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明細書 :超伝導フォトン検出器

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4822715号 (P4822715)
公開番号 特開2006-216795 (P2006-216795A)
登録日 平成23年9月16日(2011.9.16)
発行日 平成23年11月24日(2011.11.24)
公開日 平成18年8月17日(2006.8.17)
発明の名称または考案の名称 超伝導フォトン検出器
国際特許分類 H01L  39/22        (2006.01)
G01T   1/24        (2006.01)
G01T   1/36        (2006.01)
H01L  31/08        (2006.01)
G01J   1/02        (2006.01)
FI H01L 39/22 ZAAA
G01T 1/24
G01T 1/36 D
H01L 31/08
G01J 1/02 B
請求項の数または発明の数 3
全頁数 11
出願番号 特願2005-028261 (P2005-028261)
出願日 平成17年2月3日(2005.2.3)
審査請求日 平成19年12月18日(2007.12.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
発明者または考案者 【氏名】田井野 徹
【氏名】明連 広昭
【氏名】高田 進
【氏名】吉田 昌代
【氏名】仲川 博
【氏名】菊地 克弥
【氏名】青柳 昌宏
【氏名】赤穗 博司
個別代理人の代理人 【識別番号】100100918、【弁理士】、【氏名又は名称】大橋 公治
【識別番号】100108729、【弁理士】、【氏名又は名称】林 紘樹
審査官 【審査官】正山 旭
参考文献・文献 特開2003-344549(JP,A)
特開平07-273380(JP,A)
特開昭60-149181(JP,A)
特開平03-154386(JP,A)
調査した分野 H01L 39/22
G01T 1/24
G01T 1/36
H01L 31/08
G01J 1/02
特許請求の範囲 【請求項1】
基板上に積層された下部超伝導電極、トンネルバリア及び上部超伝導電極を有する超伝導フォトン検出器であって、
前記基板と前記下部超伝導電極との間に介在し、前記基板から入射する音響波の反射係数の絶対値が透過係数の絶対値よりも大きい材料で形成されたフォノン遮蔽層を備える超伝導フォトン検出器。
【請求項2】
請求項1に記載の超伝導フォトン検出器であって、前記上部超伝導電極の上に積層された絶縁層と、前記絶縁層の上に形成され、前記絶縁層の孔を通じて前記下部超伝導電極または上部超伝導電極に接続する配線電極とを備え、前記絶縁層の一部が除去されて、前記上部超伝導電極または下部超伝導電極の少なくとも一部が露出している超伝導フォトン検出器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の超伝導フォトン検出器であって、前記フォノン遮蔽層がポリイミドの膜から成る超伝導フォトン検出器。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光からX線領域までのフォトンの測定が可能な超伝導フォトン検出器に関し、特に、低ノイズ化を実現したものである。
【背景技術】
【0002】
フォトン検出器は、医学分野でのレントゲン撮影や、未知の天体から飛来する光や宇宙線のエネルギーの検出、あるいは、半導体製造プロセス中の汚染物質の分析などに幅広く応用されている。
従来、フォトンを計測する検出器として、主に半導体検出器が用いられて来たが、超伝導トンネル接合を利用してフォトンを検出する超伝導フォトン検出器は、半導体検出器に比較して、エネルギー分解能(近接するエネルギーを弁別する分解能)が高く、高速での観測が可能であるため、次世代のフォトン検出器として期待を集めている。
【0003】
超伝導フォトン検出器は、図7の模式図に示すように、超伝導体31及び33が絶縁体32で隔てられたサンドイッチ構造の超伝導トンネル接合素子を有している。この素子は、超伝導転移温度の1/10程度の温度に冷却され、また、磁場が印加されて、超伝導状態を担うクーパー対によるトンネル電流が流れないようにされている。この素子に光子が入射すると、クーパー対が壊れて準粒子が生成され、準粒子によるトンネル電流が増加する。このトンネル電流の増加を測定することにより、入射した光子の数やエネルギーを知ることができる。
半導体のエネルギーギャップは1eV程度であるが、超伝導フォトン検出器の場合、超伝導エネルギーギャップが数meVと小さいため、光子のエネルギーで励起されるキャリアー数(準粒子数)が多く、半導体フォトン検出器に比べて高精度の検出が可能になる。
【0004】
下記非特許文献1には、超伝導トンネル接合素子の製造方法が記載されている。この方法では、フォトリソグラフィ技術を用いて、直径が7.5cmのSi基板上に面積が50μm×50μmの接合素子を多数個形成している。
図8は、この製造方法で形成された超伝導トンネル接合素子の1つの断面を示している。この素子は、Si基板14上に、Si基板14をエッチングから保護するMgO膜15を備え、その上に、微細形状にエッチング加工された、Nbから成る下部超伝導電極13、Al/AlOxから成るトンネルバリア12、及び、Nbから成る上部超伝導電極11の積層体を備え、その上にコーティングされた絶縁用のポリイミド膜16と、ポリイミド膜16のビアホールを通じて下部超伝導電極13及び上部超伝導電極11に接続する配線電極17、18とを備えている。
Si基板14の厚さは400mmであり、MgO膜15は50nm、下部超伝導電極13及び上部超伝導電極11はそれぞれ200nm、トンネルバリア12は15nmの各厚さを有している。
【0005】
ポリイミド膜16は、ポリイミドの状態で溶媒可溶性を有するポリイミド材料にジアゾナフトキノン系の感光材を添加した感光性溶媒可溶ポリイミドを塗布し、溶媒を飛ばすための加熱処理を施して形成している。このポリイミド膜16は、配線電極層を下層から絶縁する絶縁層として設けられており、ポリイミド膜の厚さは、200nm~600nmである。この膜にフォトリソグラフィ技術でビアホールを形成し、その上の全面に配線電極層を600nmの厚さに堆積し、不要部分をエッチングで除いて、所定パターンの配線電極17、18を形成している。
素子の加工を終えたSi基板を5mm四方のチップに切断し、このチップを用いて超伝導フォトン検出器が作成される。このように超伝導トンネル接合素子をアレイ化することで検出器の有感面積を稼ぐことができる。
また、従来の超伝導トンネル接合素子では、配線電極の絶縁層をSiO2で形成したものや、Si基板14上のエッチング保護膜をAl23で形成したもの、また、基板にAl23(sapphire)を使用したものなども知られている。

【非特許文献1】IEEE TRANSACTIONS ON APPLIED SUPERCONDUCTIVITY,VOL.13,NO.2,JUNE 2003,pp.119~122
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の超伝導フォトン検出器では、低エネルギーのノイズが検出される。図9は、従来の超伝導フォトン検出器を用いて5.9KeVのエネルギーを有するX線を観測した結果を示している。この図の横軸は光子のエネルギーを示し、縦軸は光子の計測数を示している。図9が示すように、X線のエネルギーに相当する5.9KeVの箇所で計測数のピークが現れているが、それと共に、0.5eV以下の低エネルギーの高ノイズが検出されている。
このノイズの発生は、図10に示すように、超伝導トンネル接合以外の部分に入射したフォトンが、膜厚の薄い絶縁層16及びエッチング保護膜15を透過して基板14にまで達し、このフォトンのエネルギーを吸収した基板14が振動してフォノンを発生することが原因している。
【0007】
このフォノンが、基板14を伝わり、エッチング保護膜15を介して超伝導トンネル接合の下部超伝導電極13に達すると、クーパー対が崩壊し、準粒子が発生してトンネル接合のトンネル電流が増加する。フォノンのエネルギーは低く、また、基板14内で多量の数のフォノンが発生するため、フォノンイベントによるノイズは、図9に示すように、低エネルギーの領域において極めて高い値を示す。
そのため、可視光を観測するときのように、識別しようとする光のエネルギーが小さい場合には、そのエネルギースペクトルがフォノンイベントによるスペクトルの中に埋もれて、検出することができなくなる。
【0008】
本発明は、こうした従来の問題点を解決するものであり、フォノンイベントによる低エネルギーのノイズを除去することができる超伝導フォトン検出器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の超伝導フォトン検出器は、基板と下部超伝導電極との間に介在し、基板から入射する音響波の反射係数の絶対値が透過係数の絶対値よりも大きい材料で形成されたフォノン遮蔽層を備えている。
このフォノン遮蔽層は、基板から下部超伝導電極に入力するフォノンを遮断する。
【0010】
また、本発明の超伝導フォトン検出器は、上部超伝導電極の上に積層された絶縁層と、この絶縁層の上に形成され、絶縁層の孔を通じて下部超伝導電極または上部超伝導電極に接続する配線電極とを備え、この絶縁層の一部が除去されて、上部超伝導電極または下部超伝導電極の少なくとも一部が露出している。
この超伝導フォトン検出器では、低エネルギーの光子が、絶縁層でエネルギーを吸収されることなく、露出箇所から超伝導トンネル接合に入射し、フォノンイベントによるノイズに埋もれること無く計測される。
【0011】
また、本発明の超伝導フォトン検出器では、フォノン遮蔽層をポリイミドの膜で形成している。
Si等の基板にポリイミド膜を接合した場合、基板から入射する音響波の接合面での反射係数は極めて大きく、透過係数は極めて小さい。そのため、基板から超伝導トンネル接合へのフォノンの入射を完全に遮蔽することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の超伝導フォトン検出器は、フォノンイベントによる低エネルギーのノイズを除去することができ、低エネルギーの可視光を正確に観測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の実施形態における超伝導フォトン検出器の超伝導トンネル接合素子を示している。
この素子は、Si基板14上に、Si基板14で発生したフォノンが超伝導トンネル接合に伝達するのを遮蔽するポリイミド膜20を備えている。その他の構成は、従来の素子(図8)と同じであり、ポリイミド膜20の上にエッチング保護膜15を有し、エッチング保護膜15の上に、Nbから成る下部超伝導電極13、Al/AlOxから成るトンネルバリア12、Nbから成る上部超伝導電極11、絶縁層16、及び、配線電極17、18を備えている。
【0014】
このフォノン遮蔽用ポリイミド膜20は、前記非特許文献1に記載された溶媒可溶性のポリイミド材料を用いて、スピンコーティング法により成形している。
このポリイミド材料は、株式会社ピーアイ技術研究所から市販されている。このポリイミド材料を溶媒に溶かしてSi基板上に滴下し、この基板を、回転数を制御しながら回転することにより、所望の膜厚の均一な膜を形成することができる。
図2は、滴下した液に含まれるポリイミド材料の含有量を変えてスピンコーティングを実施したときの基板の回転数と膜厚との関係を示している。この方法により、膜厚が40nm以上の均質な膜を得ることができる。
【0015】
スピンコーティング法で成形した膜を150℃程度の温度で10分間加熱乾燥すると、溶媒が除去されてポリイミド膜が生成する。この処理の間に、ポリイミド材料から「ブロック」と呼ばれる単機能のポリイミドが直接合成され、さらに、ブロックが重合してポリイミドが生成される。
このフォノン遮蔽用ポリイミド膜20を形成したSi基板14の上に、エッチング保護膜15、下部超伝導電極13、トンネルバリア12、上部超伝導電極11、絶縁層16及び配線電極17、18を形成する処理は、従来の素子と同じように行うことができる。
【0016】
図3は、300nmの膜厚のフォノン遮蔽用ポリイミド膜20を設けた超伝導トンネル接合素子を備える超伝導フォトン検出器により5.9KeVのエネルギーを有するX線を観測した結果を示している。図3から明らかなように、この検出器は、フォノンイベントの影響を完全に遮蔽しており、フォノンに対し無雑音の結果が得られている。
こうした現象は、図4に示すように、基板14から遮蔽層20に入射する音響波の反射波Rと透過波Tとを考慮した場合、ポリイミドの遮蔽層20では、反射の割合が高く、透過の割合が低いために現れる。
【0017】
図5(a)には、超伝導トンネル接合素子の基板材料として使われているSi及びAl23(sapphire)、従来の超伝導トンネル接合素子でエッチング保護層として使われているMgO及びAl23(layer)、並びに、この実施形態でフォトン遮蔽層を形成するポリイミドの各体積密度(ρ)、弾性係数(C)、及び固有音響インピーダンス(Z)を示し、図5(b)には、基板がSiまたはAl23(sapphire)であって、この基板にMgO、Al23またはポリイミドを接合した場合の透過係数(T)及び反射係数(R)を示している。
【0018】
ここで、Z=√(ρ・C)である。また、T=1+Rが成り立つ。Rは、基板14の固有音響インピーダンスをZsub、遮蔽層20の固有音響インピーダンスをZbufとするとき、
R=(Zsub-Zbuf)/(Zsub+Zbuf
となり、Tは、
T=2Zbuf/(Zsub+Zbuf
となる。
また、反射係数R及び透過係数Tの大きさを見るため、
a=|R|2
a=1-|R|2=1-Ra
を算出している。
【0019】
図5(b)から明らかなように、MgOやAl23では、基板がSi及びAl23(sapphire)のいずれであっても、反射係数Rの絶対値に比べて透過係数Tの絶対値の方が大きいが、ポリイミドでは、逆に、基板がSi及びAl23(sapphire)のいずれであっても、透過係数Tの絶対値に比べて反射係数Rの絶対値の方が大きい。しかも、透過係数Tの絶対値は、MgOやAl23に比べて、桁違いに小さい。そのため、遮蔽層20を介して下部超伝導電極13に入力するフォノンを完全にシャットアウトすることができる。
【0020】
図6は、エネルギーが低い可視光の観測に適した超伝導フォトン検出器の超伝導トンネル接合素子を示している。この素子は、Si基板14上にフォノン遮蔽用ポリイミド膜20を設けるとともに、上部超伝導電極11及び下部超伝導電極13を覆う絶縁層16を除去して、上部超伝導電極11及び下部超伝導電極13の一部が露出するように構成している。
この超伝導フォトン検出器では、ポリイミド膜20のためにフォノンによる低エネルギーのノイズが遮蔽され、一方、低エネルギーの可視光は、絶縁層16でエネルギーが吸収されること無く、超伝導トンネル接合素子に入射する。そのため、低エネルギーの可視光を、ノイズに埋もれずに計測することができる。
【0021】
なお、フォノン遮蔽に用いるポリイミド膜20の膜厚は、均一な厚さが得られる範囲であれば良い。ポリイミド膜20の膜厚が不均一であると、その後に積層する、極めて薄い超伝導トンネル接合のトンネルバリア12に破断などの損傷が生じ、良好な特性が得られない。
また、ポリイミド材料としては、特開2003-98667号公報に記載されている材料などを使用することもできる。
【0022】
また、ここではフォノン遮蔽層の材料としてポリイミドを用いる場合について説明したが、基板との接合面において、基板から入射する音響波の反射係数の絶対値が透過係数の絶対値より大きくなる材料であって、均一な膜厚が得られる有機材料または無機材料であれば、ポリイミドに代えて用いることができる。
また、ここでは、超伝導トンネル接合素子をエッチングで形成しているため、ポリイミド膜20の上にエッチング保護膜15を設けているが、他の方法で素子を形成する場合には、エッチング保護膜は不要である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の超伝導フォトン検出器は、レントゲン撮影を行う医学分野、星の光や宇宙線を観測する天文分野、半導体製造プロセス中の汚染物質を分析する工業分野など、各種分野において、低エネルギーのフォトンが観測できる検出器として幅広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態における超伝導フォトン検出器の超伝導トンネル接合素子を示す図
【図2】スピンコーティング法でフォノン遮蔽層を形成する場合の回転数と膜厚との関係を示す図
【図3】本発明の実施形態における超伝導フォトン検出器での検出結果を示す図
【図4】基板及びフォノン遮蔽層の接合面での入射波、反射波及び透過波を説明する図
【図5】本発明の実施形態においてフォノン遮蔽層に用いたポリイミド、及び比較材料のパラメータを示す図
【図6】本発明の実施形態における、低エネルギーのフォトン観測に適した超伝導フォトン検出器の超伝導トンネル接合素子を示す図
【図7】超伝導フォトン検出器の原理を説明する図
【図8】従来の超伝導トンネル接合素子の構造を示す図
【図9】従来の超伝導フォトン検出器での検出結果を示す図
【図10】従来の超伝導フォトン検出器におけるノイズ発生原因を説明する図
【符号の説明】
【0025】
11 上部超伝導電極
12 トンネルバリア
13 下部超伝導電極
14 Si基板
15 MgO膜
16 絶縁膜
17 配線電極
18 配線電極
20 フォノン遮蔽層
31 超伝導体
32 絶縁体
33 超伝導体
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9