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明細書 :トロリ線の波動伝播速度測定方法及びトロリ線の張力測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4523718号 (P4523718)
公開番号 特開2002-178797 (P2002-178797A)
登録日 平成22年6月4日(2010.6.4)
発行日 平成22年8月11日(2010.8.11)
公開日 平成14年6月26日(2002.6.26)
発明の名称または考案の名称 トロリ線の波動伝播速度測定方法及びトロリ線の張力測定方法
国際特許分類 B60M   1/28        (2006.01)
G01H   5/00        (2006.01)
G01L   5/10        (2006.01)
FI B60M 1/28 R
G01H 5/00
G01L 5/10 Z
請求項の数または発明の数 4
全頁数 10
出願番号 特願2000-375656 (P2000-375656)
出願日 平成12年12月11日(2000.12.11)
審査請求日 平成19年4月11日(2007.4.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】池田 充
【氏名】網干 光雄
【氏名】臼田 隆之
個別代理人の代理人 【識別番号】100100413、【弁理士】、【氏名又は名称】渡部 温
審査官 【審査官】根本 徳子
参考文献・文献 特開平10-171779(JP,A)
特開平10-176968(JP,A)
調査した分野 B60M 1/28
G01H 5/00
G01L 5/04、5/10
H02G 1/02
特許請求の範囲 【請求項1】
トロリ線からパンタグラフを介して電車に給電する電気鉄道におけるトロリ線の波動伝播速度測定方法であって;
前記電車を走らせながら、前記トロリ線と前記パンタグラフの間に作用する接触力変動を、前記電車の車体上で測定し、
この接触力変動を周波数成分に分解して卓越成分を抽出し、
この卓越成分から前記トロリ線の動的波動に関連する成分(トロリ線波動成分)を抽出し、
該トロリ線波動成分に基づき前記トロリ線の波動伝播速度を求めることを特徴とするトロリ線の波動伝播速度測定方法。
【請求項2】
前記トロリ線の波動伝播速度を次式により算出することを特徴とする請求項1記載のトロリ線の波動伝播速度測定方法;
トロリ線の空間周期構造を表す波数をkL、この空間周期構造により生じる前記波動成分の周波数を電車速度vで無次元化したときの波数をkv、前記電車速度をトロリ線の波動伝播速度で正規化した無次元化速度をβとするとき、
kv={(1+β)/(1-β)}×kL 。
【請求項3】
前記卓越成分を前記トロリ線のハンガ間隔に基づき抽出することを特徴とする請求項1又は2記載のトロリ線の波動伝播速度測定方法。
【請求項4】
トロリ線からパンタグラフを介して電車に給電する電気鉄道におけるトロリ線の張力測定方法であって;
前記電車を走らせながら、前記トロリ線と前記パンタグラフの間に作用する接触力変動を、前記電車の車体上で測定し、
この接触力変動を周波数成分に分解して卓越成分を抽出し、
この卓越成分から前記トロリ線の動的波動に関連する成分(トロリ線波動成分)を抽出し、
該トロリ線波動成分に基づき前記トロリ線の波動伝播速度を求め、
さらにレーザセンサ等により前記トロリ線の厚みを測定し、
このトロリ線の厚みと前記波動伝播速度から前記トロリ線の張力を測定することを特徴とするトロリ線の張力測定方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、トロリ線とパンタグラフとの間に作用する接触力を走行中の車両上で測定し、その測定値に基づいてトロリ線の波動伝播速度を測定する方法に関する。
【0002】
【背景技術及び発明が解決しようとする課題】
現状の営業用の電気鉄道においては、トロリ線からパンタグラフを介して車体に電力を送る方式が一般的である。トロリ線とパンタグラフの舟体との接触力は、トロリ線の高さ変動や車両・パンタグラフの振動等に応じて変動する。この接触力の変動が大きすぎると、パンタグラフの舟体がトロリ線から離れる離線が生じるおそれがある。離線が頻発すると、トロリ線とパンタグラフの舟体の間にスパークが生じて、摺り板の損耗が進み、問題となる。離線に至らない場合でも、パンタグラフの接触力の変動は極力小さい方がよい。
【0003】
そこで、電車の走行中におけるトロリ線とパンタグラフとの接触力を測定し、得られた測定結果を離線の抑制対策の参考としたいとの要請がある。あるいは、このような接触力の測定技術は、離線の抑制対策だけではなく、架線-パンタグラフ系の集電性能の評価や、電車線の設備診断方法の1つとして活用することも考えられている。
【0004】
このようなパンタグラフの接触力測定技術としては、例えば特願平11-191611号や特願2000-122299号を挙げることができる。
特願平11-191611号のパンタグラフの接触力測定方法は、パンタグラフの舟体の慣性力を舟体の摺り板を含む2ヶ所の縦断面間の弾性変形を考慮した上で求め、この慣性力を別途求めた舟体にかかっている力から差し引きすることにより、舟体の上下方向の接触力を求めるものである。
【0005】
特願2000-122299号のパンタグラフの接触力測定方法は、パンタグラフの舟体の慣性力を舟体の摺り板を含む2ヶ所の縦断面におけるねじりモーメントと、これらの縦断面間に作用する回転慣性とに基づいて舟体のねじりモーメントを求め、このねじりモーメントに基づきトロリ線と舟体との間に働く前後方向の接触力をも求めるものである。
なお、本明細書においては、通常、「舟体」は摺り板を含む広い意味で用いる。
【0006】
これらの接触力測定技術により、トロリ線とパンタグラフの舟体との接触力(上下方向及び前後方向)をより正確に求めることが可能となった。
ところで、最近では、架線-パンタグラフ系の動的挙動を決定付ける重要なパラメータである、トロリ線の波動伝播速度を測定する技術が求められている。
【0007】
この波動伝播速度を測定する方法としては、架線側に直接センサ等を取り付けて波動伝播速度を測定する方法が、これまで多数提案されている(例えば特開平10-176968号公報等)。しかしながら、パンタグラフ側の情報に基づきトロリ線の波動伝播速度を測定する方法は、現在提供されていない。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、走行中の車両上で測定したパンタグラフの接触力変動に基づき、トロリ線の波動伝播速度又は張力を測定できる方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】
上記の課題を解決するため、本発明のトロリ線の波動伝播速度測定方法は、トロリ線からパンタグラフを介して電車に給電する電気鉄道におけるトロリ線の波動伝播速度測定方法であって; 前記電車を走らせながら、前記トロリ線と前記パンタグラフの間に作用する接触力変動を、前記電車の車体上で測定し、 この接触力変動を周波数成分に分解して卓越成分を抽出し、 この卓越成分から前記トロリ線の動的波動に関連する成分(トロリ線波動成分)を抽出し、 該トロリ線波動成分に基づき前記トロリ線の波動伝播速度を求めることを特徴とする。
【0009】
トロリ線の波動伝播速度は、架線-パンタグラフ系の動的挙動を決定付ける重要なパラメータである。本発明によれば、トロリ線とパンタグラフ間に作用する接触力変動に基づき、走行中の電車上でパンタグラフ側からの情報によりトロリ線の波動伝播速度を測定することができる。これにより、従来、地上において行われていたトロリ線の設備診断作業が不要になり、さらに、走行中の電車により1度に多数のドラム区間(1ドラム=トロリ線の1単位(約1.5km))を測定できるので、トロリ線の設備診断・保守作業等の効率を著しく向上できる。なお、本発明における接触力変動の測定技術としては、特願平11-191611号や特願2000-122299号に開示されたものを用いることができる。
【0010】
本発明のトロリ線の波動伝播速度測定方法においては、前記トロリ線の波動伝播速度を次式により算出することができる;
トロリ線の空間周期構造を表す波数をkL、この空間周期構造により生じる前記波動成分の周波数を電車速度vで無次元化したときの波数をkv、前記電車速度をトロリ線の波動伝播速度で正規化した無次元化速度をβとするとき、
v={(1+β)/(1-β)}×kL
【0011】
架線-パンタグラフ系の接触力変動には、次の(1)及び(2)に述べる2つの要因がある;
(1)架線の周期性(トロリ線のハンガ間ディップ等)に起因するもの。
(2)(1)の結果として励起された波動がトロリ線を伝播し、ハンガ等の架線の不連続点で反射して再度パンタグラフに入射することにより発生するもの。
ここで、(1)の接触力変動の周波数fLは電車速度に比例し、トロリ線の波動伝播速度をcとすると、
(1′)fL=β×c/L
と表される。一方、(2)の接触力変動の周波数fvは、ドップラー効果による周波数変調を考慮すると、
(2′)fv={(1+β)/(1-β)}×fL
と表される。ここで、Lは架線の周期性を表す代表長さである。
【0012】
そこで、これらの式(1′)、(2′)で表される周波数を電車速度で正規化すると、(1′)式で表される成分(すなわち空間の代表長さLに比例する成分)の波数kLは、
(1″)kL=1/L
で一定値となる。一方、(2′)式で表される波動成分の波数kvについては、
(2″)kv={(1+β)/(1-β)}×kL
となり、波数kvは電車速度vによって変化することがわかる。したがって、接触力変動に含まれる波動成分の波数kvが正確に捉えられ、同時に電車速度vも得られるならば、(2″)式によってトロリ線の波動伝播速度を得ることができる。
【0013】
また、本発明のトロリ線の波動伝播速度測定方法においては、前記卓越成分を前記トロリ線のハンガ間隔に基づき抽出することが好ましい。
上記(2)で述べた成分中、トロリ線のハンガ間ディップに起因して生じる動的波動が電車前方に伝播し、これがハンガ等で反射して前方から再度パンタグラフに入射することにより生じる接触力変動の寄与が大きい。したがって、卓越成分をハンガ間隔に基づき抽出することで、波数kvをより正確に捉えることができ、これによって、より正確な波動伝播速度を得ることができる。なお、このハンガ間隔は一例として5mであって、この場合の波数kLは(1″)式から1/5=0.2となる。
【0014】
本発明のトロリ線の張力測定方法は、トロリ線からパンタグラフを介して電車に給電する電気鉄道におけるトロリ線の張力測定方法であって; 前記電車を走らせながら、前記トロリ線と前記パンタグラフの間に作用する接触力変動を、前記電車の車体上で測定し、 この接触力変動を周波数成分に分解して卓越成分を抽出し、 この卓越成分から前記トロリ線の動的波動に関連する成分(トロリ線波動成分)を抽出し、該トロリ線波動成分に基づき前記トロリ線の波動伝播速度を求め、 さらにレーザ式摩耗測定器等により前記トロリ線の厚みを測定し、 このトロリ線の厚みと前記波動伝播速度から前記トロリ線の張力を測定することを特徴とする。
【0015】
トロリ線の厚さを走行する車両から測定する方法については、レーザ式摩耗測定器をはじめ多くの方式が既に実用化されている。一方、トロリ線の波動伝播速度は
(トロリ線の張力(N)÷トロリ線の線密度(kg/m))1/2
で求めることができる。したがって、トロリ線の厚みと波動伝播速度を求めることにより、トロリ線の張力も求めることができる。
【0016】
以下、図面を参照しつつ説明する。
なお、以下の説明では、通常の鉄道車両の技術におけるのと同様に、レールの長手方向(車両の進行方向)を前後方向、軌道面におけるレール長手方向と直角の方向を左右方向、軌道面に垂直な方向を上下方向と呼ぶ。また、具体的な数値例は、現状のJRの新幹線の一般的な数値である。
【0017】
まず、図4及び図5を参照して、電気鉄道の架線-パンタグラフ系について説明する。
図4は、本実施例におけるパンタグラフの舟体の詳細を示す斜視図である。
なお、図4には図示されないが、舟体は、ロッドや舟支え、復元ばね、リンク状の枠組等により、電車の天井に取り付けられている。
図5は、本実施の形態における架線構造を示す模式図である。
【0018】
トロリ線1は、直径約15mmの銅線である。トロリ線1には、交流25kVの電圧が印加される。図5に示すように、トロリ線1は、約5mおきにハンガ3を介して吊架線5によって吊られている。吊架線5は、約50mおきに架線柱7によって支えられている。トロリ線1単位(1ドラム区間)当たりの長さは約1.5kmである。
【0019】
図4に示すように、この例の舟体12は、左右方向に沿って延びている。舟体12は、前後方向に離れて1本ずつ計2本(12A、12B)設けられているものが多いが、1本の舟体のみで構成されるものもある。この例の舟体12は、幅40mm、長さ1.2m、重さ3.5kgの中空の箱状部材である。舟体12はアルミニウム合金製である。停車時に舟体12がトロリ線1に押し当てられる力(静押上力)は50~70Nである。
【0020】
舟体12の上表面には、摺り板14が取り付けられている。摺り板14は、鉄系や銅系の焼結合金製、あるいはカーボン系材料からなる。この摺り板14は、図4に示すように4分割されているものが多い。このうち、中央の2つが主摺り板で、左右両端の2つが補助摺り板である。主として主摺り板がトロリ線1に直接接触する。摺り板14は、トロリ線1との接触により経時摩耗するので、定期的に交換する。
【0021】
舟体12には、2軸用歪みゲージ31が貼られている。2軸用歪みゲージ31は、集電電流によるノイズの誘導を防ぐため、無誘導型ゲージを用いる。この2軸用歪みゲージ31により測定された舟体12の断面のせん断歪みにより、舟体12に働くせん断力を求めることができる。この例では、2軸用歪みゲージ31は、舟体12の前面側と後面側とに2個ずつ貼られている。したがって、1本の舟体12に対して計4個の2軸用歪みゲージ31が設けられている。左右の歪みゲージ31は、摺り板14の主摺り板を含む位置(具体的には、摺り板14の補助板を舟体12に固定するためのボルトがねじ込まれる位置)に貼り付けられている。
【0022】
また、舟体12の中央下面には、1つの舟体当り1個の加速度計35が取り付けられている。この加速度計35により測定可能な周波数は約40Hz以下であるが、必要に応じて複数個の加速度計を取り付けることにより、さらに高周波数領域での測定も可能である。加速度計35により測定された舟体12中央の加速度により、舟体12の慣性力を求めることができる。
【0023】
舟体12の各2軸用歪みゲージ31及び加速度計35は、演算装置(図示されず)に接続されている。この演算装置は、2軸用歪みゲージ31及び加速度計35の信号を受けて、舟体12とトロリ線1との接触力を算出する。この接触力の測定原理は、特願平11-191611号や特願2000-122299号に開示されたものと同様である。
【0024】
次に、接触力測定に基づきトロリ線の波動伝播速度を測定した結果の具体的な事例について、図1~図3を参照しつつ述べる。
図1は、本発明に係るトロリ線の波動伝播速度測定方法の一例を示すフローチャートである。
図1に示すように、トロリ線の波動伝播速度の測定は、まずステップS1において、走行中の車両上で舟体12とトロリ線1との接触力変動を測定する。ここで、架線-パンタグラフ系の接触力変動には、次の(1)及び(2)に述べる2つの要因がある;
(1)架線の周期性(トロリ線のハンガ間ディップ等)に起因するもの。
(2)(1)の結果として励起された波動がトロリ線を伝播し、ハンガ等の架線の不連続点で反射して再度パンタグラフに入射することにより発生するもの。
【0025】
上記(1)の接触力変動の周波数fLは電車速度に比例し、トロリ線の波動伝播速度をcとすると、
(1′)fL=β×c/L
と表され、この接触力変動により生じた波動がパンタグラフ前方から再度入射することにより生じる周波数fvは、
(2′)fv={(1+β)/(1-β)}×fL
と表される。
【0026】
ステップS1の後、ステップS2において上記接触力変動を短時間フーリエ分析する。次いで、ステップS3において、短時間フーリエ分析した結果から卓越成分を抽出する。さらに、ステップS4において、卓越成分からトロリ線波動成分に相当する周波数fvを抽出する。
【0027】
そして、ステップS5において、上式(1′)、(2′)で表される周波数fを電車速度vで正規化する。これは、周波数f(単位Hz)を電車速度vで割ることにより波数k(単位1/m)を得ること、すなわち、k=f/vと変換することに相当する。すると、(1′)式で表される成分の波数kLは、
(1″)kL=1/L
と一定値になる。本実施例では、空間の代表長さLをトロリ線のハンガ間隔5mとした。この場合は、(1″)式から波数kL=1/5=0.2となる。一方、(2′)式で表される波動成分の波数kvについては、
(2″)kv={(1+β)/(1-β)}×kL
となる。ステップS5の後、ステップS6において、上式(2″)に基づきトロリ線の波動伝播速度を算出する。
【0028】
図2は、空間の代表長さL=5mとした場合の、(2′)式、(2″)式におけるfv、kvの値を、ヘビーコンパウンド架線及びCSシンプル架線のそれぞれについて計算した結果を示すグラフである。
図2において、横軸は電車速度(単位km/h)を表し、左縦軸は接触力変動周波数(単位Hz)を表し、右縦軸は接触力変動波数(単位1/m)を表す。図中のグラフは、細い実線及び点線がそれぞれヘビーコンパウンド架線の接触力変動周波数及び接触力変動波数を表し、太い実線及び点線がそれぞれCSシンプル架線の接触力変動周波数及び接触力変動波数を表す。
【0029】
ヘビーコンパウンド架線は、170mm2の硬銅トロリ線(張力14.7kN、線密度1.51kg/m)が用いられている。
CSシンプル架線は、110mm2の銅覆鋼トロリ線(張力19.6kN、線密度0.94kg/m)が用いられている。
図2からわかるように、いずれのグラフも右肩上がりとなっている。これから、接触力変動周波数及び接触力変動波数は、電車速度が上がるに連れて高い値をとることがわかり、電車速度の影響を強く受けることがわかる。
そこで、接触力変動に含まれる波動成分の波数kvが正確に捉えられ、同時に電車速度vも得られるならば、(2″)式によってトロリ線の波動伝播速度を得ることができるといえる。
【0030】
図3(A)は、CSシンプル架線区間において測定した接触力変動の波形を短時間フーリエ分析した結果を示すグラフであり、図3(B)は、電車速度vを表すグラフである。
図3(A)は、横軸が時間(単位s)を表し、縦軸が波数(単位1/m)を表す。この図3(A)では、接触力変動の卓越成分を網掛けで表している。この図3(A)から、大きな接触力変動が、ハンガ間隔5mに相当する波数0.2の箇所に生じているのがわかる。また、この波数0.2よりも上部において、波数が速度によって変化している成分も認められる。これが、ハンガ間隔周期の接触力変動により励起されたトロリ線波動により生じた接触力変動成分を示していると考えられる。
【0031】
そこで、このCSシンプル架線区間のトロリ線波動伝播速度cが一定であると仮定し、(2″)式により計算される波数kvの値と、実測された波動成分とが一致するようにトロリ線波動伝播速度cを求めてみると、c=480km/hという値が得られた。図3(A)に実線で示すグラフが、c=480km/hとしたときの波数の計算値である。この実線と実測結果(図3(A)の実線付近の網掛け)の示す特徴は良く一致しており、ここで示したトロリ線波動伝播速度の推定方法は妥当であるといえる。
【0032】
また、トロリ線の厚みはレーザ式摩耗測定器等により容易に計測可能である。トロリ線の波動伝播速度は
(トロリ線の張力(N)÷トロリ線の線密度(kg/m))1/2
で求めることができる。したがって、トロリ線の厚みと波動伝播速度を求めることにより、トロリ線の張力も求めることができる。
【0033】
このように、本発明によれば、トロリ線とパンタグラフ間に作用する接触力変動に基づき、走行中の電車上でパンタグラフ側からの情報によりトロリ線の波動伝播速度、さらにはトロリ線の張力を測定することができる。これにより、従来、地上において行われていたトロリ線の設備診断作業が不要になり、さらに、走行中の電車により1度に多数のドラム区間(1ドラム=トロリ線の1単位(約1.5km))を測定できるので、トロリ線の設備診断・保守作業等の効率を著しく向上できる。
【0034】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、走行中の車両上で測定したパンタグラフの接触力変動に基づき、トロリ線の波動伝播速度あるいは張力を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るトロリ線の波動伝播速度測定方法の一例を示すフローチャートである。
【図2】空間の代表長さL=5mとした場合の、fv、kvの値を、ヘビーコンパウンド架線及びCSシンプル架線のそれぞれについて計算した結果を示すグラフである。
【図3】図3(A)は、CSシンプル架線区間において測定した接触力変動の波形を短時間フーリエ分析した結果を示すグラフであり、図3(B)は、電車速度vを表すグラフである。
【図4】本実施の形態において説明したパンタグラフの舟体の詳細を示す斜視図である。
【図5】本実施の形態における架線構造を示す模式図である。
【符号の説明】
1 トロリ線 3 ハンガ
5 吊架線 7 架線柱
12(12A、12B) 舟体 14 摺り板
31 2軸用歪みゲージ 35 加速度計
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4