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明細書 :地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位の予測装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4219100号 (P4219100)
公開番号 特開2002-339373 (P2002-339373A)
登録日 平成20年11月21日(2008.11.21)
発行日 平成21年2月4日(2009.2.4)
公開日 平成14年11月27日(2002.11.27)
発明の名称または考案の名称 地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位の予測装置
国際特許分類 G01V   3/00        (2006.01)
E02D  17/20        (2006.01)
FI G01V 3/00
E02D 17/20 106
請求項の数または発明の数 1
全頁数 10
出願番号 特願2001-149652 (P2001-149652)
出願日 平成13年5月18日(2001.5.18)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成13年2月20日 財団法人研友社発行の「鉄道総研報告 第15巻 第2号」に発表
審判番号 不服 2006-025091(P2006-025091/J1)
審査請求日 平成16年7月28日(2004.7.28)
審判請求日 平成18年11月6日(2006.11.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】坂井 宏行
個別代理人の代理人 【識別番号】100085394、【弁理士】、【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
参考文献・文献 特開平8-128957(JP,A)
特開2000-55863(JP,A)
特開平5-323043(JP,A)
特開平10-232286(JP,A)
特開2001-91665(JP,A)
特開昭64-54312(JP,A)
特開平8-285954JP,A)
坂井宏行,地下水組成の観測による地すべり土塊の滑動予知,日本鉄道施設協会誌,2000年12月 1日,2000 第12号,P.954~956
坂井宏行,地下水中のイオン濃度変化と地すべりの発生との関係について(九州地方),地盤工学研究発表会発表講演集,1997年 5月26日,32nd,2-2,P.1839~1840
坂井宏行,地下水組成と地すべりの動きとの関係について 九州地方 続報,地盤工学研究発表会発表講演集,1996年 5月25日,31st,2-2,P.2047~2048
坂井宏行,水と格闘する鉄道 地盤の状態を地下水組成から読み取る,RRR,1996年 8月 1日,第53巻第8号,P.24~28
坂井宏行,地下水組成の変化と地すべりによる地盤変化との関係,地盤工学研究発表会発表講演集,2001年 5月 8日,36th 2-2,P.2475~2476
坂井宏行,地すべり地域の地下水中で行われるイオン交換反応,地盤工学研究発表会発表講演集,2001年 5月 8日,36th,2-2,P.2477~2478
坂井宏行,地下水組成の変化から予測した斜面崩壊とその発生,日本鉄道施設協会誌,1998年 7月 1日,第36巻第7号,P.526~528
坂井宏行,地下水組成と地すべりの動きとの関係について 中部地方 続報,地盤工学研究発表会発表講演集,1996年 5月25日,31st,2-2,P.2043~2044
坂井宏行,地下水組成と斜面崩壊の発生との関係について(九州地方9,地盤工学研究発表会発表講演集,1996年 5月25日,31st,2-2
坂井宏行,地下水組成と斜面崩壊の発生との関係について(西日本地方),地盤工学研究発表会発表講演集,1996年 5月25日,31st,2-2,P.2049~2050
坂井宏行,地すべり地域における地下水の化学組成とその流量への非依存性(九州地方),地盤工学研究発表会発表講演集,2000年 5月31日,35th,2-2,P.2463~2464
調査した分野 E02D17/20
G01V1/00~13/00
特許請求の範囲 【請求項1】
地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位が発生するとされる地区の地下水中に存在する特定イオンの濃度を測定する測定手段と、該測定したイオン濃度を経時的に登録する登録手段と、該登録されたイオン濃度に急上昇する変化があった場合、地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位が発生する可能性があると予測する予測手段と、該予測した結果を報知する報知手段とを備えた予測装置において、前記特定イオンはナトリウムイオンであり、前記濃度の測定手段は、予め選択された測定現場に設置されて地下水中のナトリウムイオンの濃度を経時的に測定するように設定された濃度センサーであり、該濃度センサーによるナトリウムイオンの濃度の測定は広範囲にわたる多数個所での測定であり、かつ測定は1000日以上の長期間に亘るものとし、前記測定されたナトリウムイオン濃度は現地端末を介して本部端末に入力され、該本部端末で前記地盤変位が発生する可能性があることを予測し、該予測結果を知らしめておく必要がある部所の端末に出力するようにして地盤変位予測の総合管理をするように構成したことを特徴とする地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位の予測装置
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、斜面地盤において発生することがある地すべり、表層崩壊、がけ崩れなどの斜面崩壊によって引き起こされる地盤変位の予測装置の技術分野に属するものである。
【0002】
【従来技術】
一般に、自然災害の一つとして土砂災害があり、このような土砂災害として、傾斜地に発生する地すべり、表層崩壊、がけ崩れ、土石流などによる災害がある。そして、このような傾斜地での土砂災害は、斜面地盤の崩壊によって地盤の変位、つまり地盤の変状や移動が引き起こされることになり、このような地盤変位を測定する手法については、例えば特開平5-118851号公報、特開平10-82667号公報に示すようなものが知られている。まず前者のものは、高精度の電子測距・測角儀を用い、地盤変位のある地区からはずれた任意の位置を基準点として地盤変位がある区域に配した指標までの距離、角度の変化を測定して地盤変位を測定するようにしたものである。一方、後者のものは、地盤変位がある任意の位置に測定用の孔を掘り、ここに歪ケーブルを挿入し、地盤変位によって生じた歪量を計測することで地盤変位の測定をするようにしたものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが前記従来のものは、高価な測定機器が必要であるうえ、実際に斜面崩壊が発生している最中または発生した後の地盤変位を測定するものであって、該地盤変位の発生を予測するものではない。そうしてこのような地盤変位による土砂災害は、小規模であれば発生後においても、被害発生がないか、あっても殆ど影響がない範囲で対処ができるが、規模が大きいものについては、何らかの被害を生じた後での対処となる場合が多く、土砂災害を未然に防ぐことはできないのが一般である。
そうして、土砂災害の発生を未然に防ぐためには、地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位の発生を予測(予知、予兆検知、前兆検知)することが要求されるが、従来の地盤変位の測定機器では、該地盤変位の発生予測は事実上できないという問題があり、ここに本発明の解決すべき課題がある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位が発生するとされる地区の地下水中に存在する特定イオンの濃度を測定する測定手段と、該測定したイオン濃度を経時的に登録する登録手段と、該登録されたイオン濃度に急上昇する変化があった場合、地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位が発生する可能性があると予測する予測手段と、該予測した結果を報知する報知手段とを備えた予測装置において、前記特定イオンはナトリウムイオンであり、前記濃度の測定手段は、予め選択された測定現場に設置されて地下水中のナトリウムイオンの濃度を経時的に測定するように設定された濃度センサーであり、該濃度センサーによるナトリウムイオンの濃度の測定は広範囲にわたる多数個所での測定であり、かつ測定は1000日以上の長期間に亘るものとし、前記測定されたナトリウムイオン濃度は現地端末を介して本部端末に入力され、該本部端末で前記地盤変位が発生する可能性があることを予測し、該予測結果を知らしめておく必要がある部所の端末に出力するようにして地盤変位予測の総合管理をするように構成したことを特徴とする地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位の予測装置である。
【0005】
【発明の実施の形態】
地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊は、傾斜面の不安定化が増大することで発生すると考えられ、この要因の一つとして地下水の存在があげられる。強い極性を示す水分子は、地下水となって流れる際に、土粒子表面のイオン交換基(たとえば、シラノール基で、ケイ素原子に結合している水酸基)との間でイオン交換を行うことは一般に知られており、ここで交換されて地下水組成となって地下水と共に流れるイオンの量(濃度)は、地下水と接触するイオン交換基の数が多いほど大きく、さらにこのイオン交換基の数は、土粒子の表面積が大きいほど多くなる。
一方、地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊に至るプロセス(斜面崩壊発生前の地盤内部における土粒子の微視的変位から、斜面崩壊発生時の土塊移動による地盤破壊に至るまで)で発生する地盤の土質力学的な変化は、土粒子表面積の増減に関与し、さらにイオン交換の反応場の大きさも同様に関与することと考えられ、これらのことから、地盤の土質力学的な変化は、地下水の組成に変化をもたらすものと推論される。
このような推論をもとに、地下水組成の変化から、地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位を検知することを試みた。即ち、地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊が実際にある地区において、地下水組成の変化の観測と斜面崩壊による地盤変位の機器を用いた計測とを同時並行的に行った。その結果、それら二者の間には一連の関係があること、つまり、斜面崩壊による地盤変位が発生する場合、その予兆現象として、地下水中に含まれる特定の無機イオンの濃度が急激に上昇する変化があることが認められ、この変化現象が地盤変位の発生を予測する一つの指標となり得ることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
そして本発明を実施する、つまり、地下水中の特定イオンの濃度が急上昇する現象を観測することで、地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位の発生を予測できることは、後述する三つの測定事例からも明らかであるが、該三つの測定事例地区は、地すべり土塊の主体が第三紀層であって、その滑動形態が断続的、かつ、反復的に観察される地すべり発生地区である。そしてこの事例以外の多数の地区においても、同じ現象を確認しており、これによって、本発明を実施すれば、高い確度で斜面崩壊による地盤変位の発生の予測ができるといえる。
【0006】
本発明において、斜面崩壊がある地区の地下水中の特定の無機イオンの濃度を測定して斜面崩壊による地盤変位の発生を予測するためには、該特定な無機イオンの濃度を定期的、かつ、継続的に測定することが好ましい。測定する時間的間隔としては、毎日、1日置き等の日単位、あるいは1週間毎、2週間毎等の週単位、さらには月単位等、適宜の時間的単位を採用することができるが、予測精度を高めるためには、時間的間隔が短いほど好ましいことはいうまでもない。
また、濃度測定される地下水は、地盤変位がある面か、この面に可及的近い場所の地下水であるほど好ましく、例えば地質調査の結果からすでに地盤変位の面が想定されている場合には、ボーリング等を行って可及的に変位面付近に存在する地下水を用いて濃度測定することが好ましい。
しかしながら、このような地盤変位があるところは、地盤の不安定要因があるなどして施工上の制約が多い場合があり、そこで、周辺の地下水流系を考慮したうえで、斜面崩壊がある地区に設置された集水井や排水工などの既存設備で得られる地下水(排水)、あるいは既設の傾斜計孔内に貯留されている地下水を濃度測定用の試料とするようにしてもよい。
【0007】
そうして、斜面崩壊による地盤変位が発生する場合の予兆現象として、地下水中に含まれる特定の無機イオンの濃度が急激に上昇する変化があるということは、地下水組成の変化というものが、斜面崩壊による地盤変位が発生するに至るまでのプロセスと深い関連があることになる。そして、この地盤変位が発生するに至るまでのあいだに地盤中の地下水-土粒子系で起こっている現象については次のように考察できる。
すなわち、地盤変位がある前駆的段階で、土粒子レベルで微視的な変位(局所的な地盤の破壊、土粒子レベルでの微小な破壊)が発生し、これによって、地下水が土粒子と接触する面積(反応場の有効面積)が増大する。こうなると、地下水-土粒子系で定常的に行われているイオン交換反応というものは反応場が大きくなる、つまり、土粒子表面積を拡大させる土粒子変位が発生することになり、地下水と土粒子との反応場が急速に拡張されてイオン交換反応にあずかるイオン種の量が増大し、これが斜面崩壊による地盤変位が発生する前に特定のイオン濃度が上昇するという化学的に捉えられる現象となり、このときには、その直前の準安定な状態であった時点よりも地盤の耐力がさらに低下し、その後、地盤変位が発生すると考えることができる。
このように、本発明においては、地下水中の特定の無機イオンの濃度が急激に上昇する変化が観測されたときには、地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位が発生する前兆として予知できる点で、土砂災害の予知の重要な指標とすることができ、防災に多いに寄与することになる。
【0008】
以下に、測定事例について説明する。
<測定事例1>
図1は実際に地すべりが観測されているある地区の平面図を、また図2はその地質断面図を示すが、この地区の表層地盤は風化を強く受けた泥岩で、段差、開口幅とも小さいが、数本の亀裂が地表面から観察されている。この地区では、10年~20年に1度の頻度で小規模の地すべりがくり返し発生している。そして、この地区での地すべりに対し、降水量や地下水位の変化の計測をし、得られたデータが当該地区の地すべり発生と何らかの関連があるか否かの検討をしたところ、関連があるとは言えず、このことから地すべり発生は、降水量や地下水位の変化からは推し量ることができない複雑な挙動をとっていることが推論される。
【0009】
この地すべり地区に、図1に示すように●印で示すaおよびbの2箇所の位置に傾斜計孔を掘削し、これら傾斜計孔a、bに傾斜計をそれぞれ設置した。山裾側の傾斜計孔aは深さ12.5m(メートル)、山頂側の傾斜計孔bは深さ18.5mである。そしてこれらの孔内傾斜計による計測からすべり面の存在があることを確認している。
【0010】
そこで、前記傾斜計孔のうち一方の傾斜計孔a内に貯留されている地下水を分析用試料として採取した(採取位置A)。採取は、ここに貯留されている地下水100mL(ミリリットル)を2週間毎にポリエチレンびんに採取し、分析をおこなった。分析は、イオンクロマトグラフィー/電気伝導率検出法を用い、前記採取した地下水中のナトリウムイオン(Na)、硫酸イオン(SO2-)および塩化物イオン(Cl)の濃度を定量した。これら定量値と、前記孔内傾斜計に表れた地盤変位との関係を図3に示す。孔内傾斜計の変位に表現されているように、地盤の変位は、観測開始から102日後(ただし、斜面表面に表れた亀裂の発見日であり、誤差は最大で17日)、342日~377日、404日~415日、593日~622日、925日~952日、1231日~1268日の間に発生していることが確認される。一方、地下水中に含まれるナトリウムイオン濃度のピークは、観測開始から85日、272日、300日、553日、837日および1044日後に表れており、これらを対比したときに、地盤の変位が観測された102日後、342日~377日間、593日~622日間、925日~952日間、925日~952日間の前である85日後、300日後、553日後、837日後にその濃度が急激に上昇する傾向があることがそれぞれ認められる。この急激な上昇傾向は、硫酸イオン濃度よりも明らかに顕著であることが確認され、このことから、このようにナトリウムイオン濃度に急激な上昇が観測された場合、その後に地盤の変位があるものと予測することができる。
【0011】
<測定事例2>
次に、測定事例1とは別の地区の平面図を図4に示すが、この平面図だけからでは地すべり状況は読みとることができない。しかしながらこの地区は、軟弱な地盤であって、近年では大規模な地すべり災害は発生していないものの、スギが水源かん養のために植林された斜面一帯の随所に小さな崩壊を観察でき、およそ5年毎に地すべりによる災害が発生している中規模の地すべり地区の一部であることが知られている。斜面の下側には河岸段丘があることが認められ、別途行った調査により、その直下は段丘レキ層、さらに下側には基盤となる泥岩層の存在が確認されている。
この地すべり地区は、地表水が少なくなく、地下水が豊富に供給される地区であるが、別途行った地すべり計による計測結果から、当該地すべりの動きは、主に尾根全体が河岸段丘側へ移動するとともに、尾根部分がその両側の谷に向かって広がる動きであることを確認している。
【0012】
また、山側斜面の地表に、幅100mm(ミリメートル)を超える2本の亀裂(図4に示す記号aおよびbで示す線)の存在が発見されたが、この亀裂a、bはその後成長していることが観察された。そこで図4の■印で示す位置の亀裂a、b間に板を渡し、該板の中央部を鉛直方向に切断してぬき板を架設した。そしてこのぬき板のくい違いは亀裂a、bの成長によるもので、そのくい違い幅は亀裂幅の変位量に相当し、これを計測することで地すべりによる地盤の変位を観測した。
【0013】
一方、この地区では、地すべりが発生している尾根の地下水を排水するため、この尾根の両側から尾根の稜線に向かって排水工が設備されており、そこで図4の●印で示す位置の排水工から地下水を採取し、該地下水中のナトリウムイオン、硫酸イオンおよび塩化物イオンの濃度を測定した。そしてこれらのイオン濃度の変化と前述した亀裂幅の変位量との関係を図5に示す。亀裂幅の変位量から地盤の変位をみると、観測開始から311日~370日、406日~438日、560日~591日、808日~924日の間に変位が生じたことが確認される。
一方、地下水中のナトリウムイオン濃度は、観測開始から365日、740日および1110日後にピークとなっていることが確認された。そしてこれを前記亀裂幅の変位が顕著であった間と対比してみると、この場合についても、地盤の変位が観測された406日~438日間、808日~924日間の前の365日、740日にナトリウムイオン濃度が急上昇していることが認められる。この傾向は、硫酸イオンについてナトリウムイオンほど顕著ではな、これらの結果から、このように、ナトリウムイオン濃度に急激な上昇が観測された場合、その後に地盤の変位があるものと予測することができる。
【0014】
参考測定事例3>
また、図6にさらに別の地区の平面図を示すが、この地区は、断続的に、しかも緩慢に土塊が山側(地図の上側)から山裾側(地図の下側)へ移動する地すべりが発生している。この地区において後述する地下水の採取位置b付近をボーリング調査して得た鉛直方向の地質断面図を図7に示す。この図7から、当該地区は、地下水位線が高く地下水が豊富に供給されていると共に、風化した泥岩が優勢な砂岩・泥岩互層によって構成されていることが確認される。
一方、現地における地表の観察をしたところ、この付近は小規模の地すべり地形の舌端部に位置していると推定される。この地すべり地区内やその近傍にはスギの小群落が存在し、しかも、この地すべり地区内の地下水排水のため設備された集水井中の水位について、図6の●印で示す位置bで確認したところ高いことが認められ、これらのことからも、当該地区には地下水が豊富に供給されていることが確認される。
この地区では、地すべりの滑動による土塊移動を抑制するためコンクリート土留めの擁壁が設備されているが、この擁壁は、施工直後から地すべりによって変位しており、そこで、この擁壁の天端2箇所の位置a、bに傾斜計を設置し、擁壁の変位を測定することで地すべりの動きを計測した。
さらに、この地すべり地区には種々の排水設備が設置されているが、このうち、前記傾斜計設置位置bに近い土留め擁壁に設けられた排水工(図6に●印で示す位置)から地下水を採取し、硫酸イオン濃度を測定した。なお、観測開始から400日を挟んだあたりでは、長期間にわたり無降水を記録したため、排水が枯渇して地下水の採取が一時不能となった。
【0015】
そして図8に、前述した土留め擁壁の変位と硫酸イオン濃度の変化率との関係を示す。ここで、硫酸イオン濃度の変化率は、その濃度が14日間ごとに変化する割合として定義され、この値がlである場合は14日後の地下水中の硫酸イオン濃度は同じであり、1を超えると増大し、1に満たないと減少することを示している。つまり、この変化率は硫酸イオン濃度の増減とその速さとを示す指標になる。
図8をみると、観測開始から201日~245日の間と434日~476日の間とに小さな変位が生じ、603日~650日の間と971日~1010日の間とに大きな変位が発生していることが確認される。一方、硫酸イオン濃度の変化率は、観測開始から180日、250日、440日、560日、890日および990日後に1.5を超える大きな変化をしていることが確認される。
特に、560日、890日および990日後では、硫酸イオン濃度の変化率が1.75を超える顕著な濃度上昇が確認され、これと相応するように、603日~650日の間と971日~1010日の間とに大きな土留め擁壁の変位が観測され、このことは、地すべりが発生する前兆として硫酸イオンの濃度が急上昇する現象が観測されたこととなって、このようなイオン濃度の顕著な上昇があったとき、これを地すべり発生の前兆であると予測することができる。
【0016】
このように、地下水中の特定イオンの濃度を継続的に測定し、該測定したイオン濃度が急激に上昇する変化が認められた場合、高い確率で地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位の前兆であると予測することができ、そこで、地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位の予測装置として図9に示すようなものが実施される。
図9(A)において、1はナトリウムイオン等の選択された特定イオンの濃度を測定する濃度センサーであって、該濃度センサー1は、前述した事例のように傾斜計孔2等、予め選択された適宜場所での測定現場に設置されて地下水中の特定イオンの濃度を経時的に測定するように設定される。一方、3は登録(記憶)手段4を備えた制御部であって、該制御部3は、前記濃度センサー1からの測定結果を入力し、これを経時的に登録するようになっている。そして制御部3は、前記登録した測定結果について急上昇する変化があった場合、地すべりや表層崩壊が発生する可能性があると予測し、該予測した結果を報知することになるが、この報知については、ディスプレー表示、音声やブザーによる放音報知、ランプ点灯等、適宜の報知手段5とすることができる。勿論、複数の報知を組み合わせても良い。
【0017】
また、イオン濃度が急上昇しているか否かの判断は、前記事例で示したように、特定イオン濃度の急上昇や変化率の大きさに基づくものとなるが、その判断基準は、測定地区や測定条件等に基づいて異なるもので、一律のものではないと考えられる。そこでこの判断基準を確定して予測の確度を高めるには、斜面崩壊の予測をしようとする地区において、実際に地盤変位の測定と特定イオン濃度の測定とを経時的に行い、これら測定結果を比較対応させて実際に地盤変位が観測されたときのイオン濃度の変化状態を確認し、これに基づいて各現場ごとの斜面崩壊による地盤変位の予測判断をするための基準データを確定すればよく、このようにすることで、各現場に対応した地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位の予測ができると共に、これら予測の確度も高くなる。
勿論、このような地盤変位の機器を用いた測定ができない地区もあり、このような地区については、斜面崩壊による地盤変位の予測の判断基準を、多くのデータを平均化したものに設定することもできる。
【0018】
一方、このように地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位が予測された場合、必要な対策を立てることが要求されるが、鉄道や道路のような場合、広範囲にわたる多数個所での測定が必要となり、これらを個々に管理しても良いが、総合的に管理をすることも要求される。そこでこのような場合には、図9(B)に示すように、測定したイオン濃度を現地端末6を介して本部端末7に入力し、この本部端末7で前述した地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位の予測をし、その結果を、支部端末8等、予測の結果を知らしめておく必要がある部所(部局、地区)の端末に出力するようにすることで、地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位予測の総合管理ができることになる。この場合に、現地端末6と支部端末8とは同じであってもよく、また、支部端末8から任意に枝分かれした端末9を現地端末6としてもよい。さらにまた、これら端末6、8、9でも斜面崩壊による地盤変位の予測ができるように設定しておくことで、本部端末7と協働しての予測対策が効果的に果すことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 測定事例1の地区の平面図である。
【図2】 測定事例1の地区の地質断面図である。
【図3】 測定事例1の地区の地盤変位と地下水組成の変化との関係を示したグラフ図である。
【図4】 測定事例2の地区の平面図である。
【図5】 測定事例2の地区の地盤変位と地下水組成の変化との関係を示したグラフ図である。
【図6】 参考測定事例3の地区の平面図である。
【図7】 参考測定事例3の地区の地質断面図である。
【図8】 参考測定事例3の地区の地盤変位と地下水組成の変化との関係を示したグラフ図である。
【図9】 (A)は地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位の予測装置のブロック回路図、(B)は地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位の予測装置を端末化した状態を示すブロック回路図である。
【符号の説明】
1 濃度センサー
3 制御部
4 登録手段
5 報知手段
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8