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明細書 :鏡面溝形成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4378482号 (P4378482)
公開番号 特開2007-230798 (P2007-230798A)
登録日 平成21年10月2日(2009.10.2)
発行日 平成21年12月9日(2009.12.9)
公開日 平成19年9月13日(2007.9.13)
発明の名称または考案の名称 鏡面溝形成方法
国際特許分類 C03C  23/00        (2006.01)
B23K  26/00        (2006.01)
C03B  33/02        (2006.01)
FI C03C 23/00 D
B23K 26/00 D
B23K 26/00 G
C03B 33/02
請求項の数または発明の数 3
全頁数 11
出願番号 特願2006-051967 (P2006-051967)
出願日 平成18年2月28日(2006.2.28)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成17年9月1日 社団法人精密工学会発行の「2005年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集」に発表
審査請求日 平成18年11月15日(2006.11.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
発明者または考案者 【氏名】池野 順一
個別代理人の代理人 【識別番号】100100918、【弁理士】、【氏名又は名称】大橋 公治
【識別番号】100108729、【弁理士】、【氏名又は名称】林 紘樹
審査官 【審査官】山崎 直也
参考文献・文献 特開2005-274368(JP,A)
特開2005-208044(JP,A)
特開2003-088989(JP,A)
特開2005-062832(JP,A)
調査した分野 C03C 15/00-23/00
B23K 26/00
C03B 33/00-33/14
特許請求の範囲 【請求項1】
結晶化ガラスの溝形成位置にレーザ光を走査しながら照射して照射箇所の結晶化ガラスを非晶質に変質させ、非晶質化した部分を剥離させて溝を形成することを特徴とする鏡面溝形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の鏡面溝形成方法であって、前記結晶化ガラスを常温より低い温度に冷却して前記レーザを照射することを特徴とする鏡面溝形成方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鏡面溝形成方法であって、前記結晶化ガラスとしてLi2O-Al2O3-SiO2系低膨張結晶化ガラスを使用することを特徴とする鏡面溝形成方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス上に微細な鏡面の溝を形成する方法関し、特に、レーザを用いて鏡面溝を形成できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス板上に微細な溝を形成したマイクロ化学チップが、生体の分析や化学分析に多用されている。
図11は、マイクロ化学チップの一例を示している。マイクロ化学チップは、ガラス板上に幅数十~数百μm、深さ数十μmの溝を形成し、その上に平坦なガラス板を重ねて、そのガラス板に溝への導入口を形成したものであり、流路となる微細な溝に血液や試薬などを流し、その流路内で混合、反応、分離、検出などが行われる。この溝は、液体を流す都合上、鏡面であることが求められており、現在、半導体加工技術を利用してエッチングなどによって溝が作成されている(非特許文献1)。

【非特許文献1】http://www.nsg.co.jp/products/bio/microchip/chip/products.html「日本板硝子 製品案内」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、半導体加工技術でマイクロ化学チップを製造する場合は、完成までに数十日以上を要し、多額の費用が掛かる。マイクロ化学チップには様々なニーズがあり、多品種少量生産が求められているため、半導体加工技術には不向きである。
本発明は、こうした事情を考慮して創案したものであり、微細な鏡面溝を手軽に形成することができる鏡面溝形成方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の鏡面溝形成方法では、結晶化ガラスの溝形成位置にレーザ光を走査しながら照射して照射箇所の結晶化ガラスを非晶質に変質させ、非晶質化した部分を剥離させて溝を形成する。
この方法では、結晶化ガラスに変態応力と熱応力とが作用して非晶質化した部分が剥離し、その結果、溝が形成される。
【0005】
また、本発明の鏡面溝形成方法では、前記結晶化ガラスを常温より低い温度に冷却してレーザを照射する。
こうすると、熱応力の作用が増加して、非晶質化した部分の剥離割合が向上する。
【0006】
また、本願発明の鏡面溝形成方法では、前記結晶化ガラスとしてLi2O-Al2O3-SiO2系低膨張結晶化ガラスを使用する。
Li2O-Al2O3-SiO2系低膨張結晶化ガラスは、非晶質化すると熱膨張係数が一桁増加するため、大きな変態応力が得られる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の鏡面溝形成方法は、大掛かりな装置を必要とせずに実施することができ、マイクロ化学チップなどの装置を短時間で製作することができる
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の鏡面溝形成方法に用いる装置を示している。
この装置は、試料20にレーザ光を走査しながら照射するためのものであり、レーザを発振するCWCO2レーザ10と、レーザ光のビーム径を拡大するエキスパンダ11と、ミラー12、13と、レーザ光を走査するガルバノミラー14と、ガルバノミラー14を制御するパソコン17と、走査光を歪まないように集光するf-θレンズ15と、試料20を載置するステージ16とを有している。
【0010】
試料20には、Li2O-Al2O3-SiO2系低膨張結晶化ガラスを使用し、CWCO2レーザ10からは、結晶化ガラスへの吸収性が良い波長λ:10.59μmのレーザ光(ビーム径4mm)を発振させている。このレーザ光は、エキスパンダ11でビーム径が3.5倍の14mmに拡大され、PC17で制御されたガルバノミラー14により走査光とされ、走査位置によって焦点の大きさが歪まないようにf-θレンズ15で集光されて試料20に照射される。集光時のスポット径は約200μmである。
試料20のLi2O-Al2O3-SiO2系低膨張結晶化ガラスは、加熱され屈服点を超えると非晶質化する。この結晶化ガラスの常温での熱膨張係数は-3×10-7/℃であり、加熱されて非晶質化すると熱膨張係数が4.2×10-6/℃に増加する。
【0011】
図2は、試料20に直線の鏡面溝を形成する際の様子を示している。レーザ光18は、焦点位置をガラス(試料20)表面に設定し、照射出力:1.8W、走査速度:8.0mm/s、照射距離:20.0mmの条件で照射している。
また、図3は、鏡面溝が形成される様子を模式的に示している。レーザ光18が照射された位置の試料20が非晶質化し、この非晶質部分22が剥離して鏡面の溝21が残される。非晶質部分22の剥離は、レーザ照射後数秒から数十秒が経過すると自然に生じる。剥離が自然に開始しないときは、針や指で軽く衝撃を与えたり、超音波を当てると剥離する。
【0012】
図4(a)は、剥離した非晶質部分22の拡大写真を示し、図4(b)は、形成された鏡面溝21を示している。
また、図5は、鏡面溝21の断面を非接触3次元形状測定装置(三鷹光器製、NH-3NT)で測定した結果を示している。この溝は、溝深さ:40μm、溝幅:160μmであり、また、粗さ測定の結果は、最大高さ(Rz):47.5nm、平均高さ(Ra):14.3nmであり、鏡面が形成されていることを示している。
【0013】
この溝は、解析の結果から、次のようなメカニズムで形成されると考えられる。
レーザ光に照射された部分の結晶化ガラスは、加熱によって非晶質化する。結晶化ガラスは殆ど熱膨張しないが、非晶質部分の熱膨張係数は結晶化ガラスに比べて一桁大きいため、非晶質部分は加熱によって急膨張する。その結果、非晶質部分とその周囲との境界に引っ張り応力が発生し、非晶質部分周辺にクラックが発生する。加熱が終了し室温まで冷却される過程で、結晶化ガラスは収縮しないが非晶質部分は収縮する。そのため、非晶質部分が結晶化ガラスから剥離する。
このように、材料が変質し膨張係数が極端に大きく変化することから生じる応力(変態応力)と熱応力とが作用して非晶質部分の剥離が発生し、それにより溝ができる。
【0014】
図6は、結晶化ガラスの一部が非晶質化する前後での応力分布の変化を解析した結果について示している。図6(a)の(1)は、加熱部分が792℃であって非晶質化していない状態での引張応力分布を示し、同(2)は、加熱部分が801℃に達して非晶質化した直後(0.088秒後)の引張応力分布を示し、同(3)は、加熱部分が900℃に達した、非晶質化の0.1秒後の引張応力分布を示している。また、図6(b)は、(3)の時点の溝境界における引張応力ベクトルを示している。これらの解析結果から、結晶化ガラスの変態によって、非晶質部分とその周囲との境界に大きな引っ張り応力が発生していることが分かる。
【0015】
また、この鏡面溝形成方法では、レーザ照射の軌跡を変えることで溝の形状を任意に設定することができる。図7は、結晶化ガラスにsin波形の鏡面溝を形成する際の様子を示している。レーザ光は、焦点位置をガラス表面に設定し、照射出力:1.8W、走査速度:7.0mm/s、照射距離:20.0mmの条件で照射を行い、振幅が0.5mmのsin波形の溝を形成している。
図8(a)には、形成した溝の全体形状を示し、また、図8(b)には、溝の断面を前記非接触3次元形状測定装置で測定した結果を示している。この溝は、溝深さ:40μm、溝幅:200μmであり、粗さ測定の結果は、最大高さ(Rz):48.8nm、平均高さ(Ra):13.9nmであった。
【0016】
なお、試料にレーザ光を照射しても、非晶質部分の剥離が発生しない場合がある。図9は、レーザ光の照射距離に対する剥離長さの比(%)を「剥離割合」として、レーザ光の走査速度と剥離割合との関係について調査した結果を示している。ここではレーザ照射出力を1.8Wに設定している。この場合、走査速度が7mm/sのとき、高い割合で剥離が発生するが、走査速度がそれより遅いと、剥離割合が低下し、また、走査速度がそれよりも速いと、剥離割合が大幅に低下する。
最適な走査速度は、レーザ照射出力に関係しており、照射出力を36Wに高めたテストでは、走査速度が434.8mm/sのときに最適な状態が得られている。
【0017】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態では、剥離割合の向上を図るための方法について説明する。
この方法では、試料を冷却し、低温状態の試料にレーザ光を照射して鏡面溝を形成する。こうすると、溝形成の際に変態応力と共に作用する熱応力が増加し、非晶質部分が剥離しやすくなる。
【0018】
図10は、試料の結晶化ガラスを0℃に冷却し、この試料に照射出力:1.7W、走査速度:8.0mm/s、照射距離:20.0mmの条件でレーザ光を照射して溝を形成した場合と、冷却せずに同じ条件でレーザ光を照射して溝を形成した場合との剥離割合を示している。試料を冷却した場合は、加熱終了後の非晶質部分の収縮が増大し、熱応力が増えて非晶質部分の剥離が進行する。
【0019】
また、試料表面温度を-16℃に設定し、この試料に照射出力:36W、走査速度:434.8mm/s、照射距離:20.0mmの条件でレーザ光を照射して溝を形成した場合は、100%の剥離割合が得られている。
【0020】
このように、本願発明の鏡面溝形成方法では、試料にレーザ光を照射して照射箇所を変質させ、試料に変態応力と熱応力とを作用させて溝を形成している。
この方法は、大きな規模の装置を必要とせず、実験室レベルでも実施することができる。また、試料に対するレーザの照射位置を制御することは容易であるから、この方法をマイクロ化学チップ等の溝入れ加工が必要な装置の製作に適用して、ニーズに応じた製品を短時間で、かつ、安価に製造することができる。
【0021】
なお、ここで示した照射出力、走査速度、照射距離などの値は、一例であって、本発明は、それに限るものではない。
また、ここではLi2O-Al2O3-SiO2系低膨張結晶化ガラスを使用する例について説明したが、本発明では、変態応力を発生する材料であれば、その他の材料でも使用可能である。
また、鏡面溝形成に使用するレーザは、CO2レーザ以外であっても良く、使用する材料に応じて、YAGレーザ、エキシマレーザ、半導体レーザ、フェムト秒レーザ(超短パルスレーザ)、YVO4レーザ、YLFレーザなどを使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、バイオテクノロジー、医学分野、薬学・化学分野等で求められているマイクロ化学チップ等の装置を製造する際に極めて有用な技術である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施形態における鏡面溝形成方法で使用する装置を示す図
【図2】本発明の第1の実施形態における鏡面溝形成方法で直線の溝を形成する方法を示す図
【図3】本発明の第1の実施形態における鏡面溝形成方法で溝が形成される様子を模式的に示す図
【図4】本発明の第1の実施形態における鏡面溝形成方法で形成された非晶質部分と溝とを示す図
【図5】本発明の第1の実施形態における鏡面溝形成方法で形成された直線溝の測定結果を示す図
【図6】本発明の第1の実施形態における鏡面溝形成方法で形成される非晶質部分の応力分布を示す図
【図7】本発明の第1の実施形態における鏡面溝形成方法で曲線の溝を形成する方法を示す図
【図8】本発明の第1の実施形態における鏡面溝形成方法で形成された曲線溝の全体像(a)と、測定結果(b)とを示す図
【図9】本発明の第1の実施形態における鏡面溝形成方法での溝の剥離割合を示す図
【図10】本発明の第2の実施形態における鏡面溝形成方法での溝の剥離割合を第1の実施形態と対比して示す図
【図11】マイクロ化学チップを示す図
【符号の説明】
【0024】
10 CWCO2レーザ
11 エキスパンダ
12 ミラー
13 ミラー
14 ガルバノミラー
15 f-θレンズ
16 ステージ
17 パソコン
18 レーザ光
20 試料
21 鏡面溝
22 非晶質部分
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10