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明細書 :薄膜共振器

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4849445号 (P4849445)
公開番号 特開2007-243361 (P2007-243361A)
登録日 平成23年10月28日(2011.10.28)
発行日 平成24年1月11日(2012.1.11)
公開日 平成19年9月20日(2007.9.20)
発明の名称または考案の名称 薄膜共振器
国際特許分類 H03H   9/17        (2006.01)
H01L  41/09        (2006.01)
H01L  41/187       (2006.01)
H01L  41/18        (2006.01)
H01L  41/22        (2006.01)
FI H03H 9/17 F
H01L 41/08 C
H01L 41/18 101B
H01L 41/18 101Z
H01L 41/22 Z
請求項の数または発明の数 7
全頁数 13
出願番号 特願2006-060351 (P2006-060351)
出願日 平成18年3月6日(2006.3.6)
審査請求日 平成21年3月6日(2009.3.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
発明者または考案者 【氏名】渡辺 好章
【氏名】柳谷 隆彦
個別代理人の代理人 【識別番号】110001069、【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
【識別番号】100095670、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 良平
審査官 【審査官】橋本 和志
参考文献・文献 特開2004-244716(JP,A)
特開2005-197983(JP,A)
特開平10-051262(JP,A)
特開2004-095843(JP,A)
調査した分野 H03H3/007-H03H3/10,H03H9/00-9/76
H01L41/09
H01L41/18
H01L41/187
H01L41/22
特許請求の範囲 【請求項1】
a)圧電体膜を上下電極の間に設けて成り、該電極間に交流電圧が印加されると該圧電体膜の厚み方向に伝播する横波の定在波が形成される共振器本体と、
b)温度上昇に伴い粘性係数が低下する特性を有し、前記共振器本体の少なくとも一部に接触する接触液と、
を備えることを特徴とする薄膜共振器。
【請求項2】
前記圧電体膜が、ZnO及びAlNのいずれかから成り[0001]方向が膜面に略平行な1方向に配向したものであることを特徴とする請求項1に記載の薄膜共振器。
【請求項3】
前記圧電体膜が、ZnO及びAlNのいずれかから成り[0001]方向が膜面に略平行な1方向に配向した第1圧電体膜と、材料及び厚さが第1圧電体膜と同じであり[0001]方向が第1圧電体膜と180°異なる方向に配向した第2圧電体膜と、を重ねた積層体から成ることを特徴とする請求項1に記載の薄膜共振器。
【請求項4】
前記積層体が第1圧電体膜及び第2圧電体膜を交互に複数重ねたものであることを特徴とする請求項3に記載の薄膜共振器。
【請求項5】
前記接触液がシリコーンオイルであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の薄膜共振器。
【請求項6】
前記共振器本体が空洞を有する基板上に固定されていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の薄膜共振器。
【請求項7】
前記共振器本体が、共振器本体の共振周波数と同じ周波数を有する超音波の波長の1/4の厚さを有し音響インピーダンスの異なる2種類の層が交互に積層して成る音響多層膜に固定されていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の薄膜共振器。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話機等の通信機器に用いられる、広帯域信号から特定の周波数の信号を抽出する等のための薄膜共振器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機や無線LAN送信機・受信機等の通信機器には、特定の周波数帯の信号を抽出するためのRFフィルタが用いられている。RFフィルタでは通常、使用される周波数帯内の周波数で共振する共振器が多数使用される。これらの通信機器において使用される周波数帯は数百MHz~数GHzと高いため、共振器もそのような高周波数に対応する必要がある。
【0003】
近年、高い共振周波数を実現することができる共振器として、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)と呼ばれる薄膜共振器が注目されている(特許文献1参照)。FBARは空洞を設けた基板の上に圧電体の薄膜を載置し、その圧電体薄膜を挟むように1対の電極を設けた構造を有する。ここで、基板に空洞を設けるのは、圧電体薄膜が基板に拘束されずに自由に振動できるようにするためである。FBARでは共振周波数が圧電体薄膜の厚さに反比例するため、薄膜の厚さを薄くする程、共振周波数を高くすることができる。実際、FBARを用いた周波数フィルタでは数GHzという高周波数においても良好なフィルタ特性が得られることが確認されている。
【0004】

【特許文献1】特開2001-203558号公報([0003]~[0004], 図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のFBARは以下の問題を有している。
FBARの共振周波数は圧電体の弾性定数に依存し、この弾性定数は圧電体の温度により変化する。すなわち、従来のFBARは温度変化により共振周波数が変化する、という問題を有する。特に、移動体通信機器では、約0.1mm角のFBARに対して約100mWという大電力を投入する必要があるため、そのFBARは温度上昇の影響を大きく受ける。
【0006】
また、従来のFBARでは通常、作製が容易であるという理由により、膜面に垂直な方向に伝搬する縦波による共振が形成される圧電体が用いられていた。縦波は膜の外側の空気に伝播することができ、振動エネルギーが損失しやすい。この振動エネルギーの損失を防ぐために、FBARにおいて圧電体が真空容器に封入されたものがある。しかし、その場合には圧電体から放熱し難くなるため圧電体の温度が上昇してしまい、共振周波数が変化(減少)してしまう。
【0007】
更に、従来のFBARでは、電極の直上又は直下から外れた圧電体薄膜内の領域において、共振器の本来の共振とは異なる不要な振動(スプリアスモード)が生成される。このスプリアスモードの周波数は多くの場合、共振器の本来の共振周波数に近い値となり、本体の振動周波数の誤差の原因となる。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、温度変化による共振周波数の変化が小さく、スプリアスモード振動を抑制することができる薄膜共振器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係る薄膜共振器は、
a)圧電体膜を上下電極の間に設けて成り、該電極間に交流電圧が印加されると該圧電体膜の厚み方向に伝播する横波の定在波が形成される共振器本体と、
b)温度上昇に伴い粘性係数が低下する特性を有し、前記共振器本体の少なくとも一部に接触する接触液と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
横波定在波が形成される共振器本体を得るために、前記圧電体膜には、ZnO及びAlNのいずれかから成り[0001]方向が膜面に略平行な1方向に配向したものを用いることができる。
ZnO及びAlNは共に、図1に示すように、一般式An+Bn-(nは整数)で表され六方晶であるウルツ鉱構造を有する。ウルツ鉱構造では、An+から成る層(A層)とBn-から成る層(B層)が交互に積層し、B層はその上下にある2枚のA層から等距離の位置よりもc軸の1方向にずれた位置に存在する。即ち、ウルツ鉱構造はc軸方向に極性を有する。本願では、B層に対してA層がずれる方向を[0001]方向と定義する。
【0011】
前記圧電体膜には、ZnO及びAlNのいずれかから成り[0001]方向が膜面に略平行な1方向に配向した第1圧電体膜と、材料及び厚さが第1圧電体膜と同じであり[0001]方向が第1圧電体膜と180°異なる方向に配向した第2圧電体膜と、を重ねた積層体を用いることができる。更に、第1圧電体膜及び第2圧電体膜を交互に複数重ねた積層体を用いることもできる。
【0012】
本発明で用いる「接触液」は粘性の温度変化により前記共振器本体の周波数の温度変化を抑制する機能を有し、具体的には、次のような特性を持つ液体である。
(1) 温度上昇に伴い粘性係数が低下する。
(2) 空気よりも熱伝導率が良い。
(3) 空気よりも縦波を伝播しやすい。
このような特性により、本発明において、共振器本体の少なくとも一部に接触する接触液は次のような作用を行う。
(1) 共振器本体の温度が上昇すると、圧電体膜の弾性定数が低下し、その共振周波数は低周波数側に変化する。それに対し、接触液の粘性係数が低下するため、接触液は圧電体膜の共振周波数を高周波数側に変化させるように作用する。同様に、共振器本体の温度が下降すると、圧電体膜の弾性定数が上昇してその共振周波数は高周波数側に変化するのに対して、接触液は粘性係数が上昇して圧電体膜の共振周波数を低周波数側に変化させるように作用する。これら弾性定数の温度変化による作用と粘性係数の温度変化による作用が少なくとも一部相殺されることにより、共振器の温度変化による共振周波数の変化が抑制される。
(2) 圧電体膜で発生する熱を、従来の空気(又は真空)よりもよりよく伝達し、外部に逃がすことができる。これにより、圧電体膜の温度変化自体を抑制することができる。
(3) 圧電体膜で発生するスプリアスモードの中で圧電体膜に平行な方向以外に変位成分を持つ音波が接触液中に漏洩し、圧電体膜のスプリアスモード振動を減衰させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の薄膜共振器においては、その温度が上昇すると、圧電体膜の弾性定数が低下して共振周波数が低周波数側に変化するように作用すると共に、接触液の粘性係数が低下して共振周波数が高周波数側に変化するように作用する。同様に、温度が下降すると弾性定数が上昇して共振周波数が高周波数側に変化するように作用する共に、粘性係数が上昇して共振周波数が低周波数側に変化するように作用する。これら圧電体膜の弾性定数変化による作用と接触液の粘性変化による作用が相殺されることにより、共振器の温度変化による共振周波数の変化が抑制される。
【0014】
また、本発明に係る薄膜共振器は共振器本体が接触液に接触しているため、本体から発生する熱を、接触液を通して外部に放出しやすくなる。これにより、共振器の温度変化(上昇)による共振周波数の変化が更に抑制される。
【0015】
更に、本発明の薄膜共振器では、スプリアスモードの中で圧電体膜に平行な方向以外に変位成分を持つ音波が接触液中に漏洩するため、スプリアスモードを減衰させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の薄膜共振器の本体は圧電体から成る膜の上下を挟むように1対の電極(上部電極、下部電極)を配置したものである。この点では前述のFBAR等の従来の薄膜共振器と同様である。この共振器本体には、電極間に交流電圧が印加されると圧電体膜の厚み方向に伝播する横波の定在波が形成されるものを用いる。
【0017】
そのような共振器本体として、[0001]方向が薄膜の面に略平行な1方向に配向したZnO又はAlNを圧電体膜に用いた薄膜共振器が挙げられる。この共振器本体の電極間に交流電圧が印加されると、圧電体膜に略垂直な方向に伝播し略平行な方向に変位を持つ横波の定在波が形成される。このような圧電体膜を1層だけ設けた場合には、その横波の波長は圧電体膜の厚さの2倍となる。また、本体の圧電体膜として、ZnO又はAlNから成り[0001]方向が互いに180°異なる第1圧電体膜及び第2圧電体膜を重ねた積層体を用いることもできる。この場合、横波の波長は積層体の厚さと同じ、即ちZnO又はAlNを1層だけ設けた場合の1/2となる。更に、第1圧電体膜及び第2圧電体膜を交互に複数積層した積層体も用いることができる。
【0018】
前記共振器本体の少なくとも一部に接触液を接触させる。接触液が接触するのは本体の一部分のみでもよく、その部分は圧電体膜、上部電極、下部電極のいずれでもよい。但し、本発明の効果を最大限得るために、接触液は共振器本体の表面全面に接触させるとよい。導電性の接触液を用いる場合には、上部電極及び/又は下部電極と接触液の間に絶縁部材を設けることが望ましい。
【0019】
本発明では共振器本体を液体に接触させるため、仮に縦波の定在波が形成される共振器本体を用いた場合には縦波の振動が液体中に伝播して共振の強度が減衰してしまう。そのため、本発明では共振器本体に横波の定在波が形成されるものを用いることにより、振動が液体中に伝播することを防いでいる。
【0020】
本発明の薄膜共振器の作用を説明する。
まず、比較のために、圧電体膜が(本発明のように液体ではなく)真空に接しており、それ以外の構成は本発明のものと同じである薄膜共振器について、その共振周波数f0を示す。共振周波数f0は、圧電体膜の密度ρp、弾性定数cp及び厚さdpを用いて、
【数1】
JP0004849445B2_000002t.gif
と表される。温度が上昇すると、圧電体膜の弾性定数cpは小さくなる(密度及び厚さは弾性定数よりも温度変化が十分に小さい)ため、共振周波数f0は低くなる。
【0021】
それに対して、本発明の薄膜共振器では、圧電体膜が接触液に接していることにより、その共振周波数fは
f=f0-Δf (2)
となり、圧電体膜が真空に接する薄膜共振器よりも変化分Δfだけ小さくなる。この変化分Δfは、
【数2】
JP0004849445B2_000003t.gif
と表される。ここで、ρlは接触液の密度、ηlは接触液の粘性係数である。(3)式より、Δfはcp1/4及びηl1/2に比例する。温度が上昇すると、粘性係数ηlが小さくなると共に、前述のように圧電体膜の弾性定数cpも小さくなるため、Δfは小さくなる。(2)式の第2項より、このΔfの温度変化は、温度上昇と共に共振周波数fを大きくするように作用する。それに対して、(2)式の第1項のf0は、温度上昇と共に共振周波数fを小さくするように作用する。これにより、(2)式第2項の温度変化と(2)式第1項の温度変化が相殺されるため、本発明の薄膜共振器の共振周波数fは、圧電体膜が真空に接する薄膜共振器よりも温度による変化が小さくなる。
【0022】
また、本発明の薄膜共振器では、使用中に共振器本体に発生する熱が接触液を通して外部に排出される。そのため、薄膜共振器の温度変化そのものを抑制することができるため、共振周波数fの温度変化を一層抑制することができる。
【0023】
更に、本発明により、スプリアスモードの影響を受けない薄膜共振器を得ることができる。これは、スプリアスモードが圧電体膜に平行な方向に伝播する板波や表面波から成るため、これらの波の振動が接触液中に漏洩することにより、横波の基本モードに対するスプリアスモードを減衰させることができるからである。
【0024】
通常、液体は気体よりも粘性係数が数桁大きい。例えば、温度が25℃であって常圧である場合において、空気の粘性係数は1.82×10-5Pa・sであるのに対して、水の粘性係数は空気の約50倍の8.90×10-4Pa・sである。そして、その粘性係数の温度による変化もそれに応じて大きい。また、熱伝導率及び縦波伝播特性に関しても、当然、気体よりも密度の高い液体はそれらの値が高い。液体がこのような一般的特性を有するため、本発明において用いる接触液には、通常考え得るほとんどの液体を用いることができる。
【0025】
薄膜共振器本体のQ値を高くするためにできるだけ粘性係数が小さく、しかも共振周波数の温度変化を抑制するために粘性係数の温度変化が十分に大きい接触液を用いることが望ましい。また、接触液は化学的に不活性であることが望ましい。
【0026】
本発明で用いる接触液として好適な例の1つに、シリコーンオイルがある。シリコーンオイルはその成分の高分子が有する側鎖の種類により粘性係数の絶対値や温度依存性が異なる。そのため、シリコーンオイルは、用いる圧電体膜の材料に応じて適切なものを選択することができる、という利点を有する。また、シリコーンオイルは化学的に不活性であるという利点も有する。
【実施例】
【0027】
本発明に係る薄膜共振器の一実施例であるFBARを、図2~図8を用いて説明する。
(1)本実施例のFBARの構成
図2は本実施例のFBAR10の縦断面図である。シリコンから成るSi基板11は、その中央にそれを貫通する空洞12を有する。Si基板11の上に下部電極13を設け、その上にZnOから成るZnO薄膜14を設け、ZnO薄膜14の上に上部電極15を設ける。ZnO薄膜14は、[0001]方向が薄膜の面内の1方向(図2では左右方向)に配向している。以下では、このような配向を「平行配向」と呼ぶ。
【0028】
これらSi基板11、ZnO薄膜14及び上下の電極は、接触液16と共に容器17内に封入されている。ZnO薄膜14、下部電極13及び上部電極15の露出面は接触液16に接触している。また、下部電極13及び上部電極15の一端は容器17に設けた端子181及び182に接続されている。容器17の材料には接触液16に浸食されない絶縁体を用いる。
【0029】
本実施例では、接触液16にKF-54シリコーンオイル(本実施例1)、KF-96-10csシリコーンオイル(本実施例2)及びKF-96L-1csシリコーンオイル(本実施例3)(いずれも信越化学工業製)をそれぞれ用いた3種類のFBARを作製した。これらのシリコーンオイルの特性を表1に示す。
【表1】
JP0004849445B2_000004t.gif
ここで、動粘度は粘性係数ηlを密度ρlで除したものであり、表1に挙げた値は25℃におけるものである。粘度温度係数は次式
【数3】
JP0004849445B2_000005t.gif
で表される。粘度温度係数が大きいほど、温度による粘度の変化は大きい。
【0030】
(2)本実施例のFBAR10の製造方法
本実施例のFBAR10の製造方法を、図3及び図4を用いて説明する。ここではまず、(i)図3を用いてFBARの製造方法の全体の流れを説明した後に、(ii)図4を用いてZnO薄膜14を作製する方法を説明する。
(i) FBARの製造方法
まず、Si基板11の表面に、下部電極13を形成する領域に窓を設けたマスク21を形成し、その上から下部電極金属を蒸着する(図3(a))ことにより下部電極13を作製する。マスク21を除去した(b)後、Si基板11及び下部電極13の上に、(ii)で述べる方法を用いてZnO薄膜14を作製する(c)。更にその上に、上部電極15を形成する領域に窓を設けたマスク22を形成し、その上から上部電極金属を蒸着する(d)ことにより上部電極15を作製する。マスク22を除去した(e)後、Si基板11のうちZnO薄膜14の中央付近の領域においてSiを選択的にエッチングすることにより空洞12を形成する(f)。こうして得られたFBARの本体を、別途作製した容器17内に固定し、容器17内に接触液16を注入した後に容器17を封じる。これにより、本実施例のFBAR10が得られる(g)。
【0031】
(ii) ZnO薄膜14の作製方法(図3(c)の工程)
ZnO薄膜14は、図4に示すマグネトロンスパッタリング装置30を用いて作製した。まず、マグネトロンスパッタリング装置30の構成を説明する。この装置は、成膜室31の下部にマグネトロン回路32及び陰極33を、上部に陽極34を設けたものである。陽極34の直下には、陰極33及び陽極34の中心を結ぶ線(図中の一点鎖線)から外れた位置に、この線に対して傾斜して基板38を配置する基板台35が設けられている。陰極33の上に、ZnO薄膜14の原料となるZnOターゲット36を載置する。また、成膜室31にアルゴン(Ar)ガス及び酸素(O2)ガスのガス源37を接続する。
ZnO薄膜14の作製方法を説明する。図3(b)に示した、Si基板11の表面に下部電極13を形成したもの(基板38)を、下部電極13が下側になるように基板台35に取り付ける。成膜室31内にArガス及びO2ガスを導入し、陰極33に高周波電力を供給する。これにより成膜室31内に高周波電磁場が形成され、それによりArガス及びO2ガスが電離して電子を放出する。この電子はZnOターゲット36近傍の電界及び磁界によりトロイダル曲線を描きながら運動し、これによりZnOターゲット36の近傍にプラズマが発生してZnOターゲット36がスパッタされる。スパッタされたZnOは陽極34に向かう一軸方向の流れ(原料流39)を形成し、この原料流39が基板38の表面に達してZnOがこの表面に堆積する。この時、基板38を前述のように傾斜して配置したことにより、基板38にその面に平行な1方向の温度勾配が形成され、それにより平行配向のZnO薄膜14が形成される。
【0032】
(3)本実施例のFBAR10の特性の測定結果
本実施例1~3のFBAR10について、アドミタンス特性、及び共振周波数の温度変化を測定した。併せて、比較例として、本実施例の接触液16の代わりに空気19を容器17内に充填したもの(比較例1、図5(a))、本実施例のZnO薄膜14の代わりに[0001]方向が膜面に垂直な方向に配向(以下、「垂直配向」と呼ぶ)したZnO薄膜を用いたもの(比較例2、図5(b))、及び比較例2の接触液16の代わりに空気19を容器17内に充填したもの(比較例3、図5(c))を作製し、同様の測定を行った。下部電極13と上部電極15の間に交流電圧を印加すると、本実施例及び比較例1のFBARでは膜面に平行な方向に振動する横波の定在波がZnO薄膜14内に形成されるのに対して、比較例2及び比較例3のFBARでは膜面に垂直な方向に振動する縦波の定在波がZnO薄膜14内に形成される。本実施例1~3、比較例1~3のいずれも、ZnO薄膜14の厚さは6.5μm、下部電極及び上部電極の厚さをそれぞれ0.15μmとした。なお、本実施例1~3、比較例1~3のいずれも、Si基板11のない状態で測定を行った。
【0033】
図6に、本実施例3のFBAR10及び比較例1~3のFBARのアドミタンス特性の測定結果を示す。比較例2の接触液16には、本実施例3と同じKF-96L-1csシリコーンオイルを用いた。共振周波数は、本実施例3及び比較例1のFBARでは約200MHz、比較例2及び比較例3のFBARでは約450MHzである。縦波の定在波が形成される比較例2及び比較例3では、空気19(比較例3)の代わりに接触液16(比較例2)を用いるとアドミタンスが1桁低下した。これは、比較例2の場合には、垂直配向のZnO薄膜14を用いた場合に形成される縦波の振動が接触液16により減衰してしまうためである。それに対して、横波の定在波が形成される本実施例3及び比較例1では、空気19(比較例1)の代わりに接触液16(本実施例3)を用いた場合のアドミタンスの低下は、縦波の場合よりも抑えられている。これは、本実施例3では横波の振動が接触液16により減衰しないためであると考えられる。
なお、比較例2及び3において200MHz付近に見られるピークは、ZnO薄膜の[0001]軸が薄膜に垂直な方向からわずかに傾斜していることにより生じる横波によるものである。同様に、比較例1においても440MHz付近に、[0001]軸が薄膜に平行な方向からわずかに傾斜していることにより生じた縦波によるピークが見られるが、本実施例3ではこの縦波の振動は接触液16により減衰するため観測されない。また、本実施例3及び比較例1~3において600MHz付近に見られるピークは、横波振動の3次モードによるものである。
【0034】
図7に、本実施例3及び比較例1について、共振周波数付近のアドミタンス特性のグラフの拡大図を示す。図7には、比較例1においてメインピークに多数のスプリアスモードが重畳されていることが示されている。それに対して本実施例3ではスプリアスモードによるピークは見られない。これは、本実施例ではスプリアスモードの中で圧電体膜に平行な方向以外に変位成分を持つ音波が接触液中に漏洩し、スプリアスモード振動が減衰することによる。
【0035】
図8に、本実施例1~3及び比較例1のFBARにおける共振周波数の温度による変化を測定した結果をグラフで示す。比較例1では測定を行った全温度範囲において、負の傾きを持つ一次関数で表される変化を示した。その対温度変化を表すTCF(Temperature coefficient of Frequency)の値は31.4ppm/℃である。ここでTCFは、このグラフの傾きを、基準温度(この例では25℃とした)における共振周波数の値で除したものである。それに対して本実施例3ではTCF値は24.3ppm/℃、本実施例2ではTCF値は19.7ppm/℃であり、いずれも比較例1よりも温度変化が小さい。更に、本実施例1では、25℃~50℃の温度範囲において、共振周波数はほとんど変化しない。また、50℃~80℃の温度範囲においては、他の例と同様に共振周波数は負の傾きを持つ一次関数で表される変化を示すが、TCF値は16.0ppm/℃であり、比較例1のものよりも小さい。以上より、測定を行った全温度範囲において、本実施例1~3のFBAR10はいずれも比較例1のFBARよりも温度変化に対する安定性が高いといえる。また、本実施例1、本実施例2及び本実施例3を比較すると、接触液16の粘温度係数が高くなるほど温度安定性がより高くなるといえる。
【0036】
本発明に係る薄膜共振器の他の実施例を図9~図11に示す。
図9に示すFBAR10aは、容器17を用いずに、蓋41を用いて空洞12にのみ接触液16を封入したものである。それ以外の構成はFBAR10と同様である。このFBAR10’では、共振器本体はZnO薄膜14の一部及び下部電極13の一部のみが接触液16に接触する。このように共振器本体の一部のみが接触液に接触しているだけでも、共振周波数の対温度変化及びスプリアスモードを抑制するという本発明の効果を得ることができる。但し、より強くこれらの効果を得るためには、FBAR10のように、共振器本体のうちのより広い部分が接触液に接触することが望ましい。
【0037】
図10に示すFBAR10bは、ZnO薄膜14の代わりに、[0001]方向が膜面に平行な1方向に配向したZnO薄膜141と、ZnO薄膜141とは180°異なる方向に[0001]方向が配向したZnO薄膜142の積層体14’を設けたものである。それ以外の構成はFBAR10と同様である。このFBAR10bと前述のFBAR10を比較すると、FBAR10ではZnO薄膜14の厚さの2倍の波長を有する1次モードの定在波が形成されるのに対して、FBAR10bでは積層体14’の厚さと同じ長さの波長を有する2次モードの定在波が形成されるため、ZnO薄膜14と積層体14’の厚さが同じであれば、FBAR10bの共振周波数はFBAR10のそれの2倍になる。従って、FBAR10bにより、共振器の機械的強度を低下させることなく、FBAR10よりも高い共振周波数を得ることができる。
また、積層体14’を更に複数積層させたものをZnO薄膜14の代わりに用いることもできる。その厚さをZnO薄膜14と同じ厚さにすることにより、更に共振周波数を高めることができる。
【0038】
図11に、本発明の他の実施例であるSMR(Solidly Mounted Resonator)50を示す。このSMR50は、[0001]方向が膜面に平行な1方向に配向したZnO薄膜54の上下に下部電極53及び上部電極55を有し、下部電極53の下には、SiO2から成る低音響インピーダンス層511とMoから成る高音響インピーダンス層512を交互に多数積層した音響多層膜51を有する。低音響インピーダンス層511及び高音響インピーダンス層512はいずれも、ZnO薄膜54の厚さにより定まる共振周波数を有する超音波の、その層内における波長の1/4倍の厚さを有する。そして、これらZnO薄膜54、下部電極53、上部電極55及び音響多層膜51は容器57内に配置され、上部電極55に、FBAR10で用いたものと同じ接触液56を接触させている。
SMR50では、電極間に交流電圧を印加することにより生じるZnO薄膜54からの超音波は、各低音響インピーダンス層511と高音響インピーダンス層512の境界で反射され、それら反射波は互いに同位相になり打ち消し合わない。これにより、ZnO薄膜54の振動が外部に漏れることが抑えられる。そして、ZnO薄膜54、下部電極53、上部電極55から成る共振器本体のうちの1つの面に接触液が接しているため、FBAR10と同様の効果を得ることができる。
なお、前述の各種のFBARと同様に、ZnO薄膜54の代わりに、積層体14’やそれを複数積層させたものを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】ウルツ鉱構造を示す結晶構造図。
【図2】本発明に係る薄膜共振器の一実施例(FBAR10)を示す縦断面図。
【図3】本実施例のFBAR10の製造方法を示す縦断面図。
【図4】c軸が面内に配向したZnO薄膜を製造するための装置を示す縦断面図。
【図5】比較例のFBARを示す縦断面図。
【図6】本実施例3及び比較例1~3のFBARのアドミタンス特性を示すグラフ。
【図7】図6のグラフの拡大図。
【図8】本実施例1~3及び比較例1のFBARにおける共振周波数の温度変化を示すグラフ。
【図9】本発明の他の実施例である、空洞12にのみ接触液16を封入したFBAR10aを示す縦断面図。
【図10】本発明の他の実施例である、積層体14’を用いたFBAR10bを示す縦断面図。
【図11】本発明の他の実施例であるSMR50を示す縦断面図。
【符号の説明】
【0040】
10、10a、10b…FBAR
11…Si基板
12…空洞
13、53…下部電極
14、141、142、54…ZnO薄膜
14’…積層体
15、55…上部電極
16、56…接触液
17、57…容器
181、182…端子
19…空気
21、22…マスク
30…マグネトロンスパッタリング装置
31…成膜室
32…マグネトロン回路
33…陰極
34…陽極
35…基板台
36…ZnOターゲット
37…ガス源
38…基板
39…原料流
41…蓋
50…SMR
51…音響多層膜
511…低音響インピーダンス層
512…高音響インピーダンス層
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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