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明細書 :物質吸着性マグネタイト及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5124744号 (P5124744)
公開番号 特開2008-030975 (P2008-030975A)
登録日 平成24年11月9日(2012.11.9)
発行日 平成25年1月23日(2013.1.23)
公開日 平成20年2月14日(2008.2.14)
発明の名称または考案の名称 物質吸着性マグネタイト及びその製造方法
国際特許分類 C01G  49/06        (2006.01)
B01J  20/30        (2006.01)
B01J  20/06        (2006.01)
C01G  49/04        (2006.01)
FI C01G 49/06
B01J 20/30
B01J 20/06 A
C01G 49/04
請求項の数または発明の数 8
全頁数 11
出願番号 特願2006-203801 (P2006-203801)
出願日 平成18年7月26日(2006.7.26)
審査請求日 平成21年7月24日(2009.7.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
発明者または考案者 【氏名】馬場 由成
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100130443、【弁理士】、【氏名又は名称】遠藤 真治
審査官 【審査官】廣野 知子
参考文献・文献 特開昭64-083522(JP,A)
特開昭62-139803(JP,A)
特開2006-116477(JP,A)
特開2005-296942(JP,A)
調査した分野 C01G 49/00-49/08
B01J 20/00-20/34
特許請求の範囲 【請求項1】
物質吸着性マグネタイトの製造方法であって、鋳型成分の存在下で鉄塩からマグネタイトを調製する工程(A)と、工程(A)で得られたマグネタイトから鋳型成分を除去する工程(B)とを含み、鋳型成分が無機イオンであることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
鉄塩が第二鉄と第一鉄とを含有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(A)が、前記鉄塩及び鋳型成分を含有する溶液にアルカリ溶液を添加してpHを11以上にして沈殿物を生じさせ、生じた沈殿物を熟成させることを含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
無機イオンがヒ素(V)イオン、ヒ素(III)イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、アンチモンイオン、セレンイオン、モリブデンイオン、バナジウムイオン、タングステンイオン又はホウ素イオンである、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
鋳型成分がヒ素イオンである、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
ヒ素イオンがヒ素(V)イオン、又はヒ素(III)イオンである、請求項記載の方法。
【請求項7】
工程(A)が、鋳型成分を包含するマグネタイトを凍結乾燥により乾燥させることを含む、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
物質吸着性マグネタイトの製造方法であって、湿式条件下でマグネタイトを生じさせ、生じた当該マグネタイトを凍結乾燥により乾燥させることを特徴とする前記方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はヒ素等の吸着材として有用な物質吸着性マグネタイト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒ素の吸着除去材として水酸化鉄、酸化アルミナ、マグネタイト等の無機吸着材が検討され、多くの学術論文も報告されている(特許文献1等参照)。マグネタイトは鉄の酸化物を主成分とし、通常、鉄塩を酸化することにより調製される。定法により製造されるマグネタイトは微粉末でヒ素(III, V) に対して吸着性能を示す。しかも、マグネタイトは磁石により簡単に回収できるという利点がある。しかしながらマグネタイトによるヒ素等の選択性、吸着速度、及び吸着量は満足できるものではない。

【特許文献1】特開2005-270933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明はヒ素等の物質を効率的に吸着することができる吸着材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、分子インプリント法を用いてマグネタイトにヒ素等の吸着対象物質を吸着できる空隙を付与して得られた物質吸着性マグネタイトが吸着材として優れていることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0005】
すなわち本発明は以下の発明を包含する。
(1) 物質吸着性マグネタイトの製造方法であって、鋳型成分の存在下で鉄塩からマグネタイトを調製する工程(A)と、工程(A)で得られたマグネタイトから鋳型成分を除去する工程(B)とを含むことを特徴とする、前記方法。
(2) 鉄塩が第二鉄と第一鉄とを含有する、(1)記載の方法。
(3) 工程(A)が、前記鉄塩及び鋳型成分を含有する溶液にアルカリ溶液を添加してpHを11以上にして沈殿物を生じさせ、生じた沈殿物を熟成させることを含む、(2)記載の方法。
(4) 鋳型成分がヒ素である、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5) ヒ素がヒ素(V)イオン、又はヒ素(III)イオンである、(4)記載の方法。
(6) 鋳型成分が界面活性剤により形成されたミセルである、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(7) 界面活性剤がドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムである、(6)記載の方法。
(8) 工程(A)が、鋳型成分を包含するマグネタイトを凍結乾燥により乾燥させることを含む、(1)~(7)のいずれかに記載の方法。
(9) 物質吸着性マグネタイトの製造方法であって、湿式条件下でマグネタイトを生じさせ、生じた当該マグネタイトを凍結乾燥により乾燥させることを特徴とする前記方法。
(10) (1)~(9)のいずれかに記載の方法により製造された物質吸着性マグネタイト。
(11) (1)~(9)のいずれかに記載の方法により製造された物質吸着性マグネタイトと担体材料とを含有する物質吸着性組成物。
(12) 担体材料がキチン又はキトサンを含有する材料である(11)記載の組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、ヒ素等の物質を効率的に吸着することができる吸着材が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
工程(A)について
工程(A)は鋳型成分の存在下で鉄塩からマグネタイトを調製する工程である。この工程により調製されたマグネタイトは鋳型成分を内部に包含する。以下のように、鉄塩中の第二鉄と第一鉄との比率に応じてマグネタイトの調製方法は異なるが、本発明においては、鉄塩からマグネタイトが形成される段階が鋳型成分の存在下で行われる限り、いずれの方法を採用してもよい。
【0008】
鉄塩として第二鉄と第一鉄とを含有する混合物を使用する場合にはマグネタイトの調製方法として次の方法が採用できる。すなわち、当該鉄塩を含有する溶液(通常は水溶液) に鋳型成分及びアルカリ溶液(通常は水溶液)を添加して高アルカリ性(好ましくはpH 11以上)とし、沈殿物を得る。その後その沈殿物を高温下(例えば60~100℃)で数時間(好ましくは1時間以上、より好ましくは1~3 時間)熟成させることより、鋳型成分を包含するマグネタイトを得ることができる。ここで熟成の操作について説明する。イオン反応で初めてできるマグネタイトの沈殿は、極めて微小であり、水溶液中ではコロイド状に分散しており、磁性も弱く、その取り扱いが困難である。そこで、このようなマグネタイトを工業的な吸着材として利用し易くするためには、沈殿したマグネタイトの微結晶を成長させて大きくする操作を行うことが好ましい。この操作が「熟成」である。熟成を行うことにより,マグネタイトが吸着材として取り扱い易くなる。鋳型成分の添加時期は、沈殿反応によりマグネタイトを形成する際に鋳型成分が存在していることが好ましいから、アルカリ溶液を添加する前に、鉄塩を含有する溶液に鋳型成分を添加することが好ましい。鉄塩としては、第二鉄と第一鉄とを含有する限り特に限定されないが、例えば第二鉄と第一鉄とのモル比が4:1~1:4の混合物、好ましくは同比が2:1~1:2の混合物が使用できる。また鉄塩の種類としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、各種有機酸塩等が挙げられる。鉄塩の濃度等には特に制限はない。
【0009】
鉄塩が第一鉄塩を主成分とする場合にはマグネタイトの調製方法として次の方法が採用できる。すなわち、当該鉄塩を含有する溶液(通常は水溶液) に鋳型成分を添加し、更にアルカリ溶液(通常は水溶液)を添加してアルカリ性とし、水酸化第一鉄を生成させる。次いで酸素含有ガスの供給や酸化剤の添加により水酸化第一鉄を酸化させてマグネタイトを生成させる。こうして、鋳型成分を包含するマグネタイトを得ることができる。鉄塩としては、第一鉄塩を主成分とする限り特に限定されず、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、各種有機酸塩等が使用できる。鉄塩の濃度等には特に制限はない。マグネタイトの熟成条件、鋳型成分の添加時期については前段落記載の方法と同様の条件が採用できる。
【0010】
以下の説明は、特に断りのない限り、上記の2種類のマグネタイト調製方法のどちらを採用した場合にも適合しうる。
【0011】
本発明において鋳型成分はマグネタイトが形成されるときに共存してマグネタイトの内部に取り込まれ、マグネタイト形成後に除去されると鋳型成分に対応する形状の空隙がマグネタイト中に形成される。分子インプリント法においては「鋳型分子」という用語が用いられることがあるが、本発明では鋳型として分子だけでなく、界面活性剤により形成されるミセルも用いられることから、より広い概念が包含されるよう、「鋳型分子」という用語を用いる。
【0012】
鋳型成分として吸着対象物質の分子を用いると、形成されるマグネタイトは吸着対象物質に対して高い吸着選択性、吸着容量、及び吸着速度を示す。例えば、ヒ素(V)イオン、ヒ素(III)イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、アンチモンイオン、セレンイオン、モリブデンイオン、バナジウムイオン、タングステンイオン、ホウ素イオン等の各種無機イオンを鋳型成分として用いて形成されたマグネタイトは、鋳型となった無機イオンに対して高い選択性を示す。同様に、鋳型成分としてアミノ酸等の有機化合物を使用した場合もまた、鋳型となった有機化合物に対して選択性の高いマグネタイトを得ることができる。
【0013】
また、鋳型成分としては界面活性剤により形成されたミセルを使用することもできる。この場合、メソポア(約2nm~5nm)生成により高比表面積を有するマグネタイトを得ることができる。このようなマグネタイトは、吸着物質(例えばヒ素)の吸着速度が速く、しかも高い吸着量を示すことが期待される。マグネタイト中の細孔はミセルの大きさに対応するから、使用する界面活性剤分子の分子量を調整することにより細孔の大きさを調整することが可能である。界面活性剤としては、例えば、陰イオン性、中性又は両性のものが使用できる。陰イオン性界面活性剤としては、アルキルリン酸、アルキルカルボン酸、及びアルキルスルホン酸(典型的にはドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルスルホン酸等)からなる群から選択される少なくとも1種の酸の塩、あるいはそれらを組み合わせたものや、陰イオンの水溶性ポリマーが挙げられる。なかでも、アルキルスルホン酸塩の一種であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。中性界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール等の中性の酸素含有高分子アルコール類や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフォニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンエステルエーテル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンアルキルアミン類、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー類、アルキルアミド類、各種脂肪酸ジエタノールアミン類等が挙げられる。両性界面活性剤としては、アミンとカルボン酸の官能基を有するカルボキシベタイン型、グリシン型等が挙げられる。なお、湿式条件下でマグネタイトを調製する際に界面活性剤を添加すれば、界面活性剤は容易にミセルを形成して鋳型成分として作用する。
【0014】
鋳型成分の添加量は特に限定されない。一例を挙げれば、鋳型としてヒ素を用いる場合には、ヒ素のモル数は、鉄イオン全体のモル数(使用する鉄塩が第一鉄塩と第二鉄塩との混合物の場合には、Fe3+のモル数とFe2+のモル数との合計)に対して10~30%であることが好ましい。また、鋳型として界面活性剤のミセルを用いる場合には、界面活性剤のモル数は、全鉄イオンのモル数の50~300%であることが好ましい。
【0015】
アルカリ溶液としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、トリエチルアミン等の水溶液が挙げられる。アルカリ溶液は、鉄含有水溶液のpHが11以上となるように添加することが好ましい。
【0016】
鋳型成分を包含するマグネタイトは沈殿物等として生成する。生じた沈殿物等は遠心分離、ろ過等の方法により分離することができる。また、必要に応じて洗浄することもできる。
【0017】
こうして鋳型成分を包含するマグネタイトを得ることができる。
【0018】
こうして得られたマグネタイトは、必要に応じて乾燥させることができる。乾燥は加熱により行うこともできるが、凍結乾燥により行うことがより好ましい。凍結乾燥を行うことによりマグネタイトの比表面積を高めることができる。鋳型成分を包含するマグネタイトを凍結乾燥により乾燥させた場合には、鋳型成分による比表面積の向上効果と組み合わされて、最終的に得られるマグネタイトの比表面積は特に顕著に高くなる。
【0019】
工程(B)について
工程(B)は工程(A)から得られたマグネタイトから鋳型成分を除去する工程である。除去する方法は特に限定されないが例えば次のような方法が挙げられる。鋳型成分がヒ素イオン等の無機イオンである場合は、強アルカリ溶液(例えば1M 水酸化ナトリウム水溶液)等を用いてマグネタイト中の鋳型成分を溶離させることにより除去することができる。一方、界面活性剤やアミノ酸等の有機化合物である場合は、アルコールやアセトン等を用いて鋳型成分を溶離させることにより除去する方法や、窒素雰囲気下で工程(A)後のマグネタイトを焼成することにより鋳型成分を除去する方法等が挙げられる。
【0020】
本発明の第二の態様について
本発明者は驚くべきことに、湿式条件下においてマグネタイトを生じさせた場合に生じたマグネタイトを凍結乾燥により乾燥させると、比表面積が著しく高いマグネタイトが得られることを見出した。この現象は、鋳型成分が共存しない場合にも認められる。すなわち本発明の第二の態様は、物質吸着性マグネタイトの製造方法であって、湿式条件下でマグネタイトを生じさせ、生じた当該マグネタイトを凍結乾燥により乾燥させることを特徴とする前記方法に関する。なお、「湿式条件下においてマグネタイトを生じさせる」とは、鉄塩からマグネタイトへの変換を水中で行うことを指す。鉄塩の種類、鉄塩からマグネタイトへの変換の方法等の諸条件については、上述の工程(A)に関する説明がそのまま適用できる。ただし、本発明のこの態様に関しては、鋳型分子の存在は必須ではない。
【0021】
物質吸着性マグネタイトについて
工程(A)及び(B)を経て得られたマグネタイトはヒ素等の物質の吸着材として有用である。吸着対象物の分子を鋳型として形成されたマグネタイトは、鋳型となった吸着対象物に対して選択性が高く、吸着速度が速く、吸着容量が高いという好ましい性質を有する。また、界面活性剤により形成されたミセルを鋳型分子として形成されたマグネタイト、あるいは凍結乾燥工程を経て形成されたマグネタイトは、大きな比表面積を有し、ヒ素等の物質の吸着のための通り道である細孔を多数有しているという特長を有する。マグネタイトは生体適合性材料であるから、本発明のマグネタイトは食品工業や薬品製造などにも適用できる可能性がある。
【0022】
本発明の物質吸着性マグネタイトは担体材料に担持させた組成物として使用することもできる。マグネタイトは微粉末であるためカラムに充填して使用することが困難な場合があるが、担体材料に担持させてより大きな粒子状物とすればカラムへの充填が容易になる。吸着材をカラムに充填することにより、処理対象液をカラムに通液させる連続的な(吸着-脱着)処理が可能になる。カラムを用いた連続的な処理は大規模な工業的処理に適する。また、担体材料に担持させた本発明の物質吸着性マグネタイトは、マグネットによる回収が可能であることから、バッチ法における使用にも適する。担体材料としてはキチン又はキトサンを主成分として含有する担体材料を使用できる。キチン又はキトサンは主に廃棄処分されるカニやエビの殻に含まれるバイオマスである。担体材料としてこれらを使用すれば、バイオマス廃棄物の有効利用となるだけでなく、既存の有機高分子モノマーを用いる場合よりも極めて低コストで製造することができる。キチン又はキトサンは生体適合性材料であるから、マグネタイトとキチン又はキトサンとを含む組成物は食品工業や薬品製造などにも適用できる可能性がある。また、担体としては他の有機高分子材料も使用することが可能である。
【0023】
担体材料に本発明の物質吸着性マグネタイトを担持させる方法としてはW/Oエマルションを利用した方法が挙げられる。ここでは担体材料としてキトサンを使用する場合の方法を具体的に説明する。まず、本発明の物質吸着性マグネタイトおよびキトサンを含む水溶液に、ヘキサン、トルエン、シクロヘキサン、クロロホルム、ベンゼン等の水混和性の低い有機溶媒と、ソルビタンモノオレート(スパン80)、デトラグリセリン縮合リシノレート(TGCR)等の界面活性剤とを加えて、W/Oエマルションを調製する。次いで、このようにして調製したW/Oエマルションに、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア溶液等のアルカリ溶液を滴下して、マグネタイト/キトサン球状体を調製することができる。或いは、前記W/Oエマルションとは別に、高濃度(例えば2M)食塩水溶液を含むW/Oエマルションを調製し、2種類のW/Oエマルションを混合し、浸透圧差を利用してマグネタイト/キトサンW/Oエマルションから脱水して、球状体のマグネタイト/キトサンを調製することができる。
【実施例】
【0024】
1. マグネタイトの調製
比較例: マグネタイト(mag)の調製
FeCl2・4H2O 1.84 g(9.2 mmol)とFeCl3・6H2O 5.0 g(18.4 mmol)をそれぞれ蒸留水20 cm3に溶解した後、混合した。調製したモル比Fe2+: Fe3+=1:2の鉄混合液に6N-NaOHをpH 11になるまで滴下すると黒色のゲル状懸濁液が得られた。その黒色のゲル状懸濁液を100℃の湯浴上で1時間加熱熟成した後、デカンテーションによる蒸留水洗浄を上澄み液のpHが7以下になるまで行った。得られた黒色の懸濁液を遠心分離機を用いて遠心分離後、得られた黒色の固体を50℃乾燥機で乾燥した。乾燥後、乳鉢を用いて生成物をすりつぶし、46μmの分析ふるいを用いて粒子径を調整した。本比較例の製造スキームを図1に示す。
【0025】
得られた生成物をX線回折装置を用いて同定した。いずれのピークもFe3O4の回折ピークとして帰属できた。
【0026】
実施例1: ヒ素を鋳型としたマグネタイトの調製
上述した方法と同様に行った。鉄溶液にヒ素(V)を20ppmになるように加え、その溶液にアルカリを加え、黒色の沈殿物を得た。熟成後、沈殿物を1Mの水酸化ナトリウム溶液を1 dm3用いて数回(マグネタイト2gにつき200ccを5回)洗浄し、ヒ素を完全に溶離した。得られた黒色の固体を上述した方法と同様にして洗浄し、ヒ素鋳型マグネタイトを調製した。
【0027】
実施例2: 界面活性剤を鋳型とした多孔性マグネタイト (pore-mag) の調製
FeCl3・6H2O 5.0 gを100 cm3の蒸留水に溶解し、さらにその溶液にFeCl2・4H2O 1.84 g溶解した。ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS) 5.0 gを蒸留水 100 cm3に溶解した。調製した鉄溶液とSDBS溶液を混合し、200 rpmの撹拌翼で10分間撹拌した。調製したSDBS-鉄水溶液を撹拌しながら、5N-NaOHをpH 11以上になるまで滴下した。滴下後、100℃で1時間熟成した。続いて、10分間200 rpm撹拌翼で撹拌した。その後、デカンテーションにより、エタノール、蒸留水で十分に洗浄し、凍結乾燥した後、焼成した。焼成条件を以下に示す。窒素雰囲気下で1時間放置した。その後、110℃/hで110℃まで加熱し1時間保持した後、450℃/hで450℃まで昇温した。昇温後450℃にて30分間保持し焼成を行った。その後、2時間かけて常温まで冷却した。
【0028】
乾燥後の黒色の生成物をX線回折装置を用いて同定した。XRD回折パターンより、いずれのピークもFe3O4の回折ピークとして帰属できた。SDBS-マグネタイトからのSDBSの洗浄は蒸留水,エタノール洗浄、電気炉を用いて窒素雰囲気下で30分450℃で焼成し、界面活性剤を除き、多孔性のマグネタイトを調製した。
【0029】
得られた多孔性マグネタイトの電子顕微鏡像を図2に示す。
実施例2の製造スキームを図3に示す。
【0030】
実施例3: マグネタイト/キトサン球状体(あるいは繊維)の調製
これらのマグネタイトは微粉末であった。これをキチンやキトサン溶液に混練し、W/Oエマルションを形成することによってマグネタイト/キチン球状体やマグネタイト/キトサン球状体を得ることに成功した。キトサンを使用する場合の調製方法は次の通りである。微粉末のマグネタイト0.8gに対して、キトサン 2-5 wt%のキトサン酢酸水溶液(pH 5)を50ml加え、有機相にはヘキサンを用い、界面活性剤としてはスパン80、あるいはTGCRを用いてW/Oエマルションを調製した。マグネタイト/キトサン球状体の調製は以下に示す2通りの方法で行った。(i) このようにして調製したW/Oエマルションに、アルカリ溶液(水酸化ナトリウム水溶液あるいはアンモニア溶液)をゆっくりと滴下して、マグネタイト/キトサン球状体を調製した。(ii) 2Mの食塩水溶液を含むW/Oエマルションを調製し、マグネタイト/キトサンW/Oエマルションと混合し、浸透圧差を利用してマグネタイト/キトサンW/Oから脱水し、球状体のマグネタイト/キトサンを得ることができた。この方法は、担体としてキトサンの代わりにキチンを用いることもできる。マグネタイト/キトサンのSEM(電子顕微鏡写真)を図4に示す。真球状の微粒子が生成されていることがわかる。
【0031】
実施例4: 凍結乾燥の効果を実証する実施例
FeCl2・4H2O 1.84 g(9.2 mmol)とFeCl3・6H2O 5.0 g(18.4 mmol)をそれぞれ蒸留水20 cm3に溶解した後、混合した。調製したモル比Fe2+: Fe3+=1:2の鉄混合液に6N-NaOHをpH 11になるまで滴下すると黒色のゲル状懸濁液が得られた。その黒色のゲル状懸濁液を100℃の湯浴上で1時間加熱熟成した後、デカンテーションによる蒸留水洗浄を上澄み液のpHが7以下になるまで行った。得られた黒色の固体を凍結乾燥機で乾燥し、多孔性のマグネタイトを得ることができた。本実施例の製造スキームを図5に示す。得られた生成物をX線回折装置を用いて同定した。いずれのピークもFe3O4の回折ピークとして帰属できた。同様の操作を2度行った(1回目の操作により得られたマグネタイトを実施例4(1)、2回目の操作により得られたマグネタイトを実施例4(2)とする)。
【0032】
2. 吸着実験
2.1.手順
吸着実験はすべてバッチ法で行った。ヒ酸イオン、あるいは亜ヒ酸イオン水溶液を20 cm3ずつサンプル管に採り、初期pH 3-12になるようにHClとNaOHを用いてpH調整を行った。この水溶液10 cm3 に各種マグネタイトを0.02 gずつ入れ303 Kの恒温槽で24時間振とうした。振とう後、磁石を用いて固液分離を行った。ヒ酸イオンおよび亜ヒ酸イオン濃度を超低温捕集型水素化物発生原子吸光光度計を用いて求めた。なお、吸着特性の評価に吸着量qと吸着率Eを用いた。吸着量qはヒ素の初濃度と平衡後濃度の差,体積および吸着材の量を考慮して計算した。
【0033】
2.2.結果
比較例のマグネタイト (mag) および実施例2の多孔性マグネタイト (pore-mag)によるヒ素(V)の吸着に及ぼすpHの影響を調べた。その結果を図6に示した。この図から明らかなように両者のヒ素(V)に対するpH依存性はほとんど変わらない。
【0034】
図7.1に、比較例及び実施例2の303Kにおけるヒ素の吸着等温線を示している。実験は、各濃度に調製したヒ素(As(V))溶液40 ml に比較例のマグネタイト (mag) 又は実施例2の多孔性マグネタイト (pore-mag)を10 mg加え,pHeq = 6.2で行った。明らかに、多孔性マグネタイト(pore-mag)のヒ素の飽和吸着量が増大しており、4倍以上の飽和吸着量を示した。
【0035】
図7.2に、実施例4(1)の303Kにおけるヒ素の吸着等温線を示している。As(III)の初期濃度を20~400ppmと変化させ、これらを含む20mlの溶液(平衡pH=4)にマグネタイト(実施例4(1))を0.02g入れ、24時間吸着させた。その結果を図7.2に示す。
【0036】
表1に、海藻の有用物質(フコイダン等の生理活性物質)を含む抽出液に含まれるヒ素の濃度と形態を示した。表1の値から明らかなように、当該抽出液中のヒ素は三価の無機ヒ素である。
【0037】
【表1】
JP0005124744B2_000002t.gif

【0038】
前記抽出液からのヒ素の除去を、実施例4(2)のマグネタイト、あるいは実施例3のマグネタイト/キトサン球状体を用いて行った。除去性能においてマグネタイト/キトサン球状体と実施例4(2)のマグネタイトとの差はほとんどなかった。図8及び9では実施例4(2)のマグネタイトの結果を示した。使用した吸着材は0.02gであり、溶液は10mlである。
【0039】
図8に吸着率 (E) に対するpHの影響を示している。図8から明らかなように、pH 3-8の領域で90-100%の吸着率を示した。しかしpHが8以上になると急激にその吸着率は減少した。
【0040】
図9にヒ素の吸着率 (E)に及ぼす吸着材量 (w) の影響を示している。吸着材の量を0.02gから0.2gまで変えて実験を行ったが、全領域で100%の吸着率が得られた。
【0041】
3. 比表面積の測定
実施例2, 4(1)及び4(2)、並びに比較例のマグネタイトの比表面積を、窒素ガス吸着により求めた。その結果を表2に示した。
【0042】
【表2】
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【0043】
マグネタイトの調製の際の乾燥を加熱乾燥により行った比較例と、凍結乾燥により行った実施例4(1)及び4(2)との比表面積を比較すると、後者は、前者の3倍程度高い比表面積を有していることがわかる。
【0044】
また、界面活性剤の集合体(ミセル)を鋳型として用いた調製されたマグネタイトである実施例2は鋳型を含まない比較例の7倍程度高い比表面積を有していることがわかる。窒素ガスの吸着/脱着等温線のヒステリシスより実施例2のマグネタイトにはメソポアが存在することが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】比較例のマグネタイトの製造スキームを示す。
【図2】界面活性剤から形成されるミセルを鋳型成分として調製された多孔性マグネタイト (pore-mag) の電子顕微鏡像 (倍率3500倍) を示す。
【図3】界面活性剤 (SDBS) から形成されるミセルを鋳型成分として用いる多孔性マグネタイトの製造スキームを示す。
【図4】マグネタイト/キトサン微粒子の電子顕微鏡像 (倍率25倍) を示す。
【図5】実施例4のマグネタイトの製造スキームを示す。
【図6】比較例のマグネタイト (mag) および実施例2の多孔性マグネタイト (pore-mag) によるヒ素(V)の吸着量 (q) に及ぼすpHの影響を示す。
【図7.1】比較例のマグネタイト (mag) および実施例2の多孔性マグネタイト (pore-mag) による303Kにおけるヒ素(V)の吸着等温線を示す。
【図7.2】実施例4(1)の多孔性マグネタイトによる303Kにおけるヒ素(III)の吸着等温線を示す。
【図8】実施例4(2)のマグネタイトによるヒ素の吸着率 (E) に対するpHの影響を示す。
【図9】実施例4(2)のマグネタイトによるヒ素の吸着率 (E) に対するマグネタイトの量 (w) の影響を示す。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7.1】
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【図7.2】
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【図8】
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【図9】
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