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明細書 :細菌菌体成分不応答性モデルマウス

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4070216号 (P4070216)
公開番号 特開2006-101884 (P2006-101884A)
登録日 平成20年1月25日(2008.1.25)
発行日 平成20年4月2日(2008.4.2)
公開日 平成18年4月20日(2006.4.20)
発明の名称または考案の名称 細菌菌体成分不応答性モデルマウス
国際特許分類 C12Q   1/02        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12Q 1/02
A01K 67/027
C12N 5/00 B
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 27
全頁数 53
出願番号 特願2005-358329 (P2005-358329)
分割の表示 特願2000-593182 (P2000-593182)の分割、【原出願日】平成12年1月13日(2000.1.13)
出願日 平成17年12月12日(2005.12.12)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 刊行物「Immunity」第9巻 第1号(1998年7月16日発行) 第143-150頁にAdachi O 他を著者として「Targeted Disruption of the MyD88 Gene Results in Loss of IL-1- and IL-18-Mediated Function.」として発表。
特許法第30条第1項適用 刊行物「日本免疫学会総会・学術集会記録」第28巻(1998年10月30日発行) 第3頁にAkira S を著者として「Loss of IL-1- and IL-18-mediated function in MyD88 knockout mice.」として発表。
特許法第30条第1項適用 刊行物「日本免疫学会総会・学術集会記録」第28巻(1998年10月30日発行) 第280頁に河合太郎 他 を著者として「MyD88ノックアウトマウスの作製と解析」として発表。
特許法第30条第1項適用 刊行物「第21回 日本分子生物学会年会 プログラム・講演要旨集」(1998年11月25日発行) 第184頁に河合太郎 他 を著者として「MyD88ノックアウトマウスの作製と解析」として発表。
特許法第30条第1項適用 刊行物「Immunity」第11巻 第4号(1999年10月1日発行) 第443-451頁にTakeuchi O 他を著者として「Differential Roles of TLR2 and TLR4 in Recognition of Gram-Negative and Gram-Positive Bacterial Cell Wall Components.」として発表
優先権出願番号 1999007365
1999228282
1999309238
優先日 平成11年1月14日(1999.1.14)
平成11年8月12日(1999.8.12)
平成11年10月29日(1999.10.29)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成19年1月9日(2007.1.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】審良 静男
【氏名】竹内 理
【氏名】竹田 潔
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
審査官 【審査官】中村 正展
参考文献・文献 Genomics,1997年,vol. 45,332-339
Immunity,1997年,vol. 7,837-847
Science,1997年,vol. 278,1612-1615
Curr. Opin. Immunol.,1998年 2月,vol. 10,12-15
J. Exp. Med.,1998年 6月,vol. 187,2097-2101
FEBS Lett.,1997年,vol. 402,81-84
Oncogene,1996年,vol. 13,2467-2475
調査した分野 C12Q 1/02
C12N 5/10
C12N 15/00- 15/90
A01K 67/027
G01N 33/15
G01N 33/50
JSTPlus(JDream2)
JMEDPlus(JDream2)
PubMed
EMBASE/MEDLINE/WPIDS(STN)
CA/CONFSCI(STN)
SCISEARCH/WPIDS(STN)


特許請求の範囲 【請求項1】
骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損し、細菌菌体成分であるリポタンパク/リポペプチドに対して不応答性である非ヒト動物を細菌菌体成分不応答性モデル動物として使用する方法
【請求項2】
リポタンパク/リポペプチドが、マイコプラズマ属に属する細菌に由来するマクロファージ活性化リポペプチドであることを特徴とする請求項1記載の方法
【請求項3】
細菌菌体成分であるペプチドグリカンに対して不応答性であることを特徴とする請求項1又は2記載の方法
【請求項4】
グラム陽性菌細胞壁画分に対して不応答性であることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の方法
【請求項5】
細菌菌体成分であるグラム陰性細菌由来のエンドトキシンに対して不応答性であることを特徴とする請求項1~4のいずれか記載の方法
【請求項6】
細菌菌体成分であるリポテイコ酸に対して不応答性であることを特徴とする請求項1~5のいずれか記載の方法
【請求項7】
細菌菌体成分である結核菌溶解物に対して不応答性であることを特徴とする請求項1~6のいずれか記載の方法
【請求項8】
非ヒト動物が、齧歯目動物であることを特徴とする請求項1~7のいずれか記載の方法
【請求項9】
齧歯目動物が、マウスであることを特徴とする請求項8記載の方法
【請求項10】
骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損し、細菌菌体成分であるリポタンパク/リポペプチドに対して不応答性である非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞を、細菌菌体成分不応答性モデル細胞として使用する方法。
【請求項11】
骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞と被検物質とをあらかじめインビトロで接触せしめた後、該マクロファージ又は脾臓細胞を細菌菌体成分の存在下で培養し、該マクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の促進物質のスクリーニング方法。
【請求項12】
骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞と被検物質とをあらかじめインビトロで接触せしめた後、該マクロファージ又は脾臓細胞を細菌菌体成分の存在下で培養し、該マクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定し、対照として前記非ヒト動物と同種の野生型非ヒト動物における測定値と比較・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の抑制物質のスクリーニング方法。
【請求項13】
骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞と細菌菌体成分とをあらかじめインビトロで接触せしめた後、該マクロファージ又は脾臓細胞を被検物質の存在下で培養し、該マクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の促進物質のスクリーニング方法。
【請求項14】
骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞と細菌菌体成分とをあらかじめインビトロで接触せしめた後、該マクロファージ又は脾臓細胞を被検物質の存在下で培養し、該マクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定し、対照として前記非ヒト動物と同種の野生型非ヒト動物における測定値と比較・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の抑制物質のスクリーニング方法。
【請求項15】
骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物にあらかじめ被検物質を投与した後、該非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞を細菌菌体成分の存在下で培養し、該マクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の促進物質のスクリーニング方法。
【請求項16】
骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物にあらかじめ被検物質を投与した後、該非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞を細菌菌体成分の存在下で培養し、該マクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定し、対照として前記非ヒト動物と同種の野生型非ヒト動物における測定値と比較・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の抑制物質のスクリーニング方法。
【請求項17】
骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物にあらかじめ被検物質を投与した後、該非ヒト動物を細菌により感染させ、該非ヒト動物から得られるマクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該非ヒト動物から得られる脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の促進物質のスクリーニング方法。
【請求項18】
骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物にあらかじめ被検物質を投与した後、該非ヒト動物を細菌により感染させ、該非ヒト動物から得られるマクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該非ヒト動物から得られる脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定し、対照として前記非ヒト動物と同種の野生型非ヒト動物における測定値と比較・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の抑制物質のスクリーニング方法。
【請求項19】
骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物をあらかじめ細菌により感染させた後、該非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞を被検物質の存在下で培養し、該マクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の促進物質のスクリーニング方法。
【請求項20】
骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物をあらかじめ細菌により感染させた後、該非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞を被検物質の存在下で培養し、該マクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定し、対照として前記非ヒト動物と同種の野生型非ヒト動物における測定値と比較・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の抑制物質のスクリーニング方法。
【請求項21】
骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物をあらかじめ細菌により感染させた後、該非ヒト動物に被検物質を投与し、該非ヒト動物から得られるマクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該非ヒト動物から得られる脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の促進物質のスクリーニング方法。
【請求項22】
骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物をあらかじめ細菌により感染させた後、該非ヒト動物に被検物質を投与し、該非ヒト動物から得られるマクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該非ヒト動物から得られる脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定し、対照として前記非ヒト動物と同種の野生型非ヒト動物における測定値と比較・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の抑制物質のスクリーニング方法。
【請求項23】
骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物にあらかじめ被検物質を投与した後、該非ヒト動物を細菌により感染させ、該非ヒト動物のマクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該非ヒト動物の脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の促進物質のスクリーニング方法。
【請求項24】
骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物にあらかじめ被検物質を投与した後、該非ヒト動物を細菌により感染させ、該非ヒト動物のマクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該非ヒト動物の脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定し、対照として前記非ヒト動物と同種の野生型非ヒト動物における測定値と比較・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の抑制物質のスクリーニング方法。
【請求項25】
骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物をあらかじめ細菌により感染させた後、該非ヒト動物に被検物質を投与し、該非ヒト動物のマクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該非ヒト動物の脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の促進物質のスクリーニング方法。
【請求項26】
骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物をあらかじめ細菌により感染させた後、該非ヒト動物に被検物質を投与し、該非ヒト動物のマクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該非ヒト動物の脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定し、対照として前記非ヒト動物と同種の野生型非ヒト動物における測定値と比較・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の抑制物質のスクリーニング方法。
【請求項27】
細菌菌体成分に対する応答性の抑制物質又は促進物質が、細菌感染症に対する抑制物質又は促進物質であることを特徴とする請求項11~26のいずれか記載のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、マイコプラズマ属、スピロヘータ属、エセリシア属等に属する細菌の菌体成分であるリポタンパク/リポペプチドや、グラム陽性菌の細胞壁画分であるペプチドグリカンやグラム陰性菌の細胞壁画分であるエンドトキシン等の細菌菌体成分に不応答性のモデル非ヒト動物に関し、またこれら細菌菌体成分不応答性モデル非ヒト動物を用いた細菌感染症に対する抑制物質又は促進物質や、TLR2に対するアゴニストやアンタゴニストのスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫反応や感染時の応答、造血、ウイルス感染や腫瘍細胞の障害に重要な役割を果たしている細胞間シグナル伝達物質であるサイトカインの中でも、リンパ球間でシグナルを伝え合うサイトカインはインターロイキン(以下「IL」という)と呼ばれている。このILの中で、IL-1は、様々な免疫反応や炎症反応を介しているサイトカインであり、生体の恒常性維持に関与し、感染時や傷を受けた際に単球、マクロファージ、ケラチノサイト、血管内皮細胞等種々の細胞から産生される。IL-1には、同一のレセプターに結合するIL-1αとIL-1βの2種類が存在することが知られている。また、IL-1は、T細胞の抗原やマイトジェンによる活性化の際に同時に働き、T細胞からIL-2を分泌させIL-2レセプターの発現を増強してT細胞の増殖を誘導することや、単球やマクロファージに作用しTNF-α、IL-1、IL-6の産生を誘導することも知られている。
【0003】
IL-1には、その受容体である2種類のIL-1レセプター(以下「IL-1R」という)があり、タイプI及びタイプIIのどちらのIL-1Rもイムノグロブリン様ドメインが細胞外ドメインに3カ所存在し、タイプIレセプターはT細胞や結合組織で、タイプIIレセプターは脾臓B細胞や骨髄細胞等で発現され、タイプIレセプターはNF-κBを核内で誘導することが知られている。また、IL-1RにIL-1αやIL-1βと同程度の親和力で結合するが、生物活性を有さないIL-1レセプターアンタゴニスト(以下「IL-1ra」という)があり、IL-1のIL-1Rへの結合を競合的に阻害することも知られている。
【0004】
IL-18は、インターフェロン-γ(以下「IFN-γ」という)の生成を促進し、ナチュラルキラー細胞の活性を高め、IL-12と共働してT細胞からIFN-γの生成を誘導し、Th1(IL-2産生性ヘルパーT細胞)応答における重要な役割を果たすことや、機能が似ているIL-12とは構造的に異なり、IL-1とは類似の構造を有することが知られている。また、IL-18は、IL-1βの場合と同様に,その成熟化のためにIL-1β変換酵素(ICE)/カスパーゼ1による分割を必要とする不活性先駆体として産生され、またIL-1R-関連キナーゼ(IRAK)及びNF-κBを活性化することも知られている。
【0005】
また、これまでにIL-1Rと相同性を示す分子が複数同定されており、現在これらIL-1Rファミリーを介するシグナル伝達経路が盛んに研究されている。MyD88は、IL-1R相同領域とDeathドメインからなる細胞質内タンパク質であり、IL-1刺激後のIL-1RコンプレックスへIRAKを取込んで、NF-κBを活性化するアダプター分子として機能することも知られている。また、MyD88遺伝子は、当初、IL-6による刺激分化により、骨髄白血球細胞M1をマクロファージへ速やかに誘導する骨髄細胞分化初期応答遺伝子として分離されたことも知られている。
【0006】
また、グラム陰性細菌表層のペプチドグリカンを取り囲んで存在する外膜の重要構成成分であるリポ多糖からなる菌体内毒素はエンドトキシンと呼ばれ、リポ多糖はリピドAと呼ばれる脂質とこれに共有結合した各種の糖から構成されることが知られている。そして、このエンドトキシンは、主として発熱、白血球や血小板の減少、骨髄出血壊死、血糖低下、IFN誘発、Bリンパ球(骨髄由来免疫応答細胞)の活性化等の生物活性を有することも知られている。
【0007】
一方、トール(Toll)遺伝子は、ショウジョウバエの胚発生中の背腹軸の決定(Cell 52,269-279,1988、Annu.Rev.Cell Dev.Biol.12,393-416,1996)、また成体における抗真菌性免疫応答に必要であることが知られている(Cell 86,973-983,1996)。かかるTollは、細胞外領域にロイシンリッチリピート(LRR)を有するI型膜貫通受容体であり、この細胞質内領域は、哺乳類インターロイキン-1受容体(IL-1R)の細胞質内領域と相同性が高いことが明らかとなっている(Nature 351,355-356,1991、Annu.Rev.Cell Dev.Biol.12,393-416,1996、J.Leukoc.Biol.63,650-657,1998)。他のTollファミリーメンバーである18-wheelerは、抗菌ホスト防御に関わっているが抗真菌性免疫応答には関わらないことが明らかになっており、Toll経路の選択的活性を介し、ショウジョウバエにおいて特定の病原体が特異的抗菌性免疫応答を誘導することも明らかとなっている(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94,14614-14619,1997、EMBO J.16,6120-6130,1997、Curr.Opin.Immunol.11,13-18,1999)。
【0008】
近年、Toll様受容体(TLR)と呼ばれるTollの哺乳類のホモログが同定され、TLR2やTLR4など現在までに6つのファミリーが報告されている(Nature 388,394-397,1997、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95,588-593,1998、Blood 91,4020-4027,1998、Gene 231,59-65,1999)。このTLRファミリーは、上記IL-1Rと同様にシグナル伝達分子としてのアダプタータンパク質である前記MyD88を介し、IL-1R結合キナーゼ(IRAK)をリクルートし、TRAF6を活性化し、下流のNF-κBを活性化することが知られている(J.Exp.Med.187,2097-2101,1998、Mol.Cell 2,253-258,1998、Immunity 11,115-122,1999)。また、哺乳類におけるTLRファミリーの役割は、細菌の共通構造を認識するパターン認識受容体(PRR:pattern recognition receptor)として、先天的な免疫認識に関わっているとも考えられている(Cell 91,295-298,1997)。
【0009】
上記PRRにより認識される病原体会合分子パターン(PAMP:pathogen-associated molecular pattern)の一つは、グラム陰性菌の外膜の主成分であるリポ多糖(LPS)であって(Cell 91,295-298,1997)、かかるLPSが宿主細胞を刺激して宿主細胞にTNF-α、IL-1及びIL-6等の各種炎症性(proinflammatory)サイトカインを産生させること(Adv.Immunol.28,293-450,1979、Annu.Rev.Immunol.13,437-457,1995)や、LPS結合タンパク質(LBP:LPS-binding protein)により捕獲されたLPSが細胞表面上のCD14に引き渡されることが知られている(Science 249,1431-1433,1990、Annu.Rev.Immunol.13,437-457,1995)。しかしながら、CD14は膜貫通ドメインのないグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカータンパク質であり、LPSに対する真のシグナル伝達受容体の存在が考えられている。
【0010】
上記TLRファミリーに属するTLR4はグラム陰性菌菌体成分であるLPSのシグナル伝達分子であり、かかるTLR4をトランスフェクションすると、NF-κBの持続的低活性化をもたらす(J.Exp.Med.188,2091-2097,1998、Nature 395,284-288,1998)。他方、TLR2もインビトロでヒト胎児腎臓293細胞(human embryonic kidney 293 cells)に過剰発現させるとLPSのシグナルを細胞内に伝えることから、LPSレセプターの候補であると考えられていた。また、Godawskiのグループは、ヒトTLR2がCD14と相互作用してLPS受容体複合体を形成すると報告している(J.Immunol,163,639-643,1999)。LPSでの刺激処理は受容体をオリゴマー化し、次にIRAKを受容体複合体に動員する。これとは対照的に、PoltorakらとQureshiらのグループは、ポジショナルクローニング法により、TLR4がC3H/HeJマウスのLPS低応答性に関する原因遺伝子(causative gene)、すなわちLps遺伝子であることを報告している(Science 282,2085-2088,1998、J.Exp.Med.189,615-625,1999)。
【0011】
本発明者らは、TLR4が実際にLPSシグナル伝達に関わっていることをTLR4欠損マウスを作製することにより明らかにしている(J.Immunol.162,3749-3752,1999)が、これはTLRの一次構造における種特異的差異によるもの、つまりマウスではTLR4、ヒトではTLR2により介されている可能性がある。しかしながら、マウスTLR2もLPSに対する応答でNF-κBを活性化したとの報告がある(J.Immunol.162,6971-6975,1999)。また、Chowらは、C3H/HeJマウスに関する結果と一致する結果、すなわちヒトTLR4が投与量依存又は時間依存によるLPS/CD14に対する刺激によってNF-κBを介する遺伝子発現を活性化し、ヒト293細胞を用いた場合にはKirschningらのグループと矛盾する結果を得て、これは293細胞のロットの差にもよるものと推測されると報告している。(J.Biol.Chem.274,10689-10692,1999)。
【0012】
最近、TLR2がグラム陰性菌由来のLPSに対する反応性のみに関わっているのではなく(J.Immunol,162,6971-6975,1999)、別の共通細菌構造パターンであるグラム陽性菌由来のペプチドグリカン(PGN)とリポテイコ酸(LTA)のシグナル伝達受容体として作用するとの報告がある(J.Biol.Chem.274,17406-17409,1999、J.Immunol,163,1-5,1999)。また、全グラム陽性菌、可溶性PGN及びLTAが、TLR2を発現する293細胞のNF-κB活性化を誘導したのに対して、TLR1やTLR4を発現する細胞内のNF-κB活性化を誘導しなかったことも報告されている(J.Biol.Chem.274,17406-17409,1999)。また、TLR4ではなくヒトTLR2を発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)繊維芽細胞を、熱殺菌したスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)及びストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)並びにスタフィロコッカス・アウレウス由来PGNにより同様に活性化したとの報告がなされている(J.Immunol.163,1-5,1999)。
他方、動物やヒトの病原性細菌として知られるマイコプラズマは細胞壁を欠如しているが、マクロファージを活性化する能力を備えている。これらマクロファージ活性化物質がリポタンパク/リポペプチドであるとの数多くの報告が現在までになされており、かかるリポペプチドのうちの1つであるマイコプラズマ・ファーメンタンス(M.fermentans)由来の2kDマクロファージ活性化リポペプチドMALP-2は、その生化学的特性が明らかになっており、かつ合成されたものも利用することができる(J.Exp.Med.185:1951,1997)。この脂質種は2つの不斉炭素原子をもち、S,Rラセミ体からなる合成MALP-2はインビトロでピコモル濃度で天然化合物作用と類似の特異活性を示すことが知られている。そして、MALP-2がNF-κBを活性化することを除いては、MALP-2のシグナル経路や細胞表面レセプターについては殆ど知られていない。
【0013】
その他、マイコバクテリウム(mycobacterium)とボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)由来のリポタンパク/リポペプチドが、インビトロでのTLR2を介する宿主細胞の活性化を誘導したことが報告されている(Science 285,736-739,1999、Science 285,732-736,1999)。しかしながら、過剰発現実験から得られる結果は必ずしもインビボでのTLRファミリーの機能を反映していない。このような応答性をNF-κB活性化に基づいて分析した結果も、これら刺激により仲介される生物学的応答には関連しない(Infect.Immun.66,1638-1647,1998)と報告されている。
【0014】
また、人工的に遺伝子を導入し発現させるトランスジェニックマウスと、胚性幹細胞(以下「ES細胞」という)を用いて人工的にゲノム上の特定遺伝子を相同組換えにより変化させる遺伝子ターゲティングとを用いた遺伝子欠損マウスを用いると、特定の遺伝子の機能を個体レベルで解析しうることが知られている。そして、一般に、遺伝子欠損マウスはノックアウトマウスと呼ばれているが、TLR2ノックアウトマウスやMyD88ノックアウトマウスは知られていない上に、TLR2ノックアウトマウスやMyD88ノックアウトマウスが細菌菌体成分に対して不応答性であることも知られていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
インビボにおける細菌菌体成分に対する応答は、細胞表面上の各TLRの発現レベルの差異により変化することが予測されるものの、未だインビボにおける細菌菌体成分刺激によるシグナル伝達に対するTLRファミリーの各メンバーやTLRファミリーのアダプタータンパク質であるMyD88の関わりは明らかにされていない。本発明の課題は、インビボにおける細菌菌体成分刺激によるシグナル伝達に対するTLRファミリー各メンバーやTLRファミリーのアダプタータンパク質であるMyD88の関わり、特にTLR2とMyD88とのインビボにおける役割を明らかにする上で有用な、マイコプラズマ属、スピロヘータ属、エセリシア属等に属する細菌の菌体成分であるリポタンパク/リポペプチドや、グラム陽性菌の細胞壁画分であるペプチドグリカンやグラム陰性菌の細胞壁画分であるエンドトキシン等の細菌菌体成分に不応答性のモデル非ヒト動物、例えばTLR2及びMyD88遺伝子機能が染色体上で欠損した非ヒト動物や、またこれら細菌菌体成分不応答性モデル非ヒト動物を用いた細菌感染症に対する抑制物質又は促進物質や、TLR2に対するアゴニストやアンタゴニストのスクリーニング方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、プラスミドベクターを用いてES細胞で相同的組換えによって、TLR2遺伝子の細胞内領域を含むエキソン領域、又はMyD88遺伝子領域のC末端部分をコードした2つのエキソン領域を、それぞれネオマイシン耐性遺伝子に置き換え、またそれぞれのC末端側にHSV-tk遺伝子を導入させて、G418とガンシクロビアに対して2重に抵抗力のあるES細胞クローンをスクリーニングし、このES細胞クローンをC57BL/6のマウスの胚盤胞(blastocysts)の中に注入し、その生殖系列をとおして、メンデルの法則に従い出生してくるTLR2又はMyD88遺伝子機能が染色体上で欠損したTLR2ノックアウトマウスやMyD88ノックアウトマウスが、生まれてから20週間は明らかに異常を示さないトランスジェニックマウスであり、また、かかるTLR2ノックアウトマウスやMyD88ノックアウトマウスがグラム陽性菌の細胞壁成分であるペプチドグリカンやリポタンパク/リポペプチド等の細菌菌体成分に対して不応答性であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち本発明は、(1)骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損し、細菌菌体成分であるリポタンパク/リポペプチドに対して不応答性である非ヒト動物を細菌菌体成分不応答性モデル動物として使用する方法や、(2)リポタンパク/リポペプチドが、マイコプラズマ属に属する細菌に由来するマクロファージ活性化リポペプチドであることを特徴とする上記(1)記載の方法や、(3)細菌菌体成分であるペプチドグリカンに対して不応答性であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の方法や、(4)グラム陽性菌細胞壁画分に対して不応答性であることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか記載の方法や、(5)細菌菌体成分であるグラム陰性細菌由来のエンドトキシンに対して不応答性であることを特徴とする上記(1)~(4)のいずれか記載の方法や、(6)細菌菌体成分であるリポテイコ酸に対して不応答性であることを特徴とする上記(1)~(5)のいずれか記載の方法や、(7)細菌菌体成分である結核菌溶解物に対して不応答性であることを特徴とする上記(1)~(6)のいずれか記載の方法や、(8)非ヒト動物が、齧歯目動物であることを特徴とする上記(1)~(7)のいずれか記載の方法や、(9)齧歯目動物が、マウスであることを特徴とする上記(8)記載の方法に関する。
また本発明は、(10)骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損し、細菌菌体成分であるリポタンパク/リポペプチドに対して不応答性である非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞を、細菌菌体成分不応答性モデル細胞として使用する方法や、(11)骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞と被検物質とをあらかじめインビトロで接触せしめた後、該マクロファージ又は脾臓細胞を細菌菌体成分の存在下で培養し、該マクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の促進物質のスクリーニング方法や、(12)骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞と被検物質とをあらかじめインビトロで接触せしめた後、該マクロファージ又は脾臓細胞を細菌菌体成分の存在下で培養し、該マクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定し、対照として前記非ヒト動物と同種の野生型非ヒト動物における測定値と比較・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の抑制物質のスクリーニング方法や、(13)骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞と細菌菌体成分とをあらかじめインビトロで接触せしめた後、該マクロファージ又は脾臓細胞を被検物質の存在下で培養し、該マクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の促進物質のスクリーニング方法や、(14)骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞と細菌菌体成分とをあらかじめインビトロで接触せしめた後、該マクロファージ又は脾臓細胞を被検物質の存在下で培養し、該マクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定し、対照として前記非ヒト動物と同種の野生型非ヒト動物における測定値と比較・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の抑制物質のスクリーニング方法や、(15)骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物にあらかじめ被検物質を投与した後、該非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞を細菌菌体成分の存在下で培養し、該マクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の促進物質のスクリーニング方法や、(16)骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物にあらかじめ被検物質を投与した後、該非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞を細菌菌体成分の存在下で培養し、該マクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定し、対照として前記非ヒト動物と同種の野生型非ヒト動物における測定値と比較・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の抑制物質のスクリーニング方法や、(17)骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物にあらかじめ被検物質を投与した後、該非ヒト動物を細菌により感染させ、該非ヒト動物から得られるマクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該非ヒト動物から得られる脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の促進物質のスクリーニング方法や、(18)骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物にあらかじめ被検物質を投与した後、該非ヒト動物を細菌により感染させ、該非ヒト動物から得られるマクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該非ヒト動物から得られる脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定し、対照として前記非ヒト動物と同種の野生型非ヒト動物における測定値と比較・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の抑制物質のスクリーニング方法や、(19)骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物をあらかじめ細菌により感染させた後、該非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞を被検物質の存在下で培養し、該マクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の促進物質のスクリーニング方法や、(20)骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物をあらかじめ細菌により感染させた後、該非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞を被検物質の存在下で培養し、該マクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定し、対照として前記非ヒト動物と同種の野生型非ヒト動物における測定値と比較・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の抑制物質のスクリーニング方法や、(21)骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物をあらかじめ細菌により感染させた後、該非ヒト動物に被検物質を投与し、該非ヒト動物から得られるマクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該非ヒト動物から得られる脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の促進物質のスクリーニング方法や、(22)骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物をあらかじめ細菌により感染させた後、該非ヒト動物に被検物質を投与し、該非ヒト動物から得られるマクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該非ヒト動物から得られる脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定し、対照として前記非ヒト動物と同種の野生型非ヒト動物における測定値と比較・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の抑制物質のスクリーニング方法や、(23)骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物にあらかじめ被検物質を投与した後、該非ヒト動物を細菌により感染させ、該非ヒト動物のマクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該非ヒト動物の脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の促進物質のスクリーニング方法や、(24)骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物にあらかじめ被検物質を投与した後、該非ヒト動物を細菌により感染させ、該非ヒト動物のマクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該非ヒト動物の脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定し、対照として前記非ヒト動物と同種の野生型非ヒト動物における測定値と比較・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の抑制物質のスクリーニング方法や、(25)骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物をあらかじめ細菌により感染させた後、該非ヒト動物に被検物質を投与し、該非ヒト動物のマクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該非ヒト動物の脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の促進物質のスクリーニング方法や、(26)骨髄細胞分化初期応答遺伝子(MyD88)機能が染色体上で欠損した非ヒト動物をあらかじめ細菌により感染させた後、該非ヒト動物に被検物質を投与し、該非ヒト動物のマクロファージにおけるサイトカイン及び/若しくは亜硝酸イオンの産生量、又は該非ヒト動物の脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定し、対照として前記非ヒト動物と同種の野生型非ヒト動物における測定値と比較・評価することを特徴とする細菌菌体成分に対する応答性の抑制物質のスクリーニング方法や、(27)細菌菌体成分に対する応答性の抑制物質又は促進物質が、細菌感染症に対する抑制物質又は促進物質であることを特徴とする上記(11)~(26)のいずれか記載のスクリーニング方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の細菌菌体成分不応答性モデル動物である、MyD88ノックアウトマウスは、グラム陰性細菌由来のエンドトキシンや、グラム陽性菌由来のペプチドグリカン、リポテイコ酸、結核菌溶解物等のグラム陽性菌の細胞壁成分や、リポタンパク/リポペプチドなどに対して不応答性であり、また、TLR2ノックアウトマウスは、グラム陽性菌等の細胞壁成分ペプチドグリカンや、リポタンパク/リポペプチド等に対して不応答性であり、グラム陽性菌細胞壁画分に対して低応答性であるため、これらのノックアウトマウスを用いることによって、グラム陽性菌の細胞壁成分であるペプチドグリカンや、リポタンパク/リポペプチド等の選択的成分のシグナル受容体に対して有用な情報や、細菌感染症に対する促進物質又は抑制物質、TLR2に対するアゴニストやアンタゴニストなどの細菌菌体成分に対する応答性の促進物質又は抑制物質のスクリーニングや、被検物質のエンドトキシン活性、IL-1活性、IL-18活性を評価や、被検物質中の細菌菌体成分の検出が可能となり、ひいては、これらエンドトキシン等の細菌細胞壁成分、IL-1、IL-18又はこれらのレセプターの過剰な産生等に起因する疾病に対する薬剤の開発に有用な情報や、マイコプラズマ属やスピロヘータ属等の細菌による感染成立の分子機構の解明及び感染症への新たな治療薬の開発に有用な情報を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明における細菌菌体成分としては、マイコプラズマ属、スピロヘータ属、エセリシア属に属する細菌の菌体成分であるリポタンパク/リポペプチド、細菌細胞壁の骨格構造であるN-アセチルグルコサミンとN-アセチルムラミン酸の繰返し多糖類に比較的短いペプチド鎖が結合したペプチドグリカン、主としてグラム陰性菌の外膜成分として存在するエンドトキシンとも呼ばれるリポ多糖(LPS)、グラム陽性細菌の細胞壁成分であるリポテイコ酸(LTA)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)溶解物、グラム陽性菌細胞壁画分等を挙げることができ、また本発明においては、便宜上、上記細菌菌体成分を担持するキャリアや、細菌菌体自体も本発明における細菌菌体成分に含めることとする。
【0020】
本発明において細菌菌体成分に対する不応答性とは、細菌菌体成分による刺激に対する生体又は生体を構成する細胞、組織若しくは器官の反応性が低下しているか、あるいはほぼ失われていることを意味し、低応答性とは刺激に対する反応性が低下していることを意味する。したがって、本発明において細菌菌体成分不応答性モデル非ヒト動物とは、細菌菌体成分による刺激に対して、生体又は生体を構成する細胞、組織若しくは器官の反応性が低下しているか、あるいはほぼ失われているマウス、ラット、ウサギ等のヒト以外の動物をいう。また、細菌菌体成分による刺激としては、細菌菌体成分を生体に投与するインビボでの刺激や、生体から分離された細胞に細菌菌体成分を接触させるインビトロでの刺激等を挙げることができる。そして、本発明における細菌菌体成分不応答性モデル非ヒト動物としては、リポタンパク/リポペプチド、ペプチドグリカン、グラム陽性菌細胞壁画分、エンドトキシン、リポテイコ酸、結核菌溶解物等の細菌菌体成分に対して不応答性である非ヒト動物を挙げることができ、具体的には、TLR2ノックアウトマウス等のTLR2遺伝子機能が染色体上で欠損した非ヒト動物や、MyD88ノックアウトマウス等のMyD88遺伝子機能が染色体上で欠損した非ヒト動物を挙げることができる。
【0021】
本発明において、MyD88又はTLR2遺伝子機能の染色体上での欠損とは、染色体上のMyD88又はTLR2遺伝子の一部もしくは全部が欠損し、野生型において発現されるMyD88又はTLR2を発現する機能が失われていることをいい、また、MyD88又はTLR2遺伝子機能が染色体上で欠損した非ヒト動物としては、MyD88又はTLR2ノックアウトマウスの他、例えばMyD88又はTLR2遺伝子機能が欠損したラット等の齧歯目動物を例示することができる。
【0022】
本発明における野生型の非ヒト動物とは、上記MyD88又はTLR2遺伝子機能が染色体上で欠損した非ヒト動物と同種の非ヒト動物をいい、マウスの場合を例に取ると、メンデルの法則に従い出生してくるF2マウスのうち、MyD88又はTLR2非欠損型の同種のマウスをいう。これらF2マウスにおける欠損型とその野生型、特に同腹の野生型を同時に実験に供することによって、個体レベルで正確な比較実験をすることができる。上記MyD88又はTLR2遺伝子機能が染色体上で欠損した非ヒト動物の作製方法を、MyD88又はTLR2が欠損したノックアウトマウスを例にとって以下説明する。
【0023】
MyD88又はTLR2遺伝子は、マウス遺伝子ライブラリーをPCR法等により増幅し、マウスESTクローン由来等のプローブを用いてクローニングすることができる。このクローニングされたMyD88又はTLR2遺伝子を組換えDNA技術により、MyD88又はTLR2遺伝子の全部又は一部、例えばMyD88又はTLR2遺伝子の細胞内領域を含むエクソン部位の全部又は一部を、ポリAシグナル遺伝子とネオマイシン耐性遺伝子等マーカー遺伝子で置換し、5′末端側にジフテリアトキシンAフラグメント(DT-A)遺伝子や単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子等の遺伝子を導入してターゲティングベクターを作製し、この作製されたターゲティングベクターを線状化し、エレクトロポレーション法等により胚幹細胞(ES細胞)に導入して培養後、G418やガンシクロビア(GANC)等の抗生物質により相同的組換えを起こしたES細胞を選択する。この選択されたES細胞が目的とする組換え体かどうかをサザンブロット法等により確認することが好ましい。
【0024】
上記組換えES細胞をマウスの胚盤胞(blastocysts)内にマイクロインジェクションし、仮親の子宮に戻すことによってキメラマウスを得ることができる。このキメラマウスは、キメラ率がよいと生まれてくるキメラマウスが雄に片寄るため、野生型の雌と交配させることによってヘテロ組換えマウス(+/-:F1)を作出し、そのヘテロ組換えマウスの雄と雌を交配させることによってホモ組換えマウス[F2;野生型マウス(+/+)、MyD88又はTLR2ノックアウトマウス(-/-)]を得ることができ、これらはすべてメンデルの法則に従い産み出される。そして、本発明のMyD88又はTLR2ノックアウトマウスが生起しているかどうかを確認する方法としては、例えば、上記の方法により得られたマウスの腹腔マクロファージからRNAを単離してノーザンブロット法等により調べたり、またこのマウスのMyD88又はTLR2の発現をウエスタンブロット法等により調べる方法がある。
【0025】
作出されたMyD88ノックアウトマウスが細菌細胞壁成分に対して不応答性であることは、例えば、マイコプラズマ属、スピロヘータ属、エセリシア属等に属する細菌の菌体成分であるリポタンパク/リポペプチドをMyD88ノックアウトマウスのマクロファージやヒト単核細胞にインビトロで接触せしめ、かかる細胞におけるTNF-αやNOの産生量を測定することや、グラム陰性菌の細菌細胞壁成分であるLPSをMyD88ノックアウトマウスに静脈注射等により投与し、発熱、ショック、白血球や血小板の減少、骨髄出血壊死、血糖低下、IFN誘発、Bリンパ球(骨髄由来免疫応答細胞)の活性化等のエンドトキシンの生物活性を測定することや、MyD88ノックアウトマウスのマクロファージと脾臓B細胞に、細菌由来のLPS、又はグラム陽性菌菌体成分であるペプチドグリカン、リポテイコ酸、結核菌溶解物等の存在下において、例えばTNF誘発、脾臓B細胞増殖応答、脾臓B細胞表面でのMHCクラスII抗原の発現を測定することにより確認することができる。
【0026】
本発明のMyD88ノックアウトマウスは、細菌の菌体成分であるリポタンパク/リポペプチドに不応答性であり、また現在までエンドトキシン低応答性として知られているC3H/HeJマウスよりもエンドトキシン応答性が低下しており、ショック症状は全く認められず、また、MyD88ノックアウトマウスのマクロファージ及び脾臓B細胞は、エンドトキシンに対して不応答性であるばかりでなく、グラム陽性細菌細胞壁成分であるペプチドグリカン、リポテイコ酸、結核菌溶解物等に対しても不応答性であって、他方IL-4やIFN-γに対して応答性であることから、この細菌菌体成分に対して不応答性であるノックアウトマウスは、リポタンパク/リポペプチド、エンドトキシン、ペプチドグリカン、リポテイコ酸等の作用機序の解明やエンドトキシンショックへの対処方法の確立に有用なモデルとすることができる。
【0027】
また、作出されたTLR2ノックアウトマウスが細菌細胞壁成分に対して不応答性であることは、例えば、マイコプラズマ属、スピロヘータ属、エセリシア属等に属する細菌の菌体成分であるリポタンパク/リポペプチドをTLR2ノックアウトマウスのマクロファージやヒト単核細胞にインビトロで接触せしめ、かかる細胞におけるTNF-αやNOの産生量を測定することや、TLR2ノックアウトマウスのマクロファージや脾臓B細胞に、グラム陽性菌細胞壁画分、グラム陽性菌の細胞壁成分であるペプチドグリカン等の存在下において、TNF誘発、脾臓細胞増殖応答、脾臓B細胞表面でのMHCクラスII抗原の発現等を測定することにより確認することができる。そして、本発明のTLR2ノックアウトマウスは、細菌の菌体成分であるリポタンパク/リポペプチドやペプチドグリカンに不応答性であり、グラム陽性菌細胞壁画分に対して低応答性であって、LPSをはじめとしてLTAやIL-4に対して応答性であることから、上記TLR2ノックアウトマウスは、リポタンパク/リポペプチド、ペプチドグリカン、グラム陽性菌細胞壁画分等の作用機序の解明に有用なモデルとすることができる。
【0028】
本発明の細菌菌体成分に対して不応答性である非ヒト動物は、細菌菌体成分の作用機序の解明の他、細菌感染症に対する抑制物質若しくは促進物質又はTLR2に対するアゴニスト若しくはアンタゴニストなどの細菌菌体成分に対する応答性の抑制物質若しくは促進物質のスクリーニングや、各種被検物質の生物活性の評価や、細菌菌体成分の検出等に用いることができる。例えば、細菌感染症に対する抑制物質若しくは促進物質又はTLR2に対するアゴニスト又はアンタゴニストなどの細菌菌体成分に対する応答性の抑制物質若しくは促進物質のスクリーニング方法を、以下細菌感染症に対する抑制物質又は促進物質のスクリーニング方法を例にとって説明する。
【0029】
本発明の細菌菌体成分に対して不応答性である非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞等と被検物質とをあらかじめインビトロで接触せしめた後、該マクロファージ又は脾臓細胞を細菌菌体成分の存在下で培養し、該マクロファージ又は脾臓細胞のマクロファージ活性又は脾臓細胞活性の程度を測定・評価することによる、細菌感染症に対する予防剤、免疫応答回復・促進剤等をスクリーニングする方法や、本発明の細菌菌体成分に対して不応答性である非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞と細菌菌体成分とをあらかじめインビトロで接触せしめた後、該マクロファージ又は脾臓細胞を被検物質の存在下で培養し、該マクロファージ又は脾臓細胞のマクロファージ活性又は脾臓細胞活性の程度を測定・評価することによる、細菌感染症に対する治療剤、症状改善剤等をスクリーニングする方法を挙げることができる。
【0030】
また、本発明の細菌菌体成分に対して不応答性である非ヒト動物にあらかじめ被検物質を投与した後、該非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞を細菌菌体成分の存在下で培養し、該マクロファージ又は脾臓細胞のマクロファージ活性又は脾臓細胞活性の程度を測定・評価することによる、細菌感染症に対する予防剤、免疫応答回復・促進剤等をスクリーニングする方法や、本発明の細菌菌体成分に対して不応答性である非ヒト動物にあらかじめ被検物質を投与した後、該非ヒト動物を細菌により感染させ、該非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞のマクロファージ活性又は脾臓細胞活性の程度を測定・評価することによる、細菌感染症に対する予防剤、免疫応答回復・促進剤等をスクリーニングする方法を挙げることができる。
【0031】
また、本発明の細菌菌体成分に対して不応答性である非ヒト動物をあらかじめ細菌により感染させた後、該非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞を被検物質の存在下で培養し、該マクロファージ又は脾臓細胞のマクロファージ活性又は脾臓細胞活性の程度を測定・評価することによる、細菌感染症に対する治療剤、症状改善剤等をスクリーニングする方法や、本発明の細菌菌体成分に対して不応答性である非ヒト動物をあらかじめ細菌により感染させた後、該非ヒト動物に被検物質を投与し、該非ヒト動物から得られるマクロファージ又は脾臓細胞のマクロファージ活性又は脾臓細胞活性の程度を測定・評価することによる、細菌感染症に対する治療剤、症状改善剤等をスクリーニングする方法を挙げることができる。
【0032】
さらに、本発明の細菌菌体成分に対して不応答性である非ヒト動物にあらかじめ被検物質を投与した後、該非ヒト動物を細菌により感染させ、該非ヒト動物におけるマクロファージ活性又は脾臓細胞活性の程度を測定・評価することによる、細菌感染症に対する予防剤、免疫応答回復・促進剤等をスクリーニングする方法や、本発明の細菌菌体成分に対して不応答性である非ヒト動物をあらかじめ細菌により感染させた後、該非ヒト動物に被検物質を投与し、該非ヒト動物におけるマクロファージ活性又は脾臓細胞活性の程度を測定・評価することによる、細菌感染症に対する治療剤、症状改善剤等をスクリーニングする方法を挙げることができる。
【0033】
そして、マクロファージ活性の程度の測定・評価方法としては該マクロファージにおけるサイトカイン及び/又は亜硝酸イオンの産生量を測定・評価する方法を、脾臓細胞活性の程度の測定・評価方法としては該脾臓細胞におけるMHCクラスIIの発現量を測定・評価する方法をそれぞれ例示することができる。また、マクロファージ活性又は脾臓細胞活性の程度を測定・評価するに際し、対照として細菌菌体成分に対して不応答性である非ヒト動物の野生型非ヒト動物、特に同腹の野生型非ヒト動物の測定値と比較・評価することが個体差によるバラツキをなくすることができるので好ましい。このことは、本発明の細菌菌体成分に対して不応答性である非ヒト動物を用いる各種被検物質の生物活性の評価や、細菌菌体成分の検出等においても同様である。
【0034】
本発明のスクリーニング方法の対象となる抑制物質又は促進物質としては、前記細菌感染症に対する抑制物質若しくは促進物質又はTLR2に対するアゴニスト若しくはアンタゴニストの他、マイコプラズマ属、スピロヘータ属又はエセリシア属に属する細菌の菌体成分由来のリポタンパク/リポペプチドや、ペプチドグリカン、エンドトキシン、リポテイコ酸、結核菌溶解物等の細菌菌体成分に対する応答性の抑制物質又は促進物質や、インターロイキン-1活性、インターロイキン-18活性、IFN-γ活性、TNF-α活性等の抑制物質又は促進物質を例示することができる。
【0035】
なお、TLR2に対するアゴニスト又はアンタゴニストのスクリーニングは、上記のように細菌感染症に対する抑制物質又は促進物質のスクリーニングと同様に行えばよいが、TLR4ノックアウトマウスを一緒に用いることもできる。すなわち、TLR2ノックアウトマウスとTLR4ノックアウトマウス、さらに必要に応じて野生型マウスに被検物質をそれぞれ投与して、該TLR2ノックアウトマウス由来及びTLR4ノックアウトマウス由来のマクロファージ活性又は脾臓細胞活性の程度を比較評価することにより、TLR2及び/又はTLR4に対するアゴニスト又はアンタゴニストをスクリーニングすることもできる。
【0036】
本発明の被検物質の評価方法は、本発明の細菌菌体成分に対して不応答性である非ヒト動物に被検物質を投与して、該被検物質の生物活性を評価することを特徴とする。本発明の被検物質の評価方法によると、被検物質の生物活性、例えばエンドトキシン活性、インターロイキン-1活性、インターロイキン-18活性等を評価することができる。例えば、本発明のMyD88ノックアウトマウスを用いて、被検物質のエンドトキシン活性を正確に評価することにより、エンドトキシン拮抗物質等のエンドトキシンによるショックや発熱作用を抑制することができる薬剤の開発に有用な情報を得ることができる。
【0037】
また、本発明のMyD88ノックアウトマウスを用いて、被検物質のIL-1活性を正確に評価することにより、病態モデルマウスにおけるIL-1の疾患との関わりを検索することができる。このように、被検物質のIL-1活性を正確に評価したり、病態モデルマウスにおけるIL-1の関与を解析することにより、例えば、IL-1発現過多に起因するリウマチ様関節炎、移植片対宿主病、喘息等の疾病を治療することができる薬剤の開発に有用な情報を得ることができる。
【0038】
そして、評価対照となるIL-1活性としては、フィトヘマグルチニン(PHA)、コンカナバリンA(ConA)等のマイトジェンや、低濃度のIL-2との共刺激によるT細胞の増殖誘導活性や、単球やマクロファージに作用してTNF-α、IL-1、IL-6の産生を誘導する活性などを挙げることができる。
【0039】
そしてまた、本発明のMyD88ノックアウトマウスを用いて、被検物質のIL-1活性を正確に評価することにより、例えば、IL-18の過剰産生に起因するI型糖尿病や移植片対宿主病等の疾病を治療することができる薬剤の開発に有用な情報を得ることができる。そして、評価対照となるIL-18活性としては、IFN-γの生成を促進する活性、NK細胞活性を高める活性、IL-12と共働してT細胞からIFN-γの生成を誘導する活性、及びIRAKやNF-κBを活性化する作用を挙げることができる。
【0040】
本発明の細菌菌体成分の検出方法によると、本発明の細菌菌体成分に対して不応答性である非ヒト動物に被検物質を投与して、該被検物質中に混在する微量の細菌菌体成分、例えばマイコプラズマ属、スピロヘータ属、エセリシア属等に属する細菌の菌体成分由来のリポタンパク/リポペプチド、エセリシア・コリ、クレブシェラ・ニューモニエ、シュードモナス・アエルギノサ、サルモネラ・チフィムリウム、セラチア・マルセッセンス、フレクスナー赤痢菌、ビブリオ・コレレエ、サルモネラ・ミネソタ、ポルフィロモナス・ジンジバリス等由来のエンドトキシン、スタフィロコッカス・アウレウス、コリネバクテリウム・ジフテリア、ノカルジア・コエリアカ等由来のペプチドグリカン、ストレプトコッカス・ニューモニア等由来のリポテイコ酸、結核菌の全細胞溶解物等を検出することができる。
【0041】
以下に、実施例を挙げてこの発明を更に具体的に説明するが、この発明の技術的範囲はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
(MyD88ノックアウトマウスの作製)
MyD88遺伝子を129/SvJマウス遺伝子ライブラリー(Stratagene社製)からスクリーニングし、pBluescriptベクター(Stratagene社製)中でサブクローンし、制限酵素マッピング及びDNAシーケンシングにより特定した。ターゲッティングベクター(標的ベクター)は、pMC1-neo(Stratagene社製)からのネオマイシン耐性遺伝子で、野生型アレルの1.0kb遺伝子断片を置換することにより構築された。置換された遺伝子断片は、IL-1RAcP(受容体補助タンパク)の細胞質ドメインに似ているドメインをコードする2つのエクソンを含んでいた。ネオマイシン耐性遺伝子は、1.1kbの5′遺伝子断片と5.2kbの3′遺伝子断片をフランキング配列として有していた。次いで、HSV-tkカセットを遺伝子断片の3′端に導入した。線状化された標識ベクターをES細胞E14.1にトランスフェクションし、G418及びガンシクロヴィアで選択した。両者に抵抗性を示す176個のクローンを、PCRによる相同組換えのためにスクリーニングし、図1に示すプローブを用いるサザンブロット分析により33個を確かめた。
【0043】
3個の独立的に同定された標的ESクローンを、C57BL/6マウスの胚盤胞中にマイクロインジェクションした。得られたキメラマウスを、ヘテロ接合体マウスを作製するために、C57BL/6雌マウスと交尾させた。ヘテロ接合体マウスは、ホモ接合体マウスを得るため、インタークロスされ、これらのインタークロスから予測されたメンデル比(+/+:+/-:-/-=52:93:53)で生まれ、MyD88欠損マウスを作製することができた。本発明のMyD88ノックアウトマウスは健康に育ち、20週の年齢まで異常を示さなかった。突然変異によりMyD88遺伝子の不活性化が生起していることを確認するため、ノーザンブロット分析を行ったところ、MyD88mRNAはMyD88欠損マウスの肝臓及び脾臓からは検出されなかった。また、胸腺、脾臓及びリンパ節中のCD3、B220、CD4及びCD8のフローサイトメトリーで、リンパ球組成は野生型マウスと比較してMyD88ノックアウトマウスにおいても変わっていなかった。
【実施例2】
【0044】
(MyD88ノックアウトマウスのエンドトキシン不応答性)
本発明のMyD88ノックアウトマウス10匹に、大腸菌(O55:B5)由来のLPSを1mg投与し、その生存率によりエンドトキシン不応答性を調べた。対照として同腹の野生型マウス10匹を用いた。結果を図2に示す。図2より、野生型マウスはLSPに応答し、投与後4日ですべて死亡したが、本発明のMyD88ノックアウトマウスは、LPS投与後4日では死亡するものはなく、エンドトキシン不応答性であることを確認することができた。
【実施例3】
【0045】
(MyD88ノックアウトマウスのIL-1仲介機能の欠失)
本発明のMyD88ノックアウトマウスの胸腺細胞1×10を、T細胞増殖についてのIL-1との共刺激物であるフィトヘマグルチニン(PHA)2μg/ml、コンカナバリンA(ConA)2.5μg/ml又は2ng/mlのIL-2のそれぞれと、IL-1β(Genzyme社)100U/mlとの混合物と共に96ウェルの培養皿で72時間培養し、T細胞を増殖させた。T細胞の増殖は、細胞内に取り込まれた[H]チミジンの[H]量を測定することにより求めた。その結果、PHA、ConA又はIL-2とIL-1βとの共存下で培養したとき、同腹子の野生型マウスの胸腺細胞は大いに増殖したが、本発明のMyD88ノックアウトマウスの胸腺細胞は細胞増殖の増加がほとんど見られなかった(図3参照)。また、胸腺細胞に代えて脾臓B細胞を用いても、同じような結果が得られることがわかった。
【0046】
また本発明のMyD88ノックアウトマウスの胸腺細胞を、ホルボール12-ミリスチン酸塩13-酢酸塩パラメトキシアンフェタミン(PMA)10ng/ml又はConA2.5μg/mlとIL-2(Genzyme社)20ng/mlとの共存下で上記と同じように培養させ、細胞増殖の増加を見たところ、本発明のMyD88ノックアウトマウスの胸腺細胞と、同腹子の野生型マウスの胸腺細胞とは、IL-2とPMAやConAとの反応に関しては増殖において差が見られなかった(図3参照)。これらのことから、IL-1が仲介するT細胞成長シグナルは、本発明のMyD88ノックアウトマウスの胸腺細胞で損なわれていることがわかる。
【0047】
本発明のMyD88ノックアウトマウスの静脈内にIL-1β(Genzyme社)1μgを注入し、2時間後肝臓と血清を取り出した。総RNAをトリゾール試薬(GIBCO社)を用いて肝臓から抽出し、このRNA(10μg)を電気泳動にかけ、ナイロン膜に移して血清アミロイドA(SAA-I)、血清アミロイドP(SAP)及びハプトグロビン(HP)のような急性期蛋白質について、32PでラベルされたcDNAを用いてノーザンブロット分析を行い、mRNA発現のIL-1の誘導増加を同腹子の野生型マウスのものと比較したところ、野生型マウスでは誘導の増加が見られたが、MyD88ノックアウトマウスでは見られなかった。
【0048】
またIL-1が、腫瘍壊死因子(TNF-α)やIL-6のような急性期蛋白質の産生や炎症性のサイトカインを誘導するため、本発明のMyD88ノックアウトマウスと同腹子の野生型マウスから上記の方法で取り出した血清のTNF-αやIL-6の濃度が増加するかどうかをELISAによって測定した。その結果、野生型マウスにおいてはIL-1βによってTNF-αやIL-6の濃度が増加したが、MyD88ノックアウトマウスではTNF-αやIL-6の濃度がIL-1βによって増加されることはなかった(図4参照)。
【0049】
以上のことから、本発明のMyD88ノックアウトマウスでは、IL-1を介する主な生物学的機能が厳格に欠失していることがわかる。
【実施例4】
【0050】
(MyD88ノックアウトマウスのIL-18仲介機能の欠失)
IL-18がNK細胞の溶解活性を増強することはよく知られている。本発明のMyD88ノックアウトマウス及び同腹子の野生型マウスの脾臓B細胞を、IL-18(林原生化学研究所株式会社)20ng/mlの存在下又は不存在下、51Crでラベルされたマウスリンホーマ細胞(以下「YAC-1」という)標的細胞といっしょに24時間培養し、4時間後ガンマーカウンターを用いて上清中の遊離した51Crを測定した。その結果、インビトロで脾臓B細胞をIL-18の存在下培養したとき、野生型マウスにおけるYAC-1標的細胞に対する溶解活性は劇的に増強したが、MyD88ノックアウトマウスにおいては増強されることはなかった。なお、IL-18に代えてIL-2を用いた場合には、本発明のMyD88ノックアウトマウスの脾臓B細胞においても溶解活性が増強した(図5参照)。
【0051】
またインビトロで、本発明のMyD88ノックアウトマウスの脾臓B細胞と同腹子の野生型マウスの脾臓B細胞とを20ng/mlのIL-18で刺激し、24時間培養し、ELISAによって培養上清における1FN-γの産生について測定した。その結果、野生型マウスにおいてはIFN-γの産生が誘発されたが、本発明のMyD88ノックアウトマウスではIFN-γの産生は見られなかった(図5参照)。
【0052】
95%以上の純度に精製された本発明のMyD88ノックアウトマウスの脾臓T細胞及び同腹子の野生型マウスの脾臓T細胞を、2ng/mlのIL-12存在下、抗CD3抗体(20μg/ml)(PharMingen社)でコーティングされた培養皿で培養し、4日後細胞を採取し、ハンクス平衡塩溶液で洗浄した。洗浄後の細胞(2×10)は、抗CD3抗体(20μg/ml)でコーティングされた96ウェルの培養皿で、20ng/mlのIL-18又は2ng/mlのIL-12で、24時間再び刺激され培養された。その培養上清でのIFN-γの濃度はELISAによって測定し比較された。その結果、本発明のMyD88ノックアウトマウスの脾臓T細胞は、IL-18に応答したIFN-γの産生を高めることができないことがわかった(図6参照)。
【0053】
本発明のMyD88ノックアウトマウス及び同腹子の野生型マウスの腹膜内に、熱で殺されたプロピオン酸菌アクネ(P.acnes)500μgを注入し、7日後脾臓からT細胞を精製した後、20ng/mlのIL-18の存在下又は非存在下、抗CD3抗体(20μg/ml)でコーティングされた96ウェルの培養皿で24時間培養し刺激し、その培養上清におけるIFN-γの濃度をELISAによって測定した。また本発明のMyD88ノックアウトマウス及び同腹子の野生型マウスの静脈内に、カルメット-ゲラン菌(BCG)(共和化学)2mgを注入し、14日後脾臓からT細胞を精製した後、上記のように24時間培養し刺激し、IFN-γの濃度を測定した。その結果、どちらの場合も、野生型マウスにおいてはIL-18に応答して高レベルのIFN-γが産生されたが、本発明のMyD88ノックアウトマウスではIL-18の存在下でIFN-γの産生を高めることはできなかった(図6参照)。
【0054】
以上のことから、本発明のMyD88ノックアウトマウスは、IL-18欠損マウスと同様に、インビボでのTh1細胞への発展に欠陥があり、IL-18を介する主な生物学的活性は完全に欠失していることがわかる。
【0055】
次に、ドミナントネガティブ(dominant negative)MyD88の突然変異が、IL-18誘導NF-κB活性化も阻害するかどうか検討した。COS-7細胞は、NF-κB依存ルシフェラーゼレポーター(luciferase reporter)遺伝子と共にMyD88(アミノ酸152から296)発現ベクターで過渡的にトランスフェクションし、IL-18処理後のルシフェラーゼ活性を測定した。MyD88の共発現(coexpression)はIL-18誘導活性をほぼ完全に阻害した(図7参照)。
【0056】
またIL-18は、AP-1依存遺伝情報を活性化することから、MyD88(アミノ酸152から296)がIL-18誘導AP-1活性化のドミナント ネガティブ突然変異としても働くかどうか試験した。IL-18での刺激はAP-1活性を約3~4倍増加し、この活性化はMyD88(アミノ酸152から296)の共発現(coexpression)で阻害された(図7参照)。これらの結果は、MyD88がNF-κBとAP-1のIL-18誘導活性化に関与していることを示している。
【0057】
次に、NF-κBのIL-18誘導活性化がMyD88欠損細胞で見られるかどうかを検討した。IL-12及び抗CD3抗体の存在下で4日間培養された脾臓T細胞を3時間飢餓状態にした後IL-18で刺激した。刺激された細胞から抽出された核を、NF-κB接合部を含む特定のプローブを用いてゲル移動度シフト(mobility shift)分析を行った。IL-18誘導NF-κBDNA接着活性は、野生型細胞からの核抽出物中では検出されたが、MyD88欠損細胞からは検出されなかった。他方、野生型あるいはMyD88欠損胸腺細胞をTNF-αで処理すると、ほとんど同レベルのNF-κBDNA接着活性を生じ、MyD88欠損細胞中の欠損IL-18誘導NF-κB活性は、NF-κBの異常機能あるいは調節低下によるものではないことを示した。
【0058】
NF-κBの活性化の誘導に加えて、IL-1はC-JunN端末キナーゼ(JNK)を活性化することが知られている。IL-18がJNKの活性化を誘導するかどうか試験するため、代替としてGST-c-Jun-融合蛋白を使ってインビトロキナーゼ分析を行った。IL-18を使った処理は、野生型マウスのTh1-発達細胞中のJNKの活性化を誘導したが、IL-18誘導JNK活性化はMyD88欠損細胞では見られなかった。反対にJNKの通常の活性がTNF-αで処理したMyD88欠損細胞で見られた。IL-18誘導によるNF-κB及びJNKの活性は、MyD88欠損マウス中では欠失している。これらの結果は、MyD88がNF-κB及びJNKのIL-18誘導活性化に必須であることを示している。
【実施例5】
【0059】
(MyD88ノックアウトマウスのマクロファージと脾臓B細胞の細菌細胞壁成分不応答性)
5-1(TLR4欠損マウスの作製)
最近、C3H/HeJマウスがToll様受容体(TLR)4遺伝子のミスセンス点突然変異によりLPSに対して低応答性であることが報告され(Science 282,2085-8,1998、J.Exp.Med.189,615-625,1999、J.Immunol.162,3749-3752,1999)、また本発明者らによって、TLR4欠損マウスのマクロファージと脾臓B細胞がLPSに低応答性であり、TLR4遺伝子がLPSシグナル伝達に不可欠であることが判明した(J.Immunol.162,3749-3752,1999)。そこで、TLR4欠損マウスとMyD88欠損マウスとのマクロファージと脾臓B細胞の細菌細胞壁成分に対する応答性を比較するために、TLR4欠損マウス(129/OlaXC57BL/6から交配したF)を文献記載(J.Immunol.162,1999,3749-3752)のようにジーンターゲティング法により作製した。また、以下の実施例には、年齢が一致する野生型マウス、TLR4欠損マウス及びMyD88欠損マウスを使用した。
【0060】
5-2(細菌細胞壁成分の調製)
フェノール抽出し、ゲル濾過法によって精製されたエセリシア・コリ(Escherichia coli)血清型O55:B5(シグマ社製)、クレブシェラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)(シグマ社製)、シュードモナス・アエルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)血清型10(シグマ社製)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)(シグマ社製)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)(シグマ社製)、フレクスナー赤痢菌(Shigella flexneri)血清型1A(シグマ社製)、ビブリオ・コレレエ(Vibrio cholerae)血清型イナバ569B(シグマ社製)等のLPSを購入した。フェノールクロロフォルム石油エーテル抽出法により調製されたサルモネラ・ミネソタ(Salmonella minnesota)Re-595のLPSは購入した(シグマ社製)。また、文献(FEBS Lett.332,1994,197-201)記載の方法で、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)381のLPS及びリピドAを調製した。結核菌の全細胞溶解物は、デュボス培地(ディフコ社製)で結核菌アオヤマB株(NIHJ1635)を1ヶ月間培養した後、細胞を回収してリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で再懸濁し、細胞を超音波処理して調製した。
【0061】
5-3(腹膜マクロファージの調製)
上記作製した野生型マウス、TLR4欠損マウス及びMyD88欠損マウスのそれぞれの腹腔内に4%のチオグリコール酸塩を2mlずつ注入し、3日後に腹膜腔から腹膜滲出細胞を単離し、氷温のハンクス緩衝液(Hank’s buffered salt solution:HBSS)で洗浄することによって腹膜細胞を得た。この細胞をRPMI1640培地に浮遊させ、プラスチックシャーレに分注し、37℃で2時間培養し、その後、ハンクス緩衝液で洗浄することにより非付着細胞を取り除き、付着細胞を腹膜マクロファージとして以下の実験に使用した。
【0062】
5-4(サルモネラ・ミネソタRe-595のLPSに対する不応答性)
上記野生型マウス(野生型)、TLR4欠損マウス(TLR4-/-)、MyD88欠損マウス(MyD88-/-)等のそれぞれの腹膜マクロファージのLPSに対する応答性をサルモネラ・ミネソタRe-595のLPSを用いて調べた。それぞれのマウスの腹膜マクロファージを、種々の濃度(0、0.01、0.1、1、10又は100μg/ml)のLPSの存在下で24時間培養して刺激し、LPS応答性のマクロファージから放出される腫瘍壊死因子(TNF-α)の濃度をELISAにより測定した(図8A参照)。この結果から、野生型マウスのマクロファージでのTNF-αの産生は、LPSの投与量に応じて増加するのに対して、TLR4欠損マウスやMyD88欠損マウスでは、100μg/mlの濃度のLPS刺激においてもTNF-αを産生せず、これらがLPS不応答性であることがわかった。
【0063】
また、サルモネラ・ミネソタRe-595のLPSに対する脾臓B細胞の応答性についても調べてみた。野生型マウス、TLR4欠損マウス、MyD88欠損マウスのそれぞれの脾臓B細胞(1×10)を単離し、96ウェルの培養皿内で培養し、種々の濃度(0、0.01、0.1、1、10又は100μg/ml)のLPSで脾臓B細胞を刺激した。培養から40時間後に1μCiの[H]-チミジン(デュポント社製)を添加して更に8時間培養し、[H]の摂取量をβシンチレーションカウンター(パッカード社製)で測定した(図8B参照)。この結果から、LPSの刺激により野生型マウスの脾臓B細胞では、LPSの投与量に依存して細胞増殖反応を促進したが、TLR4欠損マウス又はMyD88欠損マウスのどちらの脾臓B細胞においても、LPSによる細胞増殖反応は見られなかった。
【0064】
また、フローサイトメトリーにより、Re-595のLPSに対する応答における脾臓B細胞表面の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスII(I-A分子)の発現について調べてみた。野生型マウス、MyD88欠損マウス及びTLR4欠損マウスのそれぞれの脾臓B細胞(1×10)を種々の濃度(0、0.01、0.1、1、10又は100μg/ml)のLPS共存下に48時間培養した。培養後細胞を採取して、フィコエリトリン(phycoerythrin:PE;ファーミンジェン社製)で標識した抗B220抗体、又はビオチン化抗マウスI-A抗体(ファーミンジェン社製)に、フルオレセインイソシアネート(FITC;ファーミンジェン社製)で標識したストレプトアビジンを結合させたFITC標識化抗体により、それらの細胞表面におけるI-A分子に結合させて細胞を染色した。染色した細胞をセルクエストのソフトウェア(ベクトンディッキンソン社製)により蛍光活性化セルソーターキャリバー(FACS Calibur)で分析した。この結果から、Re-595のLPSは、野生型マウスの脾臓B細胞表面でのI-A分子の発現を増大しているのに対し、TLR4欠損マウスやMyD88欠損マウスの脾臓B細胞では、高濃度のLPS(100μg/ml)で刺激しても、I-A分子の発現は増大しなかった(図8C参照)。以上のことから、TLR4欠損マウスとMyD88欠損マウスは共にサルモネラ・ミネソタRe-595のLPSに対して不応答であることがわかる。
【0065】
5-5(IL-4とIFN-γに対するTLR4欠損マウス及びMyD88欠損マウスの応答性)
TLR4欠損及びMyD88欠損マウスの脾臓B細胞が全ての刺激物に対して不応答性であるかどうかを調べるため、TLR4欠損マウス及びMyD88欠損マウスの脾臓B細胞の他の刺激物に対する応答性を検討したところ、以下に示すように応答性は損なわれておらず、これらのマウスはLPSに対する応答性が特異的に欠損していることがわかった。
【0066】
野生型マウス、MyD88欠損マウス、及びTLR4欠損マウスのそれぞれの脾臓B細胞(1×10)を単離し、IL-4(Genzyme社製)及び抗IgM抗体の共存下又は抗CD40抗体の存在下において40時間培養し、[H]-チミジン(デュポント社製)を添加して更に8時間培養し、[H]の取込み量をβシンチレーションカウンターで測定した(図9A参照)。この結果から、TLR4欠損マウス及びMyD88欠損マウスの脾臓B細胞は、IL-4及び抗IgM抗体の混合物、又は抗CD40抗体に対する応答において、野生型マウスの脾臓B細胞と同じ挙動を示した。
【0067】
次に、野生型マウス、MyD88欠損マウス、及びTLR4欠損マウスのそれぞれの脾臓B細胞(1×10)を、100U/mlのIL-4の存在下又は非存在下において48時間培養しそれらの細胞を刺激した。その後、PE標識抗B220抗体又はFITC標識抗マウスI-A抗体により、脾臓B細胞表面のI-A分子と結合させて細胞を染色し、セルクエスト・ソフトウェアを用いて蛍光活性化セルソーターキャリバーで細胞増殖を測定した(図9B参照)。その結果、TLR4欠損マウス及びMyD88欠損マウスの脾臓B細胞は、IL-4に対する応答においても、野生型マウスの脾臓B細胞と同じ挙動を示した。
【0068】
野生型マウス、MyD88欠損マウス又はTLR4欠損マウスのそれぞれの腹腔内に、5000UのIFN-γ(Genzyme社製)又はPBSを投与し、投与から3日後に腹膜マクロファージを採取し、FITC標識抗マウスI-A抗体でマクロファージの膜面に存在するI-A分子と結合させて細胞を染色し、セルクエストのソフトウェアにより蛍光活性化セルソーターキャリバーで分析した(図9C参照)。この結果から、野生型マウス、TLR4欠損マウス及びMyD88欠損マウスにおいて、腹膜マクロファージでのI-A分子の発現、すなわちIFN-γが誘発する細胞増殖の阻害も同程度であった。
【0069】
5-6(貧食作用分析)
野生型マウス、MyD88欠損マウス及びTLR4欠損マウスのマクロファージに0.025%の蛍光ラテックスビーズ(0.75μm)(ポリサイエンス社製)を加え、37℃で2時間、COインキュベーター中で培養した。その後、貧食されなかったビーズを取り除くため、この培養物をPBSで3回勢いよく洗浄し、20分間、2.5%のホルムアルデヒドを含むPBSでインキュベートし、培養物をホルムアルデヒドで固定した。これらの固定細胞を、Axiophoto顕微鏡(Carl Zeiss社製)で視覚化したところ、TLR4欠損マウス及びMyD88欠損マウスの腹膜マクロファージは共に、ラテックス粒子を貧食していることがわかった。したがって、これらの他の刺激によるTLR4欠損マウス及びMyD88欠損マウスのマクロファージの貧食能は損なわれていないことがわかった。
【0070】
5-7(ポルフィロモナス・ジンジバリスのLPSに対する応答性)
ポルフィロモナス・ジンジバリスのLPSは、LPS低応答性であるC3H/HeJマウスの細胞の活性化能において、ある程度の反応を示すことから(J.Immunol.158,1997,4430-6)、それぞれのマウスのポルフィロモナス・ジンジバリスのLPSに対する応答性を前記サルモネラ・ミネソタRe-595の場合と同様に調べた。野生型マウスのマクロファージでは、ポルフィロモナス・ジンジバリスのLPSの投与量に依存してTNF-αを誘発していたが、TLR4欠損マウスのマクロファージでは、C3H/HeJマウスのマクロファージと同様に低応答性であり、野生型マウスのマクロファージの3分の1程度のTNF-α産生能を示したに過ぎなかった。これに対し、MyD88欠損マウスのマクロファージでは、高濃度のLPSで刺激しても、検出しうる程のTNF-αを産生しなかった(図10A参照)。
【0071】
また、ポルフィロモナス・ジンジバリス381のLPSに対して、TLR4欠損マウスの脾臓B細胞は低レベルの増殖応答を示し、脾臓B細胞のI-A分子の発現を増大させていたが、MyD88欠損マウスの脾臓B細胞は増殖応答を示さず、I-A分子の発現も確認できなかった(図10B、C参照)。また、ポルフィロモナス・ジンジバリス381のリピドAにおいても同様の結果が得られた。これらのことから、ポルフィロモナス・ジンジバリスのLPSに対する応答において、TLR4欠損マウスは低応答性であり、MyD88欠損マウスは不応答性であることがわかった。また、ポルフィロモナス・ジンジバリスのLPSにより誘発されるシグナル伝達に対し、MyD88は必須であるが、TLR4は部分的に寄与していることがわかった。
【0072】
5-8(大腸菌O55:B5のLPSに対する応答性)
大腸菌(O55:B5)のLPSに対する応答性についても、前記サルモネラ・ミネソタRe-595の場合と同様に調べた。TLR4欠損マウス及びMyD88欠損マウスの腹膜マクロファージでは、野生型マウスのマクロファージと比較して、大腸菌(O55:B5)のLPSに対する応答性を損なっていた(図11A)。しかし、高濃度のLPSで刺激した場合、TLR4欠損マウスのマクロファージは少量のTNF-αを産生したが、それに対してMyD88欠損マウスのマクロファージは、高濃度のLPS刺激においてもTNF-αを産生しなかった。
【0073】
また、これらマウスの脾臓B細胞における増殖応答についても同様な傾向が見受けられた(図11B参照)。さらに、10μg/mlを超えるLPSで刺激したTLR4欠損マウスの脾臓B細胞は、野生型マウスの脾臓B細胞と同程度のI-A分子の発現を示したが、MyD88欠損マウスの脾臓B細胞は100μg/mlのLPSでの刺激に対してもI-A分子の発現を示さなかった(図11C参照)。以上の結果から、ポルフィロモナス・ジンジバリスのLPS刺激の場合と同様に、TLR4欠損マウスは大腸菌(O55:B5)のLPSに対して低応答性であるが、MyD88欠損マウスは不応答性であることがわかった。
【0074】
5-9(ペプチドグリカンに対する応答性)
グラム陽性菌の主要な細胞壁成分であるペプチドグリカン(PGN)がマクロファージを活性化することが報告されている(J.Immunol.155,1995,2620-30、Infect.Immun.62,1994,2715-21)。そこで、スタフィロコッカス・アウレウスのPGN(Fluka社製)に対する応答性を前記サルモネラ・ミネソタRe-595の場合と同様に調べた。PGNで刺激した場合、TLR4欠損マウスの腹膜マクロファージは、投与量に依存して野生型マウスのマクロファージとほぼ同程度のTNF-αを産生したが、MyD88欠損マウスのマクロファージは、高濃度のPGN刺激に対してもにTNF-αを産生しなかった(図12A参照)。
【0075】
スタフィロコッカス・アウレウスのPGNで刺激した場合、野生型マウスの脾臓B細胞は細胞増殖応答を示し、MyD88欠損マウスにおいては野生型マウスと比べて細胞増殖応答が大きく損なわれていたが、その程度がTLR4欠損マウスの場合は小さかった(図12B参照)。また、10μg/mlを超える濃度のPGNで刺激した場合、野生型マウスもTLR4欠損マウスもI-A分子発現の増大が観察されたが、MyD88欠損マウスの脾臓B細胞では、100μg/mlのPGN刺激の場合でもI-A分子の発現の増大は見られなかった(図12C参照)。これらのことより、TLR4欠損マウスは、黄色ブドウ球菌のPGNに対して野生型マウスとほぼ同様の応答を示すが、MyD88欠損マウスは不応答性であることがわかった。
【0076】
5-10(リポテイコ酸に対する応答性)
リポテイコ酸(LTA)は、グラム陽性菌の細胞壁成分であって、単球とマクロファージの活性化を誘導する(Infect.Immun.62,1994,2715-21)ことから、ストレプトコッカス・ニューモニアのLTAに対する応答性を前記サルモネラ・ミネソタRe-595の場合と同様に調べた。野生型マウスの腹膜マクロファージは、LTAの投与量に応じてTNF-αの産生を増大していた。これに対して、MyD88欠損マウスのマクロファージでは、高濃度のLTA刺激に対してもTNF-αを産生しなかった。また、TLR4欠損マウスも野生型マウスと比較するとTNF-αの産生が損なわれていたが、100μg/mlのLTA刺激ではTNF-αを誘発していた(図13A参照)。
【0077】
次に、ストレプトコッカス・ニューモニアのLTA刺激に対するこれらマウス脾臓B細胞の細胞増殖反応とI-A分子の発現の増大を分析した(図13B参照)。この結果から、野生型マウスの脾臓B細胞は、LTAの投与量に応じてLTAに対する応答を増大させるのに対し、MyD88欠損マウスの脾臓B細胞は、LTAに対する増殖反応を非常に損なっていた。TLR4欠損マウスの脾臓B細胞においても増殖反応は損なわれていたが、高濃度のLTAで刺激した場合では増殖応答性を示した。また、野生型マウス及びTLR4欠損マウスの脾臓B細胞では細胞表面においてI-A分子の発現が増大するのに対し、MyD88欠損マウスの脾臓B細胞では増大がみられなかった(図13C参照)。これらのことから、MyD88欠損マウスはストレプトコッカス・ニューモニアのLTA刺激に対して不応答性であることがわかる。
【0078】
5-11(結核菌全細胞溶解物に対する応答性)
結核菌細胞壁成分、特にリポアラビノマンナンは、骨髄性細胞の活性化を誘導することで知られていることから(J.Immunol.149,1992,541-7、J.Clin.Invest.91,1993,2076-83)、結核菌全細胞溶解物に対する応答性を前記サルモネラ・ミネソタRe-595の場合と同様に調べた。野生型マウスのマクロファージは、全細胞溶解物の投与量に依存してTNF-αを産生していた。また、TLR4欠損マウスのマクロファージも、野生型マウスのものと比較するとわずかであるがTNF-αを産生していた。しかし、MyD88欠損マウスのマクロファージは、高濃度の全細胞溶解物に対してもTNF-αを産生しなかった(図14A参照)。
【0079】
次に、結核菌全細胞溶解物による刺激に対するこれらマウスの応答性について調べた。野生型マウスの脾臓B細胞は、全細胞溶解物の投与量に依存して増大する細胞増殖応答と細胞表面でのI-A分子の発現を示し、TLR4欠損マウスの脾臓B細胞でもまた、野生型マウスのものより低いものの細胞増殖応答とI-A分子の発現を示した。これに対して、MyD88欠損マウスの脾臓B細胞では、増殖反応とI-A分子の発現の増大が大きく損なわれており、全細胞溶解物に対して不応答性であることがわかった(図14B、C参照)。
【0080】
5-12(他の菌体細胞壁成分に対する応答性)
野生型マウス、TLR4欠損マウス及びMyD88欠損マウスの応答性について、他の菌体細胞壁成分[クレブシェラ・ニューモニエ、シュードモナス・アウリギノサ10、サルモネラ・チフィムリウム、フレクスナー赤痢菌、ビブリオ・コレラ等のLPS、及び大日本製薬株式会社のカワタシゲオ氏から提供されたスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus eqidermidis)のPGN]に対する応答性についても上記と同様に調べた。結果を表1に示す。この表1から、全ての菌体の成分において、MyD88欠損マウスが不応答性であることがわかった。
【0081】
【表1】
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【0082】
またLPSは、TLR4を独自のシグナル受容体として利用し、不応答性を示すもの(サルモネラ・ミネソタRe595やクレブシェラ・ニューモニエ等のLPS)や、TLR4欠損マウスに対して低いが応答性を示すもの(ポルフィロモナス・ジンジバリス、エシェリキア・コリO55:B5、シュードモナス・アウリギノサ、フレクスナー赤痢菌、サルモネラ・チフィムリウム、ビブリオ・コレラ等のLPS)の2つの型に分類できることがわかった。後者のLPSに対してMyD88欠損マウスは応答性を示さないことから、これらのLPSの認識とシグナル伝達は、TLR4と他のTLRとの両方により、及び/又はMyD88をアダプター分子として使用するTLR関連受容体により介されるものと考えられる。
【実施例6】
【0083】
(TLR2ノックアウトマウスの作製)
129/SvJマウス遺伝子ライブラリー(ストラタジーン社製)から、ヒトTLR2遺伝子と類似したマウスESTクローン(登録番号D77677)由来のプローブを用いて、TLR2遺伝子をスクリーニングし、pBluescriptベクター(ストラタジーン社製)中でサブクローンし、制限酵素マッピング及びDNA配列決定により特定した。ターゲッティングベクターは、TLR2遺伝子の細胞内領域を含むエクソン部位1.3kbの遺伝子フラグメントを、ポリAシグナルをもつpMC1-neo(ストラタジーン社製)に置換することにより構築した。かかるターゲッティングベクターは、4.8kbの5′遺伝子フラグメントと1.0kbの3′遺伝子フラグメントとをフランキング配列として有し、HSV-tkカセットを5′末端に含んでいる。このターゲッティングベクターをSalIにより線状化し、胎生14.1日目の胚幹細胞(ES細胞)にエレクトポレーションし、G418及びガンシクロビアに抵抗性を示す120個のクローンを、PCRによる相同組換えのためにスクリーニングし、図15Aに示すプローブを用いるサザンブロット分析により9個を確かめた。
【0084】
相同組み換え変異TLR2対立遺伝子を含有していた3個の標的ESクローンを、C57BL/6マウスの胚盤胞中にマイクロインジェクションしキメラマウスを作製した。この雄のキメラマウスとC57BL/6雌マウスとを交配させてヘテロ接合体マウスを作製し、かかるヘテロ接合体マウスをインタークロスすることによってホモ接合体マウスを得た(図15B)。なお、本発明のTLR2欠損マウスはメンデルの法則に従い作製することができ、20週目までは顕著な異常を示さなかった。
【0085】
相同組み換え変異によりTLR2遺伝子の不活性化が生起していることを確認するため、野生型マウス(+/+)及びTLR2ノックアウトマウス(-/-)の腹腔マクロファージ(5×10)から抽出した全RNA(15μg)を電気泳動にかけナイロン膜に移して、文献(Immunity 9,143-150,1998)記載の方法と同様に、[32P」で標識したTLR2に特異的なcDNA又はGAPDH(glycelaldehyde-3-phosphato dehydrogenase)に特異的なcDNAを用いてノーザンブロット分析を行った。これらの結果から、TLR2mRNAはTLR2欠損マウスの腹腔マクロファージからは検出されなかった(図15C)。また、TLR2ノックアウトマウスの胸腺細胞及び脾臓細胞中のCD3、B220、CD4及びCD8の発現は、野生型マウスのものと比較しても差異がなかった(図は示さず)。
【実施例7】
【0086】
(TLR2ノックアウトマウスのエンドトキシン応答性)
本発明のTLR2ノックアウトマウス(5匹)、TLR4ノックアウトマウス(5匹)及び野生型マウス(5匹)に、それぞれ大腸菌(O55:B5)由来のLPSを1mg投与し、その生存率によりLPS不応答性を調べた。結果を図16に示す。図16より、本発明のTLR2ノックアウトマウス(TLR2-/-)及び野生型マウスはLPSに応答し、投与後4日でほとんどが死亡したのに対して、TLR4ノックアウトマウス(TLR4-/-)は、LPS投与後6日目においても死亡するものはなく、エンドトキシン不応答性であることを確認することができた。
【実施例8】
【0087】
(TLR2ノックアウトマウスのグラム陰性菌の菌体成分に対する応答性)
TLR2ノックアウトマウス(TLR2-/-)、TLR4ノックアウトマウス(TLR4-/-)及び野生型マウス(野生型)のそれぞれの腹腔内に4%のチオグリコール酸培地(DIFCO社製)を2mlずつ注入し、3日後に各マウスの腹腔内から腹膜滲出細胞を単離し、これらの細胞を10%のウシ胎仔血清(GIBCO社製)を添加したRPMI1640培地(GIBCO社製)中で37℃にて2時間培養し、氷温のハンクス緩衝液(Hank’s buffered salt solution:HBSS;GIBCO社製)で洗浄することにより非付着細胞を取り除き、付着細胞を腹膜マクロファージとして以下の実験に使用した。
【0088】
得られた各腹膜マクロファージをINFγ(30unit/ml)の存在下又は非存在下において、1.0ng/mlの大腸菌由来の合成リピドA(506化合物;第一化学薬品社製)又はサルモネラ・ミネソタRe-595由来のLPS(シグマ社製)といっしょに24時間培養した。なお、かかる合成リピドAとしては、0.025%のトリエチルアミンを含有し、エンドトキシンを全く含有しない水に可溶化したものを用いた。培養後、培養上清中のIL-6(図17A)、TNF-α(図17B)、NO(図17C)の産生量を測定した。なお、IL-6は固相酵素免疫検定法(ELISA;ENDOGEN社製)により、TNF-αは製造者(Genzyme社製)の指示に基づきELSIAにより、NOはNO/NOアッセイキット(同仁科学研究所社製)を使用したGreiss法により測定した。
【0089】
上記の結果から、野生型マウス及びTLR2ノックアウトマウスのマクロファージでは、LPSやリピドAに対して同様な応答を示し、IL-6とTNF-αを産生していた。また、LPSやリピドAにIFN-γを加え培養することにより、さらなるTNF-α産生の増大が確認できた。一方、TLR4ノックアウトマウスのマクロファージにおいては、IL-6とTNF-αを産生しなかった。また、野生型マウス又はTLR2ノックアウトマウスから得られたマクロファージをIFN-γの添加したリピドA又はLPSにおいて培養することにより、NOの産生が確認できた。また、リピドAやLPSの投与量を1μg/mlとした場合も前記と同様の結果が得られた(図は示さず)。
【0090】
次に、図17Dに示す各種濃度のサルモネラ・ミネソタRe-595由来のLPSの存在下で、野生型マウス、TLR2ノックアウトマウス及びTLR4ノックアウトマウスの各腹腔マクロファージを培養してTNF-αの産生を測定した。この結果から、野生型マウス及びTLR2ノックアウトマウスのマクロファージは、LPSの投与量に応じて同様な増加傾向を示すのに対し、TLR4ノックアウトマウスのマクロファージは、いかなる濃度でもTNF-αを産生しなかった。
【実施例9】
【0091】
(サルモネラ・ミネソタRe-595のLPSに対する応答性)
サルモネラ・ミネソタRe-595のLPSに対する各種マウス(野生型、TLR2-/-、TLR4-/-)の脾臓細胞の応答性について調べた。それぞれのマウスの脾臓細胞(1×10)を単離し、図18Aに示す各種濃度のLPSにより96ウェルプレート内で培養して刺激した。培養から40時間後に1μCiの[H]-チミジン(デュポント社製)を添加して更に8時間培養し、[H]の摂取量をβシンチレーションカウンター(パッカード社製)で測定した(図18A)。この結果から、野生型マウス及びTLR2ノックアウトマウスの脾臓細胞では、LPSの投与量に依存して同様に細胞増殖反応を促進していたが、TLR4欠損マウスの脾臓細胞では、いかなる濃度のLPS刺激においてもLPSによる細胞増殖反応は見られなかった。
【0092】
また、フローサイトメトリーにより、Re-595のLPSに対する応答におけるB細胞表面の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスII(I-A)の発現について調べてみた。野生型マウス、TLR2ノックアウトマウス(2-/-)、TLR4ノックアウトマウス(4-/-)のそれぞれの脾臓B細胞(1×10)を単離し、種々の濃度(0、10、10、10、10又は10ng/ml)のLPS又は100U/mlのIL-4を用いて、96ウェルプレート内で48時間培養した。培養後細胞を採取して、フィコエリトリン(phycoerythrin:PE;ファーミンジェン社製)で標識した抗B220抗体、又はビオチン化抗マウスI-A抗体(ファーミンジェン社製)に、フルオレセインイソシアネート(FITC;ファーミンジェン社製)で標識したストレプトアビジンを結合させたFITC標識化抗体により、それらの細胞表面におけるI-A分子に結合させて細胞を染色した。染色した細胞をセルクエストソフトウェア(ベクトンディッキンソン社製)により蛍光活性化セルソーターキャリバー(FACS Calibur)で分析した(図18B)。この結果から、Re-595のLPSは、野生型マウス及びTLR2ノックアウトマウスの脾臓B細胞表面でのI-A分子の発現を増大しているのに対し、TLR4欠損マウスの脾臓B細胞では、高濃度のLPS(10ng/ml)で刺激しても、I-A分子の発現は増大しなかった。以上のことから、TLR2ノックアウトマウスは、野生型マウス同様LPSに対して応答性を示すことがわかった。また、IL-4で刺激した場合では、脾臓B細胞表面でのI-A分子の発現はどのノックアウトマウスにおいても正常であった。
【実施例10】
【0093】
(TLR2ノックアウトマウスのマクロファージのグラム陽性菌由来の細胞壁成分不応答性)
上記野生型マウス(野生型)、TLR2ノックアウトマウス(TLR2-/-)、TLR4ノックアウトマウス(TLR4-/-)等のそれぞれの腹膜マクロファージのグラム陽性菌由来の細胞壁成分に対する応答性を、スタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)、コリネバクテリウム・ジフテリア(C.diphtheriae)及びノカルジア・コエリアカ(N.coeliaca)の細胞壁調製物を用いて調べた。細胞調製物は、文献(Biken J.18,77-92,1975、Infect.Immun.38,817-824、1982)記載の方法と同様に、適切な培養条件下で培養した細胞菌体を、ブラウン・メカニカル・セル・ホモジナイザー(MSKモデル;B.Braun Apparatebau社製)又はDyno-Mill(タイプKDL;Willy A,Biochofen Manufactureing Engineers社製)のいずれかで破壊した。破壊した細胞懸濁液の分画遠心法により得た粗細胞壁画分をプロテアーゼで処理し、細胞壁に元々存在していない成分を除去することにより精製調製した。
【0094】
それぞれのマウスの腹膜マクロファージを、種々の濃度(0、0.1、1、10又は100μg/ml)の上記調製物の存在下で24時間培養して刺激し、それぞれのマクロファージから放出される腫瘍壊死因子(TNF-α)の濃度をELISAにより測定した(図19)。これらの結果から、TLR2ノックアウトマウスのマクロファージは、野生型マウス及びTLR4ノックアウトマウスのものより、グラム陽性菌由来の細胞壁成分に対する応答におけるTNF-αの産生が損なわれることがわかった。
【実施例11】
【0095】
(TLR2ノックアウトマウスのグラム陽性菌の細胞壁成分に対する応答性)
次に、グラム陽性菌のどの細胞壁成分がTLR2を介してマクロファージを活性化するのかを調べてみた。従来、グラム陽性菌の細胞壁成分であるペプチドグリカン(PGN)及びリポテイコ酸(LTA)が単球/マクロファージを活性化するとの報告がある(Infect.Immun.60,3664-3672,1992、Immunity 1,509-516,1994、J.Biol.Chem.271,23310-23316,1996、Infect.Immun.64,1906-1912,1996)ことから、10μg/mlのスタフィロコッカス・アウレウスのPGN(Fluka社製;図20A)又は10μg/mlのスタフィロコッカス・アウレウスのLTA(シグマ社製;図20C)を用いて、実施例8と同様の方法により、各種マウスの腹膜マクロファージに対する応答でのIL-6及びNOの産生量を測定した。また、実施例10と同様に、各種マウスの腹膜マクロファージのPGN(図20B)又はLTA(図20D)に対する応答でのTNF-αの産生を測定した。
【0096】
図20Aの結果から、野生型マウス及びTLR4ノックアウトマウスの腹膜マクロファージでは、PGNに対する応答によりIL-6を産生するのに対し、TLR2ノックアウトマウスのものでは産生しないことがわかった。また、野生型マウス及びTLR4ノックアウトマウスの腹膜マクロファージをIFN-γの存在下でPGNといっしょに培養するとNOを産生するのに対して、TLR2ノックアウトマウスのものでは産生しないことがわかった。一方、野生型マウス及びTLR2ノックアウトマウスの腹膜マクロファージでは、LTAに対する応答によりIL-6を産生するのに対し、TLR4ノックアウトマウスのものでは産生しないことがわかった(図20C)。また、野生型マウス及びTLR2ノックアウトマウスの腹膜マクロファージをIFN-γの存在下でLTAといっしょに培養するとNOを産生するのに対して、TLR4ノックアウトマウスのものでは産生しないことがわかった(図20C)。
【0097】
図20Bに示されているように、TLR4ノックアウトマウスの腹膜マクロファージは、野生型マウスのものと同様に、PGNの投与量に応じてTNF-αの産生を増加させるのに対して、TLR2ノックアウトマウスのものでは、TNF-α産生が実質的に損なわれており、PGN不応答性であることがわかった。一方、図20Dに示されているように、TLR2ノックアウトマウスの腹膜マクロファージは野生型マウスのものと同様に、LTAの投与量に応じてTNF-αの産生を誘導するのに対し、TLR4ノックアウトマウスのものでは、TNF-α産生がなく、LTA不応答性であることがわかった。以上のことから、グラム陽性菌の細胞壁成分であるPGNがTLR2を介してマクロファージを活性することや、LTAがTLR4を介してマクロファージを活性することがわかった。
【実施例12】
【0098】
(LPS又はPGN刺激によるインビトロでのキナーゼアッセイ及びウェスタンブロット)
TLRファミリーメンバーは、アダプタータンパク質MyD88を介してセリン/トレオニンキナーゼであるIRAKを活性化し、次いでrel型転写因子であるNF-κBを活性化する、細胞内シグナル伝達分子として知られている(Mol.Cell 2,253-258,1998、J.Exp.Med.187,2097-2101,1998、Immunity 11,115-122,1999)。LPS及びPGNが、かかる細胞内シグナル伝達分子を活性化するかどうかを次のようにして調べた。各種マウスの腹腔マクロファージ(1×10)を、1ng/mlのサルモネラ・ミネソタRe-595のLPS又は10μg/mlのスタフィロコッカス・アウレウスのPGNで図21に示された時間刺激し、これらの細胞菌体を、溶解緩衝液(最終濃度で1.0%のトリトンX-100、137mMのNaCl、20mMのトリス-HCl、5mMのEDTA、10%のグリセロール、1mMのPMSF、20μg/mlのアプロチニン、20μg/mlのロイペプチン、1mMのNaVO及び10mMのβ-グリセロリン酸を含有する緩衝液:pH8.0)中にて溶解し、抗IRAK抗体(林原生化学研究所株式会社)で免疫沈降して、文献(Biochem.Biophys.Res.Commun.234,183-196,1998、Immunity 11,115-122,1999)記載のように、インビトロキナーゼアッセイを行い、IRAKの自己リン酸化を測定した(図21A,BにおけるAuto)。
また、上記溶解物を、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離させ、ニトロセルロース膜に移し、この膜を抗IRAK抗体(Transduction Laboratories社製)でブロットして、エンハンスド・ケミルミネッセンス装置(デュポント社製)を使用して視覚化した(図21A,BにおけるWB)。以上の結果から、LPSに対する応答でのIRAK活性化は、野生型マウス(野生型)及びTLR2ノックアウトマウス(TLR2-/-)において観察できたが、TLR4ノックアウトマウス(TLR4-/-)では観察できなかった。一方、PGNに対する応答でのIRAK活性化は、野生型マウス及びTLR4ノックアウトマウスのみにおいて確認することができた。これらのことから、LPSはTLR4を、PGNはTLR2をそれぞれ介し認識されることがわかった。
【0099】
さらに、LPS又はPGNに対する応答によるNF-κBの活性化についも調べてみた。上記LPS又はPGNで刺激した各種マウスのマクロファージから核抽出物を精製し、NF-κBのDNA結合部位に対する特異的プローブといっしょにインキュベートし、文献(Immunity 9,143-150,1998)記載の電気泳動移動度シフト分析により視覚化した。その結果を図21C,Dに示す。なお、図中の矢印はNF-κBと特異的プローブとの複合物の位置を示し、矢頭は特異的プローブのみの位置を示している。これらの結果から、LPSに対する応答によるNF-κBのDNA結合活性を、野生型マウス及びTLR2ノックアウトマウスのマクロファージの核抽出物において検出できたが、TLR4ノックアウトマウスのものではかかる活性を検出できなかった。一方、PGNに対する応答によるNF-κB活性化は、野生型マウスとTLR4ノックアウトマウスのマクロファージで確認できたが、TLR2ノックアウトマウスのものでは確認できなかった。これらのことから、TLR4はLPS誘導NF-κB活性化に、TLR2はPGN誘導NF-κB活性化に不可欠であることがわかった。
【実施例13】
【0100】
(R-MALP-2とS-MALP-2の立体特異的リポペプチド合成及びHPLC精製)
出発原料として、各々99%以上の純粋なエナンチオマーを含有する(S)-(-)-グリシドール及び(R)-(+)-グリシドール(シグマ-アルドリッチ社製)の2つの試薬を用いて文献(Int.J.Peptide Protein.Res.38545,1991)記載の方法により、S-(2,3-ジハイドロオキシプロピル)-L-システインの立体異性体を合成した。これら立体異性体からNα-フルオレニルメトキシカルボニル基で保護されたS-[2(S),3-ビス(パルミトイルオキシ)プロピル]-L-システインとS-[2(R),3-ビス(パルミトイルオキシ)プロピル]-L-システインとの異性体をそれぞれ合成し、上記文献記載の方法でカップリングし、担体に結合したフルオレニルメトキシカルボニル基で保護されたペプチドを得た。10mgの粗精製MALP-2を、SP250/10 Nucleosil 300-7 C8 column(Macherey & Nagel社製)を用いて逆相HPLCによりバッチ処理してさらに精製し、0.1%のトリフルオロ酢酸を含んだ水/2-プロパノールの直線的グラジエントにより40℃で溶出し、活性溶出画分をNO解離分析によりモニターし、最終生成物は質量分析、及び、正確なペプチド含量を決定するためのをアミノ酸分析により特徴づけられた。これらMALP-2を水/2-プロパノール1:1(容積比)の溶液を用い1mg/mlの濃度に調整し、4℃で保存した。
【実施例14】
【0101】
(CH3/HeJマウスの腹腔マクロファージのリポタンパク/リポペプチドに対する応答性)
CH3/HeJ由来のエンドトキシン低応答性マウスからPEC(腹腔滲出細胞)を単離し、これらPEC(6×10)を5%のFCSと25μMの2-メルカプトエタノールを含んだダルベッコMEM培地(DMEM)1.25mlの入った24穴細胞培養プレート中で37℃にて一晩培養した。この培養物から非付着細胞を取り除き、新しい培養液に交換して腹膜マクロファージを調製した。各種濃度(0.1、1、10、10、10、10、10又は10pg/ml)の実施例8の方法により得られたR-MALP-2又はS-MALP-2と、濃度30unit/mlの組換えインターフェロン-γ(rIFN-γ)の共存下に、上記腹膜マクロファージを培養し、培養上清中のNO、TNF-α及びIL-6の産生量を測定した(図22)。TNF-αは培養から3時間後にELISA(Genzyme社製)によって、IL-6は培養から21時間後にELISA(ENDOGEN社製)によって、NOは培養から46時間後にNO/NOアッセイキット(同仁科学研究所社製)を使用したGreiss法によってそれぞれ測定した。これらの結果から、S-MALP-2よりR-MALP-2の方が、腹膜マクロファージに対してより高い特異活性を示すことがわかった。
【実施例15】
【0102】
(ヒト単球のリポタンパク/リポペプチドに対する応答性)
健康なヒトから得られた単球を洗浄後、実験に用いた。実施例13の方法により得られたR-MALP-2又はS-MALP-2の各種濃度(0.1、1、10、10、10、10又は10pg/ml)下、ヒト単球(7.5×10)を20時間刺激した。刺激後、IL-8、MCP-1及びTNF-αの産生量をELISAにより測定した(図23)。この結果から、実施例14のマウス由来のマクロファージの場合と同様に、S-MALP-2よりR-MALP-2の方がマクロファージ等に分化する前のヒト単球に対してより高い特異活性を示すことがわかった。
【実施例16】
【0103】
(TLR2ノックアウトマウスのリポタンパク/リポペプチド不応答性)
野生型マウス(野生型)、TLR2ノックアウトマウス(TLR2-/-)、TLR4ノックアウトマウス(TLR4-/-)、MyD88ノックアウトマウス(MyD88-/-)のそれぞれの腹膜マクロファージのリポタンパク/リポペプチドに対する応答性を、マイコプラズマ由来のMALP-2を用いて調べた。それぞれのマウスの腹膜マクロファージを実施例14と同様の方法により単離し、各腹膜マクロファージをrINFγ(30unit/ml)の存在下(図24B及びD)又は非存在下(図24A及びC)において、実施例13より得られた各種濃度(0、0.1、1、10、10、10又は10pg/ml)のR-MALP-2又はS-MALP-2といっしょに24時間培養した。培養後、培養上清中のTNF-α及びNOの産生量を測定した(図24)。
【0104】
上記の結果から、野生型マウス及びTLR4欠損マウスの腹膜マクロファージは、R-MALP-2の投与量に応じてTNF-αやNOの産生を増加しているのに対して、TLR2欠損マウス及びMyD88欠損マウスの腹腔マクロファージではTNF-αもNOも産生していなかった(図24A及びB)。また、S-MALP-2においても同様の結果が得られた(図24C及びD)。その他、R-MALP-2又はS-MALP-2刺激によるIL-6産生も、TLR2欠損マウス及びMyD88欠損マウスの腹腔マクロファージでは不応答性であることが確認された(図示せず)。以上のことから、R-MALP-2等のマイコプラズマ由来のリポタンパク/リポペプチドがTLR2及びMyD88を介してマクロファージを活性化することがわかった。
【実施例17】
【0105】
(リポタンパク/リポペプチド刺激によるインビトロでのキナーゼアッセイ及びウェスタンブロット)
実施例16の結果から、リポタンパク/リポペプチドが細胞内シグナル伝達分子を活性化するかどうかを調べるために、上記4種のマウスの腹腔マクロファージ(1×10)を、0.3ng/mlのR-MALP-2で10分間刺激し、実施例12と同様に抗IRAK抗体を用いてインビトロキナーゼアッセイ(図25AのAuto)及びウエスタンブロット分析(図25AのWB)や電気泳動移動度シフト分析(図25B)を行った。また、抗JNK1抗体を用いたインビトロキナーゼアッセイ(図25CのAuto)及びウエスタンブロット分析(図25CのWB)を行った。これらの結果から、TLR2ノックアウトマウス及びMyD88ノックアウトマウスのマクロファージにおいて、MALPに対するIRAK、NF-κB及びJNKの活性化が確認できなかった。以上のことから、マイコプラズマ由来のリポタンパク/リポペプチドは、TLR2及びMyD88シグナル伝達経路を介して生体反応を引き起こしていることが明かとなった。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明のMyD88ノックアウトマウスと野生型マウスの遺伝子地図を示す図である。
【図2】本発明のMyD88ノックアウトマウスと野生型マウスに大腸菌由来のLPSを投与した場合の生存率を示す図である。
【図3】本発明のMyD88ノックアウトマウスと野生型マウスにおけるIL-1を介してのT細胞増殖の結果を示す図である。
【図4】本発明のMyD88ノックアウトマウスと野生型マウスにおけるIL-1誘導による血中のTNF-αとIL-6のレベル結果を示す図である。
【図5】本発明のMyD88ノックアウトマウスと野生型マウスにおけるIL-18を介してのNK細胞の活性化の結果を示す図である。
【図6】本発明のMyD88ノックアウトマウスと野生型マウスにおけるIL-12とIL-18の刺激によるIFN-γの産生の結果を示す図である。
【図7】ドミナントネガティブMyD88の突然変異が、IL-18誘導NF-κB活性及びAP-1活性に関与していることを示す図である。
【図8】本発明のMyD88ノックアウトマウス、野生型マウス、TLR4ノックアウトマウスのマクロファージ及び脾臓B細胞のサルモネラ・ミネソタRe-595に対する応答性の結果を示す図である。
【図9】本発明のMyD88ノックアウトマウス、野生型マウス、TLR4ノックアウトマウスのマクロファージ及び脾臓B細胞のIL-4やインターフェロン-γに対する応答性の結果を示す図である。
【図10】本発明のMyD88ノックアウトマウス、野生型マウス、TLR4ノックアウトマウスのマクロファージ及び脾臓B細胞のポルフィロモナス・ジンジバリスに対する応答性の結果を示す図である。
【図11】本発明のMyD88ノックアウトマウス、野生型マウス、TLR4ノックアウトマウスのマクロファージ及び脾臓B細胞のエシェリキア・コリO55:B5に対する応答性の結果を示す図である。
【図12】本発明のMyD88ノックアウトマウス、野生型マウス、TLR4ノックアウトマウスのマクロファージ及び脾臓B細胞のペプチドグリカンに対する応答性の結果を示す図である。
【図13】本発明のMyD88ノックアウトマウス、野生型マウス、TLR4ノックアウトマウスのマクロファージ及び脾臓B細胞のリポテイコ酸に対する応答性の結果を示す図である。
【図14】本発明のMyD88ノックアウトマウス、野生型マウス、TLR4ノックアウトマウスのマクロファージ及び脾臓B細胞の結核菌全細胞溶解物に対する応答性の結果を示す図である。
【図15】本発明のTLR2ノックアウトマウスと野生型マウスの遺伝子地図を示す図である。
【図16】本発明のTLR2ノックアウトマウスと野生型マウスに大腸菌由来のLPSを投与した場合の生存率を示す図である。
【図17】本発明のTLR2ノックアウトマウス、野生型マウス、TLR4ノックアウトマウスにおけるリピドA又はLPS誘導によるIL-6、TNF-α又はNOの産生量を示す図である。
【図18】本発明のTLR2ノックアウトマウス、野生型マウス、TLR4ノックアウトマウスの脾臓B細胞のサルモネラ・ミネソタRe-595由来LPSに対する応答性の結果を示す図である。
【図19】本発明のTLR2ノックアウトマウス、野生型マウス、TLR4ノックアウトマウスの腹腔マクロファージのグラム陽性菌の細胞壁成分に対する応答性の結果を示す図である。
【図20】本発明のTLR2ノックアウトマウス、野生型マウス、TLR4ノックアウトマウスにおけるPGN又はLTA誘導によるIL-6、NO又はTNF-αの産生量を示す図である。
【図21】本発明のTLR2ノックアウトマウス、野生型マウス、TLR4ノックアウトマウスにおいて、LPS又はPGN刺激によるインビトロでのキナーゼアッセイ、ウエスタンブロット分析及び電気泳動移動度分析の結果を示す図である。
【図22】CH3/HeJマウスの腹腔マクロファージのリポペプチドMALP-2に対する応答性の結果を示す図である。
【図23】ヒト単核細胞のリポペプチドMALP-2に対する応答性の結果を示す図である。
【図24】本発明のTLR2ノックアウトマウス、野生型マウス、TLR4ノックアウトマウス、MyD88ノックアウトマウスの腹腔マクロファージのリポペプチドMALP-2に対する応答性の結果を示す図である。
【図25】本発明のTLR2ノックアウトマウス、野生型マウス、TLR4ノックアウトマウス、MyD88ノックアウトマウスにおいて、リポペプチドMALP-2刺激によるインビトロでのキナーゼアッセイ、ウエスタンブロット分析及び電気泳動移動度分析の結果を示す図である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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