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明細書 :波動分離方法及び波動分離装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3939796号 (P3939796)
公開番号 特開平10-171779 (P1998-171779A)
登録日 平成19年4月6日(2007.4.6)
発行日 平成19年7月4日(2007.7.4)
公開日 平成10年6月26日(1998.6.26)
発明の名称または考案の名称 波動分離方法及び波動分離装置
国際特許分類 B60M   1/28        (2006.01)
FI B60M 1/28 R
請求項の数または発明の数 4
全頁数 8
出願番号 特願平08-344433 (P1996-344433)
出願日 平成8年12月10日(1996.12.10)
審査請求日 平成15年8月1日(2003.8.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000173784
【氏名又は名称】財団法人鉄道総合技術研究所
発明者または考案者 【氏名】網干 光雄
個別代理人の代理人 【識別番号】100100413、【弁理士】、【氏名又は名称】渡部 温
審査官 【審査官】鳥居 稔
参考文献・文献 特開平08-272373(JP,A)
特開平05-296981(JP,A)
特開平07-260562(JP,A)
特開昭58-215530(JP,A)
特開平08-334421(JP,A)
網干光雄,トロリ線波動の進行波・後退波への分離法,日本機械学会第4回交通・物流部門大会講演論文集,日本,1995年12月 5日,105-106
網干光雄,トロリ線波動伝播速度の測定方法,日本機械学会全国大会講演論文集,日本,1996年 9月21日,No.74 Vol.4,425-426
調査した分野 B60M 1/28
G01N
G01H
G10K
特許請求の範囲 【請求項1】
長尺体の長手方向(x方向)に伝播する、該x方向に対して垂直方向の変位を伴う波動y(x、t)を、進行波と後退波とに分離する方法であって
該波動の波長よりも十分短い間隔Δxをおいた長尺体上の2点x1 、x2 で加速度、速度又は変位を測定し、
f(x1 -ct)=1/2Δt∫{y(x1 ,t+Δt)-y(x2 ,t)}dt
g(x1 +ct)=-1/2Δt∫{y(x1 ,t-Δt)-y(x2 ,t)}dt
ただし、波動伝播速度、Δt=Δx/c
により、進行波f(x1 -ct)と後退波g(x1 +ct)とに分離することを特徴とする波動分離方法。
【請求項2】
長尺体の長手方向(x方向)に伝播する、該x方向に対して垂直方向の変位を伴う波動y(x、t)を、進行波と後退波とに分離する方法であって、
該波動の波長よりも十分短い間隔Δxをおいた長尺体上の2点x1 、x2 で加速度、速度又は変位を測定し、
f(x-ct)=1/2{y(x,t)-c∫(y(x2 ,t)-y(x1 ,t)/Δx)dt}
g(x+ct)=1/2{y(x,t)+c∫(y(x2 ,t)-y(x1 ,t)/Δx)dt}
ただし、波動伝播速度
により、進行波f(-ct)と後退波g(+ct)とに分離することを特徴とする波動分離方法。
【請求項3】
長尺体の長手方向(x方向)に伝播する、該x方向に対して垂直方向の変位を伴う波動y(x、t)を、進行波と後退波とに分離する装置であって
該波動の波長よりも十分短い間隔Δxをおいた長尺体上の2点x1 、x2 で加速度、速度又は変位を測定する測定手段と、
f(x1 -ct)=1/2Δt∫{y(x1 ,t+Δt)-y(x2 ,t)}dt
g(x1 +ct)=-1/2Δt∫{y(x1 ,t-Δt)-y(x2 ,t)}dt
ただし、波動伝播速度、Δt=Δx/c
により、進行波f(x1 -ct)と後退波g(x1 +ct)とに分離する演算手段とを具備することを特徴とする波動分離装置。
【請求項4】
長尺体の長手方向(x方向)に伝播する、該x方向に対して垂直方向の変位を伴う波動y(x、t)を、進行波と後退波とに分離する装置であって、
該波動の波長よりも十分短い間隔Δxをおいた長尺体上の2点x1 、x2 で加速度、速度又は変位を測定する測定手段と、
f(x-ct)=1/2{y(x,t)-c∫(y(x2 ,t)-y(x1 ,t)/Δx)dt}
g(x+ct)=1/2{y(x,t)+c∫(y(x2 ,t)-y(x1 ,t)/Δx)dt}
ただし、波動伝播速度
により、進行波f(-ct)と後退波g(+ct)とに分離する演算手段とを具備することを特徴とする波動分離装置。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気鉄道のトロリ線等の長尺体を長手方向に伝播する波動を進行波と後退波に分離する波動分離方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
トロリ線における波動(上下振動)を例にとって説明する。
パンダグラフの通過に伴いトロリ線には波動が励起され前後に伝播するほか、一部はハンガ等で反射する。架線の振動波形には、パンダグラフの進行方向に伝播する波動(以下、「進行波」という)と、これとは反対方向に伝播する波動(以下、「後退波」という)とが含まれるが、これまでは波動伝播方向別に分離して測定することはできなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
トロリ線の波動は、パンタグラフの離線等、電車の集電性能に大きな影響を与える。したがって、その波動の特性解析の高度化へのニーズが存在していた。その中でも、能率良く、波動を進行波と後退波に分離して計測する方法の開発が望まれていた。
【0004】
本発明は、トロリ線等の長尺体を複雑に伝播する波動を詳細に把握するための解析手法として有意義な、波動を進行波と後退波に分離する波動分離方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明の第1態様の波動分離方法(時間差法)は、長尺体の長手方向(x方向)に伝播する、該x方向に対して垂直方向の変位を伴う波動y(x、t)を、進行波と後退波とに分離する方法であって
該波動の波長よりも十分短い間隔Δxをおいた長尺体上の2点x1 、x2 で加速度、速度又は変位を測定し、
f(x1 -ct)=1/2Δt∫{y(x1 ,t+Δt)-y(x2 ,t)}dt
g(x1 +ct)=-1/2Δt∫{y(x1 ,t-Δt)-y(x2 ,t)}dt
ただし、波動伝播速度、Δt=Δx/c
により、進行波f(x1 -ct)と後退波g(x1 +ct)とに分離することを特徴とする。
【0006】
また、本発明の第2態様の波動分離方法(傾斜法)は、長尺体の長手方向(x方向)に伝播する、該x方向に対して垂直方向の変位を伴う波動y(x、t)を、進行波と後退波とに分離する方法であって; 該波動の波長よりも十分短い間隔Δxをおいた長尺体上の2点x1 、x2 で加速度、速度又は変位を測定し、
f(x-ct)=1/2{y(x,t)-c∫(y(x2 ,t)-y(x1 ,t)/Δx)dt}
g(x+ct)=1/2{y(x,t)+c∫(y(x2 ,t)-y(x1 ,t)/Δx)dt}
ただし、波動伝播速度
により、進行波f(-ct)と後退波g(+ct)とに分離することを特徴とする。
【0007】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の1実施例に係る波動分離方法をトロリ線の波動測定に応用する場合の諸元を示す図である。
図中には、トロリ線1が横に張架されている。このトロリ線1の下に沿って、パンタグラフ5が車両7とともに右に進行している。パンタグラフ5の上部の集電板3はトロリ線1の下面と摺動する。このトロリ線1を車両7の進行方向(太い矢印、右方向)に進むのが進行波f(x-ct)であり、車両7の進行と反対方向に進むのが後退波g(x+ct)である。
【0008】
トロリ線1上には、2ケ所に上下方向の加速度を検出する加速度計11、13が設置してある。第1の加速度計11の位置(x座標)をx1 、第2の加速度計13の位置をx2 とし、両加速度計11、13間の距離をΔxとしている。詳しくは後述するが、加速度計11、13は変位計であっても速度計であってもよい。また、Δxは波動の波長よりも十分に短くする。例えば、トロリ線の場合Δx≦0.2mとすることが分離精度を上げる上で好ましい。
【0009】
(1)時間差法波動分離の原理:
トロリ線を伝播する波動y(x,t)が、
y(x,t)=f(x-ct)+g(x+ct)………………(1)
で表されるものとする。ただし、x、t、cはそれぞれ距離、時間、波動伝播速度を表し、右辺第1項は進行波を、同第2項は後退波を表す。このとき異なる2点x1 、x2 において観測される振動波形において、Δx=x2 -x1 、Δt=Δx/cとし、Δtの時間差に相当する二つの波形の差は、近似的に、
{y(x1 ,t+Δt)-y(x2 ,t)}/2Δt
={f(x1 -c(t+Δt)-f(x1 -c(t-Δt))}/2Δt
=∂f(x1 -ct)/∂t
y(x1 ,t-Δt)-y(x2 ,t)/2Δt
={g(x1 +c(t-Δt)-g(x1 +c(t+Δt))}/2Δt
=-∂g(x1 +ct)/∂t……………(2)
となり、それぞれの演算結果は、進行波・後退波のみの関係で表される。(2)式を積分すれば(3)式のように、x1 点における進行波・後退波に分離することができる。
f(x1 -ct)=1/2Δt∫{y(x1 ,t+Δt)-y(x2 ,t)}dt
g(x1 +ct)=-1/2Δt∫{y(x1 ,t-Δt)-y(x2 ,t)}dt……………(3)
【0010】
(2)傾斜法波動分離の原理:
トロリ線を伝播する波動y(x,t)が、前述のように、同様に、(1)式で表されるとする。
∂y/∂t-c(∂y/∂x)=2{∂f(x-ct)/∂t}
∂y/∂t+c(∂y/∂x)=2{∂g(x+ct)/∂t}……(4)
であるから、これを積分すると、
f(x-ct)=1/2{y(x,t)-c∫∂y(x,t)/∂x)dt}
g(x+ct)=1/2{y(x,t)+c∫∂y(x,t)/∂x)dt}
……………(5)
で表される。したがってトロリ線の変位と傾斜が測定できれば、進行波・後退波に分離することができる。本発明においては、2点の変位から近似的に、
∂y(x,t)/∂x={y(x2 ,t)-y(x1 ,t)}/Δx ……………(6)
として、傾斜を求めることとした。
【0011】
上記の両方法とも、式から明らかなように、測定する振動波形y(x,t)が変位・速度・加速度のいずれであっても分離可能である。以下では、加速度波形を分離測定する場合について述べる。また時間差法と傾斜法は処理方法が異なるものの、測定方法はこの場合同じである。加速度計(上下)は、図1に示すようにΔxの間隔で2個取り付ける。
【0012】
周波数範囲:
上記方法では、現在のところトロリ線の波動伝播速度が一定の範囲に限られる。すなわち分離測定できる波動の周波数範囲は、トロリ線が弦とみなせる0~60Hz程度(網干光雄・真鍋克士:「トロリ線波動伝播速度の測定方法」、日本機械学会第74期全大No.2914, (1996-9) )、または十分狭い周波数範囲に限られる。しかし、請求項2及び4(傾斜法波動分離による)においては、測定された傾斜波形∂y(x,t)/∂xを積分した波形を周波数分解して(フーリエ変換)、その振幅にのみ各々の周波数に対する波動伝播速度Cを乗じ、さらにこれらを合成する(逆フーリエ変換)方法を用いる等の対策を施せば、本発明の適用可能な範囲を広げることができる。なお、積分の際の発散とパンタグラフ押上力によるトロリ線変形の影響を防ぐため、加速度信号は、15Hzのハイパスフィルタを通した後に処理する。
【0013】
測定点の間隔:
加速度計を取り付ける2点の間隔Δxは、(2)または(6)式の近似が満足されるように、取り扱う波長λに比べて十分短いことが必要である。c=100m/s 、最高周波数を60Hzとすれば、最小λ=1.67mとなる。Δx≦0.2mとすれば、90%以上の精度で分離が可能である。
【0014】
図2は、本実施例の測定で、加速度計を用いた測定のブロック図である。
加速度計11及び13からの加速度信号は増幅部21で増幅された後記憶部23で一次的に記憶される。そして加速度信号は演算部24に与えられる。演算部24の上半分は時間差法の演算部であり、下半分は傾斜法の演算部である。
【0015】
時間差法においては、2ケの加速度計の波形差演算(25)を行い、この差を積分(27)する。そして、積分値を適当なゲイン修正を行った後に出力(37)する。
傾斜法では、まず2ケの加速度信号を平均(29)して、上記5式右辺第1項を求める。一方、両加速度信号を差し引きの傾斜(31)を求め、これを一回積分(33)したのち、フーリエ変換(35)を行い周波数成分に分解する。さらに、各周波数に応じた波動伝播速度cを乗じ(37)、これらを逆フーリエ変換(39)することにより、上記5式右辺第2項を求める。これらの処理を行ったのち、進行波、後退波は、それぞれ第1項と第2項との差、和(41)を求め、さらに2で除することによって求めることができる。この方法を用いれば、異なる波動伝播速度を有する波動が混在していても分離することができる。
【0016】
実験結果1、検証実験:
本発明の分離測定方法を検証するため、鉄道総研内の集電試験装置において実施した実験結果について述べる。
実験方法:
集電試験装置は、リニアサイリスタモータにより駆動する走行台車で、実物の架線・パンタグラフを用いて走行実験を行うことができる。架線構造はヘビーコンパウンド架線(トロリ線GT170mm2 /14.7kN)で、パンタグラフはPS200A型を用いた。加速度計は、AS-20HB(20G用:共和電業製)を使用した。図3に示すように、2ケ所のハンガ21、23間のトロリ線1の2ケ所において同じ方法で波動を分離測定し(Δx=0.2m)、それぞれの進行波、後退波の伝播状況が一致することを確認した。なお周波数については、波動伝播速度がほぼ一定の15~60Hzの成分に限定した。
【0017】
実験結果:
図4に、パンタグラフが120km/hで走行した際の波動分離測定例(時間差法による)を示す。A1等は測定された加速度波形を、A12 F、A12 G等はA1、A2から分離されたA1点における進行波・後退波を、またA1 S等はこれらを合成した波形を示す。
進行波A12 F、A34 Fと後退波A34 G、A12 Gともに波形は良く一致しており(A1~A3点間走行中を除く)、その時間差も波動伝播速度での伝播時間(20ms)に相当している。また進行波と後退波を合算した波形A1 S、A3 Sは、測定波形A1、A3とも良く一致していることが分かる。なお、傾斜法についてもほとんど同様な結果が得られており、ともに精度良く波動を分離することができることを確認した。
【0018】
実験結果2、ハンガ種別による伝播特性差異:
以下に、この分離測定方法を用いて、ハンガ種別による波動伝播特性の差異を測定した例(集団試験装置)を示す。加速度計は、ハンガ間(21~23間)のトロリ線に取り付けた(Δx=0.2m)。その他の架線条件・実験条件については、実験結果1と同じである。
【0019】
図5に、パンタグラフが120km/hで走行した際の進行波・後退波の分離測定例(傾斜法による)を、一般ハンガ使用時とダンパハンガ(網干光雄・山浦一郎・平 亘:「ダンパハンガの開発」、電気学会交通・電気鉄道研究会TER-9-13、(1994-5))使用時とで比較して示す。A12 Fは進行波を、またA12 Gは後退波を表す。ダンパハンガを使用することにより、特にパンタグラフ通過前の後退波、通過後の進行波が軽減されているのが分かる。
【0020】
この例のように、この分離測定法を用いることにより、ハンガを介したトロリ線波動の伝播特性や、パンタグラフの離線等の集電性能に与える影響を詳しく分析することが可能となる。
【0021】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明は以下の効果を発揮する。
従来は行われていなかったトロリ線等の波動の進行波・後退波分離を行うことができる。
その結果、トロリ線のハンガやパンタグラフの改良結果の評価等に重要な解析ツールを提供でき、今後の機器・システム開発に大きく寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の1実施例に係る波動分離方法をトロリ線の波動測定に応用する場合の諸元を示す図である。
【図2】本実施例の測定で用いた測定のブロック図である。
【図3】本発明の波動分離方法を実証するために行った実験の様子を示す図である。
【図4】本発明の波動分離方法を実証するために行った実験の結果を示すグラフである。
【図5】本発明の波動分離方法を用いて、一般ハンガとダンパハンガで支持されているトロリ線の波動伝播特性を調べた結果のグラフである。
【符号の説明】
1 トロリ線 3 集電板
5 パンタグラフ 7 車両
11、13 加速度計 21、22 ハンガ
23 記憶部 24 演算部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4