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明細書 :透明ガエルおよびその作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4992079号 (P4992079)
公開番号 特開2008-029223 (P2008-029223A)
登録日 平成24年5月18日(2012.5.18)
発行日 平成24年8月8日(2012.8.8)
公開日 平成20年2月14日(2008.2.14)
発明の名称または考案の名称 透明ガエルおよびその作製方法
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
A01K  67/02        (2006.01)
FI A01K 67/027
A01K 67/02
請求項の数または発明の数 5
全頁数 10
出願番号 特願2006-203987 (P2006-203987)
出願日 平成18年7月26日(2006.7.26)
審査請求日 平成21年5月28日(2009.5.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】住田 正幸
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】幸田 俊希
参考文献・文献 特開2001-346480(JP,A)
SUMIDA,M.,See-through frog offers inside information.,Nature,2007年10月 4日,Vol.449, No.7162,pp.521
調査した分野 A01K 67/027
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
黒色素胞と虹色素胞を欠損していることを特徴とする透明なニホンアカガエル。
【請求項2】
黒色素胞を欠損したニホンアカガエルおよび虹色素胞を欠損したニホンアカガエルを交配させる工程を包含することを特徴とする透明なニホンアカガエルを作製する方法。
【請求項3】
広島大学両生類研究施設において維持されている、系統E4B1のニホンアカガエルおよび系統E4G1のニホンアカガエルを交配させる工程を包含することを特徴とする透明なニホンアカガエルを作製する方法。
【請求項4】
黒色素胞を欠損したニホンアカガエルおよび虹色素胞を欠損したニホンアカガエルを備えていることを特徴とする透明なニホンアカガエルを作製するためのキット。
【請求項5】
広島大学両生類研究施設において維持されている、系統E4B1のニホンアカガエルおよび系統E4G1のニホンアカガエルを備えていることを特徴とする透明なニホンアカガエルを作製するためのキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、外部から内臓を透視することができる脊椎動物に関するものであり、より詳細には、生きている成体で外部から内臓を透視することができる透明ガエルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
生きた状態で外部から内臓を透視することができる動物モデルが開発されれば、その利用価値は非常に高い。例えば、解剖を必要としないので、生きている成体において内臓を観察することができる。さらに、同一個体において内臓を繰り返しまたは継続して、発生の初期段階から詳細に観察することができることにより、内臓の成長、成熟、老化の過程を経時的に評価し得る。
【0003】
メダカは、受精後の胚が透明であるために発生学のよい研究材料として用いられているが、成体においても透明な透明メダカが近年開発されている(特許文献1を参照のこと)。特許文献1には、虹色素胞欠損突然変異系統、アルビノ突然変異系統および白色素胞突然変異系統のメダカを選択的に交配させることにより作製された、虹色素胞、黒色素胞、黄色素胞および白色素胞の全てを欠いたメダカが記載されている。
【0004】
このように、生きている状態で外部から体内を透視することができる脊椎動物が開発されたことにより、種々の分野の研究のさらなる発展が期待されている。

【特許文献1】特開2001-346480号公報(平成13年12月18日公開)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カエルもまた、発生学のよい研究材料として用いられている。特に、人工受精が容易で一度に多数の受精卵が得られる点、卵が大きく硬い殻で覆われていない点、初期卵割の時に盤割ではなく全割を行う点、個体発生の過程で水中生活から陸上生活に移行する点などで、メダカなどより有利な点が多い。また、体が比較的大きいので実験的操作や外科的手術が容易であり、種々の検査も容易に行い得ること、外部および内部構造は四足動物の基本型であること、種が多く多様性に富むこと、入手が比較的容易であること、取扱いが容易であること、実験室で飼育が可能であることなどから、発生学だけでなく種々の分野における研究材料として幅広く用いられている。
【0006】
しかし、カエルは皮膚の色が非常に濃く、幼生期も成体期も色素細胞で覆われているので、体内の組織および/または器官の変化を発生の初期段階から老化段階までにわたって、外部から詳細に観察することは困難である。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、生きている成体で外部から内臓を透視することができる透明ガエルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ニホンアカガエルでは、黒色眼(ブラックアイ)および灰色眼(グレーアイ)の2つの突然変異が存在することが知られている。本発明者らは、これらの突然変異がいずれも劣性遺伝であり、黒色眼(ブラックアイ)および灰色眼(グレーアイ)の両方の遺伝子座においてホモ接合が形成されれば、皮膚が透明な「透明ガエル」(ホワイト)を取得し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る透明ガエルは、遺伝子型b/b,g/gを有していることを特徴としている。
【0010】
本発明に係る透明ガエルは、上記構成を有していることにより、幼生期から成体期に至る全ての段階で体外から内臓を透視することができる。
【0011】
本発明に係る透明ガエルを作製する方法は、黒色眼変異系統のカエルおよび灰色眼変異系統のカエルを交配させる工程を包含することを特徴としている。
【0012】
本発明に係る透明ガエルを作製する方法は、遺伝子型b/bを有しているカエルおよび遺伝子型g/gを有しているカエルを交配させる工程を包含することを特徴としている。
【0013】
本発明に係る透明ガエルを作製するためのキットは、黒色眼変異系統のカエルおよび灰色眼変異系統のカエルを備えていることを特徴としている。
【0014】
本発明に係る透明ガエルを作製するためのキットは、遺伝子型b/bを有しているカエルおよび遺伝子型g/gを有しているカエルを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明を用いれば、内臓および骨に対する化学物質の影響を、簡便かつ低コストにて行い得、毒性の影響の程度を経時的に評価することができる。また、本発明を用いれば、疾病(例えば、癌)の発生および/または進行の過程を経時的に評価し得、疾病の治療法を容易に検討することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
カエルは、両生類網無尾目(カエル目)に属する動物を総称するものであり、発生学だけでなく種々の分野における研究材料として幅広く用いられている。
【0017】
カエルの皮膚には多くの粘液腺が存在し、その分泌物は皮膚を正常に保つとともに、捕食者からの防御のための毒性成分を含んでいることが知られている。このようなカエルの皮膚には色素胞が存在しており、カエルの皮膚の色は、黄色素胞、虹色素胞および黒色素胞が体表側から立体的に重なった構成により発現する。このような皮膚の色(体色)は、色素胞が変形すること、あるいは色素顆粒が色素胞内を移動することにより迅速に変化し得る。
【0018】
上述したように、本発明者らは、黒色眼変異系統のカエルおよび灰色眼変異系統のカエルを交配させて「透明ガエル」を作製し得た。これらの突然変異系統は、広島大学両生類研究施設において維持されており、いずれの系統についても同施設から分譲可能である。詳しくは、http://home.hiroshima-u.ac.jp/~amphibia/strain/index.html を参照のこと。なお、本明細書中で使用される場合、「黒色眼変異系統」および「灰色眼変異系統」は広島大学両生類研究施設において維持されている系統E4B1およびE4G1が意図される。
【0019】
本明細書中で使用される場合、「透明」は、皮膚の状態が光透過性であることが意図され、より詳細には、脊椎動物の皮膚の色素が皆無~微量であって、血管、神経、筋肉などを含む各種臓器(例えば、胃、腸、心臓、肝臓、腎臓、脳、脊髄など)を体外から肉眼で検出し得る状態が意図される。
【0020】
本明細書中で使用される場合、「交配させる」は、複数の系統の遺伝子型が共存する状態であればよく、直接的な交配だけに限定されない。例えば、「A系統およびB系統を交配させる」は、単にA系統とB系統とを直接交配させる局面に限定されず、他の系統との交配を経てもよく、最終的に得られた子孫がA系統の遺伝子型およびB系統の遺伝子型の両方を有していればよい。
【0021】
上述したように、本発明に係る透明ガエルは、黒色眼変異系統のカエルおよび灰色眼変異系統のカエルを交配させる工程を包含する方法により作製される。黒色眼変異系統のカエルの遺伝子型はb/bであり、灰色眼変異系統のカエルの遺伝子型はg/gであるので、本発明の透明ガエルの遺伝子型は、b/b,g/gである。なお、黒色眼と灰色眼のいずれの形質も劣性遺伝であるので、本発明の透明ガエルは、野生型の表現型を有する親どおしの交配によって作製される。
【0022】
本発明はさらに、透明ガエルを作製するために必要となるカエルを備えているキットを提供する。本発明に係るキットに備えられている「カエル」は、所望の形質(すなわち、上述した遺伝子型)を有していれば、成体であっても幼生であってもよく、さらには受精卵であってもよい。すなわち、「黒色眼変異系統のカエル」は、広島大学両生類研究施設において維持されている系統E4B1の成体、またはその幼生もしくは受精卵であり得、「灰色眼変異系統のカエル」は、広島大学両生類研究施設において維持されている系統E4G1の成体、またはその幼生もしくは受精卵であり得る。また、「遺伝子型b/bを有しているカエル」は、遺伝子型b/bを有しているカエルの成体、またはその幼生もしくは受精卵であり得、「遺伝子型g/gを有しているカエル」は、遺伝子型g/gを有しているカエルの成体、またはその幼生もしくは受精卵であり得る。
【0023】
透明ガエル体内の状態は肉眼であっても外部から十分に確認され得るが、透明ガエルの生体内の状態を検出する手段としては肉眼に限定されず、当該分野において公知の種々の検出手段が採用され得る。また、肉眼で検出し得る形態変化などと平行して、投与する物質の動態を観察したい場合には、当該分野において公知の種々の標識化合物(蛍光物質など)を用いて当該物質を標識してもよい。例えば、実施例にて後述するように、GFP融合タンパク質を透明ガエルの体内にて発現させて、その挙動を観察してもよい。この場合、本発明を用いれば、透明ではないカエルと比較して、GFPの蛍光を容易に検出し得る。
【0024】
また、本明細書中においてニホンアカガエルを用いて説明してきたが、本発明に係る透明ガエルとしてはこれに限定されず、無尾目(カエル目)に属するあらゆるカエルを用いて、b/b,g/gの遺伝子型を有するカエルを作製することができることを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。
【0025】
なお、本発明者らは、本発明を完成させる際に、黒色眼変異系統のニホンアカガエル(ブラックアイ)および灰色眼変異系統のニホンアカガエル(グレーアイ)はそれぞれ黒色素胞および虹色素胞に異常があることを見出した。これらの異常はそれぞれの正常な色素胞を欠いているものであること、すなわち、ブラックアイがメラニン顆粒のない黒色素胞欠損突然変異系統であり、グレーアイが反射小板のない虹色素胞欠損突然変異系統であるということを明らかにした。これらの事実と透明メダカの知見とを総合的に判断すると、黒色素胞欠損突然変異系統および虹色素胞欠損突然変異系統を交配させることにより、透明動物を作製することができるといえる。
【0026】
しかし、メダカに存在する色素胞とカエルに存在する色素胞とが必ずしも一致しないこと、透明メダカの作製に必要とされた黄色素胞の欠損が本発明に係る透明ガエルの作製には必須ではないこと、メダカでは全ての色素胞が平面的に散在するのに対して、カエルでは3つの色素胞が各々層をなして立体的に配列しており、透過光または吸収される光の波長に応じて種々の色彩を表すこと、さらに、カエルとメダカではブラックアイおよびグレーアイの原因となる遺伝子が明らかに異なることなどに鑑みれば、「黒色素胞欠損突然変異系統および虹色素胞欠損突然変異系統を交配させることにより透明動物を作製し得る」ということは、本発明が完成したことにより初めて導出されたものであり、透明メダカの知見のみから自明なものではないことを、当業者は容易に理解する。
【0027】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0028】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0029】
〔ニホンアカガエルの突然変異系統〕
広島大学両生類研究施設において維持されているニホンアカガエルの突然変異系統E4B1およびE4G1( http://home.hiroshima-u.ac.jp/~amphibia/strain/index.html を参照のこと)を、それぞれ黒色眼変異系統(b/b)および灰色眼変異系統(g/g)として用いた。
【0030】
〔黒色眼(ブラックアイ)のホモ接合体の個体〕
突然変異系統E4B1の雄を野生型の雌(+/+)と交配して、黒色眼の遺伝子座についてのヘテロ接合体(+/b)を作製した。ヘテロ接合体の成熟した雌雄を用いて人工交配を行い、生じる雑種第二代の子孫の中に1/4の頻度で突然変異のホモ接合体(b/b)を得た(図1(a))。
【0031】
なお、交配については、Kawamura T et al. (1981) Interspecific hybrids among Japanese, Formosan, European and American brown frogs. Sci. Rep Lab Amphibian Biol. Hiroshima Univ. 5:195-323に従って、人工受精法によって行った。すなわち、雌にはウシガエルの脳下垂体懸濁液を腹腔注射し、17℃で排卵を促進した。雄の精巣を外科手術により摘出して、蒸留水で精子懸濁液を作製した。排卵した雌の腹部を圧迫して、卵をスライドグラス上に絞り出した。搾り出した直後の卵に精子懸濁液を適用して媒精を行った。媒精20分後の卵を飼育水に移し、18℃で飼育管理した。
【0032】
発生状況を観察しながら、飼育した。具体的には、摂餌幼生には茹でたホウレン草を給餌し、変態後の成体にはフタホシコオロギを給餌した。
【0033】
〔灰色眼(グレーアイ)のホモ接合体の個体〕
突然変異系統E4G1の雄を野生型の雌(+/+)と交配して、灰色眼の遺伝子座についてヘテロ接合体(+/g)を作製した。ヘテロ接合体の成熟した雌雄を用いて人工交配を行い、生じる雑種第二代の子孫の中に1/4の頻度で突然変異のホモ接合体(g/g)を得た(図1(b))。また、交配については、上述した方法に従った。
【0034】
発生状況を観察しながら、飼育した。具体的には、摂餌幼生には茹でたホウレン草を給餌し、変態後の成体にはフタホシコオロギを給餌した。
【0035】
〔透明ガエル(ホワイト)の個体〕
黒色眼(ブラックアイ)のホモ接合体の雌または雄を、灰色眼(グレーアイ)のホモ接合体の雄または雌と交配することによって、両方の遺伝子座においてともにヘテロ接合である個体を得た。これら2つの遺伝子座は異なっているので、これらの個体は外見上では野生型である。
【0036】
これらのヘテロ接合体が成熟した後に、人工交配によって雑種第二代を作製し、この中に1/16の頻度で透明ガエル(ホワイト)を得た(図1(c))。得られた透明ガエル(ホワイト)の雌雄を交配させることによって、透明ガエルの系統を確立した(図1(d))。
【0037】
ニホンアカガエルの野生型、突然変異系統E4B1、E4G1および本発明の透明ガエル(ホワイト)の概観を図2に示す。示すように、本発明の透明ガエル(ホワイト)では、他のいずれにおいても観察し得ない内臓が外部から明らかに観察される。
【0038】
透明ガエル(ホワイト)の幼生を図3に示す。本発明の透明ガエルは幼生期から成体期に至るまで外部から体内を観察することができるので、変態過程における内臓の変化を観察し得る。
【0039】
また、透明ガエル(ホワイト)の内臓を透視した図を図4に示す。示すように、肝臓、卵巣および輸卵管、さらには皮膚の血管までが首尾よく観察される。また、図5に示すように、排卵した雌ガエルにおいて、その排卵の状態を目視することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、環境学、医学、生物学の分野において利用価値の高い、新たな実験動物を提供し得る。本発明を用いれば、化学物質の生体への影響(例えば、毒性)を容易に評価し得るので、薬剤の開発に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】カエルの突然変異系統を掛け合わせて透明ガエルを得るまでの工程を示す図である。
【図2】ニホンアカガエルの野生型、突然変異系統、および透明ガエルの外観を示す図である。
【図3】透明ガエルの幼生の外観を示す図である。
【図4】透視した透明ガエルの内臓を示す図である。
【図5】排卵した透明ガエル(雌)における、その排卵の状態を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4