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明細書 :多種微量試料の注入、移行方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3978500号 (P3978500)
公開番号 特開2006-224034 (P2006-224034A)
登録日 平成19年7月6日(2007.7.6)
発行日 平成19年9月19日(2007.9.19)
公開日 平成18年8月31日(2006.8.31)
発明の名称または考案の名称 多種微量試料の注入、移行方法
国際特許分類 G01N  35/10        (2006.01)
B01J  19/00        (2006.01)
FI G01N 35/06 A
B01J 19/00 321
請求項の数または発明の数 17
全頁数 19
出願番号 特願2005-042885 (P2005-042885)
出願日 平成17年2月18日(2005.2.18)
審査請求日 平成18年10月30日(2006.10.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
発明者または考案者 【氏名】西垣 功一
【氏名】田山 貴紘
【氏名】木下 保則
【氏名】内田 秀和
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査官 【審査官】福田 裕司
参考文献・文献 特開2001-509272(JP,A)
特表2005-528102(JP,A)
特表2001-517789(JP,A)
特表2002-502955(JP,A)
特表2005-512026(JP,A)
特開2005-118985(JP,A)
国際公開第03/102578(WO,A1)
国際公開第02/041996(WO,A1)
調査した分野 G01N 35/10
G01N 37/00
G01N 1/20
特許請求の範囲 【請求項1】
少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなるマルチウエルプレートのウェル内に溶液を注入する方法であって、
前記ウェルは、前記ウェルの開口が上向きの状態で、マルチウエルプレートを静置したときには、前記ウェルの開口が前記溶液で覆われても、ウェル内に溶液は注入されない、寸法、形状および表面状態を有し、
前記マルチウエルプレートの前記ウェルを有する主表面上に溶液を置き、ウェルの開口から底の向に、遠心力を与えて前記溶液を前記ウェル内に注入する、
前記方法。
【請求項2】
前記遠心力が10g以上である請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項3】
前記ウェルの開口の最大内径が、5mm以下である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記遠心力が20g以上である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ウェルの開口の最大内径が、1mm以下である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記遠心力が100g以上である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ウェルの内容量が、10μl以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ウェルの内容量が、1μl以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記マルチウエルプレートは、1000個以上のウェルを有する請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
複数の開口を有するフィルターを、前記主表面上に置き、さらにこのフィルター上に溶液を置き、ウェルの開口から底の向に遠心力を与えて、前記フィルターの開口を介して、前記溶液を前記ウェル内に注入する、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記フィルターを介して、前記複数のウェルの一部のウェル内に溶液を注入する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなるマルチウエルプレート(1)のウェル内に、少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなるマルチウエルプレート(2)の少なくとも一部のウェルから、このウェル内に格納された溶液の少なくとも一部を移行させる方法であって、
前記マルチウエルプレート(1)のウェルは、前記ウェルの開口が上向きの状態で、マルチウエルプレート(1)を静置したときには、前記ウェルの開口が前記溶液で覆われても、ウェル内に溶液は注入されない、寸法、形状および表面状態を有し、
前記マルチウエルプレート(2)のウェルは、前記ウェルの開口が下向きの状態で、マルチウエルプレート(2)を静置したときに、前記ウェル内の溶液が、ウェルから流出しない、寸法、形状および表面状態を有し、
前記マルチウエルプレート(1)とマルチウエルプレート(2)とを、両プレートが有する少なくとも一部のウェル同士が対向するように固定し、前記マルチウエルプレート(1)のウェルの開口から底の向に、遠心力を与えて前記マルチウエルプレート(2)のウェル内の溶液を前記マルチウエルプレート(1)のウェル内に注入する、前記方法。
【請求項13】
複数の開口を有するフィルターを、前記マルチウエルプレート(1)とマルチウエルプレート(2)との間に置き、マルチウエルプレート(1)のウェルの開口から底の向に遠心力を与えて、前記フィルターの開口を介して、前記溶液の移行を行う、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記フィルターを介して、前記複数のウェルの一部のウェル内に溶液を移行させる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記マルチウエルプレート(1)のウェルとマルチウエルプレート(2)のウェルの開口寸法および形状、ならびに配列が、同一である請求項12~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記マルチウエルプレート(1)のウェルとマルチウエルプレート(2)のウェルの開口寸法および形状、容量ならびに配列の少なくとも一部が相違する請求項12~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記遠心力が100g以上である請求項12~16のいずれか1項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、多種の微量液体試料の容器への同時並列的注入、移行方法に関する。特に本発明は、進化工学、製薬、食品、バイオベンチャ、臨床検査機関、化合物質毒性検査機関などにおいて、多種の微量液体試料を反応させる際に必要となる、試料の分取を同時並列に行うことができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多種(例えば、1000以上)、微量(例えば、サブナノリットル)試料をプレートに塗布もしくは結合させて並べ、同時に同一処理を行うマイクロプレートとしては、実用化されている。一方、個々の試料を個別のビーズに結合し、操作する方式(on-beads法)も開発されている。
【0003】
しかし、従来の方式では、プレートに試料を塗布するための特別な装置(マイクロプロッターやマイクロディスペンサー)を必要とし、その操作にも手間と時間がかかった。また、そのように塗布したものを反応させるには通常、一定の反応条件のみが可能で、異なる反応条件に移すとしても、すべての試料を同一の反応条件に曝すことになり、1000を越える多種の試料について、異なる段階の反応を行ったり、それらすべてを個々に異なる反応条件にさらすということはできなかった。一方、ビーズを用い、そこに個別の試料を結合し操作する方式(on-beads法)もあるが、従来これらのビーズを個々に分けて(空間分離し)、操作することはなかった。その理由は個別に分離する操作に特別な装置の開発が必要であり、それらの装置を用いても分離・配置に手間がかかったし、その後の処理も容易な方式(すなわち、同時並列・迅速に試料を移行させる方式)が提案されていなかった。1000を越える異なる反応条件を作成する簡便な方式も考案されていなかった。
【0004】
一方、多数の(マルチ)マイクロウェルを有する基板(プレート)で、例えば、PCRのような生化学反応を同時に行うことが良く知られている(特開平5-317030号公報(特許文献1))。そして、マイクロウェルの容量をより小さくし、尚且つ良好に反応を進行させるための改良もなされている(WO2002/025289(特許文献2))。しかるに、従来のマルチマイクロウェルを用いた方法や装置では、他種類の試料について、同時に反応は行うが、各反応の条件は同一であり、個々のウェルの反応条件を個別にコントロールすることは行われていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、同一の試料について、反応液の組成について異なる条件で反応を行い、その結果について検討したい場合が多々ある。しかし、そのような場合、反応液の組成を各容器(ウェル)について個別に調整する必要があるが、その数が、1000を越えると、そのような調整は現実的ではなく、実際に行われることはほとんどない。その代りに、通常は、実験計画法を用いて、各条件について代表的な設定で実験を行い、結果を演繹することが行われている。
【0006】
これは、1000を越える容器(ウェル)に反応液を充填する手間が係るという問題と、さらに、その際、組成を変化させる必要があるという問題があるからである。
【0007】
そこで、本発明は、1000を越える容器(ウェル)であっても、かつ容器(ウェル)の寸法、形状および表面状態が容器(ウェル)内への溶液の流入を許容しないものであっても、簡単に反応液等の溶液を充填できる方法を提供することを第一の目的とする。
さらに、本発明は、1000を越える容器(ウェル)であっても、かつ容器(ウェル)の寸法、形状および表面状態が容器(ウェル)内への溶液の流入を許容しないものであっても、簡単に反応液等の溶液を充填でき、かつその際、組成の変化も容易につけることができる方法を提供することを第二の目的とする。
特に本発明は、容器(ウェル)の容量が微小であっても、上記操作が可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
[請求項1]少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなるマルチウエルプレートのウェル内に溶液を注入する方法であって、
前記ウェルは、前記ウェルの開口が上向きの状態で、マルチウエルプレートを静置したときには、前記ウェルの開口が前記溶液で覆われても、ウェル内に溶液は注入されない、寸法、形状および表面状態を有し、
前記マルチウエルプレートの前記ウェルを有する主表面上に溶液を置き、ウェルの開口から底の向に、遠心力を与えて前記溶液を前記ウェル内に注入する、
前記方法。
[請求項2]前記遠心力が10g以上である請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
[請求項3]前記ウェルの開口の最大内径が、5mm以下である請求項1に記載の方法。
[請求項4]前記遠心力が20g以上である請求項3に記載の方法。
[請求項5]前記ウェルの開口の最大内径が、1mm以下である請求項1に記載の方法。
[請求項6]前記遠心力が100g以上である請求項5に記載の方法。
[請求項7]前記ウェルの内容量が、10μl以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
[請求項8]前記ウェルの内容量が、1μl以下である請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
[請求項9]前記マルチウエルプレートは、1000個以上のウェルを有する請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
[請求項10]複数の開口を有するフィルターを、前記主表面上に置き、さらにこのフィルター上に溶液を置き、ウェルの開口から底の向に遠心力を与えて、前記フィルターの開口を介して、前記溶液を前記ウェル内に注入する、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
[請求項11]前記フィルターを介して、前記複数のウェルの一部のウェル内に溶液を注入する請求項10に記載の方法。
[請求項12]少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなるマルチウエルプレート(1)のウェル内に、少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなるマルチウエルプレート(2)の少なくとも一部のウェルから、このウェル内に格納された溶液の少なくとも一部を移行させる方法であって、
前記マルチウエルプレート(1)のウェルは、前記ウェルの開口が上向きの状態で、マルチウエルプレート(1)を静置したときには、前記ウェルの開口が前記溶液で覆われても、ウェル内に溶液は注入されない、寸法、形状および表面状態を有し、
前記マルチウエルプレート(2)のウェルは、前記ウェルの開口が下向きの状態で、マルチウエルプレート(2)を静置したときに、前記ウェル内の溶液が、ウェルから流出しない、寸法、形状および表面状態を有し、
前記マルチウエルプレート(1)とマルチウエルプレート(2)とを、両プレートが有する少なくとも一部のウェル同士が対向するように固定し、前記マルチウエルプレート(1)のウェルの開口から底の向に、遠心力を与えて前記マルチウエルプレート(2)のウェル内の溶液を前記マルチウエルプレート(1)のウェル内に注入する、前記方法。
[請求項13]複数の開口を有するフィルターを、前記マルチウエルプレート(1)とマルチウエルプレート(2)との間に置き、マルチウエルプレート(1)のウェルの開口から底の向に遠心力を与えて、前記フィルターの開口を介して、前記溶液の移行を行う、請求項12に記載の方法。
[請求項14]前記フィルターを介して、前記複数のウェルの一部のウェル内に溶液を移行させる請求項13に記載の方法。
[請求項15]前記マルチウエルプレート(1)のウェルとマルチウエルプレート(2)のウェルの開口寸法および形状、ならびに配列が、同一である請求項12~14のいずれか1項に記載の方法。
[請求項16]前記マルチウエルプレート(1)のウェルとマルチウエルプレート(2)のウェルの開口寸法および形状、容量ならびに配列の少なくとも一部が相違する請求項12~14のいずれか1項に記載の方法。
[請求項17]前記遠心力が100g以上である請求項12~16のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、これまで、実現しなかった極微量多種試料の同時並列取り扱い(注入、メスアップ、移送、重層、分割、計量等)が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[溶液注入方法]
本発明の第1の態様は、少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなるマルチウエルプレートのウェル内に溶液を注入する方法である。
本発明の方法に用いるマルチウエルプレート(以下、MMV(Multi Micro Vessel)(多重並列微小容器)と呼ぶこともある)は、少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなる。複数のウェルは、主表面に設けられても良いし、いずれか一方の主表面だけに設けられても良い。マルチウエルプレートの一方の主表面に設けられるウェルの数には特に制限はないが、例えば、平方インチ(2.5×2.5cm2)当たり1000個以上であり、1000~100,000の範囲とすることができる。ウェルの数は、マルチウエルプレートを用いる目的に応じて適宜決定できる。
【0011】
ウェルの内容量には特に制限はなく、基板の大きさ、ウェルの数、反応(溶液の容量)等を考慮して、適宜決定される。ウェルの内容量は、例えば、10μl以下であることができ、1μl以下であることもできる。基板の材質には特に制限はなく、例えば、プラスチック、シリコン、ゲル等からなることができる。
【0012】
前記ウェルは、ウェルの開口が上向きの状態で、マルチウエルプレートを静置したときには、ウェルの開口がウェルに充填されるべき溶液で覆われても、ウェル内に溶液は注入されない、寸法、形状および表面状態を有する。即ち、ウェルの開口がある程度の大きさを有する場合、ウェルを設けた主表面に一定量以上の溶液を置けば、溶液は自然とウェル内に流れ込み、充填される。しかるに、ウェルの開口の寸法が一定以下になると、表面張力により、溶液は自然とはウェル内に流れ込まず、マイクロシリンジ等を使用して、注入する必要がある。このような現象は、ウェルの開口の寸法のみならず、ウェルの開口の形状およびウェルの開口およびウェル内の表面状態(特に、開口に近い部分の表面状態)によっても生じる。さらには、ウェル内に注入しようとする溶液(液体)の物性よっても、このような現象は生じる。本発明の方法は、このように、ウェルを設けた主表面に一定量以上の溶液を置いても、溶液が自然とはウェル内に流れ込まない、マルチウエルプレートについて、ウェル内に溶液を注入する方法である。
【0013】
ウェルを設けた主表面に一定量以上の溶液を置いても、溶液が自然とはウェル内に流れ込まないウェルは、ウェルの寸法、形状および表面状態により決まるが、例えば、ウェルの開口の最大内径が、5mm以下である場合、ほとんどの場合、溶液は自然とはウェル内に流れ込まない。さらに、3mm以下である場合、通常、溶液は自然とはウェル内に流れ込まない。ウェルの開口の最大内径が、1mm以下である場合、溶液が自然とウェル内に流れ込むことはなく、本発明の方法の効果が最も良く発揮される。
【0014】
ウェルの開口の形状には特に制限はないが、例えば、円形、方形(正方形、長方形)、菱形、多角形(例えば、六角形、八角形等)等であることができる。さらに、ウェルの開口は、突出した端(リップ)のあるものや、逆に端を面取りしたものであることもできる。
【0015】
ウェルの深さは、ウェルの開口の寸法とウェル内に充填する溶液の容量等を考慮して、適宜決定される。一般に、ウェルの開口の寸法に対するウェルの深さの割合が大きいほど、溶液はウェル内に充填されにくく、本発明の方法は、ウェルの開口の寸法に対するウェルの深さの比率が、1以上である場合に特に有効であり、ウェルの開口の寸法に対するウェルの深さの比率が2以上である場合にも有効に機能する。ウェルの開口の寸法に対するウェルの深さの比率は、例えば、1~10の範囲であることができ、2~8の範囲であることが好ましく、2.5~5の範囲であることがより好ましい。但し、ウェルの深さは、あくまでもウェル内に充填されるべき溶液の容量とウェルの開口の寸法を考慮して適宜決定されるものであり、本発明の方法は、ウェルの開口の寸法に対するウェルの深さの比率が、10を超えても問題なく機能する、即ち、溶液の充填は可能である。また、本発明の方法によれば、ウェルが底のないタイプ(即ち、チューブ状)のものであることもでき、その場合、適当な条件(例えば、遠心力)に調整することにより、ウェル(チューブ)の中程までに溶液を注入したり、反対側まで通り抜けさせることもできる。
【0016】
マルチウエルプレートを構成する基板の厚みは、上記ウェルの深さと、マルチウエルプレートに要求される強度、特に、ウェルの底に要求される強度を考慮して、適宜決定される。通常、基板の厚みは、上記ウェルの深さと同程度以上であることが適当である。ウェルの正面々面の4辺は細工のない切りっぱなし場合と、一定の高さの縁を設けた盛り上がりのある場合とがあり得る。
【0017】
本発明の方法では、上記マルチウエルプレートのウェルを有する主表面上に溶液を置き、次いで、ウェルの開口から底の向に、遠心力を与えることで、溶液をウェル内に注入する。遠心力は、ウェル開口の寸法等、ウェルへの溶液の流れ込みの困難さを考慮して、適宜決定されるが、例えば、10g以上であることができる。例えば、ウェルの開口の最大内径が、5mm以下である場合、遠心力は20g以上であることが好ましい。さらに、ウェルの開口の最大内径が、1mm以下である場合、遠心力は100g以上であることが好ましく、より好ましくは100~2000gの範囲である。但し、ウェルの形状や容量等によっては、さらに高い遠心力を与えることも可能である。
【0018】
本発明の方法を、図1を参照してさらに説明する。図1には、遠心管内にMMVを設置したところの説明図である。使用した遠心管の底が平面ではない(球面である)ため、遠心管内にMMVの設置面が水平になるようアガロースゲルを充填した(アガロースゲルの表面が水平になるように)。但し、アガロースゲルである必要はなく、それ以外の材料を使用しても良いし、底が平面である遠心管を準備し、使用することもできる。遠心管内のアガロースゲルの上面にMMVを乗せ、次いでMMVのウェル内に充填する試料溶液を入れる(図の左側)。図では、試料溶液として大腸菌溶液を用いている。次いで、この遠心管を遠心分離機に装着し、所定の遠心力が係るように、遠心する。遠心により、ウェル内に試料溶液が注入される(図の右側)。
【0019】
遠心による溶液の注入に際しては遠心力がかかること、MMV設置面が平らであること、試料溶液をMMVの上面に満たすこと、が満たされれば遠心管以外の治具を用いることもできる。例えば、底が平らな容器にMMVを設置し、次いでその上に試料溶液をいれ、手動で容器を回転させることでも遠心力を与えて溶液をMMVのウェル内に注入することは可能である。
【0020】
本発明の方法においては、複数の開口を有するフィルターを、マルチウエルプレートの主表面上に置き、さらにこのフィルター上に溶液を置き、ウェルの開口から底の向に遠心力を与えて、前記フィルターの開口を介して、前記溶液を前記ウェル内に注入することもできる。フィルターを用いることで、一部のウェルのみに、溶液を注入することができる。フィルターの開口のパターンは、用途に応じて適宜決定できる。フィルターの例を図2に示す。
【0021】
図2に、フィルター1~10を示す。黒丸が溶液通過部分となる開口である。また、図の右下にこのフィルターを組み合わせて用いるマルチウエルプレートを示す。黒丸がウェルであり、縦および横の列に、それぞれ32個のウェルが設けられ、合計1024個のウェルがある。
フィルター1は、1行おきに、1行の開口(1行32個)を合計16行を設けてある。
フィルター2は、2行おきに、2行の開口(1行32個)合計16行を設けてある。
フィルター3は、4行おきに、4行の開口(1行32個)合計16行を設けてある。
フィルター4は、8行おきに、8行の開口(1行32個)合計16行を設けてある。
フィルター5~8は、フィルター1~4の縦と横(行と列)を入れ換えたものである。
フィルター9および10は半分の面に16行または16列の開口(1行または1列32個) 合計16行または16列を設けてある。
【0022】
上記フィルターを用い、かつ注入する溶液の種類を変えて複数回、溶液の注入をすることで、ウェル内の溶液組成をコントロールすることが可能になる。図2に示す、10枚のフィルターを順次用い、フィルター毎に異なる組成の溶液をMMVに注入する。具体的には、MMVにフィルター1を乗せ本発明の遠心法による一斉溶液注入を行う。これにより溶液が入ったウェルと入らないウェルが、フィルター1のパターンどおりに行われる。この操作を順次フィルター2からフィルター10まで行う。そうすることで、1つのウェルに関して異なった溶液が入る、または入らない、という選択が10回なされることとなる。つまりこの操作により210通りの組成の異なる溶液が充填される。即ち、1024あるウェルに210=1024通りの組成の異なる溶液が充填される。
【0023】
図2の右下のように1024のウェルを有するMMVの左上のウェルから、ウェル0~ウェル1023とアドレスをつけていく。これを整理する。10枚のフィルターによって1024通りの溶液環境が実現したとき、1つのウェルの溶液状態を10桁(各フィルターによる溶液注入が桁となる。10枚なので10桁。)の2進法(1つのフィルターに関して溶液が入るとき1、入らないとき0とする)で表すと、ウェル0の溶液状態は[0000000000]となる。また、ウェル1023は[1111111111]となる。このように、本発明の方法において、フィルターを用いることで、ウェル内に充填される組成を、自由にかつ容易に(少ない手間で)調整することが可能である。
【0024】
本発明の方法で、ウェル内に充填される溶液は、特に限定されないが、進化工学、製薬、食品、バイオベンチャ、臨床検査機関、化合物質毒性検査機関などにおいて、多種の微量液体試料を反応させる際に使用される反応液や培養液等を挙げることができる。例えば、微生物の種を同定する際に行う栄養要求テスト(アミノ酸、糖、ビタミンや無機イオンなど)やある生物種の遺伝子変異テスト(すなわち、新たな栄養要求性や、環境耐性を調べること)を行う上で、多種の条件検討を並列処理することが容易になる。特に、遺伝子の種類によっては、各々1成分の欠乏では症状は軽いが、2つ以上の成分が同時に欠けたときに生育阻害を受ける場合がある(漏出変異体などで見られる。補完的代謝系が存在するときにこのような現象が見られる。)。このような時にどのような成分の組み合わせが原因しているかを探査するのに本方法は、膨大な種類の組み合わせを同時に実現するので有効である。たった2成分に関してもそれらの量的なものが問題になる場合も同様なことが言える。たとえば、ある種の酵素活性においてMg++とMn++の代替性があるとして、それぞれがどのような濃度のときに最適化するのかは、それぞれの濃度たとえば、0.1mMから1Mまでの範囲を(仮に30条件:0.1mM, 0.2mM、0.3mM・・・)種々に変えて、組み合わせるだけでもぼうだいな(900条件)種類になる。これをほぼ一度に行うことを可能としている。
【0025】
[溶液移行方法]
本発明の第2の態様は、少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなるマルチウエルプレート(1)のウェル内に、少なくとも一方の主表面に複数のウェルを有する基板からなるマルチウエルプレート(2)の少なくとも一部のウェルから、このウェル内に格納された溶液の少なくとも一部を移行させる方法である。
【0026】
本発明の第2の態様では、2枚のマルチウエルプレートを用い、一方のマルチウエルプレート(2)のウェル内の溶液を他方のマルチウエルプレート(1)のウェル内に移送する。その際、マルチウエルプレート(2)のウェルは、ウェルの開口が下向きの状態で、マルチウエルプレート(2)を静置したときに、前記ウェル内の溶液が、ウェルから流出しない、寸法、形状および表面状態を有する。これ以外の点については、マルチウエルプレート(2)は、上記第1の態様で説明したマルチウエルプレートと同様であることができる。さらに、マルチウエルプレート(1)は、ウェルの開口が下向きの状態で、マルチウエルプレート(1)を静置したときに、ウェル内の溶液が、ウェルから流出しない、寸法、形状および表面状態を有するものである必要は必ずしもないが、そのようなものであってもよい。あるいは、マルチウエルプレート(1)は、上記第1の態様で説明したマルチウエルプレートと同様に、ウェルの開口が上向きの状態で、マルチウエルプレートを静置したときに、ウェルの開口が溶液で覆われても、ウェル内に溶液は注入されない、寸法、形状および表面状態を有するものであることもできる。但し、それに限定されない。それ以外の点は、マルチウエルプレート(1)は、上記第1の態様で説明したマルチウエルプレートと同様であることができる。
【0027】
本発明の第2の態様では、マルチウエルプレート(1)とマルチウエルプレート(2)とを、両プレートが有する少なくとも一部のウェル同士が対向するように固定し、マルチウエルプレート(1)のウェルの開口から底の向に、遠心力を与えて前記マルチウエルプレート(2)のウェル内の溶液を前記マルチウエルプレート(1)のウェル内に注入する。この様子は、図3に示す通りである。遠心力は、上記第1の態様におけると同様に、例えば、10g以上であることができる。マルチウエルプレート(1)とマルチウエルプレート(2)との固定は、溶液の移行がウェルの間のみで良好に行われるように、マルチウエルプレート(1)のウェルを有する主表面とマルチウエルプレート(2) のウェルを有する主表面とが隙間なく密着するように、行われることが好ましい。そのために、両プレートの上記主表面は、平面性と平滑性に優れたものであることが好ましく、かつ両プレートを固定する治具を用いることが好ましい場合もある。
【0028】
マルチウエルプレート(1)のウェルとマルチウエルプレート(2)のウェルの開口寸法および形状、ならびに配列は、例えば、図3に示すように、同一であることができる。あるいは、マルチウエルプレート(1)のウェルとマルチウエルプレート(2)のウェルの開口寸法および形状、容量ならびに配列の少なくとも一部が相違することもできる。例えば、マルチウエルプレート(1)のウェルとマルチウエルプレート(2)のウェルの形状を、マルチウエルプレート(1)の1つの開口が、マルチウエルプレート(2)の2つ以上の開口と対向するよう選択することもできる。(図4(A))あるいは、マルチウエルプレート(1)のウェルとマルチウエルプレート(2)のウェルの形状を、マルチウエルプレート(1)の2つ以上の開口が、マルチウエルプレート(2)の1つの開口と対向するように、選択することもできる。(図4(B))そのような場合、互いの開口が上手くマッチするように、各ウェルの開口形状を選択することができる。
【0029】
さらに、マルチウエルプレート(1)とマルチウエルプレート(2)のウェルは、図3に示すように、全てのウェルが対向するように固定されても良いし、一部のウェルのみが対向するように固定されても良い。(図4(C))また、マルチウエルプレート(1)とマルチウエルプレート(2)のウェルは、同一の開口形状を有していても良いし、異なる開口形状を有していても良い。(図4(D))
【0030】
加えて、複数の開口を有するフィルターを、マルチウエルプレート(1)とマルチウエルプレート(2)との間に置き、マルチウエルプレート(1)のウェルの開口から底の向に遠心力を与えて、前記フィルターの開口を介して、前記溶液の移行を行うこともできる。ここで使用するフィルターは、前記第1の態様で説明したと同様のものであることができる。フィルターを介することで、複数のウェルの一部のウェル内に溶液を移行させることができる。また、使用するフィルターは1枚に限らず、複数枚を重ねて使用することもできる。そうすることで、少ない枚数のフィルターで、開口のパターンをバリエーションを多くすることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
実施例1
MMV作製
マルチウエルプレート(MMV)にはドライタイプ(SU-8等のプラスチック)とウエットタイプ(アクリルアミドゲル)とがある。本実施例では、アクリルアミドゲルにより作成するMMVを用いる場合について説明する。但し、ドライタイプのマルチウエルプレートを用いても同様に実施できる。
【0032】
超高圧水銀ランプの強力な光はインテグレーターと呼ばれるフライアイレンズを通ることによって光がぼやけ全体に均一に光があたるようになる。それを反射させDMDTMにあてパソコンから入力されるデジタルパターンデータと同じパターンをゲル溶液に投影する。リボフラビンの作用により紫外光が当たるところでは重合しゲル化する。逆に紫外光があたらないところは重合が開始せず液体のままで除去され空間を形成する。(図5)この原理を利用して、図6に示す形状の2通りのMMV(a)および(b)を作成した。
【0033】
この2形状のMMVを作成するために、MMVの重合過程である紫外光照射の際、段階的な投影方法を採用した。(図7)。
MMV (a)の場合:まずゲル溶液に紫外光を全面投影しウェル底となるベッティングゲルを形成させ、そのベッティングゲルの上にゲル溶液を満たし紫外線を投影しウェルを形成する。その後洗浄しウェル中のゲル化していないゲル溶液を取り除く。ウェルの寸法を図8に示す。
(b)の場合:まずゲル溶液に小さい穴を形成するマスクで紫外線を照射し、その上にゲル溶液を満たし大きい穴を形成するマスクで紫外線を照射する。その後ゲル化していないゲル溶液を洗浄し取り除く。つぎにあらかじめ作成しておいたベッティングゲルに2重の穴が形成されているゲルをのせ紫外線を照射することで接着させる。
【0034】
ゲル溶液組成は以下の通りである。
40% Bis - Acrylamide (1:39) 10ml
20×TBE 緩衝液 1.25ml
ショ糖 12.5g
0.001% リボフラビン水溶液 メスアップ
Total 25ml
ここで、Bis - Acrylamide (1:39)とは、N,N'-メチレンビスアクリルアミドとアクリルアミドとを重量比1:39の割合で混合したものを表す。この溶液を重合したゲル上に流し込み図7のようなマスクパターンによりフォトレジスト的に紫外線照射した。マスクパターンと同等の均一な形状を有するウェルが作製された。
【0035】
実施例2
[MMVでの大腸菌培養]
反応器としてのMMV利用のひとつである大腸菌培養を行った。
[方法]
(1)使用したMMVは25mm平方内に100個のウェル、1024個のウェルを持つ16%ポリアクリルアミドゲルMMVである。
(2)MMV、スライスゲルのゲルバッファを交換する。MMV1枚に対し1×SSC 300m lで45分緩やかに振とうした。この操作を2回行った。
(3)バッファ交換を行ったMMVのウェル中のバッファを取り除いた。その方法として乾熱滅菌済みのろ紙によってウェル中から吸い出す操作を行った。
(4)緑色蛍光タンパク(GFP)産生大腸菌TOP10をあらかじめMMV各ウェル中1匹いるかいないか程度の濃度としMMV中全ウェルに大腸菌溶液を満たした。大腸菌溶液をMMV各ウェルに満たす方法として本発明の遠心法(図1)を採用した。大腸菌溶液に浸しただけではMMVの各ウェルに大腸菌溶液は流れ込まないが、約1000gの遠心をかけることで、全てのウェルに大腸菌溶液を充填できた。
(5)大腸菌溶液を満たしたMMVをシャーレに移し、バッファ交換をしたスライスゲルをMMVの上に載せ1×SSC雰囲気としシャーレに封をし、フ卵器にて37℃18時間培養した。(図9)
(6)培養後GFPの蛍光を蛍光強度測定装置にて検出することで大腸菌が増殖していることを検出した。結果を図10に示す。
【0036】
[レプリカ作成]
確率的に分布して大腸菌が増殖したMMVを元にそのパターンとまったく同じパターンのMMVを作成した。
[方法]
レプリカを作成する元としたMMVは上記で大腸菌培養を行ったMMVである。
(1)上記MMVでの大腸菌培養に記載したようにMMVで大腸菌培養した。このとき確率的に大腸菌が入っているウェル入っていないウェルが存在するように遠心法によって大腸菌溶液をウェルに満たす際、図10に示すように、大腸菌溶液濃度を適切に調整した。
(2)大腸菌培養したMMVに新しいMMV(1×SSCでバッファ交換、ウェル中の溶液の吸い出し済み)をウェル同士が対応するように重ね遠心管にいれ、1000gで遠心することでウェル中の溶液を新しいウェルに移動させた。(図3)
(3)両MMVのウェルにLB培地を満たし37℃で18時間培養した。
(4)培養後GFPの蛍光を蛍光強度測定装置にて検出することで大腸菌が増殖していることを検出した。結果を図11に示す。図の左側が、元になったMMVであり、右側が転写したMMVである。両者において検出された蛍光を発するウェルのパターンはほぼ一致しており、大腸菌を含む溶液のウェル間の移動が良好に行われたことが分かる。尚、上記遠心においては、一部の大腸菌溶液が元になったMMVのウェル内に残存し、それが培養の結果、検出されている。
【0037】
上記実施例において、正常に形成された1024穴MMVを用い、確率的にそれぞれの穴に期待値として1細胞大腸菌が存在するように遠心的注入を行い、37℃での培養を続けた結果、図10にみるように、増殖に成功しコロニーが観測可能となった穴が見られた。それらの穴の分布はポアソン分布的となった。これは、遠心によって一斉に大腸菌を注入することに成功していることや、このMMVが大腸菌培養の容器として機能することを示している。この場合蛍光性のたんぱく質(緑色蛍光たんぱく質GFP)を内包する大腸菌であるために、その蛍光性がサイドからの観察で緑色に光って見えることで示されている。
さらに、培養成功したMMVと同型の1024穴MMVを用いて、top-to-topに重ね合わせ、遠心し,試料を一斉移送した(図3参照)。ここで、試料が移り空になった方のMMVに新鮮な培地を遠心注入し、培養して、(ほぼ)同型のパターンであるレプリカをえた(図11参照)。これは、同時並列移送が可能であることを示している。
【0038】
尚、図3では、溶液の移送は、1回のみであったが、図12に示すように複数種の溶液を逐次移送することも可能であり、その結果、所望の組成を有する溶液をウェル内に充填することもできる。さらにその際、前述したフィルターを用いることで、意図したウェル内の組成を適宜変化させて調整することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、進化工学、製薬、食品、バイオベンチャ、臨床検査機関、化合物質毒性検査機関などにおいて、多種の微量液体試料を反応させる際に必要となる、試料の分取を同時並列に行う分野に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の方法(第1の態様)の説明図。
【図2】本発明の方法で用いるフィルターの例の概略図。
【図3】本発明の方法(第2の態様)の説明図。
【図4】本発明の方法(第2の態様)の説明図。
【図5】MMV作成原理の説明図。
【図6】MMV作成方法説明図。
【図7】MMV作成方法説明図。
【図8】MMVの1つウェルの説明図。
【図9】MMVを用いた培養状況の説明図。
【図10】MMVを用いた培養結果(上は蛍光強度測定装置による画像、下は写真)。
【図11】レプリカ作成の様子の蛍光強度測定装置による画像(左は元、右が複写(レプリカ))。
【図12】複数種溶液の逐次移送の説明図。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
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【図5】
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【図6】
5
【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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