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明細書 :ハイブリッド多糖系キャリアーを用いる核酸類の導入方法。

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4712333号 (P4712333)
公開番号 特開2006-069913 (P2006-069913A)
登録日 平成23年4月1日(2011.4.1)
発行日 平成23年6月29日(2011.6.29)
公開日 平成18年3月16日(2006.3.16)
発明の名称または考案の名称 ハイブリッド多糖系キャリアーを用いる核酸類の導入方法。
国際特許分類 A61K  31/7088      (2006.01)
A61K  47/34        (2006.01)
A61K  47/36        (2006.01)
A61K  47/40        (2006.01)
A61K  47/48        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A61K 31/7088
A61K 47/34
A61K 47/36
A61K 47/40
A61K 47/48
A61K 48/00 ZNA
A61P 43/00 111
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 5
全頁数 18
出願番号 特願2004-252009 (P2004-252009)
出願日 平成16年8月31日(2004.8.31)
審査請求日 平成19年8月30日(2007.8.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】501190941
【氏名又は名称】三井製糖株式会社
発明者または考案者 【氏名】新海 征治
【氏名】水 雅美
【氏名】櫻井 和朗
【氏名】狩長 亮二
【氏名】穴田 貴久
【氏名】甲元 一也
【氏名】長谷川 輝明
【氏名】沼田 宗典
個別代理人の代理人 【識別番号】100087675、【弁理士】、【氏名又は名称】筒井 知
審査官 【審査官】伊藤 基章
参考文献・文献 特表2005-255750(JP,A)
特表2004-261024(JP,A)
国際公開第02/072152(WO,A1)
国際公開第01/034207(WO,A1)
Bioconjugate Chemistry,2004年 2月26日,Vol.15(2),p.249-259
Polymer Preprints, Japan(高分子学会予稿集),2001年,vol.50 no.14,pp.3814-3815
調査した分野 A61K 31/00
A61K 47/00
A61K 48/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
β-1,3-グルカンの2本鎖と被導入核酸の1本鎖とから成り、前記β-1,3-グルカン鎖が細胞膜透過性官能基と脂質膜撹乱性官能基の両方を有している複合体から構成される、標的細胞に核酸を導入するための多糖系キャリアーであって、前記脂質膜攪乱性官能基がポリエチレングリコール残基であり、また、前記細胞膜透過性官能基が単糖またはオリゴ糖の残基であり、該ポリエチレングリコール残基に該単糖またはオリゴ糖の残基が連結していることを特徴とする多糖系キャリアー。
【請求項2】
単糖がグルコースであり、オリゴ糖がガラクトースである請求項1に記載の多糖系キャリアー。
【請求項3】
β-1,3-グルカンの2本鎖と被導入核酸の1本鎖とから成り、前記β-1,3-グルカン鎖が細胞膜透過性官能基と脂質膜撹乱性官能基の両方を有している複合体から構成される、標的細胞に核酸を導入するための多糖系キャリアーであって、前記脂質膜攪乱性官能基がシクロデキストリン残基であり、また、前記細胞膜透過性官能基が単糖またはオリゴ糖の残基であり、前記シクロデキストリン残基に包接される疎水性ゲスト分子を介して該シクロデキストリン残基と該単糖またはオリゴ糖の残基が連結していることを特徴とする多糖系キャリアー。
【請求項4】
疎水性ゲスト分子がアダマンタンである請求項3に記載の多糖系キャリアー。
【請求項5】
単糖がグルコースであり、オリゴ糖がガラクトースである請求項3または4に記載の多糖系キャリアー。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスフェクション能が高く、かつ生体に安全な、多糖系の新規なキャリアーを用いる核酸類の細胞への導入法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遺伝子工学の進歩に対応して、アンチセンス療法が盛んに研究されており、アンチセンス医薬に関する文献・特許が多数報告されつつある。この療法に基づき既に開発段階に入っている医薬品の候補は、各種の癌や白血病、エイズや肝炎などのウイルス性疾患、乾癬、クローン病、喘息、リウマチなど多岐の疾病に対するものとなっている。
【0003】
アンチセンス療法で使用されるアンチセンスオリゴヌクレオチドやsiRNAは、DNA、mRNAまたはmRNA前駆体等の標的核酸に見いだされる特異的な配列に対し相補的な配列を有するように設計されている。そのアンチセンスオリゴヌクレオチドやsiRNAを医薬として使用する場合、配列特異性の他にヌクレアーゼに耐性があること、無毒性で、製造コストが安価であること、標的組織や細胞へ送達できるような適当な薬物動態を有すること、細胞膜、小胞オルガネラ膜、核膜を通過できること、高い特異性と透過性をもって高次構造を有するRNA分子の標的領域へ侵入すること、そして、標的蛋白質の翻訳過程を最大限、阻止できるようにすることなど多くの課題がある。
【0004】
それらの課題の中で、アンチセンスオリゴヌクレオチドやsiRNAの細胞内への導入効率を上げることは重要な課題であり、一般に、その解決のために遺伝子キャリアーが併用されている。当初、レトロウイルスまたはアデノウイルスが、遺伝子キャリアーとしてin vitroでは極めて見込みのある結果を与えたが、これら天然由来のウイルスの炎症性、免疫原的性質、ならびに突然変異誘発および細胞ゲノム中への組み込みの危険性が原因として、これらのin vivoにおける使用は制限されている。

【非特許文献1】Mulligan, Science, 260,926-932(1993)
【非特許文献2】Miller, Nature, 357,455-460(1992)
【非特許文献3】Crystal, Science, 270,404-410(1995)
【非特許文献4】K. Nishikura, Cell (4), 107,415-418(2001)
【0005】
近年、非ウイルス性の人工キャリアーとしてポリエチレンイミン(PEI)、PEIと同様に窒素の置換基で修飾された、種々のカチオン性ポリマー、カチオン性脂質などが遺伝子キャリアー、トランスフェクション剤、薬物担体などという名称で、多数特許出願されている。
【0006】
しかしながら、PEIのようなアミノ基を有する物質は生理活性が高く、体内毒性等の危険性も考えられる。事実、今まで検討されたカチオン性ポリマーは未だ実用に供されておらず、医薬品添加物辞典等に記載されていない。

【非特許文献5】医薬品添加物辞典
【非特許文献6】日本医薬品添加剤協会縄集、薬事日報社
【0007】
一方、筋肉内注射製剤の臨床薬として実際に使用されている多糖類に、β-1,3-グルカンが存在する。この多糖は天然では3重螺旋構造をとっていることが古くから知られている。

【非特許文献7】Theresa M. McIntire and David A.Brant, J. Am. Chem. Soc., 120, 6909(1998)
【0008】
この多糖は、既に生体内での安全性が確認されており、筋肉内注射薬として約20年の使用実績がある。

【非特許文献8】清水、陳、荷見、増淵、Biotherapy, 4, 1390(1990)
【非特許文献9】長谷川、Oncology and Chemotherapy, 8, 225(1992)
【0009】
このようなβ-1,3-グルカンを化学修飾して、DNA等の生体材料とのコンジュゲートを作成し、これを遺伝子キャリアーに使用できることが知られている。この先行技術には、天然のβ-1,3-グルカン、すなわち、3重螺旋構造を有するβ-1,3-グルカンをそのまま使用し、これと生化学活性のある材料を、共有結合を介して、β-1,3-グルカン/生体材料のコンジュゲートを製造する方法が述ベられている。

【特許文献1】PCT/US95/14800
【0010】
また、最近、本発明者らにより、β-1,3-グルカンまたはβ-1,3-キシラン系の多糖類が、人工的に処理されることで、アンチセンスヌクレオチドや免疫刺激性核酸(CpG DNA)など各種の核酸と新しいタイプの複合体を形成することが見出された。そして、複合体の化学量論比を検討した際、核酸1分子に対してβ-1,3-グルカン2分子で複合体を構成していることが発見された。

【特許文献2】PCT/JP00/07875
【特許文献3】PCT/JP2004/006793
【非特許文献10】櫻井、新海、J. Am. Chem. Soc., 122,4520(2000)
【非特許文献11】木村、甲元、櫻井、新海、Chem. Lett., 1242(2000)
【非特許文献12】水、甲元、穴田、松本、沼田、新海、長 崎、櫻井、J. Am.Soc. Chem., 126, 8372 (2004)
【0011】
もともと天然もしくは水中で3重螺旋として存在するこの多糖を、極性溶媒に溶解して1本鎖にした後、1本鎖の核酸を加え、溶媒を水に戻すこと(再生過程)によって、核酸1本・多糖2本からなる、3重螺旋型の複合体が形成されるのである。このような多糖と遺伝子の複合体は、水素結合および疎水性相互作用を介して形成されると考えられる。

【非特許文献13】櫻井和朗、井口律子、木村太郎、甲元一也、水雅美、新海征治、Polym.Preprints Jpn., 49, 4054(2000)
【0012】
天然の多糖類を使用した場合の核酸との複合体における結合エネルギーは、ケースによってはさほど強くなく、比較的容易に複合体が解離する。また、予め多糖類に各種官能基を導入して核酸との複合体の安定性をより強くする方法も開発されている。さらに、これらの多糖類と核酸の3重螺旋型複合体は、細胞膜との透過性およびヌクレアーゼ耐性があり、遺伝子キャリアーとして使える可能性が高いことが本発明者らによって明らかにされた。

【特許文献4】PCT/JP02/02228
【0013】
さらに、細胞内へのトランスフェクション効率を高める手段として、最近は、標的細胞への特異的な透過性を活用する方法の研究が盛んである。例えば、細胞の表面に存在する接着蛋白にインテグリンがあり、そのインテグリン結合に有効と認められているペプチドとしてRGD配列が知られている。そして、RGDを含む配列のペプチドを、既知のカチオン性キャリアーに導入することによって、遺伝子のトランスフェクション効果を上げる試みが、特許に例示されている。

【特許文献5】特表2002-502243
【特許文献6】特願2003-52508
【0014】
同様に、細胞の表面に存在する糖レセプターを特異的に認識することを活用するトランスフェクションの方法も研究されている。例えば、肝細胞に代表されるガラクトース受容体をもつ細胞に対して、特異的に透過性を有するガラクトースまたはガラクトースを構成成分として含むラクトースで修飾された脂質、ペプチド等の遺伝子キャリアーが、肝臓癌のアンチセンスDNA治療薬のキャリアーとして特許出願されている。また、本発明者らにより、ガラクトースを結合させたβ-1,3-グルカンを用いた肝細胞ターゲッティング製剤について特許出願している。ガラクトースおよびラクトース以外にも、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、マンノ-ス、グルコース、フコースおよびシアル酸などが細胞表面の各種レセプターを認識する糖として知られている。

【特許文献7】特開平9-235292
【特許文献8】特開平11-290073
【特許文献9】特表2002-515418
【特許文献10】特表2002-538174
【特許文献11】特願2003-396585
【0015】
コレステロールも細胞表層に存在するレセプターを介して細胞内に取り込まれる化合物として知られており、ドラッグ・デリバリーの分野では比較的頻繁に利用されている。
また、トランスフェリンは鉄輸送タンパク質として、葉酸は核酸の塩基部位の合成に細胞に必要不可欠な分子として、細胞表層に存在するレセプターを介して細胞内に取り込まれる化合物として知られており、これらの化合物やその誘導体もドラッグ・デリバリーに応用されている。

【非特許文献14】Bisgaier CL, Essenburg AD,Auerbach BJ, Pape ME, Sekerke CS, Gee A, Wolle S, Newton RS, J. Lipid Res, 38,2502-2515 (1997)
【非特許文献15】Zhu ZB, Makhija SK, Lu B, WangM, Rivera AA, Preuss M, Zhou F, Siegal GP, Alvarez RD, Curiel DT, Virology, 325,116-128 (2004)
【非特許文献16】Christopher P. Leamon, Scott R.Cooper, and Gregory E. Hardee Bioconjugate Chem., 14, 738-747 (2003)
【0016】
さらに、近年、Tatペプチドやオリゴアルギニンを遺伝子導入剤に応用する試みがなされてきた。Tatペプチドは、ウイルスが細胞内に侵入する際に細胞膜を貫通させるために用いる物質である。この一部が連続したアルギニン配列で構成されている。これらの持つ正電荷や構造が、そのメカニズムは明らかにされてはいないが、細胞膜透過性に深く関与していると明確に示されている。そのため、多くの研究者によって非ウイルス性ベクターにTatペプチドやオリゴアルギニン、ならびに類似の作用が期待されるRevペプチドおよびAntペプチド等が用いられている。

【非特許文献17】S. Futaki, Biochemistry, 41,7925-7930 (2002)
【非特許文献18】J. Philippe, The journal ofbiological chemistry, 278, 585-590 (2003)
【0017】
ドラッグ・デリバリーにおける細胞内への核酸の導入では、一般にエンドサイトーシスと呼ばれる経路で細胞膜を突破することが知られている。細胞内に導入後、エンドソームと呼ばれる脂質二分子膜に包摂され、リソソームへ移行して強力な分解酵素によって分解されるなどして代謝されてしまう。即ち、ドラッグ・デリバリーにおいてリソソームでの分解は大きな障壁であり、これを回避することによってデリバリー能の向上に大きく貢献できるものといえる。ポリエチレングリコール(PEG)は、400μg/ml以上の高濃度条件下において細胞膜融合を引き起こすことが知られており、その際に、脂質二分子膜を撹乱すると考えられる。その脂質二分子膜撹乱性により輸送小胞(エンドソーム)に包まれて細胞内に浸透した複合体が、局所的に脂質二分子膜の一種であるエンドソームに対するPEG濃度が増大し、エンドソームを突破し、脱出するものと考えられている。このまた、場合によっては細胞膜を直接撹乱することにより、エンドソームを経由せずに膜内に入って、リソソームでの分解を回避する可能性も考えられる。本発明者らにより、PEGを結合させたβ-1,3-グルカンを用いた核酸治療剤のデリバリーについて特許出願している。

【特許文献12】特願2004-66606なお、本明細書において、単に脂質膜と記述した場合は、上記の脂質二分子膜のことを指称する。
【0018】
シクロデキストリン(以下、CyDと表記することがある)にも同様に、脂質分子包接能により脂質二分子膜を撹乱する可能性を有することが知られている。そのため、CyDの遺伝子キャリアーとしての付加価値について、特に細胞内に導入された後のエンドソーム膜を突破し、ターゲットである核酸に向かって運搬できるものと考えられる。また、CyDは、脂質分子の他にアダマンタンなどの疎水性分子をゲストとして包接する作用を持ち、様々な分野に応用されている。

【非特許文献19】Hidetoshi Arima, BioconjugateChem., 12, 476-484 (2001)
【非特許文献20】Hiroshi Ikeda, J. Am. Chem. Soc.,118, 10980-10988, (1996)
【0019】
しかしながら、上記のような、機能を有する官能基を、複数組み合わせてβ-1,3-グルカンに修飾し、核酸のキャリアーとして相乗効果と最適化を図る試みは見られない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、生体に対する安全性が高く、かつ核酸と特異な複合体を形成する能力のある多糖であるβ-1,3-グルカンに、標的細胞への核酸のトランスフェクション能を一段と高めるための新しい技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に従えば、上記の目的を達成するものとして、標的細胞に核酸を導入する方法であって、細胞膜透過性官能基と脂質膜撹乱性官能基とを併有するβ-1,3-グルカン、または、細胞膜透過性官能基を有するβ-1,3-グルカンおよび脂質膜撹乱性官能基を有するβ-1,3-グルカンを非プロトン性極性溶剤またはアルカリ性溶剤に溶解した後、前記被導入核酸と水の存在下に混合することによって該核酸とβ-1,3-グルカンとから成る複合体を形成させ、この複合体を標的細胞に投与することを特徴とする方法が提供される。
【0022】
さらに、本発明は、別の観点から、β-1,3-グルカンの2本鎖と導入核酸の1本鎖とから成る複合体であって、β-1,3-グルカンの2本鎖のうちの1本が細胞膜透過性官能基を有し且つ他の1本が脂質膜撹乱性官能基を有するか、または、同一のβ-1,3-グルカン鎖が細胞膜透過性官能基と脂質膜撹乱性官能基の両方を有している複合体から構成されることを特徴とする標的細胞に核酸を導入するための多糖系キャリアーを提供するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明に従えば、細胞膜透過性官能基と脂質膜撹乱性官能基とを併せ持つβ-1,3-グルカンを核酸と複合体化したハイブリッド多糖系キャリアーとして核酸を投与することにより、標的細胞への当該核酸の導入効率を高め、治療効果を向上させることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明において用いられる細胞膜透過性官能基とは、背景技術に関連して例示したように、細胞表層に存在する受容体を特異的に認識することができ、また、正電荷や分子構造的に細胞膜表層に吸着し貫通することにより核酸の細胞内への浸透に効果のある官能基または原子団を指称する。細胞表層に存在する受容体を特異的に認識する細胞膜透過性官能基の好ましい例としては、ガラクトース、マンノース、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、マンノース、グルコース、フコースおよびシアル酸より選ばれる単糖またはオリゴ糖の残基が挙げられる。この他、RGDペプチド、コレステロール、トランスフェリン、または葉酸の残基も本発明で使用可能な細胞表層に存在する受容体を特異的に認識する細胞膜透過性官能基の例である。正電荷や分子構造的に細胞膜表層に吸着し貫通するタイプの細胞膜透過性官能基の好適な例は、オリゴアルギニン、Tatペプチド、RevペプチドまたはAntペプチドの残基である。
【0025】
本発明において用いられる脂質膜撹乱性官能基とは、背景技術に関連して例示したように、細胞膜または細胞内に導入された後の輸送小胞を突破・脱出する機能を有し細胞内でのリソソームにおける分解を回避する効果をもたらす官能基または原子団を指称する。本発明において好適に用いられる脂質膜撹乱性官能基の典型例は、ポリエチレングリコール、シクロデキストリン、またはカルボン酸の残基である。
【0026】
本発明に従い標的細胞に核酸を導入するためには、先ず、細胞膜透過性官能基と脂質膜撹乱性官能基とを併有するβ-1,3-グルカンを極性溶媒(非プロトン性極性溶剤、例えば、DMSO)に溶解する(以下、この態様を第1の態様と言うことがある)。または、別の態様として、細胞膜透過性官能基を有するβ-1,3-グルカンおよび脂質膜撹乱性官能基を有するβ-1,3-グルカンを非プロトン性極性溶剤に溶解する(以下、この態様を第2の態様と言うことがある)。この操作により、もともと天然もしくは水中で3重螺旋として存在していたβ-1,3-グルカンは1本鎖になる。なお、DMSOのような非プロトン性極性溶媒の代わりに水酸化ナトリウム溶液のようなアルカリ性溶剤に溶解してもよい。
【0027】
次に、このようにして得られたβ-1,3-グルカンを水の存在下に被導入核酸と混合する。すなわち、非プロトン性極性溶剤(またはアルカリ性溶剤)中に溶解しているβ-1,3-グルカンに核酸(1本鎖)を加え、溶媒を水に戻す。かくして、β-1,3-グルカンの2本鎖と核酸(標的細胞に導入されるべき核酸)の1本鎖とから成る複合体が形成される(非特許文献13)。
【0028】
かくして、本発明に従えば、β-1,3-グルカンの2本鎖と被導入核酸の1本鎖とから成る複合体であって、β-1,3-グルカンの2本鎖のうちの1本が細胞膜透過性官能基を有し且つ他の1本が脂質膜撹乱性官能基を有する複合体(第1の態様による場合)、または、同一のβ-1,3-グルカン鎖が細胞膜透過性官能基と脂質膜撹乱性官能基の両方を有している複合体(第2の態様による場合)が形成され、この複合体の形態で核酸を標的細胞に導入する。図11は、このような本発明のハイブリッド多糖系キャリアーを構成する複合体を概念的に示すものであり、図11の(B)と(C)は同一のβ-1,3-グルカン鎖が細胞膜透過性官能基と脂質膜撹乱性官能基の両方を有している複合体を示し、図11の(A)は2本のβ-1,3-グルカン鎖の一方が細胞膜透過性官能基を有し他方が脂質膜撹乱性官能基を有する複合体を示している。
【0029】
本発明は、β-1,3-グルカンに、細胞膜透過性官能基と脂質膜撹乱能を有する官能基とを導入し、これらを導入しようとする核酸と複合体化して標的細胞に投与する方法である。そして、本発明で使用される核酸とは、疾病の治療等のために細胞内に導入されるべき遺伝子自体または該遺伝子を含む核酸、および類似の核酸類であり、上記のような官能基を有するβ-1,3-グルカンと複合体を形成するものであれば、どのような形態でも良い。すなわち、RNA、オリゴDNA、1本鎖核酸、2本鎖核酸、プラスミドDNAなどが本発明で用いられる核酸として包含されるが、実用的見地から特に好適な核酸物質はアンチセンスDNA、siRNA、CpG DNAなどのオリゴヌクレオチドである。
【0030】
β-1,3-グルカンと核酸が形成する複合体は、前述のように、β-1,3-グルカンの2本鎖と核酸の1本鎖、すなわち、核酸1分子に対しβ-1,3-グルカン2分子で構成される。細胞膜透過性官能基と脂質膜撹乱性官能基を導入した一対のβ-1,3-グルカン(例えば、ガラクトースを導入したβ-1,3-グルカンとPEGを導入したβ-1,3-グルカン:図11のA)を複合化の際に混合することで、核酸1分子に異なる機能を付加した2種類のβ-1,3-グルカン各1本から成る新しい複合体が形成される。これは、例えば、ガラクトースによる肝細胞特異的なレセプターを介した細胞膜透過能とPEGによるリソソームでの分解回避能を併せ持つハイブリッド機能性キャリアーとして利用可能となる。
【0031】
また、細胞膜透過性官能基と脂質膜撹乱性官能基とを併有するβ-1,3-グルカンを核酸との複合体化に供してもよく、このような細胞膜透過性官能基と脂質膜撹乱性官能基とを併有するβ-1,3-グルカンとしては、一般に、細胞膜透過性官能基と脂質膜撹乱性官能基とが連結しているものを用いる。例えば、PEGを側鎖に修飾したβ-1,3-グルカンのPEG末端に細胞膜透過性官能基(例えば、ガラクトース)を共有結合により連結させたβ-1,3-グルカンを核酸と複合体化する(図11のB)ことにより、PEGを修飾したβ-1,3-グルカンの細胞内におけるリソソームでの分解回避能(特許文献12)と細胞膜透過能(ガラクトースによる肝細胞特異的細胞膜透過能の付加)の2つの機能を併せ持つハイブリッド機能性キャリアーとして利用する。
【0032】
如上の手段の他に、細胞膜透過性官能基と脂質膜撹乱性官能基とを併有するβ-1,3-グルカンとして、シクロデキストリン(CyD)残基に包接される疎水性ゲスト分子を介して該CyD残基と単糖またはオリゴ糖の残基が連結しているβ-1,3-グルカンを用いることもできる。例えば、β-1,3-グルカンの側鎖にCyDを修飾することで、β-1,3-グルカンに脂質膜撹乱能の付加価値が与えられるが、さらに、得られたCyD修飾β-1,3-グルカンをガラクトースで修飾したアダマンタン(疎水性ゲスト分子)と混合すると、CyDの疎水分子包接能によって、側鎖のCyDにガラクトース修飾アダマンタンが包接される(図11のC)。すなわち、細胞膜透過性官能基であるガラクトースとリソソーム分解回避能をもつCyDとがアダマンタンを介してβ-1,3-グルカンの側鎖上で連結したことになる。このように生成した2官能性β-1,3-グルカンは、ハイブリッド遺伝子キャリアーとして利用することができる。
【0033】
既述のように、本発明で使用する異なる官能基を修飾したβ-1,3-グルカンは、核酸との複合体化前に溶媒中で混合する。CyDを修飾したβ-1,3-グルカンと細胞膜透過性官能基を修飾した疎水ゲストの場合もまた、核酸との複合化前に溶媒中で混合し結合させる。
【0034】
本発明で用いられるβ-1,3-グルカンとは、よく知られているように、グルコースがβ1→3グルコシド結合により結合された多糖であり、主鎖のグルコース残基数に対する側鎖のグルコース残基数の割合の異なる各種のものが知られている。その中でも、後述するように細胞膜透過性官能基や脂質膜撹乱性官能基を導入する反応の容易性から、シゾフィラン、レンチナンまたはスクレログルカンのように主鎖に対して約30%以上の側鎖のグルコース残基を有するβ-1,3-グルカンが好適である。
【0035】
原料となるβ-1,3-グルカンに、所望の細胞膜透過性官能基や脂質膜撹乱性官能基を導入する方法としては、種々の反応が考えられるが、主鎖のグルコシド結合に影響を与えることなしに、側鎖に選択的に導入する方法として、β-1,3-グルカンに元々付いている側鎖のグルコースを利用し、過ヨウ素酸酸化/還元アミノ化を経由する方法が適当である。例えば、まず、側鎖のグルコースを過ヨウ素酸ナトリウムによって酸化し、開環してカルボニルをつくる。それに導入する官能基のアミン誘導体と水素化ホウ素ナトリウムを反応させ、還元アミノ化することにより、アミド結合をリンカーとする、所望の官能基が導入された側鎖を有するβ-1,3-グルカンが得られる。例えば、β-1,3-グルカンに細胞膜透過性官能基としてグルコースを導入する場合には、アミン誘導体であるアミノエチルグルコシドと水素化ホウ素ナトリウムを反応させ、還元アミノ化することにより、側鎖にグルコースが導入できる(実施例2、図1参照)。
以下に、本発明の特徴をさらに具体的に示すため実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【実施例1】
【0036】
β-1,3-グルカン(シゾフィラン)の調製 原料となるβ-1,3-グルカンとして、3重螺旋構造のシゾフィランを文献記載の定法に従って製造した。すなわち、ATCC(American Type Culture Collection)から入手したSchizophyllum commune. Fries(ATCC 44200)を、最小培地を用いて7日間静置培養した後、細胞成分および不溶残渣を遠心分離して得られた上清を超音波処理して分子量45万の3重螺旋シゾフィランを得た。以下、シゾフィランをSPGと表記することがある。
<nplcit num="21"><text>Gregory G. Martin, Michael F.Richardson, Gordon C. Cannon and Charles L. McCormick, Am. Chem. Soc. PolymerPrepr. 38 (1), 253-254(1997)</text></nplcit><nplcit num="22"><text>Kengo Tabata, Wataru Ito,Takemasa Kojima, Shozo Kawabata and Akira Misaki, Carbohydrate Research, 89, 121-135(1981)</text></nplcit>
【実施例2】
【0037】
PEG修飾シゾフィランの合成 PEG(ポリエチレングリコール)修飾シゾフィランの合成は図1のスキームに従って合成した。すなわち、実施例1で得られたシゾフィランの側鎖を過ヨウ素酸酸化し、生成したアルデヒドとアミン末端を持つPEG(ここでは分子量5,000)との還元アミノ化反応によりPEGを導入した。但し、側鎖へ選択的にPEGを導入できれば合成法は特に制限されない。
実施例1にて調製されたシゾフィラン100mgを蒸留水100mlに溶解させた。過ヨウ素酸ナトリウム3.3mg(側鎖グルコース残基に対して0.1当量)を少量の蒸留水に溶解させ、4℃で冷却攪拌しながら、先に調製したシゾフィラン溶液へゆっくりと加えた。2日後、反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析した。
得られた溶液にアミン末端を持つPEG100mgを加え、溶解させ、室温で一晩攪拌した。反応溶液にシアノ水素化ホウ素ナトリウム100mgを加え、室温で1週間攪拌を続けた。反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析し、凍結乾燥した。得られた白色固体を0.1N水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、水素化ホウ素ナトリウム100mgを加え、一晩室温で攪拌した。反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析し、凍結乾燥することでPEG修飾シゾフィラン(以下、PEG-SPG)を得た。PEGのシゾフィランへの導入率は添加する過ヨウ素酸ナトリウムの当量数で制御することが可能であり、側鎖グルコース残基に対して1.0当量、5.0当量のものについても同様に合成を行った。
【実施例3】
【0038】
ガラクトース修飾シゾフィランの合成 ガラクトース修飾シゾフィランは図1のスキームに従って合成した。例としてラクトノラクトンを用いた場合の合成法を示しているが、同様の合成法はすべての還元糖類(単糖、オリゴ糖、多糖)の導入に適用することができる。実施例1にて調製された分子量45万のシゾフィラン100mgを蒸留水100mlに溶解させた。過ヨウ素酸ナトリウム3.3mg(側鎖グルコースに対して0.1当量)を少量の蒸留水に溶解させ、4℃にて冷却攪拌しながらゆっくりと加えた。反応溶液はそのまま冷蔵庫内で2日間攪拌を続けた。反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析後、28%アンモニア水溶液40ml、シアノ水素化ホウ素ナトリウム100mgを加え、室温で1週間攪拌を続けた。反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析後、凍結乾燥した。得られた白色固体をジメチルスルホキシド20mlに溶解させ、ラクトノラクトン1g(大過剰)を加え、室温で1週間攪拌を続けた。反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析後、凍結乾燥し、ガラクトース修飾シゾフィラン(以下、Gal-SPG)を得た。
【実施例4】
【0039】
グルコース修飾シゾフィランの合成 グルコース修飾シゾフィランの合成法は図1のスキームに従い合成し、ラクトノラクトンの代わりにここではマルトノラクトンを用いている。実施例1にて調製された分子量45万のシゾフィラン100mgを蒸留水100mlに溶解させた。過ヨウ素酸ナトリウム3.3mg(側鎖グルコースに対して0.1当量)を少量の蒸留水に溶解させ、4℃にて冷却攪拌しながらゆっくりと加えた。反応溶液はそのまま冷蔵庫内で2日間攪拌を続けた。反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析後、28%アンモニア水溶液40ml、シアノ水素化ホウ素ナトリウム100mgを加え、室温で1週間攪拌を続けた。反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析後、凍結乾燥した。得られた白色固体をジメチルスルホキシド20mlに溶解させ、マルトノラクトン1g(大過剰)を加え、室温で1週間攪拌を続けた。反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析後、凍結乾燥し、グルコース修飾シゾフィラン(以下、Glu-SPG)を得た。
【実施例5】
【0040】
PEGの末端にガラクトースまたはグルコースを結合させたPEG修飾シゾフィランの合成 PEGの末端にガラクトースまたはグルコースを結合させたPEG修飾シゾフィランの合成は図1のスキームに従って合成した。シゾフィラン側鎖を過ヨウ素酸酸化し、生成した両末端にアミンを持つPEG(ここでは分子量200、600、1000、6000)との還元アミノ化反応によるPEGの導入法を示しているが、側鎖へ選択的にPEGを導入できれば合成法は特に制限されない。
実施例1にて調製されたシゾフィラン100mgを蒸留水100mlに溶解させた。過ヨウ素酸ナトリウム3.3mg(側鎖グルコース残基に対して0.1当量)を少量の蒸留水に溶解させ、4℃で冷却攪拌しながら、先に調製したシゾフィラン溶液へゆっくりと加えた。2日後、反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析した。
得られた溶液に両末端にアミンを持つPEG100mgを加え、溶解させ、室温で一晩攪拌した。反応溶液にシアノ水素化ホウ素ナトリウム100mgを加え、室温で1週間攪拌を続けた。反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析し、凍結乾燥した。得られた白色固体を0.1N水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、水素化ホウ素ナトリウム100mgを加え、一晩室温で攪拌した。反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析し、凍結乾燥することで末端にアミンを持つPEG修飾シゾフィランを得た。
調製された末端にアミンを有するシゾフィラン100mgを蒸留水100mlに溶解させた。過ヨウ素酸ナトリウム3.3mg(側鎖グルコースに対して0.1当量)を少量の蒸留水に溶解させ、4℃にて冷却攪拌しながらゆっくりと加えた。反応溶液はそのまま冷蔵庫内で2日間攪拌を続けた。反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析後、28%アンモニア水溶液40ml、シアノ水素化ホウ素ナトリウム100mgを加え、室温で1週間攪拌を続けた。反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析後、凍結乾燥した。得られた白色固体をジメチルスルホキシド20mlに溶解させ、ラクトノラクトンまたはマルトノラクトン1g(大過剰)を加え、室温で1週間攪拌を続けた。反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析後、凍結乾燥し、PEGの末端にガラクトースを結合させたPEG修飾シゾフィラン(以下、Gal-PEG-SPG)およびPEGの末端にグルコースを結合させたPEG修飾シゾフィラン(以下、Glu-PEG-SPG)を得た。今回、PEGの分子量が200であるGal-PEG 200-SPGとGlu-PEG 200-SPG、PEGの分子量が600であるGal-PEG 600-SPGとGlu-PEG 600-SPG、PEGの分子量が1000であるGal-PEG 1K-SPGとGlu-PEG 1K-SPG、PEGの分子量が6000であるGal-PEG 6K-SPGとGlu-PEG 6K-SPGを得た。
【実施例6】
【0041】
CyD修飾シゾフィランの合成 CyD(シクロデキストリン)修飾シゾフィランの合成は図1のスキームに従って合成した。シゾフィラン側鎖を過ヨウ素酸酸化し、生成したアミン末端を持つCyD(ここではβCyD)との還元アミノ化反応によるCyDの導入法を示しているが、側鎖へ選択的にCyDを導入できれば合成法は特に制限されない。
実施例1にて調製されたシゾフィラン100mgを蒸留水100mlに溶解させた。過ヨウ素酸ナトリウム3.3mg(側鎖グルコース残基に対して0.1当量)を少量の蒸留水に溶解させ、4℃で冷却攪拌しながら、先に調製したシゾフィラン溶液へゆっくりと加えた。2日後、反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析した。
得られた溶液にアミン末端を持つCyD(ここではβCyD)100mgを加え、溶解させ、室温で一晩攪拌した。反応溶液にシアノ水素化ホウ素ナトリウム100mgを加え、室温で1週間攪拌を続けた。反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析し、凍結乾燥した。得られた白色固体を0.1N水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、水素化ホウ素ナトリウム100mgを加え、一晩室温で攪拌した。反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析し、凍結乾燥することでアミン末端を持つCyD修飾シゾフィラン(以下、βCyD-SPG)を得た。
<nplcit num="23"><text>K. Hamasaki, H. Ikeda, A.Nakamura, A. Ueno, F. Toda, I Suzuki, T. Osa,J. Am. Chem. Soc., 115, 5035-5040(1993)</text></nplcit>
【実施例7】
【0042】
ガラクトース修飾アダマンタンおよびグルコース修飾アダマンタンの合成 1-アミノエチルアダマンタン0.50g(3.0mmol)とラクトノラクトンまたはマルトノラクトン1.53g(4.5mmol)をメタノール中で一晩攪拌する。これを濃縮し、カラムクロマトグラフィーで精製した(溶離剤:クロロホルム/メタノール3:2)。得られた黄色固体をn-ブタノール/n-ヘキサンを用いて再結晶し、白色固体のガラクトース修飾アダマンタン(以下、Gal-Adm)およびグルコース修飾アダマンタン(Glu-Adm)を得た。アダマンタンへ選択的に細胞膜透過性官能基を導入できれば合成法は特に制限されない。
【実施例8】
【0043】
化学修飾シゾフィランのキャラクタリゼーション 実施例2から実施例7にて得られた各化学修飾シゾフィランの細胞膜透過性官能基や脂質膜撹乱性官能基の導入率は、元素分析における窒素含有率から算出され、表1に示す導入率を得た。
【0044】
【表1】
JP0004712333B2_000002t.gif

【実施例9】
【0045】
蛍光標識シゾフィランの合成 この実施例9および実施例10は、後述の実施例13で用いるサンプルを調製するためのものである。ジメチルスルホキシド(以下、DMSO)中でシゾフィラン100mgとフルオロセインイソチオシアネート5mg(以下、FITC)を混合し、遮光して3日間攪拌した。反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析後、凍結乾燥し、FITC標識シゾフィラン(以下、SPG-FITC)を得た。SPGに蛍光基を導入できれば合成法は特に制限されない。
【実施例10】
【0046】
蛍光標識アミノエタノール修飾シゾフィランの合成 アミノエタノール修飾シゾフィランは図1のスキームに従って合成した。実施例1にて調製された分子量45万のシゾフィラン100mgを蒸留水100mlに溶解させた。過ヨウ素酸ナトリウム3.3mg(側鎖グルコースに対して0.1当量)を少量の蒸留水に溶解させ、4℃にて冷却攪拌しながらゆっくりと加えた。反応溶液はそのまま冷蔵庫内で2日間攪拌を続けた。反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析後、凍結乾燥した。得られた白色固体をジメチルスルホキシド20mlに溶解させ、2-アミノエタノール2ml(大過剰)を加え、一日後、水素化ホウ素ナトリウム200mg添加し、室温で3間攪拌を続けた。反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析後、凍結乾燥し、アミノエタノール修飾シゾフィラン(以下、AE-SPG)を得た。さらに、ジメチルスルホキシド(以下、DMSO)中でAE-SPG100mgとテトラメチルローダミンイソチオシアネート5mg(以下、TRITC)を混合し、遮光して3日間攪拌した。反応溶液を透析膜(排除限界12000)で透析後、凍結乾燥し、TRITC標識アミノエタノール修飾シゾフィラン(以下、AE-SPG-TRITC)を得た。側鎖へ選択的にアミノエタノールや蛍光基を導入できれば合成法は特に制限されない。
【実施例11】
【0047】
化学修飾シゾフィランとアンチセンスオリゴヌクレオチド(DNA)との複合体化遺伝子治療剤の調製 実施例2から実施例7で合成された化学修飾シゾフィランをそれぞれジDMSOに溶解させ、濃度を20mg/mlに調整し、この溶液1μl、純水3μl、10mMのトリス緩衝液(pH7.8)1μlと、アンチセンスオリゴヌクレオチド溶液(1mg/ml)5μlを混合した。得られた溶液はすべて透明で、均一であった。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、癌原遺伝子として文献に報告されているc-myb遺伝子のセンス配列に相補的なホスホロチオエート結合を持つアンチセンス配列”5’-GTG CCG GGG TCT TCG GGC-3’“を適用した。AS-c-mybに対する参照サンプルとしてアンチセンス効果を持たないアンチセンスシーケンスのスクランブルシーケンスである”5’-TGC TGC GCG TGG TCG GCG-3’“を用いた。じっさいに使用したアンチセンスオリゴヌクレオチド(固相合成品)は、3’末端に40のdAをつけたシーケンスのc-mybホスホロチオエートアンチセンスオリゴヌクレオチド(配列番号1、以下AS-c-mybと表記)、3’末端に40のdAをつけたc-mybホスホロチオエートスクランブルアンチセンスオリゴヌクレオチド(配列番号2、以下Sc-c-mybと表記)とした。
<nplcit num="24"><text>Barbara Majello et al., Proc.Natl. Acad. Sci., 83, 9636 (1986)</text></nplcit><nplcit num="25"><text>Alan M. Gewirtz and BrunoCalabretta, Science, 242, 1303(1988)</text></nplcit>
【実施例12】
【0048】
化学修飾シゾフィランとアンチセンス鎖オリゴヌクレオチドとの複合体形成の円偏光二色性分散計による確認 化学修飾シゾフィランとアンチセンス鎖オリゴヌクレオチドとの複合体の形成を確認するために、既存の手法〔K. Sakurai, S. Shinkai, J. Am. Chem. Soc., 122, 4520 (2000)〕を用いて円偏光二色性スペクトル測定により複合体の融解温度を測定した。測定サンプルは、10mMのTris緩衝溶液(pH7.8)1050μlと、アンチセンスオリゴヌクレオチド溶液(0.5mg/ml)30μlを調整し、0.5mg/mlの濃度に調整した化学修飾シゾフィランのDMSO溶液120μlを混合した。溶液は透明で、均一であった。4℃で3日間熟成した溶液の円偏光二色性スペクトルを測定した。ここでは、一例として、PEG 5K(10)-SPGとAS-c-mybが形成した複合体の熱融解曲線を図2に例示した。また、合成した他の化学修飾シゾフィランやSc-c-mybを用いても同様の結果が得られた。
図2より融解温度は50℃であり、生体温度においては安定な複合体を形成していることが示された。
【実施例13】
【0049】
蛍光エネルギー移動を用いた異なる2種類の化学修飾シゾフィランと一本鎖核酸の混合によるヘテロシゾフィランハイブリッド形成の評価 異なる2種類の化学修飾シゾフィランと一本鎖核酸混合によるヘテロシゾフィランハイブリッド形成能の評価について、蛍光エネルギー移動(以下、FRET)を用いて行った。ここでは、一例として、FITCで標識したシゾフィラン(SPG-FITC)とTRITCで標識したアミノエタノール修飾シゾフィラン(AE-SPG-TRITC)とpoly(C)(アマシャムより入手)を利用して、FITCからTRITCへのFRETを観測することで、SPG-FITCとAE-SPG-FITCとpoly(C)を含むヘテロシゾフィランハイブリッド形成能を評価した。サンプルは、トリス緩衝液10mM、poly(C)0.5mg/ml、AE-SPG-TRITC0.25mg/ml、SPG-FITC0~0.25mg/mlを混合し、4℃で3日間静置して複合体を形成させて作成した。常温、FITCの励起波長である490nm(TRITCの励起波長は570nmであり、490nmではTRITCの蛍光はない)で、各サンプルの蛍光スペクトルを測定した。得られた各サンプルのFITCのピークである525nmとTRITCのピークである580nmの蛍光強度の比を取り、FRETの飽和点を100%としてSPG-FITCとAE-SPG-FITCとpoly(C)を含むヘテロシゾフィランハイブリッド形成率をプロットして図3を得た。図3から、異なる2種類の化学修飾シゾフィランと一本鎖核酸混合によるヘテロシゾフィランハイブリッド形成率は、異なる2種類の化学修飾シゾフィラン濃度の割合が1:1であるとき最も高いことが明らかとなった。
<nplcit num="26"><text>Y. Okamura, S. Kondo, I. Sase,T. Sga, K. Mise, I. Furusawa, S. Kawakami, Y. Watanabe, Nucleic Acids Research,28, e107 (2000)</text></nplcit>
【実施例14】
【0050】
および〔比較例1〕
異なる2種類の化学修飾シゾフィランとアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体を用いた癌細胞増殖抑制 96穴プレートに100μlの10%仔牛胎児血清および1mM非必須アミノ酸を含むMEM培地(SIGMA)に懸濁した2×103個のガラクトース受容体を有するHep G2を播種した。一晩、COインキュベーター内で37℃、5%CO下で培養を行った後に、AS-c-mybおよび実施例11で調製したAS-c-mybとPEG 5K(10)-SPGおよびGal(8.7)-SPG〔またはGlu(4.2)-SPG〕の複合体を限外ろ過膜(排除限界3000:ミリポア)でろ過してDMSOを除去し濃度を再調整したものを添加し、37℃、5%CO下で96時間培養後、細胞数をCell
Counting Kit-8(同仁化学研究所)を用いたWST法を利用し、付属のプロトコールに従って測定した。AS-c-mybの最終濃度は50μg/mlとし、すべてのAS-c-mybが化学修飾シゾフィランと複合化するように調製した。AS-c-myb無添加の穴の細胞数を生存率100%として細胞増殖を評価した。
その結果を図4に例示する。図4に示すように、AS-c-myb単独投与よりもAS-c-mybとPEG 5K(10)-SPGおよびGal(8.7)-SPGの複合体である本発明に従う遺伝子治療剤の方が、細胞の生存率が低下するに至っている。また、この効果はGal(8.7)-SPG/PEG 5K(10)-SPGの混合比(mol/mol;主鎖であるSPGの割合)が0.5から0.75の投与区で特に顕著に現れた。この効果は、細胞膜透過性官能基と脂質膜撹乱性官能基を組み合わせることにより得られたと考えられる。官能基の種類や修飾率、混合比を調整することで目的に合わせた高い効率のこれまでにない核酸キャリアーが得られていることが理解される。Hep G2に受容体を持たないグルコースを用いたGlu(4.2)-SPG/PEG 5K(10)-SPGの系では、ガラクトースを用いた場合と比較して癌細胞増殖抑制能が低下した。
<nplcit num="27"><text>櫻井和朗、新海征治、J. Am. Chem. Soc.,122, 4520 (2000)</text></nplcit><nplcit num="28"><text>水雅美、甲元一也、穴田貴久、狩長亮二、木村太郎、長崎健、新海征治、櫻井和朗、Bull. Chem. Soc. Jpn, 77, 1101-1110 (2004)</text></nplcit>
【実施例15】
【0051】
および〔比較例2〕
PEGの末端に細胞膜透過性官能基を結合させたPEG修飾シゾフィランとアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体を用いた癌細胞増殖抑制 実施例5で製造したPEGの末端に細胞膜透過性官能基を結合させたPEG修飾シゾフィランを実施例14および比較例1と同様にAS-c-mybと複合化させ、ガラクトース受容体を有するHep G2に添加し、WST法によって癌細胞増殖抑制試験を行い、アンチセンス能を評価した。図5に示したように、ガラクトースを有するGal-PEG-SPGをAS-c-mybキャリアーとして利用した場合、高い癌細胞増殖抑制効果が得られた。特に、PEGの分子量が6000であるGal-PEG 6K-SPGを用いた場合に顕著な効果が見られた。この結果においてもPEG修飾SPGやGal修飾SPG単独をキャリアーとして用いた場合よりも高いアンチセンス効果を示した。実施例で用いた官能基以外の細胞膜透過性官能基と脂質膜撹乱性官能基を併せ持つ多機能型キャリアーを同様の手法で合成すれば、あらゆる状況に対応できるハイブリッド多糖系キャリアーライブラリーを作成することが可能である。Hep G2に受容体を持たないグルコースを用いたGlu-PEG-SPGの系では、ガラクトースを用いた場合と比較して癌細胞増殖抑制能が低下した。
【0052】
〔比較例3〕
PEGの末端に細胞膜透過性官能基を結合させたPEG修飾シゾフィランとスクランブルオリゴヌクレオチド複合体を用いた細胞生存率 実施例15および比較例2と同様の実験系でAS-c-mybの代わりにアンチセンス効果を持たないSc-c-mybを用いて、Hep G2細胞生存率を検討した。図6に示したように細胞増殖率が大幅に変化することはなく、安全性の高いキャリアーであることが示された。
【実施例16】
【0053】
CyD-SPGの疎水ゲスト包接能の保持 SPGにCyDを化学修飾しても、CyD-SPGに細胞膜透過性官能基を修飾した疎水ゲストが包接されることに支障がないことを示す必要がある。そこで、一例として、脂質膜やシクロデキストリンなどの高分子の疎水環境を調べる蛍光プローブとしてしばしば用いられるANS-Na(1-Naphthalenesulfonic acid sodium salt)を利用し、βCyD-SPGがβCyDそのものと同様にANSを包接することを示すことができると考えられる。一例として、βCyD(10.3)-SPG濃度1.34mM(βCyDのみでは138μM、SPGの側鎖を含むグルコース4分子を1molとした、20mg/mlのβCyD(10.3)-SPG/DMSO 100μlをtotal
2mlに溶解した)、25℃、水の体積分率Vw=0.9、励起波長370nmで蛍光測定を行った。図7のように、βCyD(10.3)-SPGがβCyDそのものと同様にANSを包接することが示された。
<nplcit num="29"><text>T. Hirasawa, Y. Maeda, H.Kitano, Macromolecules, 31, 4480-4485 (1998)</text></nplcit>
【実施例17】
【0054】
CyDと細胞膜透過性官能基を修飾した疎水ゲストのホスト-ゲスト作用の保持 疎水ゲストに細胞膜透過性官能基を化学修飾しても、CyD-SPGに細胞膜透過性官能基を修飾した疎水ゲストが包接されることに支障がないことを示す必要がある。そこで、一例として、核酸やシクロデキストリンの蛍光プローブとしてよく用いられるdansyl(5-dimethylamino-1-naphthalenesulfonyl)基を導入したβCyD(以下、βCyD-dansyl)を利用し、βCyDとGal-Admがホスト-ゲスト会合体を形成するかどうか検討した。βCyD-dansyl/Gal-Admの系では、βCyD-dansyl濃度2μM、25℃、水の体積分率Vw=0.9、励起波長375nmで蛍光測定を行った。図8のように、βCyDとGal-Admがホスト-ゲスト会合体を形成することが示された。この結果と実施例17の結果から、βCyD-SPGとGal-Admがホスト-ゲスト会合体を形成することが示唆される。
<nplcit num="30"><text>H. Ikeda, M. Nakamura, N. Ise,N. Oguma, A. Nakamura, T. Ikeda, F. Toda, A. Ueno, J. Am. Chem. Soc., 118,10980-10988 (1996)</text></nplcit>
【実施例18】
【0055】
および〔比較例4〕
CyD-SPGと細胞膜透過性官能基を修飾した疎水性ゲストをアンチセンスオリゴヌクレオチドキャリアーとして利用した癌細胞増殖抑制 一例として、βCyD-SPG/Gal-AdmあるいはβCyD-SPG/Glc-Adm、βCyD-SPG会合体を用いて、ガラクトースを特異的に認識するアシアロ糖レセプターを持つ肝臓癌細胞(Hep G2)に対する癌細胞増殖抑制効果の向上を目的としたアンチセンス効果をWST法によって検討した。サンプルや測定法については、実施例14で述べたものと同様である。Gal-Admは、サンプル調製時に100μg/ml、つまり、βCyD-SPG/Gal-Admが半分程度会合体を形成している状態で添加した。図9に示した癌細胞増殖抑制試験の結果から、βCyD-SPG/Gal-Adm会合体を用いることで、Hep G2への高い細胞認識能とアンチセンス効果の上昇が見られた。
【0056】
〔比較例5〕
CyD-SPGと細胞膜透過性官能基を修飾した疎水性ゲストをスクランブルオリゴヌクレオチドキャリアーとして利用した癌細胞生存率 一例として、癌原遺伝子c-mybのアンチセンス鎖であるAS-c-mybのスクランブル配列であるSc-c-mybを用いて、βCyD-SPG/Gal-AdmあるいはβCyD-SPG/Glc-Adm、βCyD-SPGと複合化させ、WST試験を行った。サンプルや測定法については、実施例18および比較例4で述べたものと同様である。いずれのキャリアーを用いた場合でも図10に示したように細胞増殖率が大幅に変化することはなく、安全性の高いキャリアーであることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、トランスフェクション能が高く生体に安全な核酸の標的細胞への導入技術として、標的指向性が高く、治療効果に優れた、かつ生体に安全な遺伝子治療の分野での利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】化学修飾シゾフィランの合成スキーム(実施例2~6および実施例10)
【図2】PEG 5K(10)-SPGとAS-c-mybの複合体の円二色性偏向スペクトル測定から得られた熱融解曲線(実施例12)
【図3】FRETによるSPG-FITCとAE-SPG-FITCとpoly(C)を含むヘテロシゾフィランハイブリッド形成能の評価(実施例13)
【図4】PEG 5K(10)-SPGとGal(8.7)-SPG、あるいはPEG 5K(10)-SPGとGlu(4.2)-SPGから成る混合系AS-c-mybキャリアーによる肝臓癌細胞Hep G2に対する細胞増殖抑制試験(実施例14および比較例1)
【図5】Gal-PEG-SPGおよびGlu-PEG-SPGをAS-c-mybキャリアーとして用いた肝臓癌細胞Hep G2に対する細胞増殖抑制試験(実施例15および比較例2)
【図6】Gal-PEG-SPGおよびGlu-PEG-SPGをSc-c-mybキャリアーとして用いた肝臓癌細胞Hep G2の生存率(比較例3)
【図7】蛍光測定によるANS濃度に伴うβCyD(10.3)-SPGに包接されるANSの飽和濃度(実施例16)
【図8】蛍光測定によるGal-Adm濃度に伴うβCyD-dansylに包接されるGal-Admの飽和濃度(実施例17)
【図9】βCyD-SPG/Gal-AdmあるいはβCyD-SPG/Glu-AdmをAS-c-mybキャリアーとして利用した肝臓癌細胞(Hep G2)増殖抑制試験(実施例18および比較例4)
【図10】βCyD-SPG/Gal-AdmあるいはβCyD-SPG/Glu-AdmをSc-c-mybキャリアーとして利用した肝臓癌細胞Hep G2の生存率およびGal-Adm、Glu-Admを投与したときの肝臓癌細胞Hep G2の生存率(比較例5)
【図11】ハイブリッド多糖系核酸キャリアーの概念図
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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