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明細書 :希土類金属の抽出剤と抽出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5035788号 (P5035788)
公開番号 特開2007-327085 (P2007-327085A)
登録日 平成24年7月13日(2012.7.13)
発行日 平成24年9月26日(2012.9.26)
公開日 平成19年12月20日(2007.12.20)
発明の名称または考案の名称 希土類金属の抽出剤と抽出方法
国際特許分類 C22B  59/00        (2006.01)
C22B   3/26        (2006.01)
FI C22B 59/00
C22B 3/00 J
請求項の数または発明の数 4
全頁数 12
出願番号 特願2006-157842 (P2006-157842)
出願日 平成18年6月6日(2006.6.6)
審査請求日 平成20年12月2日(2008.12.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505374783
【氏名又は名称】独立行政法人日本原子力研究開発機構
発明者または考案者 【氏名】長縄 弘親
【氏名】須郷 由美
【氏名】下条 晃司郎
【氏名】三田村 久吉
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】河口 展明
参考文献・文献 特開2005-114448(JP,A)
特開2005-221461(JP,A)
特開2002-001007(JP,A)
Holger Stephan等,LIQUID-LIQUID EXTRACTION OF METAL IONS WITH AMIDO PODANDS,SOLVENT EXTRACTION AND ION EXCHANGE,1991年 1月 8日,9(3),459-469
Holger Stephan等,LIQUID-LIQUID EXTRACTION OF STRONTIUM WITH AMIDO PODANDS,SOLVENT EXTRACTION AND ION EXCHANGE,1991年 1月 8日,9(3),435-458
調査した分野 C22B 1/00-61/00
B01D 11/00-12/00
特許請求の範囲 【請求項1】
pH1~3の範囲の条件下において希土類金属を抽出する抽出剤であって、
無極性アルカン系有機溶媒に次式
【化1】
JP0005035788B2_000006t.gif

(R1およびR2は、各々、同一または別異のアルキル基を示し、少なくともいずれか一方は炭素数6以上のアルキル基であることを示す。なお、アルキル基は直鎖でも分鎖でも良い。)
で表されるジグリコールアミド酸が溶解している溶液であることを特徴とする希土類金属の抽出剤。
【請求項2】
無極性アルカン系有機溶媒が、ヘキサンであることを特徴とする請求項1に記載の希土類金属の抽出剤。
【請求項3】
pH1~3の範囲に調整した抽出すべき希土類金属を含む水溶液を抽出剤に接触させて希土類金属を抽出剤に抽出した後、抽出剤を分液し、次いで分液した抽出剤を前記水溶液よりも酸濃度の高い水溶液に接触させて希土類金属を水溶液に逆抽出する希土類金属の抽出方法であって、
前記抽出剤は、無極性アルカン系有機溶媒に次式
【化2】
JP0005035788B2_000007t.gif

(R1およびR2は、各々、同一または別異のアルキル基を示し、少なくともいずれか一方は炭素数6以上のアルキル基であることを示す。なお、アルキル基は直鎖でも分鎖でも良い。)
で表されるジグリコールアミド酸が溶解している溶液であることを特徴とする希土類金属の抽出方法。
【請求項4】
前記抽出剤の無極性アルカン系有機溶媒が、ヘキサンであることを特徴とする請求項3に記載の希土類金属の抽出方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本願発明は、環境への負荷を最小限に抑え、希土類金属を効果的に抽出・分離することができる新規抽出剤とこれを用いた抽出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
希土類金属と呼ばれる元素群(ランタノイド系列)は、物理的、化学的性質が互いに似通っていることから相互分離が困難で、また、高価な金属であり、とくにわが国は希土類金属の資源に乏しいことから、その回収・再利用が求められている。
【0003】
工業的な希土類金属の抽出・分離には、従来、主に溶媒抽出法(液-液分配法)が用いられてきている。その際の抽出剤としては、従来よりさまざまなものが用いられており、現在では、希土類金属の抽出剤として主にリン系の化合物が利用されている。例えば、ホスホン酸エステルである 2-エチルヘキシル-2-エチルヘキシル-ホスホン酸 [2-ethylhexyl-2-ethylhexyl-phosphonic acid] やその類似体であるビス(2-エチルヘキシル)リン酸 [bis(2-ethylhexyl)phosphoric acid] が最も効果的な抽出剤としてよく知られている。これらの抽出剤は、希土類金属に対する抽出能、選択的分離能が非常に優れている。しかし、その反面、抽出剤自身の水への溶解が少なくないこと、劣化した抽出剤を完全焼却できず腐食性残渣を残してしまうことなどの問題点がある。
【0004】
一方、リン系以外の抽出剤としては、カルボン酸系の抽出剤が注目されている。例えば、2-メチル-2-エチル-1-ヘプタン酸:ネオデカン酸 [2-methyl-2-ethyl-1-heptanoic acid:neodecanoic acid] が実用化されている。このものは、ホスホン酸エステルやリン酸エステルといったリン系抽出剤と比較すれば水への溶解度が低く、かつ炭素、水素、酸素のみから構成される化合物なので、残渣を残すことなく完全焼却処分が可能である。しかし一方で、中性以上の高pH条件下でしか抽出が起こらず、リン系抽出剤と比べれば抽出能が著しく劣る。また、選択的分離能もリン系抽出剤には到底及ばない。
【0005】
また、高硝酸濃度の高レベル放射性廃液中からの超ウラン元素の抽出を目的として、ジグリコールアミド(以下 DGA と省略する)の骨格(>N-CO-CH2-O-CH2-CO-N<)を有する抽出剤である N,N,N',N'-テトラオクチル-3-オキサペンタン-1,5-ジアミド:テトラオクチルジグリコールアミド [N,N,N',N'-tetraoctyl-3-oxapentane-1,5-diamde:tetraoctyldiglycolamide] (以下 TODGA と省略する)が開発されている(非特許文献1記載)。この TODGA は、強酸性条件(pH=0以下)において、超ウラン元素に限らず希土類金属も抽出できることが確認されている。ただ、この TODGA の場合には、抽出のために pH=0以下の強酸性条件を必要とするため、このための設備、プロセスとその管理の負担が大きく、実際的ではないという問題点がある。

【非特許文献1】館盛勝一、日本原子力学会誌、42巻、1124-1129(2000年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明は、以上のとおりの背景から、pH が 1 ~ 3 程度の適度な酸性条件下において、希土類金属を効率的に抽出・分離することができ、抽出剤自身の水への溶解度が低く、完全に焼却処分が可能であって、実用化されているリン系化合物に匹敵する、希土類金属に対する優れた抽出能と選択的分離能を有し、しかもその製造が低コストである、環境負荷低減型の新規抽出剤と、この抽出剤を用いた抽出方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、カルボキシル基(-COOH)を含むジグリコールアミド酸(以下 DGAA と省略する)の骨格(>N-CO-CH2-O-CH2-COOH)が多座配位子として強く希土類金属に結合することを見出している。
【0008】
そして、DGA型抽出剤のカルバモイル基(-CO-N<)の替わりに酸性官能基であるカルボキシル基(-COOH)を有する DGAA型抽出剤は、酸濃度が低いほど、より大きな抽出能を発揮し、酸濃度が高いほどより大きな抽出能を示す DGA型抽出剤 TODGA とは、まったく逆であることも見出している。すなわち、DGAA型抽出剤の場合、低酸性条件下ではカルボキシル基の一部がカルボキシレート(-COO-)となって希土類金属イオンに配位し、逆に高酸性条件下では、酸解離が抑えられることによって配位子としての働きが消失する。また、DGAA型抽出剤は、DGA型抽出剤のような電気的に中性な配位子(分子性配位子)とは異なり、陰イオンであるカルボキシレートが配位子(イオン性配位子)として働くことから、配位結合的な相互作用に加えて静電結合的な相互作用が生じる。よって、カルボキシレートが作用する条件下においては、TODGA のような DGA型抽出剤よりも強い抽出能を発揮すると考えられる。
【0009】
本願発明は以上のような新しい知見に基づいて完成されたものである。
【0010】
本願発明では、第一に、pH1~3の範囲の条件下において希土類金属を抽出する抽出剤であって、無極性アルカン系有機溶媒にDGAAの骨格を有する次式:
【0011】
【化1】
JP0005035788B2_000002t.gif

(R1およびR2は、各々、同一または別異のアルキル基を示し、少なくともいずれか一方は炭素数6以上のアルキル基であることを示す。なお、アルキル基は直鎖でも分鎖でも良い。)
で表されるDGAAが溶解している溶液であることを特徴とする希土類金属の抽出剤を提供し、第二に、無極性アルカン系有機溶媒がヘキサンである前記の希土類金属の抽出剤を提供する。DGAA骨格にアルキル鎖を導入して、親油性を付与した化合物を無極性アルカン系有機溶媒に溶解した溶液を抽出剤として希土類金属の抽出に活用することができ、しかも、DGAA骨格にアルキル鎖を導入した化合物は、1段階の合成反応によって、容易かつ高収率で合成することができ、低コストでの生産が可能な抽出剤となる。また、本願発明は、抽出すべき希土類金属を含む水溶液を、上記の抽出剤と適度な酸性条件下、すなわち従来のDGA骨格の化合物を用いる場合に比べてより低い酸濃度であるpHが1~3程度、望ましくはpH4までの範囲の酸性条件下で接触させることで有機相である抽出剤に希土類金属を抽出し、分液した有機相を、前記水溶液よりも酸の濃度を高くした別の水溶液と接触させることで別の水溶液に希土類金属を逆抽出することを特徴とする希土類金属の抽出方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
上記のとおりの本願発明によれば、適度な酸性条件(pH=1~3程度)で、希土類金属の効率的な抽出溶媒相への抽出・分離を達成でき、高酸性条件(pH=0以下)では、逆に抽出溶媒相から効率的に希土類金属を回収(逆抽出)することが可能となる。
【0013】
これによって、抽出剤自身の水への溶解度が低く、完全に焼却処分が可能な環境負荷低減型の抽出剤をもってして、従来より実用化されているリン系抽出剤に匹敵する、希土類金属に対する優れた抽出能と選択的分離能が実現されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本願発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0015】
DGAAの骨格を有し、その窒素原子に二つの同一もしくは別異のアルキル基を導入した化合物(以下、これらを総じてRDGAAと省略する)を合成する際は、アミンとジグリコール酸の縮合反応を用い、活性化した酸成分として酸無水物の無水ジグリコール酸を用いる。また、対称酸無水物を用いれば、酸の半分はアミンと反応しない利点もある。つまり、次式:
【0016】
【化2】
JP0005035788B2_000003t.gif
(R1、R2 は、同一もしくは別異でも良いが、R1もしくは R2 の少なくともどちらか一方が炭素数 6以上とする。なお、アルキル基は直鎖でも分鎖でも良い。)
に従って、以下の手順で合成を行う。
【0017】
無水ジグリコール酸をジクロロメタン中に懸濁させ、無水ジグリコールに対して等molよりも若干少ない量の第二級アルキルアミンをジクロロメタン中に溶解させて、両者を 0~30℃で混合する。無水ジグリコール酸が反応すると溶液が透明になり、そこで反応を終了する。純水洗浄、脱水剤で水を除去、濾過、溶媒除去、再結晶による精製を経て、目的の生成物が得られる。
【0018】
本願発明の抽出剤に含まれる前記の一般式で表されるジグリコールアミド酸においては、R1およびR2のアルキル基の少なくともいずれか一方は炭素数6以上のアルキル基であるが、一般的には炭素数は6~18、より好ましくは7~12が考慮される。炭素数が6未満の場合には親油性が十分でなく、水相への溶解が無視できなくなる。また、炭素数が過剰に大きい場合にはその製造がコスト高になるとともに抽出能そのものの向上には寄与しないことになる。なお、R1およびR2については親油性が確保される限り、一方が炭素数6以上であれば他方は6未満であってもよいが、製造上、そして安全性の観点からは、いずれも炭素数 6以上のもので、さらには同数であることが好適に考慮される。
【0019】
例えば、より好適なものとして、2つのオクチル基(-C8H17)を導入した化合物、N,N-ジオクチル-3-オキサペンタン-1,5-アミド酸:ジオクチルジグリコールアミド酸[N,N-dioctyl-3-oxapentane-1,5-amic acid:dioctyldiglycol amic acid](以下 DODGAA と省略する)が例示される。
【0020】
上記の合成法で得られた RDGAA を用いての、希土類金属の抽出・分離操作は以下の手順で行う。
【0021】
抽出したい目的の希土類金属を含む、適度な酸性条件、より望ましくは pH を 1~3 の間に調整した水溶液と、それと同体積の、 RDGAA を含む有機溶媒を混合し、常温で 10~20分間振とうし、さらに 5分間遠心分離し、両相を分取すれば、目的の希土類金属が抽出された有機相を得る。その後、測定等の目的で水相に回収(逆抽出)する場合は、上記の場合よりも酸濃度を高くした、たとえば pHを 0以下にした水溶液で同様の操作を行うことで、目的の希土類金属が逆抽出された水相を得る。
【0022】
用いる有機溶媒は、希土類金属に配位しないように電子対供与性(ドナー性)が小さく、抽出剤の効果を減じないために電子対受容性(アクセプター性)も小さい無極性溶媒が好ましく、上記抽出剤を溶解することができれば特に制限はない。例えば、四塩化炭素、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン等が挙げられるが、取り扱いが容易で安全性が高い等の理由から、ヘキサンのような無極性アルカン系溶媒が好ましい。
【0023】
本願発明の抽出剤は、希土類金属を含む水相の pH が高いほど、抽出能は向上するが、希土類金属は中性~アルカリ性では水酸化物の沈殿を生ずるので注意が必要であり、好ましくは、pH=1~3 で調整する。
【0024】
本願発明の抽出剤は、抽出剤の濃度を大きくすると抽出率は向上するが、抽出しようとする希土類金属の量に比して十分ではない場合には抽出率の低下が起こるので、少なくとも希土類金属に対して10倍以上、好ましくは100倍以上の濃度とする。
【0025】
本願発明の抽出剤は、有機相へ抽出した後、前記水相よりも pH を低くした(pH=0以下)別の水相と接触させることで水相に希土類金属を逆抽出することができ、例えば、塩酸や硝酸を希釈して調製した溶液が好適に使用される。
【実施例】
【0026】
実施例
ジグリコールアミド酸骨格にアルキル基を導入した化合物の合成方法
ヘキサンなどのアルカン系無極性有機溶媒に可溶な化合物を調製するため、ジグリコールアミド酸(DGAA)の骨格(>N-CO-CH2-O-CH2-COOH)の窒素原子に親油性の高いアルキル基を導入する。これまでの研究から、少なくとも一方のアルキルが、炭素原子を6個以上有することによって、抽出剤として十分な親油性を付加できることがわかっている。ここでは、炭素数8のアルキル基を2つ持つジオクチルジグリコールアミド酸(DODGAA)の合成法を例として示す。反応式は以下に示す通りである。
【0027】
【化3】
JP0005035788B2_000004t.gif
上記反応式に基づく合成操作を以下に示す。
【0028】
1)無水ジグリコール酸 4.2g を丸底フラスコに取り、ジクロロメタン 40ml を入れて懸濁させた。その後、ジオクチルアミン(純度 98%)7g をジクロロメタン 10ml に溶解させ、滴下漏斗にてゆっくりと加えた。室温で攪拌しながら、無水ジグリコール酸が反応して溶液が透明になることを確認し、反応を終了した。
【0029】
2)上記溶液を水で洗浄し、水溶性不純物を除去した。
【0030】
3)水洗浄後の溶液に、脱水剤として硫酸ナトリウムを加えた。
【0031】
4)溶液を吸引ろ過した後、エバポレータを用いて溶媒を蒸発させた。
【0032】
5)ヘキサンを用いて再結晶(3回)した後、真空乾燥した。収量 9.57g 、収率 94.3%であった。
【0033】
6)核磁気共鳴法(NMR)及び元素分析により組成を確認し、純度が 99%以上であることがわかった。
【0034】
このように、DODGAAは1つの化学反応のみで容易に合成でき、精製も容易なので、製造に要するコストが安価である。
DODGAAを用いた希土類金属の抽出・分離
合成したDODGAAを用いて希土類金属の抽出・分離実験を行った。具体的には、DODGAAをヘキサンに溶解して0.03M DODGAAヘキサン溶液を調製し、以下に示すような希土類金属に対する2つの抽出実験を行った。
【0035】
(抽出実験1)DODGAAヘキサン溶液の抽出能
希土類金属としてユウロピウムを選び、分配比(有機相に抽出された金属の濃度を水相に残った金属の濃度で割った値)の水相中の酸濃度に対する依存を測定した。その要領は以下の通りである。
【0036】
1)ユウロピウムを 1×10-4M 含む種々の pH(およそ 1~2.5 の範囲)の硝酸水溶液と、それと同体積の 0.03M の DODGAA を含むヘキサン溶液を試験管に用意し、25℃に設定した恒温庫内で 15分間振とうした。
【0037】
2)恒温庫内で 5分間、遠心分離した後、両相を分取した。
【0038】
3)分取した水相は、硝酸水溶液で希釈し、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)を用いて、ユウロピウムの濃度を測定した。
【0039】
4)分取した有機相は、3M 硝酸水溶液を用いて逆抽出操作を行い、逆抽出相を採取して希釈した後、ICP-MS を用いて、ユウロピウムの濃度を測定した。
【0040】
5)3)、4)の測定結果から、ユウロピウムの分配比(DEu(III))を求めた。
【0041】
図1に、0.03M DODGAA を用いて得られた実験結果を、0.03M の 2-メチル-2-エチル-1-ヘプタン酸:ネオデカン酸 [2-methyl-2-ethyl-1-heptanoic acid:neodecanoic acid](シェル化学社製 商品名「Versatic 10」)(以下 Versatic 10 と省略する)を用いて種々のpH(およそ 5~7 の範囲)で行った実験結果(比較例1)と比較して示す。なお、Versatic 10 の実験では、HEPES-TRIS 緩衝溶液を使用して pH をおよそ 5~7 の間で調整、また、DODGAA の実験では、硝酸によって pH をおよそ 1~2.5 の間で調整した。なお、DODGAA の実験では、有機相への溶解を促進するため、ヘキサンにオクタノール(5%)を添加した。
【0042】
この結果から、DODGAA と Versatic 10 では、ユウロピウムに対する抽出能に格段の差があることがわかる。また、いずれの抽出剤の場合も、水素イオン濃度の減少(pH の増加)に従って、その 3乗に比例して、分配比が大きくなることがわかる。
【0043】
図2に、0.03M DODGAA での結果を、0.03M の 2-エチルヘキシル-2-エチルヘキシル-ホスホン酸 [2-ethylhexyl-2-ethylhexyl-phosphonic acid] (大八化学工業社製 商品名「PC88A」)(以下 PC88A と省略する)、及び 0.03M のビス(2-エチルヘキシル)リン酸 [bis(2-ethylhexyl)phosphoric acid](以下 D2EHPAと省略する)(大八化学工業社製)を用いて、同様な条件(pH がおよそ 1~2.5 の範囲)で行った実験結果と比較して示す(比較例2を参照)。水相の pH は、いずれの抽出剤の場合も硝酸を用いておよそ 1~2.5 の間で調整した。なお、DODGAA の実験では、有機相への溶解を促進するため、ヘキサンに 1-オクタノール(5%)を添加した。
【0044】
この結果から、DODGAA と PC88A 及び D2EHPA とでは、ユウロピウムに対する抽出能がほぼ同等であることがわかる。正確には、DODGAA のユウロピウムに対する抽出能はPC88A よりも大きく、D2EHPA よりもやや小さい。また、いずれの抽出剤の場合も、水素イオン濃度の減少(pH の増加)に従って、その 3乗に比例して、分配比が大きくなることがわかる。
【0045】
(抽出実験2)DODGAAヘキサン溶液の選択的分離能
14種の希土類金属(放射性のプロメチウムを除くすべての希土類金属)について、水相中の酸濃度を一定(pH=1.5)にして、(抽出実験1)と同じ0.03MのDODGAAを含む有機相を用いて抽出操作を行い、同様の要領でそれぞれの希土類金属の分配比を測定した。なお、選択的分離能を比較するため、一例として、軽ランタノイドからの分離という観点でランタンを代表として選び、ランタンからの分離係数(対象とする希土類金属(ランタノイド:Ln)の分配比(DLn(III))をランタンの分配比(DLa(III))で割った値)として結果をまとめた。
【0046】
図3に、0.03M DODGAA を用いて得られた実験結果を、0.03M Versatic 10 を用いて pH=6.9 で得られた実験結果と比較して示す(比較例1を参照)。DODGAA では pH=1.5 において得られた結果、Versatic 10 では pH=6.9 において得られた結果を示す。Versatic 10 は pH=1.5 ではまったく抽出が起こらないため、十分な抽出が起こる pH=6.9 を選んだ。
【0047】
この結果から、DODGAA と Versatic 10 では、選択的分離能にも、格段の差があることがわかる。
【0048】
図4に、0.03M DODGAA での結果を、0.03M PC88A 及び 0.03M D2EHPA を用いて同じ pH 条件(pH=1.5)で行った実験結果と比較して示す(比較例2を参照)。
【0049】
この結果から、DODGAAヘキサン溶液の選択的分離能は、軽希土についてはPC88Aヘキサン溶液及びD2EHPAヘキサン溶液に勝り、重希土についてはPC88Aヘキサン溶液及びD2EHPAヘキサン溶液に劣ることがわかる。
DODGAAの水への溶解度の測定
合成したDODGAAの水への溶解度を測定した。過剰量のDODGAAを水(純水)に投入し、30分間振とう、さらに室温で1日以上放置した後、遠心分離を2回行ってから水溶液を分取し、水に溶解したDODGAAの濃度を紫外部の吸光度に基づいて決定した。
【0050】
表1に、得られた結果を、Versatic 10 、PC88A 、及び D2EHPA の結果とともに示す(比較例3を参照)。
【0051】
【表1】
JP0005035788B2_000005t.gif
この結果から、DODGAA は他の抽出剤と比較して、格段に水への溶解度が低いことがわかる。たとえば、最も水への溶解度が高い PC88A のおよそ 1/6300 、リン系抽出剤と比較して水への溶解度が低い Versatic 10 と比べても、およそ 1/230 である。
(比較例1)抽出能、選択的分離能のカルボン酸系抽出剤(Versatic 10)との比較
DODGAA を用いての(抽出実験1)及び(抽出実験2)と同様の要領で、カルボン酸系抽出剤である Versatic 10(0.03M)を用いた抽出実験を行った。結果を図1及び図3に示す。ただし、水相の pH の条件は、DODGAA による抽出実験と Versatic 10 による抽出実験とでは大きく異なる。
(比較例2)抽出能、選択的分離能のリン系抽出剤(PC88A 、D2EHPA)との比較
DODGAA を用いての(抽出実験1)及び(抽出実験2)と同様の要領で、リン系抽出剤であるPC88A 及び D2EHPA(いずれも 0.03M)を用いた抽出実験を行った。結果を図2及び図4に示す。水相の pH の条件も、DODGAA による抽出実験の場合と、ほぼ同じである。
(比較例3)水に対する溶解度の Versatic 10 、PC88A 、及び D2EHPA との比較
DODGAA のときと同様に、過剰量の Versatic 10 、PC88A 、もしくは D2EHPA を水(純水)に投入し、30分間振とう、さらに室温で 1日以上放置した後、遠心分離を 2回行ってから水溶液を分取し、水に溶解した抽出剤の濃度を紫外部の吸光度に基づいて決定した。結果を表1に示す。
【0052】
以上の実施例、比較例により、C、H、O、Nのみからなる完全焼却処分が可能である化合物(たとえばDODGAA)を用いて、希土類金属の抽出を行った結果、完全焼却処分が可能な既存のカルボン酸系化合物(Versatic 10)を大きく上回る抽出能・選択的分離能を示すとともに、完全焼却処分はできないが非常に高性能なリン系化合物(PC88A、D2EHPA)にも劣らないことが明らかになった。さらに、水に対する前記化合物の溶解度が、これら既存の化合物(PC88A、D2EHPA、Versatic 10)と比較して著しく小さいため、水環境への前記化合物の負荷を大幅に低減することが可能である。また、水への溶解度が著しく小さいことは、有機相の繰り返し利用に伴う前記化合物の損失も著しく小さくなり、前記化合物を頻繁に補充する必要がなくなるため、経済的である。なお、DODGAAの合成及び精製は非常に容易であるため、製造に要するコストも安価である。また、本願発明で提案する希土類金属の抽出法によって、pH を調節することで容易に有機相への抽出、水相への逆抽出を可能にし、そのpHの領域では、腐食が少なくリサイクル効率に優れた硝酸を用いることが可能であり、抽出工程が安価である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】ユウロピウムの分配比と水相中の水素イオン濃度の関係をDODGAA と Versatic 10 で比較した図。ヘキサン中の両者の濃度は同じ 0.03M 。ただし、水相の pH は DODGAA の場合と Versatic 10 の場合では大きく異なる。
【図2】ユウロピウムの分配比と水相中の水素イオン濃度の関係をDODGAA と PC88A 及び D2EHPA とで比較した図。ヘキサン中の抽出剤の濃度は、いずれも 0.03M 。水相の pH は、いずれの抽出剤の場合もおよそ 1~2.5 。
【図3】DODGAA と Versatic 10 について、Ce から Lu までの Pm を除く希土類金属すべての La に対する分離係数を比較した図。ヘキサン中の抽出剤の濃度は、いずれも 0.03M 。ただし、DODGAA では pH=1.5 、Versatic 10 では pH=6.9 。
【図4】DODGAA と PC88A 及び D2EHPA について、Ce から Lu までの Pm を除く希土類金属すべての La に対する分離係数を比較した図。ヘキサン中の各抽出剤の濃度は 0.03M 。DODGAA 、PC88A 、D2EHPA いずれについても、pH=1.5 。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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