TOP > 国内特許検索 > ワイヤソー作製方法およびワイヤソー作製装置 > 明細書

明細書 :ワイヤソー作製方法およびワイヤソー作製装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4378260号 (P4378260)
公開番号 特開2006-110703 (P2006-110703A)
登録日 平成21年9月18日(2009.9.18)
発行日 平成21年12月2日(2009.12.2)
公開日 平成18年4月27日(2006.4.27)
発明の名称または考案の名称 ワイヤソー作製方法およびワイヤソー作製装置
国際特許分類 B24D  11/00        (2006.01)
B24B  27/06        (2006.01)
B24D   3/00        (2006.01)
FI B24D 11/00 G
B24B 27/06 H
B24D 3/00 340
請求項の数または発明の数 5
全頁数 14
出願番号 特願2004-303501 (P2004-303501)
出願日 平成16年10月18日(2004.10.18)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成16年9月1日 社団法人砥粒加工学会主催の「2004年度砥粒加工学会学術講演会」において文書をもって発表
審査請求日 平成18年6月7日(2006.6.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
発明者または考案者 【氏名】石川 憲一
【氏名】諏訪部 仁
個別代理人の代理人 【識別番号】100105924、【弁理士】、【氏名又は名称】森下 賢樹
審査官 【審査官】西村 泰英
参考文献・文献 特開昭53-052243(JP,A)
特開昭61-182773(JP,A)
特開昭62-057875(JP,A)
調査した分野 B24D 11/00
B24B 27/06
B24D 3/00
特許請求の範囲 【請求項1】
メッキ液中に砥粒を分散させた混合液を撹拌し、混合液を一方向に流出させる空間を設け、この空間内で混合液の流出方向と同じ方向にワイヤを走行させ、ワイヤとアノードの間を通電することによってワイヤ表面に砥粒を電着させることを特徴とするワイヤソー作製方法。
【請求項2】
前記空間内を流れる混合液と前記ワイヤとの間の相対速度を実質的に小さく設定したことを特徴とする請求項に記載のワイヤソー作製方法。
【請求項3】
メッキ液中に砥粒を分散させた混合液を貯留する混合液供給手段と、
所定の長さにわたってワイヤの周囲を囲むように設けられ、前記混合液供給手段から導かれた混合液を一方向に流出させる中空管と、
前記中空間内の混合液中に浸漬した状態で、混合液の流出方向と同じ方向にワイヤを走行させるワイヤ走行手段と、
前記中空管を介してアノードと前記ワイヤの間を通電して、前記導入手段において前記ワイヤに砥粒を電着させる通電手段と、
を備え
前記中空管内を流れる混合液と前記ワイヤの間の相対速度を実質的に小さく設定したことを特徴とするワイヤソー作製装置。
【請求項4】
アノードを内部に収容するとともに、メッキ液中に砥粒を分散させた混合液を貯留する混合液供給槽と、
前記混合液供給手段から前記混合液を一方向に流出させる中空管と、
前記中空管内で混合液の流出方向と同じ方向にワイヤを走行させるワイヤ走行手段と、
前記アノードと前記ワイヤの間を通電して、前記中空管の内部で前記ワイヤ表面に砥粒を電着させる通電手段と、
前記中空管から流出した混合液を回収し撹拌する混合液撹拌槽と、
前記混合液撹拌槽から混合液を前記混合液供給槽に戻す循環手段と、
を備えることを特徴とするワイヤソー作製装置。
【請求項5】
前記混合液撹拌槽は砥粒の流出を防止しつつメッキ液の流出入が自在である構成を有し、メッキ液を満たしたメッキ槽内に配置されていることを特徴とする請求項に記載のワイヤソー作製装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、ワイヤソー切断装置で使用されるワイヤソーの作製方法および作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子素子材料として用いられるセラミックスやシリコンなどの硬質脆性材料に対する加工法の一つとして、ワイヤソー切断装置が知られている。ワイヤソー切断装置は、多数本のワイヤをワークに押しつけ、砥粒を固着したワイヤを往復動させるかまたは砥粒を供給して、研磨加工によりワークを一度に多数枚の加工物に切断する装置である。
【0003】
ワイヤソー切断装置は、ワークの切り代が少ないためワークを切断して得られる加工物の収率が大きく、また多数本のワイヤで一度にワークを切断するので生産性が高く、さらに、大口径のウェーハを高能率で加工できるといった長所を有している。そのため、シリコンインゴットの大径化に対応して、シリコンインゴットから半導体用ウェーハを切り出す装置として注目されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
ワイヤソー切断装置で用いられるワイヤソーとして、ピアノ線などのワイヤ芯材表面にダイヤモンド砥粒を固着させた固定砥粒ワイヤが知られている。固定砥粒ワイヤには、砥粒を樹脂でワイヤ表面に固着させる樹脂コーティング方式と、ニッケルメッキ等を用いて砥粒をワイヤ表面に固着させる電着方式とがある。例えば、特許文献2には、合成樹脂と砥粒とを電着塗装法によりワイヤ芯材に付着させたのち、加熱処理して合成樹脂により砥粒を固着し、ワイヤ芯材の表面に砥粒層を形成するワイヤソーの作製方法が開示されている。

【特許文献1】特開平8-126953号公報
【特許文献2】特開平11-245154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献2のような樹脂コーティング方式は、ワイヤソーの作製速度は速いものの、砥粒の保持力が弱いために長期間にわたって加工効率を維持することが難しいという問題がある。これに対し、電着方式では、砥粒の保持力が強いために工具寿命に至るまで高い加工効率を維持できるが、ワイヤソーの作製速度が遅く、また長尺のワイヤソーの作製が困難であるという問題がある。
【0006】
本発明はこうした点に鑑みてなされたもので、その目的は、電着方式のワイヤソーを高速に作製する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、メッキ液中に砥粒を分散させた混合液を撹拌し、この混合液中にワイヤを走行させるとともに、ワイヤとアノードの間を通電することによってワイヤ表面に砥粒を電着させることを特徴とするワイヤソー作製方法である。
【0008】
この態様によれば、ワイヤ表面付近におけるメッキ液に流動性を持たせることで、陰極拡散層の成長を抑え金属イオンの補給を円滑にすることができるため、メッキ析出速度が向上し、電着方式のワイヤソーを高速に作成することができる。
【0009】
混合液を一方向に流入させる空間を設け、その空間内で前記ワイヤを走行させるようにしてもよい。こうすると、ワイヤ周辺の陰極拡散層の形成を妨げることができるので、効率的にワイヤに砥粒を固着させることができる。
【0010】
ワイヤの走行方向と混合液の流入方向を同一方向としてもよく、また、ワイヤの走行方向と混合液の間の相対速度を実質的に小さく設定することが好ましい。このように、ワイヤと混合液の相対速度を小さく設定することで、ワイヤへの砥粒の固着量や、固着の安定性を向上させることができる。
【0011】
本発明の別の態様は、ワイヤソー作製装置である。この装置は、メッキ液中に砥粒を分散させた混合液を貯留する混合液供給手段と、混合液供給手段から混合液を導く導入手段と、導入手段における混合液中に浸漬するようにワイヤを走行させるワイヤ走行手段と、アノードとワイヤの間を通電して、導入手段においてワイヤに砥粒を電着させる通電手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
この態様によれば、ワイヤ表面付近におけるメッキ液に流動性を持たせることで、陰極拡散層の成長を抑え金属イオンの補給を円滑にすることができるため、メッキ析出速度が向上し、電着方式のワイヤソーを高速に作成することができる。
【0013】
導入手段は、所定の長さにわたってワイヤの周囲を囲むように設けられた中空管であってもよい。このように、ワイヤの周囲に中空管を設けることで、特別な装置を用いることなく混合液を撹拌することができるため、ワイヤの周囲に陰極拡散層が形成されるのを防止することができる。また、ワイヤを覆うように混合液が流れるようにすることで、ワイヤの全面にわたって均等に砥粒を固着させることができる。また、小径の中空管を使用することで、混合液の使用量を低減することができる。
【0014】
中空管が導体であり、通電手段がこの中空管にも通電するようにしてもよい。このように、中空管を補助電極として使用することで、アノードから離れたことによるメッキ量の減少を防止することができる。
【0015】
本発明のさらに別の態様もワイヤソー作製装置である。この装置は、アノードを内部に収容するとともに、メッキ液中に砥粒を分散させた混合液を貯留する混合液供給槽と、混合液供給手段から混合液を一方向に流出させる中空管と、中空管内で混合液の流出方向と同じ方向にワイヤを走行させるワイヤ走行手段と、アノードとワイヤの間を通電して、中空管の内部でワイヤ表面に砥粒を電着させる通電手段と、中空管から流出した混合液を回収し撹拌する混合液撹拌槽と、混合液撹拌槽から混合液を混合液供給槽に戻す循環手段と、を備えることを特徴とする。
【0016】
混合液撹拌槽は砥粒の流出を防止しつつメッキ液の流出入が自在である構成を有し、メッキ液を満たしたメッキ槽内に配置されていてもよい。これによって、砥粒の使用量を低減することができる。
【0017】
なお、上記の各構成要素の組み合わせもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電着方式のワイヤソーを高速に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
ワイヤソー切断装置に使用されるワイヤソーは、ピアノ線やステンレス線、タングステン線などの金属線の表面に砥粒を固着させることで作製される。図1は、電着方式で作製されたワイヤソーの模式図である。芯材であるワイヤ100の表面に金属メッキ102の層が形成され、このメッキによって多数の砥粒104がワイヤ表面に分散して固着されている。しかし、金属メッキによるワイヤ表面への砥粒の固着には長時間を要するため、経済的に作製することは容易でなく、特に長尺のワイヤソーを作製することは困難であった。
【0020】
電着方式のワイヤソーを高速で作製するためには、以下のような方法が考えられる。第1に、メッキ液の温度を高くすることで、電着時の電気抵抗を減らし電気の流れを良くする方法である。第2は、電流密度を増大させワイヤ表面へのメッキ析出速度を向上させる方法である。第3は、メッキ液を撹拌することで、ワイヤ表面での陰極拡散層の成長を抑える方法である。
【0021】
ここで、陰極拡散層について説明する。図2は、ワイヤ表面における陰極拡散層のモデルを示す。陰極拡散層は、メッキ液に通電してから数秒後にワイヤ表面付近に生成する。ワイヤ表面近傍の電気二重層においてワイヤ表面にメッキが析出していくため、ワイヤの表面に近づくにつれて金属イオンの濃度が低下する。そのため、電着を行ううちにワイヤ表面とメッキ液との間に濃度勾配(濃度分極)が生じ、ワイヤ表面での金属イオンとの反応が悪化する。すると、メッキの析出量が低下し、時間とともに砥粒の固着の効率が低下するのである。
【0022】
ワイヤソーを高速で作製するための上述の3つの方法のうち、第1の方法では、メッキ液の温度を高くするとメッキ液の蒸発が激しくなり、メッキ液の濃度や温度を安定させることが困難になるという問題がある。また、第2の方法では、電流密度を増大させると、ワイヤ表面にピットが発生し、メッキ表面の品質が低下するといった問題がある。
【0023】
そこで、本願発明者らは、ワイヤが浴するメッキ液を撹拌し、陰極拡散層の成長を抑えることによって、ワイヤの作製速度を向上させる方法を考案するに至った。陰極拡散層の成長を抑えて濃度分極を減少させるとともに、ワイヤ表面付近に金属イオンを円滑に補給することができれば、メッキ析出が向上し、砥粒の固着速度も向上する。
【0024】
以下、本発明の一実施形態であるワイヤソー作製装置について説明する。ワイヤソー作製装置は、SiCやcBN、ダイヤモンドなどの砥粒とメッキ液とを撹拌してなる混合液の流れを中空管内に作り出し、中空管内にワイヤを挿通して管部分でメッキを析出させる。これによって、ワイヤ表面における陰極拡散層の成長を抑制して、砥粒の電着効率を向上させることができる。また、混合液のニッケルイオン濃度を管理することで、砥粒の固着量を調節することもできる。なお、砥粒は、導電性であっても非導電性であってもよい。
【0025】
図3は、本発明の一実施形態に係るワイヤソー作製装置10の全体図である。ワイヤソー作製装置10は、主に、ワイヤ表面に砥粒を電着する砥粒電着部90と、メッキ液と砥粒とを撹拌する砥粒撹拌部92と、から構成されている。
【0026】
まず、ワイヤソー作製装置10の概略動作を説明する。メッキ液を貯留したメッキ槽50内の砥粒撹拌槽60では、メッキ液と砥粒からなる混合液が撹拌される。混合液は、循環ポンプ74によってメッキ槽50の上方に配置された混合液供給槽20に汲み上げられる。混合液供給槽20内にはメッキの際に陽極として用いるニッケル塊が格納されている。混合液供給槽20内の混合液は、ワイヤ42が挿通された中空管24内に流入する。ニッケル塊と陰極であるワイヤが通電されることによって、中空管24内を移動するワイヤ表面にニッケルメッキが析出し、このメッキにより砥粒がワイヤ表面に固着される。中空管24から流出した混合液は、ガイド40、56を経由して、砥粒撹拌槽60内に戻される。
【0027】
以下、ワイヤソー作製装置10の各構成要素について詳細に説明する。
【0028】
砥粒電着部90は、混合液が撹拌されている状態を中空管内に作り出し、その中空管内にワイヤを挿通することによって、ワイヤ表面に発生する陰極拡散層の成長を抑制しつつ、ワイヤ表面に砥粒を電着する。
【0029】
図3に示すように、一部を省略して示す支持台22の上部に、混合液を一時貯留する混合液供給槽20が設置されている。混合液供給槽20の一壁面には、導電性材料から作製された中空管24が付設されている。
【0030】
図4は、中空管24の形状を示す。中空管24には、長手方向の中央からやや離れた位置に開口部44が形成されている。この開口部44は、混合液供給槽20の一壁面に形成された図示しない開口部と合わせるように混合液供給槽20に取り付けられており、この開口部44を介して、混合液供給槽20内の混合液が中空管24内に流入するようになっている。
【0031】
図3に戻り、支持台22からは左右方向にアーム26、32が延びており、それぞれの終端に、鉛直下方に延びる鉛直柱28、34が設けられている。鉛直柱28、34には、それぞれ滑車30、36が回転可能に取り付けられている。滑車30、36は、図示しない直流安定化電源から電力供給を受ける。これらの滑車30、36は、ワイヤ42を中空管24内に案内する役割と、ワイヤ42に電流を流す給電部としての役割を持つ。なお、これらの滑車30、36は、アームまたは鉛直柱の任意の位置に固定できるように、取り外し可能に構成されていてもよい。鉛直柱34の下端からは、中空管24から流出した混合液を流すガイド40を支持するアーム38が延び出している。
【0032】
ワイヤ42は、砥粒電着部90の側方に位置する図示しないボビンから引き出され、このボビンとは反対側に配置された図示しないワイヤ巻き取り装置によって、別のボビンに巻き取られる。ワイヤ42は、図3中に示す矢印の方向に巻き取られ、中空管24内への混合液の流入方向と同じ方向に移動する。
【0033】
ワイヤ42に電流を流すと、滑車30、36で案内されているワイヤの振動などによりワイヤと中空管とが接触してショートするおそれがある。そこで、図5に示すように、中空管24の両端には、絶縁材料で作製された小径のチューブ48をチューブ固定具46にて中空管内部に設けるようにしている。このチューブ48にワイヤ42を挿通させることで、中空管とワイヤのショートを防止している。また、この固定具46の大きさを変えることによって、中空管24内での砥粒の堆積状態を変えることも可能である。
【0034】
図6は、混合液供給槽20の断面図である。砥粒撹拌槽60にて撹拌されたメッキ液は、循環ポンプ74によって、吸入側のホース72および吐出側のホース76を介して(図3参照)、ノズル82から混合液供給槽20に流入する。混合液の温度が低下すると、中空管24における砥粒の電着効率が低下する。そこで、砥粒撹拌槽60からの吸い上げ時における混合液の液温の低下を防ぐために、循環ポンプのホース72とホース76の外周には、断熱テープが巻き付けられている。
【0035】
混合液供給槽20の一部は、ニッケル塊88が収容されるアノード収容部94が、隔離板によって画設されている。隔離板には複数の貫通穴(図示せず)が形成されており、これら貫通穴には、砥粒を通さない細かな目のメッキ布86が貼り付けられている。
【0036】
図6中の白矢印はメッキ液の流れを示し、黒矢印は混合液の流れを示す。メッキ布86は、メッキ液のみをアノード収容部94内に通過させ、混合液中の砥粒をアノード収容部94内のニッケル塊88に近づけない役割を果たす。これによって、砥粒がニッケル塊に付着することを防止するとともに、ニッケル塊の溶解により生じるスラッジが混合液供給槽20の外部に漏れ出さないようにしている。
【0037】
混合液供給槽20内のニッケル塊は、メッキの際に陽極として用いられる。混合液が混合液供給槽20から開口部44を介して中空管24内へと流れ込むことにより、ニッケル塊とワイヤとが通電される。すると、ワイヤの表面にメッキが析出するが、このとき、ワイヤの表面に接触している砥粒がメッキとともにワイヤに固着される。その後、混合液は中空管24から流出し、ガイド40およびガイド56を経由して砥粒撹拌槽60に回収される。
【0038】
混合液供給槽20は、支持台22上で所定の角度範囲で傾き角を調整できるように構成されている。これによって、混合液供給槽20から流出して中空管24内を流れる混合液の流速を変化させることができ、中空管24内を走行するワイヤ42と混合液との相対速度を調整することができる。
【0039】
従来、電着方式のワイヤソーを作製するときは、停止している砥粒の中にワイヤを走行させてメッキを施すようにしていた。このようにすると、ワイヤと砥粒との間の相対速度が大きくなり、固着する砥粒の量が低下したり固着の度合いが低下したりするので、砥粒の中を通過するワイヤの速度を上げることができず、電着方式のワイヤソーの作製効率を上げられない一因となっていた。
【0040】
これに対し、本実施形態では、混合液とワイヤとが同方向に移動するようにしたので、混合液とワイヤとの相対速度を小さくすることができる。混合液とワイヤとの相対速度が小さいほど、ワイヤ表面に砥粒が固着しやすい状態となるが、陰極撹拌層が形成されないように、混合液の流速はある程度の速度を確保する必要がある。そのため、最適な混合液の流速およびワイヤ巻き取り速度は、実験で決定することが好ましい。
【0041】
以上説明したように、ニッケル塊が収容されている混合液供給槽20から流出する混合液が直ちに中空管24内に流入するので、ニッケル濃度および砥粒濃度の低下していない混合液が絶え間なく中空管24内に供給されることになり、常に安定したメッキおよび砥粒の固着を行うことができる。
【0042】
また、混合液の流れる中空管24内にワイヤを挿通させたのは、狭い空間内に混合液を流すことで、中空管内が混合液で充満し、ワイヤの全面にわたって十分な量の混合液が供給されることになり、ワイヤの全面にわたって均一に砥粒を固着させることができるからである。このように、本実施形態では、メッキ液と砥粒を撹拌した混合液内でワイヤを移動させ、メッキと固着を実行することにも特徴がある。
【0043】
中空管24は、補助電極としての役割も有している。すなわち、中空管24の位置では、陰極であるワイヤと陽極であるニッケル塊との距離が遠くなるため、電流が流れにくくなり、結果としてメッキの析出量が低下してしまう。そこで、中空管24を導電性材料で製作し、ニッケル塊88と中空管24の両方に電流を流すようにする。これによって、陽極と陰極の距離が近くなり、中空管24内におけるメッキの析出量が安定化し、ひいては砥粒の固着量も増大する。また、固着量が安定化し、表面状態の優れたワイヤソーを作製することができる。
【0044】
中空管24は、メッキ液によって腐食しない材料、例えば、ステンレス、カーボンファイバー等で作製することが好ましい。なお、ニッケル塊への通電だけでも中空管24におけるメッキの析出量が十分であれば、中空管24に通電する必要はない。この場合、中空管24は導電性の材料でなくてもよい。
【0045】
図7は、砥粒撹拌部92の構成を示す。
【0046】
メッキ液の液温およびニッケル濃度を安定させるためには、メッキ槽50に貯留されているメッキ液量が多い方が好ましい。しかし、大量のメッキ液全体にダイヤモンドなどの砥粒を分散させると、砥粒のコストが増大する。また、中空管24における電着により次第にメッキ液のニッケル濃度が低下してくるため、メッキ液量が少ないと電着不良が発生するおそれがある。さらに、本実施形態では、コスト低減などの理由からメッキ液中に沈降防止剤のような添加物を混入していないため、混合液を絶えず撹拌しなければ砥粒が沈降してしまう。
【0047】
そこで、本実施形態では、メッキ槽50の内側に砥粒撹拌槽60を設置する二層構造を採用している。メッキ槽50には、例えば16リットル程度のメッキ液を貯留する。メッキ槽50には、メッキ液を撹拌するためのスクリュー58と駆動モータ52が設置されている。また、メッキ液を昇温するための電熱ヒータ54も設置されている(図3を参照)。
【0048】
メッキ槽50内の砥粒撹拌槽60の側壁には複数の開口部62が形成され、この開口部62はメッキ布で覆われている。砥粒撹拌槽60の容量は例えば4リットル程度である。中空管24から流れ出た混合液は、最終的にガイド56に沿って流れ落ち、砥粒撹拌槽60に流入する。メッキ液はメッキ槽50と砥粒撹拌槽60の間を出入りする一方で、砥粒撹拌槽60内の砥粒は、メッキ布のためにメッキ槽50へ流出しない。
【0049】
砥粒撹拌槽60内で砥粒が沈殿しないように、およびガイド56を経由して回収された混合液を砥粒撹拌槽60内の混合液と撹拌するため、砥粒撹拌槽60には、スクリュー68とそれを駆動するモータ66が設置されている。また、循環ポンプ74の吸込口64の付近に砥粒が集まりやすいように、砥粒撹拌槽60は、吸込口64の側が下側になるように傾けてメッキ槽50内に設置されている。
【0050】
このように、メッキ液の一部のみに砥粒を分散させるようにしたことで、砥粒のコストを抑えつつ、メッキ液のニッケル濃度を安定させ、メッキ液の温度変化による影響を低減することができる。さらに、砥粒撹拌槽をメッキ槽と比べて比較的小さい容量とし、使用する砥粒の量を減らすことで、砥粒がメッキ液中に安定して存在しやすくなる。
【0051】
本実施形態では、メッキ液として、メッキ析出速度の速い高速度スルファミン酸ニッケルメッキ液を使用する。高速度スルファミン酸ニッケルメッキ液は、スルファミン酸ニッケル、塩化ニッケルおよび硼酸の三成分から成り立っている。塩化ニッケルは、陽極の電解ニッケルの溶解を向上させ、メッキ液内の導電度を向上させる働きをする。硼酸は、pH緩衝剤として作用する。高速度スルファミン酸ニッケルメッキ液の組成や作業条件を管理することによって、内部応力が低く破断しにくいワイヤを作製することができる。また、砥粒は、GC#600(30~40μm)を使用する。
【0052】
続いて、ワイヤソー作製装置10を使用したワイヤソー作製の手順について、図8のフローチャートを参照して説明する。まず、メッキ槽50内に砥粒を入れた砥粒撹拌槽60を設置し(S10)、メッキ槽50にメッキ液を満たして液温を70度まで温める(S12)。次に、混合液供給槽20のアノード収容部94内に電解ニッケルを投入する(S14)。続いて、砥粒撹拌槽60内のメッキ液と砥粒を撹拌する(S16)。図示しないボビンに巻き取られているワイヤを、滑車30、中空管24および滑車36の順で砥粒電着部90に装着し、ワイヤの一端を図示しない巻き取り装置のボビンに巻き付ける(S18)。
【0053】
メッキ槽50のメッキ液温が上昇したら、循環ポンプ74を作動させて、混合液の混合液供給槽20への汲み上げを開始する(S20)。混合液供給槽20の傾き角を変えて、中空管24内に流出する混合液の流速を調整する(S22)。続いて、ワイヤ巻き取り装置の巻き取り速度を変更して、中空管24内を流れる混合液とワイヤとの相対速度を適切な値に調整する(S24)。最後に、直流安定化電源から、ニッケル塊88、中空管24を陽極、ワイヤ42を陰極として電流を流す(S26)。これによって、中空管24内でメッキの析出が開始する。
【0054】
(実施例)
上記の手順にしたがって、以下の条件でワイヤソーを作製した。
(表1)
ワイヤ径 200μm
メッキ液温 343K
ニッケル塊(アノード)電流密度 3.2×10 A/m
中空管電流密度 0.8×10 A/m
流速 756mm/min
メッキ液量 16l
混合液量 4l
【0055】
図9に、上記条件で作製されたワイヤソーの表面観察写真を示す。それぞれ、150mm/min~450mm/minの各巻き取り速度でワイヤソーを作製したときの写真である。図示するように、いずれの巻き取り速度においてもワイヤの全面に砥粒が固着している様子が確認できる。しかしながら、150mm/min程度の巻き取り速度(図9(a))では、砥粒の分散性が高くない。図9(f)に示す巻き取り速度450mm/minのように、ワイヤ巻き取り速度が早いほうが、砥粒の分散性の高い優れたワイヤが製作できている。このことから、本実施形態に係るワイヤソー作製装置によれば、従来の作製速度の4倍程度である400mm/min以上の巻き取り速度でも、砥粒分散製の優れたワイヤソーを作製することができると考えられる。
【0056】
以上説明したように、本発明によれば、ワイヤ表面付近におけるメッキ液に流動性を持たせることで、陰極拡散層の成長を抑え金属イオンの補給を円滑にすることができるため、メッキ析出速度が向上し、電着方式のワイヤソーを高速に作成することができる。また、導電性材料で作製された中空管に電流を流して補助電極の役割を持たせることで、中空管内において効果的にメッキを析出させることができる。そのため、砥粒の固着性も高くなり、樹脂コーティング方式により砥粒を固着させたワイヤソーよりも耐久性が高くなる。
【0057】
さらに、従来ではメッキ液中のワイヤの走行速度を上げられないため、ワイヤソーの製作効率を向上すべく長大なメッキ液の電着槽を用意していたが、本発明によれば、中空管内のみが混合液で満たされれば電着を実行するのに十分であるため、ワイヤソー作製装置を小型化することができる。
【0058】
なお、予めワイヤ表面に予備メッキを施した後に、ワイヤ表面に砥粒を固着させるようにしてもよい。こうすると、ニッケルメッキの付着力が向上し、メッキの剥離を防止することができる。この予備メッキの方法について簡潔に説明する。
【0059】
図10は、予備メッキワイヤ作製装置の概略構成を示す。ボビン202から引き出されたワイヤ204は、給電部206を通り、アセトン槽208において表面がアセトンで脱脂される。続いて、塩酸槽210において10%塩酸によりワイヤ表面が活性化された後、予備メッキ槽212に送られる。予備メッキ槽212において、ワイヤ204の表面に10~15μmのメッキを施した後、洗浄槽214に送られてワイヤ表面が洗浄される。ワイヤ204は、給電部216を通って巻き取り装置218によってボビンに巻き取られる。
【0060】
また、ワイヤ表面の固着の浅い砥粒をさらに深く埋めて固着性を高めるために、砥粒を固着させた後、ニッケルメッキのみを再び施す後メッキ工程を設けることが好ましい。
【0061】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素の組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、そのような変形例について述べる。
【0062】
砥粒には特に制限はなく、例えば、ダイヤモンド砥粒やcBN砥粒などの砥粒を使用することができる。ワイヤ芯材は、導電性を有する材料であれば特に制限はなく、例えば、ピアノ線やステンレス線などの鋼線や、タングステン線、モリブデン線などの金属線を使用することができる。さらに、ワイヤ芯材の断面形状についても、特に制限なく本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】電着方式で作製されたワイヤソーの模式図である。
【図2】ワイヤ表面における陰極拡散層のモデルを示す図である。
【図3】一実施形態によるワイヤソー作製装置の全体構成図である。
【図4】中空管の形状を示す図である。
【図5】中空管の先端部を示す図である。
【図6】混合液供給槽の断面図である。
【図7】砥粒撹拌部の構成を示す図である。
【図8】ワイヤソー作製装置の操作手順を示すフローチャートである。
【図9】(a)~(f)は、ワイヤソー作製装置により作製されたワイヤソーの表面観察写真である。
【図10】予備メッキ装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
10 ワイヤソー作製装置、 20 混合液供給槽、 24 中空管、 30、36 滑車、 40 ガイド、 42 ワイヤ、 44 開口部、 50 メッキ槽、 56 ガイド、 60 砥粒撹拌槽、 74 循環ポンプ、 84 メッキ液、 88 ニッケル塊、 90 砥粒電着部、 92 砥粒撹拌部、 100 ワイヤ、 102 金属メッキ、 104 砥粒。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図10】
8
【図9】
9