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明細書 :ゲル構造物の製造方法及びこの方法で製造されたゲル構造物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4399596号 (P4399596)
公開番号 特開2006-071368 (P2006-071368A)
登録日 平成21年11月6日(2009.11.6)
発行日 平成22年1月20日(2010.1.20)
公開日 平成18年3月16日(2006.3.16)
発明の名称または考案の名称 ゲル構造物の製造方法及びこの方法で製造されたゲル構造物
国際特許分類 G01N  27/447       (2006.01)
B01J  19/00        (2006.01)
B32B   3/30        (2006.01)
B32B  27/16        (2006.01)
B81B   1/00        (2006.01)
B81C   3/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
G01N  37/00        (2006.01)
FI G01N 27/26 315Z
G01N 27/26 315E
B01J 19/00 321
B32B 3/30
B32B 27/16 101
B81B 1/00
B81C 3/00
C12N 15/00 A
C12Q 1/68 A
G01N 37/00 101
G01N 37/00 102
請求項の数または発明の数 10
全頁数 14
出願番号 特願2004-253184 (P2004-253184)
出願日 平成16年8月31日(2004.8.31)
審査請求日 平成18年7月31日(2006.7.31)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
発明者または考案者 【氏名】西垣 功一
【氏名】三木 英司
【氏名】森 正輝
【氏名】内田 秀和
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査官 【審査官】大竹 秀紀
参考文献・文献 特開2002-148265(JP,A)
特開平07-157717(JP,A)
特開2004-150854(JP,A)
森正輝(外2名),反応・分離・解析を一体としたハイスループット三次元電気泳動システム(4SR)の展開,第26回日本分子生物学会年会 プログラム・講演要旨集,2003年11月25日,p. 918
調査した分野 G01N 27/447
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
内部及び/又は表面に、溝、部屋及び流路の少なくとも1つを有するゲル構造物を製造する方法であって、
光重合性モノマー及び光重合開始剤を含有するモノマー組成物の層に部分的に重合用光を照射して層の一部を重合させてゲル化し、次いで光未照射部分の未反応のモノマー組成物を除去して、溝及び/又は穴を有するゲル状シート(以下、ゲル状シートAという)を作成し、
少なくとも1つの上記溝及び/又は穴を有するゲル状シートAと、溝及び穴を有さない少なくとも1つのゲル状シート(以下、ゲル状シートBという)とを貼り合わせることで、上記溝、部屋及び流路の少なくとも1つを有するゲル構造物を形成し、
ゲル状シートA及びBの少なくとも1つが、未重合の光重合性モノマーが残存する程度に光重合されたものであり、ゲル状シートA及びBを貼り合わせた後に、前記未重合の光重合性モノマーを重合させて、貼り合わせを完了させる、
上記製造方法。
【請求項2】
前記光重合性モノマーがアクリルアミドである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つのゲル状シートAを、このゲル状シートAの両面から2つのゲル状シートBで挟み込んで貼り合わせることで、ゲル構造物を形成する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つのゲル状シートAを、このゲル状シートAの一方の面から少なくとも1つのゲル状シートBを貼り合わせることで、ゲル構造物を形成する請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
溝及び/又は穴の形状及び/又は寸法が異なる2つ以上のゲル状シートAを作成し、これらのゲル状シートAを貼り合わせて用いる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記モノマー組成物が粘度調整剤をさらに含有する請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記粘度調整剤が、糖類、グリセリン類、ポリエチレングリコール、フィコール、パーコールである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
糖類がショ糖である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ゲル構造物が、マイクロ流路反応器、マイクロベッセルまたはマイクロカプセルであり、前記マイクロ流路反応器は、マイクロ反応器及びマイクロ反応器と通じるマイクロ流路を有するものである請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
重合用光の照射を、微細アレー型プロジェクターDMDを用いて行う請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル構造物の製造方法及びこの方法で製造されたゲル構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジー、診断、生化学、医薬品研究等の分野では、多数の生体物質の分析や解析が同時並行して行われている。特に、近年、操作のハイスループット化が進められている。そのために、例えば、マイクロタイタープレート、DNAチップ、プロテインチップ、マルチキャピラリー電気泳動装置等が汎用されている。そして、これらのキットや装置を用いた操作は、できるだけ人手を介さず、ロボット化されることも行われている。
【0003】
生体物質の分析や解析は、まず、何らかの生体反応、例えば、微生物の培養や酵素反応を小スケールで行い、得られた培養物や反応物をさらに分析することで行われる。ここで、培養物や反応物は、培養(反応)容器中でそのまま、例えば、蛍光を測定することで分析することもできるが、例えば、電気泳動による分析の場合、電気泳動装置に培養物や反応物を移送する必要がある。例えば、多数のマイクロピペットを用いて、培養物や反応物を電気泳動装置に移送する。
【0004】
しかし、培養物や反応物の容量が微小化してくると、移送操作自体に困難性が伴う。即ち、微小容量の試料を他の物質の混入を防ぎながら、確実に移送するには、マイクロピペットを微小化し、かつ、洗浄も徹底する必要がある。しかし、近年試料量の微小化はさらに進んでおり、一定以上に容量が小さくなると、移送操作の困難性が急激に増大する。
【0005】
微小容量の試料を用いて核酸配列を決定するために、ミクロゲルホルダーを用いるミクロゲルが提案されている(特表平10-512043号公報(特許文献1))。しかし、このミクロゲルは、あくまでも、ミクロゲルホルダーの微小区画に形成するものであり、このミクロゲルへの試料の移送は必要である。

【特許文献1】特表平10-512043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、容量が微小になっても、反応容器中の培養物や反応物等の試料の移送を容易に行え、場合によっては、そのまま次の分析等の操作に利用できる新たな反応容器等の容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は以下のとおりである。
[請求項1]内部及び/又は表面に、溝、部屋及び流路の少なくとも1つを有するゲル構造物を製造する方法であって、
光重合性モノマー及び光重合開始剤を含有するモノマー組成物の層に部分的に重合用光を照射して層の一部を重合させてゲル化し、次いで光未照射部分の未反応のモノマー組成物を除去して、溝及び/又は穴を有するゲル状シート(以下、ゲル状シートAという)を作成し、
少なくとも1つの上記溝及び/又は穴を有するゲル状シートAと、溝及び穴を有さない少なくとも1つのゲル状シート(以下、ゲル状シートBという)とを貼り合わせることで、上記溝、部屋及び流路の少なくとも1つを有するゲル構造物を形成し、
ゲル状シートA及びBの少なくとも1つが、未重合の光重合性モノマーが残存する程度に光重合されたものであり、ゲル状シートA及びBを貼り合わせた後に、前記未重合の光重合性モノマーを重合させて、貼り合わせを完了させる、
上記製造方法。
[請求項2]前記光重合性モノマーがアクリルアミドである請求項1に記載の方法。
[請求項3]少なくとも1つのゲル状シートAを、このゲル状シートAの両面から2つのゲル状シートBで挟み込んで貼り合わせることで、ゲル構造物を形成する請求項1または2に記載の方法。
[請求項4]少なくとも1つのゲル状シートAを、このゲル状シートAの一方の面から少なくとも1つのゲル状シートBを貼り合わせることで、ゲル構造物を形成する請求項1または2に記載の方法。
[請求項5]溝及び/又は穴の形状及び/又は寸法が異なる2つ以上のゲル状シートAを作成し、これらのゲル状シートAを貼り合わせて用いる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
[請求項6]前記モノマー組成物が粘度調整剤をさらに含有する請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
[請求項7]前記粘度調整剤が、糖類、グリセリン類、ポリエチレングリコール、フィコール、パーコールである請求項6に記載の方法。
[請求項8]糖類がショ糖である請求項7に記載の方法。
[請求項9]ゲル構造物が、マイクロ流路反応器、マイクロベッセルまたはマイクロカプセルであり、前記マイクロ流路反応器は、マイクロ反応器及びマイクロ反応器と通じるマイクロ流路を有するものである請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
[請求項10]重合用光の照射を、微細アレー型プロジェクターDMDを用いて行う請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、容量が微小になっても、反応容器中の培養物や反応物等の試料の移送を容易に行え、場合によっては、そのまま次の分析等の操作に利用できる新たな反応容器等の容器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[ゲル構造物の製造方法]
本発明は、内部及び/又は表面に、溝、部屋及び流路の少なくとも1つを有するゲル構造物を製造する方法である。
本発明におけるゲル構造物は、内部及び/又は表面に、溝、部屋及び流路の少なくとも1つを有するものであれば、特に制限はなく、溝、部屋及び流路の寸法や形状、個数等は適宜選択できる。また、これら溝、部屋及び流路は、ゲル構造物の内部のみに存在しても、表面のみに存在しても、内部及び表面の両方に存在してもよい。本発明の製造方法で製造されるゲル構造物は、例えば、マイクロ流路反応器、マイクロベッセル、マイクロカプセル等であることができる。
【0010】
マイクロ流路反応器は、例えば、図7に示すように、三枚のゲル状シートを重ねて貼り合わせた構造を有するものであることができる。図7においてゲル状シートに貫通した穴が開けられている所が黒く示されている。第2層は、a,b,cの溝を1セットとして繰返した構造であり、aの先端はpの穴に、cの前後(中央を除き)はq1,q2の穴につながっている。q1及びq'2に弁を差し込み、p,p'を開放状態に、q2,q'1を半開放状態にしてpの穴を通じて試料を流し込むことでbの空間に液を貯めることができる。この時p'は、開放孔となる。ここで半開放状態とは弁を軽く差し込んで第1層の穴は塞いでいるが、第2層には達していない状態をさす。その後にq2,q'1の穴を弁で封じればbに通じた液を封じ込めることになり、この状態で反応(培養)を行うことができる。尚、反応溶液(培養液)を隣のb'に送り込むにはq1,p'を閉じ、q2,q'1,q'2を半開放にしてp,p"を開放にし、pから空気又は液体を通じることで追い送ることができる。
【0011】
マイクロベッセルは、例えば、図8のaに示すように、表面に小さな枡状態の穴が並んだ構造物であることができる。図8の例は、32×32=1024穴(24mm平方当り)のものであるが、穴(ウェル)の数には特に制限はない。図8のbはマイクロベッセルの拡大図であり、このゲルの垂直断面(穴を縦に切ったもの)が図8のcに示されている。図8に示すマイクロベッセルの枡(ウェル)は、400×400×1000μm3の容積でこの穴の1つ1つに試料を注ぎ一斉に反応させることができる。
【0012】
形態形成の実施例として、1インチ角に100穴、1024穴、10000穴の四角い穴を開け、マイクロベッセルを作成した。これらのマイクロベッセルの集合体を称してマルチマイクロベッセル(MMV)と呼ぶ。あるいは、マイクロセルとしてゲル中に中空の穴を持つものを作成した。さらには、マイクロ流路を蓋なし、蓋ありの両方式で作成した。
【0013】
ゲル構造物の例としてのマイクロカプセルは、中空セルを有するカプセルである。このようなマイクロカプセルは、例えば、3層重ねのゲル状シート構造において真ん中のゲルのみに穴を開けたものを作製し、これにより、一度に多くの中空セルを形成した後、各中空セルを個々に切り離す(中空セルを維持しつつ)ことで、中空セルを有するマイクロカプセルを作成することができる。このようなゲル状のマイクロカプセルは、例えば、マイクロシリンジを突き刺して中に試料を注入すれば、試料を充填したマイクロカプセルが得られる。そして、ゲルの半透性を利用することで、中空セルに注入した試料を、時間をかけてジワジワと外部に浸出させること、もしくは内部に向かって外部から低分子を浸入させることができる。このようなゲル状のマイクロカプセルは、医薬品の長時間微量投与などの医療応用や嫌気生物の長時間培養への応用も考えられる。
【0014】
本発明の製造方法では、溝及び/又は穴を有するゲル状シート(ゲル状シートA)と、溝及び穴を有さないゲル状シート(ゲル状シートB)を用いる。
ゲル状シートAは、光重合性モノマー及び光重合開始剤を含有するモノマー組成物の層に部分的に重合用光を照射して層の一部を重合させてゲル化し、次いで光未照射部分の未反応のモノマー組成物を除去して作成することができる。
光重合性モノマーは、光重合性を有するモノマーの単独でも、混合物でもよい。光重合性モノマーは、例えば、アクリルアミドであることができる。
光重合開始剤は、使用する光重合性モノマーの種類に応じて適宜選択することができる。光重合性モノマーがアクリルアミドの場合、例えば、リボフラビンを用いることができる。
【0015】
上記モノマー組成物における光重合性モノマーと光重合開始剤の混合比は、例えば、アクリルアミド10~20%のゲルを作成する場合には、例えば、0.005%のリボフラビンを含むモノマー組成物を用いることができる。
【0016】
上記モノマー組成物は、粘度調整剤をさらに含有することができる。粘度調整剤は、モノマー組成物の粘度を上昇させ、光重合の際のモノマー組成物の移動を制限し、ゲル状シートAへの溝及び/又は穴の形成をより高い精度で行うことに役立つ。このような観点から、粘度調整剤は、モノマー組成物(溶液)に添加されて、モノマー組成物の粘度を上昇させることができる物質であれば、特に制限はない。但し、本発明のゲル構造物を利用する際に、ゲル構造物内の空間に保持されるであろう、例えば、生体試料に対して、阻害効果等の悪影響を与えることの無い物質から適宜選択できる。
【0017】
このような観点から、粘度調整剤は、例えば、糖類、グリセリン類、ポリエチレングリコール(PEG)、フィコール、パーコール等であることができる。さらに、糖類としては、例えば、ショ糖、ラクトース、アミロース等を挙げることができる。
【0018】
モノマー組成物は、適当な容器内で、層状(シート状)において、これに部分的に重合用光を照射して層の一部を重合させてゲル化する。重合用光の波長は、光重合開始剤の種類に応じて適宜決定できる。また、重合用光の照射時間や強度も、モノマー組成物もどの程度重合させるかを考慮して適宜決定できる。後述するように、ゲル状シートAは、未重合の光重合性モノマーが残存する程度に光重合されたものとし、このようなゲル状シートAをゲル状シートBと貼り合わせ、さらに未重合の光重合性モノマーを重合させて貼り合わせを完了させることができることから、この点も考慮して、重合用光の照射時間や強度は決定される。
【0019】
重合用光の照射は、部分的に光未照射部分が形成されるように行われる。そのため、例えば、重合用光の照射を、フォトマスクを介して行うことができる。あるいは、重合用光の照射は、微細アレー型プロジェクターDMDを用いて行うこともできる。
【0020】
重合用光の照射の後、光未照射部分の未反応のモノマー組成物を除去して、ゲル状シートAの溝及び/又は穴の形成することができる。未反応のモノマー組成物の除去は、例えば、以下のように行うことができる。中性付近のpHを持つ緩衝液(例えば、50mM Tris-HCl, pH7.4)で洗浄し、未重合のモノマーを洗い落とす。また、直ぐ後に、反応を行うときには、反応に用いる緩衝液を用いてもよい。
【0021】
このように作成したゲル状シートAは、溝及び穴を有さない少なくとも1つのゲル状シート(ゲル状シートB)とを貼り合わせることで、溝、部屋及び流路の少なくとも1つを有するゲル構造物を形成することができる。ゲル状シートBは、重合用光の照射を全面に行うことを除き、ゲル状シートAの作成と同様に行うことができる。
【0022】
ゲル状シートAとゲル状シートBとの組み合わせは、ゲル構造物の構造に応じて適宜選択できる。例えば、少なくとも1つのゲル状シートAを、このゲル状シートAの両面から2つのゲル状シートBで挟み込んで貼り合わせることで、ゲル構造物を形成することができる。また、少なくとも1つのゲル状シートAを、このゲル状シートAの一方の面から少なくとも1つのゲル状シートBを貼り合わせることで、ゲル構造物を形成することもできる。さらに、ゲル状シートAも、溝や穴の構造や寸法等が異なる複数のゲル状シートAを組み合わせて用いることもできる。即ち、溝及び/又は穴の形状及び/又は寸法が異なる2つ以上のゲル状シートAを作成し、これらのゲル状シートAを貼り合わせて用いることもできる。
【0023】
さらに、前述のように、ゲル状シートA及びBの少なくとも1つが、未重合の光重合性モノマーが残存する程度に光重合されたものであり、ゲル状シートA及びBを貼り合わせた後に、前記未重合の光重合性モノマーを重合させて、貼り合わせを完了させることもできる。このようにすることで、貼り合わせを強固に行うことができる。
【0024】
また、予め、ゲル状シートBを形成し、その上に、ゲル状シートAをモノマー組成物の段階から成形することで、ゲル構造物を製造することもできる。これによっても、ゲル状シートA及びBが強固に貼り合わされたゲル構造物を得ることができる。
【0025】
あるいは、既に重合したゲル状シートを2枚重ね合わせる時に間に未重合のアクリルアミド溶液の薄い層を介在させ、光重合することで、2枚のゲル状シートを強固に貼り合わせる(融着させる)こともできる。
【0026】
このようにして得られたゲル構造物は、例えば、光重合性モノマーがアクリルアミドである場合、流路及び反応器の少なくとも一部の壁面がポリアクリルアミドゲルで構成されるマイクロ流路反応器、あるいは、反応器の少なくとも一部の壁面がポリアクリルアミドゲルで構成されるマイクロベッセルであることができる。
【0027】
より具体的に、図7に示すマイクロ流路反応器の作製は、例えば、以下のように行うことができる。先ず第3層を上述のように重合して作製し、その上に第2層用の未重合のゲル溶液を重層し、例えば、DMDを用いてチャネルになる部分を形成する。即ち、チャネルになる部分には光をあてないで未重合のまま残し、重合操作後、洗い落とす。これにより、第2層と第3層の融合したゲルを得ることができる。一方、第1層になるものを別箇に形成するが、重合度は、重合時間を調整して、例えば、95~99%程度になるように停止する。次いで、先に調製しておいた2+3層を上に乗せて、すなわち、下から1、2、3層の順に重ね合わせ、さらに光をあてて、第1層を完全に重合させ、1層と2層を融合する。以上のようにして重合したものから未重合ゲルを洗い落として、ゲル状のマイクロ流路反応器を完成する。
【0028】
図8に示すマイクロベッセルの作製は、例えば、以下のように行うことができる。先ず平面の層を、図7における第3層と同様に、重合して作製し、その上に格子状に穴の空いたゲル層を作成する。そのために、未重合のゲル溶液を平面ゲルに重層し、例えば、DMDを用いて井戸になる部分を形成する。即ち、井戸の部分には光をあてず未重合のままに残し、それ以外の部分には光を当てて重合する。重合操作後、未重合の部分は、水等で洗い流す。これにより、格子状に整列した底のある井戸型の穴の開いた、ゲル状のマイクロベッセルを得ることができる。
【0029】
このようなマイクロ流路反応器あるいはマイクロベッセルを用いることで、流路及び反応容器内で生体反応を行った後に、生成物をマイクロ流路反応器あるいはマイクロベッセルを構成するポリアクリルアミドゲルにそのまま移行させて、次の操作、例えば、電気泳動分離、核酸増幅反応、酵素処理反応、微生物増幅反応等を行うことができる。
【実施例】
【0030】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
実施例1 (フォトレジスト方式)
[方法]
以下のゲル溶液を作製する
ゲル溶液組成
40% Bis - Acrylamide (1:39) 10ml
20×TBE 緩衝液 1.25ml
ショ糖 12.5g
0.001% リボフラビン水溶液 メスアップ
Total 25ml
ここで、Bis - Acrylamide (1:39)とは、N,N'-メチレンビスアクリルアミドとアクリルアミドとを重量比1:39の割合で混合したものを表す。この溶液を重合したゲル上に流し込み図1のようなマスクパターンによりフォトレジスト的に紫外線照射した。マスクパターンと同等の均一な形状を有するウェルが作製された。ウェルの深さは0.5mmであった。(図2参照)
【0031】
実施例2 (DMDを用いた方式)
DMDチップを利用した装置を使用し、光重合開始剤としてリボフラビンを含むアクリルアミドゲル溶液にUV投射してMMVを作成した。
[方法]
以下の手順と組成でゲル溶液を作製する。
1.(1)及び(2)の溶液を作製する。
(1)アクリルアミド-ショ糖溶液
40% Bis - Acrylamide (1:39) 20ml
ショ糖 7.5g
蒸留水 メスアップ
Total 25ml
(2)リボフラビン-ショ糖溶液
20×TBE 緩衝液 2.5ml
リボフラビン 0.025g
蒸留水 12.5ml
Total 15ml
この溶液に熱を加えリボフラビンを融解させる。その後ショ糖17.5g加え、さらに熱を加えショ糖を溶解させて、特級水で25mlまでメスアップした。
【0032】
2.重合前に(1)と(2)を1:1で混合して、20%APS(過硫酸アンモニウム)を10μl/mlの割合で投入した。
最終濃度
Bis - Acrylamide (1:39) 16%
ショ糖 50%(w/v)
APS 0.2%
リボフラビン 0.05%
【0033】
また、重合操作において、段階的な投影方法によりウェル底を形成する方法を採った(図3)。まずゲル溶液に前面投影しウェル底となるベッディングゲルを形成させ、そのベッディングゲルの上にゲル溶液を満たし投影しゲルを部分的に重合させた。(図4)
【0034】
図2のゲルと比較すると、10倍の深さを持のウェルが作製された。また溶液の拡散を減らすためにショ糖を50%入れたことによって均一な貫通したホールが形成された。作製時間においても11秒と瞬間的な投影での作製が可能となった。
ベッディングゲルとホールゲルとの接着性においても、予めショ糖入りのゲル溶液に全面投射したものを使用することによって、接着性を高めることができ、操作性の上でも断然扱い易いものとなった。なお、PCから出力されたデジタルデータを基に容易にUV投射パターンを替えることができ、図4の右図はその性能の高さを示している。
【0035】
実施例3 (MMVを用いた反応と分離)
DMD方式で作製したMMVの個々のウェルにおいて、3SR(等温的核酸増幅)反応を行ない、3次元ゲル電気泳動法により反応産物の鎖長分離を行なった。
[方法]
1、DMD方式により25mm2に9×9の81ウェル(深さ2.5mm)のMMVを作製。
2、そのMMVを反応に用いる以下のバッファー溶液10mlで1時間、2回浸透しMMVからリボフラビンなどの不純物を取り除く。
MMV浸透溶液組成
10×3SR 緩衝液 1ml
50mM DTT 480μl
100mM スペルミジン 200μl
25mM dNTP 400μl
25mM NTP 800μl
蒸留水 メスアップ
Total 10ml
ここで3SR 緩衝液は、以下の組成を有する。
600mM Tris-HCl (pH8.1 at 25℃)
100mM 塩化カリウム
100mM 酢酸マグネシウム
DTTはジチオスレイトール、dNTPはデオキシリボヌクレオシド三リン酸の4種類(即ち、dGTP, dCTP, dTTP, dATP)を示し、NTPは同じくリボヌクレオシド三リン酸の4種類(即ち、GTP, CTP, TTP, ATP)を示す。
【0036】
3、ウェル中の溶液を綺麗に拭き取る。
4、氷上にMMVを置き、個々のウェルに図5のように試料をサンプリングする。
【0037】
RNA-Z反応試料溶液組成
テンプレート (100fmol/μl) 4.0μl
プライマー(40pmol/μl) 0.5μl
10×3SR 緩衝液 10μl
50mM DTT 4.8μl
100mM スペルミジン 2.0μl
25mM dNTP 4.0μl
25mM NTP 8.0μl
2.3mM トレハロース 64μl
HIV-1 RT 1.2μl
TT7 RNAポリメラーゼ 2.0μl
Total 100μl
なお、HIV-1 RTは、ヒト免疫不全ウイルス(AIDSウイルス)1型の逆転写酵素のことであり、TT7 RNAポリメラーゼは耐熱性のT7 RNAポリメラーゼのことである。溶液調製の操作においては、反応を抑えるため0℃で行なった。
【0038】
5、蒸発を防ぐ良伝熱性の専用容器にMMVを収納し、50℃で2時間インキュベーションを行ない、反応させた。
6、専用容器からMMVを取り出し、試料無しの隅の4箇所に色素を入れ、4%-20%のブロッティングゲル(泳動方向に対して4%が上)に泳動した。
7、そのブロッティングゲルを反転させて、10%スライスゲル10枚に色素が10枚目に達するまで泳動させた(80V一定条件、20min)。
8、それぞれのスライスゲルを順に整列させて蛍光観察を行なった。
結果を図5に示す。
【0039】
ブロッティングについて
ブロッティングの結果を図6に示す。MMVにおいて各々のウェルに図5に示すような状態で試料を入れRNA-Z核酸増幅反応を行った後に、一旦ブロッティングゲル(40%と20%のゲルを重ね合わせて作ったもので試料の濃縮に用いる)に泳動し、それを反転して1~10のスライスゲルに対して4SRゲル電気泳動を行った。反応産物の核酸が3の層(一部2の層)に原料のブライマーDNAが9の層(一部8の層)に現れている。3の層においてSの字を囲む黒い枠はプライマーとテンプレートの存在により、核酸増幅反応が正しく進行したことを示し、9の層には、テンプレートがない領域(Sの字の領域)ではプライマーが残っていることを示している。
【0040】
MMVのベッディングゲルが16%であったことと、試料のサンプリング時において、試料の高さが1.5mm程度であったため、そのまま試料を泳動させるとブロードになるため、一度ブロッティングゲルを用い試料のスタッキングを行なった。その後に泳動されたプライマー層においてドットとして確認でき、さらに産物とプライマーがそれぞれ2、3枚に収まっていることから、試料がスタッキングできていることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明により製造されたゲル構造物からなる反応容器等は、バイオサイエンスや診断、さらには、医薬品開発等の広い分野で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】フォトレジスト方式の説明図。
【図2】フォトレジスト方式で作製されたMMVを示す。
【図3】ベッディングゲルの重合の説明図。
【図4】DMD方式で作製されたMMVを示す。上図:10×10個(四角)写真。右図:文字の溝を作製しマーカーを入れた写真。
【図5】MMVでのRNA-Z核酸増幅反応の説明図。図の右側に、各ウェルに添加した試料の種類を示す。
【図6】MMVでの反応と3次元ゲル電気泳動4SRでの分離・反応の結果を示す。
【図7】マイクロ流路反応器の説明図(左から1層目、2層目、3層目)。
【図8】マイクロベッセルの説明図。(a)正面図、(b)正面拡大図、(c)断面図
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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