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明細書 :電気化学応答性多孔質体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5186680号 (P5186680)
公開番号 特開2007-308540 (P2007-308540A)
登録日 平成25年2月1日(2013.2.1)
発行日 平成25年4月17日(2013.4.17)
公開日 平成19年11月29日(2007.11.29)
発明の名称または考案の名称 電気化学応答性多孔質体
国際特許分類 C09K   3/00        (2006.01)
FI C09K 3/00 C
請求項の数または発明の数 5
全頁数 10
出願番号 特願2006-136988 (P2006-136988)
出願日 平成18年5月16日(2006.5.16)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2005年12月18日 Shinji Murai主催の「Pacifichem2005」において文書をもって発表
審査請求日 平成21年3月19日(2009.3.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
発明者または考案者 【氏名】青木 幸一
【氏名】陳 競鳶
【氏名】西海 豊彦
【氏名】石川 匠哉
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】中野 孝一
参考文献・文献 特公昭61-29485(JP,B2)
特開2005-140600(JP,A)
特表2002-523575(JP,A)
調査した分野 C09K3/00、
C09K9/00-9/02
特許請求の範囲 【請求項1】
無機多孔質体の表面水酸基が反応修飾されて電気化学応答性分子が結合固定されている電気化学応答性多孔質体であって、
前記無機多孔質体が、SiO2、B23およびNa2Oを含む組成構成のホウケイ酸ガラスをスピノーダル分相させて分かれたB23-Na2O相を酸で溶解することによって生成させた多孔質ガラスであることを特徴とする電気化学応答性多孔質体。
【請求項2】
前記無機多孔質体が、細孔径50nm以下、BET表面積50m2/g以上である多孔質ガラスであることを特徴とする請求項1の電気化学応答性多孔質体。
【請求項3】
無機多孔質体の表面水酸基の反応修飾による電気化学応答性分子の結合固定は、表面水酸基のシラン結合形成を介していることを特徴とする請求項1又は2の電気化学応答性多孔質体。
【請求項4】
電気化学応答性分子はフェロセン化合物であることを特徴とする請求項1から3のいずれかの電気化学応答性多孔質体。
【請求項5】
前記無機多孔質体の表面水酸基の反応修飾による前記電気化学応答性分子の結合固定は、次式
M-O-Si(OR-R-NH-CO-R
(Mは無機多孔質体を示し、RおよびRは各々炭化水素基を示し、Rは電気化学応答性分子である電気化学応答性基を示す)
で表わされることを特徴とする請求項3の電気化学応答性多孔質体
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、表示素子、センサー素子、電池電極、カラム分離材、触媒等の機能性材料として有用な、新しい電気化学応答性の多孔質体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気応答性物質は、フォトクロミックの特性、光異性化、光学式の非直線性、および酸化触媒作用、感知生体分子、電池電極において不可欠な役割を果たしている。このような電気応答性物質については、これを固体基盤上に固定することによって、その特性を、安定して効率的に実現できると考えられている。
【0003】
これまでにも、たとえば、電気応答性物質を固定化させる技術として、厚さがマイクロオーダーのフィルム状にフェロセン化合物を電気化学応答化合物とするポリビニルフェロセンを電極表面で共重合させて固定化させるものが知られている。
【0004】
しかしながら、このようにフェロセンが固定されたポリマーフィルムでは、フェロセンの溶解や、膨張によるフィルムの厚さの変化、環境依存に対する電位の変化、および幾何学的な変質が避けられないという問題がある。このようなポリマーを用いた修飾法の問題点は、自己集合法やラングミュアーブロジェット法によるフェロセンの単層によるフィルムを作製することで回避できると考えられる。しかし単層にこうした分子を修飾しても、体積に対する坦持効率は低く、安定性や耐久力に乏しく、実用的ではない。
【0005】
一方、本発明者らによってポリスチレン微小球表面にフェロセンを固定した場合の電気化学測定が試みられてもいる(非特許文献1)。
【0006】
だが、この場合にはフェロセンの安定性に問題があった。
このため、これまでのところ、フェロセン化合物のような電気化学応答性を有する分子の機能を実際に利用するための、安定性、耐久性の良好な技術手段についてはほとんど実現されていないと言ってよい。

【非特許文献1】J. Electroanal. Chem, 583(2005) 116-123
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のとおりの背景から、従来技術の問題点を解消し、フェロセン化合物のような電気化学応答性を有する分子の機能を実際に利用するための、体積に対する坦持効率、安定性、耐久性の良好な技術手段を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、以下のことを特徴としている。
【0009】
第1:無機多孔質体の表面水酸基が反応修飾されて電気化学応答性分子が結合固定されている電気化学応答性多孔質体であって、前記無機多孔質体が、SiO2、B23およびNa2Oを含む組成構成のホウケイ酸ガラスをスピノーダル分相させて分かれたB23-Na2O相を酸で溶解することによって生成させた多孔質ガラスである。
【0010】
第2:無機多孔質体が、細孔径50nm以下、BET表面積50m2/g以上である。
【0011】
第3:無機多孔質体の表面水酸基の反応修飾による電気化学応答性分子の結合固定は、表面水酸基のシラン結合形成を介している。
【0012】
第4:電気化学応答性分子はフェロセン化合物である
【0013】
第5:前記無機多孔質体の表面水酸基の反応修飾による前記電気化学応答性分子の結合固定は、次式
M-O-Si(OR-R-NH-CO-R
(Mは無機多孔質体を示し、RおよびRは各々炭化水素基を示し、Rは電気化学応答性分子である電気化学応答性基を示す)で表わされる
【発明の効果】
【0014】
上記のとおりの本発明によれば、硬質の無機多孔質体を用いて電気化学応答性分子を固定することから、従来技術の問題点を解消し、フェロセン化合物のような電気化学応答性を有する分子の機能を実際に利用するための、体積に対する坦持効率、安定性、耐久性の良好な技術手段を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0016】
本発明における電気応答性多孔質体は、無機質多孔質体と電気化学応答性分子、そして無機質多孔質体表面の水酸基の反応修飾構造をその要件とし、電気化学反応性分子は、この反応修飾構造をもって無機多孔質体に結合固定されている。
【0017】
ここでの無機多孔質体は、多孔性の無機質固体であって、その表面の水酸基(OH)を有する各種のものであってよい。たとえば多孔性のガラスあるいはセラミックス、鉱物であってもよい。ガラス、シリカ、シリケート等の各種のものが考慮される。なかでも、本発明においては多孔質ガラスを好適なものの一つとして挙げることができる。
【0018】
ここでの多孔質ガラスは、たとえば、SiO2、B23およびNa2Oをもってその組成構成としているホウケイ酸ガラスをベースとすることができる。たとえば市販品としての米国コーニング社「バイコールガラス(登録商標)」のものを利用することや、公知の方法に沿って調製したものであってもよい。ホウケイ酸ガラスは、たとえば原料としての珪砂、ホウ酸および炭酸ナトリウムの混合物を1200~1500℃で融解し、800~1000℃で成形することにより得られるものである。このものは酸化ホウ素(B23)を含んでいるため、化学的に高い耐久性を持つとともに、熱膨張係数が低いという特徴を有している。その構成の好ましい範囲については、モル比として、SiO2:50~80%、B23:18~30%、Na2O:2~20%を考慮することができる。このようなホウケイ酸ガラスの多孔質体は、好適には530~630℃の温度範囲でスピノーダル分相させてSiO2相とB23-Na2O相とに分け、B23-Na2O相を酸で溶解することにより均一な孔を持った多孔質ガラスとして生成させることができる。スピノーダル分相はガラスの分子が動き出すガラス転移温度で起こる。このスピノーダル分相の温度と、B23-Na2O溶解の酸処理条件とを制御することで、多孔質ガラスの細孔径、そして表面積が制御可能となる。
【0019】
本発明における多孔質ガラスとしては、以上のようなホウケイ酸ガラスをベースとしたものとして、細孔径が50nm以下で、BET表面積が50m2/g以上のものを好ましいものの一つとして例示することができる。
【0020】
多孔質ガラス等の本発明における無機多孔質体はその形状は、粒状、板状、バルク状等の各種とすることができる。その大きさにも特に制限はない。これらの形状や大きさは、本発明の電気化学応答性多孔質体の所要の機能とその応用、用途を考慮して適宜に進めることができる。
【0021】
無機質多孔質体の表面水酸基の反応修飾については、表面水酸基と反応結合する各種の官能基を介して行うことができる。たとえば、Si-O結合(シラン結合)や、S-O結合(スルホン結合)、-S-(スルフィド結合)等を形成することのできる官能基を介することができる。
【0022】
反応修飾により結合固定される電気化学応答性の分子は、これらの官能基を介する修飾によって反応結合させてもよいし、あるいは、これらの官能基を有するスペーサー分子を介する反応によって結合させてもよい。
【0023】
たとえば、次式
(R1O)3Si-R2-NH
(R1およびR2は各々炭化水素基を示す)
で表わされるアミノ・トリアルコキシシランを表面水酸基と反応させて
M-O-Si(OR12-R2-NH2
(Mは、無機多孔質体を示す)
結合を形成し、次いで、
3-CO-OH
(R3は電気化学応答性基を示す)
で表わされるカルボキシ化合物を反応させて、アミド結合を有する、
M-O-Si(OR12-R2-NH-CO-R3
の反応修飾を行うことが可能である。もちろん、この例示のような反応修飾に限定されることなく各種のものが考慮されてよい。
【0024】
上記反応においては、R3(電気化学応答性基)を有する化合物としてシランカップリング基をあらかじめ保持するものを用いて表面水酸基と反応させてよい。
【0025】
また、上記のアミド結合に代えて、スルフィド結合、エステル結合、イミド結合の形成等を考慮してもよい。
【0026】
電気化学応答性分子については、その種類は各種であってよい。たとえばフェロセン化合物をはじめとするイオン交換能や電子移動反応機能等を有する化合物が考慮されてよい。たとえば酸化還元反応により、連続的、可逆的に色を変化させる化合物等がある。
【0027】
電気化学応答性分子としては、たとえば
a)金属錯体として、ルテニウム錯体、パラジウム錯体、金属(鉄、ニッケル、コバルト、銅、あるいはセリウム)ポルフィリン、金属フタロシアニン、メタロセン誘導体(フェロン、コバルトセン)
b)π共役分子として、TCNQ誘導体、TTF誘導体、フェニレンジアミン誘導体、ベンゾキノン誘導体、パラジメトキシベンゼン誘導体
c)多段階の電子移動反応を示す電気化学応答性分子として、フラーレン誘導体、ポリアリルアミン類
等が考慮される。
【0028】
本発明においては、これらの電気化学応答性分子を、硬質で、耐久性、強度が良好で、大きな表面積を有する無機多孔質体に結合固定させることから、水溶液中、有機溶媒中、大気中、高温条件であっても高い安定性を実現することができる。
【0029】
無機多孔質体の表面にどの程度の割合の電気化学応答性分子を結合固定するかは、所定の機能と用途、そして反応修飾の条件や無機多孔質体の表面水酸基の存在等を考慮して定めることができる。
【0030】
本発明によれば、電気化学応答性分子を結合固定した無機多孔質体としては、たとえば表示素子やセンサー素子、電池電極、カラム分離材、触媒等への応用展開が可能となる。
【0031】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって発明が限定されることはない。
【実施例】
【0032】
<A>組成がSiO2:70%、B23:20%、Na2O:10%のホウケイ酸ガラスを原料とし、このものを530~650℃の温度においてスピノーダル分相させ、分かれたB23-Na2O相を酸で溶解して均一な多孔質ガラスを生成させた。細孔直径とBET表面積が次の表1に示した関係にある4種の多孔質ガラスを得た。図1は、細孔直径が30nm、表面積80m2/gの多孔質ガラスのSEM画像を例示したものである。
【0033】
【表1】
JP0005186680B2_000002t.gif
<B>上記の細孔直径30nmの多孔質ガラスを塩酸で煮沸洗浄し、250℃の温度で2時間真空乾燥した。
【0034】
乾燥後の多孔質ガラスを機械的に粉砕し、粒径1μm~1mmの範囲のものとした。このものに、3-アミノプロピルトリエトキシシランを加え、溶媒に乾燥トルエンを用いて110℃で2時間加熱還流させた。次に、機能性分子としてフェロセンカルボン酸、脱水縮合剤としてジシクロヘキシルカルボジイミド、HOBt、溶媒に乾燥2-プロパノールを用いて100℃で24時間加熱還流させ、フェロセニル基をアミド結合反応により固定化させた。固定化の有無を検出する為に電気化学測定、適定実験を行った。
【0035】
これらの結果からフェロセニル基の結合固定が確認された。多孔質ガラスの表面には、次式
【0036】
【化1】
JP0005186680B2_000003t.gif
で表わされるようにフェロセニル基が反応修飾により結合固定されていると考えられる。
【0037】
図2はサイクリックボルタンメトリー:CV(Scan rate:100(mV/s))の結果を示している。左図は、フェロセニル基の結合処理を行っていない多孔質ガラスの場合を、右図は、上記のとおりに多孔質ガラスにフェロセニル基を結合固定した場合を示している。いずれも、5mlアセトニトリル中で、0.1M TBAP添加しての試料50mgとして測定した結果である。
【0038】
CV測定では、溶液中の電極近傍に電気化学活性な化学物質が存在すると、横軸のポテンシャルに対して、縦軸の電流値に対応した電流が電極に流れる。電流は、電極近傍に存在する電気化学活性の化学種の濃度に比例する。
【0039】
図2の左の図では、ピークがなく、多孔質ガラスのみでは、電気化学活性が無いことを示している。
【0040】
一方、右の図は、1種類のペアの電流ピークが存在し、1種類の電気化学的活性な化学種が存在することを示している。また、酸化、還元が安定に速やかに起こっていることを示している。これは、多孔質ガラス表面にフェロセンの大部分が化学的に均一に固定化されている証拠といえる。
【0041】
また、図3は、フェロセン修飾した多孔質ガラスの小片は溶媒中に拡散することを示している。
【0042】
電極に対するフェロセンの電子移動反応は、電流値が、溶媒中の拡散による物質輸送に比例しているので、フェロセン修飾多孔質ガラスは、溶媒中を拡散しており、また、電気化学応答性は十分に早いことがわかる。
【0043】
CV測定の結果から、多孔質ガラスを細かく粉砕させることによって拡散コントロールをえることができ、電流値から、固定されたフェロセンの量が分散した溶液中では、3.61×10-5Mとわかった。
【0044】
酸化剤:過硫酸アンモニウムと、電子メディエーターを用いて、多孔質ガラスに固定化されたフェロセンの量を滴定測定すると、22±2μmol/gとなった。
【0045】
そして、多孔質ガラス表面に固定化されたフェロセニル基の酸化-還元に対応してガラスの色が黄色-緑色に変化することも確認した。化学的に、フェロセニル基に対し酸化還元反応を起こすため、酸化剤に、過硫酸アンモニウム、還元剤には、L-アスコルビン酸を用いた。また、電気化学的に、酸化-還元を繰り返し行うことができた。色の変化を示すスペクトルは図4に示した。
【0046】
この図4は、タングステン光を照射した時の光の強度分布を示しており、左図は酸化時(黄緑色)、右図は還元時(黄色)の状態を示している。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】細孔直径30nmの多孔質ガラスのSEM画像である。
【図2】CVの結果を、フェロセン修飾のない場合の多孔質ガラスの場合(左図)との比較として示した図である。
【図3】Ip vs.v1/2として、フェロセン修飾した多孔質ガラス小片の溶媒中での拡散を示した図である。
【図4】酸化、還元時の色の変化を示すスペクトル図である。
図面
【図2】
0
【図4】
1
【図1】
2
【図3】
3