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明細書 :片麻痺者用車椅子の走行補助装置ならびに片麻痺者用車椅子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4318017号 (P4318017)
公開番号 特開2002-209954 (P2002-209954A)
登録日 平成21年6月5日(2009.6.5)
発行日 平成21年8月19日(2009.8.19)
公開日 平成14年7月30日(2002.7.30)
発明の名称または考案の名称 片麻痺者用車椅子の走行補助装置ならびに片麻痺者用車椅子
国際特許分類 A61G   5/02        (2006.01)
A61G   5/04        (2006.01)
B62D  11/02        (2006.01)
FI A61G 5/02 513
A61G 5/04 502
A61G 5/04 504
B62D 11/02
請求項の数または発明の数 4
全頁数 14
出願番号 特願2001-010725 (P2001-010725)
出願日 平成13年1月18日(2001.1.18)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成12年11月6日 社団法人計測自動制御学会主催の「第23回 Dynamical System Theory シンポジウム」において文書をもって発表
審査請求日 平成17年6月30日(2005.6.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
発明者または考案者 【氏名】小林 伸明
【氏名】鈴木 亮一
【氏名】中 俊英
【氏名】神戸 康有
個別代理人の代理人 【識別番号】100072420、【弁理士】、【氏名又は名称】小鍜治 明
審査官 【審査官】和田 雄二
参考文献・文献 特開平11-056917(JP,A)
特開平10-328246(JP,A)
特開平11-056918(JP,A)
特開平09-215713(JP,A)
特開平03-015468(JP,A)
調査した分野 A61G 5/02
A61G 5/04
B62D 11/02
特許請求の範囲 【請求項1】
健体側車輪の回転角度変位を計測する健体側エンコーダと、患体側車輪の回転角度変位を計測する患体側エンコーダと、前記健体側エンコーダの読み取り回転方向を正逆に切り換える切換スイッチと、この切換スイッチを介して出力される前記健体側エンコーダの出力信号と前記患体側エンコーダの出力信号を比較演算して制御信号を生成するマイクロコンピュータと、前記制御信号によって回転制御され前記患体側車輪を駆動するサーボモータと、前記サーボモータの回転を患体側車輪に伝達する減速ギア群を含んで成ることを特徴とする片麻痺者用車椅子の走行補助装置。
【請求項2】
健体側エンコーダの読み取り回転方向を正逆に切り換える切換スイッチが、車椅子の健体側フットレストに配設され片麻痺者の健体側脚の回動操作で切換えるフット切換スイッチであることを特徴とする請求項1に記載の片麻痺者用車椅子の走行補助装置。
【請求項3】
健体側車輪の回転角度変位を計測する健体側エンコーダ、患体側車輪の回転角度変位を計測する患体側エンコーダ、前記健体側エンコーダの読み取り回転方向を正逆に切り換える切換スイッチ、この切換スイッチを介して出力される前記健体側エンコーダの出力信号と前記患体側エンコーダの出力信号を比較演算して制御信号を生成するマイクロコンピュータ、前記制御信号によって回転制御され前記患体側車輪を駆動するサーボモータ、前記サーボモータの回転を患体側車輪に伝達する減速ギア群が一つのブロックにまとめられて成る走行補助装置が着脱自在に搭載され、前記減速ギア群が前記患体側車輪の軸と連結分離自在に連結し、前記健体側エンコーダおよび患体側エンコーダをそれぞれ健体側車輪および患体側車輪に対応させて配したことを特徴とする片麻痺者用車椅子。
【請求項4】
健体側エンコーダの読み取り回転方向を正逆に切り換える切換スイッチが車椅子の健体側フットレスト上に装着され、片麻痺者の健体側脚の回動操作で切り換えることを特徴とする請求項3に記載の片麻痺者用車椅子。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、片麻痺者の方々(脳出血、脳梗塞などの脳血管障害や、脳外傷、脳腫瘍などの傷病によって身体の左右いずれか片側が麻痺状態になった方々)が、自力で動かせる片手で走行操作しながら使用する標準型(汎用型)の車椅子の走行を助けるための走行補助制御方法と、その制御方法によって作動する走行補助装置、ならびにその走行補助装置を装備した片麻痺者用車椅子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、片麻痺者を対象にした片手駆動車椅子として、ダブルハンドリム方式やレバー方式の車椅子が周知である。例えば現状で多くの片麻痺者は、標準型(日本工業規格:JIS T9201-1998で規格されている手動車椅子・自走用標準型)の車椅子を使用し、健体側の手でハンドリムを回して駆動し健体側の足で操舵(車の方向付け)を行っている。しかしこのような従来の標準型車椅子では、旋回する場合、ピボットターン(旋回したい地点での点旋回動作)が不可能で旋回半径が大きく、また総じて過大な操作力を要して片麻痺者の操作負担が大きいという難点がある。また駆動・操舵力の大部分を電動に頼る電動式車椅子も周知であるが、片麻痺者介護の基本の一つとして、片麻痺者の身体の残存能力を活かし身体の機能回復を図る自立支援が重要であることから、安易に電動式車椅子に全てを頼ることが好ましくない場合も多い。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、片麻痺者(片麻痺患者)の身体の左右いずれか片側の手足に残存する運動能力によって、片麻痺者自身で自分が乗った車椅子を駆動・操舵することを基本にし置きながら、片麻痺者に対し走行操作上の過大な労力負担が掛からないようすると共に、楽な操作で車椅子のピボットターンを可能にして狭い床面においても車椅子の方向転換ができるようにしようとするものである。またそのために、既存の標準型車椅子に着脱自在に容易に付加できる走行補助制御手段を具現化しようとするものである。
【0004】
そしてこの発明の車椅子走行補助制御手段は言うまでもなく駆動補助機能(パワーアシスト)と操舵補助機能(操舵アシスト)を備えるが、特に操舵補助機能(操舵アシスト)に重点を置くものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の課題・目的を達するために、この発明は、車椅子の健体側車輪(片麻痺者が運動能力の残存する方の手で回転駆動できる片側の車輪)の回転角を目標値として、車椅子の患体側車輪(片麻痺者の麻痺した半身の側の車輪で片麻痺者が自力で回転駆動できない他方の片側の車輪)の回転を健体側車輪の回転に追従させるように制御し、健体側車輪と患体側車輪を同方向に同回転数で回転させることにより車椅子を前後に直進させ、両車輪を逆方向に同回転数で回転させることにより車椅子をピボットターンさせる。
【0006】
またこの発明は、内部モデル制御(IMC=Internal Model Control )と最適レギュレータ(LQ=Linear Quadratic )の極限的性質を併用した制御方式を車椅子の駆動・操舵制御に応用することにより、患体側車輪の目標追従と外乱(外力)推定が同時に精度良く行えるよう制御する。すなわち、2次形式評価関数を最小とする最適レギュレータの極限性質と内部モデル制御を組み合わせることにより、また状態フィードバックによる制御の外乱分離特性を、逆システムをコントローラとした内部モデル制御と併用することにより、外乱推定特性や目標値追従特性を相乗効果で向上させ、精度の高い目標値追従制御と外乱推定機能を備えた制御系を得る。
【0007】
またこの発明は、健体側車輪の回転角度変位を計測する健体側エンコーダと、患体側車輪の回転角度変位を計測する患体側エンコーダと、健体側エンコーダの読み取り回転方向を正逆に切り換える切換スイッチと、この切換スイッチを介して出力される健体側エンコーダの出力信号と患体側エンコーダの出力信号を比較演算して制御信号を生成するマイクロコンピュータと、その制御信号によって回転制御され患体側車輪を駆動するサーボモータと、そのサーボモータの回転を患体側車輪に伝達する減速ギア群を主要部として構成した走行補助装置を、標準型車椅子に着脱自在に付加する。
【0008】
【発明の実施の形態】
この発明の基本的な実施形態の一つは、健体側車輪の回転角を検知し、その健体側車輪の回転角を目標値として患体側車輪を駆動するサーボモータの回転を制御することにより、患体側車輪の回転を健体側車輪の回転に追随させ、健体側車輪と患体側車輪を同方向に同回転数で回転させることにより車椅子を前後に直進させ、健体側車輪と患体側車輪を逆方向に同回転数で回転させることにより車椅子をピボットターンさせる片麻痺者用車椅子である。
【0009】
この発明の他の基本的な実施形態は、健体側車輪の回転角を検知し、内部モデル制御と最適レギュレータの極限的性質を併用して、健体側車輪の回転角を目標値として患体側車輪を駆動するサーボモータの回転を制御することにより、患体側車輪の回転を健体側の回転に追随させ、健体側車輪と患体側車輪を同方向に同回転数で回転させることにより車椅子を前後に直進させ、健体側車輪と患体側車輪を逆方向に同回転数で回転させることにより車椅子をピボットターンさせる片麻痺者用車椅子である。
【0010】
この発明の他の基本的な実施形態は、健体側車輪の回転角度変位を計測する健体側エンコーダと、患体側車輪の回転角度変位を計測する患体側エンコーダと、健体側エンコーダの読み取り回転方向を正逆に切り換える切換スイッチと、この切換スイッチを介して出力される前記健体側エンコーダの出力信号と前記患体側エンコーダの出力信号を比較演算して制御信号を生成するマイクロコンピュータと、その制御信号によって回転制御され患体側車輪を駆動するサーボモータと、そのサーボモータの回転を患体側車輪に伝達する減速ギア群を主要部とする片麻痺者用車椅子の走行補助装置である。
【0011】
この発明の他の基本的な実施形態は、健体側車輪の回転角度変位を計測する健体側エンコーダと、患体側車輪の回転角度変位を計測する患体側エンコーダと、健体側エンコーダの読み取り回転方向を正逆に切り換える切換スイッチと、この切換スイッチを介して出力される前記健体側エンコーダの出力信号と前記患体側エンコーダの出力信号を比較演算して制御信号を生成するマイクロコンピュータと、その制御信号によって回転制御され患体側車輪を駆動するサーボモータと、そのサーボモータの回転を患体側車輪に伝達する減速ギア群を含む走行補助装置を着脱自在に装着し、その減速ギア群を介して患体側車輪の軸とサーボモータを連結し、健体側エンコーダならびに患体側エンコーダをそれぞれ健体側車輪ならびに患体側車輪に対応させて配し、且つ前記サーボモータ、マイクロコンピュータの電源装置を搭載した片麻痺者用車椅子である。
【0012】
【実施例】
以下この発明の一実施例を図面を参考に説明する。図1は、この発明の実施例の片麻痺者用車椅子の基本構成とその走行補助制御方法を示すブロック図である。図1において、1aは片麻痺者が車椅子に乗車した状態における車椅子の健体側車輪、1bは同車椅子の患体側車輪で、片麻痺者は自力運動機能が残っている健体側の手で健体側車輪1aを回転させ車椅子を前後に走行させる。なお、車椅子は通常多用されている標準型の車椅子(日本工業規格:JIS T9201-1998で規定されている標準型車椅子)である。2aは健体側車輪1aの回転角度変位を計測する健体側エンコーダ(この実施例では光学式ロータリーエンコーダ)、2bは患体側車輪1bの回転角度変位を計測する患体側エンコーダ(この実施例では光学式ロータリーエンコーダ)である。3は片麻痺者がその健体側の足で切り換え操作する切換スイッチ(フット切換スイッチ)で、車椅子を前後に走行させる直進制御状態に置くか、車椅子をその場で旋回させるピボットターン制御状態に置くか、の制御選択をするための切換スイッチである。4はカウンターボード、5はマイクロコンピュータ、6はD/Aコンバータ、7は増幅器である。8は、患体側車輪1bを健体側1aの回転に追従させて回転駆動するサーボモータ(患体側車輪駆動用サーボモータ)である。9は、サーボモータ8の回転を減速して患体側車輪に伝える減速ギア群(ギアボックス)である。10は電源(バッテリー電源)で、サーボモータ8、増幅器7、D/Aコンバータ6、マイクロコンピュータ5、カウンターボード4、健体側エンコーダ1a 、患体側エンコーダ1bなどの電源として車椅子に搭載される。そして、健体側エンコーダ2a 、患体側エンコーダ2b 、切換スイッチ3、カウンターボード4、マイクロコンピュータ5、D/Aコンバータ6、増幅器7、サーボモータ8、減速ギア群9などで片麻痺者用車椅子の走行補助装置Wが構成され、走行補助装置Wが標準型の車椅子に着脱自在に取り付けられる。
【0013】
次にこの片麻痺者用椅子の走行補助制御方法について説明する。片麻痺者が健体側車輪1aを前転(前進方向の回転)あるいは後転(後進方向の回転)させると、その健体側車輪1aの回転角を健体側エンコーダ2aが検知して読み取り、その健体側車輪1aの回転角検知信号が切換スイッチ3とカウンターボード4を介してマイクロコンピュータ5に入力される。一方、車椅子の患体側車輪1bの回転角は患体側エンコーダ2bで検出され読み取られて、その患体側車輪1bの回転角検知信号がマイクロコンピュータ5に入力される。マイクロコンピュータ5は、前記健体側車輪1aの回転角検知信号と患体側車輪1bの回転角検知信号をもとに演算して、健体側車輪1aの回転角を目標値として患体側車輪1bの回転を健体側車輪1aの回転に追従させるためのサーボモータ制御信号を出力する。このサーボモータ制御信号は、D/Aコンバータ6および増幅器7を介してサーボモータ8に伝達され、そのサーボモータ制御信号によって、患体側車輪1bが健体側車輪1aの回転に追従して回転するようサーボモータ8の回転が制御される。
そして、患体側車輪1bの回転変位は患体側エンコーダ2bで検出されマイクロコンピュータ5にフィードバックされ患体側車輪1bの追従回転制御演算が継続する。
【0014】
そして切換スイッチ3を直進制御状態に入れると、患体側車輪1bは健体側車輪1aの回転に追従して同方向に同回転数で回転し車椅子は前方あるいは後方に直進する。また切換スイッチ3をピボットターン制御状態に選択すると、健体側エンコーダ2aによる健体側車輪1aの回転方向の読み取りが逆方向に転換され、患体側車輪1bは健体側車輪1aの回転に逆方向に追従して逆方向に同回転数で回転する。その結果、車椅子をその場でピボット旋回させることができる。
【0015】
図2ないし図5は車椅子への走行補助装置Wの取り付け状態を示すものである。すなわち、標準型の車椅子Mの座席Sの下方空間に、健体側エンコーダ2a 、患体側エンコーダ2b 、サーボモータ8、減速ギア群9などからなる走行補助制御装置Wを電源(図示省略)と共に着脱自在に装着している。減速ギア群9は、サーボモータ8の回転軸に取り付けた平歯車91、平歯車91と噛み合った平歯車92、平歯車92と同軸上にあるウォーム93、ウォーム93と噛み合ったウォームホイール94、ウォームホイール94と同軸上にある螺子歯車95、螺子歯車95と噛み合った螺子歯車96などからなり、最終段の螺子歯車96から減速ギア群9の出力9aが突出している。そして別途着脱自在のカップリング11によって、減速ギア群9の出力軸9aと患体側車輪1bの回転軸1cを連結している。したがってカップリング11を取り外せば、走行補助装置Wが患体側車輪1bから切り離されて通常の標準型車椅子の機能となり、介護者がその車椅子Mを押したり操作する場合に、患体側車輪1bに走行補助装置Wの負荷が掛からないことから、車椅子Mを軽く動かすことができる。
【0016】
また切換スイッチ3は、車椅子Mの前部にあるフットレストMaの上に、支軸12で矢印P方向Pに回動自在に取り付けられている。そして片麻痺者が健体側の足で切換スイッチ3を踏み込みその状態で矢印P方向に回動させることにより切換スイッチ3を切換操作し、車椅子Mの直進と旋回を切り換える。このように切換スイッチ3が踏み込まれている状態でのみ矢印P方向の回動を可能にしたのは、片麻痺者が車椅子の直進と旋回の切り換えを間違えないように配慮したためである。なお、切換スイッチ3は健体側の手で切換操作するスイッチであっても勿論良いが、フット切換スイッチであれば健体側の手と足で車椅子をより機敏に走行操作することができる。
【0017】
この発明に係る片麻痺者用車椅子の走行補助制御方法と補助制御装置における基本的特徴は、車椅子Mの直進、ピボットターン、方向変換の制御方式として、健体側車輪の回転角を目標値とする目標値追従方式を採用し、その目標値追従方式に内部モデル制御と2次形式評価関数を最小とする最適制御の極限的性質を併用したことである。そして健体側車輪の回転角を目標値とする目標値追従方式は、内部モデル制御と状態フィードバックによる制御の性質を併用したものである。一般に内部モデル制御(IMC=Internal Model Control )に最適レギュレータ(LQ=Linear Quadratic)を併用する制御方式によって良好な目標追従系が得られることは既に知られており、実際のメカニカルシステムの制御においてもその有効性が確認されているが、この発明はその制御方式を片麻痺者用車椅子の制御に用いて優れた効果を得るものである。
【0018】
次に内部モデル制御(IMC)に最適レギュレータ(LQ)の極限的性質を併用した制御方式を片麻痺者車椅子の制御に応用する有効性について検証する。そこで次式の線形システムを考える。
【0019】
【数1】
JP0004318017B2_000002t.gif【0020】
このシステムに対して次式の2次形式評価関数Jを考える。
【0021】
【数2】
JP0004318017B2_000003t.gifここでQ , Rは重み行列で、Rは正定な対称行列、Qは非負定な対称行列とする。
【0022】
この評価関数Jを最小にする制御入力uは、式(1),(2)の線形システム(A , B , C)が可安定、可検出であるとき、次式に示されるフィードバック解で与えられることは良く知られている。
【0023】
【数3】
JP0004318017B2_000004t.gif【0024】
特に、
【数4】
JP0004318017B2_000005t.gifとしたときに得られる極限フィードバックゲインFの性質として、次式の外乱除去特性が知られている。
【0025】
【数5】
JP0004318017B2_000006t.gif式(7), (8)の外乱印加系に式(4),(5)の極限フィードバックゲインを施した閉ループ系の外乱ξから出力yまでの伝達関数は次式となり、その極限において外乱が除去される。
【0026】
【数6】
JP0004318017B2_000007t.gif【0027】
また、外乱の影響を除去する手法に外乱分離制御がある。これは式(1),(2)のシステムが、次式の条件のもとでの制御である。
【0028】
【数7】
JP0004318017B2_000008t.gifとする制御である。しかし一般に外乱の情報を入手するのは困難であることから、式(11)のフィードバックゲインFを最適レギュレータによって求め、外乱ξを内部モデル制御(IMC)で推定し外乱を除去する。
【0029】
一般的に、メカニカルシステムは入力端から外乱が印加されることが多いため、式(7),(8)の外乱印加系を次式のように表す。
【0030】
【数8】
JP0004318017B2_000009t.gif【数9】
JP0004318017B2_000010t.gif【0031】
この式(13),(14)のシステムに対して、図6のような構成を考える。このとき、外乱から出力までの伝達関数は、次式のようになる。
【0032】
【数10】
JP0004318017B2_000011t.gif【0033】
次に車椅子の片側の車輪の簡易モデルを図7に示す。同図において、各パラメータは次の通りである。
m[kg] : 車輪の質量
Mξ[kg] : 質量誤差
r[m] : 車輪の半径
τ[Nm] : 車輪に加わるトルク
φ[rad] : 車輪の角度変位
c[Ns/m]: 車輪に加わる粘性抵抗
μ : 車輪と地面間の摩擦係数
g[m/s2] : 重力加速度
【0034】
ここで上記粘性係数cは、車椅子に基準体重(この例では50kgとする)の人が乗車していると仮定した場合の片側の車輪に加わる等価粘性抵抗である。また、車輪の各パラメータを計測した結果は次の通りである。
m[kg] : 2.30
r[m] : 0.285
c[Ns/m]: 59.41
【0035】
前記図6に示した制御方式において、入力φin に目標値としての健体側車輪の回転角を与え、出力φoutとして患体側車輪の回転角を出力することによって、車椅子の直進が可能となり、入力φinの正・負の符号を反転させることによって、車椅子のピボットターンが可能になる。
【0036】
ここで図7の点Oの周り(車輪軸周り)の釣り合いを考えて運動方程式を求めると次式のようになる。
【0037】
【数11】
JP0004318017B2_000012t.gifここで質量誤差Mξは基準体重からのずれを表し、基準体重と異なる人が乗車した場合を考慮している。
【0038】
また制御対象の数式モデルは次式のようになる。
【0039】
【数12】
JP0004318017B2_000013t.gif【0040】
次に最適レギュレータを利用して、システムにu=Fx+vとする状態フィードバック則 F=[f1112]を施すと、システムは次の式(20)(21)となり、伝達関数は次の式(22)となり逆システムの伝達関数は次の式(23)のようになる。
【0041】
【数13】
JP0004318017B2_000014t.gif【0042】
【数14】
JP0004318017B2_000015t.gif【0043】
そしてこのシステムの最小実現を求めることで、近似逆システムは次式(25)(26)(27)(28)(29)(30)のように構成でき、図6に示した制御系の構成が可能になる。
【0044】
【数15】
JP0004318017B2_000016t.gif【0045】
なお上記の簡易モデルでは、R=I ,Q=700Iとした極限フィードバックゲイン Fを用いてフィードバックFを設計し、式(27)(28)(29)(30)の近似逆システムのパラメータはε=0.08とした。
【0046】
図8および図9は基準体重50kgの人が片麻痺者用車椅子Mに乗車して健体側車輪1aを操作した実験結果を示し、図10は体重65kgの人が操作した実験結果を示している。図8,9,10には、制御時間(操作時間)10秒間における、健体側車輪1aと患体側車輪1bの水平変位[単位m]と、健体側車輪1aに対する患体側車輪1bの追従誤差[単位m]を、サンプリングタイム0.01秒間隔で測定した結果を示している。
【0047】
図8は車椅子Mが前進して約5.0秒後に後退した結果を示し、図9は車椅子Mが前進後180°右旋回して約6.3秒後に停止した結果を示している。また図10は車椅子Mが前進して約4.5秒後にある段差を乗り越えて約6.9秒後に停止した結果を示している。そして車椅子Mの直進動作時において、健体側車輪1aの回転(目標値)に対し患体側車輪1bの回転が良好に追従していることが、図8から確認できる。また図9からも、健体側車輪1aの回転に対し患体側車輪1bが良好に追従していることが分かる。すなわち旋回時では、健体側1aの回転変位を健体側2aで逆方向に読み取っているので、患体側車輪1bの回転が健体側車輪1aの回転に対して逆方向で同期しており、ピボットターンが実現されていることが分かる。さらにまた図10により、基準体重以外の人が乗車しても、段差の乗り越えがあっても、患体側車輪1bは健体側車輪1aの動きに良好に追従しており、この程度の外乱やパラメータの変動に対しも良好な目標追従制御が実現されていることが確認できる。
【0048】
【発明の効果】
上記の実施例からも明らかなように、この発明によれば、片麻痺者の健体側の片手で車椅子の健体側車輪を回転操作することにより、片麻痺者に過大の労力負担を加えることなく、両手による操作の場合と同様に、車椅子の走行・操舵操作をすることができる上に、車椅子をその場で反転させるピボットターンが可能となる。またその直進とピボットターンは、健体側の手足で操作する切換スイッチの切り換え操作によって簡単に選択できる。
【0049】
またこの発明は、健体側エンコーダ、患体側エンコーダ、健体側エンコーダの読み取り回転方向を正逆に切り換える切換スイッチ、マイクロコンピュータ、患体側車輪を駆動するサーボモータ、減速ギア群などからなる走行補助装置を標準型の車椅子に着脱自在に装着するものであるから、既存の標準型車椅子を片麻痺者用車椅子に簡単に改良することができる。一方一旦車椅子にこの発明の走行補助装置を付加した後であっても、患体側車輪と減速ギア群の結合カップリングを外すことにより、患体側車輪と減速ギア群の結合を簡単に切り離して通常一般の車椅子として用いることができ、その場合、患体側車輪に走行補助装置からの負担が加わらないので車椅子の動きは軽くなる。
【0050】
またこの発明の車椅子走行補助制御方法は、健体側車輪の回転角を目標値として患体側車輪を健体側車輪の回転角に追随させるものであるが、内部モデル制御に最適レギュレータの極限的性質を併用した制御方式を採っているので、患体側車輪の追随性が高くなり、直進走行ならびにピボットターンの特性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の片麻痺者用車椅子の構成とその走行補助制御方法の一例を示すブロック図。
【図2】同片麻痺者用車椅子の概略背面図。
【図3】同片麻痺者用車椅子の部分上面図。
【図4】同片麻痺者用車椅子の患体側車輪周りの要部上面図。
【図5】同患体側車輪周りの要部側面図。
【図6】同片麻痺者用車椅子に適用する制御システムのブロック図。
【図7】同片麻痺者用車椅子の片側の車輪の簡易モデル図。
【図8】同片麻痺者用車椅子の走行実験特性図。
【図9】同片麻痺者用車椅子の他の走行実験特性図。
【図10】同片麻痺者用車椅子の他の走行実験特性図。
【符号の説明】
1 : 車椅子
1a: 健体側車輪
1b: 患体側車輪
1c: 患体側車輪の回転軸
2a: 健体側エンコーダ
2b: 患体側エンコーダ
3 : 切換スイッチ
4 : カウンターボード
5 : マイクロコンピュータ
6 : D/Aコンバータ
7 : 増幅器
8 : サーボモータ(患体側車輪駆動用サーボモータ)
9 : 減速ギア群(ギアボックス)
9a: 減速ギア群の出力軸
91: 平歯車
92: 平歯車
93: ウォーム
94: ウォームホイール
95: 螺子歯車
96: 螺子歯車
10: 電源
11: カップリング
12: 支軸
M : 車椅子
Ma: フットレスト
S : 座席
W : 走行補助装置
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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