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明細書 :高耐食性マグネシウム合金とその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4961552号 (P4961552)
公開番号 特開2008-038233 (P2008-038233A)
登録日 平成24年4月6日(2012.4.6)
発行日 平成24年6月27日(2012.6.27)
公開日 平成20年2月21日(2008.2.21)
発明の名称または考案の名称 高耐食性マグネシウム合金とその製造方法
国際特許分類 C23C  22/57        (2006.01)
FI C23C 22/57
請求項の数または発明の数 3
全頁数 8
出願番号 特願2006-217864 (P2006-217864)
出願日 平成18年8月10日(2006.8.10)
審査請求日 平成21年8月6日(2009.8.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
発明者または考案者 【氏名】竹中 俊英
【氏名】川上 正博
【氏名】小野 敬美
【氏名】楢崎 裕治
審査官 【審査官】市枝 信之
参考文献・文献 特表2005-505685(JP,A)
調査した分野 C23C 22/00 ~ 22/86
C23C 24/00 ~ 30/00
C23C 18/00 ~ 20/08
C25D 11/00 ~ 11/38
特許請求の範囲 【請求項1】
マグネシウム合金の表面にマグネシウムと希土類金属の両元素を含む酸化物層を有する高耐食性マグネシウム合金であって、前記酸化物層は、硝酸マグネシウムおよび硝酸ランタンを含む水溶液にマグネシウム合金を浸漬した後、乾燥させて該マグネシウム合金の表面に形成してなる酸化物層であることを特徴とする高耐食性マグネシウム合金。
【請求項2】
マグネシウム合金を、硝酸マグネシウムと硝酸ランタンの両成分を含む水溶液に浸漬した後、乾燥させて該マグネシウム合金の表面に酸化物層を形成することを特徴とする請求項1に記載の高耐食性マグネシウム合金の製造方法。
【請求項3】
前記水溶液は、硝酸マグネシウムと硝酸ランタンの濃度が、各々0.0001から0.01mol/dmの範囲である水溶液であり、水溶液への浸漬時間が1から24時間の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の高耐食性マグネシウム合金の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、表面にマグネシウムと希土類金属の両元素を含む酸化物層を形成することにより耐食性を向上させた、マグネシウム合金およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム材料は、軽量かつ高比強度の材料として実用に供されている。また、比較的融点が低く、融解エネルギーが小さいため、リサイクル性も優れているとされる。構造用部材や構成用部材として用いられるマグネシウム材料は、全てアルミニウムや亜鉛などが添加されたマグネシウム合金である。
【0003】
このような合金元素の添加は、機械的特性や耐食性の向上を目的としているが、合金化によってもマグネシウム材料の耐食性は十分とは言えない。このため、さらに塗装等の表面処理が通常行われており、マグネシウム合金上に酸化物層を形成する方法もよく用いられている。現行の酸化物層形成法として、クロメート処理(例えば、非特許文献1参照。)やフッ化物を含有する酸化物層形成処理法(例えば、非特許文献2参照。)が実用に供されている。

【非特許文献1】増田善彦:「マグネシウムの化成処理と管理 現場からの技術論25」、アルトピア、30巻11号、27-31頁、2000年.
【非特許文献2】梅原博行、高谷松文:「マグネシウム合金のクロムフリー化成処理 技術」、日本金属学会講演概要、134巻、486頁、2004年.
【0004】
クロメート処理はクロム溶液を製造段階で用い、また表面酸化物層にもクロムが含有されるため、環境負荷が大きい方法である。また、クロメート処理されたマグネシウム合金をそのままリサイクルした場合、リサイクル材へのクロムの混入が避けられない。これは、再融解時にクロム酸化物が容易にマグネシウム金属により還元されるためである。
【0005】
マグネシウム金属中にクロムが混入した場合、少量でもマグネシウム金属の耐食性を著しく劣化させることが知られており(例えば、非特許文献3参照。)、リサイクル材の特性を大幅に劣化させる可能性が大きい。このため、予め表面のクロメート層を除去する必要があるが、これには多くの手間を必要とし、リサイクル材のコストアップ要因となる。

【非特許文献3】J.D.Hanawalt, C.E.Nelson and J. A.Peloubet: Trans.AIME.147(1942)273-299.
【0006】
フッ化物含有酸化物層形成処理では、製造段階で有害なフッ化物水溶液を用いており、環境負荷が大きい。また、リサイクル時にはフッ化物を含む酸化物ドロスが形成されるため、これを安全に処理する必要性が生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように実用マグネシウム合金の耐食性向上を目的とした酸化物層を形成する表面処理方法は、クロムやフッ素を用いているため、環境に対する負荷が大きく、また処理した材料のリサイクル性を損なう可能性がある。このために、クロムやフッ素を含まない、より環境負荷の小さい物質を用いた酸化物層の形成による耐食性の向上が望まれている。
【0008】
発明者らは、純マグネシウム金属に少量の希土類金属を添加することによりその耐食性が大幅に向上できることを明らかにした(例えば、特許文献1参照)。さらに、この成果に基づき、実用的なマグネシウム合金においても耐食性の向上を図るべく、研究をかさねた(例えば、非特許文献4、非特許文献5参照。)。
<patcit num="1"><text>特開2004-315891号公報</text></patcit><nplcit num="4"><text>T.Takenaka, Y.Naka, N.Narukawa, T.Noichi and M.Kawakami; “Direct Electrodeposition of Mg containing La in Molten Salt and Its Corrosion Property”, Electrochemistry,vol.73(8),pp.706-709,2005.</text></nplcit><nplcit num="5"><text>楢崎裕治:「Mg金属上への希土類金属含有酸化物層の形成と耐食性への影響」、平成16年度卒業研究論文、豊橋技術科学大学.</text></nplcit>
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、このような経過において鋭意研究をかさねた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
第一の発明は、マグネシウム合金の表面にマグネシウムと希土類金属の両元素を含む酸化物層を有する高耐食性マグネシウム合金であって、前記酸化物層は、硝酸マグネシウムおよび硝酸ランタンを含む水溶液にマグネシウム合金を浸漬した後、乾燥させて該マグネシウム合金の表面に形成してなる酸化物層であることを特徴とする高耐食性マグネシウム合金である。
【0011】
第二の発明は、第一の発明に係る高耐食性マグネシウム合金の製造方法であって、マグネシウム合金を、硝酸マグネシウムと硝酸ランタンの両成分を含む水溶液に浸漬した後、乾燥させて該マグネシウム合金の表面に酸化物層を形成することを特徴とする高耐食性マグネシウム合金の製造方法である。
【0012】
第三の発明は、第二の発明において、前記水溶液は、硝酸マグネシウムと硝酸ランタンの濃度が、各々0.0001から0.01mol/dmの範囲である水溶液であり、水溶液への浸漬時間が1から24時間の範囲であることを特徴とする高耐食性マグネシウム合金の製造方法である。
【0013】
このように、本発明においては、マグネシウム合金の表面に、マグネシウムと希土類金属の両元素を含む酸化物層を形成し、耐食性の良好なマグネシウム合金を得ることができる。
【0014】
また、本発明においては、当該酸化物層を形成するために、マグネシウム合金を、硝酸マグネシウムと希土類金属硝酸塩の両成分を含む水溶液に浸漬した後、乾燥させて酸化物層を形成することを特徴とするマグネシウム合金の製造方法を提案した。
【0015】
さらに、本発明においては、当該水溶液の濃度として、硝酸マグネシウムと希土類金属硝酸塩の濃度が、各々0.0001から0.01 mol/dmの範囲である水溶液を用いて、水溶液への浸漬時間が1から24時間の範囲であることを特徴とするマグネシウム合金の製造方法を提案した。
【発明の効果】
【0016】
以上述べたように、本発明のマグネシウム合金においては、表面に形成された酸化物層により、良好な耐食性が得られる。このように、本発明によれば、クロムやフッ素などの環境負荷の大きい物質を用いずに耐食性の向上が可能である。
【0017】
また、本発明により酸化物層を形成したマグネシウム合金をリサイクルするため再溶解する場合、希土類金属酸化物はマグネシウム金属により還元されないため、ドロス中に濃縮される。少量の希土類金属がマグネシウム金属中に混入する可能性はあるが、この場合でも耐食性を悪化させることはなく(例えば、特許文献1参照。)、大きな問題とはならない。一方、再溶解で生じた希土類金属を含むドロスも、フッ化物等を含まず比較的容易に硝酸塩として再生し、再利用できる。
【0018】
このように本発明によれば、クロムやフッ素などの環境負荷の大きい物質を用いずに、耐食性の向上が可能であり、またリサイクルされた場合においても性能の劣化を起こさず、かつドロス等の廃棄物も比較的に容易に硝酸塩として再生し再利用可能である、という効果を持つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施するための最良の形態について、実施例にもとづき詳細に説明する。しかし本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明による表面酸化物層を形成したマグネシウム合金を得る方法を示したものである。
【0021】
本発明による酸化物層の形成は、硝酸マグネシウムと希土類金属硝酸塩の両成分を含む溶液にマグネシウム合金を所定時間浸漬し、乾燥させることにより行った。なお、図中のREは希土類金属の総称を意味している。
【0022】
図2は、代表的なマグネシウム合金の1つであるAZ61を本発明の製造方法で処理した後の表面の外観写真である。この例では、材料は一面を残し、他の面は樹脂により保護しており、硝酸マグネシウム濃度と硝酸ランタン濃度が各々0.001mol/dmの水溶液に5時間浸漬したものである。
【0023】
本発明により得られるAZ61表面の酸化物層は白色であることを特徴とする。但し、マグネシウム合金基材も透けて見えており、酸化物層は薄いものであった。他のマグネシウム合金、例えばAZ31、AZ91の表面にも同様の酸化物層が形成された。
【0024】
図3は、代表的なマグネシウム合金であるAZ31を本発明の製造方法により処理した場合の表面の走査型電子顕微鏡写真である。処理条件は、硝酸マグネシウム濃度と硝酸ランタン濃度が各0.01mol/dm、浸漬時間が1時間である。
【0025】
本発明の製造方法による処理により、マグネシウム合金表面にはいわゆる化成処理に特有な島状組織を有する酸化物層が形成された。この酸化物層はマグネシウム、希土類金属、酸素からなる物質であった。
【実施例2】
【0026】
図4は、代表的な実用マグネシウム合金であるAZ31に本発明の製造方法による処理を施し、3%塩水中(室温)に浸漬したときの重量変化を示したものである。処理条件は、硝酸マグネシウム濃度と硝酸ランタン濃度が各0.001mol/dm、浸漬時間が24時間である。試料は一定時間ごとに水溶液から取り出して硬質プラスチックブラシで表面の腐食生成物を除去して重量を測定した。また図中には、本発明による処理を施さなかったAZ31および純マグネシウム金属の重量変化を比較のため図示した。
【0027】
本発明の製造方法による処理を施したマグネシウム合金は、施していないマグネシウム合金に比べ、腐食による重量減少が著しく低くなった。目視観察でも本処理を施していない材料表面が腐食により減肉しているのに対し、本処理を施した材料は腐食試験前の外観をほぼ保っていた。
【実施例3】
【0028】
図5は、代表的な実用マグネシウム合金であるAZ31に本発明の製造方法による処理を施し、3%塩水中(室温)に100時間浸漬したのちの目視観察結果を図示したものである。処理条件は、硝酸マグネシウム濃度と硝酸ランタン濃度が各0.0001から0.01mol/dmの範囲、浸漬時間が1から24時間の範囲である。
【0029】
本発明の製造方法による処理を施さないAZ31は、腐食試験により表面全体に腐食生成物が固着し、浸漬前の外観を保っていなかった。一方、本発明の製造方法による処理を施したAZ31は、腐食試験後も外観を保っていた。なお判定は、表面のほぼ全体が腐食試験前の外観を保っていた場合は「大きく改善」、一部が外観を保っていた場合は「改善」、処理により顕著な差が見られなかった場合は「変化無し」と判定した。
【0030】
本発明の製造方法による処理液中の硝酸マグネシウムと硝酸ランタンの濃度を広範に変えても、また処理時間を大きく変えても、本処理法による耐食性の向上が見られた。AZ31の場合、硝酸マグネシウムと硝酸ランタンの濃度が低い溶液に長時間浸漬した場合の方が良好な耐食性向上効果が得られる傾向があった。
【0031】
以上より、本発明における酸化物層形成の条件としては、硝酸マグネシウムと硝酸ランタンの濃度範囲としては0.0001から0.01mol/dmの範囲が、また浸漬時間としては1から24時間の範囲が好ましい。
【0032】
なお、本発明の製造方法における乾燥(脱硝)工程の温度を60~120℃に変化させて試験を行ったが、耐食性向上効果に大きな変化は見られず、従ってこの温度範囲で充分乾燥させれば良好な耐食性向上効果が得られることが判明した。
【実施例4】
【0033】
図6は、本発明の製造方法により処理した代表的な実用マグネシウム合金であるAZ61を、3%塩水中(室温)に100時間浸漬した後の目視観察結果を図示したものである。処理条件および結果の判定基準は実施例3と同様である。
【0034】
AZ31と同様にAZ61でも、処理液中の硝酸マグネシウムと硝酸ランタンの濃度を広範に変えても、また処理時間を大きく変えても、本処理法による耐食性の向上が見られた。ただし、AZ61の場合,硝酸マグネシウムと硝酸ランタンの濃度が高く、浸漬時間が短い方が、改善効果が大きい傾向があった。
【0035】
以上より、硝酸マグネシウムと硝酸ランタンの濃度および浸漬時間のいずれにおいても、おおむね実施例3と同様な範囲が好ましい範囲として得られた。
【実施例5】
【0036】
図7は、本発明の製造方法により処理した代表的な実用マグネシウム合金であるAZ91を、3%塩水中(室温)に100時間浸漬した後の目視観察結果を図示したものである。処理条件および結果の判定基準は実施例3と同様である。
【0037】
本発明の製造方法により処理したAZ91の耐食性は向上し、耐食性向上効果は硝酸マグネシウムと硝酸ランタンの濃度が高い溶液に短時間浸漬した場合の方が良好な傾向を示した。
【0038】
以上より、硝酸マグネシウムと硝酸ランタンの濃度および浸漬時間のいずれにおいても、おおむね実施例3と同様な範囲が好ましい範囲として得られた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
マグネシウムと希土類金属の両元素を含む酸化物層をマグネシウム合金表面に形成して得られるマグネシウム合金は良好な耐食性を示すことから、構造用部材をはじめ、電子機器や家電製品などの構成材料として、広範な産業分野において使用可能である。また本発明による処理方法は、環境負荷が小さいプロセスであり、かつマグネシウム材料のリサイクル性も損ねないため、この点からも広範な用途に適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明による表面酸化物層形成方法を示した図である。
【図2】本発明による処理を施したマグネシウム合金(AZ61)の表面である。
【図3】本発明による処理を施したマグネシウム合金(AZ31)の表面である。
【図4】本発明による処理を施したマグネシウム合金(AZ31)を塩水中に浸漬したときの腐食減量の時間変化を示した図である。
【図5】本発明による処理液中の硝酸マグネシウムと硝酸ランタン濃度が、マグネシウム合金(AZ31)の耐食性に及ぼす影響を示した図である。
【図6】本発明による処理液中の硝酸マグネシウムと硝酸ランタン濃度が、マグネシウム合金(AZ61)の耐食性に及ぼす影響を示した図である。
【図7】本発明による処理液中の硝酸マグネシウムと硝酸ランタン濃度が、マグネシウム合金(AZ91)の耐食性に及ぼす影響を示した図である。
【符号の説明】
【0041】
符号の説明は特にない。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6