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明細書 :センサチップ及びセンサチップ製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5286515号 (P5286515)
公開番号 特開2007-303973 (P2007-303973A)
登録日 平成25年6月14日(2013.6.14)
発行日 平成25年9月11日(2013.9.11)
公開日 平成19年11月22日(2007.11.22)
発明の名称または考案の名称 センサチップ及びセンサチップ製造方法
国際特許分類 G01N  21/27        (2006.01)
FI G01N 21/27 C
請求項の数または発明の数 12
全頁数 21
出願番号 特願2006-132860 (P2006-132860)
出願日 平成18年5月11日(2006.5.11)
審査請求日 平成21年4月17日(2009.4.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
発明者または考案者 【氏名】藤原 一彦
【氏名】小川 信明
個別代理人の代理人 【識別番号】100088155、【弁理士】、【氏名又は名称】長谷川 芳樹
【識別番号】100092657、【弁理士】、【氏名又は名称】寺崎 史朗
審査官 【審査官】横尾 雅一
参考文献・文献 特表2005-512021(JP,A)
特開2006-047017(JP,A)
特開2004-354130(JP,A)
特開2004-184381(JP,A)
特開2006-084360(JP,A)
特開2005-017155(JP,A)
特開2006-003217(JP,A)
藤原一彦、外5名,金ナノ粒子を固定化したガラス基板の光吸収特性と抗原抗体反応によるバイオセンシング機能の検討,第66回分析化学討論会講演要旨集,2005年 4月30日,第154頁
調査した分野 G01N 21/00-21/74
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
金属微粒子と光との共鳴現象を利用して前記金属微粒子周囲の屈折率変化を検出するためのセンサチップであって、
基板と、
前記基板上に、前記基板に接するように形成されると共に、前記金属微粒子を固定するための第1の膜と、
前記第1の膜のセンサ領域上に固定される複数の前記金属微粒子と、
前記第1の膜上に固定されると共に、複数の前記金属微粒子のうち隣接する前記金属微粒子間に配置されるブロック剤と、
を備え、
前記ブロック剤は、前記第1の膜の前記センサ領域において、前記金属微粒子が吸着していない部分の少なくとも一部の前記第1の膜に固定されている、
ことを特徴とするセンサチップ。
【請求項2】
前記第1の膜はシラン化合物から形成されており、
前記ブロック剤はカルボキシル基を有する化合物であることを特徴とする請求項1記載のセンサチップ。
【請求項3】
前記ブロック剤は、グリコール酸、酢酸ナトリウム、16-ヒドロキシヘキサデカン酸及びポリエチレングリコールの何れか一つからなることを特徴とする請求項2に記載のセンサチップ。
【請求項4】
前記金属微粒子の表面上に形成されると共に、被検体を固定するための第2の膜を更に備えることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載のセンサチップ。
【請求項5】
前記第2の膜は、メルカプトウンデカン酸からなることを特徴とする請求項4に記載のセンサチップ。
【請求項6】
前記第1の膜上に前記センサ領域を複数有し、
前記各センサ領域上に前記金属微粒子及び前記ブロック剤が固定されていることを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載のセンサチップ。
【請求項7】
前記金属微粒子の粒径は50nm~100nmであることを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載のセンサチップ。
【請求項8】
金属微粒子と光との共鳴現象を利用して前記金属微粒子周囲の屈折率変化を検出するためのセンサチップを製造する方法であって、
基板上に、前記基板に接するように形成されており前記金属微粒子を固定するための第1の膜のセンサ領域と、前記金属微粒子を含む金属微粒子溶液とを接触させることによって前記センサ領域に前記金属微粒子を所定の粒子密度で固定する粒子固定工程と、
前記金属微粒子が固定された前記センサ領域とブロック剤導入溶液とを接触させることで、前記センサ領域において、前記金属微粒子が吸着していない部分の少なくとも一部の前記第1の膜にブロック剤を固定するブロック剤固定工程と、
を備えることを特徴とするセンサチップ製造方法。
【請求項9】
被検体を固定するための第2の膜を、前記金属微粒子が固定された前記センサ領域と第2の膜形成溶液とを接触させることによって、前記金属微粒子の表面上に形成する膜形成工程を更に備えることを特徴とする請求項8に記載のセンサチップ製造方法。
【請求項10】
前記基板に固定された前記金属微粒子の粒径が50nm未満の場合、前記基板に固定された前記金属微粒子を粒子成長溶液と接触させることによって前記金属微粒子の粒径を、50nm~100nmに増大させる粒径増大工程を更に備えることを特徴とする請求項8又は9に記載のセンサチップ製造方法。
【請求項11】
前記第1の膜は前記センサ領域を複数有しており、
前記粒子固定工程では、前記各センサ領域上に前記金属微粒子を前記所定の粒子密度で固定し、
前記ブロック剤固定工程では、前記各センサ領域上に前記ブロック剤を固定することを特徴とする請求項8~10の何れか一項に記載のセンサチップ製造方法。
【請求項12】
前記所定の粒子密度は、30~60個/μmであることを特徴とする請求項8~11の何れか一項に記載のセンサチップ製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、センサチップ及びセンサチップ製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子と光との共鳴現象の一つであるプラズモン共鳴を利用して金属微粒子周囲の屈折率変化を測定するセンサーが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、特許文献1のように、プラズモン共鳴を利用して金属微粒子周囲の屈折率変化を検出可能な原理について説明する。金ナノ粒子や銀ナノ粒子等の金属微粒子に光を照射すると、所定の共鳴波長において共鳴現象の一つであるプラズモン共鳴が生じる。その結果、光が照射された金属微粒子による散乱や吸収が増大するため、金属微粒子と相互作用した光を検出した際に、そのスペクトルに共鳴ピークが現出する。この共鳴ピークを生じせしめる共鳴波長は、金属微粒子周囲の屈折率に依存しているため、共鳴ピークのシフトを検出することで、金属微粒子周囲の屈折率変化を検出できることになる。
【0004】
上記特許文献1に記載の局在プラズモン共鳴センサー(センサチップ)では、ガラス基板の表面上に金属微粒子としての金ナノ粒子が複数固定されて構成されており、ガラス基板の裏面側から光を照射し、その透過光を検出することによって共鳴ピークを取得する。そして、共鳴ピークの変化から金属微粒子周囲の屈折率変化を検出している。
【0005】
このようなセンサチップは、例えば、次のようにしてDNAやタンパク質等の被検体を検出するセンサチップとして利用される。すなわち、金属微粒子に被検体と特異的に結合するプローブ分子を固定しておき、試料液を送液すると、試料液に被検体が含まれていれば、プローブ分子に結合した被検体の影響で金属微粒子近傍の屈折率が変化して共鳴波長がシフトする。そのため、試料液の送液前後での共鳴ピークの変化を検出すれば、被検体を検出できることになり、DNAやタンパク質等の被検体を検出するセンサチップとして利用できることになる。

【特許文献1】特開2000—356587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような金属微粒子と光との共鳴現象を利用する方法では、ガラス基板上に固定する複数の金属微粒子のうち隣接する金属微粒子同士が会合すると、金属微粒子と光との共鳴現象を検出するために検出する金属微粒子と相互作用した光のスペクトルが歪み、結果として、検出感度が低下する恐れがある。
【0007】
そこで、本発明は、金属微粒子周囲の屈折率変化を高感度で検出可能なセンサチップ及びセンサチップの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るセンサチップは、金属微粒子と光との共鳴現象を利用して金属微粒子周囲の屈折率変化を検出するためのセンサチップであって、基板と、基板上に形成されると共に、金属微粒子を固定するための第1の膜と、第1の膜のセンサ領域上に固定される複数の金属微粒子と、第1の膜上に固定されると共に、複数の金属微粒子のうち隣接する金属微粒子間に配置されるブロック剤と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記構成のセンサチップでは、センサ領域上において隣接する金属微粒子間にブロック剤が固定されているため、隣接する金属微粒子間の会合が抑制される。その結果、金属微粒子に光を照射して上記共鳴現象を利用して金属微粒子周囲の屈折率変化を検出する際、金属微粒子と相互作用した光のスペクトルの歪みが抑制され、金属微粒子周囲の屈折率変化を高い感度で検出することができることになる。そのため、金属微粒子に例えば被検体と特異に結合するプローブ分子を固定させておくことによって特定の被検体を高感度で検出可能である。
【0010】
なお、上記基板としては、金属微粒子に共鳴現象を生じせしめる波長を含む波長帯域の光に対して透明であるものが考えられ、ガラス基板が例示される。
【0011】
また、本発明に係るセンサチップでは、第1の膜はシラン化合物から形成されており、ブロック剤はカルボキシル基を有する化合物であることが好ましい。
【0012】
シラン化合物はアミノ基を有しており、カルボキシル基とアミド結合を形成する。そのため、カルボキシル基を有するブロック剤を確実に第1の膜に固定することができることから、金属微粒子間の会合が抑制される。その結果、前述したように、金属微粒子周囲の屈折率変化を感度よく検出できる。
【0013】
この場合、上記ブロック剤は、グリコール酸、酢酸ナトリウム、16-ヒドロキシヘキサデカン酸及びポリエチレングリコールの何れか一つから形成されていることが好適である。これらは、末端にカルボキシル基を有するため、確実に第1の膜にブロック剤が固定される。
【0014】
更にまた、本発明に係るセンサチップでは、金属微粒子の表面上に形成されると共に、被検体を固定するための第2の膜を更に備えることが好ましい。これにより、第2の膜を利用して金属微粒子近傍に被検体を固定できる。そのため、被検体の固定による金属微粒子周囲の屈折率変化を高感度で検出でき、結果として、被検体を高感度で検出可能である。
【0015】
上記第2の膜は、メルカプトウンデカン酸から形成されている、とすることが可能である。
【0016】
更に、本発明に係るセンサチップでは、第1の膜上にセンサ領域を複数有し、各センサ領域上に上記金属微粒子及びブロック剤が固定されていることが好ましい。この場合、センサチップが、金属微粒子及びブロック剤が固定されるセンサ領域を複数有している。そのため、各センサ領域上の金属微粒子に例えば種々の被検体に対してそれぞれ特異に結合するプローブ分子を固定させておくことによって各センサ領域で異なる被検体を検出可能であり、結果として、センサチップで一度に複数の被検体を検出可能である。
【0017】
更にまた、本発明に係るセンサチップでは、金属微粒子の粒径は50nm~100nmであることが好適である。
【0018】
また、本発明に係るセンサチップ製造方法では、金属微粒子と光との共鳴現象を利用して金属微粒子周囲の屈折率変化を検出するためのセンサチップを製造する方法であって、(1)基板上に形成されており金属微粒子を固定するための第1の膜のセンサ領域と、金属微粒子を含む金属微粒子溶液とを接触させることによってセンサ領域に金属微粒子を所定の粒子密度で固定する粒子固定工程と、(2)金属微粒子が固定されたセンサ領域とブロック剤導入溶液とを接触させることで、センサ領域にブロック剤を固定するブロック剤固定工程と、を備えることを特徴とする。
【0019】
この方法で製造されたセンサチップでは、金属微粒子溶液を利用して所定の粒子密度で金属微粒子が固定されているセンサ領域上にブロック剤を固定するため、センサ領域上において金属微粒子が固定されていない部分にブロック剤が固定される。これによって、隣接する金属微粒子間にブロック剤が配置されることになる。その結果、金属微粒子に光を照射して上記共鳴現象を利用して金属微粒子周囲の屈折率変化を検出する際、金属微粒子と相互作用した光のスペクトルの歪みが抑制され、金属微粒子周囲の屈折率変化を高い感度で検出することができることになる。そのため、金属微粒子に例えば被検体と特異に結合するプローブ分子を固定させておくことによって特定の被検体を高感度で検出可能である。
【0020】
更に、本発明に係るセンサチップ製造方法では、第1の膜はシラン化合物から形成されており、ブロック剤はカルボキシル基を有する化合物であることが好ましい。
【0021】
シラン化合物はアミノ基を有しており、カルボキシル基とアミド結合を形成する。そのため、カルボキシル基を有するブロック剤を確実に第1の膜に固定することができ、金属微粒子間の会合が抑制される。その結果、前述したように、金属微粒子周囲の屈折率変化を感度よく検出できる。
【0022】
この場合、上記ブロック剤は、グリコール酸、酢酸ナトリウム、16-ヒドロキシヘキサデカン酸及びポリエチレングリコールの何れか一つからなることが好適である。これらは、末端にカルボキシル基を有するため、確実に第1の膜にブロック剤が固定される。
【0023】
また、本発明に係るセンサチップ製造方法では、被検体を固定するための第2の膜を、金属微粒子が固定されたセンサ領域と第2の膜形成溶液とを接触させることによって、金属微粒子の表面上に形成する膜形成工程を更に備えることが好適である。これにより、第2の膜を利用して金属微粒子近傍に被検体を固定することが可能である。そのため、被検体の固定による金属微粒子周囲の屈折率変化を高感度で検出でき、結果として、被検体を高感度で検出可能である。
【0024】
上記第2の膜は、メルカプトウンデカン酸から形成されている、とすることができる。
【0025】
更に、本発明に係るセンサチップ製造方法では、基板に固定された金属微粒子の粒径が50nm未満の場合、基板に固定された金属微粒子を粒子成長溶液と接触させることによって金属微粒子の粒径を50nm~100nmに増大させる粒径増大工程を更に備えることが好ましい。
【0026】
粒径増大工程により50nm未満の粒径を上記範囲に増大させることで、金属微粒子と光との共鳴現象をより効率的に生じさせるため、金属微粒子周囲の屈折率変化をより高感度で検出できる。なお、この粒径増大工程は、金属微粒子の粒径を確実に増大させる観点から、ブロック剤導入工程の前に実施されることが好ましい。
【0027】
更にまた、本発明に係るセンサチップ製造方法では、第1の膜はセンサ領域を複数有しており、粒子固定工程では、各センサ領域上に前記金属微粒子を所定の粒子密度で固定し、ブロック剤固定工程では、各センサ領域上にブロック剤を固定することとが好適である。
【0028】
この場合、各センサ領域上に、金属微粒子及びブロック剤が固定されることになる。そして、センサチップがセンサ領域を複数有することで、各センサ領域で異なる被検体を検出可能であるため、センサチップで一度に複数の被検体を検出可能である。各センサ領域上の金属微粒子に例えば種々の被検体に対してそれぞれ特異に結合するプローブ分子を固定させておくことによって各センサ領域で異なる被検体を検出可能であり、結果として、センサチップで一度に複数の被検体を検出可能である。
【0029】
上記所定の粒子密度としては、30~60個/μmとすることが好適である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によるセンサチップ及びセンサチップ製造方法によれば、金属微粒子周囲の屈折率変化を高感度で検出可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明に係るセンサチップ及びセンサチップ製造方法の実施形態について説明する。以下の説明において、同一の要素には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致していない。
【0032】
図1は、本発明に係るセンサチップの一実施形態の断面構成を示す模式図である。センサチップ10Aは、金属微粒子としての金ナノ粒子14と光との共鳴現象の一つであるプラズモン共鳴による共鳴散乱を利用して後述する被検体20(図5参照)を検出するためのセンサ素子である。なお、被検体20としてはDNAやタンパク質が例示される。
【0033】
センサチップ10Aは、シラン処理されてアミノプロピルシラン(シラン化合物)からなるアミノシラン膜(第1の膜)12が表面11aに形成されたガラス基板11を有する。ガラス基板11の大きさは、表面11a側からみたときに18mm×18mm程度が例示される。アミノシラン膜12のセンサ領域13上には、金ナノ粒子14が例えば30~60個/μmの粒子密度で固定されている。ここで、センサ領域13とは、アミノシラン膜12において複数の金ナノ粒子14からなる金ナノ粒子群が固定され、被検体20を検出するために利用される領域である。言い換えれば、金ナノ粒子群が固定された領域がセンサ領域13となる。図1に示したセンサチップ10Aでは、アミノシラン膜12の表面12a全面がセンサ領域13として機能している。金ナノ粒子14の粒径(直径)d1は、金ナノ粒子14に光が照射された際の散乱光の強度を高くする観点から50nm~100nmが好ましい。この金ナノ粒子14の表面上には、11-メルカプトウンデカン酸(MUA:11-mercaptoundecanoic acid)からなる自己組織化膜(第2の膜)15が形成されている。以下では、自己組織化膜15をMUA膜15とも称す。
【0034】
図1に示すように、センサチップ10Aでは、アミノシラン膜12のセンサ領域13内において金ナノ粒子14が吸着していない部分の少なくとも一部に、ブロック剤16としてのポリエチレングリコール(PEG:polyethyleneglycohol)が固定されている。これにより、隣接する金ナノ粒子14間にブロック剤16が配置されることになる。ブロック剤16は、カルボキシル基(COOH基)を末端に有する化合物であればよく、PEGの他、グリコール酸、酢酸ナトリウム、16-ヒドロキシヘキサデカン酸等が例示される。以下の説明では、特に断らない限りブロック剤16はPEGとする。
【0035】
次に、図2~図4を利用して、センサチップ10Aを製造する方法について説明する。図2に示すように、センサチップ10Aの製造工程は、シラン処理工程S1と、粒子固定工程S2と、ブロック剤導入工程S3、粒径増大工程S4と、MUA膜形成工程(膜形成工程)S5とを有する。なお、図2では、次に説明する各工程の主要な処理を具体例を挙げて示している。
【0036】
各工程について、具体的な濃度等の数値、溶液名及び各処理時間等を一例として挙げながら説明する。図3及び図4は、センサチップの製造方法の各工程を示す概略図である。なお、図4(c)は、後述するMUAの化学式を示している。また、センサ領域13は、前述したようにアミノシラン膜12の表面全面としている。
【0037】
シラン処理工程S1では、洗浄したガラス基板11を5%の3-アミノプロピルトリメキシシラン(APTMS:3-aminopropyltrimethoxysilane)トルエン溶液に5分間浸漬する。これにより、図3(a)に示すように、ガラス基板11の表面上にアミノシラン膜12が形成されることになる。次いで、アミノシラン膜12が形成されたガラス基板11をエタノールで6回、純水で3回超音波洗浄する。
【0038】
粒子固定工程S2では、アミノシラン膜12上に所定の粒子密度で金ナノ粒子14を固定する。アミノシラン膜12が形成されたガラス基板11を、濃度10nMの金ナノ粒子溶液に約2時間浸漬する。金ナノ粒子溶液中の金ナノ粒子14の粒径d2は約50nm未満である。これにより、図3(b)に示すように、アミノシラン膜12の吸着サイトの一部に粒径d2が約50nm未満の金ナノ粒子14が固定されることになる。
【0039】
上記金ナノ粒子溶液は、例えばクエン酸還元法により合成したものを利用すればよく、具体的には次のようにして準備する。すなわち、約1mMテトラクロロ金(III)酸四水和物水溶液を、ホットプレート等で加熱しながら攪拌を行う。十分に沸騰してから約10mMクエン酸三ナトリウム水溶液を加えてから十分加熱攪拌し、常温まで冷却した後、0.20μmの細孔を持つメンブレンフィルターでろ過している金ナノ粒子溶液とする。
【0040】
また、金ナノ粒子14の粒子密度は、金ナノ粒子溶液の濃度と浸漬時間の少なくとも一方を調整することで制御でき、上記条件で粒子密度30~60個/μmとなる。なお、ここでは、所定の粒子密度を粒子密度30~60個/μmとしているが、所定の粒子密度は、アミノシラン膜12が有する全吸着サイトに金ナノ粒子14が固定されない粒子密度であればよい。
【0041】
粒径増大工程S4では、金ナノ粒子14及びブロック剤16が固定されたガラス基板11を、0.4mM塩酸ヒドロキシルアミン溶液と0.24mMテトラクロロ金(III)酸四水和物溶液との混合液である粒子成長溶液に5回浸漬する。これにより、図3(c)に示すように、金ナノ粒子14の粒径が増大し、60nm~70nmの粒径d1に調整できる。図3(c)においては、説明のために、粒径が増大する前の金ナノ粒子を破線で示している。なお、浸漬毎に粒子成長溶液は新しくする。また、浸漬回数を多くすることで粒径を大きくできる。そのため、ここでは浸漬回数は5回としたが、浸漬回数は所望の粒径に応じて決定すればよく、予め粒径と浸漬回数との関係を求めておけばよい。粒径は50nm~100nmとすることが好ましい。
【0042】
ブロック剤導入工程S4では、20mg/mlのEDAC、20mg/mlのCOOH基を持つPEG(分子量2000)16を0.1MのMES buffered Salineに溶解して得られる溶液(以下、「ブロック剤導入溶液」と称す)に金ナノ粒子14を固定したガラス基板11を約30分浸漬する。これにより、図4(a)に示すように、アミノシラン膜12上において金ナノ粒子14の固定されていない吸着サイトの少なくとも一部にPEG16が吸着する。なお、上記EDACとは、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide,hydrochloride)であり、MESとは、2-モルホリノエタンスルホン酸一水和物(2-morpholinoethanesulfonic acid,monohydrate)である。また、0.1MのMES buffered Salineは、0.1MのMESと0.9%(w/v)の塩化ナトリウムを溶解させてpHを4.5~5とした溶液である。
【0043】
MUA膜形成工程S5では、ブロック剤16及び金ナノ粒子14が固定されたガラス基板11をエタノールに1,2分間程度浸漬した後に取り出して、MUAをエタノールに溶解することによって作製される10mMのMUAエタノール溶液(第2の膜形成溶液)に約10分間浸漬する。次に、余剰のMUAを除去するために再度エタノールに20分浸漬した後に取り出して、ガラス基板11を純水へ1分間程度浸漬してから取り出して更に純水で洗浄する。これにより、図4(b)に示すように、金ナノ粒子14の表面にMUA膜15が形成され、センサチップ10Aが得られることになる。なお、図4(b)では、図4(c)に示すようにMUAをその末端のカルボキシル基で簡略的に示している。なお、図10及び図11でも同様としている。
【0044】
なお、上記製造方法では、ブロック剤導入工程S4の前に粒径増大工程S3を実施しているため、確実に金ナノ粒子14の粒径を増大させることができる。ただし、粒径増大工程S3は、ブロック剤導入工程S4の後に実施してもよい。
【0045】
次に、センサチップ10Aを利用して被検体20を検出する方法について図5を利用して説明する。図5は被検体を検出する工程の概念図である。
【0046】
先ず、センサチップ10A上に被検体20と特異的に結合するプローブ分子(結合体)21を含むプローブ分子導入溶液をセンサチップ10A上に流すことによって、図5に示すように、プローブ分子21をMUA膜15上に固定する。この際、ガラス基板11の裏面11b側から所定の波長帯域の光を金ナノ粒子14に対して照射しておき、金ナノ粒子14の散乱光を検出する。
【0047】
金ナノ粒子14に光を照射すると、所定の共鳴波長において共鳴現象の一つであるプラズモン共鳴が生じる。その結果、光が照射された金ナノ粒子14による散乱光の強度が増大する。従って、散乱光のスペクトル(以下、「散乱スペクトル」と称す)は共鳴ピークを有することになる。この共鳴ピークを生じせしめる波長である共鳴散乱波長は、金ナノ粒子14近傍の屈折率に依存している。
【0048】
次に、検査すべき試料液をセンサチップ10A上に流す。試料液に被検体20が含まれていると、図5に示すように、その被検体20がプローブ分子21に特異的に結合する。被検体20の結合により金ナノ粒子14近傍の屈折率が変化するため、共鳴散乱波長がシフトし、共鳴ピークの位置が変化する。従って、共鳴散乱波長の変化により試料溶液に被検体20が含まれているか否かを検出することができる。共鳴ピークの変化の有無は、プローブ分子21を固定した段階での共鳴散乱波長の散乱光強度の変化によって検出してもよいし、散乱光の散乱スペクトルを取得することによって、共鳴ピークのシフトを検出してもよい。
【0049】
上述したプローブ剤導入溶液及び試料液のセンサチップ10A上への送液は、図6及び図7に示すフローセル30を利用して実施することが可能である。図6は、フローセルの構成を概略的に示す構成図であり、センサチップ10Aをセットした状態の図を示している。図7は、図6のVII—VII線に沿った断面図である。
【0050】
フローセル30は、図6及び図7に示すように、カバー部31がセル本体部33にネジ等により固定されて構成されている。カバー部31の中央部には、センサチップ10Aに光を照射するための開口部32が形成されており、開口部32のうちセル本体部33側の縁部は、センサチップ10Aをセット可能に構成されている。また、セル本体部33のうち開口部32と対向する領域には凹部34が形成されている。凹部34の底面には、試料液をフローセル30内部に導入するための送液口35と、試料液をフローセル30外部に排出するための排出口36とが形成されており、送液口35と排出口36には、図6に示すような送液管41と排出管42とが接続されるようになっている。
【0051】
フローセル30内にセンサチップ10Aをセットする際には、ガラス基板11の裏面11bがカバー部31側になるように開口部32にセットし、センサチップ10A上にOリング37を配置した後に、カバー部31とセル本体部33とをネジ止めする。これにより、センサチップ10AとOリング37と凹部34の底面とで囲まれた領域内に試料液を送液するための送液空間38が形成されることになる。この送液空間38の容量としては、約180μlが例示される。
【0052】
ここで、このフローセル30を利用して被検体を検出するためのイメージング装置50について図8を利用して説明する。図8では、送液管41と排出管42の表示は省略し、また、フローセル30の表示も簡略化している。
【0053】
イメージング装置50では、白色光源51から出力された白色光をコリメータ光学系52で平行光にした後、干渉フィルタ53を通して所定の波長帯域の光とする。干渉フィルタ53としては、金ナノ粒子14の共鳴散乱を生じせしめる共鳴散乱波長を含む500~800nm範囲のうちの50nm以内の狭帯域の光を通すものが例示される。干渉フィルタ53を通過した平行光は、開口部32を通ってセンサチップ10Aに対して斜めからセンサチップ10Aに照射される。光が照射されたガラス基板11上の金ナノ粒子14で散乱された散乱光は、ビデオカメラレンズ54を通してCCDカメラ55で検出され、その検出データが解析装置としてのパーソナルコンピュータ(PC)56に入力される。なお、図8中のハッチング部は、散乱光を示すためのものである。
【0054】
このイメージング装置50では、いわゆる撮像装置としてのCCDカメラ55を利用しているため、センサチップ10Aの画像を取得できることになる。また、イメージング装置50では、干渉フィルタ53を通して金ナノ粒子14の共鳴散乱波長を含む50nm程度の狭帯域な波長幅を有する光が照射されているので、CCDカメラ55の受光セルで検出される散乱光強度の変化によって、金ナノ粒子14近傍の屈折率変化を検出できることになる。
【0055】
上記イメージング装置50において、散乱光強度の変化によって金ナノ粒子14近傍の屈折率変化を測定できることを図9を利用して説明する。図9は、イメージング装置における散乱光強度の測定結果の一例を示す図である。この測定では、図2を利用して具体的な濃度や溶液名等を挙げて説明したセンサチップ製造方法によって製造されたセンサチップ10Aを利用している。そして、そのセンサチップ10Aをフローセル30にセットし、屈折率1.33の水と屈折率1.36のエタノールを交互にフローセル30内に流しながら散乱光の強度を測定している。センサチップ10Aに照射する光の波長帯域は、600~650nmとしている。図9において横軸は時間(秒)を示し縦軸は散乱光強度(a.u.)を示している。また、図中の領域I,III,Vは、水を送液している時の散乱光の強度を示しており、領域II,IVは、エタノールを送液しているときの散乱光の強度を示している。図9から理解されるように、金ナノ粒子14周囲の媒質が水とエタノールとでは散乱光強度が明らかに相違しており、上記イメージング装置50で確実に金ナノ粒子14近傍の屈折率変化を検出できることがわかる。
【0056】
また、イメージング装置50では、フローセル30を利用しているので、試料液等を送液しながら測定できるため、種々の試料液を連続的に検査することが可能である。また、フローセル30の送液空間38の容量が例えば180μlとすることが可能であるため、微量な試料液を検査することも可能である。
【0057】
次に、イメージング装置50を利用して被検体を検出する方法について、プローブ分子、被検体及び溶液濃度等を例示しながら具体的に説明する。
【0058】
先ず、イメージング装置50において、フローセル30内にガラス基板11をセットした後、白色光源51から白色光を出力させて、ガラス基板11上の金ナノ粒子14からの散乱光をCCDカメラ55で検出するようにしておく。次に、1mMの(+)-Biotinyl-3,6-dioxaoctanediamine(以下、単に「ビオチン」と称す)と0.1MのWSCを含むプローブ分子導入溶液を送液管41を通してフローセル30内に送液する。これにより、図10に示すように、MUA膜15上に、プローブ分子21としてのビオチンが固定される。そのため、金ナノ粒子14近傍の屈折率が変化し、共鳴散乱波長がシフトする。このように、共鳴散乱波長がシフトすることで、CCDカメラ55で検出される散乱光の強度が変化することになる。
【0059】
次に、被検体20としての1.6nMのStreptavidin(以下、単に「ストレプトアビジン」と称す)を含むPhosphate Buffered Saline(PBS)溶液を試料液として送液管41を通してフローセル30内に送液する。ストレプトアビジンは、ビオチンと強い相互作用を有するため、ビオチンに特異的に結合される。その結果、金ナノ粒子14近傍の屈折率が変化し、プローブ分子21が固定された場合と同様の理由により、散乱光の強度が更に変化することになる。従って、イメージング装置50では、CCDカメラ55で検出される散乱光の強度の変化によって、金ナノ粒子14周囲の屈折率変化を検出することで、被検体20を検出できることになる。
【0060】
次に、センサチップ10A及びセンサチップ10Aの製造方法の効果について説明する。
【0061】
センサチップ10Aでは、アミノシラン膜12上に金ナノ粒子14を固定した後に、金ナノ粒子14が吸着していない空の吸着サイトをブロック剤16としてのPEGを吸着させることでブロックしているため、試料液をセンサチップ10A上に送液した際、被検体20がアミノシラン膜12上に固定されることが抑制されている。その結果、MUA膜15及びプローブ分子によって金ナノ粒子14近傍に配置される被検体20を効率良く検出することが可能である。
【0062】
また、金ナノ粒子14を固定した後、MUA膜15を形成する前に、ブロック剤導入溶液にガラス基板11を浸漬させているため、センサ領域13上の吸着サイトにおいて、金ナノ粒子14が吸着していない部分にブロック剤16が固定される。そのため、隣接する金ナノ粒子14間にブロック剤16が配置されることになる。これによって、MUA膜15を形成するために、MUA膜15を形成するための所定の溶液とガラス基板11とを接触させても隣接する金ナノ粒子14同士が会合することが抑制されている。
【0063】
ブロック剤16を設けることによって金ナノ粒子14同士の会合が抑制される効果について、ブロック剤16を設けないのセンサチップの場合と対比して具体的に説明する。
【0064】
ブロック剤16を設けていない場合には、MUA膜15を形成する際等に、溶液の流れ等により金ナノ粒子14同士が会合するため、散乱光の散乱スペクトルに歪が生じる。このように歪が生じると、共鳴ピーク近傍での散乱光強度の変化又は散乱スペクトルを正確に取得できないため、結果として、被検体20を検出するときの検出感度が低下することになる。
【0065】
これに対して、ブロック剤16を設けている本実施形態のセンサチップ10Aでは、ブロック剤16によって金ナノ粒子14同士の会合が抑制されているため、散乱光のスペクトルに歪は生じていない。そのため、共鳴ピーク近傍での散乱光強度の変化又は散乱スペクトルをより正確に取得することができるため、被検体20を高感度で検出可能である。
【0066】
隣接する金ナノ粒子14間に確実にブロック剤16を配置する観点から、センサ領域13における金ナノ粒子14の粒子密度は、前述したように、30~60個/μmとすることが好適である。粒子密度が30個より少ないと被検体20を検出するために必要な散乱光を十分得られない一方、粒子密度が60個より多いと金ナノ粒子14を固定した段階で、金ナノ粒子14同士の会合が生じやすくなるからである。そして、上記範囲の粒子密度によって被検体20を検出するために十分な散乱光を生じせしめながら、金ナノ粒子14の会合を抑制できる。その結果、被検体20をより一層高感度で検出することが可能である。
【0067】
ここで、ブロック剤16として、PEG、グリコール酸、酢酸ナトリウム、16-ヒドロキシヘキサデカン酸のように、カルボキシル基を有するものであることが好ましいことについて図12~図15を利用して説明する。
【0068】
図12は、ブロック剤16としてPEGを利用する場合のガラス基板11の吸収スペクトルを示す図である。図13は、ブロック剤16としてグリコール酸を利用する場合のガラス基板11の吸収スペクトルを示す図である。図14は、ブロック剤16として酢酸ナトリウムを利用する場合のガラス基板11の吸収スペクトルを示す図である。図15は、ブロック剤16として16—ヒドロキシヘキサンデカン酸を利用する場合のガラス基板11の吸収スペクトルを示す図である。図12~図15では、金ナノ粒子14を固定化した後の吸収スペクトル、ブロック剤16導入後の吸収スペクトル、MUA膜15形成後の吸収スペクトルをそれぞれ示している。各吸収スペクトルは、図2に示すフローチャートにおいて、粒径増大工程S3、ブロック剤導入工程S4、MUA膜形成工程S5後に吸光度計を利用して測定している。
【0069】
図12におけるブロック剤16の固定化方法は前述した通りである。図13~図15におけるブロック剤16の固定化方法は、ブロック剤導入工程S4において、20mg/mlのPEGの代わりに、それぞれ3.8mg/mlのグリコール酸、4.1mg/mlの酢酸ナトリウム、2.7mg/mlの16-ヒドロキシヘキサデカン酸を溶解している点で相違する以外は、PEGの場合と同様である。
【0070】
図12~図15に示すように、上記ブロック剤16を使用することによって、各吸収スペクトルに歪みがみえず、金ナノ粒子14の会合が抑制されていることがわかる。PEG、グリコール酸、酢酸ナトリウム、16-ヒドロキシヘキサデカン酸等がカルボキシル基を有することによる。すなわち、アミノシラン膜12は、金ナノ粒子14の吸着サイトとしてアミノ基を有しているが、上記のようにカルボキシル基を有する化合物をブロック剤16とすることによって、金ナノ粒子14を固定化した後の空の吸着サイトを、アミド結合を形成させて塞ぐことができる。その結果、例えば、MUA膜15を形成する際などにおいても、隣接する金ナノ粒子14の会合を確実に抑制することができる。よって、ブロック剤16としては、カルボキシル基を有する化合物であればよく、PEGの他、例えば、上記のように、グリコール酸、酢酸ナトリウム、16-ヒドロキシヘキサデカン酸を利用することが可能である。なお、センサチップ10Aを利用してタンパク質を検出する場合には、ブロック剤16へのタンパク質の非特異吸着を抑制するPEG誘導体を利用することが好ましい。
【0071】
また、金ナノ粒子14の粒径は50nm~100nmであることが好ましい。図16は、金ナノ粒子14周囲の媒質の屈折率を1.35としてMie散乱理論を利用して計算された金ナノ粒子14の散乱スペクトルを示す図である。図16において横軸は波長(nm)を示し、縦軸は散乱断面積を示している。金ナノ粒子14の粒径は、30nm、50nm、80nm、100nm、120nm、150nm、180nm、200nmとして計算を行っている。図16に示すように、金ナノ粒子14の粒径が50nm以上で共鳴ピークが生じていることが分かる。また、粒径が150nmを超えると散乱スペクトルが歪だすことが分かる。
【0072】
また、図17は、散乱光強度の屈折率依存性を示す図である。図17において横軸は屈折率を示し、縦軸は散乱断面積を示している。屈折率依存性は、図16に示した散乱スペクトルを微分した際の長波長側のピーク位置を基準、より具体的には、散乱スペクトルの共鳴ピークに対して長波長側における散乱スペクトルの勾配の最大値を持つ波長位置を基準にして取得している。各粒径において、散乱断面積(散乱光強度)は屈折率に対してほぼ直線状になっており、この直線の傾きがセンサチップ10Aのセンサとしての感度に対応する。センサチップ10Aの感度は、金ナノ粒子14の粒径が80nm程度からほぼ一定となり、100nmより大きいものに対してはほとんど変化していない。
【0073】
図16及び図17より、粒径が大きい方がより大きな散乱断面積が得られることになるが、粒径が100nmより大きくしてもセンサの感度の向上はあまり望めないことがわかる。よって、共鳴散乱現象を利用して被検体20を検出する際には、金ナノ粒子14の粒径は50nm~100nmが好ましい。金ナノ粒子14を、例えば、前述したようにクエン酸還元法等を利用して合成する場合には、一度の合成プロセスで30nm程度の粒径が得られる一方、50nm以上の粒径を得ることは困難である。そのため、図2を利用して説明したように、例えば、50nm以上の粒径の金ナノ粒子14を得るためには、金ナノ粒子14をガラス基板11に固定した後に粒径を増大させる必要がある。そして、粒径の増大は、粒子成長溶液に複数回浸漬させて実施することになる。上記粒径の範囲で示したように、センサ感度を考慮して、粒径を100nm以下とすることで、ガラス基板11を粒子成長溶液への浸漬回数を低減できるため、被検体20の検出感度の高感度化を図りながら、効率的にセンサチップ10Aを製造可能である。
【0074】
また、センサチップ10Aを利用した被検体20の検出では、プラズモン共鳴による散乱光の強度変化(又は散乱スペクトルの共鳴ピーク位置の変化)を利用しているため、例えば、表面プラズモン共鳴を利用する場合に比べて高感度に被検体20を検出可能である。更に、いわゆる蛍光法のように、被検体20に蛍光プローブをラベル化しなくてもよいことから、試料液中の被検体20の有無の検査を実施するための検査コストを低減することができる。また、蛍光法のように、被検体20の検出するための前段階の準備工程として、蛍光プローブをラベル化する工程を有しないため、より簡易な準備で被検体20を検出可能である。
【0075】
図18は、本発明に係るセンサチップの他の実施形態の平面図である。図19は、図18のXIX-XIX線に沿った断面構成を示す模式図である。
【0076】
図18及び図19に示すセンサチップ10Bは、いわゆるマイクロアレイである。センサチップ10Bの構成は、ガラス基板11の表面に形成されたアミノシラン膜12上にセンサ領域13を複数(図19では、6個)有する点で、図1に示したセンサチップ10Aの構成と主に相違する。なお、図19では、各センサ領域13上の構成を簡略化して記載しているが、各センサ領域13上の構成は、図1に示したセンサチップ10Aのセンサ領域13上の構成と同様である。すなわち、金ナノ粒子14が所定の粒子密度で固定されており、金ナノ粒子14が吸着していない吸着サイトは、ブロック剤16でふさがれている。そして、金ナノ粒子14の表面には、MUA膜15(図19では不図示)が形成されている。なお、ガラス基板11の表面11a側からみた場合のガラス基板11の大きさが例えば18mm×18mmである場合であって、図18に示すように、センサ領域13が円形の場合には、センサ領域13の直径d3としては約500μmが例示される。
【0077】
センサチップ10Aの製造方法は、図2に示した粒子固定工程S2において、ガラス基板11を濃度10nMの金ナノ粒子溶液に浸漬させる代わりに、各センサ領域13に上記金ナノ粒子溶液を、例えばピペットを使用して滴下することによって、各センサ領域13に金ナノ粒子14を固定する。また、粒径増大工程S3においても同様に、ブロック剤16が固定された各センサ領域13上に粒子成長溶液を、例えばピペットを使用して滴下することによって、各センサ領域13上の金ナノ粒子14の粒径を増大させる。更に、ブロック剤導入工程S4においても同様に、各センサ領域13に上記ブロック剤導入溶液を、例えばピペットを使用して滴下することによって、各センサ領域13内において金ナノ粒子14が固定されていない部分にブロック剤16を固定する。更に、MUA膜形成工程S5においても同様に、各センサ領域13上にMUAエタノール溶液を滴下することで、各センサ領域13における金ナノ粒子14表面にMUA膜15を形成する。なお、粒子固定工程S2、粒径増大工程S3、ブロック剤導入工程S4、MUA膜形成工程S5におけるガラス基板11の洗浄方法等は、図2に示したセンサチップ10Aの製造方法の場合と同様であるため説明を省略している。
【0078】
センサチップ10Aを利用して被検体20を検出する場合には、先ず、複数のセンサ領域13上に、プローブ分子導入溶液をピペット等を利用して滴下させて各センサ領域13のMUA膜15上にプローブ分子21を固定させる。この際、センサ領域13毎に異なるプローブ分子導入溶液を滴下することによって、センサ領域13毎に異なるプローブ分子21を固定する。
【0079】
次いで、プローブ分子21が固定されたセンサチップ10Bをフローセル30にセットし、図8に示したイメージング装置50で、センサチップ10Aの場合と同様にして、散乱光を検出すると共に、センサチップ10Bの画像を取得する。そして、送液管41及び排出管42を利用してフローセル30内に検査するべき試料液を送液する。試料液内に、各センサ領域13に固定されたプローブ分子と特異的に結合する被検体20がそれぞれ含有されていれば、被検体20が対応するプローブ分子21に結合する。その結果、被検体20がプローブ分子21に結合したセンサ領域13での散乱強度が変化することになる。各センサ領域13に固定されたプローブ分子21及びそれに対応する被検体20は既知であるため、試料液中に含まれている被検体20が確実に検出される。この場合、センサチップ10B上に複数のセンサ領域13が設けられていることから、一度の測定で、複数の被検体20を検出できることになる。その結果、効率的に試料液の検査を実施できる。
【0080】
以上、本発明に係るセンサチップ及びセンサチップ製造方法の好適な実施形態について説明したが、本発明に係るセンサチップ及びセンサチップ製造方法は上記実施形態に限定されない。例えば、センサチップ10AはMUA膜を有するとしたが、図20に示すようにMUA膜を有しないセンサチップ10Cとすることも可能である。なお、図20では、センサ領域13が1つの場合のみ示しているが、センサ領域13を複数有する場合も同様である。図20に示したセンサチップ10Aを利用して被検体20を検出する場合には、センサチップ10Cをフローセル30にセットした後、プローブ分子導入溶液を送液する前に、MUAエタノール溶液をフローセル30に送液して金ナノ粒子14の表面上にMUA膜15を形成した後、前述したように、センサチップ10Aの場合と同様にして、プローブ分子導入溶液及び試料液を順に送液すればよい。ただし、センサチップ10Cが、センサ領域13を複数有しており、センサ領域13毎に異なる被検体20を検出する場合には、フローセル30を利用して各センサ領域13にMUA膜15を形成した後、一度フローセル30からセンサチップ10Cを取り出して各センサ領域13に異なるプローブ分子導入溶液を滴下した後、再度フローセル30にセットして試料液を送液して、被検体20を検出すればよい。
【0081】
更に、金属微粒子14は金ナノ粒子14としたが、光と共鳴現象を生じせしめるものであれば特に限定されず、例えば、銀からなる微粒子を利用することも可能である。また、第1の膜12は、シラン化合物からなるアミノシラン膜12としたが金属微粒子を吸着させることが可能であればよく、ブロック剤16も、カルボキシル基を有する化合物としたが、隣接する金属微粒子14同士の会合を抑制可能であって第1の膜12に固定できるものであれば特に限定されない。例えば、第1の膜が末端にチオール基を有する化合物から形成されている場合には、ブロック剤16として、チオール基を有する化合物、又はマレイミド基を有する化合物を利用することも可能である。更に、第2の膜15はMUA膜15としたが、金属微粒子14表面に形成可能であり被検体20をプローブ分子21等を介して固定可能なものであれば、特に限定されず、例えば、メルカプトプロピオン酸を利用することも可能である。更にまた、基板11はガラス基板11としたが、金属微粒子の共鳴波長を含む波長帯域の光を透過できるものであれば特に限定されない。
【0082】
また、センサチップ10A~10Cを利用した被検体20の検出方法の説明では、散乱光を検出するようにしているが、例えば、センサチップ10A~10Cが有するガラス基板11に光を入射させて透過光を検出することで被検体20を検出することも可能である。また、センサチップ10A~10Cを利用して被検体20を検出する場合には、例えば、散乱スペクトル測定装置によって散乱光の散乱スペクトルを取得することで共鳴散乱波長のシフトを実際に検出して、被検体20を検出するようにしてもよい。
【0083】
更に、センサチップ10A~10Cでは、金属微粒子14の粒径は、50nm~100nmが好適であるとしたが、金属微粒子の粒径は、50nm未満であっても良い。ただし、共鳴散乱を利用する場合には、より効率的に散乱光を生じせしめる観点から、上記粒径の範囲が好ましいことは、前述の通りである。
【0084】
また、センサ領域13上の金属微粒子14の粒子密度(所定の粒子密度)は、30~60個/μmであることが、前述した理由から好適であるがこれに限定されない。所定の粒子密度としては、第1の膜12のセンサ領域13内の吸着サイトを全て金属微粒子14によってふさがれないような粒子密度であればよい。
【0085】
更に、図2~図4を利用して説明したセンサチップ10Aの製造方法において具体的に例示した溶液の組成及び処理時間等の数値は一例であり、それに本発明のセンサチップの製造方法が限定されるものではない。
【0086】
以上の説明では、センサチップ10A~10Cでは、DNAやタンパク質等の被検体20を検出するものとしたが、例えば、所定の溶媒を溶解した溶液の屈折率の測定などにも利用することが可能である。この場合には、第2の膜15を備えなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明に係るセンサチップの一実施形態の構成を示す概略図である。
【図2】センサチップの製造方法のフローチャートである。
【図3】センサチップの製造方法の工程を示す概略図である。
【図4】センサチップの製造方法の工程を示す概略図である。
【図5】センサチップを利用した被検体を検出する方法の概念図である。
【図6】フローセルの構成を示す構成図である。
【図7】図6のVII—VII線に沿った断面図である。
【図8】イメージング装置の構成を概略的に示す構成図である。
【図9】イメージング装置を利用した金属微粒子近傍の屈折率変化の測定の一例を示す図である。
【図10】センサチップにプローブ分子が固定した状態を示す模式図である。
【図11】図10のプローブ分子に被検体が吸着した状態を示す模式図である。
【図12】ブロック剤としてPEGを利用する場合の吸光度変化を示す図である。
【図13】ブロック剤としてグリコール酸を利用する場合の吸光度変化を示す図である。
【図14】ブロック剤として酢酸ナトリウムを利用する場合のの吸光度変化を示す図である。
【図15】ブロック剤として16-ヒドロキシヘキサデカン酸を利用する場合の吸光度変化を示す図である。
【図16】金属微粒子の散乱スペクトルの粒径依存性を示す図である。
【図17】散乱光強度の屈折率依存性を示す図である。
【図18】本発明に係るセンサチップの他の実施形態の平面図である。
【図19】図18のXIX-XIX線に沿った構成を示す概略図である。
【図20】本発明に係るセンサチップの更に他の実施形態の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0088】
10A,10B、10C…センサチップ、11…ガラス基板、11a…ガラス基板の表面、12…アミノシラン膜(第1の膜)、13…センサ領域、14…金ナノ粒子(金属微粒子)、15…MUA膜(第2の膜)、16…ブロック剤、20…被検体、d1…粒径(金属微粒子の粒径)。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19