2の範囲となる場合、…、前記応答塑性率μがμi-1≦μ<μiの範囲となる場合、のようにi個のグループにグループ分けを行い、1つのグループのモデルデータ点を1つの前記正規化座標平面の上にプロットするようにして各グループごとのグラフを作成し、前記各グループのグラフにおいて、前記モデルデータ点の集合が示す領域の下限輪郭線を描くことにより、その応答塑性率範囲における前記構造物モデルの被害程度を表す関数曲線である構造物被害程度関数曲線を求め、前記各構造物被害程度関数曲線のデータ値を記憶する記憶手段と、
観測された実際の地震動波形の前記最大加速度がaGM1で、かつ前記卓越周期がT1で、被害推定を行う対象となる実際の構造物の前記降伏加速度がaSy1で、かつ前記降伏周期がTSy1の場合に、正規化周期をT1/TSy1により算出するとともに、正規化加速度をaGM1/aSy1により算出し、算出された正規化周期と正規化加速度を各直交座標とした場合の実際データ点を前記正規化座標平面上にプロットし、前記応答塑性率の値ごとに得られた前記構造物被害程度関数曲線と前記実際データ点との関係に基づき、前記実際の地震動波形が前記実際の構造物に加わった場合の構造物被害程度の値を推定して出力する演算推定手段を備えることを特徴とする。
【0011】
上記の地震被害推定装置において、好ましくは、前記演算推定手段は、異なる応答塑性率の場合の前記構造物被害程度関数曲線をそれぞれ求め、前記正規化座標平面上に、異なる応答塑性率の場合の前記構造物被害程度関数曲線を同時に表示することにより、構造物被害推定ノモグラムを作成し、前記構造物被害程度関数曲線に対する前記実際データ点の位置関係に応じて補間を行い、前記実際の地震動波形が前記実際の構造物に加わった場合の構造物被害程度の推定値を出力する。
【0012】
また、上記の地震被害推定装置において、好ましくは、
前記実際の構造物の前記降伏加速度aSy1及び前記降伏周期TSy1は、あらかじめデータベースとして前記記憶手段に格納されており、
前記観測された実際の地震動波形又は前記観測された実際の地震動波形から抽出されたデータは、地震発生箇所から前記演算推定手段の設置箇所まで通信回線によって送られた後に前記演算推定手段に入力され、
前記演算推定手段は、前記観測された実際の地震動波形が前記実際の構造物に加わった場合の構造物被害程度の推定値をリアルタイムで出力する。
【0013】
また、本発明に係るプログラム記録媒体は、
データを入力するための入力手段と、
データを格納するデータ格納手段と、
データを処理するとともに各手段を制御する主制御手段と、
前記入力手段に入力されたデータ又は前記主制御手段が処理したデータを一時的に記憶する一時記憶手段と
前記主制御手段が処理したデータを出力する出力手段を
備えたコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読取り可能なプログラム記録媒体であって、
前記プログラムは、地震動波形が構造物に加わった場合の構造物被害程度を推定する地震被害推定方法を実施するものであり、
前記地震被害推定方法は、
降伏点応力に達するときの構造物の振動加速度である降伏加速度aSyと、前記降伏点応力に達するときの振動周期である降伏周期TSyを有する構造物モデルに、振動加速度の最大値である最大加速度aGMと、フーリエ変換により周波数領域に変換した場合に振幅が最大となるときの周期である卓越周期Tを有するモデル地震動波形を入力した場合の前記構造物モデルのモデル応答波形を、n1個の前記構造物モデルとn2個の前記地震動波形について、前記主制御手段が、非線形時刻歴動的解析により算出し、
前記算出されたモデル応答波形に基づくモデルデータ点を、前記卓越周期Tを前記降伏周期TSyで除算した正規化周期(T/TSy)を一方の直交座標軸にとるとともに、前記最大加速度aGMを前記降伏加速度aSyで除算した正規化加速度(aGM/aSy)を他方の直交座標軸にとった座標平面である正規化座標平面の上に、前記主制御手段が、n3個プロットし、
前記モデル地震動波形が加わった場合の前記構造物モデルの応答変位波形の最大振幅をδmaxとし、静的荷重が加えられた場合の前記構造物モデルが静的に降伏するときの変位量をδyとしたとき、δmax/δyで求められる値を応答塑性率μとしたとき、
前記正規化座標平面の上にプロットされたn3個のモデルデータ点を、前記応答塑性率μがμ1<μ<μ2の範囲となる場合、…、前記応答塑性率μがμi-1<μ<μiの範囲となる場合、のように、前記主制御手段が、i個のグループにグループ分けを行い、1つのグループのモデルデータ点を1つの前記正規化座標平面の上にプロットするようにして各グループごとのグラフを作成し、
前記各グループのグラフにおいて、前記モデルデータ点の集合が示す領域の下限輪郭線を描くことにより、その応答塑性率範囲における前記構造物モデルの被害程度を表す関数曲線である構造物被害程度関数曲線を前記主制御手段が求め、観測された実際の地震動波形の前記最大加速度がaGM1で、かつ前記卓越周期がT1で、被害推定を行う対象となる実際の構造物の前記降伏加速度がaSy1で、かつ前記降伏周期がTSy1の場合に、正規化周期をT1/TSy1により算出するとともに、正規化加速度をaGM1/aSy1により算出し、算出された正規化周期と正規化加速度を各直交座標とした場合の実際データ点を前記正規化座標平面上に前記主制御手段がプロットし、
前記応答塑性率の値ごとに得られた前記構造物被害程度関数曲線と前記実際データ点との関係に基づき、前記実際の地震動波形が前記実際の構造物に加わった場合の構造物被害程度を前記主制御手段が推定することを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は、本発明の第1実施形態である地震被害推定装置のハードウェアの全体構成を示すブロック図である。図1に示すように、この地震被害推定装置1は、主制御部2と、主記憶装置3と、一時記憶部4と、入出力制御部5と、入力装置6と、表示装置7と、出力装置8を備えて構成されている。このような構成により、この地震被害推定装置1は、全体としてコンピュータを構成している。コンピュータとしては、大型汎用コンピュータ(メイン・フレーム・コンピュータ)、ワークステーション、パーソナル・コンピュータ(パソコン)等が含まれる。
【0016】
主制御部2は、主制御手段に相当しており、図示はしていないが、CPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)等を有しており、この地震被害推定装置1の各部を統括し、各種演算やプログラム実行等の処理を行う部分である。CPUは、図示はしていないが、CPU内部での電流(信号)の授受を行うための信号線である内部バスを有しており、この内部バスに、演算部と、レジスタと、クロック生成部と、命令処理部等を有している。
【0017】
CPU内の演算部は、一般に、レジスタに記憶されている各種データに対して、四則演算(加算、減算、乗算、及び除算)を行い、又は論理演算(論理積、論理和、否定、排他的論理和など)を行い、又はデータ比較、若しくはデータシフトなどの処理を実行する部分である。処理の結果は、レジスタに格納されるのが一般的である。
【0018】
レジスタは、一般に、1語のデータを記憶する部分である。通常、CPU内には、複数のレジスタが設けられている。クロック生成部は、CPUの各部分の時間の同期をとるための刻時信号(クロック信号)を生成する部分である。CPUは、このクロック信号に基づいて動作する。命令処理部は、演算部等が実行すべき命令の取り出し、その解読、及びその実行などを制御し処理する部分である。
【0019】
主記憶装置3は、データ格納手段に相当しており、図示はしていないが、ハードディスク装置(HDD)、ROM(Read Only Memory:読出し専用メモリ)等を有しており、後述するように、主制御部2を制御するための制御プログラムや、主制御部2が用いる各種データ等を格納している部分である。ハードディスク装置は、図示はしていないが、その内部に、円盤状の磁気ディスクを有しており、この磁気ディスクをディスク駆動機構により回転駆動し、磁気ヘッドをヘッド駆動機構によって磁気ディスクの任意位置に移動させ、磁気ディスク表面の磁性膜を磁気ヘッドからの書込電流によって磁化することによりデータを記録し、磁化された磁性膜の上を磁気ヘッドが移動する際に磁気ヘッドのコイル等に流れる電流を検出することにより記録データを読み出す装置である。また、ROMは、一般に、半導体チップ等により構成される。
【0020】
主記憶装置3は、図示はしていないが、プログラム記憶領域と、読出データ記憶領域を有している。プログラム記憶領域内には、制御プログラムが格納されている。
【0021】
上記した制御プログラムは、OS(Operating System)等の主制御部2の基本ソフトウェアのほか、後述する地震被害推定ソフトウェアのための分析演算や画像処理等を主制御部2に実行させるための命令等の処理手順が、所定のプログラム用言語で記述された文字や記号の集合であり、これらの文字や記号は、実際には、「1」と「0」の組み合わせとなっている。
【0022】
また、読出データ記憶領域内には、あらかじめ設定されたデータ、例えば、後述する構造物モデルの降伏加速度aSy及び降伏周期TSyや、モデル地震動波形データ、あるいはあらかじめ算出された構造物被害程度関数曲線データ等が格納されている。これらのデータは、所定のプログラム用言語に用いるために記述された文字又は数字若しくは記号の集合であり、これらの文字又は数字若しくは記号は、実際には、「1」と「0」の組み合わせとなっている。
【0023】
また、一時記憶部4は、一時記憶手段に相当しており、図示はしていないが、RAM(Random Access Memory:随時書込み読出しメモリ)等を有しており、CPUにより演算された途中のデータ等を一時記憶する部分である。RAMは、一般に、半導体チップ等により構成される。
【0024】
入出力制御部5は、インタフェース(I/O)とも呼ばれ、信号線又はその集合であるバスと、各種コネクタ、各種ポート、ハードディスク装置の読取り・書込み制御機構などを有しており、CPUからの信号や各装置からの信号を授受するための部分である。
【0025】
入力装置6は、入力手段に相当しており、図示はしていないが、キーボード、マウス又はトラックボール若しくはスティックポインタ等を含むポインティングデバイス、タッチパネル装置、データ入力用端子等を有しており、主制御部2への命令信号や、主制御部2が処理するデータ等を外部から入力するための部分である。
【0026】
表示装置7は、図示はしていないが、CRT(Cathode Ray Tube:陰極線管表示装置)モニタ、液晶表示パネル、プラズマディスプレイ装置等を有しており、主制御部2の演算結果や処理したデータを、画像や文字等として画面に表示する部分である。
【0027】
出力装置8は、出力手段に相当しており、図示はしていないが、プリンタ、外部出力用端子、モデムなどの通信装置、LAN(Local Area Network)ポート等を有しており、主制御部2の演算結果や処理したデータを、紙等に印字したり、あるいは電気信号として外部へ出力又は送信する部分である。なお、外部出力端子に、フレキシブル・ディスク(FD)装置、光磁気ディスク装置等の外部記録装置を接続すれば、後述する構造物被害の推定データ等をディスク等の記録媒体に記録して外部に取り出すことができる。
【0028】
次に、図2を参照しつつ、上記した地震被害推定装置1の動作を説明する。図2は、第1実施形態の地震被害推定装置の主制御部における処理手順を示すフローチャート図である。
【0029】
まず、地震被害推定装置1の主記憶装置3の読出データ記憶領域(図示せず)には、実際の構造物の各種諸元、寸法値、設計値等がデータベースとして格納されている(ステップS11)。これらのデータのうち、構造物の地震被害推定に用いられるのは、その構造物に振動が加わった場合に、その構造物を構成する部材のいずれかが降伏点応力に達するときの振動加速度aSy(以下、「降伏加速度」という。)と、その構造物に振動が加わった場合に、その構造物を構成する部材のいずれかが降伏点応力に達するときの振動周期TSy(以下、「降伏周期」という。)である。
【0030】
次に、地震が発生すると(ステップS21)、観測された実際の地震動波形のデータは、地震発生箇所から、地震被害推定装置1の設置箇所まで、有線又は無線の通信回線によって送られ、入力端子(図示せず)等の入力装置6、入出力制御部5を経て主制御部2に入力される。
【0031】
主制御部2のCPU(図示せず)は、この実際の地震動波形データから、振動加速度の最大値aGM1(以下、「最大加速度」という。)を算出する。また、主制御部2のCPU(図示せず)は、この実際の地震動波形データを、図3に示すようにしてフーリエ変換し、周波数領域に変換した場合に振幅が最大となるときの周期T1(以下、「卓越周期」という。)を算出する(ステップS22)。
【0032】
次に、主制御部2のCPU(図示せず)は、上記の値から、T1/TSy1の値(以下、「正規化周期」という。)を算出する。また、主制御部2のCPU(図示せず)は、上記の値から、とともに、aGM1/aSy1の値(以下、「正規化加速度」という。)を算出する。次に、主制御部2のCPU(図示せず)は、上記のようにして算出した正規化周期を横軸(対数目盛)とし、正規化加速度を縦軸(対数目盛)とした直交座標平面(以下、「正規化座標平面」という。)の上に、入力された実際の地震動を示す点をプロットする(ステップS23)。この場合、入力された実際の地震動を示す点の座標は、(T1/TSy1,aGM1/aSy1)となる。
【0033】
この地震被害推定装置1の主記憶装置3(例えば、図示しない読出データ記憶領域)には、図4に示すようなノモグラムデータ(以下、「構造物被害推定ノモグラム」という。)が格納されている。このノモグラムデータは、両対数の正規化座標平面上に描かれた複数の関数曲線C1~C4(以下、「構造物被害程度関数曲線」という。)によって構成されている。これらのうち、曲線C1は、応答塑性率μが1の場合を示し、曲線C2は、応答塑性率μが2の場合を示し、曲線C3は、応答塑性率μが3の場合を示し、曲線C4は、応答塑性率μが4の場合を示している。
【0034】
ここに、応答塑性率μとは、構造物モデルに、波形の既知な地震動波形が加わった場合に、構造物モデルに生じる応答変位波形の最大振幅をδmaxとし、この構造物モデルに静的荷重が加えられた場合に静的に降伏するときの変位量をδyとしたとき、δmax/δyで求められる値をいう。この応答塑性率μは、構造物への地震の影響(被害)の度合を、構造物の降伏状態に対する比として表現した値である。一般に、応答塑性率μが大きくなれば、構造物への地震の影響(被害)は大きくなる。応答塑性率μと被害のランク(程度)との関係は、以下に示す表1のようになる。
【0035】
【表1】
JP0004015821B2_000002t.gif【0036】
上表1において、無被害とは、ほとんど被害はないが、例えばコンクリート構造物の場合には、非常に細いひび割れ(ヘアークラック)程度の被害が発生することがある、という状況である。また、小被害とは、例えばコンクリート構造物の場合に、亀裂が発生することがある、という状況である。また、中被害とは、例えばコンクリート構造物の場合に、大きな亀裂が発生することがある、という状況である。そして、大被害とは、例えばコンクリート構造物の場合に、大きな亀裂がかなり発生し、破壊に至ることがある、という状況である。
【0037】
したがって、入力された実際の地震動を示す実際データ点(T1/TSy1,aGM1/aSy1)が、図4において、例えば、構造物被害程度関数曲線C3とC4の中間位置にプロットされた場合には、主制御部2のCPU(図示せず)は、応答塑性率μの値は3~4の値と判断する(ステップS24)。この際、主制御部2のCPU(図示せず)は、補間計算を行い、応答塑性率の値を決定するようにしてもよい。
【0038】
次に、主制御部2のCPU(図示せず)は、上表1から、構造物の被害程度は、「中被害」であると判断し、「コンクリート構造物の場合には、大きな亀裂が発生することがあるが、破壊に至るまではいかない」等という被害推定を下し、この被害推定の内容を出力装置8から外部へ出力する。あるいは、表示装置7により文字等として画像表示させる(ステップS25)。
【0039】
上記した第1実施形態の地震被害推定装置1によれば、以下のような利点がある。
【0040】
(1)地震被害を推定するために必要なデータは、観測された実際の地震動波形データからフーリエ変換によって求める卓越周期T1と、実際地震動波形から直接求められる最大加速度aGM1の2つのデータだけでよい。また、これら2個のデータから地震被害を推定する方法も、主記憶装置3にあらかじめ格納されている構造物被害程度関数曲線(構造物被害推定ノモグラム)を含む正規化座標平面の上に、上記の2つのデータを座標値とする点をプロットするだけでよく、非常に簡便である。したがって、地震被害推定を、地震発生とほぼ同時に(リアルタイムで)行うことができる。このことから、地震直後の最も重要なポイントとなる、ライフライン施設(鉄道・道路等の交通路、港湾・空港等の交通機関拠点施設など)等への地震被害の有無、程度、その位置等をほぼ瞬時に推定することができ、人命救助、施設復旧の計画等を迅速にたて、即座に実行することができる、という利点を有している。
【0041】
(2)地震被害推定の指標として応答塑性率(δmax/δy)を採用しているが、応答塑性率と構造物被害には、明確な相関があるため、主観的指標又は経験値に頼る従来の手法よりも、的確で、かつきめの細かい被害推定を行うことができる、という利点がある。
【0042】
(3)地震発生から地震被害推定出力までの過程が簡易であることから、装置、システム等の構築費用、運用コストが低廉である、という利点も有している。
【0043】
次に、上記した構造物被害推定ノモグラム(構造物被害程度関数曲線)を作成する方法について説明する。
【0044】
まず、いろいろな構造物モデルについて、その構造物に振動が加わった場合に、その構造物を構成する部材のいずれかが降伏点応力に達するときの構造物の振動加速度aSy(以下、「降伏加速度」という。)と、その構造物に振動が加わった場合に、その構造物を構成する部材のいずれかが降伏点応力に達するときの振動周期TSy(以下、「降伏周期」という。)を求める。
【0045】
次に、構造物モデルに、モデル地震動波形を入力した場合の構造物モデルのモデル応答波形を、n1個の構造物モデルとn2個の地震動波形について、非線形時刻歴動的解析により算出する。
【0046】
この場合、モデル地震動波形は、振動加速度の最大値aGM(以下、「最大加速度」という。)を有するものとし、また、このモデル地震動波形データをフーリエ変換し、周波数領域に変換した場合に振幅が最大となるときの周期T(以下、「卓越周期」という。)を有するものとする。
【0047】
また、非線形時刻歴動的解析とは、地震動波形が構造物に作用したときに、構造物の揺れがどのようになるか(応答波形)を解析する演算である。この場合には、慣性力と減衰力と復元力の釣り合い式(運動方程式)を時々刻々について解析することになる。運動方程式としては、下式などが用いられる。
【0048】
【数1】
JP0004015821B2_000003t.gif【0049】
上式において、左辺第1項は、変位v(t)の2階微分と地震動加速度(z(t)の2階微分)の和に質量mを乗じたものであり、これは慣性力を示している。また、左辺第2項は、減衰係数cに変位v(t)の1階微分を乗じたものであり、これは減衰力を示している。また、左辺第3項は、バネ係数(剛性)k(t)に変位v(t)を乗じたものであり、これは復元力を示している。
【0050】
この際、荷重(地震動)が大きくなると、構造物の一部又は全部が降伏点に達したりするので、剛性k(t)がフックの法則(線形な弾性則)からはずれ、非線形化する。その結果、復元力が時々刻々変化する。この荷重と変形の非線形関係を時々刻々追跡しながら運動方程式を解く手法を総称して「非線形時刻歴動的解析」と呼ぶ。
【0051】
非線形時刻歴動的解析として用いられる最も一般的な方法は、「逐次直接積分法」である。
【0052】
逐次直接積分法は、応答時間を微少時間間隔区間に分け、その微少時間区間の初めの性状を用いて解析を行って、その微少時間区間の終わりの速度と変位を求め、これを次の微少時間区間の初期値として与え、このような計算を逐次繰り返して行うものである。積分方法としては、例えば、「ニューマークのβ法」などが用いられることが多い。
【0053】
次に、上記のようにして、非線形時刻歴動的解析により算出されたモデル応答波形に基づくモデルデータ点を、卓越周期Tを降伏周期TSyで除算した正規化周期(T/TSy)を一方の直交座標軸(例えば横軸)にとるとともに、最大加速度aGMを降伏加速度aSyで除算した正規化加速度(aGM/aSy)を他方の直交座標軸(例えば縦軸)にとった座標平面である正規化座標平面の上にn3個プロットする。
【0054】
次に、モデル地震動波形が加わった場合の構造物モデルの応答変位波形の最大振幅をδmaxとし、静的荷重が加えられた場合の前記構造物モデルが静的に降伏するときの変位量をδyとしたとき、δmax/δyで求められる値を応答塑性率μとしたとき、正規化座標平面の上にプロットされたn3個のモデルデータ点を、応答塑性率μが0<μ<μ1の範囲となる場合、応答塑性率μがμ1≦μ<μ2の範囲となる場合、…、応答塑性率μがμi-1≦μ<μiの範囲となる場合、というように、i個のグループにグループ分けを行う。iは、正の整数であれば、どのような値であってもよい。
【0055】
例えば、応答塑性率μが1≦μ<2の範囲となる場合、応答塑性率μが2≦μ<3の範囲となる場合、応答塑性率μが3≦μ<4の範囲となる場合、応答塑性率μが4≦μの範囲となる場合、というように、4個のグループにグループ分けを行う。
【0056】
そして、1つのグループのモデルデータ点を1つの正規化座標平面の上にプロットするようにして各グループごとのグラフを作成する。
【0057】
図5~図8は、モデル地震動波形として、1993年に発生した釧路沖地震のデータを用いたものであり、図5は応答塑性率μがμ<1の範囲となる場合を示し、図6は応答塑性率μが1≦μ<2の範囲となる場合を示し、図7は応答塑性率μが2≦μ<4の範囲となる場合を示し、図8は応答塑性率μが4≦μの範囲となる場合をそれぞれ示している。
【0058】
同様に、図9~図12は、モデル地震動波形として、1994年に発生した三陸はるか沖地震のデータを用いたものであり、図9は応答塑性率μがμ<1の範囲となる場合を示し、図10は応答塑性率μが1≦μ<2の範囲となる場合を示し、図11は応答塑性率μが2≦μ<4の範囲となる場合を示し、図12は応答塑性率μが4≦μの範囲となる場合をそれぞれ示している。
【0059】
また同様に、図13~図16は、モデル地震動波形として、1995年に発生した兵庫県南部地震のデータを用いたものであり、図13は応答塑性率μがμ<1の範囲となる場合を示し、図14は応答塑性率μが1≦μ<2の範囲となる場合を示し、図15は応答塑性率μが2≦μ<4の範囲となる場合を示し、図16は応答塑性率μが4≦μの範囲となる場合をそれぞれ示している。
【0060】
また同様に、図17~図20は、モデル地震動波形として、2000年に発生した鳥取県西部地震のデータを用いたものであり、図17は応答塑性率μがμ<1の範囲となる場合を示し、図18は応答塑性率μが1≦μ<2の範囲となる場合を示し、図19は応答塑性率μが2≦μ<4の範囲となる場合を示し、図20は応答塑性率μが4≦μの範囲となる場合をそれぞれ示している。
【0061】
これらの各グループのグラフにおいて、モデルデータ点の集合が示す領域の下限輪郭線は、モデルデータ点の集合を代表する線であると考えられる。このため、この下限輪郭線を描けば、その応答塑性率範囲における構造物モデルの被害程度を表す関数曲線とすることができる、と考えられる。この関数曲線を、以下、「構造物被害程度関数曲線」という。
【0062】
図4に示す構造物被害推定ノモグラムは、上記のようにして異なる応答塑性率の場合の構造物被害程度関数曲線をそれぞれ求め、正規化座標平面上に、異なる応答塑性率の場合の構造物被害程度関数曲線を同時に表示することにより、作成されたものである。
【0063】
なお、本発明は、上記した第1実施形態以外の構成によっても実現可能である。例えば、上記のようにして作成された構造物被害推定ノモグラムを用い、このノモグラム上に、上記した実際データ点を、点として画像表示することにより、まわりの構造物被害程度関数曲線との関係が簡易かつ視覚的に表され、これにより、構造物被害程度を容易に推定することができる。この場合、表示される実際データ点は、色彩的に目立つようにしたり、点滅表示させて目立つように表示してもよい。
【0064】
また、他の構成も可能である。例えば、上記の地震被害推定装置1の地震被害推定方法に用いる実際の地震動の卓越周期T1は、地震動波形データにフーリエ変換を施して求めるのではなく、下式
1=2π×(vGM1/aGM1
により求めても、精度的に遜色のない値が得られることが確認されている。ここに、vGM1は、観測された実際の地震動波形の振動速度の最大値を示している。
【0065】
さらに、モデル地震動波形の卓越周期Tについても、同様に、下式
T=2π×(vGM/aGM
により求めても、精度的に遜色のない値が得られることが確認されている。ここに、vGMは、モデル地震動波形の振動速度の最大値を示している。
【0066】
このようにすれば、特に、実際の地震動の卓越周期T1を上記の簡易式で求めれば、地震が発生してからの演算時間を大幅に短縮することができ、構造物の地震被害推定をさらに迅速に行うことができる、という利点がある。
【0067】
上記実施形態において、主記憶装置3と一時記憶部4は、特許請求の範囲における記憶手段を構成している。また、主制御部2は、特許請求の範囲における演算推定手段に相当している。
【0068】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0069】
例えば、上記した地震被害推定装置1は、他の外部記録装置(図示せず)を備えるようにしてもよい。外部記録装置は、プログラム記録媒体の内容を読み取ることができる装置である。外部記録装置としては、CD-ROM装置、フレキシブル・ディスク(FD)装置等を含む磁気ディスク装置、光ディスク装置、光磁気ディスク装置等が含まれる。この場合には、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク等がプログラム記録媒体に相当する。また、外部記録装置としては、PCカード装置等の各種記憶用カード装置も含まれる。この場合には、各種記憶用カードがプログラム記録媒体に相当する。
【0070】
プログラム記録媒体には、上記した地震被害推定アプリケーション・ソフトウェアが格納されている。このプログラム記録媒体を用いる場合には、ソフトウェアの内容を地震被害推定装置1の主記憶装置3、特にハードディスク装置等の記憶領域にインストールした後に、このソフトウェアを実行することができる。また、プログラム記録媒体内のソフトウェアを地震被害推定装置1の主記憶装置3(ハードディスク装置等)の記憶領域にインストールを行うことはせずに、主制御部2がプログラムを実行する際に、制御命令やデータ等を、プログラム記録媒体にその都度アクセスして読み出すようにしてもよい。
【0071】
また、上記した実施形態とは逆に、正規化加速度aGM1/aSy1を横軸とし、正規化周期T1/TSy1を縦軸としてもよい。また、また、横軸と縦軸の目盛りは、両対数目盛ではなく、いずれか一方の軸を対数とし他の軸を普通の目盛とする片対数目盛、あるいは両軸とも普通の目盛としてもよい。
【0072】
また、上記した実施形態における個数n1~n3は、正の整数であればよく、また、互いに異なる数であってもよいし、一部又は全部が等しい数であってもよい。
【0073】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、地震動による構造物の応答塑性率に着目し、過去の地震動波形が構造物モデルに加えられた場合の正規化周期T1/TSy1と正規化加速度aGM1/aSy1をいずれかの直交座標とする点を正規化座標平面上にプロットした後に応答塑性率の値の範囲ごとにグルーピングし、各グループの点の集合領域の下限輪郭線を描いて構造物被害程度関数曲線とし、この構造物被害程度関数曲線を用いて、観測された実際の地震動波形が実際の構造物に加わった場合の被害推定を行うこととし、実際の地震動波形の卓越周期T1を実際の構造物の降伏加速度aSy1で除算して正規化周期T1/TSy1を得るとともに、実際の地震動波形の最大加速度aGM1を実際の構造物の降伏加速度aSy1で除算して正規化加速度aGM1/aSy1を得て、正規化周期と正規化加速度を各直交座標とした場合の実際データ点を正規化座標平面上にプロットし、応答塑性率の値ごとに得られた構造物被害程度関数曲線と実際データ点との関係に基づき、実際の地震動波形が実際の構造物に加わった場合の構造物被害程度を推定するようにした。このため、以下のような利点を有している。
【0074】
地震被害を推定するために必要なデータは、観測された実際の地震動波形データからフーリエ変換によって求める卓越周期T1と、実際地震動波形から直接求められる最大加速度aGM1の2つのデータだけでよい。また、これら2個のデータから地震被害を推定する方法も、主記憶装置3等の記憶手段にあらかじめ格納されている構造物被害程度関数曲線(構造物被害推定ノモグラム)を含む正規化座標平面の上に、上記の2つのデータを座標値とする点をプロットするだけでよく、非常に簡便である。したがって、地震被害推定を、地震発生とほぼ同時に(リアルタイムで)行うことができる。このことから、地震直後の最も重要なポイントとなる、ライフライン施設(鉄道・道路等の交通路、港湾・空港等の交通機関拠点施設など)等への地震被害の有無、程度、その位置等をほぼ瞬時に推定することができ、人命救助、施設復旧の計画等を迅速にたて、即座に実行することができる、という利点を有している。また、上記の卓越周期Tを、フーリエ変換を用いずに、実際の地震動波形の振動速度の最大値vGM1を用いて、下式
1=2π×(vGM1/aGM1
により求めるようにしても精度的に遜色のない値を得ることができる。したがって、この場合には、演算をさらに簡易にし、迅速に行うことができる、という利点がある。
【0075】
地震被害推定の指標として応答塑性率(δmax/δy)を採用しているが、応答塑性率と構造物被害には、明確な相関があるため、主観的指標又は経験値に頼る従来の手法よりも、的確で、かつきめの細かい被害推定を行うことができる、という利点がある。
【0076】
地震発生から地震被害推定出力までの過程が簡易であることから、装置、システム等の構築費用、運用コストが低廉である、という利点も有している。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1実施形態である地震被害推定装置のハードウェアの全体構成を示すブロック図である。
【図2】 第1実施形態の地震被害推定装置の主制御部における処理手順を示すフローチャート図である。
【図3】 図2に示す処理手順における卓越周期の算出方法を説明する概念図である。
【図4】 図1に示す地震被害推定装置の主記憶装置に記憶されている構造物被害推定ノモグラムを示す図である。
【図5】 図4に示す構造物被害推定ノモグラムの構造物被害程度関数曲線を作成するためのグループ分けされたモデルデータ点の集合を示す図であり、釧路沖地震の波形をモデル地震動波形とし、応答塑性率が1未満の場合の図である。
【図6】 図4に示す構造物被害推定ノモグラムの構造物被害程度関数曲線を作成するためのグループ分けされたモデルデータ点の集合を示す図であり、釧路沖地震の波形をモデル地震動波形とし、応答塑性率が1以上2未満の場合の図である。
【図7】 図4に示す構造物被害推定ノモグラムの構造物被害程度関数曲線を作成するためのグループ分けされたモデルデータ点の集合を示す図であり、釧路沖地震の波形をモデル地震動波形とし、応答塑性率が2以上4未満の場合の図である。
【図8】 図4に示す構造物被害推定ノモグラムの構造物被害程度関数曲線を作成するためのグループ分けされたモデルデータ点の集合を示す図であり、釧路沖地震の波形をモデル地震動波形とし、応答塑性率が4以上の場合の図である。
【図9】 図4に示す構造物被害推定ノモグラムの構造物被害程度関数曲線を作成するためのグループ分けされたモデルデータ点の集合を示す図であり、三陸はるか沖地震の波形をモデル地震動波形とし、応答塑性率が1未満の場合の図である。
【図10】 図4に示す構造物被害推定ノモグラムの構造物被害程度関数曲線を作成するためのグループ分けされたモデルデータ点の集合を示す図であり、三陸はるか沖地震の波形をモデル地震動波形とし、応答塑性率が1以上2未満の場合の図である。
【図11】 図4に示す構造物被害推定ノモグラムの構造物被害程度関数曲線を作成するためのグループ分けされたモデルデータ点の集合を示す図であり、三陸はるか沖地震の波形をモデル地震動波形とし、応答塑性率が2以上4未満の場合の図である。
【図12】 図4に示す構造物被害推定ノモグラムの構造物被害程度関数曲線を作成するためのグループ分けされたモデルデータ点の集合を示す図であり、三陸はるか沖地震の波形をモデル地震動波形とし、応答塑性率が4以上の場合の図である。
【図13】 図4に示す構造物被害推定ノモグラムの構造物被害程度関数曲線を作成するためのグループ分けされたモデルデータ点の集合を示す図であり、兵庫県南部地震の波形をモデル地震動波形とし、応答塑性率が1未満の場合の図である。
【図14】 図4に示す構造物被害推定ノモグラムの構造物被害程度関数曲線を作成するためのグループ分けされたモデルデータ点の集合を示す図であり、兵庫県南部地震の波形をモデル地震動波形とし、応答塑性率が1以上2未満の場合の図である。
【図15】 図4に示す構造物被害推定ノモグラムの構造物被害程度関数曲線を作成するためのグループ分けされたモデルデータ点の集合を示す図であり、兵庫県南部地震の波形をモデル地震動波形とし、応答塑性率が2以上4未満の場合の図である。
【図16】 図4に示す構造物被害推定ノモグラムの構造物被害程度関数曲線を作成するためのグループ分けされたモデルデータ点の集合を示す図であり、兵庫県南部地震の波形をモデル地震動波形とし、応答塑性率が4以上の場合の図である。
【図17】 図4に示す構造物被害推定ノモグラムの構造物被害程度関数曲線を作成するためのグループ分けされたモデルデータ点の集合を示す図であり、鳥取県西部地震の波形をモデル地震動波形とし、応答塑性率が1未満の場合の図である。
【図18】 図4に示す構造物被害推定ノモグラムの構造物被害程度関数曲線を作成するためのグループ分けされたモデルデータ点の集合を示す図であり、鳥取県西部地震の波形をモデル地震動波形とし、応答塑性率が1以上2未満の場合の図である。
【図19】 図4に示す構造物被害推定ノモグラムの構造物被害程度関数曲線を作成するためのグループ分けされたモデルデータ点の集合を示す図であり、鳥取県西部地震の波形をモデル地震動波形とし、応答塑性率が2以上4未満の場合の図である。
【図20】 図4に示す構造物被害推定ノモグラムの構造物被害程度関数曲線を作成するためのグループ分けされたモデルデータ点の集合を示す図であり、鳥取県西部地震の波形をモデル地震動波形とし、応答塑性率が4以上の場合の図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19