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明細書 :鉄道車両用輪重制御装置及び方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4119103号 (P4119103)
公開番号 特開2003-025992 (P2003-025992A)
登録日 平成20年5月2日(2008.5.2)
発行日 平成20年7月16日(2008.7.16)
公開日 平成15年1月29日(2003.1.29)
発明の名称または考案の名称 鉄道車両用輪重制御装置及び方法
国際特許分類 B61F   3/00        (2006.01)
B61F   9/00        (2006.01)
B61H   7/00        (2006.01)
FI B61F 3/00 G
B61F 9/00
B61H 7/00 D
請求項の数または発明の数 4
全頁数 16
出願番号 特願2001-211552 (P2001-211552)
出願日 平成13年7月12日(2001.7.12)
審査請求日 平成16年7月20日(2004.7.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】前橋 栄一
【氏名】小笠 正道
【氏名】石田 弘明
個別代理人の代理人 【識別番号】100100413、【弁理士】、【氏名又は名称】渡部 温
審査官 【審査官】西中村 健一
参考文献・文献 特開昭55-036145(JP,A)
特開昭59-199360(JP,A)
特開昭57-066064(JP,A)
特開平11-105710(JP,A)
実開平02-080063(JP,U)
特開昭62-110560(JP,A)
実開昭62-026102(JP,U)
調査した分野 B61F 3/00
B61F 9/00
B61C 15/00-14
B61H 7/00
特許請求の範囲 【請求項1】
鉄道レール上を転動する左右一対の車輪と、
該左右一対の車輪を繋ぐ車軸と、
該車軸の軸受けを含む軸箱と、
該軸箱上に支持された台車枠と、
前記車輪の制動機構(ブレーキ)と、
を含む、鉄道車両用の輪重制御装置であって、
前記レールとの間で吸引力を生じて、前記軸箱に下方向の力を加える電磁石と、
該電磁石が前記レールに接することのないように設定される、前記電磁石と前記レールとの間の最小隙間を確保する隙間保持機構と、
を具備するとともに、
前記軸箱と前記台車枠間の軸ばねを介さずに、前記電磁石を前記台車枠に対して弾性支持する弾性部材を有し、
前記隙間保持機構として、前記電磁石に接続された部材が前記軸箱に当接して、当接した後における前記弾性部材の変形を抑止する抑止機構が設けられていることを特徴とする鉄道車両用輪重制御装置。
【請求項2】
車両の所定値を超える加速時あるいは減速時に、前記電磁石を作動させることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両用輪重制御装置。
【請求項3】
前記車輪の浮き上がり検出機構をさらに有し、該検出機構の検出信号に応じて前記電磁石を作動させることを特徴とする請求項1又は2記載の鉄道車両用輪重制御装置。
【請求項4】
車両の曲線軌道低速走行時に、該曲線軌道の外側の車輪に対応する電磁石のみを作動させることを特徴とする請求項1~いずれか1項記載の鉄道車両用輪重制御装置。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、台車とレール間に吸引力を生じさせる装置を有する鉄道車両用輪重制御装置に関する。さらに、この鉄道車両用輪重制御装置を用いた輪重制御方法に関する。特には、レール頭頂面の損傷を来たすことなく、車輪粘着係数の増加や脱線係数の低減を実現できる等の利点を有する鉄道車両用輪重制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
現状の鉄道車両の主なブレーキとしては、踏面ブレーキやディスクブレーキ、電気ブレーキ等の粘着ブレーキ装置が広く用いられている。この種の粘着ブレーキ装置は、車輪とレール間に働く摩擦力(車輪踏面の粘着力)を制動力として利用する装置である。一方、車輪踏面の粘着力よりも大きい制動力を必要とする場合がよくある路面電車等の特殊な車両においては、粘着ブレーキ装置に加えて、車輪を介さずに直接レールとの間で摩擦力を生じさせるレールブレーキを有するものがある。このようなレールブレーキの代表的なものが電磁吸着型ブレーキ装置である。
【0003】
図6は、従来の電磁吸着型ブレーキ装置を備えたボギー台車の一例を示す側面図である。
なお、本明細書中では、通常の鉄道車両の技術におけるのと同様に、レールの長手方向(車両の進行方向)を前後方向、軌道面におけるレール長手方向と直角の方向を左右方向、軌道面に垂直な方向を上下方向と呼ぶ。
【0004】
この図に示すボギー台車(以下、単に台車という)101は、台車枠103を備えている。台車枠103の上部には、空気バネ等からなる車体支持装置(図示されず)を介して車体(図示されず)が載置される。台車枠103の下部には、車輪105と車軸106からなる輪軸107が組み込まれている。車輪105は、車軸106の左右両側に圧入されて固定されている。両車輪105の外側において、車軸106の両端部には軸箱108が外嵌されている。台車枠103は、軸箱108上において軸ばね109を介して載置されている。
【0005】
台車枠103の前後方向中央部の下面には、支持部材112を介して電磁石110が取り付けられている。この電磁石110が励磁されると、電磁石110とレール100との間に吸引力が生じ、電磁石110が下方向に引き寄せられ、電磁石110はレール100に接する。なお、このとき軸ばね109は電磁石110の吸引力に対応する分だけ縮む。そして、この際の電磁石110下面とレール100頭頂面間に働く摩擦力が、車両の制動力となる。
【0006】
ところが、このような電磁吸着型ブレーキ装置を制動用に用いると、電磁石110はレール100頭頂面に接した状態で、車両が停止するまで引き摺られることとなる。このとき、電磁石110下面とレール100頭頂面が滑るため、レール100頭頂面が激しく摩耗・損傷するという問題がある。なお、このブレーキ装置をパーキングブレーキとして用いる分には、上記のような問題はない。
【0007】
さらに、図6のブレーキ装置は、電磁石110が台車枠103にばねを介さず直接装架され、これら電磁石110及び台車枠103が軸ばね109で支持される構成である。このため、電磁石110とレール100との間に前後方向の制動力を発生させると、台車枠103がばね支持されているので、車両振動(ピッチング)が発生するという問題も予想される。
【0008】
図6のような電磁吸着型ブレーキ装置の他に、渦電流型レールブレーキ装置も知られている。この装置は、レール内を磁束が横切るように電磁石を配置し、この電磁石が車両とともに進む際に、レール内で誘起される渦電流を利用して、車両に制動力を加えるものである。
ところが、この渦電流型ブレーキ装置は、作動時の熱がレールの温度上昇を引き起こすおそれがあるという点が懸念される。
【0009】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであって、レール頭頂面の損傷を来たすことなく、車輪粘着係数の増加や脱線係数の低減を実現することができる鉄道車両用輪重制御装置を提供することを目的とする。
さらに、このような鉄道車両用輪重制御装置を用いた輪重制御方法を提供することも目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明のベースとなる鉄道車両用輪重制御装置は、鉄道レール上を転動する左右一対の車輪と、該左右一対の車輪を繋ぐ車軸と、該車軸の軸受けを含む軸箱と、該軸箱上に支持された台車枠と、前記車輪の制動機構(ブレーキ)と、を含む、鉄道車両用の輪重制御装置であって、前記レールとの間で吸引力を生じて、前記軸箱に下方向の力を加える電磁石と、該電磁石が前記レールに接することのないように設定される、前記電磁石と前記レールとの間の最小隙間を確保する隙間保持機構と、を具備する。
【0011】
本発明によれば、隙間保持機構で電磁石とレール間の間隔が確保されるので、電磁石とレール頭頂面とが接触しない。このため、電磁石とレール頭頂面との間にすべり摩擦が起こらず、磨耗や損傷が生じない。したがって、レール交換等の保守作業を減らすことができる。それにもかかわらず、電磁石とレールとの間隔が適正に保たれて、電磁石の吸引力分だけ輪重が増えて見かけの粘着係数が大きくなるので、粘着領域が確保されてブレーキ距離を短縮できる。
【0012】
また、本発明の輪重制御装置は、それ自体が制動力を発揮するものではなく、単に輪重を増やすだけなので、力行時にもスリップ防止用に用いることができ、加速性能を上げることもできる。さらに、輪重が車両の自重分よりも増加することで、脱線係数Q/P(横圧(Q)÷輪重(P))を低減することもできる。また、磁力分の輪重の増加によって充分な見かけの粘着係数を得ることができるので、電力回生ブレーキ等との併用も可能である。
【0013】
本発明の鉄道車両用輪重制御装置においては、前記軸箱と前記台車枠間の軸ばねを介さずに、前記電磁石を前記台車枠に対して弾性支持する弾性部材を有し、前記隙間保持機構として、前記電磁石に接続された部材が前記軸箱に当接して、当接した後における前記弾性部材の変形を抑止する抑止機構が設けられている。
このため、通常時は吸着装置の荷重を弾性部材を介して台車枠で支え、吸着装置重量がいわゆる軸ばね下荷重とならないので、車両の走行性能が損なわれない。吸着装置作動時には、前記抑止機構が前記弾性部材の変形を阻止して、車輪踏面に電磁石が接するのを防ぐ。
【0014】
また、本発明の鉄道車両用輪重制御装置は、車両の所定値を超える加速時あるいは減速時に、前記電磁石を作動させるものとすることができる。
この場合、所定値を超える加速時あるいは減速時に生じる台車の軸重移動(不均一)を、電磁石の吸引力で緩和することができる。
【0015】
さらに、本発明の鉄道車両用輪重制御装置は、前記車輪の浮き上がり検出機構をさらに有し、該検出機構の検出信号に応じて前記電磁石を作動させるものとすることができる。
車両の加速時や減速時等に急激な車両の軸重前後移動が起こった場合や、曲線軌道で軸重左右移動が起こった場合に、前後左右の車輪のうち浮き上がりつつある車輪を加速時計やばね変位計等の検出機構で検出し、この浮き上がりを抑えるよう電磁石を作動させる。
【0016】
さらに、本発明の鉄道車両用輪重制御装置は、車両の曲線軌道低速走行時に、該曲線軌道の外側の車輪に対応する電磁石のみを作動させるものとすることができる。
車両が低速で曲線軌道を走行する場合は、遠心力が車両にあまり作用しないので、軌道のカントの影響で車両の重量が内側軌道に集中的にかかり、外側軌道の脱線係数Q/Pが大きくなり、脱線し易い状況が生じる。そこで、外側軌道側の車輪にのみ吸引力を生じさせて輪重Pを大きくすると、脱線係数Q/Pが小さくなり、脱線を防止できる。
【0017】
本発明の鉄道車両用輪重制御方法は、鉄道車両用輪重制御装置を具備する鉄道車両の制動方法であって、 制動時に電磁石を作動させてレールとの間で吸引力を生じさせることにより、軸箱に下方向の力を加えて輪重を増し、制動距離を短縮することを特徴とする。
本発明の鉄道車両用輪重制御方法は、鉄道車両用輪重制御装置を具備する鉄道車両の脱線・転覆防止方法であって、 制動時に電磁石を作動させてレールとの間で吸引力を生じさせることにより、軸箱に下方向の力を加えて輪重を増し、車両の脱線・転覆を阻止することを特徴とする。
【0018】
地震等の非常時には、電磁石を作動して吸引力を生じさせることで、電磁石がレール上をガイドする機能が付加される。さらに、電磁石の吸引力で輪重が増加するので、脱線係数Q/Pを小さくすることができる。
あるいは、車両が曲線区間で停車しているときには、車両が横風を受けて転覆するのを防止する効果も期待できる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
図1(A)は本発明の第1実施例に係る鉄道車両用輪重制御装置を示す側面図であり、図1(B)は同鉄道車両用輪重制御装置の電磁石付近の部分を前後方向から見た一部断面図である。
図1(A)に示す台車11は、台車枠13を備えている。台車枠13の上部には、空気バネ等の車体支持装置(図示されず)を介して車体(図示されず)が載置される。台車枠13の下部には、車輪15と車軸16からなる輪軸17が組み込まれている。車輪15は、車軸16の両側に圧入されて固定されている。両車輪15の外側において、車軸16の両端部には軸箱18が外嵌されている。車輪15の踏面付近には、ブレーキ装置のパッド14が配置されている。なお、踏面ブレーキではなく、ディスクブレーキ等の他の形式のブレーキ装置を用いることもできる。
【0020】
台車枠13と軸箱18上面間には、軸ばね19が取り付けられている。この軸ばね19の両側において、台車枠13下面からはペデスタル25が垂下している。このペデスタル25は、2つの対向する逆三角形のブロックからなり、両ブロックの間に前述の軸ばね19及び軸箱18が組み込まれている。軸箱18は、ペデスタル25の下部に摺動可能に係合している。ペデスタル25は、台車枠13が軸ばね19上で上下に弾性変位する際に、軸箱18を上下に案内する役割を果たす。前後の軸箱18間には、釣合梁22が架設されている。この釣合梁22の両側の端部22b、22cは、前後の軸箱18の下端面にそれぞれ固定されている。釣合梁22は、FRPやオーステナイトステンレス等の非磁性材からなる。
【0021】
釣合梁22の中央部には、支持部材24を介して電磁石21が配置されている。この支持部材24は、図1(B)に分かり易く示すように、断面が方形の筒状体である。この支持部材24の下面に、電磁石21が固定されている。支持部材24の上面には、台車枠13から垂下するばね23が取り付けられている。電磁石21及び支持部材24は、ばね23の弾性力で上方向に付勢されている。電磁石21の重量は、通常時(電磁石21の非通電時)はばね23を介して台車枠13に支えられる。
【0022】
非通電時に、電磁石21がばね23の付勢力を受けて引き上げられている状態(図1の状態)では、支持部材24の内孔上端面24aと釣合梁22上面との間には隙間t1が存在する。この隙間t1は、非通電時における、電磁石21の下端面21aとレール100の頭頂面100aとの間の間隔t2よりも小さい。これらの間隔の寸法は、例えばt1=90mmに対し、t2=100mm程度である。
【0023】
次に、上記の構成からなる台車11の作用について説明する。
まず、通常時(電磁石21の非通電時)においては、図1(B)に分かり易く示すように、電磁石21及び支持部材24がばね23の付勢力で上方向に引き寄せられており、支持部材24の内孔下端面24cと釣合梁22の下面が接触している。この通常時には、電磁石21は非通電状態で励磁されていないので、電磁石21とレール100間には吸引力が生じていない。
【0024】
車両の制動時等の吸着力発生を要する場合には、図示せぬ電源から電力が供給されて電磁石21が励磁される。すると、電磁石21とレール100との間に吸引力が生じ、電磁石21が下方向(レール100側)に引き寄せられる。このとき、電磁石21は、ばね23の弾性力に抗して下方向に変位し、支持部材24の内孔上端面24aが釣合梁22の上面に当たり、釣合梁22全体を下方向に押す。これに伴い、釣合梁22の両端部22b、22cが軸箱18を下に押し、この力が車輪15の輪重に付加される。このようにして輪重が増加することで、車輪15のレール100への見かけの粘着係数が大きくなり、粘着領域を確保してブレーキ距離を短縮できる。
【0025】
電磁石21とレール100との間に吸引力が生じた際の、電磁石21の釣合梁22に対する変位可能量(隙間t1、一例90mm)は、電磁石21の下端面21aとレール100の頭頂面100a間の寸法(間隔t2、一例100mm)よりも小さいので、電磁石21が作動した後にも電磁石21とレール100との間にはt2-t1(一例で10mm)の隙間が確保され、電磁石21とレール100は接触しない。したがって、レール100の頭頂面100aのすべり摩擦に伴う磨耗や損傷を回避できる。そのため、レール交換等の保守作業が軽減される。
【0026】
次に、本発明の第2実施例について説明する。
図2(A)は本発明の第2実施例に係る鉄道車両用輪重制御装置を示す側面図であり、図2(B)は前後の電磁石を同時に作動した状態を示す側面図であり、図2(C)は軸重移動した状態(電磁石を作動させなかった場合)を示す側面図であり、図2(D)は軸重移動時で後ろの電磁石を作動した状態を示す側面図である。
図2(A)に示す台車31は、台車枠33を備えている。台車枠33の下部には、第1実施例と同様に、輪軸37(車輪35及び車軸36)や軸箱38、軸ばね39、ブレーキ装置のパッド34が配置されている。
【0027】
この台車31は、各車輪35のそれぞれに対応して、それぞれ電磁石41を備えている。各電磁石41は、リンク44、アーム43及びばね45を介して、台車枠33下面に個別に支持されている。リンク44は、台車枠33の中央部と電磁石41上面を繋いでいる。アーム43は、各電磁石41上面から各軸箱38上面に向けて延びるほぼL字状の部材である。各アーム43は、電磁石41上面に固定された固定端と、軸箱38上面に臨む自由端43aとを有する。アーム43の自由端43aは、軸箱38上面に当接可能ではあるが固定されてはいない。通常時(電磁石41の非通電時)においては、図2(A)に示すように、アーム43の自由端43aと軸箱38上面間には隙間t1が存在する。各アーム43と台車枠33間には、ばね45が取り付けられている。アーム43及び電磁石41は、ばね45の弾性力で上方向に付勢されている。
【0028】
この台車31は、電磁石41の非通電時において、隙間t1(アーム43の自由端43aと軸箱38上面間)が例えば90mm程度確保され、隙間t2(電磁石41の下端面とレール100の頭頂面間)が例えば100mm程度確保されている。各軸箱38の上方において、台車枠33の下面には軸ばね変位センサ47が取り付けられている。軸ばね変位センサ47は、レーザ式変位計や歪みゲージ式変位計であって、軸ばね39の変位を計測して軸箱38の浮き上がり(つまり車輪35の浮き上がり)を検出する。4つの電磁石41は、それぞれの軸ばね変位センサ47の検出信号に応じて、個別に作動することが可能である。
【0029】
次に、上記の構成からなる台車31の作用について説明する。
まず、通常時(電磁石41の非通電時)においては、図2(A)に示すように、電磁石41の重量がアーム43及びばね45を介して台車枠33で支えられる。このため、通常走行時には、電磁石41の重量がいわゆるばね(軸ばね)下荷重にならないので、車両の走行性能が損なわれない。
【0030】
制動時等の吸着力発生を要する場合において、全ての電磁石41が同時に励磁されると、図2(B)に示すように、各電磁石41が下方向(レール100側)に引き寄せられる。すると、この電磁石41の吸引力でアーム43がばね45の付勢力に抗して引き下がり、アーム43の自由端43aが軸箱38上面に当接する。そして、電磁石41の吸引力がアーム43を介して軸箱38に伝達され、軸箱38が下方向に押し付けられる。これによって、車輪35の輪重が増加し、第1実施例と同様に車輪踏面の見かけの粘着係数が大きくなるので、粘着領域を確保してブレーキ距離を短縮できる。
【0031】
電磁石41とレール100との間に吸引力が生じた際の、電磁石41の変位可能量(隙間t1、一例90mm)は、電磁石41とレール100間の寸法(間隔t2、一例100mm)よりも小さいので、電磁石41が作動した後にも電磁石41とレール100との間にはt2-t1(一例で10mm)の隙間が確保され、電磁石41とレール100とは接触しない。そのため、第1実施例と同様に、レール100頭頂面の磨耗や損傷が生じない。
【0032】
なお、この第2実施例の台車31においては、検出センサ47を用いて電磁石41を個別に励磁すると、前後左右の4つの車輪35に個別に輪重を加えることができる。これを利用して、以下に述べるように、台車の軸重移動に伴う傾きを低減することができる。
【0033】
すなわち、車両の加速時や減速時等においては、図2(C)に示すような急激な軸重前後移動(図2(C)では図の左側;進行方向前方への移動)が起こる場合がある。このような軸重前後移動を低減するには、前後左右の車輪35のうち浮き上がりつつある車輪(図2(C)では右側の車輪)を、軸ばね変位センサ47で検出する。このとき、軸ばね変位センサ47は、軸箱上の軸ばねの変位量に基づき、浮き上がりつつある車輪を検出する。そして、この浮き上がりを検出した変位センサ47に対応する電磁石41のみを励磁して、吸引力を生じさせる。こうすると、図2(D)に示すように、浮き上がりつつある右側の軸箱38にのみアーム43の自由端43aが当接し、電磁石41の吸引力が伝わる。そのため、浮き上がりつつある車輪にのみ輪重が加えられるので、軸重移動の不均衡を抑えて車両のバランスを保つことができる。
【0034】
次に、本発明の第3実施例について説明する。
図3(A)は本発明の第3実施例に係る鉄道車両用輪重制御装置を示す側面図であり、図3(B)は同鉄道車両用輪重制御装置で電磁石を作動した状態を示す側面図である。
図3に示す台車51は、台車枠53を備えている。台車枠53の下部には、第1及び第2実施例と同様に、輪軸57(車輪55及び車軸56)や軸箱58、軸ばね59、ブレーキ装置のパッド54が配置されている。
【0035】
前後の軸箱58間には、電磁石61を吊るす吊り梁62が架設されている。この吊り梁62の両端部寄りには、当接部材65が設けられている。当接部材65は、吊り梁62から軸箱58上面に向けて下方向に突出している。吊り梁62と台車枠53間には、ばね63が取り付けられている。吊り梁62及び電磁石61は、ばね63の弾性力で上方向に付勢されている。
【0036】
この台車51は、電磁石61の非通電時において、隙間t1(当接部材65と軸箱58上面間)が例えば90mm程度確保され、隙間t2(電磁石61の下端面とレール100の頭頂面間)が例えば100mm程度確保されている。
【0037】
次に、上記の構成からなる台車51の作用について説明する。
まず、通常時(電磁石61の非通電時)においては、電磁石61が吊り梁62に吊られており、吊り梁62は2つのばね63の弾性力で上側に付勢されている。電磁石61の重量は、ばね63を介して台車枠53で支えられる。このため、第2実施例と同様に、通常走行時の電磁石61の支持が不安定にならず、車両の走行性能が損なわれない。
【0038】
制動時等の吸着力発生を要する場合において、電磁石61が励磁されると吸引力が生じ、電磁石61が下方向(レール100側)に引き寄せられる。すると、図3(B)に示すように、この電磁石61の吸引力で吊り梁62がばね63の付勢力に抗して下がり、吊り梁62の両端の当接部材65が軸箱58上面に当たる。そして、吊り梁62に加わる力が当接部材65を介して軸箱58に伝達され、軸箱58が下方向に押し付けられる。これによって、車輪55の輪重が増加し、第1及び第2実施例と同様に車輪踏面の見かけの粘着係数を大きくすることができるので、粘着領域を確保してブレーキ距離を短縮できる。
【0039】
電磁石61とレール100との間に吸引力が生じた際の、電磁石61の変位可能量(隙間t1、一例90mm)は、電磁石61とレール100間の寸法(間隔t2、一例100mm)よりも小さいので、電磁石61が作動した後にも電磁石61とレール100との間にはt2-t1(一例で10mm)の隙間が確保され、電磁石61とレール100とは接触しない。そのため、第1及び第2実施例と同様に、レール100頭頂面の磨耗や損傷が生じない。
【0040】
次に、上記の各実施例の台車を装備した鉄道車両の曲線走行時の作用について説明する。
図4(A)はカント(バンク)付き曲線軌道における鉄道車両の走行時にかかる力を説明するための正面図であり、図4(B)はその平面図である。
図4(A)に示すように、鉄道車両1の輪軸7(内車輪5I、外車輪5O及びこれらを繋ぐ車軸6)には、輪重Pと横圧Qが反作用として働く。そして、横圧Qが輪重Pに比べてある程度以上大きくなると、鉄道車両1の脱線が生じ易くなる。このような脱線の危険性を表す指標としては、横圧(Q)÷輪重(P)で与えられる脱線係数が用いられる。
【0041】
鉄道車両が曲線軌道を低速で走行する際には、図4(B)に分かり易く示すように、台車が直線状態に戻ろうとする復元力(レールの外側に働く力)が生じ、これが上述した横圧Qとなる。この復元力は一般には小さい力であるが、レールの曲線部の曲率が大きいと、これに比例して復元力も大きくなる。そのため、輪重Pが小さい場合は脱線係数Q/Pが大きくなり、脱線が生じる可能性が高くなる。また、図4(A)に示すように、鉄道車両1が低速でカント(バンク)付き曲線軌道を走行する場合は、遠心力があまり作用しないので、鉄道車両1の重心が内側軌道RIに移動し、外側軌道ROの脱線係数が大きくなる状況が生じる。
【0042】
このような場合、本来は鉄道車両1の車重でしか得ることができない輪重Pに、上述した電磁石(21、41、61)の吸引力で輪重を加えることで、脱線係数を小さくすることができる。つまり、外側軌道RO側の車輪5Oにのみ電磁石(21、41、61)で吸引力を生じさせ、外側軌道ROにおける輪重を大きくすると、軸重が増えて脱線係数が小さくなり、脱線・転覆の可能性を低減できる。
なお、曲線の程度は、台車に転向ヨー角センサを設け、このセンサの信号から判定することができる。あるいは、車両に予めレール曲線部の情報を搭載しておくこともできる。これら曲線の曲率半径・カント角・車両速度から適切な電磁石の作動を選択できる。
【0043】
次に、本発明の鉄道車両用輪重制御装置の電磁石の設計諸元及び計算上の効果の一例を説明する。
図5(A)は本発明に係る鉄道車両用輪重制御装置の電磁石とその電気系統をモデル化した図であり、図5(B)は電磁石とレールを含む磁気回路の図であり、図5(C)はレールの断面図である。
【0044】
図5(A)に示すように、この例ではコ字状の電磁石400を用いた。この電磁石400は2つの円形の端面を有し、各端面の直径dは6cm(半径3cm)である。この電磁石400にはケーブル401が巻き付けられており、ここが磁界を生じるコイルCとなる。ケーブル401は、パンタグラフ200からの主動力線と、電力回生部(三相モータ300及び三相インバータ301)とに並列に接続されている。ケーブル401の途中には、抵抗ωが組み込まれている。パンタグラフ200と車輪201間には、コンデンサ202が接続されている。
【0045】
まず、常用ブレーキ時又は力行時における、パンタグラフ200からの主電力源を用いた電磁石400の励磁について説明する。
パンタグラフ200から電磁石400には、電圧VD=1500Vが印加される。この場合、電磁石400に流れる直流電流iDは、
D=VD(V)/ω(Ω)=1500/ω(単位A)
となる。さらに、電磁石400端面とレール100頭頂面間のギャップtの長さは15mmとする。なお、このギャップtは、最小6mmに設定可能である。
【0046】
図5(B)に示す磁気回路において、磁気抵抗(リラクタンス)Rは、
R=(1/μ)×(l/S)(単位A/Wb)
で与えられる。但し、鉄の場合(電磁石400及びレール100)は透磁率ξ=200であって、空気の場合(電磁石400とレール100間のギャップt)は透磁率ξ=ξ0=1.0とする。さらに、電磁石400の端面の面積S(半径3cmの円;S=0.032π(m2))を、レール100の頭頂面への磁気回路有効範囲と仮定する。
磁力線の磁路は、電磁石400の長さ=50cm、ギャップtの長さの2倍=15×2=30mm、レール100の長さ=50cmの総計となる。なお、図5(C)に示すように、レール100の幅h1=65mm、頭頂面の幅h2=30mmとする。
【0047】
すると、この場合の電磁石400、ギャップt及びレール100における各磁気抵抗Rc、Rg及びRrは、
電磁石の鉄心の磁気抵抗Rc=(1/200)×(0.5/0.032π)
ギャップの磁気抵抗Rg=(1/1)×(0.03/0.032π)
レールの磁気抵抗Rr=(1/200)×(0.5/0.032π)
となる。したがって、合計の磁気抵抗Rは、
R=Rc+Rg+Rr=12.38(A/Wb)
となる。
さらに、図5(B)に示す磁気回路の磁束φは、
φ=B×S(単位Wb)
で与えられる。Bは電磁石400のコイルCの磁束密度である。
【0048】
次に、電磁石400の吸引力を求める。
単位面積当たりの吸引力fは、
f=B2/2ξ0(単位Pa)
であり、有効面積当たりの吸引力Fは、
F=f×2S=φ2/(ξ0×S)(単位Pa)
で求められる。ここで、図5(B)の磁気回路の起磁力は、電磁石400のコイルCのインダクタンスをL(単位H)とすると、
L×iD=L×(VD/ω)(単位A)
であるから、上記の磁束φは、
φ=L×(1/ω)×VD/R(Wb)
となる。
【0049】
したがって、有効面積当たりの吸引力Fは、
F=φ2/(ξ0×S)
=((L/ω)2×VD2)/(μ0×S×R2
=((L/ω)2×VD2)/(1×0.032π×12.382
=2.308×L2×(VD/ω)2(Pa)
となる。
【0050】
ここで、主動電源の電圧VD=1500V、直流電流iD=10A、抵抗ω=150Ωのとき(電力P=15kW)、コイルCのインダクタンスLの値と有効面積当たりの吸引力Fの値は、
L=10mH ならば F=0.023N、
L=100mH ならば F=2.308N、
L=1000mHならば F=230.8N、
となる。なお、実際の車載リアクトルは、L=20mH程度である。このVD=1500V、iD=10A、ω=150Ωの場合を含む、直流電流iD=20A、30A、50Aに対する吸引力Fの値を次の表1に示す。
【表1】
JP0004119103B2_000002t.gif【0051】
次いで、吸引力Fによる輪重の増加に伴う見かけ上の粘着係数の増大Δμが具体的にどの程度の数値になり得るかについて述べる。
軸質量Mを10(単位t)=10×103(単位kg)と仮定し、これと重力加速度gとの積M×g(単位N)で軸重を表現する。この場合、吸引力の半分が1軸当たりの軸質量増大値と等価になる。
設計上のμ(=引張力/軸重比)をμ0とし、電磁石400のコイルCの吸引力をFC(単位N)とおく。さらに、等価的に軸質量Mを
M+(1/2)×(FC/g)=M+(FC/2g)
で置きかえる。
【0052】
これを、設計利用μが増大したと考え直すと、
μ0×(M+(FC/2g))=μ´×M
すなわち、
μ´=μ0×(1+(FC/2(M×g)))
となる。したがって、粘着改善効果(見かけ上の粘着係数の増大)Δμ=μ´-μ0は、
Δμ=μ´-μ0=μ0×FC/2(M×g)
となる。
【0053】
この粘着改善効果Δμをパーセント表示して、μ0=20%、軸質量M=10tの電車に当てはめると、
Δμ(%)=20/(2×10×103×9.8)×FC
=FC/9800
となる。したがって、吸引力FC=5770Nのときは、
Δμ(%)=5770/9800=0.5887…≒0.59%
となる。つまり、この場合は、約0.6%の粘着性能の改善を見込むことができ、μの設計値を20%とした場合は、合計で20.6%の粘着率を得ることができる。
以上の値は、ギャップ長t=15mmの場合の計算値であるが、t=10mmではΔμ=1.32%(21.32%)、t=6mmではΔμ=3.68%(23.68%)の粘着改善効果が得られる。
【0054】
次に、非常用バッテリ等の直流100Vラインからの電力を用いた電磁石400の励磁について説明する。
電力回生源からは、電磁石400に電圧VD′=100Vが印加される。このとき、電磁石400には直流電流iD´=100(V)/ω(Ω)=100/ω(A)の電流が流れる。
この場合、上記と同様にして、コイルCのインダクタンスLの値と有効面積当たりの吸引力Fの値を求めると、
D´=50A、ω=2Ωのとき(電力P=5kW)、
L=10mHならば F=0.557N、
L=100mHならば F=55.7N、
L=1000mHならば F=5770N
となる。
【0055】
さらに、粘着改善効果Δμの値を求めると、
ギャップ長15mmのときは Δμ=0.59%
ギャップ長10mmのときは Δμ=1.32%
ギャップ長6mmのときは Δμ=3.68%
となり、主動電源を用いた場合と同様の効果が得られる。特に、100V直流源を用いる場合は、主動電源を用いる場合に比べて絶縁耐圧が小さくて済む利点があるので、より効果が大きい。
【0056】
以上をまとめると、以下の通りである。
(1)現状の鉄道車両においては、主電動機が抵抗制御の場合の設計上の期待粘着係数が14%、チョッパ制御の場合の設計上の期待粘着係数が16~18%に設定されており、インバータ制御の場合の設計上の期待粘着係数が20%に設定されている。したがって、本実施例のように20%の設計値に対して20.6~23.68%の粘着力が得られれば、実用的意義が充分にあるといえる。
【0057】
(2)電磁石の励磁に1500Vの主動電源を用いることができるのは勿論であるが、100Vの電力源(専用バッテリ等)を用いても充分な粘着改善効果が得られる。なお、実際には、供給電力が10~20kW程度で、コイルの起磁力が1H程度の大アンペアターンコイルを用いるのが好ましい。
(3)ギャップ長t=10mm程度に設定すれば、粘着改善効果Δμ=約1.5%程度を見込むことができる。ギャップ長t=10mm程度を確保すれば、レールのポイント通過時にも電磁石とレール頭頂面との接触を回避することができるので、実用上の支障はない。
【0058】
なお、上記の結果は、コ字状の電磁石400のレール100の頭頂面への磁気回路有効範囲を、半径3cmの円の2倍と仮定した場合であって、比較的厳しい条件を仮定している。そこで、電磁石の断面の面積を増やし(例えば、10cm×3cm=30cm2の長方形)、レール100の頭頂面への磁気回路有効範囲を大きくすると、粘着改善効果をさらに向上することができる。
【0059】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、レール頭頂面の損傷を来たすことなく、粘着係数の増加や脱線係数の低減を実現することができる鉄道車両用輪重制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1(A)は本発明の第1実施例に係る鉄道車両用輪重制御装置を示す側面図であり、図1(B)は同鉄道車両用輪重制御装置の電磁石付近の部分を前後方向から見た一部断面図である。
【図2】図2(A)は本発明の第2実施例に係る鉄道車両用輪重制御装置を示す側面図であり、図2(B)は前後の電磁石を同時に作動した状態を示す側面図であり、図2(C)は軸重移動した状態(電磁石を作動させなかった場合)を示す側面図であり、図2(D)は軸重移動時で後ろの電磁石を作動した状態を示す側面図である。
【図3】図3(A)は本発明の第3実施例に係る鉄道車両用輪重制御装置を示す側面図であり、図3(B)は同鉄道車両用輪重制御装置で電磁石を作動した状態を示す側面図である。
【図4】図4(A)はカント(バンク)付き曲線軌道における鉄道車両の走行時にかかる力を説明するための正面図であり、図4(B)はその平面図である。
【図5】図5(A)は本発明に係る鉄道車両用輪重制御装置の電磁石とその電気系統をモデル化した図であり、図5(B)は電磁石とレールを含む磁気回路の図であり、図5(C)はレールの断面図である。
【図6】従来の電磁吸着型ブレーキ装置を備えたボギー台車の一例を示す側面図である。
【符号の説明】
1 鉄道車両
5I 内車輪 5O 外車輪
6 車軸 7 輪軸
P 輪重 Q 横圧
RI 内側軌道 RO 外側軌道
11 台車 13 台車枠
14 パッド 15 車輪
16 車軸 17 輪軸
18 軸箱 19 軸ばね
21 電磁石 21a 下端面
22 釣合梁 22b、22c 端部
23 ばね 24 支持部材
24a 内孔上端面 24c 内孔下端面
25 ペデスタル
31 台車 33 台車枠
34 パッド 35 車輪
36 車軸 37 輪軸
38 軸箱 39 軸ばね
41 電磁石 43 アーム
43a 自由端 44 リンク
45 ばね 47 軸ばね変位センサ
51 台車 53 台車枠
54 パッド 55 車輪
56 車軸 57 輪軸
58 軸箱 59 軸ばね
61 電磁石 62 吊り梁
63 ばね 65 当接部材
100 レール 100a 頭頂面
101 台車 103 台車枠
105 車輪 106 車軸
107 輪軸 108 軸箱
109 軸ばね 110 電磁石
112 支持部材
200 パンタグラフ 201 車輪
202 コンデンサ 300 三相モータ
301 三相インバータ 400 電磁石
401 ケーブル
C コイル ω 抵抗
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5